女の陰影

女の魔性、狂気、愛と性。時代劇から純愛まで大人のための小説書庫。

カテゴリ: DINKS


三十話


 二日経った金曜日のこと。その日の友紀は午後から女性誌の編集部に詰めて治子の仕事を手伝っていた。完成を待って出版する書籍と違って雑誌には締め切りがあり、実質的に治子一人の作業では間に合わない。そんなことだろうと覗いてみると治子が一人で悪戦苦闘。友紀の後釜に座るようにそっち系を担当させられ、周囲の者たちは横目で見ていて手伝おうとはしなかったし、そうして追い詰めてミスさせるのがエトセトラの常套手段であるからだ。ほら見ろということ。そしてまた治子も治子で、独りでしょいこみ友紀に声をかけなかった。やり遂げようという気持ちはわかるが、頑張りますとできますは違う。見ていられず手伝った。

 テーマは不倫。瀬戸由里子のエッセイをメインに七見開き十四ページにわたるもので、瀬戸のエッセイに見開き二ページを割き、残りを一般からの投稿というカタチにする。ページあたり二人、つまり二十数名からの原稿を扱うわけだが、文章のレベルよりも内容がどうしても似通って、骨子を変えないように書き分けないと、そっくりさんが並ぶことになってしまう。
 若い治子では、てにをはレベルの部分修正はできても、文章を一度噛み込んで構成し直すことが難しい。妻たちからの投稿は、案の定、家の中で耐え忍ぶ主婦像、夫はひどい、外に向いてもしょうがないといったあたりからはじまっている。女は性を受け身で語りたがり自分を悪者にはしたくないという心理が働く。
 そんなことで治子に指示しながら友紀は友紀で分担して直していくのだが、最初の数人はよくても進んでいくうちに修正の角度を変えていかないと結局似たようなものになる。

「・・ったく、多すぎよ」
「ですよね。瀬戸先生のエッセイが目玉なら売れるってことで、これでもかと詰め込みたがる。何で十四ページも・・」
「そうだけど、ここでそれを言ってもしょうがないわ、やるっきゃないんだもん」
 そのまま使える数篇を除いておよそ二十篇。一篇をまとめるのに友紀がやっても一時間はかかる。今日は残業だと腹をくくった。
 しかし友紀は、以前のようにギスギスしない自分に不思議な戸惑いを感じていた。サリナという女王様、友紀という性奴隷を身をもって体験した。心でイクという感覚がよくわかる。
 あれからホテルで、とりたててSMらしいことがあったわけではなかったが、全裸で平伏した記憶はあまりに生々しく、房鞭で性器を打たれた痛みはあまりに衝撃的で、責められて嬉しくて泣くM女の想いはこういうものかと突きつけられた。

 友紀は人妻。陰毛をなくすわけにはいかなかったし、裸身に鞭痕を残すこともできない。サリナはもちろん思いやり、厳しく打っても痕のできない性器を狙い、乳首のクリップで責め、浣腸して排泄を嘲笑した。ただそれだけのM体験だったが、それなりに容赦しないサリナの眸に女の本気を感じ取れ、M女の安堵の意味を悟った気持ちになれる。
 体中に鞭が欲しい。泣いても泣いても許さないサリナの心を見せてほしい。私はサリナに対して甘かった。やさしさではなく虐待への責任が負えないと思ってしまった。自分に対して甘かったと落ち込む気分がMに転じ、罰を受けることで楽になれる。
 出会ったあの頃、自虐マゾという言葉は未知のもの。観念的にわかるというのと実感できるのとでは質が違う。

 サリナに勝てない・・勝つとか負けるとか、そうした思いも軽率だったし、つまらない発想だった。サリナを思うと濡れてくる。心の潤いが性器を濡らす。そう思うと、これこそ愛だと実感できる。

 何篇かを終えて横を見る。
「そっちはどう?」
「もう少し・・難しいです」
 いつの間にか時刻は七時。すでに一時間の残業。この分だと十時になる。後輩を育てる意味で分担したものは任せたいのだが一定のレベルは保っておきたい。治子の直した原稿をさらに添削して書き直させる。友紀一人のほうが早かっただろう。
「でも友紀さん」
「うん?」
「友紀さんて、これを誰に見せてたのかって・・」
「誰にも。私も独りでやってきたから」

 それにしたって二年前で三十二歳の友紀と、いま二十四歳の治子とでは文章に接したキャリアが違う。出版原稿をつくる作業は場数でもあり、あの頃はキツかったと可笑しくなる。
「休もっか? ご飯にしない?」
「ですね、お昼もろくに食べてないから」
 ここは雑誌の編集部。様々な記事の担当者が締め切りを前に苦闘している。篠塚のすぐ下の部下がそばに居残り。友紀にとってもはるかに先輩。
「よかったじゃん、早瀬がいなかったらヤバかったろ?」
「ほんとです、大助かり。でもこれぐらいできるようにならないといけませんよね私も。未熟です」
「そういうことだな」

 このとき友紀は、自分と同じように人当たりのソフトになった治子の言いように、ケイとの愛が安定していると感じていた。治子はおとなしい女性だったが気持ちが表に出やすいタイプ。それもケイの力だと友紀は思う。
 友紀は言う。
「しょうがないよ、いきなり独り立ちなんてキツいもん」
「まったくだ。しかし早瀬、及川はよくやってる。助けてぐらい言ってくれると可愛いんだが、何クソって感じだもんな、ははは。こっちだってヘルプのサインを出さない限り手は出さないし」
 治子が言った。
「あら? ヘルプって言ったら助けてくれるんですか?」
「そんときゃ考えるさ。どっかでお茶ぐらいしてくりゃお助けいたしますけれど・・ふっふっふ」
「ミエミエね下心・・ふふふ」
 そんなやりとりも自然でいい。治子は少し変わったと友紀は感じ、そして言った。
「二十四の女の子なのよ・・てか私がそれが嫌いだったからね、女扱いされてたまるもんですかって」
「ほんとだよ、可愛げのない女だったが・・でも早瀬」
「おいよ? 何だろね?」
「早瀬を奪われて寂しいなって思ってる」
「おろろ? いいこと言うじゃん。今度いっぺん、ちょいと行く?」
 友紀が杯を傾ける仕草をしたことで周囲の何人かが眉を上げて顔を見合わせている。

「友紀さん、なんかちょっとソフトになったような・・」
「そう? だとしたらサリナのおかげよ。私ね治ちゃん」
「はい?」
「サリナ女王に平伏したの」
「えー・・うそ?」
「みんなに責められてるサリナを見てて、いいなぁって思ってしまって。あるときyuuちゃんに言われたのよ。そう思うならサリナさんにお願いすればいいでしょうって」
「女王様になってくださいって?」
「ショックだったわ・・サリナが裸なのに私は下着を脱げないってyuuちゃんが・・そうかも知れないって思っちゃって」
「そしたらサリナさんは?」
「嬉しいって・・私をちょっと責めてから、あべこべにどうにでもしてください女王様って泣かれちゃって。女同士っていいなと思った。ほんとは同性こそ要注意なんですけどね、愛があればレズはいいって思い知ったもん」
 歩きながら小声で話していた。幹線道路にクルマが行き交い、女の小声など消してくれる。

 治子が言った。
「私もなんですよ」
「ケイ様?」
「ふふふ、そう。じつは房鞭とかも揃えちゃって」
「あらま? ビシビシ?」
「そ、ビシビシ。でも打たれていて嬉しくて・・すがりついていたくなる。そうするとケイ・・ふふふ、あの子はもうダメ、エロ狂い・・」
「あっはっは、そうなんだ? 楽しくていいねー」
「いまさらですけど、愛されることへの感謝というものを思い知ったわ。痛くて泣くと涙と一緒に汚れたものが流されてく・・」
 友紀は治子の腰を抱いてやり、明らかに妙な二人となって夜道を歩いた。

 自宅へ戻って十一時を過ぎていた。夫の直道はリビングを暗くしてテレビをつけたまま、ソファに横になって眠っていた。
「もうテレビ・・寝ちゃって・・あーあ」
「・・む・・戻ったか、大変だな」
「マジ大変。今日は雑誌のほうでね、若い子が私の後釜を背負わされてパニクってたから」
 友紀はスカートだけをその場で脱ぐと、ソファの下に足を崩して座り、夫のパジャマのズボンの前にそっと頬を擦りつけた。穏やかに眠るペニスの感触が心地いい。
「・・ごめんなさい」
「何が?」
「もうバタバタ、公私ともにバタバタなのよ。女の性(さが)の深さに打ちのめされちゃって」
「うむ・・じつはな友紀」
「なあに? また出張?」
「単身赴任の話が来てる。博多なんだが三月ほど」
「三月も? いつから?」
「先方は早く欲しい、しかしこっちにも仕事があって動けない。てことで、まあ来月」
「来月って・・二週間ほどしかないじゃない」
「たかが三か月なんだがね。俺たちってDINKSだろ。上もそれを知ってるから好都合ってことなのさ。支社の立ち上げを手伝えと」
「わかった、待ってる・・あなた・・」

 妻はパジャマから萎えた夫をつまみ出してキスをして、そのままそっと口に含んだ。寝た子を起こした。逞しくなっていく夫にむしゃぶりついて奉仕した。
「奴隷みたいだな」
「馬鹿ね・・あなたにそんなシュミあるの?」
「どうだかね・・人間みんなSかMか、多少どっちかを持ってるって言うけれど、まあちょっとはSっぽいかも」
「私はMっぽいかも。自分でも思うもん、あなたに奉仕したいって」
「友紀、愛してるよ」
「はい、心から感謝いたします、ご主人様・・ってか? うふふ!」

 しかしこのとき、これでサリナとの時間が持てると友紀は思った。やさしく強く揺るがない三浦への想いも日増しに強くなっている。
「浮気しちゃうかも・・」
「だったら罰だな、鞭でビシビシ」
「ダメよ、それだと感じちゃって嬉しいだけ」
「そっか・・なるほど」
「そうなったら許せないでしょ?」
「当然だ。そのときは生涯奴隷を覚悟してついてこい」
 別れるとは言わない。この人も凄いと妻は夫の顔をまじまじ見つめた。
「それでも妻でいられるの?」
「女を水槽に飼わない、それがDINKSなはずだ」
「・・カッコいい・・うぷぷ、イメージ合わない」
「・・もう寝る」
「シャワーしてくるね」
「そのままスッパで来い」
「はい・・嬉しい」

 翌日の土曜日は久びさに夫とデート。目的もなく富士五湖までドライブし、ラブホテルへ連れ込まれて溶けて帰る。
 次の日曜、夫は仕事で出て行って、この日はサリナも終日仕事で遅くなる。独りの部屋で家事をして、昼過ぎに買い物へ。これが主婦の暮らしだよねと思いながら歩いていると、二本のメールが舞い込んだ。
 一本は夫から、終電になりそうだ、飯はいらんというもの。
「うっそぉ・・ハンバーグにしようと思ったのに・・このお肉どうするのよ・・」
 そのときふと思う。専業主婦はこうして夫のために料理を考え、仕事を言い訳にすっぽかされて小さなストレスが鬱積していく。

 そしてもう一本のメールはユウからだった。いま新宿にいて、ちょっと会えないかというもの。友紀は即座に電話する。
「いいわよ、どこで?」
「ンふふ・・どっかぁ」
「コラてめえ、子供かよ。わかんないでしょ、それじゃ」
 ユウがおかしい。声が弾んで壊れている。
「ンふふ、女王様と一緒なのぉ」
「・・ああ。モモさん夜だもんね仕事?」
「そうそう。それでね・・聞いて聞いて・・ンふふ」
『馬鹿か、おまえは・・』 モモの声が忍び込む。可笑しくなって友紀はちょっと小首を振った。

「へへへ、三人でお茶しないかって女王様がぁ・・ひひひ・・あ痛っ!」
 そばからひっぱたかれたようだった。電話がモモに代わる。
「すみません、この馬鹿ったら舞い上がっちゃって」
「みたいね、まるで馬鹿だし・・あははは。それでお話でも?」
「ええ。じつはユウと結婚するの」
「え・・」
「真っ先に友紀さんにお話しておこうと思いまして」
「そうなの? 結婚しちゃう?」
「はい。友紀さんのおかげです。ユウを見てて代わりはいないと思いましてね。愛しちゃった」
「わかりました、いま買い物で一度戻って出ますから。どこにします?」
「ほら、あそこの・・」
 東口を出てすぐの高級カフェ。珈琲一杯千五百円。いつも静かで落ち着ける店だったが、そう言えばモモに最初に出会った店だと思い出す。

 着替えるといっても友紀はホワイトジーンズにジャケット。モモも似たような姿だったが、ユウは座ると見えそうなマイクロミニ。けれども仕草がしなやかで見違えるほどレディになっている。膝を合わせて横に振りデルタを見せないエロチック。ピンクのブラウスに赤いブラが透けて可愛い。
 モモは・・スタイルは普通でも化粧はさすが。長い髪はほとんど金髪にされていて、一見してプロの女性をイメージさせた。仄かな香水もセクシーだったし、背がちょっと高いことを除いて近寄りがたい美女である。
 そのモモの横にいて、ユウははにかむように微笑んで、オフィスのユウとは人格までが違ったよう。可愛い妻だと友紀は思う。
 モモが言った。
「この子の代わりなんていませんよ。いい子だし素直だし、結婚したいって泣かれたときに震えましたからね」
 友紀が視線をやるとユウはとろけそうな眸をしている。
「おめでとうモモさん、ユウちゃんも」
 二人で顔を見合わせて微笑んでうなずく。女同士の不思議な結婚で片方が男性だった・・?・・よくわからない二人なのだが、しかし・・。
 友紀は言った。
「結婚したら仕事は?」
 ユウが応じた。
「もちろん続けます」
「うん、よかった、ユウを失ったら私が困る」
 モモがユウへ横目をやって言う。
「それは私もそうなさいって言ってます。妻の羽を毟るようなことはしたくない。輝いていてほしいから・・うふふ」

 調子が狂う。ゾクッとするほど妖艶なモモの笑み。見事なお姉さんと、ちょっとイカレた小娘のようにしか見えないのだが・・。
 そのモモが静かに落ち着く笑顔で言った。
「サリナさんでしたよね?」
「・・ああ・・ええ、そうよサリナ」
「ユウのヤツが言うんです。サリナさんの姿を見ていて感動して震えちゃった。私もあんなふうに生きていたい。女王様の奴隷として癒やしてあげたいと言ってくれ。私だってサリナさんの想いはわかりますから、この子しかいないって思えちゃって」
「そうですか・・サリナはみんなを変えていく人なんですね」
 モモは深くうなずいた。
「女神・・そんなようにユウは言いますけどね・・ま、そういうことで私たち、近々同棲するつもりです。私がほら、こんなですから既成事実をつくるのがどっちを向いてもいいだろうと思いますし」
 娘が女性の旦那を連れてきたら親はぶっ飛ぶ。
 ユウが真剣な面色で言うのだった。
「だからね友紀さん、お仕事の方は赤ちゃんができるまで・・しばらく休んで復職できればいいんですけど」
「わかった。そうよね、愛するお方がすべて。それでいいと思うわよ」

 ここにもある妊娠という言葉・・友紀にとって、やはり考えてしまう言葉。  夫がいてくれて安定した友紀自身より、サリナはそれでいいのだろうかと・・。


二九話


 yuuを連れて部屋を出て、そこは静寂につつまれた現世の空気に満ちていて、yuuの腰に手をやりながら友紀は言う。

「マゾって幸せなもののようね。なんだかちょっと羨ましい。私は夫に対してどうなんだろうって思ってしまった」
「友紀さん・・」
「ううん不安じゃないのよ。揺れてるわけではないけれど、女を捧げて生きてはいない。うまく言えないけどね・・サリナや、それからyuuちゃん見ててもそうだけど、いいなぁって思ったりしちゃうんだ」
 yuuは応えず、気づかうように友紀の腰へと手を回して寄り添った。

 そしてこのとき、友紀はくっきりとした実像として三浦とのベッドの図柄を描いていた。

 エレベーターホールに立って友紀が上でお茶でもしようと言ったとき、yuuは一階下の野上の部屋へ行こうと強く友紀の手を引いた。
 何かを言いたげな雰囲気に友紀は従い、導かれるままに野上の部屋へ。そこもツインでベッドの片側にわずかに寝乱れが残っていて、備えられたパジャマが脱がれ、しかし一方のベッドには乱れがなく、脱がれたパジャマがきっちりのばしてベッドの上に置いてある。部屋は綺麗。おそらくチェックインしてから揃ってシャワーを浴びて男性の方が寝転んだ・・そんなことだったのだろう。ベッドの間に大きなバッグ。中身はおよそ想像できた。
 yuuは窓際のテーブルセットにまっすぐ歩き、友紀も追って椅子に座って向き合った。
 yuuが言った。
「こんなこと私が言ったらお仕置きですけど、野上さんてほんと神様みたいなお方なんですよ」
「そうなの?」

 ちょっと大げさな言いようだと友紀は思う。M女としてS様を崇める想いだろうととっさに思ったのだが、どうやらそうでもないようだ。yuuの面色は真剣だった。
「乱さんいま二十九で子供がいるんです」
「え・・そうなの子供が?」
「私のようにトラウマがあったわけでもないのに天性のM女さんで、以前のご主人様の調教というのか考え方というのか、何人かのS様たちにマワされるようなことがあって妊娠した。誰の子だかわからない。遺伝子を調べてみてご主人様の子供ではない。そしたら卑劣にも前の人に捨てられて私生児を産んでしまった。野上さんはそれもこれもを含んだ上で夫婦になろうとおっしゃられ、籍はまだみたいですがご夫婦同然に暮らしておいでなんですね。赤ちゃんは三つになるそうです」
「自分の子としてということよね?」
「もちろんそうです。入籍してとお考えなんですが、乱さんがいくら何でもそれはできないって。そんなことから『乱』と名付け、乱れるおまえを俺は許すとおっしゃられてる」
「・・そうなんだ・・そんな関係?」
 yuuはうなずき、さらに言った。

「苦しいのは純さんも同じだし、純さんこそ辛いと思いますよ。彼女は見てのとおり人妻で子供が二人もおいでです。離婚しようとしても旦那さんの一家が許してくれない。かなりな名家と聞いていますが、どうしても別れるなら子供を置いて裸同然で出て行けって。冷えきった家にいる。なのにそのご主人様は独身で」
「独身? 久住さんが?」
「あの方は四十六歳、純さんは三十七歳なんですね。久住さんは奥様と可愛い娘さんを交通事故で亡くされて、そんなとき純さんと出会うんですけど、『俺ならいい、いつだって受け入れる』と結婚を考えておられます。でも純さんは応えてあげられない」
 そうした想いが、あのときサリナを見ていて主の腿に手を置いた・・負い目のようになっているのか。
 どちらも想像したのとは違う男女の姿。私はなんて平穏に生きてきたのだろうと友紀は感じ、自分がひどく甘く思えてならなかった。

 yuuが言った。
「これを言うと今度こそ鞭ですけれど・・」
「うん、なあに?」
「ご主人様はおっしゃいます。友紀さんのSはMの逆転、サリナさんのMはSの逆転。二人ともいつかそこに気づくだろうし、気づいてなお友紀さんはSであるべき、サリナさんはMであるべきだと」

 胸が苦しい。サリナの姿を見ていてかすかな羨望・・それがいまはっきりとした嫉妬に変わりつつあると友紀自身が自覚していた。
「友紀さんがさっきみたいにおっしゃられるから言うんですけど、私なら愛する奴隷に打ち明けてMを知ろうとするでしょう。サリナさん震えるほど嬉しいでしょうし、そのときは厳しい女王様になってくれる。サリナさんは全裸でも、友紀さんは下着姿。そう思えてならないんです。いつだったか友紀さん言ってましたよね、夫の前ではMっぽいって」
「ええ・・尽くしてあげたいと思ってしまう」
「それが本質なんですよ。サリナさんもそれはそう。SとMは互いの裏返しってことが多いとご主人様もおっしゃっておられますし、サリナさんを愛しているなら下着を取っていいんじゃないかと思うんですね」

 友紀には返す言葉がなかった。思考が停まって茫洋とした想いだけが漂って、友紀は切り替えるようにyuuに言った。
「ひとつ訊かせて」
「はい?」
「もしよ、細川さんがサリナと・・その・・」
「セックスですよね? 結婚したい相手が他の女とつながったらってことでしょう?」
 友紀は、訊いておきながらしまったと思う。わかりきっていて胸の内で処理することを突きつけられては逃げ場を奪うことになる。

 しかしyuuはやさしい面色で笑って言った。
「私は嫌よ。でもご主人様がそうされるのは、奴隷の献身へのご褒美ですし、サリナさんが欲しがってるのに与えないのは可哀想」
「許せるのね?」
「女性を尊ぶご主人様は誇りですから。それに・・ふふふ、サリナさんは一度ご主人様に憧れたお方だし、それより何よりサリナさんなら許せます。見ていて感動する女性だもん」
 打ちのめされた気分だった。
 yuuは微笑んで友紀の手を取り、手を撫でて言う。

「友紀さんはいまのまま」

「え?」
「いまのままでいいんです。想いが逆転するとき告白するのはサリナさんをおいてない・・そこだけですもん」
「・・うん、ありがとう。あのねyuuちゃん」
「ええ?」
「サリナが手記を書いてね、その中でこう言うの。女王様のSは女王様のため、私のMは私のため。相手のために何かができるほど人は高くはいられないって」
 yuuは眸を点にしてぼーっと友紀を見つめていた。
「受け取り方はいろいろありますね」
「そう思う。今日こんな話をしてますますそう思えるようになってきた。失いたくない、何が何でもサリナが欲しいの」
 そして友紀は雨が叩きつけるガラスエリアに気がついた。
「うそ・・あんなにお天気よかったのに・・」
「友紀さんの涙です。きっとそうだわ。・・あ、珈琲でも淹れますね、備え付けのがあるはずだから」
 籍を離れて行くyuuの張り詰める尻を見つめながら、いまの私ではyuuにも勝てないと思ってしまう友紀だった。

 珈琲ができてふたたび向き合い、友紀は言った。
「・・女って・・いいえ私は特に面倒な女だわ。それでそんな私を癒やそうとサリナは懸命・・ふふふ、恥ずかしくなってきちゃった・・情けない女だよ私って」
「だから素敵なんですよ。迷って迷って、もがいてもがいて、そんな姿を見てるからサリナさんはマゾになれる。強いだけの人間なんて魅力ないもん」
「あらま・・じゃあ細川さんも?」
 yuuはくすっと笑って言う。
「ご主人様は脆いんです。脆いからお店にいても寡黙だし、脆いから私に対してだって強がってる。言葉の下手な人ですよ」
「カッコいいよね、そういうの」
「カッコいいです、オトコって感じでメロメロになっちゃって。母性ですかね、こういうのって?」

 どうしようなく女・・サリナもyuuも・・乱や純も・・私だってそうありたい。燃えるような想いが衝き上げた友紀だった。
 珈琲を少し残して椅子を立ち、大きな窓に雨の這うガラスを見ていて、後ろからyuuに抱き締められる。
「・・ありがとう」
「とんでもないです、友紀さんこそ素敵だわ・・女にSな私ですけど友紀さんならMでいられる」
「・・サリナだったら?」
「どうかなぁ・・私らしくSかもですね。奈落の底に堕としてやる・・たぶん」
「本気になれる?」
「友紀さんにもね。相手に本気に私は本気。女だもん、ハンパは勘弁て感じかしら」

「・・抱いてyuu」

 yuuは応えず、後ろから回す手の片方をブラ包みの乳房へ、もう片方をミニスカートの中へと滑らせる。
 震えるほどの性感に襲われて、友紀は甘く息を吐き、導かれるままにベッドに崩れて脱がされていく。
 閉じた瞼に涙が滲む。yuuがささやく。
「どうして?」
「わからないよ・・泣けてきちゃうだけ・・」
 友紀はピンクのランジェリー。yuuは服を着たまま。
 全裸にされた友紀は、目を閉じてyuuの責めを待っていた。
「舐めてあげるから脚を開きなさい」
 静かだが拒めない声が嬉しかった。
「・・はい」
「ふふふ、そうそう。サリナさん、どんなに嬉しいことか」
「はい・・あぅ! あっ、んっ・・ハァァ嬉しい」
「嬉しい?」
「はい」
「マゾだもんね?」
「はい・・はい・・」
 心の中で溶けずに残った女心が、このときを境に熱をもらって溶けていく。yuuは脱ぎ、穏やかでやさしい愛撫を友紀に与え、友紀は追い詰められていくのだった。

 時計は動く。時刻は九時すぎ。
 サリナの元へ戻ってみると、サリナは裸身を鞭で真っ赤にして、だらしなく性器を晒してフロアで気を失っていた。
 純もやさしく熟れたフルヌード。乱も全裸。男たち三人がトランクスとブリーフ姿。細川はトランクス。久住が黒のブリーフ、野上はトランクス。
 どんなことがあったのか、純と乱がひとつベッドで抱き合って、静かに横たわっていたのだった。純の裸身は抜けるように白く綺麗。陰毛も揃っていて、かすかに赤い鞭痕が尻や腰に残っている。
 乱はと言えば、体中に無残な鞭痕。一本鞭の乱れ打ちといった感じだったが、いまできた傷ではなさそうだった。若い乳房が誇らしく張り詰めていて、両方の乳首にステンレスのリングピアス。クリトリスにもピアスが輝き、性奴隷を誇るような女体。
 二人ともに妊娠線が残っていることを見逃す友紀ではなかった。

 友紀はだらしなくノビたサリナのそばにしゃがむと、頬をパシパシ叩いて揺り起こす。膝抱きにしてやるとサリナはとろんと溶けた眸を開けた。
「あぁぁ女王様・・気を失ってしまったみたい・・」
「ダメよ、そんなことじゃ。S様へのご奉仕は?」
 サリナはまだですと首を振る。
「可愛がっていただいてそんなことでどうするの。お一人ずつ丁寧にお礼なさい」
「・・はい」
 いいんですかと問うようなサリナの視線。友紀は当然よと言うようにうなずいて、鞭打ちで真っ赤にされた尻をひっぱたく。房鞭の痕ばかり。乗馬鞭は使われていないと感じたし、ふと見ると浣腸器は綺麗なまま。裸身に縄目は残っていなく手首や足首にも縄目はない。
 サリナの髪をつかんで引き起こし、尻を叩いて、最初に久住の足下にひざまづかせる。
 久住はベッドに座る。サリナが平伏して感謝を言い、それから黒いブリーフに手をかけた。
 次に野上、そして細川。三人の男性器に奉仕をし、精液に濡れる口の周りを舌を出して舐め取って、サリナは最後に女たちに平伏した。

 シャワーを浴びさせ化粧をさせて部屋を出たとき、時刻は十一時に近かった。細川、yuuとはホテルで別れた。友紀は夫に今日は泊まると告げてある。しかしサリナに明日も渋谷で仕事があった。
「もしかしてと思ったもので替えのレオタードを置いてありますから」
 友紀はサリナの頬をそっと撫で、スマホでホテルを検索。すぐ近くのビジネスホテルにツインが取れた。
 タクシー。ワンメーターで降りたところの小さなホテル。場所なんてどこでもよかった。部屋は狭い。ダブルの部屋にシングルベッドをふたつ押し込んだようなもの。

 部屋に入ると友紀がサリナをひったくり、ベッドに倒れて抱き合った。
「素敵な夜だった?」
「はい・・狂うかと思っちゃって」
「ふふふ、それならよかった。それでねサリナ」
「はい?」
 サリナの丸い眸。友紀はサリナをベッドに寝かせたままベッドを離れ、着ているものを脱ぎ去って、綺麗とは言えない古いホテルのカーペットフロアに平伏した。
 サリナは唖然とし、ベッドに座り込んで見下ろしている。

 友紀は言った。
「お願いしますサリナ様、苦しいの・・どうしようもないんです。ときどきこうして奴隷として扱ってくださいませんか。いままでごめんなさい。サリナ様が裸なのに私は下着を脱げなかった。心からお慕いします女王様。苦しくてなりません。どうか私を責めてください」
 顔を上げた友紀の眸から涙が伝い、それを見下ろすサリナの眸にも涙が流れていたのだった。
「・・愛してるよ友紀」
「はい、女王様、ありがとうございます。私も心から・・心からお捧げする覚悟です。お願いします捨てないで。捨てられたら私、生きていけない」
「うん、ぅぅぅ・・ぅっぅっ・・嬉しいよ友紀・・嬉しいんだもん・・愛してるもん・・」
 サリナは泣いた。ベッドから手をのばして友紀をすくい、ベッドに引きずり込んで抱き締めた。サリナは泣いた。その声が友紀を泣かせていった。

 着衣の女王が上になり全裸の友紀は組み伏せられて唇を奪われる。

 三浦に抱かれる、奴隷のように乱れて抱かれる・・きっとそうなる。
 夫の前でも奴隷になれる・・淫乱な姿を隠さない。
 心が溶けた涙がこぼれた・・。


二八話


 サリナが持ち込んだスポーツバッグの中身。そんなものは
 SMではごくありきたりな、しかも初歩的なものばかり。
 房鞭に乗馬鞭。それにしたって革のソフトな、よほどの打ち
 方をしなければ傷なんてすぐに消えてしまうもの。
 ディルド。太いといっても常識的なゴムチンであって、これ
 はまあ男性機能の代用品。女を昇天させる嬉しいもの。
 乳首を責めるステンレスのクリップは痛みという点で厳しい
 ものではあるのでしょうが、乳首責めの好きなサリナにすれ
 ば耐えきれるものだと思うんです。
 
 バッグの中身を震える声で告げながら、サリナが恐れたの
 はガラスの浣腸器と、それをどう使って欲しいのかということ。
 どう使うも何も浣腸は浣腸。耐えきれなくなった最後のシー
 ンをサリナ自身がどう思い描くのか。サリナは浣腸器ですと
 言ったきり、どうしてほしいとは言えません。あまりの恥辱を
 想像し、と言ってトイレでしたいとも言えない。哀願するよう
 に私を見つめる眸を見ていて、私のサディズムは最高潮に
 達していながら、反面、可哀想で、可愛くて、いますぐ抱い
 てやりたくなります。

 そしてそんなことより、このとき私は、この部屋に入るまで
 思ってもいなかったことに意識が向いた。男女のSMを
 見極めてやろう。男女の絆。そこらの不倫より情が深くて
 絆が強いなんてことが言われますが、はたしてそうか。
 M女だって女ですから、この人と見定めた男性が他の女に
 手を出すことを喜ぶ女はいないでしょう。yuuちゃんだって、
 結婚するご主人様が他の女に情を向ける姿をどう思うか。
 妻となるyuuちゃんとの眸を細川さんはどう感じてサリナに
 向かうのか。かなり意地悪に私は観察しようとしたのです。
 雑誌の仕事で不倫を取り上げ、妻を粗末にする夫の側も、
 夫に満たされない妻たちを餌食にする男の側も、身勝手
 すぎる男たちを嫌と言うほど見て来ています。

 それとS様のどこがどう違うのか。ノーマルセックスとSMは、
 それほどまでに違うものか。レズでSMなら決定的に違うで
 しょうけど所詮は男と女。愛は性器の結合で完結し、やがて
 ときめきが消えていって男女は終わる。男女の性の宿命の
 ようなもの。初対面の二組なんてどうでもよかった。興味は
 細川さんとyuuちゃんです。細川さんには、そこらの男たち
 とは違うと私自身も感じていて惹かれるところがありましたし、
 あの日yuuちゃんと寝たことで私は彼女にも特別な感情を
 抱いていた。
 さて、そんな二人がサリナほどの美女マゾを前にどうなるか。

 怖いことを考えていると自覚しながら、細川さんとyuuちゃん
 にそれとなく眸をやって探っていた。妻となる女の目の前で
 細川さんはサリナを可愛がってやれるのか。勃起を突きつけ
 たりできるのか。またそのとき、yuuちゃんは本心からご主人
 様を許せるものだろうか。
 私なら嫌。夫がyuuに向いたとしたら私はどちらも許せない。
 と考えたとき、では相手がサリナなら・・そのとき私がそばに
 いて、二人対サリナという関係の中で夫のペニスが使われ
 たとして、それなら許せそう・・ということは、yuuちゃんも
 そうなのか? 純さんと乱ちゃんの二人はどうなのか?

 yuuちゃん純さん乱ちゃん、女三人の感情もあるでしょう。
 同じM女としての完成度。ルックスではサリナが格上。当然
 のように男性もそう感じ、そんな中で自分の主に見比べられ
 る女の気持ちは穏やかではいられない。もしここに私たち
 夫婦がいて誰かが奴隷サリナを連れ来た。私なら怖くてなら
 ない。とても勝てないと思うから。

 考えすぎかもしれませんが、愛憎の縮図がこの場にあると
 思えてしまう。夫に対して私は自信がないのか・・さまざまな
 感情が湧き上がっては渦を巻いているようで・・。
 「浣腸器があります」と言ったきり、声を失ったサリナの面色
 が、映像のフェイドインのように私の意識に像を結んだ・・。

「汚いことは言わなくていい。それはお仕置きです。使われたくなかったら一心に奴隷に徹すること。いいわねサリナ」
「はい、女王様・・お誓いいたします」
 サリナの声は女体のビブラートをそのまま表現するように震えて小さな声だった。
 縄がないと、このときになって友紀は思った。S男性三人、縄があれば恥辱を固定して鑑賞することもできたのに。
「縄がないわね、ついうっかり」 と、友紀が微笑みを男たちに流すと、久住が顎をしゃくって奴隷の純に視線をやった。
「それならこちらで。まあ一通りは揃ってます」
「一本鞭は?」
「ふふふ、それももちろん」
 友紀はちょっと笑って久住にうなずいて、それから瞳をほくそ笑ませてサリナに言った。
「ですってよサリナ。使ってほしくない恐ろしいものがいろいろありそう。嬉しいわね、マゾですものね?」
「・・はい・・ハァァ・・んっ・・ハァァ」
「ふふふ、もうハァハァなんだから。いいわ脱いで。皆さんに欲情されるよう、いつものように踊りながらいやらしく脱ぎなさい。全裸です!」
「はぁぁ、はい、女王様・・あぁン、震えます・・んっんっ・・」
 感じ入った甘い声。

 そのときふと久住に眸をやると、純という奴隷が主の膝にすっと手をやり腿に置いてサリナを見つめる。美しいサリナの姿が怖いのだと友紀は感じた。
 一方の野上ペアは、主も奴隷も嬉々として見つめていたが乱は主の想いを探ろうとはしていない。乱は若く天性の淫婦を思わせるギラギラとした眸の色で、主を探ることより肉欲に気もそぞろとったムード。
 細川は穏やかな笑みをたたえて見つめていて、yuuはyuuで主を気にする素振りもない。それがなぜかちょっと口惜しい。完成されて揺るがない主とM女に思えてしまう。
 もし私なら純のように夫の体に触れていたいと思うだろう。友紀は夫との関係に微妙な隙間があるのではと考えはじめた。

 サリナ。顔色を失って、けれどもそこはプロダンサー。チークを踊るようにしなりしなりと肢体をくねらせ、スカートを解放し、濃いピンクのアミストを尻から巻き降ろして脱ぎ去って、その下は純白のTバックパンティ。
 ごく淡くブルーに見える白いブラウス。腰を振り尻を振りつつボタンを解放して脱いでいく。下は純白のハーフカップブラ。ブラとパンティだけのダンサーは、すでにもう眸が据わり、小鼻をヒクヒクさせて性的な興奮を表現する淫婦の面色。いい眸をすると誰もが思ったはずだった。
 ブラの背に手がかかり、友紀が言った。
「回りながらよ。もっと腰を入れていやらしく」
「はい、女王様・・ぁぁ感じます」
「濡れてるわね?」
「はい・・もうたっぷり・・ハァァ・・」
 肩を交互に入れて、そのとき腰が左右に揺れて白い尻が蠢いて、ブラがはずされ、カタチのいい乳房にはブツブツに鳥肌が立っていて、乳輪がすぼまり乳首がしこってコリコリ勃つ。

 白のTスタイルパンティだけのヌードダンサー。腰を入れてセックスの動きをゆったりしながら、肩を交互に揺すると乳房が弾む。三十六歳の女のヌードではなかった。単に若いということでもない。鍛えられた女のヌードの可能性。細川やyuuはともかく、初対面の男女四人は息を詰めて鑑賞している。
 最後に残ったパンティ。サリナの面色は血の気をなくした蒼白から、いまはもう桜色に紅潮した性牝の昂揚を物語り、すでにもう達しかけているように、動きもゆらゆらくねくね崩れそうになっている。
 Tスタイルパンティはマチが細く、サイドから指を入れて尻を振るように下げられていったのだったが、性器にあてがう白い底地が蜜にヌラめき、剥がされていくときに透き通った糸を引くほど濡れていた。
 下腹の牝谷を飾る陰毛は許されず、あからさまに割れ込む谷の奥底に下向きに咲く女の花が閉じていて、肉の薄い左右のリップがヌラヌラ濡れて覗いていた。

「おっぱい揉んで。乳首をいじってやりがならがに股で踊りなさい」
「はぃ・・あぁぁ感じる・・女王様、あぁぁ震える・・」
 消えていく細い女声。
 両手で乳房を揉み上げなら指先で乳首を伸ばすようにコネつぶし、膝を大きく割って腰を左右前後にクイクイ入れて踊るマゾ。体がやわらかく腿がほぼ左右に全開。しゃがむように、揺れるように、ペニスを待つ淫婦のように、尻を振って踊るサリナ。
 とろけた眸・・半分開いて燃える息を吐く口・・閉じたラビアが花を咲かせ、開口を待ちわびた愛液が蜜玉をつくって糸を引いて垂れていく。

「よろしい、ここへ来て奴隷のポーズよ」
「はぁぁ・・はい、女王様ぁ・・ぁぁ恥ずかしい・・ハァァ、あっ、ハァァァ!」
 皆の足下のカーペット敷きのフロアに、空気の抜けたドールのようにしなだれ崩れて膝をつき、肩幅に腿を割って両手は頭の奴隷の姿。
「皆さんに見ていただいて幸せね? お汁を垂らしちゃうほど感じてるしね?」
 サリナはこくりとうなずいて、見る間に涙があふれてくる。歓喜の涙。誰が見てもそう映ったことだろう。

「さあ、どうしましょうね? ふふふ、なかなか可愛い奴隷でしょ?」
 一人ずつゆっくり視線を流すと、最初に動いたのは細川だった。yuuのそばのベッドの縁からすっと立つと、微笑みながらサリナの前にしゃがみ込んで、頭をそっと撫でてやり、ふわりと雲が女をつつむように抱いてやる。頭で組ませたサリナの手が自然にほどけて細川に抱きすがる。
 憧れたS男性。嬉しいはずだ。
「綺麗だよサリナ、いい奴隷になったね・・いい子だよ」
「はぃ・・嬉しいです細川様・・友紀様と出会えて私・・幸せです」
「うんうん、そうかそうか」
 抱かれていながら涙を流すサリナ。ふと見るとyuuの眸にも涙が光る。

 次は久住。久住は立ち上がるといっそう背が高く逞しい。そんな男が同じようにしゃがみ込んで全裸の奴隷を抱いてやる。すぽんとくるまるようにサリナは抱かれる。
「はぁぁ・・ああっ・・ありがとうございます、嬉しいです」
「うむ、いい奴隷だ。恥ずかしいね、よしよし・・」
 抱きくるまれて背中を撫でられ、サリナは眸を見開いて泣いている。

 次に野上。野上はにっこり笑って同じように抱いてやり、頭や背を撫でながら、耳許で言うのだった。
「傷のない綺麗な体だ。女王様に愛されていることを心に刻んでいなさいね。捧げるに値する女王様だよ」
「それは・・はい、はい、そう思います、ありがとうございます」

 さてそれから。マゾ牝サリナを知っているyuuが同じように抱いてやり唇にキスをする。
 それからだ。 さてそれから。友紀は、純と乱、対照的な二人がどうするかを見つめていた。
 歳上だからか純が先にベッドを離れ、頭を撫でて頬を撫でて、抱きくるんで眸を見つめ、唇を重ねていく。しかしキスは浅かった。
「いい子ですねサリナ、素敵よ、とっても・・」
 純は穏やかな女性のようで、そっと撫でる手がやさしい。

 最後に乱。主が『乱れよ』とでも言うようにつけた奴隷の名。ムードがケイに似て激しいタイプ。乱は、サリナ同様膝をついて、一度はそっとサリナを抱いて、ちょっと離れて眸を見つめ、ガツンと胸に抱き締めていく。
 いきなりキスが深い。舌の絡む性のキス。ケイの面影が浮かぶほど、乱は激しくサリナを求めた。
「綺麗・・口惜しいぐらい。ふふふ、どうしてサリナはM女なの?」
 それは友紀が思ったこと。サリナこそ女王のムード。
 乱が友紀を振り向いて言った。
「可愛がってあげてもいいですか?」
「どうぞ、お好きなように。積極的ね乱ちゃんは」
「はい、だってサリナ・・可愛いもん」

 もうたまらないと言うように笑って抱いてやりながら、乱の両手がサリナの白い尻をわしづかみ、揉み上げて、尻の谷へと滑り降りた指先が濡れる花をまさぐった。
「おぉう! あぁン! 乱様、ああ乱様ぁーっ!」
 くちゅくちゅと嬲り音が聞こえだし、サリナは抱き手に力を込めて抱きすがり、キスを受けながら裸身を痙攣されて愛撫を受ける。
「気持ちいい? イキそ?」
「はぃ・・嬉しい・・あぁイクぅ・・もうダメぇ」
「ふふふ・・可愛いいんだから・・ほんと最高の女王様よ。泣いちゃうぐらい幸せよね?」
 サリナは声をなくして大粒の涙をこぼし、激しくなる指の愛撫に尻を振ってよがり泣く。
 奴隷を浅くイカせておき、指を抜いた乱。ヌラヌラに煌めく指先をサリナに突きつけ、舐めさせるのかと思ったら、乱が先に指を舐め、それから微笑んでサリナの口に突きつける。サリナは指をほおばって残された粘液を舐め取っていく。
「そうそう、甘くて美味しい蜜ですものね・・うふふ、最高のマゾ牝なんだから」

 乱が離れ、友紀は言った。
「今日は奴隷サリナのお披露目ですのよ。皆さんでどうなりと責めてやってくださいな。NGなしです。ふふふ、そうよねサリナ? うんと虐めてほしいもんね?」
 サリナは泣き顔でうなずいて奴隷のポーズを崩さない。愛撫された白い裸身が赤くなって上気している。
「じゃあサリナ、可愛がっていただいた感謝を示しなさい。向こうを向いて四つん這いです。お尻を上げてマゾ牝のすべてをお見せする。皆さんのお気持ちを無にしたら拷問ですよ」
「はい、女王様・・あぁン、恥ずかしいです」
 サリナの裸身の蠢きから視線を外し、友紀は細川に小声で言った。
「yuuちゃんをお借りしていいかしら?」
「うむ、どうぞ」
 細川はyuuを見ようともせず即答して、それからyuuをちょっと見てうなずく素振り。
 友紀はこの場からyuuを連れ出したい。細川の勃起がサリナにおさまるところを見せたくない。そんなことになるとは思ってもいなかったが、yuu
だけは守りたいと考えた。
 そしたらそのとき野上がキイを差し出して言った。
「よければ僕らの部屋へ。一階下の1109ですから」

 微笑んでキイを受け取って椅子を立ちながら友紀は言う。
「じゃあyuuちゃん」
「はい、出ます?」
「うん、ちょっとね」
『あぁン・・嫌ぁぁン・・』
 サリナの声がフェイドイン。残された五人に向けて、奴隷の秘部が公開されたエロチックな図柄となった。

 yuuを連れて部屋を出て、そこは静寂につつまれた現世の空気に満ちていて、yuuの腰に手をやりながら友紀は言う。
「マゾって幸せなもののようね。なんだかちょっと羨ましい。私は夫に対してどうなんだろうって思ってしまった」
「友紀さん・・?」
「ううん不安じゃないのよ。揺れてるわけではないけれど、女を捧げて生きてはいない。うまく言えないけどね・・サリナや、それからyuuちゃん見ててもそうだけど、いいなぁって思ったりしちゃうんだ」
 yuuは応えず、気づかうように友紀の腰へと手を回して寄り添った。

 そしてこのとき、友紀はくっきりとした実像として三浦とのベッドの図柄を描いていた。


二七話


 その夜の友紀は乱れていた。濡れるサリナを突き放すように部屋を出て、電車に乗る前に駅のトイレに立ち寄った。途中の渋谷でふたたびトイレ。激しく濡れていることを自覚して染み出すのが怖かった。
 自宅に戻って九時半過ぎ。サリナの部屋にそう長くはいなかった。部屋を出る前にダイニングのテーブルに明日の責めを支度させた。鞭が二種類、房鞭に乗馬鞭。乳首を責めるステンのクリップ。太いディルド。そしてガラスの浣腸器・・それらが明日どう使われるのかをサリナに妄想させておきながら、今日は特に手を出さずに引き上げた。いまごろサリナは悶々としているだろうがオナニー禁止。可哀想な責めだと思うほど友紀は濡れてしかたがなかった。

 こういうときダンサーという職業はいい。体を動かし汗をかく。気持ちを外向きにリセットできる仕事。デスクワークなら体が疼いて手につかない。夜にはマゾと妄想しながら踊る姿を想像すると、可笑しくもあり可愛くもある。
 サリナの存在が夫を超えてきていると自覚するほど、友紀は夫に対してM性が掻き立てられる。それが激しい濡れを生む。女は濡らしているときが幸せなんだとつくづく思う。
「ただいま。ごめんね、しばらくこんな感じだわ」
 夫の直道はいつもどおりのパジャマ姿。微笑んで妻を迎えた。
「おまえ、なんとなく色っぽいぞ?」
「そう? いつも色っぽいと思うけど。ふんっ」
 横目ににらんでちょっと笑い、そのまま夫の胸へとしなだれ崩れる。
「頭ん中エロだらけ?」
「そうなのよ、方々から原稿があがってきてるでしょ。どれもがせつないまでの女の本性。読んでると濡れてきちゃう」
「まるで当事者だな?」
「ほんとはそれじゃいけないんだけどね。編集者は第三者。でないと眸が曇っちゃうから。ちょっと待ってて、シャワーしちゃう」
「友紀」
「あっ・・ねえ待って・・もう・・」
 抱かれていて夫の澄みきった眸を見つめ、眸を閉ざすとキスが来る。ゾクゾク震える性のキス。Tバックパンティを穿いて、しかも濡れてヌラヌラなんて夫には悟られたくない。腕をふりほどいて浴室へ飛び込んだ。
 カランをひねって熱いシャワー。しかし妻を追うように背後から夫の裸身が絡みつく。雨は裸身を流れていて性の濡れがごまかせる。
 友紀は燃え上がって夫にすがり、すでに勃つ逞しい男性にむしゃぶりついて奉仕した。

「あなた好きよ・・めちゃめちゃにしてほしい」
「ふふふ、激しい・・盛り猫だなまるで」
「フギャーオって・・うふふ、ねえシテ・・ねえ早くぅ」
 雨の下で壁に手をつき尻を上げる。夫の体が奥底に突きつけられて、ノックもせずに侵入した。
「あぅ! ねえイク、ねえねえ・・あぁぁイクーっ!」
 貫かれた瞬間に襲った信じられないアクメ。友紀は裸身を痙攣させてガタガタ震えながら果てていく。
「貫かれて嬉しいか?」
「はい・・嬉しい・・愛してるもん」
「俺ほど理解ある旦那もめずらしいだろ・・ふっふっふ」
 夫の半分ジョークに苦笑しながら、妻はさらに尻を上げて侵略を切望した。夫が応えて突き抜きを速く深く腰を入れる。

 悲鳴のような妻の声がライブな浴室に反響し、そのときはじめて友紀は失禁という醜態を経験する。括約筋を締めてこらえたしシャワーの雨が隠してくれるものだったが、このとき友紀は、『私の性が花となって咲いていく』と実感していた。サリナに与えられた解放。サリナへの愛が深まっていくと身をもって感じていた。
 射精の前に夫は抜き去り、妻は膝をついてむしゃぶりついて、白い迸りを喉で受け止め、躊躇なく嚥下する。
 私のM性が夫に向いて、恋人時代に吐き出していた精液を甘受できる心になれる。私だって淫婦だわ。サリナに育てられる淫らな妻だと友紀は思い、そしたらそのとたんサリナを抱きたくなってたまらない。

 女の性はこうであるべき。恋愛や結婚が束縛しない牝の本能。心の向く相手に対して解放されるべきものだと思うのだった。
 ベッド。やさしく抱かれて眸を閉じて、いまごろサリナはと思うと胸が熱くなってくる。いまごろユウは? いまごろ治子やケイは? それぞれ乱れているだろうと思うだけでほほえましい。

 翌日は朝から治子の仕事に付き合った。雑誌のテーマは不倫。満たされない妻たちの声を集めていくのだが、こちらはこちらで書き分けというのか原稿の見極めが難しい。得てして家の中での不満からはじまって、だから不倫は正当だというプロットになりがちだからだ。皆がそうだと異句同文で似たような文章をだらだら読まされることになる。書く相手は素人だからポイントを見極めて角度を変えてやらないとならないのだが、そこが人生のキャリア。若い治子はもがいていた。
 治子が言った。
「瀬戸先生はさすがです」
「それはそうでしょ。こっちにもあがってきてるけど素直にすとんとSMを書いてくれるし、あっけらかんだわ」
「こっちもですよ。書き出しでいきなり『精液って素敵なものよ。男の欲情が私のアソコに向いている。そう思うだけで駆けまわりたいほど気分がいいし濡れちゃってたまらない。内心密かに旦那に言ってやるわよ、てめえこのバカ、他の男にあげちゃうからね』って・・そんな感じであっけらかんなんですもん」
 打ち合わせの取材の狭間にファミレスで話していた。時間がズレて空席の目立つ店内。その分声を絞って話す。

「ところでケイちゃんとはどうなった?」
 治子は、たまりませんよと言うように首を竦めて苦笑した。
「もともとSっぽかったけど、拍車がかかってたいへんです」
「あらそ? やっぱり?」
「ううん、ひどいことはしませんよ。寝かせてまたがって舐めさせられたり、そんな感じかな。だけどちょっとムカつくの」
「ムカつく?」
「それならそうときっぱり徹してほしいんだもん。私ならいいのにって思ってるのに妙な遠慮が気にくわなくて。あのときサリナさんを見てて、どんなにか幸せだろうと思ったし・・」
 ここにもまた同じ想いの女がいた。スタンスが定まらないと女は不安になるもので。友紀はちょっと苦笑した。
「だけどアレね、こんな話ができる関係になっちゃったよね」
「あー、よく言いますよ、悪いのは友紀さんじゃないですかっ」
「うん・・そうかも」
「そうかもじゃありませんっ、おかげでケイがおかしくなった・・ふふふ、ケイらしくていいけれど。ほんと言うと私ね、ケイのSっぽいところが好きになってハマっていったの。私にはない部分。リードされていたいって言うのか、怖いぐらいのあの子が好きで・・あ! そう言えばユウちゃんがね」
「ほ? 何か言ってた?」
「プロポーズしたんですって」
「モモさんに? それをユウちゃんから言ったって?」
「みたいですよ。一生おそばに置いてくださいって。そしたらモモさんに言われたそうです。『そのつもりがあるから調教してるんでしょ、馬鹿じゃない』って。ユウちゃんニコニコでしたもん」

 ユウの想いもよくわかる。性はノーマルを少しはずすと深くなるもの。それでなくても相手はニューハーフ。深い性を共有できれば女は幸せ。若い情熱で心を燃やすユウが羨ましいと友紀は思った。
「それで? ケイちゃんとはギクシャク?」
 治子は穏やかに笑って、そうじゃないと首を振った。
「女王様って呼んであげたの」
「ほぅ? ほいでほいで?」
「そしたらケイ・・あたしの頬を両手に挟んでじっと見て、わかったって・・むふふ、それからはもうねちゃねちゃなんだもん。むふふ」
「あっそ・・ふーん・・よかったじゃん」
 訊くんじゃなかったと友紀は可笑しい。

 時計は回る。
 六時半に新宿西口待ち合わせ。サリナは昨日と同じ黒革のミニスカートにピンクのアミストを合わせていて、濃いワインレッドに紫色のガラス糸が絡んだような不思議なショートヘヤーを整えて、けれども明らかに怯える面色で現れた。大きなスポーツバッグを持っている。中身は昨日指示したとおり。それに仕事で着たレオタードとスポーツタオルを詰めている。
 ホテルまで歩いて数分。シティホテルの広いロビーに点在する応接セットに様々な人たちが散っていた。スポーツバッグを横に置かせて座らせる。七時少し前にyuuがロビーに降りることになっていた。日常の光景に密かにマゾを隠す女が一人・・そんな感じだ。
 サリナは息を殺して苦しそう。唇をちょっと噛んでうつむいて、時折友紀を見つめて泣きそうだった。
 友紀は言った。
「堂々とMでいなさい。堂々とSでいますから」
「はい・・でもちょっと怖くて・・」
 眸でうなずき微笑んで、そんなとき視線を上げたサリナの瞳孔がぱっと開いて黒目が輝く。

 yuuだった。定刻よりもかなり早い。
「お待ちになりました?」
「ううん、ほんのちょっと」
「サリナさんも綺麗です、ほんと素敵よ」
「はい・・yuuちゃん・・はぁぁ怖くて震えてるの・・」
「ふふふ、大丈夫ですよ・・素敵な夜にしてくださいね」

 今夜のyuuは鮮やかな青のミニスカートを素足に穿く。髪も整え化粧も整え、細川の愛奴であることを誇るようなスタイルだった。
 ソファを立つとき、サリナの面色は白くなり、膝がかなり震えている。
 yuuに導かれてエレベーター。多くの客が乗り合わせ、サリナはますます萎縮する。男性の中に押し込められて上昇する小さな密室。十二階で降り、左へ少し歩いた1216。そこはツインで、二組の男女が部屋を分けて今夜は泊まり、その一部屋に集まるということらしい。
 友紀も今夜はスカートスーツ。かなりなミニで、よほど気分がいいときでないと普段は着ないものだった。
 ドアに立ってyuuがノック。音もなくドアが開けられて、細川の笑顔がそこにある。友紀は微笑み、サリナはこくりと首を折って赤面する。
「うんうん、相変わらず綺麗だよサリナ」
「はい、ありがとうございます細川様」
「さあ二人とも。皆さん、いまかいまかとお待ちかねだ」
 凍ってしまって足の出ないサリナの背を押しながら友紀が入り、最後にyuuがくぐってドアを閉めた。

 シティホテルの部屋は広い。しかしそれでも八人揃うとさすがに狭く、ざっくばらんというのか、ツインに分かれたそれぞれのベッドに一組ずつがペアで腰かけ、細川とyuuが窓際に置かれたテーブルセットについている。
 友紀が入ると細川が席を譲り、テーブルセットにyuuと友紀。サリナは部屋のほぼ中央に立たされて女王の言葉を待っている。
「おおう・・話には聞いてましたが美しい」 と、男性二人女性二人が顔を見合わせて微笑んでいる。男三人は似たようなコットンパンツのラフなスタイル。
 席を離れた細川がベッドの片方の縁に座って言う。
「友紀ちゃん、それにサリナも、紹介しておこうね。こちらが久住(ひざずみ)さんと可愛い純ちゃん」
 友紀は微笑み、サリナは引き攣り、ちょっと頭を下げて挨拶した。

 久住という男。四十代の自由人といったムードで背が高い。髪の毛は肩ほどまでのロング。彫りの深い日本人離れした顔立ちだった。インテリアデザイナーだということだ。
 そしてその連れが純と言い、友紀とは同年代の三十代の中頃らしく、落ち着いたムードもさることながら、奴隷としてのキャリアを物語るように主の陰にひっそり咲く花のよう。ベッドに座っていることでミニがますますミニになり、ピンクのブラウスに赤いブラが透けている。Cサイズだろうと思われた。黒髪のロングヘヤーで化粧をきっちり整えている。美人と言うより品のいい妻女といった雰囲気からもおそらく人妻・・直感的にそう感じた。
 細川のかざす手がベッドを流れた。
「で、こちらが野上さんと乱(らん)ちゃん。乱は乱れる。愛奴として授けられた呼び名だよ」

 こちらは主が若い。明らかに三十代で、背丈は普通。細い黒縁の丸い眼鏡をかけていて髪もショート。一見してサラリーマンといったムード。眸の涼しいハンサムだった。三浦のムードそっくりだと友紀は思う。
 その連れの乱という女性は歳の頃ならyuuと同じほどか。茶色く染めたロングヘヤーでホワイトジーンズのミニスカート。座ることでパンティまでが見えそうだった。どちらかと言えば童顔で、黄色いTシャツの胸が突き出して大きく、Dサイズアップはあっただろう。丸い眸がキラキラ光り、すでに淫らなムードを醸す。肌が白く、スカートから晒される白い腿に毛細血管が透けて見え、肌がほんのりピンクに染まる。
 娘なのか若妻なのか・・素性の知れない魔性のムードで、サリナを若返らせたような女。一見してMだと直感できるのは乱のほうで、純のほうは、まさかと言った感じ。控えめな治子を年長にしたようなおとなしいタイプであった。

 二組を紹介し終えて、細川がそっちも紹介しようかと訊くように眉を上げて友紀を見た。友紀はその必要はありませんと言うようにちょっと首を横に振り、皆を見渡して静かに言った。
「私は友紀、そして奴隷のサリナです」
 女王の微笑みがすーっと虚空を流れてサリナに向けられ、サリナは震える声で言う。
「友紀様に仕えさせていただいております、私はサリナと申します。今日はお呼びいただきましてありがとうございました。どうかお見知りおきくださいませ」
 友紀は微笑んでうなずきながら席を離れ、サリナの横に置かせたスポーツバッグから紫色の首輪を手にして奴隷の首に巻いてやり、それだけでふたたび椅子へ戻って腰掛けた。

「バッグの中身を言いなさい。それをどう使うかもはっきりと。お集まりの皆さんすべてがS様だと思いなさいね。わかりましたね」
「はい、女王様・・ん・・ハァァ、んっ、ハァァァ・・」
 んっんっと呻くように激しく息を乱すサリナ。十四の眸が奴隷を追い詰め、見る間にサリナの顔色が青ざめていく。

 
二六話


 十日ほどが過ぎた、その日は水曜日。
 朝デスクについた友紀の元へ待ってましたとばかりにユウが原稿を持ち寄った。ワープロではない。出版社らしくオフィスに備えられてある二百字原稿用紙に数枚のものだったが、ユウなりに骨子を一歩進めたレベル。鉛筆で書かれた手書きのもので、ユウは思いのほか達筆だった。子供の頃から日記を書くのが好きだったらしく、それが小説を書くことへと発展していく。字の綺麗な娘はどちらかと言えば子供の頃に内向的だった子に多いと誰かに聞かされた記憶があった。

「綺麗な字ね、びっくりだわ」
「あー、またそんなことを言う・・」
 ユウは、どういう意味ですかと言うように、ちょっと口を尖らせている。
 タイトルは『女王様はご主人様』 
 友紀はまずそこから指摘した。
「女王でも主って言うでしょう、女主人とも言う。『ご主人様』ではぴんとこないから『女王様は男性です』とか、相手が男だってことをはっきりさせたほうがいいでしょうね」
「はい・・そうですか」
「それとユウちゃんは若いからヘンに背伸びしないこと。手記らしくだとかエッセイらしくだとか、そう考えてしまうと出来すぎてしまって作り話のようになるからね。難しく書かないことよ」
 それにはユウも同感し、原稿を追う友紀の眸の動きを見つめていた。

 女王様はご主人様

 彼なのか、彼女なのか、お仕えする女王様は
 ニューハーフなんですね。すごく綺麗なお方です。
 私はいま二十三歳。おそばにいて怖くて怖くてたまりません。
 女性のいいところをたくさんお持ちで、
 女に生まれた私よりも女らしいから、おそばにいて
 キュンとしちゃうんです。

 女は女のいいところだけでは生きていけない。
 むしろ、こんな社会の中で男の人に挑むみたいに
 生きていて、女らしさを出しすぎないよう、
 意識して中性的に世渡りしている。
 女だから『女っぽくしなくては』なんて考えてもいませんし、
 いつかそれがクセになり、すべてに対抗しようとしてしまう。

 女王様の女らしさに打ちのめされます。ちょっとした
 立ち振る舞いにもしなやかさはあらわれて、
 女のはずの私のほうが呆気にとられてしまうんです。
 そうだよね、私こそ女でしょ、と思ったときに、
 女王様の前でこそ牝になれる私自身を思い知る。
 女王様に可愛がっていただけるなら何をされてもいい。
 私にもともと備わったM性が、どんどんマゾへと変化していく。

 そしてそんな奴隷な私を、女王様は男性の眸で
 見つめてくださって、褒めてくださり抱いてくださる。
 混乱しますよ。女王様なのにご主人様なんですもん。
 ご褒美に硬くて熱いお体をいただいて、牝として私は
 夢見心地に達していきます。
 嘘っぽい女らしさのいらない女性に抱かれ、なのに
 逞しい男性器を授かると言えばいいのでしょうか。

 男の人も女の人も、性別にとらわれすぎじゃないかしら。
 『人』に仕えて、『人』に愛され、ただ一人の『人』を愛して
 生きていられる。そのことの幸せを忘れてはいけないと
 思うんですね。女王様はSっぽく、私はMっぽく。
 人間同士の愛を貫き、そのためにマゾとなって
 女王様にお捧げしていく。
 
 ご褒美に夢のような精液をいただくために・・。

 人間愛を感じる言葉ではあったが、そのへんを下手に書くと亜流に過ぎる。話がちょっと大げさかもとは思ったけれど、よく書けていると友紀は感じた。女心の顕れた文章。友紀はユウの顔を見た。
「もう少し行為の部分を書いたほうがいいかもね。観念的なのはいいけれど、若い女性の手記として、心情とかせつなさとかがもう少し出せればなおいいと思うのよ。思い描いてオナニーしますとか、直接的なラブがあったほうがいい。人間愛ではテーマがちょっと大きすぎかな。もっと身につまされるセックスを描いた方が伝わると思うのね」
「そうですね・・はい、わかりました、もう少し練ってみます」
「基本的にはいいのよ、よく書けてる」
「はい! 女王様を思い描いて書いてますから」
 ユウの笑顔がどきりとするほど若いエロスに満ちている。あの日以来、ユウは性を開いたようだ。
「モモさん命ね?」
「ふふふ、そうかも・・」
「結婚したいんでしょ?」

 ユウははにかむように唇をちょっと噛み、こくりとわずかにうなずいた。
 友紀は小声でささやいた。周囲の耳を気にしたからだ。
「夢のような精液って書いてあるわね」
「あ、はい」
「それってつまり子供ができてもいいってこと?」
「ンふふ・・それは・・ンふふ」
 そうなれれば夢だとユウの顔に書いてある。
「ま、もう一息よ、幹はいいから枝葉をつけていく作業、頑張って」
 ミニスカートの尻っぺたをぽんと叩いてやって追い返し、友紀は胸が熱くなる。そう言えば治子の変化も眩しいほど。会議できっぱりものを言う。率先して動くようになってきた・・そんな仕事上のことよりも、妙に色っぽくなったと友紀は感じる。
 逃げ道のない崖っぷちに立ったことで治子なりの女性像ができはじめていると想像する。こういうとき三浦がいれば、二人を誘って飲みに出ても面白い。しかし今日明日と浜松へ出張でデスクは空席。

 友紀は定刻の三時間前にオフィスを出て横浜の不倫妻を訪ね、その足でサリナのマンションへ行こうと考えていた。今日は夫の帰りは遅くはなかったが、いよいよ佳境ということで帰宅が乱れると告げてある。
 菊名、サリナの部屋。
 時刻は七時になろうとしたが、サリナはまだ帰っていない。今日のサリナは渋谷のスタジオと聞いていた。
 合い鍵で入ってみると部屋は綺麗にされている。リビングには多少の生活感があってもキッチンには心使いが行き届く。プロダンサーの派手さからは想像できない細やかさ。完全主義とまでは言えないだろうが、サリナらしいと友紀は感じた。
 キッチンからオープンカウンター越しにダイニングテーブルが置かれてあって、ピンク色のノートパソコンが閉じてある。ふと見るとプリントアウトされたA4の白い紙。ワープロ原稿。

 お慕いする女王様 私なりに書いてみました。
 今日は少し遅くなりそうです・・奴隷サリナ。

 友紀はちょっと微笑みながら、シワひとつない純白の用紙を拾い上げてリビングのソファに腰を降ろした。今夜の友紀はパンツスタイル。ソファのクッションに沈みすぎ、パンツが腿に張り付きすぎた。一度立って苦しいスタイルを脱ぎ去った。オフィス帰りでベージュのブラ。けれどもパンティは黒のTバック。サリナの部屋へ寄ろうと考えていたからだ。

 サリナの言葉にタイトルはなく、まったくストレートな一文からはじまっていた・・。

 自虐マゾ。どうしようもない私自身に性的な罰を与えて、
 私はそうして生きてきました。三十六歳の女ですもの、
 綺麗なだけではいられなかったし、過去なんて、あって当然。
 だけどそれで傷ついたとか、トラウマのようなもの、
 そんなものはありませんし、いまさら言うことじゃない。

 自虐にいつしか追い詰められて、なのに、苦しくなれば
 なるほど私は解放されていく。自虐というSMに堕ちていく。
 それは闇の中の黒に似て、黒がますます闇を深め、
 光さえ届かない世界の底へと私は堕ちた。いいえ、
 もっと深く堕ちることを望んでいた。

 諦めかけていたんです。光なんて私には見えないものだと。
 悲劇的に考えながら、そのじつ、その頃の自虐なんて
 イメージの中のもの。自分で乳首を虐めてみたり、
 イチジクなんかで排便を我慢して、だけどトイレですませる
 意気地なし。Mっぽいというだけの情けない私でした。

 ああ女王様、いまこうして書いていても息が熱くなってくる。
 濡れてしまって、めちゃめちゃにいじってやりたくなるのです。

 燦然と輝く光だとか、ましてまさか人間愛なんて言葉は違う。
 私の中でいまにも爆ぜてしまいそうな淫欲を責めの中に
 解き放っていただける、私にとって唯一の女王様。

 鞭が好きです。私を壊してくれそうだから。
 縄が好きです。私を開いてくれそうだから。
 涙が好きです。私を流してくれそうだから。

 お願いします女王様、サディズムをもっとください。
 ありったけのマゾヒズムで、心を搾って愛液を流します。
 声を搾って悲鳴をあげて、あふれ出る涙で乳房を濡らす。
 それも私らしい姿です。天性の淫婦であり天性の牝ですから。

 あるときを境に責めが厳しくなりました。私を思いやって
 おやさしく、けれどそれは奴隷を不安にさせるだけのもの。
 泣いても許されず責め抜かれ、お体から出されるお水を
 口の中に捨てられて、恥辱に震え、惨めさに震えつつ、
 おそばに置いていただける実感の中でのみ、奴隷は
 安堵して、どこまでだって堕ちていける。
 お尻にも背中にも、淫らな性器には特にたっぷり
 泣きわめく鞭をください。

 お慕いする女王様、怒らず聞いてくださいね。

 私のマゾヒズムは私のため。

 女王様のサディズムは女王様のおためにです。

 相手のために何かをできるほど人は高くはいられません。
 いつかそれが負担となって背を向けてしまうでしょう。
 Mの性とSの性が火花を散らしてぶつかり合って、
 だから私は奴隷でいられ、女王様には気高くいられる
 ものだと思うから。

 きっとお仕置きになりますね。
 お許しください女王様。私は卑怯なマゾ牝です。
 泣いていないと考えはじめ、ろくなことにはなりません。

 
 自分本位な愛のカタチ。女は失望を重ねて自分の中の本音が見える。
 そうだろうと友紀は感じた。大学からストレートに出版社に勤め、娘からストレートに妻になった私より、サリナはずっと女の悲哀を知っている。そう思うとサリナは強く、私は弱い・・瀬戸由里子の言葉を思い出す。

『M女というもの、女王などよりはるかに強い生き物よ』

 友紀はちょっとため息をつきながら純白のワープロ用紙にキスをしてソファを立った。冷蔵庫を覗き、ありあわせでサラダでも作っておこう。
「私のためのサディズムか・・そうだよね、謎が解けた気分だわ」
 愛しているのにどうして虐めて泣かせるのか・・そうすることが自分のためになるからだ。友紀はちょっと可笑しくなった。サリナには勝てない。何もかもを見透かして何もかもを許容してマゾに生きる奴隷に勝てない。それもまた幾度も同じことを考えた・・。

 テーブルに置いた携帯が鳴ったのはそんなとき。いま菊名。スタジオから途中まで仲間が一緒で電話できなかったとサリナは言う。声が明るい。
つくづく素敵な人だと友紀は感じた。
「いまサラダしてるから」
「えー、お手製ですよね?」
「あ、馬鹿ね、サラダぐらい作るわよ失礼な・・ふふふ」
「はい、じきに帰ります、あと五分、ううん四分」
 子供みたいなサリナの言いように笑ってしまう。
「それから原稿、読んだわよ、なかなかいいじゃない」
「お仕置きですか? 鞭? ンふふ」
 どうして笑う?
「・・お仕置きが嬉しいの?」
「はい・・私もう走っちゃう、早く帰りたい」
「わかったわかった。フランスパン買ってあるから、それでいいでしょ?」
「はい、嬉しいです・・ああ女王様ぁ、虐めてぇ・・」
「もう・・他人に聞かれるよ、とっとと帰ってらっしゃいな」

 電話を切って、呆れてしまって小首を傾げる。
 サリナの原稿をベースに、行間に女王の気持ちを加えてやろう。もう少し責めに寄せた方がサリナらしい。熟女の言葉は赤裸々な方が説得力があると思う。

 玄関ドア。ノックではなくキイを使ってドアが開く。
「ただいまぁ! わぁぁ女王様だぁ!」
 今日のサリナは仕事帰りにしてはいつになく黒い革のミニスカート。ジムのロゴマークの入った大きなスポーツバッグをそこらに投げだし、犬のように飛んできて、キッチンに立つ下着姿の女王を見つめる。女王のパンティはTスタイル。白い尻が美しく、サリナはいきなりマゾモードに切り替わる。
 友紀は奴隷の手を引いてブラ包みの乳房にたぐり、そっと抱いてキスをした。片手をミニスカートに差し込んで、奴隷は腿をゆるめて甘受した。
 すでにそこは熱をもって濡れていた。
「ハァァ・・ああン女王様ぁ・・イクもん・・」
「イクもんて・・子供かおまえは! ふふふ、しょうがない女だよ・・あームカつく・・」
「はぁい、虐めてぇ・・ハァァ・・」
 荒い甘息。サリナの立ち姿がくにゃりと歪んで女王に抱かれ、瞳が潤んで泣いているようにも思えてしまう。
「できてるから運びなさい。女王が下着よ、首輪をして素っ裸!」
「はい! ンふふ、泣いちゃう・・」
 見る間に涙があふれてくる。これほどまでに想ってくれる奴隷に対し、友紀の中のサディズムは燃え上がる。

 ダイニングテーブルにつく女王の足下に正座をする全裸のサリナ。紫色の犬の首輪がよく似合う。パンとハムサラダを一緒に口に入れ、少し噛んで吐き出して口移しに与えてやる。そのたび女王と奴隷はキスするようにちょっと抱き合い、サリナは溶けた微笑みを浮かべて次のキスを待っている。
 マゾ牝サリナの誕生日から十日ほどが過ぎていて、サリナのM性はますます牝の性臭に満ちてきている。眸が据わって吐息が燃えて、正座をさせて食べさせているというのに、尻の下のフロアにすでに蜜を垂らして濡らしている。
 パンとミルクを口の中で攪拌し、乳房の先で尖り勃つ乳首を強くつまんで体を引き寄せ、そうするとサリナはいい声で痛みを訴え、眸を閉じて口を開ける。
「気持ちよくて美味しいでしょ?」
「はい・・ハァァ・・んっ・・ハァァ・・女王様ぁ・・」
 とろける眸を見据えてやると、女王のサディズムを悟るようにサリナの眸色にかすかな怯え・・いい眸をすると友紀は感じた。

「いいわ、餌にしましょう」
 サラダにパンをちぎって散らしておいて、テーブルから少し離して皿ごとフロアに置いてやる。
「向こう向きで四つん這い。お尻を上げて手を使わずに食べなさい」
「はい・・あぁぁ恥ずかしい・・いやらしいサリナのアソコをごらんください」
 感じ入った牝の声。奴隷は濡れる性器もアナルさえも空へ向けて皿に取りつく。陰毛のない性唇は濡れそぼって閉じていられず、ぽーんと咲くように開花して、透き通った蜜玉を垂らしだす。
 淫らな景色を眼下に見据え、女王は乗馬鞭を持って椅子に座り、軽くピシャピシャと左右の牝尻を打ってやる。
「あぁンあぁン・・感じます女王様」
「強くほしい? 餌が美味しくなりそう?」
「はい、美味しいご馳走、ありがとうございます・・鞭を・・あぁぁン」
「ちぇマゾ牝め・・食べながらダラダラ濡らしていやらしい女だよ・・許さないから」
 パシパシ強く左右の尻を打ち据えてサリナが尻を振っていい声を上げた、ちょうどそのとき、友紀のショルダーバッグの中でマナーにしたままの携帯がバイブした。

「誰だよ、もう・・」
 時刻は八時前、電波は人を追いかける。しかし着信を一目見て友紀は眸を見開いた。
「マスターよ、細川さん」
 それから電話に向かう友紀。サリナが眸を丸くして見つめている。
「お仲間の集まり? S様が三人? 明日の七時?」
『急なことなんだがね、yuuも一緒だし、いい連中だから話だけならそれでもいいしM女さんも二人来るから、どうかと思って』
 ことSMに関して、今度の本を浅いものにはさせたくないという細川の心使い。友紀が悩んでいることを見抜いた上での誘いだった。
「あ、はい。ちょっと待って、いまサリナと一緒ですから」
 細川の声は電話から漏れている。電話に手をかぶせて声を消し、友紀は言う。
「明日の予定は?」
「いえ特には。明日も渋谷で今日よりは早く終わると思いますけど、きっと五時には」
「じゃあちょうどいいわね。S様の集まりがあるんだって。新宿のホテル。マスターを入れて男性三人が奴隷さんを連れて集まるらしい。yuuちゃんも一緒ですって」

 サリナが応える前に友紀は声を塞ぐ手を解放した。
「わかりました、ぜひご一緒させてください。サリナも連れて行きますからお願いしますね。ふふふ、嬉しいみたいよサリナ・・泣きそうだもん。あははは」
 笑いながら、すでに怯えた眸をするサリナを見据える。
 電話を切って友紀は言った。
「マゾ牝サリナのお披露目だわよ。話すだけでエッチなことにはならないだろうってことだけどサリナだけは全裸です、わかりましたね、首輪そのほかお道具を持って来るように」
「はぃ・・あぁン・・あぁぁダメぇ・・狂っちゃう・・」
 笑える。いまにも泣きそうなサリナの眸を、眉を上げてほくそ笑んで見据えながら、友紀は両手を開いて胸を許した。流れるように飛び込んできて抱きすがるサリナ。キスをしながら片手を降ろして毛のないデルタをまさぐると、奴隷の美身がわなわな震えた。

 心でイク、マゾらしいアクメ。友紀にはよくわからない絶頂のスタイルだった。


二五話


 少女が歳の離れた姉に甘えるように乳首を含むyuuを抱きくるんでやりながら、友紀は天井裏の木の骨格を見つめていた。それぞれが独立した木材でありながら組まれたときにカタチを持って強くなる。女同士の連携の実感と言えばいいのか、性を共有できたことで強くなれた気がしてならない。いまこの場に三浦がいたら抱かれていると友紀は思う。性的に外向きになれている自分がちょっと信じられない気さえする。

「私って誰・・何者なの・・私こそどうしたいって思うのよ」

 乳房越しに胸郭に響く友紀の声を聞いていて、yuuは抱き手にわずかに力を込めた。人は誰しも自分に迷うことがあり、いずれにしろ切り抜けて生きている。yuuにももちろん同じような思いはあってしかるべき・・。
 友紀は言った。
「下の四人に共通するのは男が嫌いということよ。だけどそれにしたって若いユウとサリナでは意味が違う。ユウはモモさんにイカレちゃってるけどモモさんには両性の力がある」
 乳首を離れてyuuが言った。
「赤ちゃんですか?」
「そうね、やっぱりそれはそうでしょう。モモさんは男性よ。治ちゃんケイちゃんはこれからどうなっていくのかわらないけど危うさがないとは言えないもんね」
「彼氏ができたりするかもですよね?」
「そういうこと。ある日突然どっちかが男にはしれば残った方はどうなるのって思うのよ」
「だとすればケイちゃん?」
「さあね・・そこまでは言えないけれど激しいのはケイちゃんだから。私とあなたにしたってS女とM女、一応はそういうことになってるけど、私は夫を愛しサリナを愛し子供を望まないまったく勝手な生き方をしてるでしょ。yuuちゃんはそのへん未知数。そのうちきっとママになっていく女でしょうし・・」

 乳首を舌先で舐められる心地いいさざ波に友紀は目を閉じ、yuuの長い髪を梳くように撫でていた。
 友紀は言った。
「疑問じゃないのよ。もっとこう直感的な感情として私は誰って思ってしまうの。ほんとにSなの? 同性が好きなのかしら? 不倫ぐらいしてみたいって思ってない? もっと言うなら、サリナやあなたを見ていて私もMを知ってみたいと思わないわけじゃない。私ってじつはセックスの化け物なのかって可笑しくなったりしちゃうしね」
「それは女ならそうですよ。本音の部分で淫らですもん」
「だと思う。理屈ではそうだけど・・理性だったり倫理だったりするんでしょうけど、まあ常識的なところで自分をごまかして女やってる。その鬱積がいつか爆発して濡れるようなことをしたくなる。ときめいていたくなる。今度のことでつくづく思うわ。女の性はひろがりに満ちている。ふと出会った同性への想い、ふと目にしたM女の姿、何人もの男を受け入れられる性器の不思議・・そんな想いがぐるぐるするのよ」
「そのへん突き詰めないとならないお仕事ですしね」
「それもあるわね。だけどそれもまた嫌なところで、どうしても観察しちゃうよ。観察してなんとなく見極めた気分になって、それに比べて私はどうなのって、どうどうめぐりに同じ思考に落ち込むわ」
「ほとんど哲学?」
「どうかな・・それほど高尚なものじゃない気はするけど、でも哲学というならそうなんでしょうね。鞭打たれて痛いのに女の性(さが)に震えてる。サリナの気持ちがわからないなら考えることもないんでしょうけど、わかりすぎて怖いぐらいなんだし、そうなるとますます自分を見失ってしまう気もするしで頭ぐちゃぐちゃ・・女って面倒な生き物だなって結局よくわからない回答に支配される」

 ちょっと笑って友紀は言う。
「いまにしてはじまった話じゃない、小娘だった頃から考え続けて・・誰しもそうかもしれないけどね」
 yuuの手が肌を滑ってデルタの毛むらへ忍び込む。
「・・女王様」
「よしてよ、その言い方・・マスターに笑われそうだわ。今日のところはレズな二人でいいじゃない」
「ふふふ・・はい。ご奉仕させてくださいね」
 あべこべに抱かれるように乳首を含まれ、yuuの指が毛むらを掻き分けて深く切れ込む性の底へと降りていく。
 友紀はされるがままに腿を割って膝を立て、さらにきっぱり性器を晒してyuuに委ねた。
「・・ンぅ・・はぁぁ・・いいわyuu・・」
 充分に潤った愛液を絡めた指でクリトリスをこすり上げ、yuuは鋭い犬歯をわずかに強く乳首にあてた。
「ぁン・・」
 友紀の白い首がちょっと反って熱い吐息が漂った。
「痛いですか?」
「ううん、ビクっとしただけ・・感じちゃう・・だから言ったでしょう、私の中にもM女が棲んでいるんです」

 yuuは痛かった乳首をよく舐めて、そうしながら谷底の指先で膣口を回すように愛撫する。粘液の接着から解放されて開く花びらの内側から蜜がじくじく滲みだし、yuuの口づけが肌を這って降りていく。
 股下にまわったyuuに両腿を抱かれて開かれ、花園を見つめられ、いつかくる甘い刺激を期待する。尖らせた唇がクリトリスに触れて友紀の裸身がピクと引き攣り、さらに性器を見せつけて、クリトリスから流れ下った舌先が花びらを分けて膣口へと侵入した。
「ぅぅン・・あ、あ・・おいでyuu・・私にもちょうだい」
「ンふふ、はい、女王様」
「また言う・・さあyuu、おいで・・」
 女王の花に口づけを捧げながらyuuの裸身が反転して友紀の胸をまたいでいく。陰毛を処理されたM女の性器はあさましいまでに牝の肉欲を表現し、ヌラヌラに濡れていて膣臭も漂った。
 私そのままの淫らな穴・・友紀は微笑みながらyuuの尻を撫でまわし、濡れる淫花に舌をのばした。
「あぁン・・幸せです女王様・・ありがとうございます」

 ありがとう・・性への感謝・・。
 Mの本質はそこではないかと友紀は感じた。
 夫の足下に膝をつき勃起に奉仕するとき私だって同じ気持ちになれている。女の本質はそこではないかと友紀は感じた。
 気持ちを向けてくれる相手に対する感謝の想い。女をやさしくする感情がMの側に振れたとき、私だってサリナやyuuのようになれるはず。
 なのにどうして責める側? 女の性の深さがそこにあると友紀は思う。

「・・私って、どうしてSなんだろね」

 独り言のように口をついた言葉だった。yuuは性器のさらに奥底で収縮を繰り返すアナルを見つめて舌を這わせた。
「逆もありますよ、あたしって、どうしてMなんだろって。ご主人様のおそばへ押しかけて、内心怖くてならないのに濡れて濡れてたまらなかった」
「意識したのはずっと若く?」
「そうですね、子供の頃からだったと思います。生理が来て毛が生えだして・・そのとき私、いやおうなく女になってく自分が怖かったんです」
「怖かった?」
「怖かったですね。男の人にいつか抱かれる。恥ずかしい姿にされてアソコもお尻も見つめられ、硬いものを入れられる・・どうしよう・・そんなことになったらあたし、きっと恥ずかしい声を上げて悶えるわって思ったときに、妙な羞恥心・・被虐の感情に襲われて・・なんだかもう獣みたいな気がしてきて・・ところがそうなるとアソコはべちょべちょ。さまざま妄想がはじまったりして・・」
「どんな?」
「エッチのすべて。痴漢だったりレイプだったり、人前で裸にされて怖くて震えているのに嬉しくて・・よくわからない妄想をたくさんして・・夢もありましたしね。夢の中で縛られてバイブを突っ込まれてイキ狂っているんです。鞭もそうだし浣腸されて嘲笑されて・・なのに濡れてたまらなかった。あたしって何者・・ずいぶん苦しかったのを覚えています」

「細川さんに出会って楽になれた?」

「なれましたね。これでもかと虐められて・・これでもかと醜態を晒して・・プライドなんてこっぱみじん・・泣いて泣いて・・だけど抱かれて夢のような抱かれ心地に解放される。一貫して揺るがないご主人様に従っているときこそ、ああ私は女だったって感じられる」
「抱かれ心地か・・わかるよそれ。サリナを見てても思うもん。やりすぎかなって思うほど虐めてやって、なのにサリナ、ほんとに嬉しそうにしてるでしょ」
「甘えて甘えて?」
「子供みたいよ。重荷をみんな降ろしてしまって子供みたいに甘えてくれる。だけどそうすると私はもっとムラムラする。虐めてやりたくてならなくなるし、まあ、そんな自分が怖くもなるけど・・ただ言えることは・・」
「はい?」
「サリナって私の半分・・同じものを追いかけてるって思えること。愛なんでしょうけれどね・・ふふふ」

 yuuは身をずらしてふたたび友紀の胸に頬を添えた。
「今度のことですけど」
「うん?」
「ご主人様はおっしゃいました。SだろうがMだろうがレズだろうが、おまえらしくあればいいって。ご主人様って浮気OKなんですよ。いい男がいるなら抱かれて来いっておっしゃいます。結婚してからだって公認するって言ってくださる」
 友紀はyuuの二つの眸を交互に見つめた。
「・・そうなんだ?」
「簡単なことだって。惚れるほどの男に出会えているのに束縛したってはじまらない。ふふふ、それがね、カッコいいんです」
「どういうこと?」
「羽を毟った鳥ではつまらないなんて言うんです」
「・・最高よね、いい男だわ」
「ええ最高・・そう言われると羽なんて自分で毟って捧げたくなりますし」

 友紀は、細川へのサリナの想いを匂わせてみようと考えた。
「じつはね、サリナって細川さんに憧れてた時期があるのよ。だけどそのときにはもうyuuちゃんがいたでしょう」
 yuuはうなずきながらちょっと笑った。
「それなら聞いてます、一度だけそういうことがあったって」
「どう思う? それって浮気?」
「ぜんぜん違います。ご主人様のやさしさだと思ってますし、あたしの方こそご主人様を独占できるなんて思っていない・・S様だからなおさらですし」
「・・なるほど。サリナを貸し出すなんてことがあるなら、そのときはyuuちゃんも呼ぶからね」
 yuuは目を丸くして微笑んだ。
「でもそうなると・・あたしって怖いかも」
「そうなの?」
「女にはSだと思うんです・・同質のものが許せなくなるときがある」

 そこだと、今度こそ友紀は感じた。弱い自分への自罰。だからサリナは自虐マゾ・・もう一人の自分と言うけれど内なる声が許さない。私のS性もそのへんを基点としたものだろうと思うのだった。
 友紀は言った。
「夫の前ではMっぽいのよ」
「わかります、女でありたい裏返し・・あたしがそうだから・・」
 友紀はyuuを強く抱いた。同じ女という想いもあったし、SとMに振れる心も理解できる。
「可愛いねyuuって」
「友紀さんこそ素敵です・・やっぱり女王様・・お慕いしますよ」
 横寝になって抱き合いながらyuuの尻をパシンと叩く。
「あン・・ふふふ、嬉しいなぁ」
「あらそ・・」
 そのまま抱き合い、ふたたび深いキスへと進んでいく。友紀の手が毛のないyuuのデルタを陵辱した・・。


 人差し指と、きっと中指・・指をまとめた硬いものが私の中へ
 入ってくる。ずっと歳上の私が若いyuuちゃんに抱きすがり、
 指のペニスに犯されて喘いでいる。
 だけどそのとき、波濤のように打ち寄せる性波は、yuuちゃん
 に与えられるものではない・・夫のそれとも違う・・。
 そんな妄想に耽っていたのです。
 レズを知り、S感情に震える自分を知り、だけどまだ知らない
 性がありますからね。yuuちゃんに抱かれて性的に解放され、
 私のマイセックスに対して挑戦的になれていたのか、
 夫以外の男性に尽くしてみたい・・ノーマルなら不倫でしょう
 し、M女としてなら奴隷の性を体験できる。
 女の性のひろがりを見極めてみたいというのか突き詰めて
 みたいというのか、持ち前の積極性がセックスに向いていた。

 夫を裏切る背徳の想いの中でのアクメはどんなだろう。
 ご主人様に授けられる性奴隷の幸せってどんなだろう。

 yuuちゃんのお尻には血が黄色くなった一本鞭の痕があり、
 だけどそれをひどいとは思わない。細川さんの人と成りを
 知っていて、その彼に心酔する性奴隷の姿を見つめている。
 ノーマル・・レズ・・SとM・・それらを私は行き来して、
 牝に生まれた幸せを謳歌する。倫理や常識なんて後発の
 文化が生んだシバリなどには苦しめられず、あらゆる性に
 燃えていたい。誰しもが妄想しながら実現できない世界へ
 踏み込んでみたいと考えている。

 私はどうしてしまったのか・・魔性がいよいよ蠢きだして、
 yuuちゃんの愛撫にのたうち狂って果てていく・・いいえ、
 その指は夫以外の誰か。手近なら三浦さんがいてくれる。

 ああyuuちゃん・・もっとシテ・・淫欲に狂う私でいたい・・。


二四話


 今日のこのとき鮮やかなオレンジ色の下着を選んだ治子。ユウの赤もそうだが女が暖色系の明るい色を選ぶとき、自信のなさの反動だと言われている。認められていないのではという思いがあって、目立つ色を着ることで女の自分を主張したがる。治子もそうだと友紀は感じた。治子とは以前から女性誌の編集でデスクを並べていたのだが、肝心なところで弱気というのか押しが弱い。それが対人関係にも顕れて、社内はともかく取材などでは相手に対してどうしても遠慮がちになってしまう。

 かすかな戸惑いを胸にサリナの顔をまたいだ治子。心なしか膝が震えているようにも感じられた。文才もありアイデアもある後輩の資質をのばしてやらなければならない。友紀は治子がどうするかを見守っていたし、それは同僚で同世代のユウもそうだ。自分に比べて優位か劣位か。そのへんの無意識な格付けが職場でも出てしまう。ユウはモモと出会って変わりはじめた。それには治子も気づいていて負けたくない思いがあるはず。

「・・不思議な人ね」
 サリナをまたいで見下ろして、かすかな声で言った言葉を友紀は聞き逃さない。『美人だし能力もあるのにどうして?』・・『こんなことをしてどうなるの?』・・『これがあなたの愛なんですか?』・・おそらくそういう意味だろうが、それには『私にはできないし怖い』という裏腹な思いが潜んでいるはず・・。
「いいわ、汚いところを舐めなさい」
 意を決した言葉。攻撃的になってきたと友紀は思う。自分の中で処理しきれず拒むこともできないとき女は反転して攻撃する。攻め込まれれば崩れてしまうと思うからだ。

「ケイちゃんか、怖いのは・・」
 友紀のかすかな声にそばに座るyuuが眉を上げて首を傾げた。
 治子はこう考えている。刺激を受けたケイがSっぽくなっていく・・だけど私はMじゃない・・M女なんかになりたくない・・したがって私は違うと攻撃的になっていく。ケイへのポーズもあるのだろうが。
 鮮やかなオレンジ色のパンティを意を決して下げながら、治子の豊かなヒップがサリナの顔へかぶさっていく。アナルではなく性器舐め。汚いところと言っておきながらアナルではない。女心とは裏腹だと友紀は思う。

「ンふ・・ハァァ・・ぅく・・」
 治子はサリナの頭をそっと両手でつつむように、顎を上げて唇をちょっと噛み、甘い吐息を虚空へ吐いた。ぴちゃぴちゃ濡れ音が聞こえる。治子の腰が揺れ出した。
「感じちゃう・・あぁぁ・・」
 たまらずちょっと浮かせた性器を追うように、サリナが顔を上げてついていく。
「あぁン・・はぅ・・」
 サリナの頭を撫でている。本質のやさしい治子。yuuがささやくように言った。
「・・いい人」
 友紀はyuuの手に手を重ねてうなずいた。
「ここにいる女はそうよ、いい子ばかり。私はちょっとですけどね・・ふふふ」
 そんなことないと言うようにyuuが友紀の手を握る。
「これ以上はダメ・・おかしくなっちゃう」 と股ぐらのサリナを見つめて治子は微笑み、離れ際に両手で頬を撫でてやってパンティを穿き直す。

 そして最後にケイ。ふと横目に見るとその瞳がランランと輝いている。
 天性の淫婦。さてどうするか。景子とはどんな女で、治子はケイのどこが好きなのか・・二人のスタンスがわかると友紀は見つめた。
 ソファをさっと立つ。こちらは鮮やかなブルーの花柄の下着。大柄で乳房も尻もダイナミック。顔立ちも派手な感じで美人の部類。ケイは学生の頃からフリーターをやってきて、その流れでスポーツ用品のショップに就職したと聞いている。デスクワークが向かない。仕事ができるということで望まれて社員になった。
 ある部分で私に似ていると友紀は感じ、ケイの動きに期待した。
 思ったとおり躊躇なくサリナをまたぎ、躊躇なく下着を下ろして濡れそぼる女性器をサリナに食わせる・・食わせるという表現がふさわしいほど、打ち付けるように性器をサリナにかぶせていく。

「あぁぁ! たまらない・・もっとよもっと、奥まで舐めて!」
「はい、ケイ様」
「ね、濡れてるでしょ? ああっ、いいわ、感じる! ああーっ!」
 ふと見るとyuuがほくそ笑んで首を振る。
 腰を入れて性器をこすりつけるように、性器からアナルまでを一気に舐めさせ、自分でブラ越しの乳房を揉みしだき、あられもない声を上げるケイ。その両手が後ろ手にサリナの乳房をわしづかみ、二つの乳首をヒネリ上げる。
「くぅぅ!」
 サリナの悲鳴。脚が痛みにばたついている。
「ふふふ、痛いよね。でもダメよ、穴の中まで舐めてちょうだい」
「はい、ケイ様、ありがとうございます」
「いい子・・いい子よサリナ・・はぁぁ! もっと舐めて・・ああーっ!」

 このとき友紀は、顔を少し斜めに向けて視線だけで食い入るように見つめる治子の様子が気になった。私もきっとこうされる・・ケイはSに目覚めてしまった・・内心そんなところだろうし、新しいセックスへの期待もある。治子は息を詰めて見守っている。
「ねえねえ、イッちゃう・・ねえイク・・あ! はああ!」
 サリナの顔の上で大きな尻がたわたわと波紋を伝えてダイナミックに動き、いよいよクライマックスと思えたとき、ケイは言った。
「好きにしていいんでしょ? ねえ友紀さん?」
「いいわよ、思うままに虐めておやり」
「うん、わかった・・ああサリナ、もうダメ・・」
 次の瞬間、ケイはブラまで毟るように剥ぎ取って全裸となると、腰を浮かせて体を反転、69でサリナの性器へ攻め込んだ。指を突っ込み、掻き回し、ラビアを吸いたて、クリトリスを吸い上げる。
「ああケイ様ぁ! いい! 嬉しいです!」
「だったら舐めて! 指入れて! ああイク・・サリナぁ!」

「ふふふ・・激しい人・・」
 yuuが思わず言って笑い出す。その向こうでユウが治子を横目に、『いつもこんな感じなんですね』と言うようにくすくす笑って治子を見ている。
 その治子。わずかに赤面して目をそらせず、いよいよその気といった面色になっていく。
 周囲の女たちを見渡して、友紀はこれが牝の本質だと感じていた。貪欲であり淫乱であり、理性も知性も、美もそうだし日頃のポーズも、肉欲を取り繕うだけのもの。
「治ちゃんも幸せよね?」
 試してやってちょっと笑うと、治子は思いのほかしっかりとうなずいて微笑んだ。ケイに委ねる覚悟ができたとその顔に書いてある。
 治子が言った。
「Mにされる・・きっとそうなる・・ふふふ」
 ・・やっぱりね、と思いつつ、これでオフィスでも変わるだろうと友紀は思った。ユウがモモを得たように治子はケイとの新しい性を得たのだから。

 友紀は言った。
「気が済むまで責めてやればいいわ。治ちゃんもユウちゃんも好きにすればいいからね」
 絡み合ってのたうちながらケイが顔を向けてウインクした。治子とユウは二人で見つめ合ってうなずいている。
 友紀は椅子を離れ、一人で二階へ上がる。一階には広い和室が造られていて布団で六人ほどが寝られるし、二階にはシングルベッドを並べて置いたツインの洋室が造られている。
 下着姿のまま部屋に入り、ドアを閉めて横になる。建物の造りのせいか階下の音は届かない。一人きりの静寂。友紀はちょっと苦笑して窓の外へと眸をやった。いつの間にか外は暗く、風もなさそうで木々の枝葉が揺れてもいない。
 と・・ノックされ、黒の下着姿のままyuuが顔を覗かせた。
「下は? 三人でサリナを?」
「ううん、治ちゃんはユウちゃんの手を引いてお部屋へ。ケイちゃんはイカレてるしサリナさんはもがいてる・・ふふふ」

 笑いつつyuuは友紀に見られながら全裸となって、狭いベッドの友紀のそばへと身を寄せた。yuuもまた陰毛のないデルタ。けれどもボディピアスのようなものはされていない。
 裸のyuuを抱いてやり友紀は言った。
「ちょっとドキドキだったわよ、ピアスとか・・ほら」
「ご主人様におねだりしてます」
「おねだりしてる?」
「夢なんです・・乳首とクリにピアスを授けられることは奴隷の誇り。お願いしてもまだ早いって・・でももうすぐ・・ふふふ」
 ひそやかで意味ありげなyuuの笑い。
「そうなの? してくれそう?」
「はい。ご主人様と結婚します」
 友紀は抱きすがるyuuを引き剥がし、顔を見て眸を見つめた。
「そうなんだ・・おめでとう、よかったね」
「ありがとうございます。私、友紀さん見てて勇気をもらった。死に物狂いで女してる」
「・・そうかしら?」
「ご主人様もおっしゃってますよ」
「あら何て?」
「歩く性器だって・・ふふふ、狂おしいほどの女性だってことですけどね」
 友紀はちょっと瞳を回して苦笑する。
「失敬な・・でも彼に言われると嬉しいかもよ。正直言って私ね、サリナにはとても勝てないって思ってるの。ピュアそのもの。これでもかと自分を晒すサリナを見てて、私にはできないって最初の頃は思ってた」
「いまも?」
「いまは違う、本気で鞭打てるし、少しぐらい傷ができてもいいと思うし」
「生涯の奴隷ですものね?」
「そういうこと。生涯きっと離れない。サリナに愛を教わって生きていく。あの子こそ女神だわ」

「女王様・・好き・・」

 yuuは、ワインレッドのブラ越しに友紀の乳房に頬をすり寄せた。
 友紀は言った。
「今度のことでマスター何か言ってた?」
 yuuは首を横に振る。
「私が何をしようが一切何もおっしゃいません。思うまま感じるままに自分を決めて動きなさいって」
「・・自分を決めて動くか・・マスターらしい。お店にいたってそうだもん、だからバロンで解放される・・うまく言えないけどポーズしなくていいのよね、私のまんまでいられるから。あの頃の私って・・」
「え?」 とyuuが顔を上げた。
「取材で最初にお会いしたときのことじゃない」
「ああ、そういうこと」
「そういうことよ。あの頃の私は浅かったって思うわよ。レズさんたち・・不倫もそうだしSMなんてましてそう。いろんな性に出会っていながらあくまでビジネス。割り切ってたし、どっちを向いても他人事で『スキね』ぐらいにしか思っていない。そういう意味でも私はサリナよ。サリナを知って打ちのめされた。あの子は愛があふれ出てる女だもん。圧倒される愛の量。私が勝手に遠慮して本気で鞭打つなんてできなかった。だけど、それって結局、自分をいい子にしておきたいだけなんだと気づいたときに、サリナの愛に押し流された。鎧を脱げたと言えばいいのかな」
 yuuはちょっとうなずくとふたたびブラ越しの乳房に頬を寄せた。

「・・ひとつだけ」
 yuuのかすかな声が胸で聞こえた。
「うん? ひとつって?」
「ひとつだけご主人様が・・いずれ一度、女王様に貸し出すって」
「私に?」
「もちろんそうです。そのときは友紀さんサリナさんの二人女王。女たちの洗礼を受けて血の涙を流して来いって怖いことをおっしゃられ・・ふふふ、だけど今日、お二人を見ていて思いましたよ、一度はお仕えしたい女王様だなって」
「・・ったく、あのタコ・・よく言うよ」
 同じことを考えていると友紀は感じた。サリナを貸し出し、奴隷とは何かを思い知らせてやりたい。誰か男に犯されて、もしかしたら妊娠する・・それでもいいと考えている。

 そう思ったときに、言葉が口をつく友紀だった。
「yuuちゃんて子供は欲しい?」
「うーん、なりゆきですよね、できるならできるだろうし。拒みもしないし求めもしない」
「求めもしない? 子供よりもご主人様との関係?」
「そうですよ、それはそう・・私はただ従うのみ・・」
 普通はそうだろう。夫との暮らしの中で母親になっていくのが女の幸せ。普通はそうだろうと友紀は思う。

 その頃・・階下の和室で、治子とユウが抱き合っていた。互いの下着を脱がせ合い、全裸で抱き合いキスをかわす。
 治子は職場で、友紀の下には自分がいるべきと思っていたし、ユウはユウで友紀の下にいられることが嬉しかった。女同士の微妙な嫉妬と言えばいいのか、しっくりしない感情がないとは言えない二人。
 ユウの髪を撫でながら治子が言った。
「景子と出会ってどれぐらいかな・・最初の頃は面食らったわ」
「どうして?」
「パワーの塊・・積極的だし行動的だし」
「そんな感じですね、見てて圧倒されちゃうもん」
 ユウは苦笑して治子の乳房に頬をうずめる。治子の裸身は豊か、ユウは華奢で線が細い。年齢でも治子が上だし、二人でいると治子が姉さん格になるのはしょうがない。

 治子が言った。
「そうなんだけど、ケイってあれでやさしいのよ。料理なんてあたしよりできるし、お人形とか縫いぐるみなんかを抱いて寝てるし、女の子そのものなんだ」
「・・可愛い」
「ほんとよ、じつは可愛い女なんだよコレが。ふふふ、押し倒されて脱がされて、そのくせ抱いてほしくてたまらない。ああ女ってこうだよなって思ったし、相性いいし・・そのままグダグダのレズにハマっていったわ。私も男はまっぴら。それはケイも同じでね。二度とパスだと息巻いてる」
「あははは」
 ユウはちょと笑って治子の乳首を唇に捉えながら言った。

「でもちょっと怖いでしょ? じつはSっぽい?」
「みたいだね。もうダメよ、Mにされそう・・」
「治子さんて違う?」
「ううん・・きっとMよ・・ケイって激しいから、そうなれたら幸せかもって思っちゃった。サリナさんて素敵よね」
「めちゃ素敵・・憧れちゃう。友紀さんもそうだけど、いまのあたしじゃ太刀打ちできない女だし」
「若いもん、あたしたち。ケイがもし友紀さんみたいになれるのなら、あたしはサリナさんみたいになっていきたい」
 乳首を吸うように愛撫するユウを抱きながら、治子は言う。
「でもユウも不思議でしょ? モモさんは女王様で、なのにペニスで愛される。いつか妊娠したりして?」

 ユウは乳首を含みながら声を漏らして笑った。
「やっぱりそう思います? 綺麗なおっぱいなんですよ。体もホルモンでふっくらしてるし・・なのに何で男なのって思っちゃう。溶けるほどやさしいかと思えば、レイプみたいに犯されて・・お部屋で私は常に全裸で奴隷なんだと実感するけど、あるときお姫様みたいに扱ってくれたりするし」
「素敵なギャップなんじゃない?」
「そうなんですよ。振り回されているうちに、こんな人って他にはいないと思えてきちゃう」
「鞭打ちとかは?」
「少しです。Sっぽいけどやさしいから。何もかもが驚くほど女で、また一方驚くほど男の一面も持っている。黙ってついて来いみたいな」

 それからユウは、治子のデルタの翳りへ手をやって、そっと谷口に指を這わせながら言った。
「ねえ先輩」
「うん・・その言い方やめよ・・」
「はい・・友紀さんのこと・・私いま必死なんです、学ぶことばっかりで」
 指先の侵入を拒まず治子は静かに脚を開いて立てていく。ユウの細い指が濡れのまわった同性のラビアを掻き分けて愛撫する。
「ンふ・・それを言うなら一緒よ。あたしだって必死だし、友紀さんがいてくれないと話にならない。でもユウ」
「はい?」
「もう浅い関係じゃないんだし・・あぁン」
「ふふふ・・ですね」
 ユウの指先が治子のクリトリスを弾くように愛撫する。治子は甘い吐息を漏らしながらユウの谷底へと指を這わせた。
「あぁぁ感じます、お姉様・・」
「お姉様か・・ふふふ・・そうだけど何か複雑・・好きよユウ」
「はい、嬉しい・・あたしも好きです・・あぁぁ感じる・・お姉様ぁ」
 豊かな治子が華奢なユウを体に載せて、ユウの裸身がずれていき69で互いを見つめる。互いに濡れる女の部分にキスをして、絡み合って求め合う。

「きゃうぅーっ、ケイ様ケイ様、もうダメ・・ああイクぅーっ!」

 二階に届かなくても襖を閉めただけの和室には響いていた。
 治子がパシンとユウの尻を叩いて言った。
「・・ったく、何をなさっておいでやら」
「ふふふ・・ですよね・・それがそのうちお姉様にも・・くくくっ」
「可笑しくない! 勘弁してよ・・あーあ」
 ほくそ笑んで絡み合う治子とユウ。息がふたたび乱れだす・・。


二三話


 プロダンサーの見事な裸身を鞭打ちで真っ赤にされて踊るようにディルドで突き抜く凄惨なオナニー。サリナほどの美女にとってこれほど醜悪なセックスもないのだろうが、それより友紀は、女五人が揃って下着姿となったことでスイッチが入ったらしいケイとユウを観察していた。

 ケイは激しい性が好みのよう。治子とのベッドをリードする側だと想像できた。グラマーな肢体は性的魅力にあふれている。乳房はDサイズ。青の花柄のブラからはちきれんばかり。大柄でもウエストはくびれて締まりダイナミックなカーブを描いて尻が張り出す、日本人離れしたボディシェイプ。

 がに股に腿を割って尻を前後左右にスイングさせ、陰毛のないデルタの奥底をディルドで犯し抜くサリナの姿を、ケイは嬉々として見つめていて、暴発寸前の肉欲にギラつく眸を輝かせ、息を殺していながら吐息は熱く、自分でブラ包みの乳房をわしづかむようにして胸のふくらむ苦しげな呼吸を繰り返す。天性の淫婦を想像させる、じつにいい表情をすると友紀は思った。
 このときケイと治子はロングソファに並んで座っていたのだが、ケイの片手が治子の白い腿を揉むように撫でていて、治子もそれを拒まなかった。治子は鮮やかなオレンジ色のランジェリー。日頃そうして濃密なレズの世界を泳いでいるだろうと感じられる。

 それとは対照的に、yuuもユウも、懸命に女王に尽くそうとするM女の姿を刻みつけておこうとするように真剣な面色で叫び狂うサリナの声を聞いていた。嬲られつくしてすでにイキそうな裸身をこれでもかと鞭打たれた直後の際限ない快楽。サリナはケダモノ。吠えるようにアクメを訴え、がに股に開いた股下のフロアに愛液を散らしてイキ続けている。
 二人ともM女。そんなサリナの気持ちをわからない二人ではない。

 今日のyuuは落ち着いた黒の下着。胸はCサイズでハーフカップのブラから白いふくらみがあふれていたが息は静か。同じM女としてサリナの想いに同化しようとするように、わずかな微笑みをたたえながら、やさしい面色で見守っている。
 もう一人のM女、ユウはユウで、サリナに揺さぶられる興奮よりも、自身の姿をサリナに重ね、女王モモに調教される奴隷として私もこうなりたいと思っているのか、身につまされる面色で見つめている。
 今日のユウは真っ赤なブラとパンティ。胸はAよりわずかにふくらむぐらいだが、人一倍激しい女心を秘めいている。今日集まった六人の中で負けたくないという想いが選ばせた赤ではなかったか。そう思うと健気で可愛い。

 そのユウがとっさに身を乗り出して手を差しのべるような仕草をした。
 友紀がサリナへ眸をやると、サリナはついに床に崩れ、ディルドを握る手の動きもなくなって気が遠のいているようだった。ふるふる体を痙攣させて裸身を投げ出す。
 よくやったよ、抱いてあげたい・・ユウの顔にそう書いてあるようだ。

 友紀は穏やかな笑みをたたえて椅子を立ち、荒い息に乳房を揺らしながら動かなくなったサリナのそばへとしゃがみ込む。今日の友紀はワインレッドの下着を選び、皆の目には年嵩の分だけ妖艶に映っていたのだろう。
「気持ちよくイケたみたいね」
「・・夢のようです・・溶けそう」
 サリナの髪をそろりと撫でつけ、さらに言う。
「今日はみんなの共有奴隷よ。五人女王。このぐらいじゃ許さないわ、狂うほど責めてやりますからね」
 それから友紀は四人を振り向く。
「頑張ったんだもん、ご褒美をあげなくちゃね」
 皆は微笑みながらうなずいている。
 サリナに命じた。
「上を向いて寝なさい。私たち女王の濡れを舐めて綺麗にするの。わかったわね?」
「はい、女王様・・サリナは・・」
「なあに?」
「幸せです」
「よろしい、それでいいのよ、可愛いマゾになっていこうね」
 サリナは女王の微笑みに笑顔で応えながら、友紀は、赤くなった右の乳房の先の乳首をツネリ上げ、サリナは心地いい痛みに覚醒するように体を動かして仰向けに寝直した。

 友紀は立って振り向いた。声の響くライブな板の間。サリナへの命令はもちろん皆に聞こえている。
 誰が最初に奴隷の顔をまたぐのか、友紀はちょっと考えた。
「じゃあこうしましょう、最初に誰か。次に私。それからは次々に。ふふふ、さて誰かってことなんですけど、私が指名していいかしら?」
 異論はなかった。
 友紀は四人を見渡して、困ったような・・かすかな怯えをはらんだような眸を向けたユウを見つめる。

 ユウの瞳は魅入られたように動かない。そらせなくなっていると言ったほうがよかっただろう。いつか下に寝るのは自分・・きっとそうなると思い描く羞恥心とマゾへと向かうかすかな恐怖。弱い女の眸の色だ。
「ユウちゃん」
 名を言われたとたん、それでなくても小柄な体がなおさら小さく感じられる。赤い下着で隠すだけのユウは椅子を立ち、胸の内では震えていますと言うように息を殺して歩み寄る。
 すれ違いざまに友紀はユウの手を引いた。
「あっ」
 友紀の腕の中にすっぽり収まって抱かれるユウ。驚いたような視線が愛らしく、友紀は微笑んで眸を見つめた。
「濡らしてるわね?」
「・・はい」
「ユウもいい子、自信を持って」
 鼻先を鼻先でくすぐるように笑顔を寄せて、友紀は唇を重ねていった。ユウの体から緊張が抜けていき、ユウはキスを友紀に委ねた。舌の絡む深いキスへと進んでいく。
「今日はユウも女王様よ、ほらほら胸を張って!」
 背中をぽんと叩いて押した。

 安心したようなユウの笑顔。怯えの色が消えていた。自分に自信が持てなくて苦しんだ日々から解放されていくようだ。
 歩み寄って微笑んで見下ろしながら、微笑んで迎えるサリナの顔をまたぎ、赤いパンティを下ろしつつ膝を折って奴隷の口元へ花園を寄せていく。皆の座る位置からならユウは横を向いていて、開かれた尻やデルタの毛はあからさまには晒されない。線の細い華奢な肢体。 

「頑張ったね、ご褒美よ」
「はい、ユウ様」
「私も私の女王様にこうするのよ。ご褒美におしゃぶりさせていただくの」
「ふふふ・・はい」
 サリナはユウがモモというニューハーフの女王様に仕える身だと聞かせれている。
 サリナの眸を見つめて言う。
「よく舐めて。恥ずかしいほど濡れちゃった」
 それからは性器がかぶさりサリナの声は聞こえない。

「ぁン・・サリナ・・いい・・すごく感じる・・」

 横から見ていてユウの細い腰が反り返り、ユウは唇を噛んで顎を上げ、うっとり目を閉じ、後ろ手にサリナの乳房を押さえるように身を支える。
「あぁぁサリナ・・奥までちゃんと舐めなさい」
 はいとサリナが顔を上げてうなずこうとすると性器への圧迫が強くなり、ユウの甘い声が大きくなる。
「はぁぁーっ・・んっんっ・・」
 腰が入ってクイクイ動き、性器をこすりつけて貪るユウ。この子もいい奴隷になっていくと友紀は感じ、ふと横を見るとyuuが輝く視線でユウを見ている。

 そしてそのとき、治子のかすかな甘声が流れてきていた。ケイと治子が身を寄せ合って、ケイの手が治子のブラ越しの乳房を揉んでいる。治子は眸を閉じてされるがままに委ねていた。ケイは能動。たまらなくなって仕掛けていく貪欲さがちょっと可笑しい。
 そんな二人にyuuも気づき、友紀と眸を合わせて眉を上げ合った。
 この後サリナをケイに委ねてみるのも面白いと友紀は思う。

「あぁーっサリナ」
 ユウの尻が暴れだし、サリナの頭を両手につかんで腿を締め、あぅあぅ声が聞こえたとたん、ふっと力が抜けて体が震えた。浅いアクメ。ユウは腰を浮かせてサリナにキスをしてやって、立ち上がるとパンティを穿き直し、そのとき別人のように穏やかな女の眼差しを友紀に対して向けるのだった。

 同じように女王友紀。友紀は奴隷に奉仕させつつ、ずっとサリナの頬を撫でていた。友紀にとってSMなどしているつもりはさらさらなかった。こうすることが愛の表現。
「アナルまで綺麗になさい」
「はい・・ンふふ、女王様ぁ」
「可愛いよ」
「はぁい」
 サリナの目尻から涙が流れ出すのをじっと見つめてyuuが言った。
 このときyuuのそばにはユウが座り、yuuはユウの手に手を重ねていたのだった。
「驚いちゃった・・素晴らしい女王様だわ」
 ユウがうなずく。
「毎日オフィスで一緒なのに・・普段の友紀さんからは想像できない姿だもん」
 yuuは言う。
「そうかしら? 友紀さんは激しい人よ。ご主人様がおっしゃってた・・『いつか折れなければいいが』って」
「そうなんですか? 友紀さんが折れる?」
 yuuはうなずきユウの手を撫でながら友紀を見ていた。白く流れるような女王のヌードラインが美しく、サリナはさぞ満たされているだろうとyuuは感じた。
 yuuが小声で言った。
「友紀さんてちょっと自分と戦いすぎだわ。じつは傷だらけ。サリナさんもそうだと思うし、だけどもう二人とも大丈夫・・ふふふ」
 若いユウは言葉の意味を探るようにyuuの横顔を見つめていた。

 柔らかな腿で挟みつけるようにして懸命に奉仕するサリナの様子に微笑みながら、友紀は、ポーズの通用しないこういうシチュエーションで、日頃どちらかと言えば控えめな治子がどう変化するのだろうと、そのことにも興味があった。
 治子とは共通点がある。妊娠を望まない。女だからという理由で当然のように母親になっていく人生を嫌いながら、人一倍やさしく母性豊かなところがあり、なのに男ではなく同性に向けられる女心。よくわからない妙なギャップ。治子もまだ二十四歳と若く、自分を見切れる年齢でもないだろう。

 そんな治子がはじめて知ったSMでどう変わっていくのか。この場限りのことと受け流すのか、それともいきなりはじけたりするのだろうか・・そのへんがこれからの仕事にも出てくると思うからだ。
 女とは面白い性だと友紀は思う。誰しも程度の差はあれ多面性を持っていて、あるとき突然変化したりするものだ。表向きの人格もそうだが、とりわけセックスにそれを感じる。友紀自身がそうだった。子供を持たないDINKSというだけで、いたってノーマルなつもりでいた。サリナを知ってレズに目覚め、次の瞬間S女の自分を突きつけられる。夫とはごく普通にまじわって、そのじつレズで女王様。
 そう思うと、つくづく女はわからないし、だから女は面白いと感じられる。

 心地よさを楽しんで、サリナの頬をちょっと撫でて立ち上がり、さて次は誰が動くか。そういう観点で見るならyuuだって面白いし、ケイなど特に激変しそうなタイプ・・。
 友紀はちょっと笑いながら言った。
「お次はだあれってことですけど、ちょっと妙案・・ケイちゃんは最後にしてね。その代わりサリナを貸し出します。それからは二人ずつに分かれましょう」
「わぉ・・それってスワッピング? ふふふ」
 案の定、キラキラ眸を輝かせるケイ。この子は怖いと内心思う。
 友紀が言った。
「というか、サリナを躾けてみないかなって思っただけよ。嫌?」
 ケイは嬉々として身を乗り出して、嫌じゃないと首を振る。

 そんなケイに治子は横目。『しょうがない女』と言うようにちょっと困った眸を向けた。ケイにはSの資質があり、それが積極さを生んでいる。治子は逆。刺激されて動く受け身の側。内心怖く、それでいて期待もある。二人になったときケイがS役にまわりそう・・そんな思いだったのかもしれない。
 治子の気持ちは見透かせる。

 そしてそのとき、あのyuuが椅子を離れた。数歩の距離を歩むyuuの白い背にうっすらとだが鞭痕が残っている。房鞭ではできない鞭の条痕。一本鞭の痕。厳しい主に躾けられた性奴隷を物語る姿だったが、友紀にはそれが誇らしいもののように思えてならなかった。この人と見定めた主に委ねた二十八歳の女の生き様をその女体が見事に表現するようで・・。

 サリナの顔をまたぐときyuuは逆さにまたぎ、躊躇なくパンティを下ろしながら腰を沈めた。横から見ていても陰毛のないデルタ。熟れた女体は均整がとれていて、白い尻にいっそうくっきり鞭痕が残っている。腰を下ろしたyuuは奴隷の両方の乳首をつまんでやってコネながら言い放つ。
「アナルだけでいい、丁寧にね」
「はい、yuu様」
「乳首こうされて気持ちいい?」
「ああ、はい・・ありがとうござ・・」
 尻谷が唇にかぶさって、yuuは腰を反らせて目を閉じた。ぴちゃぴちゃと舐め音がくぐもって、yuuが熱い吐息を漏らしだす。
 それにしても・・サリナはどんな想いだろう。一時期憧れた細川が育てたM女。バロンのマスターに出会ったときすでに彼にはyuuがいて届かなかった想い・・そのyuuに奉仕しながらサリナは複雑だろうと考える。
 yuuは少しの間舐めさせて、性器に蜜濡れをとどめたまま、さっと立ってパンティを穿き直す。

 ケイが、次はあんたよと言うように治子の背をぽんと突いた。予想したとおり治子はちょっと尻込みするようにケイの元を離れて立って歩み寄る。 


二二話


 一人だけ全裸の性奴隷を取り囲む女四人を観て
  いて、このとき私は二つのことを考えていた。
 
  そのひとつは、リアルでM女なyuuと、治子が
 連れてきたケイという子が思いのほか面白そうだ
 ということ。
  yuuは経験から責めのツボを心得ていて、限度と
 いうものを知ってるはず。
  ケイは治子とレズ関係で、治子はネコ同士だと
  言いますが、気が強そうでSっぽいところがある。
 
  さらにそんな二人に感化されて治子とユウがどう
  変化するのだろうということ。これをきっかけに
  ケイが目覚めて治子との関係が変化するかも
 知れないし、ユウはユウで、モモさんに躾けられ
 だしたばかりのM女ですから、身に置き換えて
 自分にとってのマゾヒズムを考えているでしょう。
 
  そしてもうひとつは、いずれこの場に男性を交え
 てみたいという妙な想い。バロンのマスターなら
  もとよりSだし、たとえば三浦さんのような人で
  あれば観客として招いてみるのも面白いと思うの
  です。
 
  性奴隷サリナには男の人にも可愛がられる存在で
  いてほしい。サリナのほどの美女が男が嫌いでは
  つまらないし、もっと淫らに解き放ってやりたい。
  私はDINKSを選んだ女ですけれどサリナには妊娠
  のチャンスがあってもいいと思います。三十六と
 いう年齢からも、すぐにでもそうしてやりたい。
  私が子供を持たないからかも知れませんが、
  そんな私にいますぐ付き合わせていいものか・・。
 
  そのためにもサリナには生半可なM女でいて
  ほしくはありません。命がけの魔性だから悔いる
  ことなく生きていける。それが女。

 
  yuuにユウ、治子にケイ、女四人に執拗に嬲られてサリナは溶
けていきそうだった。
  四人の中では年長のyuuでさえが友紀よりずっと年下であり、
その友紀が手を出さなければ遠慮もあって責めにはならない。寄ってたかって体中を嬲っているに過ぎないもの。
  友紀は立った。

「ふふふ、もうメロメロなんだから・・いいわ、はじめましょうか」

 と言って、束ねた麻縄を手に友紀が歩み寄ると、四人は輪をひろげて一歩退き、はたして友紀がどれほどのことをするのだろうと興味ありげに見守った。女王様だと聞いていても、サリナの裸身に鞭痕さえなく、サリナはあまりに美しすぎた。
  一歩のところまで歩み寄りながら手にした縄束をユウに持たせ
、サリナの眸を見据えて言う。

「バースデイよ、サリナ。今日こそまさに性奴隷の誕生日。お祝いに集まってくださった皆さんに可愛がってもらいましょうね」
 とろんとした眸をサリナは向けた。
 そっと手をのばして紫色の首輪を整え、それから両方の乳首を
つまむ。サリナは最初に言われたポーズのまま、脚を肩幅に開き両手を頭の後ろで組んで胸を張る。
 Bサイズの乳房が形よく張り詰めて、執拗に愛撫された火照り
のせいで乳房の白い肌に毛細血管が透けて見える。
 女王が見据え奴隷が見つめる。
 取り囲む四人はそんな女王と奴隷の横顔を見比べているようだ
った。

「奴隷よねサリナ?」
「はい、女王様」
「マゾよね?」
「はい、女王様・・くぅ」
 乳首をつまむ指先に力がこもり、サリナはマゾらしく感じ入っ
たいい貌をする。

 ユウに持たせた縄束を受け取ると、束をほどいて二つに折って二重縄とし、両手を合わせて手首で縛り、天井裏にクロスする太い丸太の梁に投げ上げて、梁を通した縄を引いて両手を差し上げ

たつま先立ちに吊っておき、縄尻をふたたび手首に通して固定する。
 それから友紀は持ち込んだ二種類の鞭を取る。新調した赤い革
の房鞭と黒い革の乗馬鞭。
 そのうちの乗馬鞭を今度はケイに持たせておいて、房鞭をバサ
と振る。革が赤くて綺麗だが房革の厚い重みのあるもの。その分、打撃が重く痛いはず。

  と、友紀はそれをyuuに持たせ、先にケイにあずけた乗馬鞭を手にすると、裸身をのばしきって怯えをはらむ面色のサリナの前に立ってちょっと微笑む。
 サリナを見つめながら皆に言う。

「一人たった十打でも四十打・・こんなことをしてやっても面白いわよ。見てなさい」

 張り詰める乳房の先で尖り勃つ二つの乳首の前で、鞭先を横振りにして狙いを定め、わずかずつ寄せていく。鞭先が乳首をこするようにピシッピシッと浅くヒット。さらに寄せて乳首をはたき、振りを強く早くする。ピシピシピシッと打音が響き、サリナは唇を固く結んで目を閉じて、鼻筋に横ジワを寄せて呻きだす。
「くぅ、くっくぅぅ・・ああーっ!」
「気持ちいいねサリナ?」
「はい、あぁ女王様、ありがとうございます」
 友紀はケイの眸を見て笑い、乗馬鞭をふたたびケイに手渡した

 次にyuuに持たせた房鞭。サリナの横に立つと、バサバサと軽く振ってサリナの白い尻を打ち、大きく引いてリストを返して左右の尻桃を同時に打ち据える。
 バシーッといい音がする。房鞭は打ち込むにつれて革が汗を吸
って重くなり痛みが増していくもので・・。 

 バシーッ!
「はぁぁ、うっうっ!」
「ほら気持ちいい。もっとお尻を出しなさい」
「はい! 気持ちいいです女王様」
 友紀は眉を上げて首を傾げながらyuuに笑った。

「それからサリナはプロダンサーよ・・ふふふ。片足を横に上げなさい!」
「はい、女王様」

 左足着地で右脚を横に上げていく。足先が肩の高さをこえるまで苦もなく脚が開かれていく。陰毛のない性器もアナルまでもがそっくり露わ。
 「少し痛いわよ、覚悟なさい」
 下振りで一度は空スイング。次にはリストを上に返した強い打
撃が股間を襲う。

 バシーッ!
「きゃぅ! あっあっ!」
 反射的に脚が下がる。
「脚を下げない!」
「はい!」

 スローモーションを見るようにしなやかに上がる脚。ふたたび下振りのさらに速いスイングで・・最初の一打で花濡れのまつわりついた房革がベシーッと湿った音を出す。

「ぁきゃぁーっ、うぐぐ、痛いです女王様ぁ」
「痛い? 気持ちいいんじゃなくて?」
「はい申し訳ございません、感じます、気持ちいいです女王様」
「そうよね。うん、よろしい。ふふふ、さあみんな、こんな感じ
よ。体中真っ赤にして泣きわめくまでめった打ちにしてやりなさい」

 別人のような友紀・・バロンの友紀しか知らないyuuも、オフィスの友紀しか知らないユウも治子も、日頃の友紀に接する三人は驚きを隠せない面色だったし、こんなことのはじめてなケイはギラギラ眸を輝かせている。
  友紀はそんなケイの肩をぽんとやって微笑んだ。

「可愛いでしょサリナって?」
「ほんと・・たまらないわ、最高の奴隷さんよね」
「そう思うなら打ち据えてやればいい。ふふふ」

 皆に背を向けて友紀は一度部屋を出た。玄関先まで歩く頃には甲高いサリナの悲鳴が響いてくる。
 「サリナ・・愛してる」
 つぶやいて外へ出た。別荘地の森の空が斑に青空、斑に黒雲。
まるで私の人格のようだと友紀は思った。
 すぐ傍らに停めてあるクルマへ行って、そう言えば買ってそれ
きりになっていた煙草をグローブボックスに探し、封を切って火をつける。以前雑誌の編集部にいた頃にはイライラして吸っていた。

 ロングシガーをくゆらせて、けれども長いうちに消してしまう。今度の本を私の人生に誇れるものにしたい。三浦と出会い、サリナを知って、私は変わったのかもしれないと思うのだった。
  女としての解放。牧場の柵が開かれて向こう側の大自然が見え
ている。馬の気持ちがわかる気がした。

「あははは! ほらもっとお尻を振って! あははは!」

 分厚い玄関ドアを引き開けるとケイの声が響いていた。友紀は可笑しくなって靴を脱がずに上がり框の段差に腰掛けた。そのまましばらくサリナの悲鳴と女たちの笑い声を聞いてみる。

「ほらサリナ! 女王様に言われたでしょ、脚を下げない! 罰です、もう一度上げて!」
 yuuの声・・耳を澄ますとバシーッと強い音がする。
「ぁきゃぅぅ・・はぁぁン・・」

 友紀は眉を上げた。悲鳴が甘くなっている。鞭に酔うとろけた声。友紀は、どうしようもない女ね・・と言うように小首を振って靴を脱いだ。

「いい涙よサリナ。奴隷はそうして可愛い牝になっていくの。わかるわね?」
「はぁいyuu様」
 ・・と、次にはユウの声がした。
「もっと欲しいでしょ? あははは」

 
 友紀がドアを開けると、そのときユウが乗馬鞭を握っていて、
全身を鞭染めにされた性奴隷の尻を打っている。
 ユウはきっと女王モモに同じようにされることを望んでいるの
だろうと友紀は感じた。

  パシーッ!
  幾分手加減されてはいたが、うっすらと血の浮く鞭痕もある上
への打撃。サリナの声はどうだろう・・。
「はぅ! ううっ、はぁぁン」
 声が甘い。尻を振り立て、くねくねと裸身をしならせて、泣い
てしまって涙を飛ばして喘いでいる。
  女王が戻ると鞭はやみ、両手を吊られたまま垂れ下がるように
立つ無残な裸身が不思議なエロスを醸し出す。
 尻も背も太腿も、乳房も腹も真っ赤になって、ところどころに
血浮きする打撃痕。
  友紀は歩み寄ると微笑みかけて、しかし髪をつかんで顔を上げ
させる。アイラインが涙で流れて頬が黒い。

「ずいぶん可愛がってもらったみたいね? 嬉しいでしょう?」
「はぁい、女王様ぁ」
「鞭に感じる?」
「はぁい・・ハァァ・・感じます、女王様」
 サリナは泣き濡れた眸でかすかに笑った。

  友紀は、そのとき治子が握っていた房鞭を手にすると、乳房から浴びせかけ、返し鞭で背を打って、その返し鞭で陰毛のないデルタを打ち据えてやり、さらにその返し鞭で尻を打つ。
  錯乱したようなフルスイングのめった打ち。サリナは絶叫して
走るように裸身を暴れさせ、それでも声は甘かった。

 yuuもユウも治子も、友紀がそこまで追い込むとは思っていない。容赦ない鞭。乳首をツネリ上げながら尻を打ち、前に回って脚を開かせ、剥き出しのクリトリスまでの距離を見定めて下振りの革束を叩きつける。
 バシーッ!
「はぅ! うくく・・ぁ、あぁーっ」
 そのとき気が遠のいて膝が崩れかかるが、一瞬後に持ち直して
サリナは虚ろな眸を開けるのだった。

 焦点を結ばないとろんとした眸。
「いい眸をするでしょ」
 と、そばにいたケイに言うと、ケイは深くうなずいた。
「天性ですよね・・羨ましいほど溶けた眸だもん」 

 そう言うケイもいい眸をしていると思いながら、ふとその向こうへ眸をやって、yuuがユウの背を撫でてやっていることが気になった。今日は四人で乗り合わせて一緒に来ている。車中でどんな話になったのだろうと想像した。
 ユウはわずかに眸を潤ませてyuuにすがるようにして微笑んで
いる。『私なんかにM女が務まるのか』・・『大丈夫よ』そんなことではないかと想像した友紀だった。
 
  友紀は手にした房鞭をケイに持たせ、サリナに歩み寄ると微笑
みながら右、左と鞭に赤くなった乳房をわしづかみに揉んでやり、下腹めがけて手を滑らせて毛のないデルタの底へと指を忍ばす

「べちょべちょね。こんなに濡らしちゃって、いやらしいマゾだ

こと。どう? 感じる?」
「はい感じます、ハァァ・・欲しいです女王様」
「オナニーダンスでもさせてあげようか? あさましくディルド
でズボズボよ?」
「はい、イキたい・・ハァァァ!」
 燃える吐息。

 友紀は見守る四人を振り返って首を傾げながら言った。
「ですって。いい子だからイカせてあげましょうか。私たちも脱
ぎましょう。下着姿の女王が五人よ」
  それからまたサリナの眸を見る。
「まだまだだからね。こっぱみじん。ぶっ壊れてしまうがいいわ
・・ふふふ」
 牝の眸の甘さにかすかな怯えの滲むサリナの眼差しを観ている
と、胸騒ぎにも似た得体の知れないサディズムが掻き立てられる

「そこで控えてなさい」
 膝で立って脚を開き両手は頭の奴隷のポーズ。見守る女四人は
女王と奴隷のゆるがない関係に安堵したように、それぞれが着ているものを脱ぎはじめた。


二一話


 集まった女たちの中でひときわ美しいサリナ。
 プロダンサーとして活躍した肢体はサリナ天性のプロポーション
 に加えて鍛えあげたアスリートの躍動さえもいまだに留める。
 私は三十四歳、サリナが六。だけどほかの四人は、yuuだけが
 二十代の後半で、治子もケイもユウも学生でもとおるほど若く、
 キャリアという点では明らかに未熟。
 さらにこのとき女の子たちには日常の普段着で来るよう打ち
 合わせはできていた。私も含めて皆がジーンズスタイルで、
 そこらのカフェに集まるムードにしてあります。

 北砂利菜というレディの人生に決定的なギャップを与えてやろう
 と考えていたからです。
 美しいレディの輝きと性奴隷の輝き。私が思う性奴隷の輝きは、
 たとえて言うなら闇に漂う純黒の宝石のようなもの。
 人の魅力はギャップにあると思っています。怖そうで敬遠する
 タイプの男性が話してみると穏やかな紳士だったりすれば、
 それだけで女はイチコロよ。小さな猫が大きな犬に立ち向かう
 姿を見ていると猫族の凄さを感じたりするものです。
 レディに徹する北砂利菜と奴隷に徹するマゾ牝サリナ。
 両極端の女の凄さをサリナに植え付けてやりたかったし、
 そうして深くなっていく女の純黒を見届けていきたかった。

 私だって私なりの純黒を生きてみたい。ブラックホールと
 言いますが、光より影のほうが強くそして魅力があるもの。
 DINKSなんて女性としてこれほど傲慢な生き方もないでしょう。
 子供を願って不妊治療に苦しむご夫婦がいくらだっているという
 のに、 女に生まれた使命を放棄して勝手気ままに生きている。
 主人のことは愛していますが、では不倫を放棄するかと言えば
 そうじゃない。女王なんてそれこそまさか、私の中にそんな
 魔女がいただなんて思ってもみなかった。
 内向きではない女の性を解放したとき女はもっと輝ける。
 私は地上でサリナは地中で。
 どうしようもない女の性(さが)に震えていたい。

 そのあたりを手がかりに狂おしいほどの想いを本にして、
 多くの女性に生き方を見つめるきっかけを与えてあげたい。
 今度の本は私とサリナのライフワークになっていくと思うのです。
 可哀想にサリナ・・一人だけ下着さえも許されず平伏す裸身を
 強ばらせて震えている。
 いよいよ今日、マゾ牝サリナは密室を出て解放される。
 それは同時に女王YUKIを密室から解き放ってやることにも
 なるのです。どちらもう後戻りができなくなる。
 恥辱に濡れるサリナの心を思いやると女王YUKIの性器も濡れる。

「さあ入って、奴隷は素っ裸で控えさせているからね」
 それもまた大きな声で・・玄関先で五人揃ってほくそ笑み、性奴隷の平伏すリビングへと歩み寄る。玄関にはホールとまでは言えないまでもそれっぽいスペースがあり、ほんの一歩奥へ、そこから数歩で広い板の間のリビングがひろがった。
 乳白の裸身をきっちりたたんで平伏すサリナ。三つ指をつく両手の甲に額がぴったりつけられて、心からの服従を表しているようだ。曇りのない白い女に濃いワインレッドの不思議なショートヘヤー。女たちそれぞれがどんな顔をしているのかとキラキラ輝く眸で見下ろした。

 白い奴隷の目の前に友紀はしゃがみ、光線の具合で紫色に透けるような髪の毛をそっと撫でた。
「顔を上げなさい」
「はい、女王様」
 サリナの声がすでに震えている。少し顔を上げたサリナの顎先に指を添えて、さらに顔を上げさせる。
「・・綺麗」 
 と、若いユウが思わず言った。
 けれどもサリナの面色は血の気をなくして白くなり、二つの眸にくっきり怯えが浮かんでいる。マゾらしいいい眸をすると、女たちはそう思ったに違いなかった。

「よくお聞きね」
「はい・・ハッ、ハァァ」
 サリナの息は熱を持ってこらえきれず、ビブラートのかかる見事な奴隷の吐息となった。
「性奴隷サリナのお披露目です。皆さんそのためにわざわざ集まってくださった。皆さんのお気持ちを思いやって私だけじゃなく皆さんに服従するんですよ、いいわね」
「はい、女王様」
「はい、いい子よ。じゃあお一人ずつ紹介するから」
 このとき四人は初対面のサリナを思いやって背後に回らず、友紀の後ろに立っていた。

 友紀は最初にユウを見た。サリナの前を一歩離れ、ユウがうなずき入れ替わって前へ出る。ユウは小柄で華奢なフォルム。ジーンズだと学生そのもののイメージだった。
「この子はユウちゃん。私と一緒に今度の本をつくる女の子。二十三よ。モモさんておっしゃるニューハーフの女王様にお仕えするM女さん」
 サリナは「はい」と友紀に応え、それからユウを見上げて一度額を床にこすり、顔を上げてユウを見つめた。
「はじめましてユウ様、友紀女王様にお仕えする性奴隷、サリナでございます。今日はわたくしのためにありがとうございました」
 ユウは、たまらないといった眸の色でうなずくと微笑みながら静かに言った。
「はい、いい言葉だわ。ユウです。最高の女王様で幸せね」
「はい幸せです、ありがとうございます」
 ユウはちょっと腰を折ってサリナの頬をそろりと撫でた。サリナはその手に頬をすり寄せる仕草をする。

 同じように次は治子、ペアの景子。二人揃って前に立つ。治子も景子も不思議な生き物を見下ろすような面色だった。リアルなSMにはじめて接する二人。
 友紀が言った。
「こちらが治ちゃん。以前私と女性雑誌をつくってた編集部の子なのね。二十四歳。ビアンでね、今日はその恋人にも来ていただいた。お名前はケイちゃん、歳は同じで二十四歳。ケイちゃんは私も初対面。よろしくねケイちゃん」
 ケイは『いいえ、こちらこそです、お招きいただきまして嬉しいです』と友紀に向かい、それから治子と一緒にサリナを見つめた。女が性対象の二人、すでにギラギラする愛欲の眼差しを向けている。
 ケイは思ったよりも大柄でグラマー。豊かなヌードの想像できる女性であった。茶色に染めたロングヘヤー。パートナーの治子も同じようなロングヘヤー。あのとき治子は家猫同士と言ったが、どうやらネコ同士の二人のようだ。
 サリナは同じようにきっちり平伏し服従を誓う。二人は揃ってしゃがみ込むと、治子が頭を、ケイが頬を撫でてやる。

 最後にyuu。サリナにはもちろん見覚えのある顔で、背後にいる細川の面影を想うような眼差しを向けていた。
「バロンのyuuちゃんは覚えてるでしょ? マスターにお願いして今日はS女さんとして来てもらった。それを言うならユウちゃんもそうだし、治ちゃんもケイちゃんもそうですからね。ビアンがお二人、同性を愛する分、女には厳しいわ。M女さんがお二人。こちらはこちらでM女同士、奴隷の姿を心得てますからね。四人とも今日は厳しいわよ」
 友紀はふたたびサリナの目前にしゃがみ込み、『わかってるわね』と言うように、眼差しをあえて冷やしてサリナの額を指で突く。

「覚悟して復唱なさい!」
「はい、女王様」
「サリナを奴隷に堕としてください」
「はい・・わたくしサリナを性奴隷に堕としていただけるようお願いいたします」
「プライドも尊厳も捨て去ります。どうか私を壊してください」
「はい・・女としてのプライドも・・ハァァ・・尊厳も・・んっんっ・・どうかお願いいたします、わたくしサリナを壊してください」
「どのようなことにも決して嫌とは申しません」
「はい・・ハァァァ、ぁっぁっ・・どのようなご命令にも決して嫌とは申しません。どうか皆様、厳しくご調教いただけますようお願いいたします」
 サリナは言葉を追うごとに追い詰められていくようで、白かった頬が見る間に桜色に染まっていく。

 そしてこのとき、とりわけM初心者のユウは、女王の言葉を自分なりに整理してきっちり伝えるサリナを見ていて、さすが友紀の奴隷だと感じていた。ユウは震えた。サリナを抱き締めてやりたくなる。

 友紀は離れ際にサリナの頬を撫でるように一度パシと叩くと、サッと立った。
「いいわ、お立ち」
「はい、女王様」
 折りたたんだ裸身を、あたかも花が開くようにしなやかに開花させるサリナ。そのときはじめて陰毛のない奴隷の裸身を披露した。Bサイズの乳房の先で乳首がしこって尖っている。
 友紀は言った。
「そこに立って脚は肩幅、手を頭に組んで胸を張る」
「はい・・ハァァ・・ああ震えます・・ハァアア・・」
「・・ほんとマゾ・・ふふふ・・いい女」
 と、あのyuuが言った言葉を友紀は聞き逃さない。
 サディスト細川に躾けられた、この中で唯一の本物M女。友紀は今日、yuuがどうするかに興味があった。Mを知る女性はSとなったとき、おそらく私ではおよばないと内心そう思っていた。
 友紀だけ一人が、リビングらしく造られた空間にある肘掛けのないシングルソファに腰を降ろし、部屋の中央にサリナを立たせ、女四人で取り囲む。

「お触りしてやればいいわ。ただしキスとアソコには触れないように」
 それからサリナに言いつける。
「濡らしちゃダメよサリナ。オツユなんて垂らそうものなら鞭ですからね」
「はい・・そんなぁ・・ハァァ・・女王様ぁ・・」
 四人はそれぞれ眸を見つめ合い、四方から全裸で立つ性奴隷に歩み寄る。ユウが白い尻をそろそろ撫でて、治子とケイが乳房とそして波打つ下腹までを撫でてやり、ケイは耳許に息を吐きかけて首筋にそっと爪を立てて肩まで引っ掻く。そのときyuuが脇の下から脇腹までに同じようにそっと爪を立てて引っ掻いた。
「ぅっぅっ・・くぅ・・ぁ・・ぁ・・」
 サリナの肢体がくねくねとしなりだし、膝をXに締め付けて、白い尻を締めてはゆるめ、サリナはカッと眸を見開いて、ほどなくガタガタ震えだす。
「ほうらいい・・素敵よねサリナ」
 耳許でyuuが言い、サリナはもう声も出せずにうなずくだけ。
 後ろから回ったケイの両手が両方の乳首をつまんで、乳房をぷるぷる振るように弄ぶ。
「あぅ・・くくぅ・・あぁン・・ぁン・・」
「気持ちいいみたい? ふふふ、可愛いわよサリナちゃん」

 寄ってたかって八つの手に翻弄されて、サリナは唇を固く噛み、いつものように眸がイッたマゾらしい姿を見せた。
 微笑んで友紀は見ている。マゾヒズム・・服従する限り、際限ない歓びが与えられる。サリナにはそうあってほしい。いまにも泣きそうな面色で全身を震わせて耐えるサリナ。至上の愛奴が今日生まれて育っていく。

 陰毛のない白いデルタ。あさましいまでに深く切れ込む女の渓谷の奥底から歓喜の蜜がじくじくと沁み出した。閉じた花びらに朝露のように透き通る蜜球ができはじめ、ツーッと糸を引いて垂れていく。
 乳房を揉まれ、乳首をコネられ、震える尻肉をわしづかみにされて体中を嬲られる。そのときの性感を想うだけで友紀は濡れた。

「ふん、もう垂らしちゃって・・いいわよ、唇へのキスはダメ、そのほか好きに嬲っておやり」
「・・だってさサリナ、どうして欲しい? こう? ほうら気持ちいい・・」
 ケイだった。言葉が巧みで思いのほかSっぽい。
 ケイの手が尻の谷へと潜り込み、前からユウの指が性谷へと分け入って、yuuと治子が左右の乳首を口に含む。
「はぁぁ! あぁーっ!」
「いい声よマゾ牝ちゃん」
 ケイの指はどうやらアナルをまさぐって、ユウの指がラビアを揉むように愛撫して、サリナの裸身がS字にくにゃりと崩れていく。
 友紀は言った。
「可愛がってもらって嬉しいね・・イキそうなんでしょ?」
「はい、女王様ぁ・・あぁぁイクぅ・・」
「そんなにいい? とろけそう?」

 耳許でyuuに言われ、サリナは大きくうなずいて、その眸が涙に濡れていく・・感じ入った牝の姿だと、このとき友紀は、かすかな羨望を覚えていた。

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