女の陰影

女の魔性、狂気、愛と性。時代劇から純愛まで大人のための小説書庫。

カテゴリ: その女、危険性。

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五話 女の豹変

  思い立ってそのままドライブ。紀代美のクルマ。ドライブをせがんだのは明江だった。夫のいない週末はめずらしい。あの嫌な女をどうしてやろうと考えると異常なほど興奮したし、いまはそれよりも紀代美のことをもっと知りたい。ときめく男性に出逢えたときの想いに似ていると明江は思った。力に裏打ちされた自信を女にくれる。呪い。そんなことができるのなら苦しまなくていいことが女にはたくさんあるはずだ。
  紀代美のクルマは右ハンドルの白のコンパクトカーだったのだが、クルマにうとい明江に車種まではわからない。そんなことはどうでもよかった。助手席にいて運転する姿を見守っている。いつもなら夫がその角度にいるのだったが、女が運転するクルマの助手席なんていつ以来だろうと考える。
  明江は言った。
 「考えてみればマンションの外で見るのははじめてなんだね」
 「そうね。買い物はいつもクルマだし住む街でうろちょろしたくないからさ」

  なるほど。そう言う紀代美の気持ちはよくわかる。だいたいにおいてマンションに住んでかなり経っても住人のことをろくに知らない。四階建て全十七戸の小さなマンションだからよけいに距離感を意識する。大物件ならマンションそのものが街なのだが、小さな物件はまさしく家の集合体。知らない人とは知らないまま。それが都会をスマートに生きるコツのようなもの。増して紀代美には恐ろしい力があり、対人関係を避けたがる理由となるものだ。
  中央高速。八王子をすぎて、さらにその先を目指していた。ランチそのものはドライブインですませ、こんなことはめったにないから行き先はどこでもいい。明江は、暗くて不気味な人だと思った紀代美が、じつはそうでなかったことが嬉しかった。マンションの中に頼れる人ができた。知ってみるとその人はすごい人だった。女はプラス側に裏切られるギャップを知るといきなり親密になれるもの。昨夜の怪奇現象、それに昨夜のベッドが決定的。いまもって信じられない不思議な世界に迷い込んだようだった。

  それにしても旦那がいなくなって働いてもいないようなのに、クルマも持って悠々自適。いったいどうやって? 妖力をもってご主人を殺し、その生命保険で?
 「ねえ、訊いていい?」
 「いいよ。旦那のことでしょ?」
 「どうやって暮らしてるのかなって思っちゃって」
 「稼いでるもん」
  明江はハッとした。紀代美は呪術師。そうか、それがあったと明江は思った。
 「ごめん、よけいなこと訊いちゃった」
 「いいわよ別に。訊きたくなる気持ちもわかるから。こいつ旦那を殺したなって思ってるでしょ? 生命保険でもがっぽり入って暮らしてるって?」
  明江は助手席から視線をやって、そのとき紀代美がチラと横見の目を向けた。
 「別れただけよ。私の籍に彼が入って抜けただけ。だから名前は変わらない」
 「じゃあ婿養子?」
 「マンションでいろいろ言われてるのは知ってるけど、いちいち説明することでもないからね」

  他人の噂などそんなものだと、明江はこれまでの紀代美への感情がいかに無礼なものであったかを思い知る。
  明江は言った。
 「人って怖いね、つくづく」
  紀代美は前を見たまま応えない。明江は、もしも私がそうなら同じように生きていくと考えた。呪いは空狐だけではないという。さまざま呪詛の手段を知れば、私なら恐ろしい女になるだろうと考えると、だから俗世に背を向けて生きてきた紀代美が哀れに思えてならない。
 「それでどうする? このまま走ってるとガス欠だわよ」 と、おもしろいことを言う。それもまた紀代美の素顔なんだろう。
 「ヘンなんだ私。疼いてる」
 「ふふふ、あらそ? 今夜も泊まれる?」
 「うん。なんだか私のどこかが壊れたみたい」

  ラブホテル。河口湖を眼下に富士山を仰ぎ見る最上階の五階の部屋。適度なちぎれ雲が山の肩にかかっていて、それは綺麗な景色だった。カーテンはあっても開け放ったまま。互いに裸で窓辺に立って身を寄せ合って景色を見ていた。
  富士山に見せつけるように抱き合って、互いのデルタの奥底へ指を入れて嬲り合いながらキスをする。相手が男ならためらうほどの舐め回すキス。キスを剥がして見つめ合い、互いに舌なめずりしてふたたびキス。
  ここはラブホ。声を噛むこともない。そんな解放が牝の素性を暴くのか、ポーズを忘れた明江の性器は狂っていた。肉ビラの花奥から蜜を噴くように愛液が流れ出し、毛穴という毛穴が産毛を逆立たせて震わせながら愛液のようなヌメる汗を搾り出す。明江にとって紀代美は魔女。魅入られたが最後、気絶するまでの醜態を強制される。もっとほしい。もっとシテ。甘い虐待から逃げようとすれば相手は魔女。もっともっとと求め続けている限り相手は女神。そんな気がした。

  この子は見定めたと紀代美は感じた。恐怖と重なる快楽は果てしない。恥辱のすべてを受け入れて、そうまでして私のそばにいたがっている。呪詛の力は私の力。そうまでして明江は私の力を欲しがっている。おそらく無意識。心の拠り所としての私。愛を錯覚するに充分な計算ずく。可愛い女だと紀代美は思い、それなら狂わせてやろうとほくそ笑む。
  ベッド。柔らかめのクッションをバフバフ揺らしてのたうち狂う紀代美。狂わせてやろうと思いながら、それでいて明江の愛撫に紀代美は狂う。こうした地獄の底の辛苦を共有できる伴侶がいたことが信じられない。裏切れば死。それを覚悟して身を晒す明江という女。生まれながらの淫婦という女の素顔に向き合う決意をした明江。それさえできれば不幸になる女はいない。呪詛などという魂の暗部を知り尽くした紀代美にとって、女も男も人間なんて獣以下の存在でしかない。獣は他人を恨もうなどとは思わない。人の本質は汚らしいものなのだ。

  互いに脚を開き合って陰毛のない性器と毛飾りのある性器をなすりつけ合う貝合わせ。負圧となった膣同士が吸い合って、プシュゥとときどき蜜の飛沫を噴く音がする。
 「おおぅーっ! ああ紀代美イクぅーっ!」
 「まだまだよ! あぁーっ私もダメぇーっ!」
  なんて壮絶なセックスなの。互いにかぶりを振り乱して叫んでいながら紀代美は可笑しくなってしかたがなかった。新妻のそんな素性を知れば旦那はどう思うのだろう。そう思うと笑えてしまう。
  観察の眸を向けながら紀代美は腰を停める。しかし明江はヌラ濡れする肉ビラ貝を合わせながら自ら腰をクイクイ入れてイキたがる。

  紀代美は言った。
 「結婚したとき、こういうことはやめようと思ったのよ」
  目を閉じて腰を使う明江の動きが穏やかなものへと変化した。快楽のピークはその眸を潤ませ、全身が桜色に上気して、濡れ貝と濡れ貝の合わさりめから湯気が立つほど熱を持つ。性の獣と化した明江はゆったり腰を回すようにそれでも性器をなすりつけ、泣いたみたいな赤い眸で紀代美を見つめた。
 「可愛い妻にするのも魔女にするのも男しだい。私はいつしか魔女になり、このままでは危ういと思った私は離婚を迫った。だけどあの人は応じない。それで私は虫を使った。心を蝕む悪夢をもたらす妖虫の呪い。その虫はひとたび巣くうと、その人を殺さず生かさず弄ぶ。主人はもはや廃人よ。法的に離婚が認められていまにいたる。愛なんて幻想だわ。私にとってのセックスは現象でいい。互いに貪る獣の性。だけどそのとき私に対して本気で向かってほしいのよ。いまの明江のようにね。ビアンだろうがSMだろうが、ごくノーマルなセックスだろうが、現象そのものは何でもいいの。そのための支度はできている。下着を穿かずに暮らしてて、そのとき感じた何かに素直に従う。オナニーしたいなら即座にそうする。それはね明江」
 「うん?」
 「妖怪、鬼神、そうしたものに化けの皮は通用しないし、日頃いやらしく隠しておきながら都合のいいときだけ力になってではそっぽを向かれる。わかるわね?」
 「うん、わかる」
 「ポイントはそこなのよ。裸の心が呪い神を動かすの。女の自分に常に向き合う強さが必要」

  呪詛のために私を利用しようとするなら、あなた自身がその資格を持ちなさい。紀代美はそう言いたいに違いないと明江は察したのだが・・紀代美は言った。
 「というあたりをよく考えて決めることね」
 「あの女のこと?」
  紀代美がうなずく。
 「サイテーの女だと嫌ったはずだし、どうしてやろうと思ったはず。なのに報復の手段を得たとたん、そこまでしては可哀想と考える。残酷なことのできる悪い子になりたくない。怖くてならない、呪詛なんてやめておけばよかった。空狐様はお見通しですからね」
  そうやって話す間も松葉のからむ貝合わせの姿のまま。肉ビラと肉ビラがまつわりつく痺れるような快感は去ってはいない。
  明江はちょっとうなずき微笑んだ。
 「本気の罰を考える。あの女も私も命がけ。空狐様の妖力を都合よくは使えない」
 「そうね、そういうことよ」
  貝の密着を剥がそうとしたとき、膣内の負圧で吸いつく肉ビラがチュゥと音を立てて離れていった。そのとき襲った性の波は強烈で、互いの膣奥から蜜を吸い出し、互いにブルルと震えるほどのアクメ寸前。

  開き合って交差させた脚を抜き、明江は紀代美を下にうつぶせに寝かせて尻を引き上げ、なすがままに弛められた尻肉を果実を割るように両手でひろげ、恥ずかしがってキュウと締まるアナルに唇をあてていく。かすかな便臭。だらだらに濡れる性器は膣の酸臭が強く、取り澄ましていたところでこれが女の実態なんだと確認し、色素の濃いすぼまり門の肉ヒダを舌先で確かめながら舐め回す。
 「くぅぅ、くぅぅ」 と、紀代美はソフトなピローに顔をうずめて声を吸わせ、快楽に尻肉を震わせながら、もっと下よと言うように尻を上げ、濡れそぼる膣口を空へと向けた。
 「愛してる紀代美」
 「うん、愛してるよ明江。あぅ!」
  尖らせた舌先を、空を向く膣口に打ち込んで、鼻先でアナルをつっつくように顔ごと股間に打ちつけながら、腹の下から両手を差し込み小ぶりで硬い乳房を揉んで乳首をコネる。
  紀代美は限界まで腰を張って尻を上げ、ソフトなピローに突っ伏して「むぁぁ、うわぁぁ」とくぐもって聞こえるイキ声を叫んでいる。

 「いやらしい大きなクリトリスね。自分で調教してるでしょ」
  包皮を飛び出して勃つピンク色の肉芽を吸い立ててやり、前歯をあててカリッと噛んでつぶしてやる。
  ビクッと背筋を力ませてピローから跳ねるように顔を上げ、「きゃぅ!」と悲鳴を上げた刹那、壊れたエンジンのようにガタガタ震えてドサリと崩れる。気絶。ピークのはるか高みにある瀕死点まで達したらしく、紀代美はそれきりぴくりとも動かなかった。
  素敵な人。可愛い女。恐怖の魔女。だけど私だって負けてない。紀代美も命がけなら私だって命がけ。命がけの性現象は愛などはるかに超えていると明江は思った。
  まずは勝呂陽子から。木っ端微塵に壊してやるし、許すも許さないもなく私たちから離れたら生きていけない体にしてやる。精神的な虫ケラとなるまで堕としてやる。
  そして次にオフィスの女。横倉浅里。心の所在を変えた私の怖さを思い知らせてやる。それはレスボスとしての君臨であり、場合によっては社長までも引きずり込んでベチョベチョの性関係に惑わせてやる。
  紀代美との同化を感じた明江。しかしだからこそ紀代美さえも隷属させる女王となって君臨する。さもないと呪われる。呪う気にさせない圧倒的な君臨。それはこれよりない女同士の愛の姿。

  錯乱する思考の中で、快楽に果てきってくたばった紀代美の汗だくの裸身は愛しかった。ぴちゃぴちゃ濡れる尻たぼをパシパシたたき、尻から手を差し入れて毛のないデルタを握るように、親指を膣に打ち込みデルタをつかみ、揺らせ犯して嬲りつくす。
 「ぁぅ・・ああン、明江イクぅ、あぁン!」
  気絶から目覚めたとたんに次のピーク。紀代美はこれでもかと尻を締めて、そうすると括約筋が締まってよけいに感じる。うつぶせ寝のベッドを相手に男の腰使いでクイクイ尻を締めては弛め、喃語を話して果てていく。
  それでいい。それでいいのよ明江。私に君臨したと錯覚するぐらいがちょうどいい。愛した女は逃がさない。私が奴隷で明江が女王だってかまわない。私と明江の関係はずっと続く。そのために邪魔なのはおまえの旦那よ。時間をかけて葬ってやるからね。膣を陵辱する明江の指に果てながら、ピローに顔をつっぷして紀代美はにやりと笑っていた。

  そんな紀代美の震えるイキ尻を見下ろして、明江はにやりと笑っていた。紀代美は呪いで稼いで生きている。人を呪うとんでもない依頼の報酬額は夫の月収などではないはずだ。まじめでやさしい夫。だけどいつか物足りなくなるときがくると確信する。子供は欲しい。種を植えられ、そうすると産まれた子供は紀代美と二人で育てていく。紀代美とのこの関係と、勝呂陽子や横倉浅里との愉快な関係をつくっていくため邪魔なのは夫だわ。妻の体に子孫を残し、夫は失踪。解放へのシナリオはできた。

  紀代美と明江。くしくも同じことを考えていた。

  その夜を甘くすごした二人がマンションへと戻ったとき、日曜日で各戸ともに家族がいて、それはフルに駐車されたクルマを見てもわかること。戻ったとき時刻は昼の三時すぎ。マンション裏の駐車場にクルマを入れて裏口からエントランスへ入っていくと、エレベーター前でまさにどんぴしゃタイミング。勝呂陽子と鉢合わせ。大きなゴミ袋を持っている。膝上ほどの普段着のミニスカ。薄いセーター。
 「あらあら、お二人揃ってお戻り? 夕べはお二人でお泊まりかしら?」
  よく見てるわね。嫌味ったらしい。それだけで腹が立つ。明江は明るく言った。
 「そうなんですよ、奇遇にもほどがあって、共通のお友だちがいるってわかって意気投合しちゃったんです。勝呂さんのほうはご主人とラブラブで?」
  陽子は、妙に明るい明江に面食らい、またその横で明るく微笑む紀代美にも小首を傾げる。幽霊のような紀代美ではない。
 「今日は朝からゴルフですのよ。そのまま泊まって明日は現地から出勤。相手はほら、ウチの人って会社で上ですからね、取引先の専務さんなんですって」

  ふざけるな見栄っ張り。
  しかし旦那がいないのなら今夜がチャンス。エレベーター前で別れ際、背を向けてゴミ置き場へ向かって歩む陽子の背に、明江は小声でつぶやいた。
 「おまえは私の言葉に逆らえない。ゴミと一緒に着ているものを全部脱いで素っ裸で戻りなさい」
 「ふふふ、そうくるか」
  紀代美はほくそ笑む。
 「これでいい?」
 「いいよ、そうなるから見てらっしゃい」
  旦那がいないのなら陽子の自室で泣かせてやる。三階のエレベーター前で見守って、エレベーターが三階を通過したとき、明江と紀代美は階段を駆け上がって待ち伏せた。明江はその手にコンパクトデジカメを持っていた。

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四話 手さぐり


  翌朝のこと。
  目覚めの予兆を感じたとき、明江はあえて意識して目を閉じて大きなベッドのシーツに手を這わせていた。夫のいない夜。触れる素肌があってはならないし、それがなければ昨夜のことは夢だった。夢であれば激しい淫夢。女同士で貪り合って獣のようなピークを知った。夢であるなら私の中に隠しておける肉欲への想い。
  しかし手はすぐそばに眠る女の裸身を感じてしまう。紀代美。昨夜のことが夢でないなら、青い光の中の小さな狐に呪詛をたくしたことになる。死ねと思えば相手は死ぬ。あの女の運命を決める力を持ってしまった恐怖。女同士の淫ら寝も、それがあって何かの間違いで踏み込んでしまった世界。一夜を眠ったまともな思考が明江に恐怖をもたらしていた。

  夫ではない温かな肌。柔らかな女の肌。明江は薄く目を開けて横を見た。穏やかな女の寝顔、それは紀代美。夢ではなかったというかすかな失望を感じてしまう。紀代美は寝息を立ててよく眠っている。性にとろけて満たされた女の貌は美しかった。時刻は六時。外は明るくなっている。
  明江はベッドサイドに置いたままのショルダーバッグへ手をのばし、スマートフォンを取り上げた。マナーモードにしたまま。今日は土曜日。夫が帰るなら昨夜のうちにメールぐらいは入っているかも。しかし着信はなかった。

  スマホは手の中でネットにつながる。
  空狐(くうこ)。言葉を入れるだけで検索できる。長い歳月を生きて霊力を持った狐の妖怪。最上級が天狐(てんこ)、次が空狐。最下級の野狐(やこ)が人を化かすといわれる狐であって、空狐より上位の狐は妖狐とも言われ、神の使いであるとともにお稲荷さんとして祀られる神でもある。昨夜見た空狐は尻尾が一本であり、それはいいことを行う善の狐。尻尾の数が増えていけば邪神として恐れられる九尾の狐にいたるという。
  けれどそれはそうでも、まさか実際にいるものだなんて思えない。呪術にしても映画で見る世界ではなかったか。呪いで人が殺せるものか。丑の刻参りで人が死んだなんて話は聞かない。紀代美とのはじめてのレズが強烈すぎて見た錯覚だったのか。

  目を覚まして明るい虚空を見つめていても、どうしても信じる気持ちになれない明江。
 「ン・・明江」
  ささやき。寝言のようだ。こちら向きに寝返りをうち、乳房に甘えて抱きすがってくる紀代美。少女のように可愛い。紀代美はそのとき偶然唇に触れた明江の乳首を口に含み、幼子が安心するようにちょっと笑って寝てしまう。

  青い光の繭をつくる小さな狐。夢じゃなかったと考え直すと、次には、あの狐は私一人でも呼び出せるものだろうか? 紀代美の力を借りないとダメなのか? そうした思考にとらわれる。毛皮の毛を一本もらえばできるのなら私一人でだって相手を呪える。それは恐ろしいことだけど、そんな力が自分にあればどれほどいいかと考えて、そしてハタと、眠る紀代美の貌を見つめる。
  この人は怖い。もし私が裏切れば私だって呪われる。女の闇を知り尽くし、他人の運命を決める力に苦悩して、だから暗く沈んで生きてきた。
  抱きくるむ腕の中で紀代美の身動ぎ。
 「もう起きたの」
 「うん。起きてみて夢じゃなかったんだって思ったわ。狐さんのことよりも紀代美とこうしていられた夜が幸せだった」
  紀代美はちょっと笑って、ふたたび明江の乳房に貌をうずめた。貌をうずめていながら目を開けて、『この子はいつか私を怖がる。怖がって遠ざけようとするときがきっとくる』・・と考えていた。この子をつないでおくために空狐を使いたくないと紀代美は考えていた。
  明江が言う。
 「どうすればいいの? 念じればいい?」
 「それじゃダメ、声に出して言えばいいのよ。相手の姿を見つめながらささやくように言えばいい。空狐様は声に応えてくださるわ」
 「うん、わかった」
 「そこが怖い」と言いながら、紀代美は明江の裸身に寄り添う膝を上げて、明江の腿の間に膝を入れる。明江は少し脚を開いて性器に押しつけられる紀代美の腿を受け入れた。それだけでも感じてしまう。

  紀代美は言った。
 「女は心にないことを見境なく言うでしょう。死ねばいいのに。それを言えばおしまいなのよ。心で思っていなくても相手は死ぬ。声に出す前に考えてからでないと」
 「怖いね」
 「そう、怖い」
 「取り消せないの?」
 「取り消せない。そんなことをすれば呪いが自分に向けられる」
  軽はずみに私を使うな。それが空狐の意思なのだろうと考えた明江だったが、そうなるとますます恐ろしい。何かの拍子にカッとなって言ってしまいそう。
  明江は問うた。
 「紀代美はどうしたい?」
  紀代美はちょっと眉を上げて苦笑する。
 「空狐様はあなたに委ねられた。明江の思うまま、私ではどうにもならない。空狐様が願いをきいてくださるのは一度きり。明江が止めないかぎり呪いは続く」

  そして紀代美は、明江のデルタへ押しつけていた膝を退き、明江の眸を見つめながら、代わりに手を忍ばせる。明江は眸を開けて見つめたまま腿をさらに割りひろげて紀代美の指を受け入れた。
 「ぅン、はぁぁン」
 「こうされて嬉しい?」
 「嬉しい。また感じておかしくなっちゃう」
 「みたいね、もうねっとり」
 「愛してるなんてまだ言えない。でも紀代美とはずっと一緒よ」
  紀代美は声には出さず微笑んで、濡れはじめた明江の陰唇をまさぐって硬くなって尖るクリトリスを指の腹でこすりあげた。
  切なげに溶けるような明江の貌を覗きながら紀代美は言う。
 「いま言ったばかりじゃない。どうなるか知れないことは言わないものよ。これはお仕置き」
  指を二本まとめて曲げた無造作な責めが明江の膣へと打ち込まれた。寒気のような性感が背筋を貫く。
 「ンふっ、ああ感じる、好きよ紀代美」
 「もっとほしい?」
 「ほしい。ほしいの、シテ」

  私のなにかが根底から変わってしまったと明江は思った。呪詛という恐怖を共有できる紀代美に対して、なにもかもを突き抜けた慕情を感じる。利用しようなんて思っていない。絶対的な私の味方。肉体を捧げても悔いはないと考える。
  甘く熱い吐息とともに淫水を分泌しながら身悶える明江を醒めた眸で見つめながら紀代美は言った。
 「現象でいいのよ」
 「え? 現象って?」
 「明江とのいまこのとき、それも現象。相手に心をせがんだときの私は怖い」
 「寂しいよ、そんなんじゃ。ただのセフレになっちゃう」
  愛してほしい。独占されたい。先々ずっと味方でいてほしい。そこにかすかな計算が入り込んでいることを承知の上で明江は言った。いつか許せなくなる相手がきっと出てくる。そのときのための紀代美・・という計算。
  しかし紀代美は微笑んで言った。
 「愛は幻想。でも現象は情を生み、ほどよい距離を保ってくれて、だからこそ愛していられる」
 「そっか。うん、そうね、そうかも知れない。決めてかかるとつまらないし」
  明江は微笑みながら紀代美の胸に貌をうずめ、膣刺し指の愛撫を楽しむように抱きすがった。

  あの女をどうしてやろうと、これまでは考えていた。許せない。どうしてやろうと。
  それがいま、どうしように変化している。明江は弱気になった自分を感じた。
  勝呂陽子、三十代の末。旦那はいても子供はなかった。おそらく不妊。そうなると想像できる専業主婦の姿がある。旦那との夜はとうにない。子供を囲む家庭への夢が断たれたとき、母性は他人へのお節介へと変化した。社交的で明るい性格。女としてはいい性格だと思っているのに母親になれないまま枯れていく。人付き合いはうまいほうだし中心にいられる才もある。だから相手に突っ込みすぎて敬遠されてしまうのと、性的な飢えなのかレズっぽい雰囲気で嫌われる。
  彼女のなにもかもがわからないわけじゃない。寂しさにもがく主婦の姿が見透かせるし、そんな人ならちょっとしたことで変わるのではないか?

  昨夜は仕事帰りの姿のまま303号。ともかく自宅に戻った明江。自宅といっても間に304号を挟んだひとつ隣りの305号。紀代美と一緒に朝食を軽くすませて戻った明江。そのとき時刻は八時すぎ。しなければならない家事もあったし夫からの連絡も待たなければならなかった。
  しかし、なにをしていても上の空。よくよく考えておかないと、ばったり会ってカッとするとどうなるか知れたものじゃない。
  と、旦那からのメールが飛び込む。月曜まで帰れない。これで紀代美との時間ができたと明江は思い、そのとき同時に、あの女になにかをするならタイミングがいいと考えたのだが、今日は土曜日で向こうには旦那がいるはず。平日の静かなマンション内で、あくまで女同士で決着したい。無関係な旦那までを巻き込むのは可哀想。

 「弱気だなぁ」
  と、明江はため息をついてダイニングテーブルに座り込む。キッチンへのオープンカウンターに置いたデジタル時計が9:59。ちょうど00へと変化する時刻であった。
  10:00ジャスト。そしてそのときスマホに着信。相手は紀代美。
 「ご主人と?」
 「いま下でばったりよ。そ知らぬ顔でデートって感じだった」
 「デートか。ご主人とはうまくいってるみたい?」
 「かどうかはアレだけど、険悪ってムードでもないようよ」
 「そ、わかった。でね紀代美、主人からメールがあって月曜まで戻れないって。そっち行っていい?」
 「もちろんいいよ、おいで。私たちもランチに出ようか?」
 「それいいかも。すぐ行く」

  部屋着よりはましなブルージーンの姿。行くもなにも一部屋隔てた隣りの住戸。
 「私ダメだわ、考えれば考えるほど弱気になっちゃう」
  紀代美は、でしょうねといった面色でちょっと笑った。明江との夜を経た紀代美は部屋の中では全裸ですごす。それがあたりまえの女に戻っていた。
  考えていたこととが相まって白くて綺麗なヌードを見ているとムラムラする。
  明江は言う。
 「私たちの性奴隷なんてことも考えたけど、私はなんて残酷な女だったのって思ってしまって」
 「わかるよ。私はそれで苦しんできたからね」
 「やっぱり?」
  紀代美は眉を上げて小首を傾げる素振りをすると、下着をつけずにジーンズとシャツを着はじめる。
 「いつもノーパン?」
 「アノとき以外はね。裸に慣れると下着なんて苦しいだけだし」

  クローゼットの前で服を着ていく紀代美を見守りながら、明江は言った。
 「それで思ったのよ。私の言うことには逆らえないなんてどうかって。脱げと言えば裸だし、どうにだってしてやれる」
 「それもいいけど、それって結局、奴隷よね」
 「そっか、そうなるんだやっぱり。いろいろ考えたんだけどチャンスはあげたい。寂しさを吐き出させてやるといいのかなって思ったし」
 「怖がってるね明江」
 「そうだよもちろん、迂闊なことは言えないもん。ムカついて恐ろしいことを言っちゃうぐらいならそっちのほうがマシなんだし、彼女だって反省すると思うしさ」
  そしたら紀代美は、なにを思ったのか明江に歩み寄って頬にキス。ただそれだけのことなのに頬に触れた唇の感触が全身に伝播して鳥肌が騒ぎだす。なぜなのか心が浮き立っていると明江は思った。紀代美とのこともそうだし、あの女を屈服させたときの恥ずかしい姿までをも妄想する。いままでになかった新しい性の予感にときめいている。
 「そういうことなら、この部屋で調教? ふふふ、ちょっと楽しみ」
  紀代美は眸をくるりとまわす仕草で笑い、そのとき明江は眸を輝かせて言うのだった。

 「それを言うならマンションの中すべてがそうだわ。あのひん曲がった人格を壊してやる」
  身支度を終えた紀代美が明江の尻をぽんと叩いて、部屋を出た。

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 三話 女の闇


  明江はただ呆然とするだけで何も考えられなくなっていた。黒いローテーブルの上で起きていることを信じろというのか。信じるしかない。夢ではない。覚醒した意識の中で確かに思う。そうは思うのだが、あまりの不思議とあまりの恐怖に声も出ない。
  テーブルに置いたはずのたった一本の獣の毛。それがいま明かりを消した闇の中で、仄かに光る青色の光の繭につつまれて、その光の中で小さく可愛い狐の姿に化身してこちらを見ている。親指の先ほどしかない小さな頭から、ふさふさした尻尾の先まで体長は二十センチほど。毛は茶色。子猫よりも小さな姿なのだがスマートな大人の狐。小さな貌は大人の狐らしく円錐形に鼻先が尖っていて、二つある目のところにサファイアでもはめこんだように、その眸が淡く青く輝いて、小さな体をつつむ青い光は、どうやらその眸が発した光のようだった。
  明江は、一糸まとわぬ裸身の産毛という産毛が逆立つようで、これまでに経験したことがなかった恐怖とともに不思議な感動さえも覚えていた。こういうことが現実にあり、そんな世界へ導いてくれる紀代美という女と出会えたことが嬉しく思える。

  青い光の中の小さな狐は、確かに穏やかな面色で微笑んでいるようだった。二つの青い眸で紀代美を見つめ、それから貌をきっぱり振って明江を見つめる。
  透き通った視線。狐の眸が向けられて明江は性感にも似たゾクゾクする震えが背筋を突き抜け、喉をクゥと鳴らし、それでいて嬉しくて、微笑む視線を狐に向けた。可愛い姿だ。
  紀代美は開いた両手を合わせて授かり手を差し向けて、そうすると小さな狐はぴょんと跳ねて紀代美の手の上に乗り移る。
  紀代美が言った。
 「願いをお聞き届けくださり心より感謝いたします」
  そのとき狐の眸は確かに微笑み、次の瞬間、天から注ぐような女声が聞こえた。ゆったりとした女の声。限りなく透明な精霊の声のようだった。
 『どうせよと言うか? その女、殺せと言うか?』
  紀代美が言う。
 「ここにおります明江もまた苦しめられておりますので」
 『そうか、ならば明江に決めさせよう』
  そして狐は宝石のように青く光る小さな眸を明江に向ける。
  紀代美が明江に向かって言った。
 「明江、手を」
 「あ、はい」
  紀代美がしたように明江もまた開いた両手を合わせて授かり手をつくり、小さな狐はぴょんと跳んで手から手へと乗り移る。

  重さをまったく感じない。なのに手が温かい。それは女の心が手にのったようだと、このとき明江は嬉しかった。
  開いた両手の上でふさふさした尻尾をちょっと振り、狐は青い眸を向ける。
 『どうせよと言うか? その女の死を望むか?』
  明江は怖い。迂闊に言えばあの女の人生を奪うことになる。あの女への憎しみが、むしろ消えていくような気がした明江。
 「いいえ、そこまでしては可哀想です。私や紀代美が許せると思えるまで心から反省してほしい。あの人にはやさしいところもありますし、ただちょっと意地悪すぎて困るんです」
  手の上の狐はキラキラ光る青い眸で明江を見つめ、そして言った。
 『そなたもそうではなかったか。紀代美を快く思っていなかった』
 「はい、おっしゃるとおりです。なんとなくですけれど怖く思えて。心から反省します、人の心は深くにあるもので」
  狐は微笑む。
 『ではこうしよう、その女をそなたの思うままに操ってやるがよい。すべてはそなたの心ひとつ。それでよいな?』
 「はい、少し思い知らせて許してあげるつもりです」
  すると狐は確かに微笑み、上に向けて開かれた明江の親指の先をちょっと噛んだ。鋭い歯。痛いというほどでもなかったがチクリと針で刺されたような痛みは感じた。
 『私の可愛いしもべを嫌った罰。痛みの意味を思い知りなさい』
  そして仄かに青く輝く光の繭ごと闇に滲むように狐は消えた。

  狐がいなくなっても明江は手を開いたまま。呆然として身動ぎひとつできないでいる。
 「明江」
 「ぁ、はい」
 「もういい、お帰りになられました」
  上向きに開いて合わせた両手がすとんと膝に落ちていた。体に力が入らない。
  紀代美が言った。
 「空狐(くうこ)様と言って、三千年を生きた牝の狐の化身なんですけど、天狐(てんこ)様の次の位の妖怪なのよ。恐ろしい神通力をお持ちでね」
 「信じられません、夢なのか幻だったのか」
  そして紀代美は言う。
 「すべては明江にお任せになられたわ。私の意思ではどうにもならない」
  そのとき明江は我に返った。女二人が全裸で向き合う異常な世界。いま現実に起きたことを信じないわけにはいかなくなった。
 「私だけ? 私が決めるの?」
 「そうよもちろん。空狐様のご意思ですもの。明江が思うようにすればいい。死ねと念じればそうなるし」

  あの女は許せない。それはそうでも、運命を決めるのは私と考えると怖くなってならない明江。恐ろしい力を持ってしまった。あの女に対して私は死神にでもなれると思うと心も凍る思いがする。本心が隠せなくなる。死ねばいいのになんて誰もがちょっと思うこと。願ったところでそうならないとわかっているから思えること。  明江は自分の心の闇の部分が怖くなる。女は決定権から逃げたがるもの。
  紀代美は明江の手を取った。
 「怖いでしょ?」
 「すごく」
 「私は私が恐ろしい。他人にかかわるのが恐ろしい。私の家系は代々呪術師。いまの毛皮は空狐様ですけど、母に言えばもっと恐ろしい呪いもある。それもこれもいつか私が受け継ぐ定め。だから私は私の中にある黒い心が怖いのよ」
  気持ちがわかる。人を恨んでいられるうちは、むしろ幸せ。その気になれば殺せると思ったとたん悪魔の心が騒ぎだす。
  それで紀代美は暗いんだ。何事も隠しておきたくないから下着さえも拒んでいる。そうした女心が痛いほど理解できた明江であった。

  ハッとする。ハッとして紀代美の貌を見つめる明江。

  逃げたという旦那の行方は不明? 離婚にいたらず夫の名のまますごす妻。
  もしや離婚の対象がすでにこの世にいないのでは? 何かがあって許せなく、命を奪ってしまったのではないか? この人にはそれができる。だから自分を呪って紀代美は暗い。
  そうよ、そうに違いない。もし私なら、もしも夫に裏切られたら許さない。明江は、紀代美だってきっとそうよと確信し、同じ心に苦しむ女に自分を重ね、その苦悩を共有できる、この世で唯一の分身なんだと考えた。
  K2のオフィスはビアンの巣。私にはできないと思う反面、まるでわからないかといえばそうでもなかった。男女の性とは決定的に違うところがある。同性ゆえに持ち合わせる醜さのすべてを許容し、切ないまでに愛し抜く。他人であって他人でない。男女の性が互いの美点を愛するものなら、女同士の性は互いの醜悪を愛していくもの。明江は、自分よりもひとまわり小柄で華奢な紀代美の裸身を見まわして、紀代美は紀代美で性の予感を察していながら明江の体を見つめている。
  明江は言った。
 「シャワーさせて」
  うなずく紀代美。けれどそのときの紀代美の微笑みは、暗かった紀代美の姿ではなくなっていて、やさしい女に変わっている。
  全裸で立った明江は紀代美の手を引いてバスルームへと誘い込む。同じ間取りで勝手を知る他人の部屋。バスルームも、その前の脱衣、洗面台も、乱れなく綺麗にしている繊細な紀代美。この人はいい加減な人じゃない。

  熱めのシャワー。シャワーヘッドで調整できる粗く強い雨が素肌を叩き、見つめ合っていると性の震えがやってくる。
 「紀代美」
 「寂しかったのよ私・・抱いて明江」
  歳上でも小柄な紀代美は、ひとまわりパーツの豊かな明江に甘えるようになり、明江はそんな紀代美がとてつもなく可愛い。遠ざけていたものが、知ってみるとじつはそうではなくて愛の対象。
  紀代美を抱いて唇を重ねながら、背を撫でてやり尻を撫でてやり、手を前にまわして陰毛のない陰唇へと指を這わせていく。
  紀代美は言う。
 「生まれつき毛がないの」
 「好きよ紀代美」
  陰唇へ指を這わせ、シャワーの流れを手で導き性器を愛撫洗いしてやる明江。クリトリスが硬くなって飛び出して、紀代美は感度のいい体を持った牝。紀代美の白い総身がわなわな震えた。閉じた目の眉根が寄せられ、眉間に甘いシワが刻まれて、小鼻がぴくぴく痙攣するようにすぼまり、ひろがり、甘く苦しい息をする。
 「はぁぁ、うンあぅぅ明江ぇ、いい、好きよ明江、あぁン」
  尻にまわされた紀代美の両手が明江の白桃を揉み上げて、右手が尻の底へ、左手が前にまわって毛群らをまさぐり陰唇へと忍び込む。右手で揉むようにアナルを愛撫。そうしながら左手の指先が潤って蜜に濡れる肉ビラを掻き分けて体の中へと没していく。
  明江の指が紀代美の膣口をそっと嬲り、ぬむぬむとめり込んだ。

  衝撃的な電流だった。明江の裸身ががたがた震えだし一気にピークへ駆け上がる。アナルへめり込む紀代美の指と性器を突き刺す紀代美の指。明江の指が紀代美の膣から抜き去られ、たまらず抱きすがる明江。
 「ああ紀代美紀代美、ダメ、ダメ、ねえダメぇ!」
  シャワーの温水と体内から放射される熱水とが一緒になって陰唇から噴きだした。失禁、いいや潮を噴いて快楽を叫ぶ牝ビラ花。
  信じられない。夫が好き、別れた元カレだって大好きだった。けれどエッチでこれほどもがいた記憶がない。ひとまわり豊かな明江がひとまわり小柄な紀代美に支えられていないと崩れてしまう。犯される性でも犯す性でもない、咲き乱れる女同士のせめぎ合い。相手が紀代美だから乱れていられる。紀代美になら何をされてもいいし、どんなことでもできると思う。相手が男では到達できない女の性の高みなのだと明江は感じた。

  ベッド。かつてきっと旦那と愛し合った大きなベッド。いまそこに男の臭気はまるでなく、女と女が脚を開き合って絡み合う。
  花合わせ。貝キッス。ネチャクチャと醜い声を性器が発し、感じて腹筋を力ませるとブシュっと汁を噴いて膣から空気が押し出され、負圧となった体内の吸引力で陰唇と陰唇が吸い合って、互いの膣汁が吸い出されて濡れが絡む。
  果てる。達する。
  狂ったように腰を入れて性器をなすりつけ合い、苦しくなって離れようとするとシュポッと吸盤が引き剥がされる音がする。紀代美は無毛、もし私もそうならば性器の噛み合いはもっと深いと思えるのに。
 「うはっわぁぁ」
  イクなんてはるかに超えた快楽に明江はおかしな声を発し、総身震わせ、たまらず抱き合いむしゃぶりつく。紀代美の舌を吸い出して口の中で舐め回し、乳房を揉んで乳首をつねる。苦痛のようにのたうつ紀代美が好き! 明江は狂った。体中を舐めてやり、M字に開かせた腿の根に醜くある牝のビラ花へと口を尖らせ吸い付いていく。
  クリトリスが大きい。鞘をはらった小刀のように包皮を飛び出す肉色の芽。いまにも芽が伸び、そこから別の小花が咲きそうだった。
 「うわぁ! うわぁぁ! 明江、明江ぇ!」
 「もっとよもっと、もっとイケ! ほらイケ紀代美ぃ!」
  拷問を嫌がる女体のように紀代美はのたうち暴れ、けれども性器を上向きに突きつけて、さらなる愛撫を求めている。

  クリトリスを吸いのばして噛んでやる。
 「きぃぃ! きひぃぃぃ!」
  ベッドがロデオマシンのように弾んで縦揺れ。二人の裸身がふわふわ揺れて、紀代美はついにくたばった。白目を剥いて口をぱくぱくさせながら、背骨が軋むほど反り返って、一瞬後にばったり崩れた。
  明江は自分で自分を突き刺して、登り詰めて後を追う。壮絶なピーク。決闘のようなセックスだった。くたばり果てた二人の女体は、毛穴という毛穴から愛液そのもののねっとりした脂汗を搾り出し、汗と汗で接着された二人の女が、もはやぴくりとも動かない。

 「明江」
 「ふふふ、どういうことよ、化け物と化け物のセックスだった」
 「ほんとね、クラゲとイソギンチャクの決闘みたい」
  抱き合って貌を見ると、それが紀代美の素顔なのか、暗かったイメージはどこにもなかった。やさしい女の貌をしている。
  明江は微笑んで頬にちょっとキスをして、抱擁をほどいて仰向けに寝直った。
 「どうしてやろうって思うのよ」
 「あの女を?」
 「そう、あの女を。気が変わった。血の涙を流すまで許さない。もうおしまい、私たち二人のペットにしてやる」
 「ふふふ、怖いことを考えるのね」
 「だって」


  やりすぎ? そう思って紀代美を見ると、紀代美は笑ってうなずいている。

 「私も最初はそうだった。殺したって不可能犯罪なんですもの、罪にはならない。そのうち自分が怖いと思った」
  紀代美の声を聞きながら、明江は静まっていく怒りを感じて言う。
 「そうね、ちょっとやりすぎかもね。泣いて土下座をさせるくらい?」
 「それがいいよ。彼女にだっていいところはあるんだから。ただちょっと性格悪すぎ。厳しい罰は必要でしょうけれど」
  明江はちょっとほくそ笑んで、紀代美の手を取っていた。そのとき時刻は深夜の二時になろうとした。305号に戻ったところで今夜もまた夫はいない。このまま泊まろう。303号は愛の部屋。明江は紀代美を抱き寄せて眸を見つめた。
 「会社にもね」
 「うん?」
  嫌な女が一人いると言おうとして明江は思いとどまった。まずは勝呂陽子。あの女がどうなるかを確かめて、それからのことだと思ったからだ。
 「ビアンがいるのよ二組も。社長とナンバーツーがそうだし、ほかにも二人。バイトの子も入れてたった七人の会社なのによ。まともなのは私と私の友だちだけだって思ってたけど」
 「明江までそうなったって?」
  くすりと笑う紀代美。
 「知っておくべき世界だと痛感した。女を愛せる女は幸せ」
  ちょっとうなずく紀代美を乳房に掻き抱いて、しかし明江の眸は輝いていた。
  嫌な女、横倉浅里。そして社長も。いつかきっと牛耳ってやると明江は思う。

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 二話 殺風景


  渋谷にあるK2のオフィスから京王井の頭線で吉祥寺、そこからJRで高円寺というのが河原明江の帰宅ルート。渋谷からJRで新宿をまわってもよかったのだが、K2を知ったきっかけとなった友人の乾沙菜(いぬい・さな)が吉祥寺に住んでいて、時間が合えば一緒に帰ることが多かった。そのルートで定期を買ったということだ。
  高円寺駅の南口を出てロータリーを斜めに突っ切り、少し歩くとチャコールグレーの煉瓦調にデザインされた四階建てのコンパクトなマンションが見えてくる。明江はその305号。エレベーターを降りた左に各階ともに01号があり、そちらが東南の角ということで間取りは4LDK。エレベーターを挟んで並ぶ四戸はいずれも3LDKの住戸となっている。

  その金曜日、明江がマンションに帰り着いたのは深夜といってもいい十一時をすぎた時刻。エレベーターを降りて歩き出したところで、まるで帰りを待ち構えていたように、303号の玄関へのアルコーブから、ちょっとくすんだワインレッドのワンピースを着込んだ福地紀代美が顔をだす。ワンレングスの黒髪は肩ほどまでであったが、もしも髪がロングなら映画にでてくる幽霊そのもの。紀代美は三十歳であるらしい。158センチでスリムだったし、両手をだらりと垂らしてぼーっと立つ姿だけでも寒気がする。細面の眸の色がとにかく暗い。結婚していて、けれども旦那に逃げられ、このマンションに取り残された。正式な離婚にいたっていないらしく独り暮らしになっていても旦那の姓を名乗っている。
  くすんで暗い。まさにお化け。旦那に逃げられるはずだわよ・・さまざま噂が飛び交っていた。
  ここに住んで一年半ほどになる明江だったが、そんなお化けと話すのははじめてだったし、足音もさせずアルコーブから出てこられては、あやうく悲鳴をあげるところ。

 「あの女、いじってた」
 「えっえっ?」
  挨拶もなく前置きもなく、暗い眸で見つめて言う紀代美。
 「ゴミ。おたくの」
 「ああ、勝呂さんですね」
 「陰湿な女よ」
  湿り気たっぷりの紀代美に陰湿と言われると、不思議な気分になってくる。相手はもちろん勝呂陽子。彼女もきっとあの女に何かされた。それで怒っているのだろうと明江は思った。
  そしてまたなんの脈絡もなく紀代美は言う。
 「呪ってみよう。おもしろいことになる」
 「の、呪う・・?」
  明江は絶句。まがまがしい言葉と紀代美のムードが一致しすぎて寒気を感じた明江。いきなりなにを言いだすのやら。
 「きて」
 「えっえっ?」
 「お部屋。話そ」
  会話になっていない。言葉をブツ切りにして並べているだけ。後にも先にもはじめて話し、いきなり部屋へ誘われた。足がすくむほどの恐怖だったが、帰りを待ち構えて言い寄られ、ここで下手に断って敵が増えたらたまらない。同じ相手を敵視するなら紀代美は味方。断るべきでないと思った明江。しかしこのとき明江は仕事の帰りでスカート姿。新妻らしくスカートでいること。だけどミニすぎてはいけない。そうしたことはオフィスにいるお目付役がいちいち言う。横倉浅里。仕事に出れば浅里、家に戻ればさらに面倒な勝呂陽子。女とはどうしてこうも面倒なのかと嫌気がさす明江だった。

  ところが誘われるままに玄関へ一歩入って、明江はハッとして紀代美の横顔を覗き見た。サンダルや靴がきっちり整理されて置かれていて玄関先がすっきりしている。ストーンタイルのフロアにもゴミひとつ散っていない。明るめのワインレッドの玄関マットもきっちり置かれて曲がっていない。
  この人はきっちりした人。むしろ私の家の方が散らかっていると思ったとき、まんざら悪い人でもなさそうだと思ってしまう。それは明江の母親の口癖だった。玄関を見ればその家の内が知れる。思春期の頃、学校から戻ったときに靴を脱ぎ散らかして怒られたものだと明江は思った。
 「あがって」
 「はい、お邪魔します、遅くにすみません」
  ローヒールのパンプスを脱ぎ、しゃがみ込んできっちり揃える。そんな明江の様子を紀代美は黙って見つめている。違う意味でも怖い。紀代美という女は細かなことに気づく人。迂闊なことはできないと思うのだった。

  あがってすぐ少しの廊下。カウンター越しの対面キッチンのあるLDKは造りが同じ。部屋を覗いて明江はますます紀代美を見つめた。
  一見して殺風景。呪うなんて言葉とはほど遠い、すっきり整理された無機質な部屋。大理石調のシステムキッチンにも汚れはなく、ガスレンジに置かれたステンのケトルにも指紋ひとつついてはいない。リビングは十二畳ほどのスペースなのだが、フロアはダークグレーのカーペット、白の革張りソファ、それとセットの黒いローテーブル、そのほか白いリビングボード、黒いテレビ台に大きな液晶テレビと、そのどこを見ても乱れは一切感じられず、女性の部屋にありがちな可愛いものも一切ない。一見して殺風景と思えるほど洗練されたインテリア。紀代美という女の素性を物語るようだった。
 「綺麗になさってますね。ウチなんてしっちゃかめっちゃかで」
  紀代美は声もなくちょっと笑って、深夜のゲストにソファをすすめた。
 「ジュース飲む?」
 「あ、はい、じゃあいただきます」
  またしても声もなく、にこりともせず、うなずくだけ。紀代美には言葉が足りない。これで普通に話してくれれば理想的な妻だと思う。

  紀代美がカウンターの向こうへまわって、その隙に明江は室内を見まわしたのだが、男の気配も一切ない。逃げたという旦那のこともそうだが、部屋に男を入れている形跡がないのである。紀代美は仕事をしていない。一日家に閉じこもり、いったい何をしてるのだろう。それでどうして暮らしていけるのか。持ち家だから家賃はなくても、よほどの資産家でもないかぎり働かないとやっていけないはずなのに。
  そのとき気配。ハッとして顔をあげると、いつの間にかテーブルにグラスが置かれてオレンジジュース。お菓子のカゴにカップケーキが積み上げられる。
  明江をロングソファに座らせ、自分はローテーブルの下に敷かれた白いシャギーマットにじかに横座り。ミディ丈のワンピでもそうやって座ると白い腿まで露わとなる。スリムな紀代美。脚線も細くて肌艶がいい。こうして近くで見ると不健康な印象はしなかった。

 「わかってるわよ」
 「えっえっ?」
 「ここで私がどう思われて、あなたがどう感じているかもね。不気味、お化け、亭主に捨てられるはずだわよって」
  はじめての長文。会話になった言葉だった。
 「あなたは河原明江、明江と呼ぶから」
 「あ、ええ、そうぞ」
 「私は福地紀代美、紀代美と呼んで」
 「え、あ・・はい」
  声が暗いし面色も暗いのだけど、やさしくないわけじゃない。不思議な人。それが紀代美に対する印象だった。
 「見せたいものがある」 と、そう言って、紀代美はフロアに座ったままの体をひねって、すぐ横に置かれたリビングボードの引き出しを開ける。そしてそのとき部屋着にしているミディ丈のワンピースが尻に張り付き、明江は眸を丸くした。
  ヒップラインにあるはずの下着のラインがまったくない。背中を見てもブラのくびれがまったくない。全裸でワンピ? そうとしか思えなかった。
  本能的な性への緊張。息を潜めていると紀代美は引き出しから何枚かの紙を取り出してテーブルに置くのだった。雑誌のページを破いたものだったりしたのだが。
 「これは・・」
 「あの女よ。郵便受けにときどきね」
  性器の修正されない裸の女の写真であり、しかもどれもがSM写真。明江は一瞬見て、しかし眸を反らしていた。とても正視できるものじゃない。

  紀代美が言う。
 「捨てられないでしょ、いろいろ」
 「ええ、私もやられました。下着を捨てたら物色されて自転車置き場に」
 「それ私も。捨てたパンティを郵便受けに入れられたり、こんな写真だったりね。独りで身を持てあましているでしょ。飢えてるに決まってる。得体の知れない変態女って、そう言いたいに決まってる。ねちねちした眸で私の体を見まわしてるし、飢えてるのはおまえだろって言ってやりたい」
  明江はうなずいた。
  共通の敵、勝呂陽子は、一階上の401号、4LDKに住む主婦であり、三十八歳だったのだが、ちょっと老けて見えるタイプ。旦那はいても子供のない夫婦。社交的で明るい女なのだが、ソリが合わない相手に対して陰険そのもの。
  明江は言った。
 「越してきたときお世話になって、でもそのうちヘンな眸で見られるようになったものですから」
 「レズっぽくでしょ?」
 「そうなんですよ。ゴミを出せば物色されるし、ほかの奥様方にもいろいろ吹聴されてるしで嫌になって、それで私、その頃はまだ専業主婦だったから友人の誘いにのってパートに出ることにしたんです」

  紀代美はうなずいて言う。
 「私もそうだった。主人がいた頃からねちねちした眸で見られたし、私って暗いから、悩みがあるなら打ち明けなさいって言ってくれたのはよかったけど、そのうち主人がいなくなって、部屋に入りたがってしょうがない。いっぺん入れたら迫られちゃって」
 「迫られた?」
 「熱を持つ据わった眸でジトッと見つめられ、私はもちろんはねつけた。そしたらどうよ、ゴミは漁るわ、こんな写真を入れられるわ。私も最初はゴミ袋だったのよ。袋が薄くて透けるから、わざわざ見せつけるようにSMの本なんかを外に向けて入れられる。まるで私が捨てたみたいに」
  ゴミ置き場には出入りしても他人が捨てた袋までは凝視しない。そんなことがあったなんてはじめて聞いた明江だった。

  話してみると、ごくあたりまえの感覚を持った女性。明江は味方ができたと思ったのだが、紀代美は言う。
 「レズでもいいのよ」
 「え?」
 「それを悪いこととは思わない。真心があるのなら嬉しいことだし」
 「まあ、それはそうかも」
  淡々と話す紀代美。やはりどこか、そこらの女性とは違う感じがする。
 「あの女は違う。あの女は怖い。どうしようもない淫乱なんだし相手かまわず誰でもいい。脈がありそうだと思うと言い寄ってくるからね」
 「脈がありそうって、じゃあ私もそんなふうに思われて?」
 「もちろんそうよ、明江はやさしいし可愛いから。私とはそこが違う。私の場合は暗くて変態的なところがある。レズだってSMだって私はいいのよ、お相手が心からそうしてくれるんだったら濡れちゃう体を持っている」
  こんどこそ息苦しくなってくる。ストレートと言えばいいのか、女同士の気安さもあってか会話がナマになってくる。
 「あの女は陰湿、狡猾、傲慢、ありとあらゆる女の嫌なところを備えてる。一方的に想われたってダメなんだし、心には伝え方があるはずよ。あなたが好きを素振りの端々に見せてほしい。その先にベッドがあるなら私は歓迎。ところが違う。誘ってるんだから応えたらどうなのよみたいな傲慢さがたまらない。思うようにならないと嫌がらせは平気でするし」

  確かに。それはそうだと思いながらも、このとき明江は、まるで生気のないお化けのような存在だと思っていた紀代美の中に熱い女の情愛を感じ取り、人は付き合ってみないとわからないとつくづく思った。常識的で人一倍女らしい神経を持っていて、ただちょっとムードが暗い。
  明江は言った。
 「わかってくれる人って少ないですからね」
  試してみようとあえてそう言ったとき、紀代美の眸がキラキラ輝く。
  繊細すぎる。臆病すぎる。自分を隠していないと怖くてならない。そんなタイプの人ではないか。どうせわかってもらえないと諦めているような。旦那に逃げられてそうした負の感情が決定的なものとなってしまった。
  きっとそうだと明江は思う。
 「紀代美さんとはお友だちになれそうです」
 「ありがと。そう思ってくれるんだったら『さん』はいらない、呼び捨てて。私は三十」 と、自分の歳を言って眉を上げて尋ねる素振り。
 「二十八です」
 「うん。歳も近いし他人行儀にしてほしくないんだよ」
 「はい、じゃあ紀代美って呼びますね」
 「そのほうが安心できる」
  思うよりずっといい人だったと、ほっとして、それだからか緊張の反動で明江は弛んだ。

 「紀代美っていま」
 「うん?」
 「ワンピの下」
  紀代美はちょっと微笑んで言う。
 「うん、そうよ裸。いつもそう。それが私の生き方だから」
 「生き方? どういうこと?」
 「私はあるものに守られてる。いまは明江がいるからあれですけど、お部屋の中ではいつも全裸。私を隠すと失礼ですから」
  明江は絶句して紀代美を見つめた。
 「言っても信じないと思うから。それで今日、明江の帰りを待ったのよ。明江がもし私を信じてくれるなら、あの女を懲らしめてやれるから。私だけでもできるけど、それでは効果は私に対してだけですからね。明江の噂もまわってる。もう許せない。だから明江次第なの。私を信じてくれるかしらって思ってね」
  意味が解せない。二人で戦うということなのか。二人で願うということなのか。

  紀代美は言った。
 「私は呪術を心得てる。だけどそれは怖いこと。明江なら助けてくれると思ったから」
  こんどこそ貌を見る。真剣な面色だったし、やはりちょっと狂っているとは思うのだけど、言うことを聞いてみようとも思えてくる。紀代美には不思議な魅力がある。
 「よくわからないけど、どうすればいいの?」
 「こうすればいい」
  紀代美はそっと立って明江の目の前でワンピースを脱ぎ去った。まっ白で細身の全裸が美しく、紀代美には陰毛がなかった。処理されていたのか、もともと無毛なのかはわからない。白いデルタに亀裂が覗き、くびれて張って、乳房はBサイズで乳首も小さい。
  明江はとっさに身を固くしたのだったが、だからビアンということでもなさそうだった。

  全裸となった紀代美は、またリビングボードの別の引き出しを開けて、何やら毛皮の切れ端のようなものを手に、テーブルにそっと置く。褐色で毛足の長い獣の毛皮。毛に艶があって美しい。
 「これよ。これが私の守り神」
 「守り神?」
 「女王様とも言えるわね」
  ああダメだ、狂っている・・とは思うのだったが、独りだけ先に全裸となって見つめる眸が透き通って美しい。
 「私を信じて裸になって。このままお呼びすると女王様は明江を祟る。着衣は心を隠すもの。すべてを晒して平伏す者に女王様は寛容です。あの女を懲らしめてやりましょう、明江と私で」

 「わかりました。じゃあ先にシャワーさせて」
 「必要ない。それだって偽る行為よ、ポーズですもの。女王様はお怒りになられます」
  どうしていいかわからない。
  けれど帰りを待ってまで呼んでくれた紀代美一人に恥をかかせるわけにはいかない。信じてみよう。そう思えた明江だった。
  今夜の明江は仕事帰りで黒のブラに黒のパンティ。紀代美より背が高く164センチ、ブラはCサイズ。ひとまわり大柄な明江。紀代美に見つめられていながらすべてを脱いで、長い髪に手ぐしを入れて撫でつけて、黒いローテーブルに置かれた不思議な毛皮に向かって裸の女二人で正座。レモンイエローのカーテンが閉ざされたリビングルーム。明かりを消して、カーテン越しに染み出す夜の薄明かり。
  支度がすむと紀代美は毛皮を両手に拝み取り、ふさふさした毛を一本爪先でつまみ上げて抜いてしまう。毛皮そのものはリビングボードの引き出しに戻してしまい、テーブルに茶色の毛が一本。テーブル下のシャギーマットに二人並んで正座をし、明かりが消えたことで、そこにあるのかないのかわからない一本の獣の毛に向き合った。

  紀代美が両手をついて体をたたみ、平伏して土下座をする。明江が真似る。そうしなければ怖いことが起こると、なぜかそう直感できたからだった。
 「空狐(くうこ)様、紀代美でございます、どうかお姿をお見せくださいませ。今宵はこのように明江もそばでお願いしております。私たちは心より隠すものなどございません。どうか私たちの願いをお聞き届けくださいますよう平伏してお願い申し上げます」
  この人、何を言ってるの? どういうこと? わからないのに怖くてならない。

  と、紀代美が言葉を言い終えたとたん、テーブルの上から青い光が射してくる。仄かな青い光の揺らぎが二人の女の裸身をくるむように照らしている。
  ゾッと全身に寒気、いいや怖気。産毛が逆立ち、息が震え、平伏す裸身の底にある女の性花が本能的な恐怖を感じて疼きだす。
  そっと面を上げる紀代美。そっと面を上げる明江。
 「ああ、うそよ・・」
 「空狐様ですよ。ごらんなさい、やさしい面色でごらんになっておいでです」

  まさか、そんな・・明江は紀代美が持つ神秘的な力を否定できなくなっていた。

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 一話 ランチタイム


『黙って聞いて適当に応えてちょうだい』・・と、携帯への着信でした。

  電話を取るなり一方的な早口で、目下の私の儀礼的な言葉を遮った。相手は社長だったんです。小さなオフィスには耳があり、そのとき嫌な女もいたことだし、悟られたくない話というわけで・・。

 「あー、はいはい。ごめん、いま仕事中なんだ、手短にね」
  そう言って周りの人たちにちょっと笑うと、案の定、嫌な女が嫌味な視線を向けている。横倉浅里、三十四歳。このオフィスのナンバーツー。陰湿、意地悪、自分中心でないと気がすまない女ですけど、どこにでもいるタイプとも言える人。

  気にせず電話。
 『今日はランチ一人でしょ?』
 「そうね、それでいいんじゃない?」
  ピントをずらして喋っている。
 『道玄坂の左に楽器屋さんがあって角を入ったところにカフェがあるから・・』
 「あらそ? なんだよソレ。はいはい、わかったわよ、今度また教えてあげるから。じゃあね」
  聞こえよがしというわけではありません。もちろん小声で話していてもオフィスがちょっと狭すぎる。午前中早くに外出した社長が外から電話を入れてきた。ランチタイムの三十分ほど前でした。

  渋谷。
  駅から公園通りへ向かってすぐ、脇道へそれたところにある九階建ての古いビルにオフィスがあります。
  五年前に起業したネット通販ベンチャー、K2。そのケイツーという社名もいかにもベンチャーぽくてスマートなんでしょうが、それにしたって社長の姓名、神白佳衣子(かみしろ・けいこ)の頭文字を並べただけ。社長も含めて社員たった五名。私がパートで、ときどきバイトの子が一人いる。ひっくるめたって七人ばかり。
  社長は、もともと郊外にある団地に住んでいて、つまりは団地妻だったそうですが、その頃に同じ団地の奥様たちが手作りするバッグそのほか小物さまざま、いわゆるハンドメイド商品をネットに載せたのがはじまりだったと聞いている。そのうちサイトで扱う商品を募集して日本中から品物が送られてくるようになり、ちょうどその頃の離婚とも重なって会社組織にしたのだとか。
  そんな感じで五年やって会社はこの規模。社長という人には経営の才がなく、会社を大きくしようなんて野心もない。小さいながらもいまの規模で安定させたのはナンバーツーの手腕。それが横倉浅里。実質のボスとも言える人だから取り扱い注意なわけで。

  カフェ。
  ランチタイムで街中は混んでいても、ここは珈琲専門店。パン料理がちょっとあるぐらいでしたがお昼なんて何でもよかった。
  私が覗くと社長は先に来ていて奥のボックスに座っている。ブレンド珈琲一杯千五百円。静かで落ち着けるはずの店。
 「明ちゃんあなたイジメられてるでしょ。ごめんね、私がよけいなこと言ったばかりに」
  私は河原明江、二十八歳。
 「いいえ、それって私だけじゃないみたいですし。いろいろ聞きますし」
 「そうなのよ、困ったものだわ、悪い人じゃないんですけどね。明ちゃん辞めちゃうんじゃないかって心配で。せっかくウエブのわかる子が来てくれたのに」
 「いえいえ辞めるなんてそんな。私はパートなんだし沙菜もいますから」
  社員の一人、乾沙菜(いぬい・さな)、ひとつ歳上の二十九歳。私とは学生時代からの自転車仲間で、沙菜の紹介でK2を知った。私はかつてIT企業でウエブサイトの社内デザイナーをやっていました。通販サイトを外注せずにいじれる私だったんです。
 「そう? だといいけど、ほんとごめん」
  社長はやさしい性格というのか、おとなしくて気が弱く、ごく普通の主婦が何かの間違いで会社をはじめてしまったような人。企業を動かすタイプじゃない。
 「女ばかりってむずかしいこともありますし前のところでもいろいろありましたから、気にしないようにしています」
 「そうなの? やっぱりあった?」
 「ありましたよ、もちろん。私ってイジメやすいタイプみたいで」
 「そんなこともないでしょうけど、それにしたってちょっと・・」
  それきり社長は曖昧に笑っている。

  K2でパートしだして五か月たちます。パートといっても一時間おそく出勤するというだけで連日ラストまでのフル勤務ですから実質的には社員のようなもの。待遇もそれなりのものはもらっていました。
  私が入って一週間ほどして歓迎会のようなことがあり、その席で私はお箸をごくあたりまえに使いこなした。お座敷で食べる、かなりいい値な和食のお店。そのとき社長がちょっと口を滑らせたのです。
  お箸を綺麗に使う~美味しそうに食べる~育ちのいい素敵な新妻さんだこと~と、その程度の褒め言葉だったのに、あの女は気に入らない。

  社長バツイチを筆頭にウチには結婚で幸せになった女がいない。そんな思いもあるのでしょうし、アイツは箸さえまともに使えない。
  だけどアイツの敵意はそうしたものとは質が違った。
 「ひどいようなら言ってねって言いたいところですけれど、いまのウチがあるのはあの子の力。私一人じゃずるずるになるだけなんだし」
  それだけですか? 白状なさいよ社長さん、とは思いましたが、まさかそこまでは言えません。
 「いろいろあった人なのよ、元は舞台女優でね、ちょっと言えないようなひどいこともあったみたいで」
 「ええ、それなら少し」
 「あら聞いてる? 沙菜ちゃんから?」
  社長のそういうところが憎めないのですが、三十八歳にもなって子供だと思います。いまこの場で話の出所を名指ししてどうするのよって思ってしまう。
 「旦那は舞台の演出家なんですけど、ほとんど家にいないのよ。公演で飛び回っているでしょう」
  それも違う。そこら中に女だらけのチャラチャラ男で、つまりは仮面の夫婦。そのぐらいのことは知っていました。
 「そんなこともあって性格が曲がっちゃったって本人もわかってる。少し大目に見てやって、お願いだから」
 「はい、それもそのつもりです。ですけどパンストの色までいちいち言われると癇に障るところもありますし、まあ・・」
  話すうちにムカついてくる。言わなければよかったと思いましたが、社長らしくない彼女の物腰についつい私も弛んでしまった。

 「ウチを会社にしたことを後悔した時期があってね。私に経営なんて無理だもん。ちょうどその頃、浅里(あさり)と出会って、一緒にやろうかってことになった」
 「ええ、そうらしいですね」
 「私は離婚して精神的にもどん詰まり、浅里も似たようなものだった。お互い孤独にもがいていたの。それであるとき・・」
  と、彼女は上目使いに私を見つめて眉を上げて微笑みます。
 「気づいてるとは思うけど、私たちってそうだから、よけい言いにくくて、仕事のことでも任せっきりになっちゃうし」
  もういいわよ社長さん。アイツのことは横目に見ておき、あなたに免じて許してあげるとこのとき思った。
  社長と浅里はべたべたのビアン。誰もが知っていて誰もが話題にしないこと。アイツは社長がほかの女を褒めると嫉妬する。それだけのことなんです。

  さらにビアンと言うならもう一組。奥山梨香(おくやま・りんか)、三十三歳。彼女は、かつては劇団にいたダンサーらしく、離婚するまではジャズダンスのインストラクターをやっていた。梨香もバツイチ。そしてその教え子に、まだ学生の坂田裕美がいて、裕美はバイトでK2を覗いている。裕美はいま二十歳。芸大生でミュージカルダンサー志望。芸術畑だからか性にはオープン。バイトでヌードモデルを平気でやる子。梨香が性的ペットを呼び寄せたということです。
  さらにさらに、もう一人。女の愛憎どろどろのややこしいオフィスに、梅野はるかがやってきた。こちらは二十四歳、未婚で彼はいないと言いますが、性的に砕けた感じで、浅里が気にする素振りをしている。
  業績が伸びてくるとオフィスに女ばかりが増えていく。社長も浅里も梨香もビアンですから気になるわけです。
  どうでもいいや、かかわり合いになりたくない。嫌なアイツのことも社長が気にしてくれているとわかるとちょっとは気楽でいられそう。

  その日は金曜日、明日明後日と休み。定刻よりも少し早く社を出た私は、今日風邪で休んだ沙菜の部屋へと向かっていました。沙菜が休みだったからランチで私が一人になると社長は電話をくれたのです。
  私は新婚二年。主人は二つ歳上で、前の会社で社内恋愛。結婚して私が退いたということです。大企業を相手にするIT関連ベンチャーの企画開発セクションに所属して、技術のわかる営業として飛び回っている人ですから。
  昨日からまた出張でしばらくは戻って来ない。私たちの住まいは高円寺にあるマンションでしたが、主人がいないと独りきり。社にいるより頭を抱えることがあったもので帰りたくない。沙菜は吉祥寺に住んでいて帰りに寄るにはちょうどよかった。
  十月中旬。今年は秋晴れが続かない。私は結婚でやめていましたが沙菜はバツイチ独身で子供なし。未婚に戻った彼女はサイクリング復活。急な雨で風邪をひいてしまったということで。

 「あらそう? 社長が気にしてくれてた?」
  部屋を覗いてみると沙菜はもうすっかり元気。若い頃からスポーツで鍛えた体は強いもの。ちょっと熱っぽくて寝てはいても、さっと起きてお茶の支度をしてくれます。
 「だけどおもしろい会社だなって思うわよ。曰くつきの女ばかりでビアンの巣」
 「あははは、ほんとよね、あたしも含めて男には懲り懲りなんだし」
 「あら沙菜も?」
 「は? 違う違う、あたしはオトコよ、いまのクラブにいいのがいるの」
 「あそ? カッコいい?」
 「むふふ」
 「あ、ばーかコノぉ。想像してんじゃないわよ。進んでるの?」
 「こんど二人で走ろうって。いい人なんだわこれが」
 「キスとかは?」
 「まだ。そのうちそうなる」
 「はいはい。心配して来てバカくさくなってきた」
  オフィスにいて、まともなのは沙菜一人。学生の頃から仲良しでしたし、沙菜には幸せを見つけてほしいと思っていました。

  沙菜は言います。
 「加えて、はるかよね」
 「言える」
  梅野はるか。入社して一月ちょっと。こいつがまたルーズな感じで、浅里が手ぐすね引いて狙っている。
 「梨香と食事に行ったみたい」
 「そうなんだ。浅里が狙ってるのに新たな火種?」
 「ところがそうでもないみたい」
  沙菜は呆れたというような面色で眉を上げてほくそ笑む。
 「どういうこと?」
 「ドMなんだって。そういう行為じゃなく、ほら、浅里ってちょっと怖いでしょ」
 「感じがね」
 「そうそう。睨まれると怖いんだけど、お姉様って感じになって、まんざらでもないみたい。梨香はビアンだけどS女じゃないわ」
  そのとき私は、社長たる神白佳衣子はどうなのだろうと考えてしまいます。浅里はいかにもS女っぽく、佳衣子はなすがままといったタイプ。
 「まさか社長も」
 「あり得るわよそういうことも。だから浅里に頭が上がらないってこともある」
 「凄いところに誘ってくれたわ、ふんっ」
  沙菜は他人事のように笑ってくれるし。沙菜がいたからK2に入った私です。

  主人とのノーマルな日々に不満はなかった。平均的な女を生きて、結ばれて、子供がほしいと考えている。なのに、あっちもこっちも出戻り組で、ビアンべたべた、加えてMっぽい子が来ればどうなっていくのやら。
  さながら女子校の様相です。赤裸々が常。危険性の持ち主ばかりに囲まれてしまっている。危険なセックス。ゆえに危険『性』ということで。
  そして沙菜が話の向きを変えてきた。
 「こっちはともかく、そっちはどうなの? 相変わらず?」
  そのとき私は、首を横にちょっと振って、ため息をついたと思う。

  私と主人が新居に選んだマンションのこと。高円寺にある四階建て全十七戸のコンパクトな物件で、戸建ての並ぶ低層住宅街とは路地を隔てた立地。築十年とそれほど古くはなかったし、チャコール煉瓦で造られた可愛いマンションだったのです。私はその305号。いまから一年半ほど前ですが、私の姉夫婦が暮らした家を譲ってもらった。姉の旦那はアメリカ人。向こうへ移住してしまったからです。
  都心型の設計で、一階にエントランスとビジタールームが造られて、その奥に住戸が二戸。そしてその階上にそれぞれ五戸ずつで全十七戸なんですが、その小さな空間にオフィスにいるより深刻な問題があったのです。
 「最悪だわ。旦那がいないと帰りたくない感じ」
 「あらま。いまでもゴミとか悪戯される?」
 「どうなんだか。だけど捨てられなくて困るのよ」

  引っ越したとき、一階上の奥様によくしてもらった。勝呂さん。最初のうちは遊びに行ったり来たりで交流はあったのですが、そうするうちにネトっとした眸の色が不気味に思えて離れていようとしたのです。明らかな性的誘惑。明らかなレズ視線。その頃はまだ専業主婦で家にいて、それもあって沙菜に相談したところK2へ来ないかってことになる。
  よくしてあげたのに逃げたと思われ、それは憎しみに変わっていく。向こうは子供じゃありません。四十歳ぐらいでしょうか。何食わぬ顔で接していながら、ねちねち虐める。
  最初はゴミです。一階裏にゴミ置き場がありますが、ゴミ袋が物色されて、捨てた私の下着が引っ張り出されてコンクリートフロアに晒されていた。主人との愛のために私を飾った赤いパンティ、ブラもあったし。
  まあいやらしい新妻だこと。夜な夜なあられもなく悶えてるみたいよ。なんて噂が回っていると別の人からそれとなく聞かされた。

  もう一人、福地さん。こちらはただただ不気味な女。同じ階の302号の住人ですが、彼女はいま三十歳であるらしく旦那に逃げられて取り残された女だとか。
  とにかく暗い。ひょろっとスリムで存在感がない感じ。たまに見かけてもにこりともせず、こちらが挨拶したって暗い眸でじっと見据えられ、黙ったままちょっと頭を下げて幽霊みたいにいなくなる。いつも決まってミドル丈のワンピースを着込んでいて、ぼーっと陰が滲むように立っている。ワンレンの黒髪は肩ほどまでの長さですけど、もう少し長くしたらまさしく映画で見たお化けのよう。昼間でも廊下はそれほど明るくない。ばったりかち合うと、ヒッと喉に悲鳴がこもるほどのムードなのです。
  ただ、この福地さんという人は、私に嫌がらせをする勝呂さんとは犬猿の仲らしい。そういう意味では味方と言えなくもないのですが。

  小さなマンションほど人間関係は微妙なもの。面倒にはかかわらないのが都会の生き方ですからね、なんとなく私だけが孤立してしまったような気にもなり、と言ってそう簡単に出るわけにもいかない。賃貸にしておけばよかったと思っても、主人にすれば持ち家ですから会社にいたって鼻も高いはずですし。
  沙菜の部屋でさんざん時間をのばしにのばし、しょうがないから帰ることにしたのですが、戻ってみるとあのお化けにでっくわす。
  四階建てでもエレベーターはちゃんとあり、降りたところは三階フロア。エレベーターの向こうに301号、エレベーターを挟んで部屋が住戸が四つ並ぶ造りですが、まるで私の帰りを待っていたように303号のドアへのアルコーブから、滲むように現れたワインレッドのワンピース。そのとき時刻は十一時、夜中ですから。
  ゾッとして寒気がはしった私です。

 「あの女、いじってた」
 「えっえっ?」
  挨拶もなくいきなり何だよ、とは思ったのですが。
 「ゴミ。おたくの」
 「ああ、勝呂さんですね」
 「許せない、陰湿な」
  あなただって充分湿ってますけどね、とは思いましたが、いままで声をかけてくれたことなんてありません。彼女もきっと何かされた。それで怒っているのだろうと思ったのです。
  そしたら彼女、私をじっと見据えて言う。
 「呪ってみよう。おもしろいことになる」
 「の・・呪う?」

  おいおい何だよこのマンション。ホラーじゃんと思ったとたん、こんどこそ寒気がした。

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