2017年02月20日

DINKS~フリーランサー(終話)


終話


 スリムだが筋肉の芯のある夫の硬い体に抱かれていながら、友紀はDINKSという女の生き方をあらためて整理しようともがいていた。
 友紀は直線的に生きすぎる。そこが線の細いところなのだが友紀自身で気づいていない。ストイックな生き方はそうでない多数派の中で敵をつくり、そこと戦うために、さらなるストイックを疲れた心に要求する。考えだすと突き詰めないと気がすまない困った自分に友紀はもがく。
 女体の中で強がった夫の性器はアスリートのクールダウンのように萎えていき、可笑しくなって握り締めてやりながら、この人は男、私は女、男と女が交差する意味を考える。セックスとは男女の交差。そしてそれをフリーなものにすることこそが結婚というものだろう。

 奴隷のように愛された激しい夜が去っていき、夫の寝息にたま
 らない可愛さを感じながら、ふと女性雑誌の妙なギャップに笑っ
 てしまう。雑誌は対象を絞りきれない。強いて言うなら年齢で斬
 るぐらい。ジュニア層から学生層、社会に出る独身時代、若妻
 の時期を経て熟女の世代。それぞれでテーマは違ってくるので
 すが、欠かせない部分があり、サジ加減が違うというだけで同じ
 テーマを追いかけてる。

 恋や愛、ときめいていたい女心。

 バレンタインの時期にそわそわしはじめ、夏には肌を見せて男
 を誘い、秋には恋人同士の旅の特集、クリスマスには愛の夜と、
 ロマンチックを語っておき、女らしさを表現するファッションだっ
 たりダイエットで綺麗になろう・・ヘヤースタイルで女は変わる・・
 女性らしいインテリアの特集もあれば可愛いペットの特集まで。
 そうやって男とは違う女の世界を提言しておきながら、一方で
 は、不倫、同性愛、SMと、カムフラージュを剥がした肉欲の世
 界を取り上げる。そのへんだけを読みたい女がたくさんいるの
 に、表紙に載せる表題は、そしらぬ顔の綺麗なレディの側面だ
 け。

 長く雑誌づくりに携わり、知らなくていいことを知りすぎた。会わ
 なくていい人に会いすぎた。私にとってのDINKSは、感化され
 てと言わないまでも、そうした中から生まれてきたものではない
 か?
 信念なのかと詰問されると自信が持てない。妊娠限界が迫って
 くると、信念だと思い込んでいたことが揺らいでしまって心が乱
 れる。
 ここしばらくの貪欲なまでの私の性は、その反動ではなかった
 かと思うのです。

 私の性はフリーセックスではありません。心の動く誰かに対して
 セックスを待たない女の生き方。どうあがいたって打ち消せな
 い性欲を、取り繕い、ポーズして、そのじつ待ちわびているよう
 な生き方をしたくない。サリナと出会い、彼女の生き方に感動し
 たとき、私の性のガードが壊れた。壊れたのではなく私が望ん
 でバリヤーを剥がしたんだわ。

 不倫、そのときもし私なら、夫のせいにはしたくない。悪者は自
 分でいい。濡らしていたくて私が仕掛けたセックスだから。
 子供を持たない生き方は寂しさを伴って、けれども視野はひら
 けている。自分の性を見渡して生きる女でいたい。悪女だと後
 ろ指を差されるならそれもいい。凪いだ海に漂っているのなら、
 波濤に揉まれてもがいていたい。
 私にはきっと激しいマゾヒズムが渦巻いていて、いまのところ激
 しいサディズムとなってサリナへ向かって流れていってる。

 女性が好きよ。共感し合えて、果てしない性に溶けていける。
 男が好き。愛欲に熱せられる男の体を打ち込まれ、そのとき私
 は、マゾヒズムを満たすために奴隷となれる。いまのところ夫は
 もちろん、三浦さんもそうではないというだけで、もしもS様と出
 会えたら、そのときこそ私は性獣・・狂うほどのセックスに燃えさ
 かって生きていける・・。
 萎えて眠る夫のペニスをそっと撫で、ほくそ笑んで私は眠りに
 落ちていく。家庭という組織に属さない妻というフリーランサー。
 それが私。その程度のことは考え抜いて選んだDINKS。なのに
 どうして揺らぐのか・・。

 本能があがいていると感じてしまう。

 その頃、サリナと留美の密室では・・。
 彫像のような美しい裸身にうっすらと鞭痕を残したサリナが、今夜は黒のランジェリーに身をつつみ、真新しい鞭痕に肌を染めてフロアに平伏す留美を見据えて座っていた。
 サリナの鞭は手加減されない。手加減は女王の迷い。迷っていては奴隷の心を乱すだけ。サリナは女王になりきった。
「答えは出た?」
 興味本位なら去れ。留美へのやさしさを鞭に込め、サリナの鞭は手加減されない。房鞭の乱れ打ちで留美の裸身は真っ赤にされて、泣いたぐらいで許されない鞭が続いた。留美は崩れ、女王は奴隷の泣き顔を見つめている。
 サリナは言った。
「女王様は私を貸し出すとおっしゃられた。女王として貸し出すから可愛がってやりなさいって。そのために貸し出された私はおまえにとっては女王様よ。私は甘くないからね」
 サリナに憧れて陰毛を処理した留美。留美は出会ったばかりの新しい自分に、解放されていく自分を感じ、サリナの眸をじっと見つめ、それから額をこすって平伏した。

 サリナは言った。
「独り暮らしよね?」
「はい。ずっと寂しくて・・」
「それは私も。友紀様に出会って救われた女だわ。あの方は恐ろしく弱い人。脆いから攻撃し、防御しきれず苦しんで、もがいてもがいて生きている。女の中の女よ、あの方は。だから私は奴隷になれる。中途半端な想いじゃなく身を賭して接していける。私は強い女です。強い自分に嫌気がさして暗闇の中にいた。友紀様が光だった。愛し合えて、でもそうするうちにあの方に危うさを感じたの。馬鹿みたいにまっすぐで生き方が下手すぎる。私の中に少しだけあったマゾヒズムが騒ぎ出し、ほとんどすべてのサディズムを押しつぶしてしまったの。奴隷とはそうしたものよ。憧れなんて甘い世界じゃないんです」
「・・はい」
「よく考えて、私や友紀様のそばにいたいと思うなら、ここで一緒に暮らしましょう。私はおまえが大好きよ。私や友紀様の気持ちに応えるつもりがあるのなら・・わかるわね?」
 留美は大粒の涙をこぼして幾度も幾度もうなずいた。
「今日はもういい、ご褒美です、私をお舐め」

 いつもなら友紀の座るソファに沈み、サリナは両手をひらいて留美を迎えた。奴隷は女王の黒い下着を脱がせていって、同じように陰毛を処理した奴隷らしいサリナの性器に顔を埋めた。
「あぁぁ、いいわ留美、感じるわよ」
「はい・・嬉しいです女王様・・」
「クリトリスを吸って、花奥までよく舐めて」
「はい・・あたし・・」
「うん?」
「中途半端な女じゃ嫌・・燃えていたい・・」
 サリナは穏やかに微笑むと留美の頭をわしづかみ、濡れそぼる肉の花へと押しつけた。
「ンふ・・はぁぁ・・夢のよう・・イキそうよ留美」
 サリナの心の高まりが留美の性器を濡らしていた。

「うわっ、カワイイぃ・・」
 治子が言った
「ほんと・・舐めたいぐらい」
 ケイが言った。
「ママそっくりね、美人になるわ」
 サリナが言った。

 バロン。店の休みに皆が合わせて、友紀、サリナ、留美、治子にケイの五人が顔を揃えた。yuuはすっかりスリムになったが乳房が目立つ。
 生まれて三月が過ぎていて、ボックス席をベッド代わりに寝かせてやって、小さな手足をちょこちょこ動かし笑みをふりまく。子供らしくこぢんまりと整ったyuu生き写しの娘。娘は明江と名づけられた。名づけ親はyuuだった。
「ユウちゃんの生まれ変わりだと思ってる。マゾでもいいからやさしい子に育ってほしい」
 と、yuuが言うと、傍らから男の手が出てママの頭をひっぱたく。
 それが可笑しくて皆で笑った。
 ユウの面影が蘇る。友紀は言った。
「ユウは幽霊のユウだから、いまきっとそばにいるわよ。幽霊でもいいから会いたいよね」
 皆が静かにうなずいた。

 「小説にした」と、一人だけ男の細川がぼそっと言った。妻のyuuはもちろん知っていて、ちょっと笑って小さな娘に眸をやった。
 友紀が言った。
「小説って、ユウのことを?」
 細川はため息にのせるように言う。
「馬鹿みたいにピュアな娘がニューハーフの女王様に出会うのさ。泣きながらも懸命についていく。結婚して娘が産まれて・・ふふふ、これから俺の書くものには・・」
 そこで声を切って友紀を見つめる細川。
「何よ?」
 友紀が訊いた。
「ヒロインはユウ。あの子を幽霊にしたくないのでね」
 女五人が顔を見合わせ、やさしい治子が目頭を押さえていた。

 横浜港を見渡すホテル。
「濡れる・・なかなかいいじゃないか」
「女が誇るべき反応ですもの」
 三浦はうなずき、友紀の裸身をそっと抱いた。
 新しい一冊が印刷に入っていた。
「売れるかどうかなんていいんです。誰かに共感されて、その人なりに濡れてくれれば嬉しいから」
「こうやって?」
 男の指先が女のデルタに忍び込む。
「ン・・あぁぁ・・そうよ、こんなふうに・・」

 愛している。そう感じたときの女にとって、濡れはじめる性器の
 暴走はとめられるものじゃない。夫に濡れ、いまこうして彼に濡
 れ、サリナを濡らして私も濡れて、留美の濡れにサリナと二人
 で濡らしてしまう。
 女の性は束縛されない。女はこうだなんて決めつけられて生き
 たくない。悪女なんて女の素顔よ。だからお化粧するんでしょ。

 怖くない女なんて私じゃないわ。
 私の中の怖い私に貸し出されるから君臨できたり奴隷になれる。
 自分を操れるのは他人じゃない。本音って、そんなもの・・。

 逞しい男の勃起を握り締め、けれども友紀は、すぐにはそれを求めなかった。タイミングを合わせたように部屋のドアがノックされた。友紀は眉を上げて微笑んで、全裸のまま迎えに立った。三浦は何も聞かされてはいなかった。

 黒革のミニスカート、赤いブラの透けるピンクのブラウス。濃いワインレッドのショートヘヤーは、光線を受けて紫色のシルクが絡まる不思議なヘヤー。化粧を整えたサリナは輝くように美しかった。
 しかしサリナは、全裸で迎えた女王の姿に笑顔も引き攣る。背を押されて三浦の待つベッドの前へと追いやられる。
 女王は言った。
「三浦さんよ。この私を奴隷にするほど素敵な人。心してお仕えするように」
「はい、女王様・・ハァァ・・あぁぁ・・」
 息を乱すサリナに微笑み、全裸で寝そべる三浦に向かう。
「奴隷サリナ。私が躾けたマゾ牝です。今日はお披露目、ひとつはここで調教すること。そしてもうひとつは・・ふふふ」
 ゾクとするほど冷酷な女王の笑みにサリナは眉根を寄せてたじろいだ。「自虐のサリナよ。今日から顔を見せていきましょう。生涯マゾ牝の誓いを立てるの。わかったわね!」
「はい、女王様」
「脱ぎなさい!」
「はい!」
 女王がコンパクトなデジカメを奴隷に向けた。

 三浦は友紀とサリナを交互に見て、しかし穏やかに微笑んでいた。
 スカート、ブラウス、赤い上下の下着姿。ブラをはずすと綺麗な乳房の先端にゴールドのリングピアス。パンティを脱ぎ去ると、陰毛のないデルタの底にキラキラ輝くゴールドのピアス。全身にうっすらと鞭痕の残る奴隷の裸身を晒して立つサリナ。
 三浦は友紀の意思をくみとって、やさしく微笑み、両手をひらいた。
「おいでサリナ」
「はい・・あぁぁ三浦様・・」
「ふふふ、可愛い姿だ、さあおいで」
「はい」
 サリナは感激と恐怖で眸を潤ませ、空間を流れていって手を取られ、そのままベッドに引き込まれた。
 そっと抱いてキスを与える三浦。サリナはすでに震えている。
 三浦の手がサリナの乳房をそっとつつみ、そんな二人に寄り添って女王が裸身を横たえた。

「サリナという人生にご褒美よ。二人で可愛がってあげますからね」

 唇に女王のキス・・乳房に三浦の手とキス・・サリナは喜びに涙をためて溶けていく・・。

2017年02月19日

DINKS~フリーランサー(三九話)


三九話


 ほんの狭間、言葉を見つけられない友紀に細川は眉を上げてちょっと笑い、カウンターを出るとシャッターを降ろしてしまう。いつもより少し早い閉店。シャッターを降ろしてからバロンのマスターはエプロンを脱ぎ、細川という男となって友紀の隣りへ腰掛けた。
「孤高という言葉があるが」
「・・はい?」
「カッコよく聞こえるだろうが孤高とは独りじっと耐えること。こうと決めたその結果何が起ころうが、ひたすらじっと耐えきるのみ」
「DINKSと決め・・え・・」
 友紀に言わせず細川は友紀の頭に手を置いた。静かな言葉で細川は言う。
「余計なことはいいんだ、友紀ならわかるはずだぞ。人と違う生き方には異論がつきまとう。迷うから賛同を探すような態度は無意味だ、相手に迷いを配ってどうする。やさしすぎる鞭は女王の迷いを配るだけのものだろう」

 ハッとした。主に諭されたような気分だった。

 友紀は椅子を立ちながら細川をそっと抱いて頬に触れるだけのキスをした。
「サリナのところへ行ってきます」
「うむ、よろしくな」
「そう伝えます。ありがとうございました、叩かれた気がします」
 バロンを裏口から出た友紀はメールを二本立て続けに送信した。一本は夫へ。今日はサリナの部屋に泊まります。そしてもう一本はサリナへ。
『逢いたいの、どうしても! 首輪をして待ってなさい!』
 こういうとき夫がサリナの連絡先を知っているのは都合がよかった。女同士。もし回線に電話があったとしてもサリナが出て妻に代われば問題ないし、夫は疑ったりしないだろうと自信もあった。
 電車に乗って間もなくメールが二本続けて入る。夫の直道は『わかったわかった』の常套句で文句は言わず、サリナのメールは弾んでいた。
 バロンに寄ってスタートが遅くなり、サリナの部屋に着いたときには時刻は八時半をすぎていた。
 奴隷サリナは全裸に首輪をしたいつものスタイルで平伏して迎え、女王はいきなり陰毛のない奴隷のデルタの奥底へと指を突っ込む。

 おかしい・・女王の微妙な変化に気づかないサリナではない。
「あぁン・・女王様・・?」
「計画変更よ。でも予定通りにやってちょうだい」
「えっえっ?」
 意味が解せずにサリナは眸を丸くする。
「思い切り誘惑してやって。手を出せば私は奴隷を貸し出しただけ。出さなければそのときは、いつかきっと貸し出してあげるから。結果は一緒」
「一緒?」
「私らしさを貫くだけよ。もう旦那と別れようとは思わない。それからサリナ」
「はい? あぁン痛いぃ・・」
 両方の乳首をつまんでひねり上げる女王。綺麗な乳房が乳首で吊られて奴隷の眸は潤むように輝いている。
「自虐のサリナですけどね・・ふふふ・・」
 女王は微笑む。ギラギラ眸の底が輝く怖い笑みだと奴隷は感じた。
「写真を出していく。性奴隷のサリナの真実の姿をね」
 いつか顔まで晒してやろう・・このとき友紀は自分の中で制御を失っていく激しい想いを自覚していた。

 リビングのソファの前でサリナに奴隷のポーズをさせておき、女王は二つの乳首を弄びながら奴隷の眸を見据えていた。
「留美のことよ考えてるのは。あの子はいま出会ったばかりの新しい性に酔っている。ユウという生き方に打ちのめされて・・それは私やサリナもそうだけど、自分の中に眠っていた女の魔性に戸惑ってるだけなんだわ。あの子はもうすぐ二十八。女の人生で大切な時期にいる」
「はい。結婚ですよね」
「それもあるけど生き方を見据えて動く時期と言ったほうがいいでしょう。マゾヒズムを見つめるならそれもいい。ある日突然好きな人ができて妻への道を歩むなら祝福してあげたいし。私には二人の奴隷は必要ない。だからサリナを留美に貸し出す。あの子の知らないことを教えてあげて」
 どういうことか? サリナは戸惑い女王の瞳を見つめていた。
「わからない? サリナと留美の二人だけの関係をつくりなさい。S女として留美をしっかり躾けておやり。レズがいいならそれでもいいし、私は口を出さないから」
 このとき友紀は、それもサリナへの調教だと考えていた。自分を必要としてくれる若い留美がいてくれる。そして一方、自分を必要とする女王がいて、いつか男に貸し出される日がくる。
 女の性のすべてをサリナに与えたいと友紀は願った。。

「サリナを見てて思うのよ。おまえは苦痛系のマゾヒズム。泣いて果てて生きていたいタイプだわ」
 サリナは眸を潤ませてうなずいた。自分のことをわかってくれてる。女王への思慕の念がわずかな涙となっていた。
「留美の人生をよく考えて、いいと思う女にしてやればいいからね。わかった?」
「はい、女王様」
「おいで」
「はい・・あぁぁ女王様・・嬉しい・・」
 やさしくひろげられた女王の腕に全裸の奴隷は吸い込まれて抱かれていく。唇が与えられ、喜びにサリナは震え、女王と二人のベッドに誘われて夢の中へと溺れていく・・。

 その日の友紀は及川治子と川上留美を伴って朝から取材。不倫をテーマに二人の人妻に会った後、留美には別件を回らせて、雑誌のために治子と二人でもう一人の人妻の元へと会いに行く。雑誌のほうで不倫は不変のテーマ。レズやSMでは普通の女性には距離がありすぎて敬遠されるということだ。

 船越香代子、四十二歳。すぐそばに家がありながら家族とは別居している。夫は夫で不倫。互いに黙認し合う典型的な仮面の夫婦。しかし訪ねてみると、まさかと思えるほど落ち着いて静かな女性。独り暮らしの小さな部屋は恋する乙女の部屋のように華やいで綺麗にされていたのだった。
 訪ねて来た相手は二人で一方が明らかに若い。香代子は友紀に向かって言う。
「あなたはお子さんはいらっしゃる?」
「いいえ、DINKSですから」
「DINKS・・そういう女の人って増えてるみたいね?」
「どうでしょう、そうは言われますけど少なくとも私の周りにはいませんし。それならシングルの方が楽だって思うのかもしれませんよ」
 香代子は眉を上げてうなずいた。
「ほんとね、そう思う。私には高校生の息子がいますが子供を持ってよかったと思ってましてよ。女の使命は果たしたかなって。ご主人のことは愛しておいでよね?」

 友紀は穏やかに微笑んだ。ちょっと前までならカチンとくる話題。そこだけには触れて欲しくない。琴線に触れる話題だった。
「愛してますよ、もちろん」
 香代子は若い治子と対比するように視線を行き来させて、ちょっと笑った。
「少子化が進むはずよね。女だから本能に従うような人が減ってきてるんだわ。仕事だって楽しいでしょうし、核家族の中で子供を持とうとするとどうしたってつきっきりの時間が生まれる。おなかがせり出し、出産し、乳児の間は目が離せない。だけどそれが女の喜び。子供を持たない女の人って、自分勝手で、すごく利己主義な気がしますけど」

 そばにいて、治子はハラハラして聞いていた。友紀は内心穏やかではないだろうと。しかし友紀はうなずいた。
「そう思います、私なんて女失格、きっとそうだわ。私らしく生きようとすると世間のレールにはのれないなって思ってしまう。どうしようもない女なのかもしれませんね」
「ご主人はそれでいいの? 子供は望まない?」
「ええ、主人とも話した結果の不思議な夫婦なんですよ」
「・・そう。ごめんなさいね、立ち入ったことを訊いてしまって」
「ふふふ、いいえ。それを言うならこちらがそうです、立ち入ったことを伺うためにお邪魔していますから」

 香代子は笑って、治子と友紀を交互に見た。
「発端は私のほうなんですね。夫との夜がなくなって、そのとき息子は中学で母親の手なんて必要としていない。私はもう必要とされないのかしらって思ったときに・・めくるめく出会いがあって、のめり込んでいってしまったの。セックスよりぬくもりだなんて言いますけど、そんなの嘘だわ。求められて濡らしてしまう。後ろ髪を引かれながら、それでも肉欲に勝てなくなった。その頃は私も若くて、この人の子供を産んであげてもいいと思ったし。私は本能に逆らえない。弱い女なのかもしれませんね私なんて」

 友紀は自分のことを強いなどと思ったことは一度もなかった。母親となって我が子だけに眸を向ける自分の姿がしっくりこない。性別よりも人として人生を楽しみたい。そう考えてきただけだった。
 友紀は言った。
「強い女なんているんでしょうか? 私なんて赤ちゃんを育てる自信がないだけかもしれないなって思いますけど・・」
「ふふふ、おわかりよね、きっとそうだわ。無条件に弱い存在に向き合うのが怖いんでしょうけれど・・」

 話し終えて外に出ると、夕刻前の長い陽射しが白い雲の輪郭を赤く染めて美しかった。すがすがしい風を感じる。
 治子が言った。
「ずいぶんはっきり言う人でしたね、ハラハラしちゃった」
「そう? 私が怒り出すとでも思った?」
 治子はちょっと斜めに上目使いで苦笑した。
「いまみたいなこと、ケイとも話すんです。男が嫌いなのに子供のこととなると話は違う。あたしたちってやっぱり女よねってケイも笑うし、あたしだって微妙だし」
「二人ともいつかは結婚?」
「わかりません。いまはまだ歳が歳だからいいんですけど、数年すれば三十なんだし、その頃どうなっているのかなって。ケイとの関係は変わりませんよ。お互い結婚したって適当にやってるって思うんです。ユウのことがあって・・」
 治子は口を閉ざして空を見渡す。
 友紀が言った。
「わかるよ、考えちゃうよね」
「ですね。いつどうなるかしれないなって痛感したし、そのとき女の使命を果たさないまま死んじゃっていいのかなって・・」
 それは留美もそうだろうと友紀は思う。母親になる夢の直前で逝ったユウと、いままさに夢へと向かうyuuとの対比は、若い女心を決定的に揺さぶるもの。
 友紀は言った。
「そう言えばyuuちゃん臨月よね」
「ですね・・早いものです、もうそんな・・」
 yuuを思えばユウを想う。それきり口をきかなくなった治子の背を友紀はそっと撫でてやる。

「そう、女の子・・おめでとうございます」
「じつを言うと腹にいるときからわかってたことだけどね。それがまたyuuそっくり、笑えるほど似てやがる」
「友紀にはそれを?」
「まだだよ。さっき電話を入れたら留守電だった」
 香代子への取材中の出来事だった。
「ところでサリナ」
「はい?」
「おまえが幸せなのは友紀を見てればわかる」
「そうですか? ンふふ・・はい」

 地下鉄の駅へ向けて治子と並んで歩きながら、友紀は携帯をチェックして着信に気づく。着信があったというだけで留守電には残されていなかった。バロンのマスター。ぴんと来た。
 友紀は電話を耳にした。
「へえぇ女の子だった? それでママは元気なんでしょ?」
「もちろん。yuuのヤツめ、泣いちゃって・・」
「うん・・おめでとうパパ、よかったよね無事に産まれて」
 治子はそばで眸を輝かせて聞いていた。
 電話を切って友紀は言った。
「ダブルパンチってことのことだわ」
 DINKSに迷いが生まれたわけではなかったが、考えさせられた直後の話。治子は、今度はあべこべに友紀の背中をそっと撫でた。

 そんなとき別枠で取材に臨んだ留美からの電話が入る。
「終わった? ご苦労様。いまどこ?」
「いま出たばかりですから茅ヶ崎です」
「うん。私は今夜は自宅だから、留美はサリナのお部屋へ向かうのよ」
「サリナさんの? それは・・?」
「可愛がってもらいなさい。それだけ言えばわかるでしょ?」
「はい・・でも、そんな・・二人きりなんですよね?」
「サリナはいい女王様よ、甘えてらっしゃい」
 電話の向こうで息を乱す留美が可笑しい。友紀は治子と眸を合わせ、治子がくすりと笑うのだった。
「あたしも帰ろ・・ケイに逢いたい」
「何言ってるの、毎日一緒にいるくせに」
「じつをいうと、ちょっとマンネリだったんですよ。だけどケイがSっぽくなってくれて・・むふふ」
「・・何だよ、にやにやしちゃって?」
「むふふ・・」
「もういい・・わかったから、とっとと帰りな」
 駅まで一緒で、別れ際に治子の尻をひっぱたいてやり、友紀は途中で行き先の違う電車に乗り換えた。

 いつもより少し早く戻った友紀。戻って早速、ロボット掃除機を這わせておいて夕食の支度に取りかかる。ここのところ取材が続いて忙しいのとサリナのこととで夫とのタイミングがズレている。意識してサリナと二人きりにしてやって、それでどうなるか、夫の変化も気になった。刺激されれば男は変わる。少しぐらい変わっていてほしいと考えた。
 愛していても平穏すぎる時間は馴れ合いを生んでしまう。夫がもしもサリナに心を奪われていたらと考えると、尽くさないと捨てられる・・今夜の友紀にはマゾヒズムが渦巻いていた。
 女の性が燃え上がる。どうしようもなく濡れはじめる感覚に、友紀は女の喜びを感じていた。
「どうしようもない妻だわ・・どうかしてる・・わかってるけどどうしようもないんだもん・・悪い女ね、あたしって・・」
 苦笑しながら、今日は焼き肉。部屋着にしている薄いコットンワンピを全裸で着て、エプロンだけは身につけた。生地が薄すぎて前の毛が透けてしまう・・乳首のツンツンが隠せない・・そんな妻に夫はどう反応するのだろう。独身時代に試したときのような、わけのわからないときめきが生まれていると友紀は感じた。

 支度を済ませ、肉を焼くだけに整えておいて、そしたらそのとき玄関に気配がした。支度を終えてエプロンなんてしていなく、ヌードラインの際立つ姿で迎えに立った。
「お帰りなさい」
「うむ・・ふふふ、どうしたそのカッコ?」
「うん・・ねえ、あなた・・ハァァ・・」
 どうしたことだろう・・そのときサリナのように息が燃えだし、眸が据わっていくのがわかる。
 お願いあなた、命じてちょうだい。ひざまづいてしゃぶれ・・脱げ・・何でもいいから命じてちょうだい・・激しい性欲に衝き動かされる友紀だった。

 だけどそれは口には出せず、背を向けて奥へと歩もうとしたときに、手を持たれて振り向かされて、ひったくるように抱き寄せられて、妻は夫の眸を覗き込む。
 何も言わずに組み伏せて・・唇はキスを待っているし、濡れる性器は陵辱の指先を待っている・・。
 私はどうしてしまったのか・・キスさえまだなのにイキそうになっている。
「サリナはいないようだな?」
「いないよ、どうして?」
 怖かった。おまえなんか飽きたよ・・そう言われたらどうしよう。妻の眸に涙が浮かんだ。

「腹減った、飯にしてくれ」
「はい、支度はできてるから・・ねえ、あなた・・」
「早くしろ、ほら!」
 後ろを向かされ、本気でパァンと尻を叩かれ、妻は身を震わせて夫の胸へとすがりついていくのだった。
 夫に見透かされていると感じていた。
「喰ったら、お仕置きだな」
「うん・・はい・・」
 口だけのことだとわかっていて、妻は夫の愛を確認していた。

2017年02月10日

DINKS~フリーランサー(三八話)


三八話


 それから一月、サリナはちょくちょく友紀の自宅を覗くようになる。それでなくてもサリナは週に一度は渋谷で仕事。笹塚にある友紀のマンションを覗くのに不自然はなかった。
 日によって、夫の直道が先に戻り、サリナと自宅で会う約束をしておきながらイレギュラーがあって友紀が少し遅くなる。夫の直道とサリナは二人きり。そんなシチュエーションになるのだったが、それも自然な流れであったことだろう。

 サリナには男を誘うスタイルを命じてあった。そのうちにはサリナに夫を誘わせて間違いぐらいは冒してほしい。関係を疑った妻は興信所を雇って写真を撮らせ、浮気な夫を追い詰めていく・・そうでもして夫には憎まれて別れたかった。別れてあげないと夫は肩身の狭い思いをする。
 サリナの仕事にも変化があった。三十七歳となり、そろそろ現場を離れて管理にまわってほしい。そんなことでサリナは仕事を辞めようと考えていたのだった。日々レオタードを着ていてはサリナだって奴隷に徹することはできない。ハイレッグのレオタードでは鞭痕を隠せないし、仲間たちとシャワーではボディピアスも許されない。サリナは身を捧げた性奴隷。そうして生きたいと願っていた。
 いくつかの条件がぴたりと合って実行に移した作戦だった。

 そしてそれより先に、留美が心の変化を友紀に告げた。M女の幸せを知ってみたい。一心に従うサリナを見ていて心がマゾへと傾倒した。彼のいないいまのうちに知っておきたい。そんな気持ちもよくわかる。留美はこう考えた・・私にはDINKSなんてムリ。結婚したらきっと子供が欲しくなり人並みの暮らしになっていくと。
 友紀を取り巻く二人の女が友紀に女王になれと言っている・・私はやはり子供を持たずに生きていたい。サリナには女王として、三浦には奴隷として・・そんな私が心地いい。もう直道の妻ではいられないと考えた。
「留美が言うのよ、知ってみたいって」
 サリナはちょっと苦笑した。
「そんなものじゃないんですけどね・・気持ちはわかるし、あの子はMよ。それはそうでもMを知ればいつか苦しむ時期がくる。yuuちゃんのように運よくS様と巡り会えるとは限らない。ニセSなんてごまんといるし引っかかるのがオチなんだから」
 夫のことはしばらくおいて留美が先だと友紀は思う。若い激情は道をそれると危険・・教えてやらなければと考えた。

 その気があるなら下の毛を処理していらっしゃい。そこにはサリ
 ナもいるけれど、治子やケイにも見つめられる。
 あのときのサリナのような恥辱の一夜を私は用意してやったの
 でした。

 貸別荘。留美のほかは皆が女王。いいえ、サリナと治子が上位
 にいるもっとも下級の性奴隷。常識ではない性の怖さに尻込み
 させてやりたかった。突っぱねては可哀想。誰もがそうであるよ
 うに、女は思い込むと満たされない欲求に悶々として仕事も手
 につかなくなる・・それだって留美は、ユウのためにも女の心に
 深く切れ込み、いい本にしたいと願っている。
 だから性の世界へ自分を解き放ってみたい。かつての私がそう
 だったように、留美は自分の性をまっすぐ見つめてもがいてい
 る。

 サリナ、治子にケイ・・私を含めた四人の着衣の女にほくそ笑ま
 れ、震えて脱いだ留美を見て、陰毛を自分で処理した覚悟を
 くんだ。
 平伏して留美は言った。服従をお誓いします、四人の女王様。
 いいわよ、わかりました。Mの想いを知るがいいわと私は心を
 決めて留美を見下ろし、私はサリナに、ケイは治子に、それぞ
 れ房鞭を持たせてやる。
 両手で吊られた真っ白な裸身が美しい。飾り毛を失った白いデ
 ルタに、すでに濡れる性器が見えた。
 私とケイがほくそ笑んで見つめています。ケイも治子も三つも歳
 下。しかも治子は仕事仲間。恥ずかしく、怖くなる条件は揃って
 いたはず・・。

「いいわ、たっぷり泣かせてやりなさい」
 と、友紀が言う。
「厳しくね」
 と、ケイが笑う。
 ユウのことがあってからしばらくぶりに観るケイは、すっかり女王の顔をしていた。女は心の置き場で面色までが変わってしまう。そんな中で留美ははたしてどうなるか・・可哀想に、残酷な女四人で試す場になると皆も思うはずでした。

 鞭を持つサリナと治子。とりわけサリナは厳しい鞭を浴びせかけ、吊られた女体がくねりもがいて留美は声を上げて泣きだした。
「泣いてもダメ! まっすぐ責めに挑みなさい!」
「はい、女王様・・痛いです、あぁ痛い・・」
 治子も笑い、革の束を綺麗な乳房に浴びせていく。
「きゃう! あぁン痛いぃ・・」
 サリナの鞭が下から性器を打ち据えた。
「ぁきゃう!」
 見る間に裸身が染まっていき、留美の眸が溶けてきて悲鳴が甘くなっていく。M性が強いと友紀もサリナも感じていた。

 友紀は言った。
「・・マゾよね」
 ケイがくすっと笑う。
「ほんと・・感じてるし、いい奴隷になる子だわ」
 友紀とケイは二人揃って乗馬鞭を手にして立って、サリナと治子と入れ替わる。ケイは前から毛のないデルタの底へ無造作に指を突っ込んで、友紀は後ろから抱いてやって、両方の乳首をつまんで愛撫する。
「ハァァ、ぁン、ハァァァ!」
「ふふふ、いいみたいね?」
 と、ケイが微笑み、友紀は後ろからまわす手に力を込めて乳首を責めた。留美の裸身がしなってもがく。
「ほうら痛い・・可哀想ね留美・・だけどまだまだ許さないから」
「あぁン痛い・・感じちゃう女王様、ありがとうございます、嬉しいです」

 留美の裸身を間に挟んで二人の女王は目配せし、ケイは前で横振りの鞭先で乳首を狙い、友紀は後ろから尻を狙って強い鞭を打ち込んだ。
 きゃうきゃうと泣きじゃくる留美。後ろから友紀が言う。
「ユウを思って必死なんだもんね?」
「はい、女王様」
 前からケイがほくそ笑んで言う。
「サリナさんに憧れてるんだもんね?」
「はい、ケイ様」
 ケイが声を大きくした。
「だったらもっと泣きなさい!」

 ケイはふたたび性器を嬲り、友紀は数打の乗馬鞭で血腫れの浮き立つ尻を撫でる。
 ケイが言った。
「どう? マゾは幸せ?」
「はい・・ハァァ・・私はマゾです・・はぅ・・ぁ・・」
 気をやって崩れる裸身。心がイッて気を失うマゾのアクメか、留美は膝が折れて垂れ下がり、友紀とケイとで前から後ろから抱き留めた。
 手首の縄が解かれて板床にだらしなくのびた留美。
 友紀は言った。
「はじめてなのによく耐えたわ。サリナ、可愛がってあげなさい、ご褒美です」
 ケイが言った。
「治子も脱いで! 失禁するまで狂わせてやればいい!」

 友紀とケイはため息をついてソファに沈み、傷のない綺麗な裸身のM女二人に責め具を持たれて嬲られる、全身を鞭で赤くされた留美を観ていた。
 女とはなんと淫らな・・だけどそれが女の魔性・・牝の幸福。
 私はもう夫の妻ではいられないと、あらためて考えた友紀だった。

 濡らす濡れるをテーマとした最初の取材。相手は人妻で、一見してまるでイメージの湧かない貞淑な人だった。
 郊外の戸建てに住んで子供が二人。夫とは冷えていて不倫予備軍といったところ。テーマを決めて公募の告知をした直後にメールをくれた相手だった。友紀と留美で日中自宅を訪ね、夫も子供たちもいない静かな部屋で話していた。部屋は綺麗にされていて、友紀はトイレを借りて探ってみたが、すみずみまで綺麗にされた、妻の人柄を表すような家。

「濡れるというテーマで思いついたのは自慰なんです。妄想というのでしょうか、いろいろ考えて、そうすると濡れてきて・・恥ずかしいんですけど下着の中へ・・」
 頬を赤らめて話す初々しい妻。歳は友紀より二つ上の三十七だが、じきに重ねて八になる。学年ではサリナよりもひとつ上。やさしい体つきの眸の綺麗な人だった。
 友紀は、この取材を留美に任せてみようと考えた。想いの半分も言えないのが普通の女。聞き出すにはこちらから体当たりしなければならなかった。
 友紀は上司としておとなしいパンツスタイル。留美はミニスカートで、ソファに座ると対向の彼女からならパンティさえも見えそうだった。
 若い留美は身を乗り出して言う。

「妄想というとどんな? 私もじつはそういうことがたびたびあって・・女なら誰しもそうでしょうが私の場合はSMなんです」
「まあSM・・?」
「Mなんです私って。女の人にも興味があって、縛られて責められるみたいことを妄想して濡らしてしまって・・」
 横から友紀がフォローする。
「今回のテーマはこの川上が案を出して決まったんですよ。濡らしているときの女ほど美しいものもないって言って」
「あらそう・・私は自分のことをヘンなというのか、飢えてるみたいに思ってて」
 友紀が問うた。
「ご主人とは?」
「とっくです。上が十歳、下が八つ。子供たちはそんなですもん」

 相手は律子と言う女性。律子は普段着ではないスカート姿で取材に臨み、ソファに座ることで少しミニとなっていた。ぴたりと膝を合わせて座っている。落ち着いたムードはいかにも主婦といった感じ。そんな律子が瞳を輝かせて留美に向かった。
「それなら私も・・そういうことも考えたりして、怖いんですけど震えてきちゃって・・」
 留美が言った。
「お道具とかは? バイブとか?」
「いいえ、まさかそこまでは・・日中誰もいませんから、その・・カーテンを閉めてしまって・・」
「ヌード?」
「ええ、それもあります・・裸になるだけでドキドキしちゃって・・だけどますます濡れてしまってたまらなくなるんです。指をやると洪水で・・嫌ですね女って・・おかしくなってしまいそう・・」

 友紀はそばで留美の横顔を見つめていた。
「いいえ、飢えてるなんてそんな。だから女は素晴らしいんです。誰にも見せない姿を誰もが持ってる。私なんて・・ふふふ、自分でイチジクを使って苦しんでみたりして」
「はぁ・・浣腸ですよね?」
「そうですよ。洗濯バサミで乳首を虐めてみたり、もちろん裸ですごしてみたり・・」
「ディルドとかも?」
「持ってます。妄想が妄想を生んでたまらなくて買っちゃった」
「あらそう・・ネットで?」
「それはそうです、まさかショップへ行く勇気もないし・・だって書店でエッチな本を手に取ることもできなかったし・・」

「私は・・街中で素敵な人に声をかけられて、ふらふらついて行ってしまうとか・・そしたらその方がS様っていうのか、ちょっとそれっぽくて犯されるみたいに・・はぁぁ恥ずかしい・・お話してても濡れてくるみたいな気がして・・」
 留美はやさしくうなずいて微笑んだ。
「投稿はもちろん匿名ですから思いつくことをちょこちょこ書いていただいて、メールしてくださってもいいですし・・それでひとつお願いがあるんですが」
「お願い? ええ、それはどんな?」
「多くの女性が共感できる素直な本にしたいんです。ですからせつない想いを綴るつもりで、そのとき濡らして書いてほしいんです。ギャラのためだからって醒めて書かないでほしいんですよ。本づくりに参加して心が潤った・・みたいな感じで濡らしながら素直に書いてくださいね。そうすれば読んだ私もきっと濡れます、女ですもん共感したいし」
 律子は迷いをはらえたような笑顔になってうなずいた。

 外へ出て友紀は言う。
「いいわよ、いまみたいな感じでいきましょう。ただし、得てして同じような話になってしまうから相手を見て誘導してあげないと」
「そうですね、ふふふ、女っていいなと思います。素敵な奥さんなのに旦那って馬鹿だなぁって思ってしまった」
 うなずいて微笑みながら、留美の雰囲気がソフトになったと友紀は感じた。留美にとってのはじめての取材はいいムード。声を引き出すというよりも女同士が曝け出す場になっている。
「これからはときどき別行動ね、私は私で回るから留美は留美でうまくやってちょうだいよ。ユウだって期待してるし、それにほら、治ちゃんのこともほっとけないし」
「はい、やります私、何が何でもいい本にしたいから」
 友紀は留美の尻をぽんと叩いた。
「サリナも言ってたわよ、留美はいい子だって。可愛がってあげるから覚悟してついてらっしゃい」
「はい、女王様ぁ」
「あ、馬鹿ね、人前で言うことじゃないでしょ・・ふふふ、お仕置きするよ」
「はぁい・・ンふふ」
 熱を持ついい眸をする留美。藪蛇になってしまったと友紀はちょっと苦笑した。ユウもあのときモモと出会って生き方を見定めた。留美なりの生き方探しに必死なのだと考える。

 その日の夕刻、久しぶりにバロンを覗いた友紀。しかしそこにyuuはいなく、マスターが一人で店じまいの準備をしているところ。
「あれyuuちゃんは?」
「家にいる。そろそろ腹が」
「うん・・そうよね、早いものだわ」
「まったくだ。ユウちゃんもいまごろはそうなるはずだった」
 ちょっと前まで避けていた話題。いい思い出として話せるようになっている。
「留美ちゃんも治ちゃんも必死だわ。ユウが見てるって今日も残業なんだもん」
 マスターはうなずくと珈琲を支度する。
「ねえマスター」
「お?」
「別れようかって思ってるの、旦那と。DINKSなんて私の身勝手だったのかなって思うしさ・・」
「子供のことか?」
「それもあるけど、サリナが好き・・どんなことでもしてあげたい。私の半分なんだもん」
 細川は珈琲に湯を流しながら黙って声を聞いていた。

「それに上司とも関係ができちゃった。凄い人なのよ、オトコって感じでクラクラしちゃう・・適度にSっぽいし・・」
「はいよ珈琲」
「ありがと」
 友紀がカップを取り上げようとすると細川は小声で言った。
「それこそ身勝手だと思うがね」
「え・・」
 眸と眸が合った。
「先方への気づかいもあるんだろうが子供が欲しいだろうから身を退くなんて、俺が旦那なら怒ると思う。友紀らしくない。あなたの人生をちょうだいって感じでいたほうが、むしろ許せる。愛の量が違う妻を誇るだろう。友紀は何もわかっちゃいない。サリナ、ユウちゃん、治ちゃんやケイちゃんもそうだがウチのyuuもだ。周りの女たちをつつんでやっていることに早く気づけ。旦那だってそうだぞ、好きだから許してる。逃げたらそれこそ裏切りだ」
 友紀は言葉を失って細川を見つめていた。

DINKS~フリーランサー(三七話)


三七話


 サリナの部屋はLDKが広く、キッチンからオープンカウンター越しに四人掛けのダイニングテーブルが置かれていて、その周囲のフロアはフローリングとされていたのだが、そこからリビングに向かってわずかな段差があってソファのあるリビングが低く、そちらは段差で切り返してカーペット敷き。
 テーブル間近のフローリングにパスタとサラダを盛り付けた大きな皿を置いてやり、全裸の奴隷にテーブルに尻を向けさせ這わせておいて、手を使わずに食べさせる。
 ユウの死から逢えていなかったサリナの裸身からは鞭痕も消えている。性奴隷らしく美しい裸身の奥底までを晒して餌を与えることになる。

 友紀も留美も下着姿。友紀は今日、厚手のシャツで出社したから下着は黒。留美は薄いブラウスに透ける淡いピンクの上下だった。
 女王とゲストが性を感じる姿になると、調教の空気を察して奴隷は濡れる。股間に飾り毛のない奴隷の性器はすでにいやらしく濡れていた。
 まさに牝犬そのもののサリナの尻に横目をやって友紀は微笑み、同じようにしきりに眸をやっては瞳を輝かせる留美を見て友紀は言った。
「もう濡らしてる、いやらしいマゾでしょう」
「ふふふ、ほんとです。でも可愛い」
 留美はオフィスではクールなタイプなのだろうが、こうして観ると母性が強く、サリナが可愛くてならないようだ。やさしい気持ちが透けて見え友紀は胸があたたかい。

「ところでDINKS志望らしいけど、結婚してもそのつもり?」
 なにげに友紀が訊いたことで留美は考える面色をした。
「そうなりたいと思ってますよ。友紀さん観ててもいいなって思いますし、私だって仕事は続けていたいから」
 言いながら留美はちょっと深い息をして、尻を上げて性器を晒すサリナへとふらりと視線を流すのだった。
「この仕事で考えさせられることもあって自由でいられればいいなって思うんですけど・・でも・・」
「でも? 留美って子供が好きなんじゃない?」
「いえ、そういうことじゃなく・・問題は親なんですよ。相手の親だってきっとそうだと思いますし。私は一人娘、そろそろ二十八で、すでにもう早く結婚しろってうるさくって。旦那とはよくてもそういうこともありますからね。孫が抱きたくてうずうずしてるのがミエミエなんですもん、私の母が」

 それは友紀もそうだった。結婚からしばらくして自分の親にも言われていたし夫の親からも子供はまだか・・。友紀の方は娘だから、娘が望まないならしょうがないで済んでいても夫の親はそうはいかない。夫の直道には妹がいたが直道は長男。向こうの親にしてみれば誰が継ぐということなる。直道はきっぱりするタイプで、口を出すなとぴしゃりと言ってあって妻には直接言おうとしないし、直道だって実家の内情を持ち出したりはしないのだったが、陰で何を言われているかと考えると手に取るようなもの。先のある頃ならまだしも三十五にもなろうとすると時間の猶予もなくなってくる。

 留美は言った。
「それとやっぱりユウなんですよ。おなかをさすって嬉しそうにしていた顔が忘れられない。おなかに入るとそんなものかなって思ってましたし。友紀さんて、そのへんは?」
 友紀はちょっとうつむいて浅くうなずいた。
「旦那とも話すわよ、ほんとにそれでいいのって。だけど彼は信念あってのDINKSだって。それは私もそうだからいまのところは文句なし。でもね、向こうの親が何を言ってるかなんて見え透いてる。以前はときどき電話ももらってたんだけど、ここしばらく音沙汰なしよ」
「怒ってるとか?」
「なんて嫁だよって感じじゃない? 私の方もそうだけど古い親たちにすれば、子供がいらないなら結婚しなくていいでしょうってことだもん」
 そして友紀は、四つん這いで食べながら顔を向けたサリナを見た。
「シングルならいいのよ。結婚しないんだからしょうがない。私もね、ユウのことがあって自分の子宮と話したわ、それでいいのって」
「で?」 と、留美は探るような眸を向けた。

 友紀はサリナへ微笑みかけて言う。
「私はいいの。旦那がちょっと可哀想かなって思うぐらい。世間からすれば子供を望まない妻なんて悪妻でしかないでしょう。夫婦納得ずくのつもりでも旦那の周囲がどうかなのよ。妻が嫌がってるみたいな感じ? 子供も持たず好き勝手にやりたがる悪い女をもらっちゃって・・ぐらいにしか思っていない」
 と、留美がちょっと上目づかいに、すまなそうに言うのだった。
「そのへんもじつは・・」
「誰かに何か言われた?」
「私が言ってたって内緒ですよ。じつは及川ちゃんが・・」
「治ちゃんが?」
「ううん、そうじゃなくて。及川ちゃん、下でいろいろ言われてるって言うんです、雑誌の方で」
「何を?」
「いま言ったみたいなこと・・奔放とか悪妻だとか。及川ちゃん、腹が立ってしかたがないって言ってました。仕事をそっちのけに他人のことばかり陰でこそこそ・・」
「なるほどね。出所はだいたいわかるわ、あのへんでしょ?」
「そのへんです。及川ちゃんが言ってたのは、雑誌にしろ本にしろ、女たちに余計なことを吹き込んで扱いにくい女ばかりを増やしてるってことなんですよ。ほら、近頃って飲みに誘ってもいやがる子ばかりじゃないですか。古いんですよ発想が。定時を過ぎたらオフって感覚がないって言うのか」

 そんなことだろうと思っていた。むしろ体質の古い書籍のセクションの方が、かつてなかったことだけに新鮮に受け取られている。
 しかしだから治子は雑誌に留まって見返してやろうとしている。友紀はそう考えた。しかし・・。
「ユウちゃんのことにしたって・・」
 留美の面色が曇っていく。留美が何を言うかは想像できた。ニューハーフを夫に選ぶなんてどうかしている・・そんなところだろう。友紀はその先を聞きたくない。
「とにかく留美」
「あ、はい?」
「治ちゃんをアシストしてあげて私たち三人でどっちもやるって感覚にならないと」
「ですね、そう思います、ユウの分もやらないと気が済まないもん」
 友紀は笑って、飲み残しのオレンジジュースを口へ運んだ。

 ふと見るとサリナは食べ終え正座をしている。
「もう食べちゃった?」
「はい、女王様」
「美味しいわよ、サリナは料理が巧いから」
「はいっ! ンふふ」
 褒められて嬉しそうな全裸の奴隷を二人微笑んで見下ろして、女王は言った。
「お皿の片付けはいいから留美ちゃんとシャワーになさい。ちゃんと舐めて洗ってあげるのよ」
 それから留美にも言う。
「またがって舐めさせてやりなさいね、奴隷なんだから」
「ふふふ、わかりました・・可哀想ねサリナって・・」
 気分を変えて椅子を立った留美は、サリナを立たせて尻を撫でてやりながらバスルームへと消えていく。

 残された友紀は微笑みながらも複雑だった。
 妊娠を拒む性に奔放な妻・・夫の周囲でそんな陰口があるのなら彼に対して申し訳ない。治子のことより夫へのすまなさを感じる友紀。
 並べられた皿を重ねてキッチンに立ったとき、バスルームから留美の甘い声が流れてきた。
「あぁン、サリナ・・可愛いよ・・あぁーン」
 友紀は今度こそ微笑んで流しのカランをひねっていた。

「濡れる・・濡らすか・・」
「そうなんですよ、あの子やる気になってるし、じゃあ具体的にどうするかって話してるところです」
 月曜日。夕刻前の中央高速。
 友紀は三浦のクルマに同乗して大月からの帰路についていた。そこには印刷会社の工場があり、その責任者が代わったということで話に出かけた。時刻は四時過ぎでそのまま直帰ということになる。ユウの死から三浦とも二人きりになれてはいなかった。
 助手席で友紀は言った。
「どうしようもない想いを感じると女は濡れる。そのときって女はもっとも輝くもの。いまの私がそうですし・・」
「うむ・・ふふふ」
「・・私なら時間あります」
 相模湖インターでクルマは道をそれていた。相模湖あたりは都心から近いリゾートエリアでデートスポット。湖畔にはラブホテルが並んでいる。

 黙って動く三浦にどうしようもなく男らしさを感じる。友紀は体が火照っていた。ユウのことがあって出社した朝、デスクにピンクと赤の薔薇を活けた花瓶を置いてくれた心づかいが嬉しかった。繊細でやさしい三浦に友紀は濡れる。
「悪い妻です」
「ふふン、まったくだ」
 友紀は三浦のズボンの前を開けて脱がしながら、半ば勃起をはじめた男性にブリーフ越しに頬をすり寄せ腰を抱いた。三浦はスリムだったが筋肉ができている。
「いい体・・スポーツとか?」
「テニスを少し」
「いまでも?」
「ときどきね。仲間もいるし」
 黒いボクサーパンツが引き締まった腹筋を際立たせ、筋繊維の浮き立つ腿も男らしくて美しい。友紀は上着を脱いだだけで服を着たまま足下に膝をつき、ボクサーパンツを脱がせてやって、はじき出される男性にキスをした。
「ご主人様・・そう思わせてくださいね」
「うむ・・よく舐めてしゃぶれ」
「はい・・ハァァ、好き・・ご主人様・・」

 血管の浮き立つ茎裏を幾度も舐め上げ、舌なめずりして亀頭を見つめてほおばっていく。男の手が女の頭をわしづかみ、強い茎へと引き寄せて、友紀は吐き気をこらえながら応じていく。
「苦しいか、もっとだ」
 友紀はうなずき、強い茎の根元までを喉へと貫きピストンした。脈動するペニスが逞しい。友紀は激しく濡らしていた。
 髪をつかまれて引き剥がされて、三浦はベッドに沈んで腰掛けた。
「脱げ。いやらしく踊るように」
「はい、ご主人様・・あぁン、恥ずかしい・・濡らしてます私・・」

 私は淫婦・・このとき友紀はそう思い込もうとしていた。性にのたうつ淫らな牝・・マゾにだってなれそうな天性の淫ら・・男の突き上げを求めて濡れる性器を感じていたい。
 堕ちていきたい・・友紀は肢体をくねらせ脱いで、パンティの裏地の濡れまで三浦に見せつけ、床に這って尻を振った。

「ここよ、入って」
 その日の夜、友紀は自宅へサリナを誘った。仕事上で出会った女性と夫には言ってあり、原稿の打ち合わせということにした。ゲストはユウとも面識があり、落ち込む私を気づかってくれていると・・。
 サリナは腿がざっくり露わとなる黒革のミニを穿き、プロの化粧は洗練されて美しかった・・。

2017年02月08日

DINKS~フリーランサー(三六話)


三六話


 深夜になって、重体だったモモもユウを追うように逝ったと連絡を受け、友紀は独りきりの自宅で眠れない夜をすごしていた。このことはサリナには告げていない。出張先の夜、心を乱すだけでどうすることもできないからだ。

 モモこと桃山祐紀(ゆうき)はひとつ重ねて二十七になっていて、ユウはじきに二十四になるはずだった。モモとユウ、細川とyuu、治子とケイ、そして友紀とサリナ、それぞれの愛に前向きに歩んでいたのに、二人の死は暗雲となって心を覆う。いやおうなく自分の愛のカタチを考えさせられる友紀だった。
 ユウと同時期に妊娠したyuuもおなかが目立ち、母親となる幸せに満たされている。おなかの子と家族三人で旅立ったユウの無念を思うと身を裂かれる想いがした。
 子供を持たない生き方は、それでいいのか・・友紀は考えさせられる。

 翌日オフィスに出てみると、誰より先に三浦が来ていて、ユウのデスクに花瓶が置かれ、ピンクと赤、美しい薔薇が二輪、活けられてあった。
 モモ色と、愛に生きた真紅のユウ。そんなことを考えたのだろうと友紀は思った。地味な仏花では若い二人に似合わない。
「このお花、三浦さんが?」
 三浦はうなずきもせず、薔薇となった若い夫婦を見守っているようだった。
 向かい合わせにデスクの並ぶコーナーに、友紀、留美、そしてユウのデスクが並んでいた。友紀の隣りに留美がいて、その対向がユウ。わずかに遅れた留美は泣き腫らした眸を化粧でごまかして出社した。
 三浦は二人の後ろに歩み寄ると黙ったまま二人の肩に手を置いた。振り向く留美は眸が赤く、友紀は放心したように力がない。

 とそこへ、階下のルームに出社した治子がやってくる。治子はデスクの薔薇を見て「ユウちゃん」と言ったきり目頭を押さえて立ち尽くしてしまっていた。
 オフィスに次々に仲間が集まり、皆がユウのデスクを囲んで掌を合わせた。しーんと静まり返った空間に今日はじめての電話が鳴って、それぞれ自分のデスクに散っていく。
「三人とも、ちょっと出よう」
 ここでは話せないと言うように三浦は言った。

 外はせめても気持ちよく晴れていた。揃って歩き出してすぐ、三浦は空を見上げながら言った。
「ポシェットに手帳があって、君たち三人、それに俺の名刺も入っていたそうなんだ」
 うっ・・と、留美のかすかな嗚咽が聞こえた。
「駆けつけようとしたんだが・・それどころじゃなかったよ。他人の入り込む余地はない。双方のご家族に連絡して・・それしかしてやることができなかった。産休の間に小説でも書いてみるって言ってたんだが・・」
 友紀が言った。
「そうですか私たちの名刺を・・仲間だと思ってくれて・・」
「うむ・・ふぅぅ!」
 三浦の声が震えた。ふぅぅっと、ことさら息を荒くして涙をこらえる三浦。
「こういうとき上司とは辛いものでね、後をどうすると考えなければならなくなった。産休もあってそのうちにはと思ってたんだが、いずれにしろ川上君だけでは厳しい。及川君には雑誌のほうで頑張って欲しいし。一言、口惜しいに尽きる」
 ユウの分まで頑張らなくちゃ・・言うまでもなく同じ思いでいた仲間。

 葬儀は月曜と決まり、その前日、本来休みのバロンに、友紀、サリナ、留美、治子にケイと、皆が顔を揃えていた。それぞれ沈痛。ユウの面影を噛み締めている。
 ボックス席に女たちが揃って座り、マスターだけが今日はエプロンをせずに珈琲を支度する。人数分を配って自分はマグカップ。細川が最後に座った。
 声のない空気を見かねて細川が言った。
「思えば、手記というのか、ここから旦那さんのところへ取りに行ったのがはじまりだった」
 友紀は笑った。哀しい笑みだ。
「最初からだわ。モモさんを一目見てときめいてるのがわかったもん。幸せの絶頂だった。いまごろ天国で仲良くしてる。ここで落ち込んでてもあの子は喜ばない。つきなみですけど一家で外国にでも行ったと思って幸せを祈ってあげましょう」
 皆が声もなくうなずいて、そのときサリナが、同席する留美の背に手をやった。留美は振り向き、泣き笑顔をつくってうなずいた。

 そのサリナが言った。
「あのときと同じだわ。人にはこういうことがある。だから女はそのとき燃えていないと可哀想・・」
 あのとき? 皆は淡々と話すサリナの面色を見つめていた。
「何年か前のこと。劇団にいた私は、若くて注目されてる後輩に役を奪われたことがある。その子は美人で踊りもできて役づくりにふさわしい。だけどもちろん口惜しくて・・だけどそんな矢先、同じような事故で彼女は消えた。死にはしなかったけど復帰できないだろうと言われたの。それでその役が私に戻り、そのとき私はやったと思った。『やった! これで舞台に立てる!』・・ひどい話なんだけど、それがプロというものよ。嫌な景色をさんざん見ながら、それでも笑顔で舞台に立ってる」
 自虐はそのへんの鬱積だろうと、もとより友紀は想像していた。サリナは本質のやさしい人。振り切っていても心の咎めはいつか自分を押しつぶす。

 サリナは言った。
「閃光を放って消えていったユウちゃんと知り合えたことを誇りに思うわ。彼女の想い、ここにいる皆の想いに囲まれて私は生きていられるの。だからね、ユウちゃんだってきっとそう、皆の想いを天国で感じていてくれるでしょうし、若くて綺麗なままずっと笑っていられるんだよ。いつまでも落ち込んでるとユウちゃん怒る・・きっと怒る」
 言いながら声の震えるサリナの手を留美とケイがぎゅっと握った。
 友紀は、あのとき作家の瀬戸由里子が言ったことを思い出す。『奴隷は
女王などよりずっと強い生き物よ』・・サリナこそ誇りだと友紀は思った。

 葬儀のあった月曜の夜に友紀の夫、直道は戻ってくる。昼過ぎのフライトで、そのまま社に顔を出し、普段よりずっと早く家に着く。葬儀を終えて友紀が戻ったとき直道は家にいて、黒いスカートスーツの妻を見て、そっと肩を抱き寄せた。
「喪服じゃないか、何があった?」
 友紀はちょっと夫の眸を見て視線をはずした。
「部下の子が交通事故で消えちゃった。おなかに赤ちゃんがいたのに家族三人揃ってね。彼女って二十三だったのよ」
「・・辛いな」
「ううん、もう大丈夫。皆もちろん泣いてたけど心で笑って送り出してあげたから。遺影の中であの子だって笑ってた。可愛い子なのよ天然で・・あなた・・可哀想で・・どうしてユウが・・」
 夫の強い胸で泣き崩れる友紀。直道はそっと抱きくるみ背を撫でてやっている。

 しばらくぶりに見る夫。少し痩せた気がしていた。
 愛する彼の子を残さなくていいのだろうか・・いまならまだ間に合う。
 ユウのことがなければ振り切れていたことが友紀の中で逆巻いていた。私は悪い妻ではないか・・別れてあげたほうがいいのではないか。そうすれば夫は新しい人と家族をつくっていけるだろう・・抱かれていながら良心の咎めのような感情が衝き上げてくる友紀だった。

「・・ねえ」
「うむ?」
 直道は妻の眸を覗き込み、ちょっと笑って額を小突いた。
「こう考えてるだろ、この人の子供を残さなくていいのかって」
「だって・・」
 直道はガツンと妻を抱き締める。
「そういうときいちばんマズイのは生き方を変えることだぞ。感情に流されて変わっていけばいつかきっと後悔する。信念があってDINKSと決めた。俺はそうだしおまえもそうだ。おまえはいい妻なんだ。俺がそれを求めない限り考えなくていいことなんだ」
「・・はい、ありがと」
 寄せられる唇から妻は顔をそむけて言う。
「喪服だだから着替えちゃう・・お帰りなさい、待ってたよ」
「うむ。明日は休みだ」
「そうなの? 私はダメ、数日仕事が手につかなくて溜まってるし」
 夫の手をするりと抜けて友紀は夫に背を向けた。

 主人に抱かれる。三月の間、私を離れた夫の体が戻ってくる。
 鞭痕の綺麗に失せた白い肌で夫に抱かれ、私は、私に対す
 るサリナの愛を思い知る。ユウのことがあってサリナとも逢えて
 いなかった。いちばんマズイのは生き方を変えること。夫に強
 さをもらった私は、今度こそ愛に生きたいと考えた。

 娼婦のように夫に尽くした。奴隷のように夫の心に応えてあげ
 たい。貫かれてあられもない声を上げ、突き抜けるピークへ向
 けて駆け上がる。ああイクわ・・イッてしまう。主人の想い、主人
 への想いを確かめるようなセックスに、私は満たされる女の性
 (さが)を感じている。

 多淫なのかもしれないと思うのですが、あふれでる女心はとめ
 られない。サリナもそうした女だし、留美なんて、サリナと私に
 自分を貸し出すと言ってくれ、三浦さんへの想いだって燃えて
 いる。ユウを送って泣いてくれた三浦さんを誇りに感じ、妻の
 気ままを許容する夫のことも心から尊敬できる。

 私はきっと濡らし続けて生きていく・・どうしようもない悪女なん
 だと自覚しながら、体の中で下向きに咲く牝花の声に逆らえず
 に生きていく。
 奴隷サリナに君臨する女王の準備はできていた。相手が奴隷
 なら女王に徹し、相手が主人や三浦さんなら奴隷になれる。

 女のセックスとは、なんて素晴らしいものでしょう・・。

「濡らすことをテーマとしたらどうかと思って」
 二人きりの会議室で留美が言った。
「それは?」
「オナニーや妄想でもいいでしょうし、たとえば露出とか、エッセイなんかを書きながら濡らすとか。こういうときに女は濡れるだとか、それがプラトニックなものであってもいいと思うんです、エロ本じゃないんだから」
「せつない想い? ときめきとか?」
「そうです。心が濡れるからアソコが濡れるみたいな、とにかく『濡れる』をテーマとするんです。手記でもいいし、よくある告白ブログみたいなものでもいい。あんな感じで濡れる性器に迫るというのか」
「そうするとタイトルは、たとえば何?」
「うーん、そこまでは・・『花の蜜』とか?」
「うん、それじゃ抽象的すぎるでしょうね。『性に潤う女たち』・・書店に立ってドキリとさせて手に取らせるものじゃないとダメ。読者は女性なんだし濡らしていたい願望を持っている・・ストレートに『女でいたい女たちへ』なんていいかも知れないよ」
 留美がやる気になっていると友紀は思う。階下では治子が燃えていると三浦から聞かされる。ユウへの想いが火柱を上げていると三浦も言った。

 今日は金曜。夫は早速忙しく、今日も泊まりだろうと言っていた。
「雑誌と違って時間はあるから持ち帰って考えましょ。濡れるなんてテーマはいいと思うわよ、具体的に何を取り上げるか、もうちょっと考えてみればいい」
「はい、そうします」
「で留美、今日これからサリナの部屋へ行くんだけど一緒にどう? 自分を貸し出してみる気ある? サリナは休みでお部屋にいるわ」
「あ・・はい・・はぁぁン、息が急に・・」
「ふふふ、馬鹿なんだから・・よければ覚悟していらっしゃいな」
「はい・・ンふ」
 心が性の側へと傾斜して艶めかしく笑う留美。女はこの瞬間が美しいと友紀は感じ、『濡れる濡らす』をテーマとするのはいいと思った。
「サポートはするから思うようにやってごらん。ユウが乗り移ったみたいにがむしゃらに」
 友紀は、ミニスカートで出社した留美の尻をバシンと叩いた。

 奴隷の待つサリナの部屋。ドアに立って友紀は言った。
「サリナさんなんて言っちゃダメよ、呼び捨ててやればいい」
「はい・・ドキドキしちゃう」
 ノックする。
「私よ」
「はい、しばらくお待ちを」
 わずかのタイムラグ。全裸となる時間差でドアが開けられ、紫色の首輪をした白いサリナが平伏して女王を迎えた。
「今日はお客様も一緒よ。さ、入って」
「はい、お邪魔します」
 背後から留美が覗くと、サリナはふたたび平伏して、ところが留美はたまらないといった面色で取りすがった。

「サリナさん可愛い、大好き・・ねえ好きなの・・」
 取りすがって全裸のサリナに抱きついて、キスをねだる留美。友紀は可笑しくなって留美の背中をひっぱたく。
「ちぇっ、これだよもう、やさしい子なんだから」
 留美は舌を出して振り向くと、穏やかに微笑むサリナにむしゃぶりついてキスをした。
「おやさしい留美様・・ありがとうございます、幸せです」

 玄関先に二人を残して友紀はすり抜け、ダイニングテーブルに並べられた夕食の支度を見渡した。大きなボウルに生野菜のサラダが置かれ、キッチンでは大きな鍋が湯気を上げる。
「パスタを茹でればいいだけにしてあります」
「それでいいわ、留美の分もね」
「はい、女王様」
 のびやかな白い裸身に黒のサロンエプロンがよく似合う。留美はダイニングテーブルの椅子に上着をかけると手伝うと言ってきかない。友紀は苦笑してリビングのソファに座る。キッチンから二人の明るい声が流れてくる。

 友紀は言った。
「サリナ! 仲良しなのはいいけれど留美はお客様ですからね。奴隷の体をたっぷり楽しんでいただくのよ」
「はい、女王様」
 そしてそのとき留美は言った。
「嫌ぁぁン、素敵すぎて震えちゃいます。お二人を見てると涙が出そう。羨ましいなって思っちゃうし私もMになりたいなって・・ああダメ、くにゃくにゃになりそう」

「はいはい」
 友紀は可笑しくてちょっと首を振り、ソファにごろりと横たわる。
「そのうちまた別荘でも借りて調教しましょ。治ちゃんケイちゃんももちろん呼ぶし・・」
 ユウ・・それにモモがいればと考えて、友紀は静かに眸を閉じた。

2017年02月07日

DINKS~フリーランサー(三五話)


三五話


 きらきらと濡羽黒に煌めくロングドレスのサリナ。このとき留美は、これほどの女性を奴隷にできる友紀の凄さを見たような気がしたのだが、友紀は、そんなサリナを誇らしく思うと同時に、とても私なんかが君臨できる人ではないと考えていた。サリナのフォーマルドレスをはじめて観る友紀だった。君臨するのはサリナだわ・・なのにどうして? 愕然とする思いだった。

 天空の部屋は広く、ゆったりとしたツイン。時刻は三時に少し前。今日は泊まると決めていた。留美は心臓が乱れ打ち、緊張がピークに達して声も出ない。遅れてきた二人を迎えた女王は、はじめて接する留美の肩に両手をやって穏やかに微笑んだ。留美は吸い込まれるように見つめられて眸がそらせない。
「ふふふ、緊張しちゃって・・可愛い子だわ」
「はい・・あ、いいえ私なんて・・そんな・・」
「友紀からいろいろ聞いてるでしょうし、私の方も聞かされてる。バロンのマスターをご存じなら私たちの関係もおわかりのはずよ。緊張なんてしなくていいの、楽しくやりましょうね」
「はい、どうしてもお会いしたくてご無理を申し上げて・・今日はありがとうございました」

 サリナは、そばにいて微笑む友紀へ横目を流して眉を上げ、それから留美をふわりと抱いた。
「あ・・」
「震えてる・・可愛い・・」
 留美は膝が抜けそうだった。くるまれるように抱かれ、仄かなパルファムが香り、いきなり性世界へ連れて来られた処女のよう・・体が反応して溶けていく感覚を自覚していた。
「私は女王、友紀は奴隷・・でも私は奴隷で友紀様は女王様・・不思議でしょ?」
「・・はい」
 わけのわからない涙が衝き上げてくる留美。二人の関係に感動し、そばにいられることに感動する。
「馬鹿ね、泣いちゃって」
 サリナの唇が寄せられて、留美はしなだれ崩れて抱かれながら唇を奪われた。おそるおそるまわした手でサリナを抱いて女王を感じ、強い酒に酔うように意識が揺らめく。
 黒いドレスの下は全裸・・背に手をまわして抱いたとき留美は女王のヌードラインを確かに感じ、忍び込む愛のような気配さえも感じていた。
「仕事のためなのかしら?」
「違います・・お会いできて嬉しいんです・・ありがとうございます」

 これがブログ『自虐のサリナ』を書くサリナさん・・書かれた文章の一字一句が思い出され、留美は体よりも心が震えた。
 そんな留美をそっと抱いて、サリナは留美をベッドへ誘い、ふわりと腰掛けて頭を抱いて引き寄せた。

「友紀、どうしたの、お脱ぎ」
「はい、女王様」
 友紀もまた心が震えた。部下の前で全裸、しかも首輪をさせられ裸身には鞭痕だらけ。息苦しく、けれども激しい濡れが襲ってきて、それさえ部下に隠せなくなる。
 留美はサリナに横抱きにされていながら、一枚を脱ぐごとに晒されていく奴隷の女体をぼーっと観ていた。
 美しく熟れた女体に生々しい鞭の傷・・紫色の首輪をし、全裸となったマゾ牝が足下に来て、膝で立って両手を頭の服従のポーズ・・それもまた夢のようで、留美は息を詰めて見つめている。

「どうかしら、私の奴隷は?」
「はい素敵です・・涙が出ちゃう・・」
 サリナは笑って、こちらもまた羞恥で眸を潤ませる友紀に言う。
「ですって友紀、嬉しいよね?」
「はい、女王様」
 サリナは言った。
「触っておやり、喜ぶから。こうしてやるのよ」
 サリナの両手の白く細い指が奴隷の乳房の先でしこり勃つ乳首をつかまえて、そろそろとコネてやり、友紀は乱れる息をこらえるように胸をふくらませて息を継ぎ、眸がとろんと溶けていく。
「あ・・ぁぁ、はぁぁっ・・」
「気持ちいいわね?」
「はい感じます、ありがとうございます・・あぁぁ・・」
 サリナは横からもたれかかる留美の顔を覗き込んで妖艶に微笑んだ。
「ほらね、いい奴隷でしょ友紀って」
 留美は声にならなくて、ただちょっとうなずくだけ。女王の片手が密生するデルタの毛むらの中へと忍び、牝の渓谷をこするように這い降りて深部へ届く。
「あぁン、女王様女王様・・あぁン!」
「ほら・・よくてよくてべちょべちょよ、ふふふ」
 少し嬲って抜いた指先を留美に見せつけ、サリナは笑う。

「さて留美ちゃん」
「・・はい?」
「立って友紀に脱がされて・・それとも自分で裸になれる?」
「はい・・ハァァ・・んっ・・ハァァ!」
 詰めた息の苦しさの反動で吐息が喘ぎに変わっていく。
 ふふふと密かな息笑いをしたサリナは、留美の脇に手を入れて留美と一緒に立ち上がり、ふたたび両肩に手を置いて眸を見つめた。
 涙に濡れる留美の眸がチラチラと揺れ、荒かった息が静まっていく。
「いいわ脱がせてあげましょう」
 女王の手が上着にかかり、スカートにかかり、濃い紺色のパンストだけは自分で巻き脱ぎ、留美はピンクのランジェリー。女王がブラをはずしてやると細身にしては豊かなCサイズの肉房がこぼれ落ち、真っ白な女体に最後に残ったパンティを女王が下げて、そのまましゃがみ、布地につぶされていた毛むらの底へと鼻先を寄せていき、渓谷の上にチュッと触れるキスをする。

 留美は崩れた。力が入らず膝から崩れ、全裸の肢体を女王が抱いてベッドへ崩して横たえる。
「友紀、やさしくしてあげなさい」
「はい、女王様」
 友紀は微笑みながらベッドに片膝をつくと裸身をまたいでベッドへ上がり、留美の裸身に奴隷の裸身を重ねていった。

「あぁぁ友紀さん・・ぅぅぅ泣いちゃう・・嬉しいです私・・」
「ふふふ、留美ちゃんこそ素敵です、綺麗よとっても」
 そしてそのときベッドの反対側から、ひときわ白く、引き締まった女王のヌードが忍び込み、留美を抱いて乳首を口にそっと含むと、手が滑って毛むらの底へと降りていく。
 そのとき友紀は、もうひとつの乳首を舐めて乳房を揉み上げ、留美の裸身を撫でまわす。
 留美のヌードがしなやかなアーチを描いて反り返り、脚が開かれ膝が立って、女王の指が花奥へと没していく。

「あぅ! ああ、ぁっぁっ・・女王様・・あぁーっ!」

 サリナに対して女王様としか言えない留美。降り注ぐ陽光に滲むような意識の中で、体をまたがられる感触に眸を開けると、陰毛のない綺麗な性器が迫ってきている。肉の薄い花リップは咲いてひろがり、綺麗なピンクの膣口が覗いている。濡れが流れ出して蜜玉となり、煌めいていたのだった。
 女王としか表現できない・・留美は、サリナにも友紀にもとてもおよばない女の深さを感じていた。
 女王の舌が入ってくる・・留美はたまらない気持ちになれてサリナの性花に舌を這わせていくのだった。
 そしてそんな女王のアナルを友紀は舐め、そうしながら留美の乳房を揉みしだく。
「ぅふ・・留美、友紀、夢のようよ・・気持ちいい・・」
「はい」と応じる二人の女声が重なった。
 そしてそのとき、留美の手が友紀の奥底へと忍んでいって、濡れそぼる奴隷の性器をまさぐった。
 ニュアンスの違う三人の女声が隠微なハーモニーとなって漂って、白い牝が絡み合い、声量を上げていき、重なり合って崩れていく。

 ゲストの留美を中に、左にサリナ、右に友紀が寄り添って、静かな余韻の中にいた。言葉はなかった。二人で留美の裸身を撫で合って、女三人が寄り添っている。

「女王様、これを」
「あら、お手紙?」
 鮮やかな赤い蝶の舞う白い封筒。数日して留美に手渡されたものだった。封はされておらず友紀はすでに読んでいた。
 今日の友紀は首輪をされて、けれどもベッドを許されサリナの腕に抱かれていた。

 サリナさん、友紀さん、大切なお二人へ。

 M女でないことが口惜しいほどの素敵な夜をありがとうございます。
 甘い夢は覚めてくれず、お二人のことを思うだけで体が熱く、指を
 忍ばせ心の濡れを確かめて、これまでのように卑屈にならず自分
 を慰め果てていける。それがとっても嬉しいの。

 私の性に私自身が責任を持って堂々と性器を開いていく。私の
 中にずっとあった不倫願望の正体を見た気がしました。
 私は私の性を自分で決めたいと思っている。自分を高みに置き
 たがるポーズの末の結婚では嫌だということ。結婚なんてそんな
 ものだと思っていたから、いつかきっと私が決めた性の中へと浸
 っていきたい。隠しておけない淫女の私となって悶えたい。
 そんな想いだったのだと気づかされた夜でした。

 女王で奴隷のサリナさん、奴隷で女王の友紀さん、よくわからな
 かったお二人の愛の姿もくっきり見た気がします。どちらにして
 も命がけで相手を想う女心。また、心から自分を想う者同士の愛
 のカタチと言えばいいのでしょうか。
 あの夜ご一緒できたことが私の何かを壊してくれた。どちらでも
 ないと思ったことも私はMかもと思えるようになっている。女性に
 抱かれ女性を抱くことにも胸を張っていられそう。それも嬉しい。

 それでねサリナさん、『もう一人の私』って言うじゃないですか。
 私にとってのもう一人の私は女王様。そして私は奴隷ですから、
 自分で自分を貸し出すようなことをやってみたいと思っています。
 ほどよい自虐と言えばいいのかな。
 もう一人の私が私に言います。サリナさん、そして友紀さんがお
 相手なら、いつだって貸し出すからねって。

 アイラブユーをお二人に。愛しています。留美でした。

 サリナは微笑んでレターを折って封筒へ戻していく。
「借りたくなったらどうすればいんだろ?」
「ふふふ、言っておきます私から。きっと喜ぶと思いますよ」
 サリナは腕の中の友紀を見つめて言うのだった。
「友紀の力ね。ユウだって治ちゃんだって、ケイもそうだし次には留美。だいたい私がそうだから」
 友紀はサリナの胸にすがった。
「女王様」
「なあに?」
「主人が二週間で戻ってきます」
「そうね、早いものね、あっという間」
 サリナは友紀を見つめて言った。
「だから何?」
「そうなれば私は女王様。鞭傷を嫌がり陰毛をなくせない奴隷ではいつかきっと破綻する。女王様の想いに応えてあげられない。サリナと離れるなんて嫌。だから二度と手放さないよう私が君臨してサリナを牛耳る。貸し出して留美にも抱かせてやるし相手が男だってかまわない。性奴隷に堕としてやる。死ぬまでそばに置いて泣かせてやるんだから・・愛してるのよサリナ・・大好き・・」
 言いながらどんどん友紀は泣いていく。
 見つめるサリナの眸にも涙が浮かび、サリナは奴隷を抱き締めた。

「・・『自虐のサリナ』・・」
「yuuが見つけた」
 そばでyuuが涙ぐんでうなずいている。

 バロンから小走りに自宅へ戻ってパソコンを立ち上げた。ブログはすぐに見つけられ、友紀は息を詰めて食い入った。
 数日後には夫が戻るという夜のこと。今日からサリナは数日出張で大阪にいる。戻ったときにはサリナは奴隷。そんな想いを抱えてバロンを覗いた友紀だった。
 記事は何ページにもわたっていて、最初の一ページに眸を通し、末尾まで飛ばして書きはじめられた最初から読んでいく。
「凄い・・こんなこと書いてたなんて・・サリナ・・愛してる・・」
 涙があふれた。友紀は震えた。読み進み、ふたたびトップページに戻ってくる。

 これほどの幸せはございません、女王様。
 ハンパなMでは破綻するとおっしゃられ、
 君臨すると宣言された。
 サリナは怖くて震えています。
 嬉しくて嬉しくて震えています。
 どうぞ鞭を。体にピアスを。
 手加減ないお心をサリナに向けてくださいますよう。
 サリナは悲鳴をしぼって女王様にお仕えします。
 嬉しい・・嬉しい・・泣いてしまってもう書けない。

 声を上げて友紀は泣いた。泣きながら電話を取って奴隷を呼び出す。
「サリナ・・ぅっぅっサリナ・・」
「友紀・・女王様? どうなさったんですか?」
「読んだわよ『自虐のサリナ』・・yuuちゃんが見つけて教えてくれた」
「はい・・隠していてすみませんでした。いつかきっとと思ってて」
「もらったからね・・サリナの気持ちはもらったからね! 早く戻って、早く」
「ありがとうございます、三日ほどで戻れますから」
 双方で泣いた電話を切った直後のこと、なぜかうるさく響く電話が入った。

「あら留美ちゃん? どうしたのよ?」
『たったいま三浦さんから電話があって、友紀さんにかけたら話し中だったって私のところへ』
「うん、それで? ・・ぇ・・ユウが・・」
『カーブで対向車線にはみだしてきたトラックと正面衝突らしくって・・モモさんは重体で・・ユウは・・』
 泣き崩れる留美だった。

 ユウが消えた・・即死だそうだ。

 赤ちゃんがいたのに・・目立ちだしたおなかを撫でて笑っていたのに。 友紀は声もなく肩を落とした・・。

DINKS~フリーランサー(三四話)


三四話


「バロンどうでした?」
 翌日のユウは文章に添える挿し絵の打ち合わせでイラストレーターの事務所へ直行し、二時間ほど遅れて出社した。友紀は友紀で朝から女性誌の編集部で治子を加えて次号の会議。留美一人が孤立するように自社他社の雑誌をひろげてアイデアを練っていた。
 今日の留美は明るいグレーのミニスカートスーツ。受付け嬢だっただけに着こなしも化粧も洗練させる。
 バロンどうでしたとユウに訊かれ、それをきっかけに昼食を一緒にということになる。配属された実質の初日からいきなり一人では心細い。ユウを見て留美はほっとしたような面色だ。
 昼前になって内線電話。友紀は会議が少し長引きそうだからお昼は好きにしてくれていいと言う。

 社からは少し離れたイタリアンレストランのランチ。パスタとクオーターピザのセットを揃ってオーダー。食べながら話していた。三浦と友紀が何度か来る店だったが、そんなことは二人は知らない。
 留美が言った。
「早瀬さん素顔を見せてくれたんだ。サリナさんていう人とのこととか」
「ああ・・友紀さんらしい、堂々として隠さないもん。奴隷してるって言ってたでしょ?」
 留美は眸でうなずいた。
「びっくりしたし、おかげで夕べは悶々だった。サイト見たりしてたから。だけどアレね、家にいてご主人とはどうなのって思っちゃう」
 ユウは心配ないと手をひらひらさせて扇いでいる。
「いま旦那さんは単身赴任中なんだ。三か月いないんですって。だけどそっちはそっちでラブラブだしノープロブレムよ」
「そうなの? ラブラブ?」
「うん大丈夫。週に何度もウフンらしいし、友紀さんて旦那様こそまさにご主人様だって言ってるし。理解のある最高の彼だって」
「ふーん・・だったらなお・・」
 なおさらどうして・・という思い。留美は振り払うように言った。
「まあ、それなら妻としては最高だけどね。端から茶々を入れることでもないだろうし・・羨ましいわマジで」
「留美さん彼氏は?」
 留美はいないと首を振った。別れてしばらく経つと言う。

 ユウが意地悪げにふざけた面色でこそっと言う。
「留美さんて、そっちは?」
「どっち?」
「SとかMとか?」
 と、ミニマムボイス。
「だからそれなのよ、ゆうべ悶々だったって言ったでしょ。私はどっちでもない気がするけど女の子には興味ありかな。このあいだテレビで同性結婚のことをやってて、ちょっと興味アリだった。その矢先の移動だったし、いきなりもうエロどっぷりでしょ」
 と、ミニマムボイス。
「あははは、エロどっぷりはよかったねー、あははは!」
 と、普通の声量。
「馬鹿コノ・・声がデカイって・・」

 ユウはちょっと舌を出して周囲を見回す。店は混んでいてそれなりにうるさかった。
 ユウが言った。
「下のほら、及川さん」
「あ、うん?」
「彼女もレズ」
「そうなの? マジで?」
「マジもマジ、同性結婚を考えてる。お相手はSだし彼女はMだし、ぴったしだもん」
「ぴったしって・・はぁぁ我が国の女たちもそこまでいったか・・」
「けっ、よく言うよ、たったいま羨ましいって言ったばっかじゃん。浮気願望があるから不倫がいいんじゃないかって言ってたくせに」
「まあね・・そこまで脱げれば女は本望・・あーダメだ、ムラムラしてきた」
「あっはっは! おっかしい!」
「しぃ・・声がデカイって・・ふふふ、だけど女の本音なんてそんなもんだなと思ったわけよ。早瀬さんのこと尊敬しちゃう、勇気あるわ」
「それはね、ウチの彼・・じゃなくて女王様も言ってたよ、震えるほどオンナだって。いっそのこと友紀さんに抱いてって言ってみれば?」
「何を言うか・・馬鹿なんだからもう・・そんなことになったら・・」
 留美はちょっと首を傾げて浅いため息。
「どうなるの?」
「うるさい。もう出よ」

 そして社が近づいてきたとき、向こうから治子が一人で歩いてくる。今日も治子は濃紺のスカートスーツ。いつ取材になるかも知れず普段着というわけはいかなくなった。
 ユウが手をあげて笑った。
「あれ友紀さんは? 一人だけ?」
「そうなのよ、三浦さんとランチで、そのまま二人で外出みたいよ。瀬戸先生のところだって」
 話しながら治子は留美に会釈した。顔はもちろん知っているし友紀の下についたことも聞かされている。
 ほんとなら治子がいたいポジションだろうと気を回したユウ。感情がすれ違う前に仲良くして欲しかった。
「今宵はいかが? ちょいと行くかね?」
「オヤジかおまえは」
 ユウはおどけて杯の仕草。治子は苦笑して行くと言い、留美もぜひにと応えていた。
 女三人の居酒屋。話題はそれしかなかっただろう。
 けれど留美はサリナのブログの存在には触れなかった。友紀とサリナのどちらに対しても尊敬する想いが強い。

 正体不明の留美を前に治子はいきなり崩せない。観察しようとしたわけではなかったが留美の出方をうかがっていた。
「でユウ、さっきの話・・ほら」
「はいはい、そんなことになったらってヤツかな?」
「そうそう、そんなことになったら私なんて淫乱だわよ、狂っちゃいそう」
 ユウは、いっそ友紀に抱かれたら・・といった、さっきの話の脈絡を治子に告げた。
 留美が言う。
「ゆうべ・・自分でしちゃったんだ」
「オナ3-1? ひひひ」 と、ユウがちゃかす。
「2かよ馬鹿!」 と、治子が頭をひっぱたく。
 しかしそのとき留美一人が神妙な面色だった。二人はちょっと顔を見合わせ、私もそうだったと言うように眉を上げ合う。
 ユウが言った。眩しいほどの新妻の微笑みを身につけたユウ。
「あたしは女王様に出会って、この人しかいないって抜かれちゃった。魂からっぽ。裸で平伏してお願いしたのよね。奴隷でいいからおそばにいたいって。そしたら女王様はやさしくて、抱いてくれて、おまえはいい子だねって言ってくださる。それでも内心どうだろって思ってたけど、結婚しようと言われたときには夢のようだった」

 治子が微笑みながら言う。
「あたしたちもそれはそうかな。Sっぽいケイが好きだったし、泣かされて抱かれると溶けちゃいそうなんだもん。だけどユウ」
「うん?」
「ユウもそうだしバロンのyuuちゃんもそうだけど、二人を見ててケイとも話すんだ。・・あ、ケイって私の恋人ね」
 留美を見た治子。
「あ、うん、ちょっと聞いてる。それで何を話したの?」
 留美に言われて治子は苦笑して言うのだった。
「女はどうしたって赤ちゃんよねって・・本能なんだし背を向けていられるものかって話したのよ。そしたらケイめ・・くそぉムカつく」
「なんだなんだ、言えよほら」
「またちゃかす! いっぺん犯すよ!・・あのね、ケイが言うのよ、あたしを男に貸し出すって」
「ほぉ! なるほど!」
 治子がじとっとした視線をユウに向け、留美も笑って言う。
「できた子を二人の子として?」
「そういうこと。二人のママで育ててみるかって・・ったく、あたしは犬か、種付けじゃなんだから。ひどいと思わない?」
「ケイさんらしいと言えばそれまでだけど、まあ名案ではありそうね」
 ふたたび治子が、今度はユウの露わになった腿をこれでもかとひっぱたく。腿をさすりながらユウは言った。
「友紀さんもきっとどこかで・・」
「そう思うよ。ご主人とはラブラブなんだから、いつか後悔しないといいなって思っちゃうし」

 留美が言った。
「それにしても、早瀬さんに憧れて志願したけど凄い仕事ね・・濡れっぱなしって感じじゃない?」
「それは当然」 と、ユウがふんぞり返り、治子もうなずき、そして言った。
「寄せられる声を読んでると、どうしたって自分に置き換えてしまうんだ。そのへん友紀さんはどうだったって訊いたら、最初の頃はナプキンしてたって」
「わかるよそれ・・せつないし、泣けちゃうほど可愛いもん・・女っていいなぁって思うしさ」
 留美の声を最後に女三人、ため息のタイミングがぴしゃりと合った。
「てか、あたしはため息ついてる場合じゃないけどね」
 ユウが言って、治子が笑う。
「ほんとだよ。彼・・じゃなくて、女王様は親には会わせた?」
「もちろんよ。妊娠の報告と一緒にね」
「そのときモモさん、どんなスタイル?」
「いつもと一緒よ。堂々とした美女だった」
 留美はそばで双方を行き来して見つめていた。ちょっと信じらない世界にいる二人の後輩・・そうだよな、私は先輩だったと思うのだが、女としては複雑だ。治子が言う。
「それでおっけ?」
「そよ。イッパツおっけ。男らしい美女だもん」
「ふふっ、物は言いよう・・」 と、思わず留美は笑い、治子と眸を合わせて信じられないというように首を振った。

 ほろ酔いが留美の頬を朱に染める。
「・・何だろ、この気持ち」 と、留美。
「気持ちって?」 と、治子。
 留美は素顔の『私』になれていることが不思議だった。ベッドをともにした二人といるような気さえする。
「バロンでyuuちゃんて子に会って、早瀬さんにとんでもないことを告白されて・・それで今日こんな感じでしょ。私にだってもちろん願望はあるんだし・・いまのところどんな願望だかはクエスチョンでも、濡れてみたいって思うわよ。独り暮らしなんだし、やっぱりね・・寂しいなって思うことはよくあるし」
「バイブでも買ったら? ひひひ」
「そうしようかな・・」
「は? 冗談なんですけど?」
「ううん、マジそう思うよ。こっそり自分を調教したりして・・尊敬しちゃうよ早瀬さんのこと」
 そのとき治子が言った。
「女は攻めないと。待ってる時代じゃないんだし肉食女子の時代でしょ。不倫なんてまさにそうだもん。柵をこえていかないと夢はないよ。サリナさんてマスターの紹介なんだって。雑誌で『自虐マゾ』って特集をやろうとしたときに紹介されて、友紀さん大阪まで押しかけてホテルで抱かれたのがはじまりらしい」

 間違いない。あのブログはそうだと確信した留美だった。
「攻めるって言ってもどうやって? だいたいその前に整理しなきゃならないものもあるし」
 と、ユウが横から口を挟んだ。
「じゃあ治ちゃん、ケイちゃんに言ってあげればいいじゃんか」
「何をだよ! どうせヘンなこと言うんでしょ!」
「むふふ・・わかる?」
「ったく・・言ってみなさい」
「ケイ女王様にお願いするのよ、マゾな私を留美さんに貸し出してって」
「・・いっぺんコロスよ・・そんなことだろうと思ったわ、ばーか!」
 治子とユウは笑い転げ、けれども留美は心からは笑えない。こうした女たちに囲まれていて自分だけが殻の中では仕事にならない。書けないという意味ではなくて悶々として手につかないと考えた。

 数日がすぎていき、その日またバロンへ向かった友紀と留美。例によって客はなく、留美にすればこれでよくつぶれずにやっていられると思ったものだが、そんなことは二の次だった。
「早瀬さん、じつはちょっとお話が」
「うん? どうしたの恐縮しちゃって?」
「サリナさんにお会いしてみたいんです」
「・・それはどうして?」
「ゆうべも・・自分でしちゃって・・悶々としておかしくなりそう・・私も知ってみたいなって思ったけれど、でもどうやってって考えて・・」
 友紀はそばにいてうなずいているyuuを見て、すっかり萎んでしまった留美を見つめた。友紀がどう言うか、細川ももちろん見つめている。

「じゃあ、こういうことにしましょう。紹介はするけれど、それからのことは女王様にお任せする。約束できる?」
「それは・・はい。このままじゃ私、寂しくておかしくなりそうなんですもん」
 マスターは口を開かず、頼んでもいない二杯目の珈琲を支度した。

 横浜、港の見える高層ホテルに部屋をとる。
 距離の問題でサリナが先に部屋にいて、友紀は留美を連れて追いかけた。土曜日だったが生憎の雨。タクシーで乗り付けたときワイパーがきかなくなるほど降りが強くなっている。
「嵐ね」
 タクシーを降りて友紀が言い、留美は私にとって性の嵐がはじまる日だと考えた。ルームナンバーはわかっている。1722。鳥の視野で港を見渡す部屋だった。
 ドアが開いてサリナが迎える。今日のサリナは普段は着ない黒のロングドレス。濃いワインレッドのショートヘヤーに、窓からの鈍い光で紫色に見えるシルクの糸が絡むよう。化粧も整え、さながら舞台から抜け出た女王のようでもある。友紀はミニスカートにジャケット。留美はチャコールグレーのミニスカートスーツ。留美は緊張しきっていた。
「はじめましてサリナよ。留美ちゃんよね?」
「はい・・こちらこそはじめまして・・あぁ綺麗・・」

 美の次元が違う。それだけに一気に恐怖が押し寄せた。息が細かく分断されて、それが心を震わせる。

2017年02月06日

DINKS~フリーランサー(三三話)


三三話


「子供を持たないっていう価値観よね」
 と友紀が言って、ユウがちょっとうなずいた。

 友紀は言う。
「だいたい私は旧姓を名乗ってる。夫は峰岸、正式には私もそう。女は可能性を持って生きるべきだっていうのがもともとですけど、性的な意味での開放もあるなって感じるわ。・・その先はここではちょっと。ハネたらどっか行きましょうか」
 ところがユウが今日は彼と予定があってダメだと言う。
 友紀は留美を横目に見た。
「私ならいいですよ」
「留美ちゃんて、どこに住んでるの?」
「下北です、小田急の」
 下北沢。新宿ターミナルの私鉄沿線。友紀はバロンを思い浮かべた。

「私は笹塚。新宿あたりでいいなら、いいお店知ってるわよ」
「あー、バロンだ」 と、ユウが言った。
「バロン? スナックとか?」
「喫茶店よ。以前に雑誌で取り上げたS様がやってるお店。ちょくちょく寄るんだ」
「S様って・・SMの?」
「もちろんそうよ。知っておいて損のない男性よ。yuuちゃんて奥様がいて彼女はマゾ。赤ちゃんができて入籍したって」
 ユウはもちろん知っていて自分の姿に重ねるようにやさしく微笑む。
 ユウは変わった・・と言うか、ユウらしさを表現できるようになっている。友紀はそんなユウが眩しく思えてならなかった。

 社を定時きっちりに出てバロンに六時半すぎ。ちょうど一組いた女同士の客が帰るところ。妊婦のyuuはおなかを冷やさないようにルーズフィットのパンツスタイルにサロンエプロン。今日のマスターは黒のポロシャツにサロンエプロン。いい感じに夫婦だ友紀は思う。
「お? お連れさんとはめずらしい」
 マスターが言うと留美はちょっと会釈する。カウンターに並んで座る。
「今度チームを組むことになって、加わってくれる川上留美ちゃん、下北ですって住んでるの」
 yuuがちょっと頭を下げて、友紀は二人を紹介した。
「留美って呼んでください、どうぞよろしくお願いします」
 マスターが眉を上げた。
「こちらこそ。シケた店だがちょくちょく寄ってくださいな」

 二人ともブレンド。例によって、その場ブレンドで、留美はめずらしがってマスターの手元を見つめている。
 友紀が誰とはなしに言った。
「まったく困るよね、次って言われてもまたかよって感じだもん。私ってエッチの塊なんだろか」
「あははは、どうしたんですか? 次もまた?」
 yuuが明るく笑って言った。
「そっち系の本を今後もやってくって。ついては私が編集長なんだって」
「わおっ、責任重っ」
「そうなのよ、肩にずっしり・・そんなことでユウちゃんと・・あー、そうだ、そのユウですけどね、おめでたですって」
「ええー、もうなの!」
「ちぇっ、yuuちゃんだってそうじゃない、戻って間もなく・・」
 友紀は、yuuが郷里にいて主と離れていたことを留美に告げた。
「なのによ、ユウめ、子供を持たないDINKSをテーマにすれば面白いかもですって。よく言うよって感じじゃない。自分がそれなのに」
 留美は、いきなり崩れた素顔の友紀を探るようにくすくす笑った。
 怖い人ではないようだ。社の中で跳ねていると思った女。ところが怖くない。ヘンにガードしなくていいと感じていた。

 バロンに誘ったからにはいつか知られる。そういう知られ方を好まない友紀だった。
「バラすね留美ちゃん」
「えっえっ? バラすって?」
「私にとってのDINKSはどんどん性へ向かってる。レズのお相手がいて、彼女は私の奴隷であって、なのにいまは私が奴隷。厳しい人で毎日泣いて暮らしてる」
「・・そうなんですか? じゃあマゾ?」
「そうよマゾ。仕事のためじゃないのよ。女の愛とはこうしたものよって女王様に教えていただき、いつかきっと私は彼女に君臨する・・そのつもりだったんだけどマゾの幸せを知ってしまった。すべてが与えられるもの。ただ感謝して授かって牝として生きること・・もうダメかも私って」
 留美は静かに聞いていて、いつの間にか目の前に珈琲が出されていた。

「まったくいい女になったものだよ」

 そう言ってマスターがちょっと笑いyuuは少しうつむいて微笑んでいる。
「女王様のおかげよ。おそばにいられるだけで濡れちゃうし、抱かれると嬉しくて泣けてくる。しなやかで怖い人よサリナって」
 留美は信じられないといった面色で沈黙している。
「あの頃・・私のつくった雑誌は浅かった。まるで第三者。だからね留美ちゃん」
「あ、はい・・そうですよね、自分のこととして考えないといけませんよね」
「そういうこと。ユウだってモモさんと出会って幸せになってくれたし、人との出会いがすべてだと感謝しないと、いつかしっぺ返しが来るんだから」
「・・はい」
 留美から虚勢が消えたと友紀は感じた。

 その留美が言う。
「ユウちゃんの旦那さんてニューハーフさんなんですって?」
「誰から聞いたの?」
「ユウちゃんから、ついさっき」
 友紀はちょっと眉を上げて、笑い息をつきながらyuuを見て言った。
「心から慕う人と添えれば幸せ。私はまだまだ修行の身ってところかしら」
 留美はしばらく黙って友紀を見て、それから小声で話しだす。
「私もDINKSが夢なんです。単純に仕事は続けていたいし、ときめきをなくして生きるなんてまっぴらですもん。もっともまだ先はあるけれど、たぶん私はDINKS・・もしくはずっと独りかなって。いまはまだ結婚に悩む歳でもありませんけど、いつかきっと悩むだろうし、だいたいそこまで理解ある男性がいるのかどうか。常識的に結婚し常識的に子供ができて女が終わる・・みたいな人生が怖いんですよ。ですから私、早瀬さんに憧れていたんです」
 まさかでしょと言うように友紀が笑おうとする前にマスターが言った。
「だろうね」
 一斉に顔を見る。
「憧れられてますます恥ずかしい・・違うかな?」
「ええ、恥ずかしい。私そろそろ・・戻って女王様にお仕えしたい」
 マスターはうなずいて、留美にも言う。
「あなたも今日のところはお帰りなさい。独りになって素晴らしい先輩のことを考えていればいい」

 外に出て留美は言った。
「感謝っていい言葉ですよね。じゃあ私」
「うん、気をつけて。マジでアイデアたのんます。頭ん中が腐ってきそうなんだもん。ふふふ」
 ぽんと背中を叩いて、そこで別れた。

 電車に乗ってサリナのことばかりがかけめぐる。私に女王なんてムリっ。可笑しくなって流れていく景色を見ている。
 戻って八時前。バロンを覗いておきながら十分ほどしかいなかった。
 サリナの部屋には気配がない。そろそろ戻ってくるはずで。
 友紀は全裸になると紫色の首輪をつけて、そのとき玄関先に気配がした。タッチの差。飛んで出て額をこすって平伏した。
「ご飯は?」
「いいえ、いま戻ったばかりです」
「だろうと思った。忙しい?」
 靴を脱いで上がった女王の足先にキスをして、友紀は今後の仕事の流れを告げた。
「へえぇ編集長に? 三浦さんのお心使いね」
「そうだと思います。ハードルを上げて挑めと言ってくださった」
「そういうこと。お立ち友紀、可愛いよ」
 抱き締められて唇を与えられ、手がのびて花園をまさぐられる。
「あぁぁ女王様・・嬉しいです・・ありがとうございます」
 サリナは奴隷の尻を軽く叩き、夕食は外でと言った。

 下北沢の自室に戻った留美は、シャワーを済ませて全裸でベッドに倒れていた。街中の部屋はカーテンを開けられないものだが、全裸ではまして閉ざされる。
「彼女がマゾ・・嘘でしょう・・」
 思い立ってベッドを離れ、そのときかぶりのネグリジェを着込んでしまって、デスクにつく。パソコン。ネットでその種のサイトを見てみようと思い立つ。SMだとかレズだとか、突然リアルなものとなって迫って来た女の性に、戸惑いよりもときめてしまう自分を感じる。

 DINKSについてもそうだ。漠然と考えていたものが、友紀を前にリアルな夫婦像となって描かれてきている。いまごろ彼女は女王様に平伏して調教されているんだろう。息苦しく体が熱くなる思いがした。
 SMサイトを見渡して濡れてくる。リンクをたどってM女性のブログを見つけ、せつない言葉に震えてくる。バロン。はじめて出会ったリアルなSMカップル。ニューハーフを夫に選んだ歳下のユウ。あらゆる性が押し寄せてくる実感にドキドキしてたまらない。
 いまの私ではとても書けないと思ったときに奮い立つ気分になれるのだったが、それはつまり私自身を解き放てということか・・と、戸惑いとなって襲いかかるプレッシャー。

 しかしだから留美の心は浮き立った。SM、レズ、まずは画像を見渡して、その中に自分の裸身をハメてみる。
「どうなっていくんだろ・・きっと変わる・・」
 私は変わると確信できて、とんでもない仕事だったと、いまさらちょっと後悔した。
 ブラウザを一度消し、ノートを閉じてみたのだったが、SMシーンが鮮烈すぎて焼き付いてしまっていた。
 それでなにげに検索ワードを入れてみる。
『SM マゾ 虐待 奴隷』
 さまざまなサイトがヒットして、そんな中に『自虐』というワードを見つけた留美だった。それはブログ。できたばかりらしくって、記事はまだ数篇しか載っていない。

 タイトルは、『自虐のサリナ』

 私はサリナ。生涯を女王様に捧げたマゾ牝ですけど、
 そんな私が、いまは女王様を調教している。
 女王になりきれない彼女の素敵さを壊してやるため。
 思いやりはマゾにとっては寂しいものです。やさしさ
 なんて世の中にはあふれていて、だから別離を思うと
 怖くなる。

 私は一本鞭で打ち据えて女王様をおんおん泣かせ、
 浣腸して笑ってやって、お顔にまたがって汚れたアナ
 ルを舐めさせて、おしっこさえも飲むことを強要し、その
 ご褒美に立っていられず倒れるまでディルドを使わせ、
 女の本気を見せつけてやっている。

 ああ女王様、なんてひどい奴隷でしょうね。
 どうか厳しいお仕置きを・・。

 これは密かに綴るブログです。いつかきっと女王様に
 お見せして、お怒りをかってお仕置きされることでしょう。
 女王の本気は恐怖です。そう思うと、私の握る一本鞭が
 どんどん強くなっていく・・。

「これは・・早瀬さん?」
 言葉はまだ続いていたが胸が締め付けられてその先は読めなかった。 早瀬さんとサリナと言う女王様のことだと留美は思った。状況からも間違いない。レズであり、奴隷が女王を責めるなんて普通はない。ついさっき別れた友紀の背中が蘇る。
「はぁぁン嫌だぁ・・ダメよ濡れちゃう・・すごすぎだもん・・」
 留美は下着の底に手を入れて、熱を持つ留美自身を慰めた。
 同じ女として感じる羨望に、留美は激しく濡らしてしまっていた。

DINKS~フリーランサー(三二話)


三二話


 あるときふと、開放と解放の違いを考えたことがある。開かれ
 て放たれるのと解かれて放たれるのとの違い。囲われていた
 柵をこえていくのと、縛られて動けなかった辛苦から放たれる
 ことと。よくわからない思考が頭から離れなかった。

 友紀を見ていて私が理想とする女王・・魔女・・そして女神と
 なれる資質を感じる。でもそれは資質であって、友紀自身は
 気づいていないようだし、まっすぐすぎる危うさをともなった
 ガラスのような人でもある。
 開放と解放の違いに悩んだ私と同質の面倒な生真面目さも
 そうでしょうが、女王様と奴隷というイメージに酔う子供っぽさ
 もそのうちで・・。

 三か月だけの性奴隷。私はそれを、私の女王様として君臨
 するための試練を彼女自らが望んでくれたものと理解したい。
 友紀のサディズムは甘いのよ。平穏に生きてきた女らしさを
 そのままに、ただちょっとSっぽいというだけで。
 私のマゾヒズムはそんなものではありません。ゲームじゃない
 のよ友紀。闇の中で見る一条の光。その中に女王様は立っ
 ている。奴隷の私は、どうしたって到達できない眩い光をめが
 けて蠢いているだけの存在。男たちに貸し出されて犯される
 ならそれもいいし、鞭傷の消えない日々ならそれもいい。

 命がけで奴隷を生きたい。そのためには友紀を一度壊して
 やって、あの子の中の恐ろしい魔女を目覚めさせてやらなけ
 ればならないでしょう。
 破滅なんて望んでいない。それどころか女王に愛される素敵
 なレディでいたいと思う。
 友紀は性に奔放なのかもしれないけれど、開放も解放も、そ
 の次元に達していない。どうしていいかもわからないまま激情
 に流されているだけで・・女王未満の多くのS女といまはまだ
 そっくり同じ顔をしています。

 怖いのよ私って。私のマゾヒズムは美しい愛ではありません。


 ちょっと遅く、お酒の匂いをほのかにさせて戻った友紀。私は顔を見つめます。男がいるなと直感したし、そうよ、それでいいのよと、友紀の変化が嬉しかった。そろそろ狡さを知ってほしい。少しぐらいの汚れを身につけて女の性(さが)に苦しんで、奴隷の私に癒やしを求める。それでこそ女王様。だから書いてあげたでしょう。魔女でなければ私の女神様にはなれないって。
 全裸にさせて首輪を与え、友紀が私にしたように、私が用意した夕食を私が噛んで吐き出して与えていく。足下に正座をさせて上を向かせて口を開けさせ、捨てるように食べさせてやるんです。
「美味しいよね?」
「はい、女王様」
 友紀が私にした中でこうしたマゾらしい餌のひとときは、私は好き。身分の違いを思い知って震えます。

 そうして食事を終えて、私は用意したプレゼントを友紀に手渡し開けさせる。白い革の一本鞭。短めで革の強いハードな鞭です。友紀は鞭を巻いて両手に持って、うつむいてしまって唇を噛んでいる。
「どうしたの? 嬉しくない? 顔を上げて」
 泣いているように潤んだ眸。いい眸をすると思って見ている。
「男がいるわね? お酒を飲むなんて、それ以外に考えられない」
 消えるような声で『はい』と応えて小さくなって竦んでいる。
「・・上司です、編集長」
「誰だろうとかまわない。いいわ貸し出してあげます。ただしそのとき、おまえは貸し出された性奴隷。彼に対して失礼のないよう尽くすだけ尽くして犯されてくることね。甘えなんて許しませんよ」

 これで友紀は心が軽い。あの子のことだもの、私に対して浮気のつもりになられては、これからの調教が単なる罰になってしまう。
「だけどあれね、奴隷の体に鞭傷ひとつないようでは私が笑われる。そこに立って手は頭。傷の消えないうちに抱かれてらっしゃい、わかったわね!」
「はい、女王様、おやさしい・・」
 涙を溜める友紀でした。私の想いをちゃんとくんでくれている。賢いし、よく考える人柄が私は好きでたまりません。

 受け取った一本鞭をひゅんと振り、背中から回し込んで乳房を打った。
ピシーッといい音がする。
「きゃぅ!」
 友紀はあまりの痛さに眸を見開き、イヤイヤをするようにふらふらと首を横に振ったと思えば、乳房を抱いて床に崩れ、沁みるように遅れて襲う激痛に裸身をくねらせもがいている。たった一打で乳房の両方に青痣が浮いてくる。
「立って!」
「はい、女王様」
「これが気持ちよく思えないとダメよ」
「はい!」
 もう泣き声なんだもん。私は熱い想いを胸に二打目をお尻に、三打目をおなかに、四打目をふたたびお尻に、五打目を乳房に・・十打をあびせ白かった裸身を条痕だらけにしてやった・・。

 翌々日、友紀は午後になって打ち合わせに出た三浦に同行し、三浦の運転するクルマの助手席にいた。三浦のマイカー。ミニスカートがたくし上がって腿が露わ。自然にはだけたジャケットの間にブラにくるまれた乳房が誇るように張っていた。淡いブルーのブラウスに合わせて純白のブラを選んだ友紀。
 時刻は四時すぎで二人とも直帰。運転しながら男の左手がそっと女の腿にのせられて、友紀は少し腿をゆるめ、そのときはそれだけで手がすっと退いていき、三浦は黙ったまま、ハンドルがラブホテルへ向けて切られていった。

 広い部屋。大きなベッド。三浦をベッドに座らせておき、友紀は目の前に正座をして顔を見上げた。
 夫への背徳の思い・・けれどそれもサリナの言葉が軽くしてくれている。
「今日のこと、女王様にお話しました。貸し出された性奴隷だとおっしゃられ心を軽くしてくださいました。お心のままに可愛がっていただけますようお願い申し上げます」
 額をすって平伏した。三浦は黙って聞いて、ちょと笑ってうなずいた。
「立ってお脱ぎ」
「はい」
「脱いだら体を見せなさい、這ってお尻を向けるんだ」
「はい・・ハァァ・・んっ、ハァァ」
 サリナそのままのマゾ牝の吐息。ゆっくり時間をかけて脱いでいく。
 ブラをはずし白いパンティを抜き取って、友紀はその場でゆっくり回って裸身を晒し、後ろ向きに膝をついて手をついて、脚を開いて尻を上げた。
 三浦は息を飲む。美しく熟れた女の体に一本鞭の血散りが滲んで黄色くなって、あさましいほど性器が濡れてアナルが蠢く。

 男の手が尻にのって友紀は「ぅン」とかすかな声を漏らして震えた。
「従順ないい奴隷だ」
「はい、ありがとうございます、いやらしいマゾ牝をお楽しみくださいませ」 手がのびて、指先がそろりと濡れた肉リップをなぞる。
「ぅふ・・感じます・・」
「よろしい、こちらを向きなさい」
 這ったまま腰をしならせ振り向くと、三浦は両手をひろげて微笑んでいる。そのまま友紀は流れるように抱かれていった。
 眸を見つめ合い、唇が寄せられて、友紀は目を閉じ、深いキスへと進展していく。白い裸身がアーチを描いてしなって抱かれ、男の手が柔らかな牝尻をわしづかみ、友紀は抱きすがり、キスを受けて溶けていく。
 そっと友紀を手放し男は立った。上着は自分で、腰から下は友紀が脱がせ、そのとき萎えていた三浦の先にキスをして、そっと含んで男の尻をそっと抱く。逞しくなる三浦。そそり勃つ三浦の茎裏を舐め上げて、亀頭を舐め、脈動をはじめた男茎を深く含んで喉へと導く。

 頬をそっと挟まれてペニスを抜かれ、男の微笑みを見つめながら立たされて、抱かれ、そのままベッドへふわりと崩れる・・。

「それから?」
「それからはもう・・やさしくしてくださって・・熱いものが入ってきて・・」
「嬉しくてならなかったでしょ?」
「・・はい」
「それがマゾの幸せよ。女ってね、性欲を自分なりに考えるから苦しくなるの。不倫なんてまさにそうでしょ」
 サリナは友紀の額をちょっと小突くと、全裸の奴隷に床に寝ろと言いつけて、顔をまたいでパンティを下げ、アナルを奴隷に与えていった。

 一月が過ぎていた。友紀の裸身から鞭傷が消えることはなく、女王と奴隷の夫婦のように暮らしていた。その日は久びさ定時に退社。自宅に戻る途中、バロンを覗く。
 yuuの様子が妙だった。笑いを噛み殺しているようだ。
「・・何よ? 隠してないで言いなさいよ気色悪いなぁ・・」
「わかります?」
 yuuはカウンターの中にいるマスターへ横目を流し、溶けるように笑うのだった。
 ピンときた。
「もしかして赤ちゃん?」
「むふふ・・はい、三か月・・一昨日検査して確定ですって」
 友紀はぱっと顔を崩してそばで立つyuuの下腹をそっと撫でた。
「それと入籍したんですよ、ご主人様と」
 ここにもいた女の性(さが)・・しかし友紀は動じなかった。DINKSと見定めて牝として生きていく。
「おめでとうyuuちゃん、マスターもよかったね」
「む・・まあ・・珈琲でいいか?」
「うん、その場ブレンドで適当に」
「適当ではない、失敬な」
 口の中に酸味が残るライトテースト。こういうときに飲みたい味。

 そんなことがあった次の日、今度は三浦に呼ばれた友紀。会議室にユウがいた。チャコールグレーのミニスカートスーツ。腿までざっくり露わだった。
 ユウはちょっとすまなそうに・・けれども恥ずかしそうに笑っている。三浦が眉を上げてユウへと顎をしゃくり、それで直感できていた。
 三浦が言う。
「やってくれたよ早々と」
「・・まさか赤ちゃん?」
「ンふふ・・わはは」
「書き言葉で笑うな馬鹿・・そうなの? もう?」
「みたいです、検査で確定。三か月目に入るそうで」
 まったくあっちもこっちも・・友紀は可笑しくてならなかった。
「まいったな・・ユウちゃんまでそれじゃ私独りってことじゃない」
 そしたら三浦が言う。
「まあまだ先の話だが、ということになった以上、次をどうするってことで、一人つけようと思ってね」
「及川ちゃん?」
「違う。彼女とも話したんだが、しばらく向こうでやってみたいってことだった。いまの私では足手まといになるだけだって。彼女なりに雑誌をつくってみたいらしい。そこで・・」
 と言って三浦は電話を取り上げて、ユウが一礼して出て行った。

「まあ座って」
「はい」
 二人きりになると溶けるようなベッドシーンを思い出す。
 三浦がテーブル越しの向かいに座る。
「女の人の想いの凄さを思い知ったよ。俺などダメだ、女の気持ちがどうにもわからん」
「そんなことない、素敵ですよ」
 ドアがノックされたのはそのときだった。小さな会社の玄関を入ってまず出会う顔。受付けにいた女性であった。社の中で数人だけが着る制服のようなライトブルーのスカートスーツ。スカートの丈が半端で、思い切りのない社の臆病さを物語るようでもある。
「あら受付けの?」
 三浦がうなずく。
「川上留美と言ってね、二年越しに転属願いが出されていた。編集をやってみたい、ついては君の下にいたいって言うもので」
 社内で友紀は注目される。留美はちょっと頭を下げて友紀を見た。
 受付けの女性はルックスで選ばれることが多いもの。古い体質の小さな会社にあってはましてそうで、美人というより愛くるしいタイプ。スタイルももちろんいい。大学で国文を学んだと聞かされた。友紀も国文。出版社を希望する者が多い学科である。

「それですぐに?」 と、友紀が訊くと三浦は言った。
「じつは話は他にもあって、女性の性のありよう、性に寄せた女性の生き様というのか、そういうものを取り上げる書籍を今後もやっていきたいと考えている。そっちは早瀬君に任せたい」
「・・任せるとは?」
「そっち系の編集長ということさ。君にリードしてほしい。統括として僕も観るが基本的には君がリーダー。そんなことで今後は下に何人かつけていきたい。木戸は木戸で産休はするだろうが退社はしない。木戸は変わった。同じように川上君も育ててやって欲しいんだ」

 川上留美。雰囲気のある女性で、男好きするルックスもそうだが笑みが深く、この子には何かあると思わせるムード。曲者だと直感する。
 三浦は言う。
「今度の本はほぼまとまってるから次からだ。企画からやってみるがいいだろう。木戸は浮かれてメロメロだが、まあ川上君も入れて協議してみればいいだろう」
 それから三浦が川上に眸をやった。それを受けて留美が言う。
「川上留美です、二十七になります。編集ははじめてですから、よろしくお願いいたします」
 友紀は笑顔で応じながら、ちょっと横目を三浦へなげた。どうも重荷をありがとう・・ふんっ。三浦は察して、くすっと笑った。
「そういうことだ、川上君は私服に着替えてくるように」
 これが三浦。明日からなんて話ではない。即座に行動。

 着替えて編集部を覗いた留美は、ブルージーンにジャケット姿。長い髪は濃い栗毛。受付けでは浅いカラーは許されない。友紀はさっそくユウにも声をかけて三浦の席のすぐ後ろの小さな会議室へと連れ込んだ。
 そのときすでに三浦はいない。ホワイトボードに直帰とマーカーで書いてある。
 自己紹介し合って、友紀が言った。
「今度の本は瀬戸先生の手記を枕に、レズ、SM、不倫と総花的に取り上げた。予定してないことで、さあ次と言われても何だかなぁって感じなんだけど、なんかアイデアある?」
 真っ先に留美が応じた。想像したとおり留美は自己主張のはっきりするタイプらしい。
「それを分けてしまうと雑誌と変わらないってことになりません? レズ特集で、そうじゃない人たちは買わないでしょうし、それをやるとしたら不倫あたりが中心かと思うんですよ」
 さらさら言葉がつながって、しかも強い。歳下のユウなど気圧されてしまっている。友紀はちょっと可笑しかった。若い頃の私に似ていると感じたからだ。

「どうして不倫が中心?」
 留美は、それにも即答した。
「私にも願望はありますし女ってそうなんじゃないかしら。結局男に期待できなくていろいろやっちゃうものでしょう。SMとかもそうだと思うし。元はと言えば男を見る目がなさすぎなんですけどね。やさしいだけの弱い男を選んでおきながら後になって物足りないって話になる」
 友紀はユウへ横目をやってちょっと笑った。
「確かにそれはそうかもね、不倫は気を惹くテーマではある。見る目がないっていうのはちょっと違うと思うけど、いわゆる適齢期と、女として成熟する時期がズレている。そのときのベストを選ぶんでしょうけど、そのうち男に求めるものが変わってくるのよ」
 それには二人ともうなずいた。

 友紀は留美を見て言った。
「その前に、文芸出版として取り上げるからには、男の人をあしざまに言ったり、たとえばSやMの心理分析みたいな話は違うと思うのね。読者は共感したくて本を買う。いわゆるハウツーだったりSM心理みたいなものなら氾濫してる。エッセイだったり手記だったり身につまされる読み物になっていないとダメでしょうね。それとね留美ちゃん」
「はい?」
「私もユウちゃんも自分の性を見つめてる。雑誌のように投網を投げて捕まえてライターに書かせておしまいではいられない。それって結構辛い作業よ。仕事のためじゃなく留美ちゃん自身の性を見つめていかないと取材が第三者で終わってしまう。あなたもスキねで終わっては、後になって推敲することもできなくなる。作り話じゃないリアルな女性が文中に生きていないと読者もつかない」
「そうですね・・はい、頑張ります私・・」

 そのときユウが言った。
「DINKSをテーマに加えても面白いんじゃないかって思うんですよ」
 とっさに留美は友紀を見た。友紀はDINKSを公言していて、社内の皆が知っている。
 ユウが言った。
「結婚の意味が変わってきてると思うんですよ。適齢期なんて発想そのものがママになるタイミングからの逆算でしかない。もはや陳腐化しはじめてる。結婚しない男女も増える一方ですし、『結婚と女』というのか『妻の意味』というのか、そのへんて共感できる女は多いと思うんですね」
 友紀は深くうなずいて眸を伏せた。
 三浦とのベッドが思い出され、夫への背徳の想いがチクリと刺さる。

2017年02月05日

DINKS~フリーランサー(三一話)


三一話


 それから二週間、女王様より私の方が忙しく、また夫の仕事が
 単身赴任のための引き継ぎで他へまわり、夫に時間ができて
 家にいる。妻としてできるだけのことはしてあげたい。それや
 これやで、女王様にお会いできない日々が続いていた。

 お部屋から夫が消えた。たった三月とわかりきっているのに
 寂しく感じ、なのに耐えに耐えた女王様への想いが噴火の
 ように衝き上げて、その日の私はクルマで女王様を郊外のホ
 テルへお誘いします。
 夫のいない三月の間、奴隷としてお仕えする誓いのために。
 緑豊かな山裾のホテルの三階、それで最上階。はるか眼下
 に伊豆の海が穏やかに凪いでいましたね。

 今日の女王様は純白のランジェリー。広いルーフバルコニー
 に降り注ぐ陽光がガラスを透かし、その中で全裸となった私は
 額をフロアにこすりつけて、これから三月の性奴隷を誓います。
 「三月だけ? ずっとかもよ?」
 それでもいいと思っていました。
 「はい、どうぞお心のままに」
 怖かった。突き進む私の性格からして、一度M性に火がつけ
 ばSに戻れなくなりそうだったし、私の中の魔性がいよいよ
 暴れ出して止められなくなってしまう。多淫ではないつもりが、
 狂ったようにお尻を振る女に堕ちていきそうで・・。

 膝で立って両手は頭の奴隷のポーズ。
 「いいわ、足にキスなさい」
 「はい、女王様」
 このときすでに奴隷の乳首にはステンレスのクリップが揺れて
 いて、屈むだけで乳房が揺れて乳首が痛い。私は激しく濡ら
 してしまい、激しい責めを期待して、激しい目眩に襲われて
 いる。

 おみ足の先からキスを捧げ、白い指を残らず舐めて差し上げ
 て、そうすると頭をちょっと撫でてくださり、つぶれてしまった
 乳首の責めを許されますが、そのときこそ激痛で、痛い乳首
 を女王様はつままれて、丸みが元に戻るようにコネ上げられる。
 「くぅぅ! くぅぅ!」
 悲鳴をこらえた淫獣が呻くような声を上げ、微笑まれる女王様
 を見つめていると、奴隷とは幸せなものだと実感できる。
 女に生まれた私ですもの。セックスを貪るように生きてみたい。
 持ち前の激情に衝き動かされて、私は乳房を張って乳首を差
 し出し、めまぐるしく左右に振れる乗馬鞭の先を見ている。
 ビシビシ乳首が跳ねられて、きゃぅきゃぅと悲鳴を上げて苦しめ
 ば苦しむほど、女王様はやさしく微笑んでくださいます。
 きゃうきゃうと、どうしても悲鳴が出ちゃう。しばらく休む時間を
 くださって、ふたたび乳首に鞭がくる。
 痛いんです女王様・・ありがとうございます。

 「いい子よ、次は性器打ち。四つん這いでお尻を上げて」
 「はい、女王様、ですけど今日から・・」
 「そうよね、少しぐらいの痕ならいいもんね」
 「はい!」 と、どうしてなのか鞭を求めるお返事をしてしまう。
 「立ちなさい」
 両手を頭に脚を少し広く開き、震える息、湧き上がる生唾を飲
 み下し、鞭を待つ。
 黒い革の乗馬鞭です。怖い。怖いです女王様。
 「五十ほど数えなさい」
 そんなに・・ああ私、泣いてしまう・・。
 ビシーッと本気のスイングがお尻に炸裂し、ぎゃッ! そんな
 ような声を上げたわ。お尻の肉が激痛に痙攣してぶるぶる震
 える強い鞭です。

 「ひとぉつ」
 ビシーッ!
 「十五ぉ・・ぅぅぅ痛い・・ぅぅぅ」
 「泣いてもダメ! お尻を出して!」
 「はい、女王様」
 二十をすぎる頃には号泣でしたし、三十をすぎる頃には打た
 れるたびに走るように飛び跳ねて、床に崩れてのたうちまわり、
 だけどすぐに立ち上がってお尻を差し出す。

 鞭打ちはそれでは終わりません。房鞭に持ち替えられて背中
 も乳房もお尻や腿も革の束が往復するようなめった打ち。
 サリナ様の本気がどれほどのものかを思い知り、満たしてあげ
 られなかった私の弱さを思い知る。
 立っていられず倒れると、容赦なく前から後ろから性器やアナ
 ルを打たれます。ああ女王様、壊れてしまう・・嬉しい。
 考える回路が壊れ、ただひたすらに痛みだけを実感し、恥辱
 の姿を思い知り、なのに濡れそぼる牝の肉欲を思い知る。
 立ちはだかられて笑われる女王様。私は弾かれたように綺麗
 なお尻を抱き締めてすがりつく。子供みたいに甘えてる。子供
 みたいに心をからっぽにできている。
 下着の上から鼻先を腿の間に突っ込むと、女王様も激しく濡
 らしておいでなのです。

 「舐めたいの?」
 「はい、ご奉仕させてください女王様」
 「いいわよ。でもその前に狂ったダンスを見せてちょうだい」

 ベッドに座る女王様に見つめられて、奴隷は立たされたまま、
 激震するバイブを性器に突っ込み、おおぅおおぅと陰獣そのも
 の、ものすごい声を発してイキ続ける。
 失禁をまき散らし、それでも許されない奴隷のアクメ。悪魔の
 ような快楽に、いよいよ私は倒れてしまう。意識が消えて、そ
 れでいながら胸をバクバク膨らませて息をする。心臓が壊れ
 てしまいそう。
 「上を向いて寝なさい、ご褒美です」
 嬉しくて涙が出ます。またがれた女王様の性器が天から降り
 るように与えられ、奴隷はベロベロ舌を回して舐め上げる。

 「ぅン・・いいわ、とってもいいわよ・・いい子ね友紀」
 「はい、お慕いします、女王様ぁ」
 マゾとはこういうものだった。yuuの想いがやっとわかった。治
 子もそうだしユウだって、こうしてオンナを燃やして生きていた
 い。私だって燃えていたい。
 「おしっこ」
 「はい・・愛しています女王様・・大好きです」
 「うんうん、可愛いマゾになっていこうね。こんなもので知った
 つもりでいちゃダメよ」
 「はい!」

 サリナはこんなふうになりたいのだと、このとき私は身をもって
 知りました。
 お体から捨てられる温かい迸りをいただいて、汚いなんてもち
 ろん思わず、女王様とひとつになれた歓びだけを考えていた。

 私の性器が大輪の花となり、とめどなく蜜を垂らして性を誘う。
 サリナ様はおやさしく、それからはベッドを許してくださって、
 果てても果てても際限ない愛を奴隷に与えてくださるの。
 ピクとも動けなくなるまで・・あなたを女王様と見定めて、ピクと
 も心が揺れなくなるまで・・奴隷は悲鳴を上げて果てていく・・。


 なんて子だろう。こんな女は素晴らしい。いまのあなたは私の
 行きたい世界にいるのよ。わかってる? 心でそう思い、こん
 な私を受け止めてくれるあなたに愛を覚えた。
 痛いでしょうね、苦しいでしょうね、でもダメよ、私のために耐
 えてみせて。サディズムが湧き上がり、それが私自身のマゾヒ
 ズムと溶け合って、私は魔女のように振る舞える。

 ごめんなさいとあなたは言うけど、謝ったりしなくていいのよ。
 嬉しくてなりません。まさかこれほどの愛がこんな私に向けら
 れるなんて、夢だとしても幸せよ友紀。心からの感謝を込めて、
 ちょっとぐらい泣いたって許しませんから。私を癒やすというの
 なら、これの何倍、もっともっと、耐えて泣く姿を見せなさい。

 そのとき私は生涯の奴隷となれるでしょう。友紀様だけを想い
 続けて、これよりない幸せの中で老いていける。
 私はダンサー。でもね友紀、私はじきに三十七です。
 引退を考える踊り子は苦しいわ。若いダンサーに勝てなくなる。
 ついさっきできたことができなくなって、若かったあの頃、主役
 を取りたくて鬼になれた心も失せる。

 残ったものは孤独。もうダメ、枯れていく・・男なんて、いまさら
 まっぴら。男女の汚れを嫌というほど見て来た私。男なんて許
 せない。
 だからって、汚れた私も許せない。自虐の正体はそのへんに
 潜んでいると思うのね。私自身の卑劣に眸をつむって得たも
 のを失って、そのときやっと眸が開き、汚れきった私の姿を思
 い知る。
 激しい気性に嫌気がさして、奴隷となって平伏していたくなる。

 友紀。女王様はあなたなのよ。三月と言うならわかりました。
 私はもう一度魔女となって友紀を鍛えてあげますからね。
 私にとって、素敵な魔女こそが、かけがいのない女神様なの。
 そして友紀、女が下着を替えるように黒い愛の似合う人になっ
 てちょうだい。奴隷として私は友紀を崇拝します。私から苦悩
 のすべてを奪ってくれた。
 嬉しいわ。ほんとよ友紀。ありがとうございます女王様。

 心より、もっと鞭を・・サリナ。


 サリナの書いたメッセージを向こう三月の奴隷を誓った三日後に、友紀は自分の部屋で読んでいた。メール。出来すぎなほど見事な文章。素晴らしいと感じ、あのときの私の想いとこの文章の二つを合わせたものを私たちの声にしようと考えた。
 そのとたん激情が衝き上げて、簡単な荷造りをして部屋を出た。女王様の部屋で暮らそう。夫のいないいましかできない。家畜として飼われてみたい。Mな友紀が加速して、いてもたってもいられなかった。

 電車に乗って小一時間。仕事から自宅に戻っての切り返しで、サリナの元へたどり着いたときには時刻は十時に近かった。ドアに立ってノックする。突然の押しかけはお仕置きだろうと覚悟した。
「どなた?」
「私です」
「友紀? ちょっと待って、いま開ける」
 サリナはネグリジェ。寝ようとしていたところのようだった。
「もうお休みなんですか?」
「今日はちょっと疲れちゃった。それよりどうしたの、そのバッグ?」
 キャスターの付いたトラベルバッグ。
「メール拝見させていただきました。そしたらもうたまらなくて飛んで来ちゃった。飼ってください女王様」
 サリナは眸をキラキラさせてくすくす笑う。

 部屋に入って奴隷は全裸。サリナのための紫色の首輪を借りて、けれどもサリナはそっと抱いてキスをする。
「ちょうどいいわ、マッサージでもしてもらおうかな」
 それでベッド。サリナはネグリジェを脱いで全裸でうつぶせ。友紀は女王のヒップにキスをして、それから腰を揉みはじめる。
「読んでどう? 使えそう?」
「使えます、私の想いと合わせて仕上げてみようかなって」
「そうしてくれれば嬉しいけど。ああ・・気持ちいいわよ、ここのところ踊りすぎ。メールにも書いたけど、こういうところが昔と違う。衰えてるなって感じるし」
「寂しいですよね」
「悲しいと言った方がいいかもよ。ミラーに映る動きだって微妙に昔とは違う気がするし。まあダンサーの宿命よ、口惜しいけれどしょうがない。それより友紀」
「はい?」
「私といたい?」
「はい、離れていたくありません。週に一度は戻らないとなりませんが」
「毎日調教? 辛いことになるわよ?」
 ときめいている。友紀はキュンとする思いを実感していた。yuuの気持ちはこういうものか。ユウもそうだし治子もそうだし。サリナとのシチュエーションが変わるたびに誰かの想いが理解できていく。

 腰から腿へ、背中から首筋へ、友紀の手が揉みほぐし、サリナがくるりと裸身を回して上を向き、膝を立てて腿を割った。
「舐めなさい」
 友紀は微笑んでうなずくと、開脚の股下に降りて女王の両腿を下から抱いて、静かに閉じた花のリップへ舌をのばす。
「ぅぅン・・友紀・・感じる・・」
「はい」
 閉じた花をそっと舐め、花を割って綺麗なピンクの膣ひだを舐め、谷上に尖る肉の芽を吸い立てて舐め弾く。女王の裸身がアーチを描き、頭をわしづかみにされて濡れだした性器へと押しつけられる。
「逆さになって」

 友紀は羞恥に襲われる。レズとしてではなく奴隷として女王をまたぐ恥ずかしさ。不思議な羞恥心は何だろう。逆さになっても女王の花を舐め続け、女王の指に乳首をつままれヒネられて、ゾクゾクする甘い痛みを感じている。
「いやらしいわね、周りの毛までヌラヌラよ」
「はい・・あぁン、見ないで女王様ぁ」
 私って三十四の女なのよ。どうして子供に戻れるのか、それも不思議でならなかった。
 チュッと触れるキスがくる。電流のような快感が背骨に沿って伝播して、ちょうど猫が毛を逆立てて震えるような、痺れにも似た感覚に総身鳥肌が立ってくる。

 乳首に爪を立てられてコネられながら、鋭い痛みと、女王の舌のご褒美との両方で奴隷は一気に駆け上がる。
「はぁぁイクぅ・・女王様、イッちゃう・・」
 体を強ばらせて快楽と戦おうとし、そのとき腹圧が上がって蜜がとろりと膣からあふれた。
「嫌ぁぁン、出ちゃう・・流れ出ちゃう・・ああイク、女王様、お許しください」
 痙攣が襲い、わなわな震えて達していく友紀。サリナは乳首の責めを許してやって、濡れる友紀に舌を這わせた。
 おおぅ女王様おおぅ・・友紀は吼え、がっくり裸身を女王にかぶせて崩れていった。

「ふむ・・それにしても、これが早瀬の素顔か・・」
「驚きました? そうなんです、ドキュメンタリー」
「ドキュメンタリーね・・ふっふっふ、まあそういうことだろうが言葉がちょっとふさわしくない・・いい女だ」
「ほんと?」
「うむ、ちょっと行くか?」
「はい、少しなら私も」
「ほう・・酒を?」
「三浦さんとならいいかなって」

 次の日の夕刻、友紀は三浦に誘われて飲みに出た。このところ友紀はミニスカートでとおしている。私はマゾ、恥ずかしさも調教だと思っていたし、そうなさいとサリナに命じられていたからだ。
 ジャズの流れる小さな店。造りが古く、学生街のジャズバーといったムード。三浦はバーボンでロック。友紀はそれの薄い水割り。普段ほとんど飲まない友紀は頬が赤く、眸の色が溶けてくる。

 そのジャズバーは店が小さく店内は暗く、覗いたときにはほぼ満席でカウンターの隅しか空いてない。そこはL字カウンターの短辺で二人掛け。 友紀が奥、三浦が手前で隣の男性との間に入る。雰囲気のいいポジションだった。
「サリナさんは宝だな」
 友紀はうなずいて言う。
「私のすべて。・・いいえ、サリナと主人と・・それから・・」
 友紀の手がカウンターの下でそっと三浦の膝に触れた。
 三浦は黙って微笑み、友紀の手を許している。
「惹かれていました、三浦さんに」
「浮気者め・・ふふふ」
「そうでしょうか。女の性はひろがりに満ちている。でも若さには限りがあって・・いまがそのとき」
「友紀らしい・・激しい人だ」

 友紀と呼ばれて胸が騒ぐ。
 三浦の手がそっと友紀の腿にのる。友紀はちょっと唇の角を噛んでうつむいた。ほろ酔いの頬がますます赤く、眸が溶ける。
「いい眸をしている」
「嬉しい・・私の魔性・・どうしようもないんです」
 三浦はうなずくとグラスを傾け、ストッキングに張り詰める友紀の腿に手を置いて、膝へと向けてそっと撫でた。
 友紀は眸を閉じ、手を拒もうとはしなかった。
「・・感じちゃう」
 それにも三浦は応えずに、そっと手を退いて去って行く。
「時間はあるのか?」
「ううん、今日はもう遅すぎます・・女王様のおそばへ帰らないと・・明後日なら一度家へ戻りますから・・ねえ三浦さん」
「うむ?」
「ドライでいいのよ、重くなるから。でも・・そうなるのなら、そのとき本気でいてくださいね・・」
 三浦は応えず、カウンターの中へリクエスト。
「タイムアフタータイム、マイルスで」
 店員なのか、いいや、おそらくマスター。五十年配の男性がちょっとうなずき、CDをチェンジした。

 気怠くかすれるトランペット・・友紀の好きな曲だった。こういうところでもセンスが合うと嬉しくなる・・。

2017年02月04日

DINKS~フリーランサー(三十話)


三十話


 二日経った金曜日のこと。その日の友紀は午後から女性誌の編集部に詰めて治子の仕事を手伝っていた。完成を待って出版する書籍と違って雑誌には締め切りがあり、実質的に治子一人の作業では間に合わない。そんなことだろうと覗いてみると治子が一人で悪戦苦闘。友紀の後釜に座るようにそっち系を担当させられ、周囲の者たちは横目で見ていて手伝おうとはしなかったし、そうして追い詰めてミスさせるのがエトセトラの常套手段であるからだ。ほら見ろということ。そしてまた治子も治子で、独りでしょいこみ友紀に声をかけなかった。やり遂げようという気持ちはわかるが、頑張りますとできますは違う。見ていられず手伝った。

 テーマは不倫。瀬戸由里子のエッセイをメインに七見開き十四ページにわたるもので、瀬戸のエッセイに見開き二ページを割き、残りを一般からの投稿というカタチにする。ページあたり二人、つまり二十数名からの原稿を扱うわけだが、文章のレベルよりも内容がどうしても似通って、骨子を変えないように書き分けないと、そっくりさんが並ぶことになってしまう。
 若い治子では、てにをはレベルの部分修正はできても、文章を一度噛み込んで構成し直すことが難しい。妻たちからの投稿は、案の定、家の中で耐え忍ぶ主婦像、夫はひどい、外に向いてもしょうがないといったあたりからはじまっている。女は性を受け身で語りたがり自分を悪者にはしたくないという心理が働く。
 そんなことで治子に指示しながら友紀は友紀で分担して直していくのだが、最初の数人はよくても進んでいくうちに修正の角度を変えていかないと結局似たようなものになる。

「・・ったく、多すぎよ」
「ですよね。瀬戸先生のエッセイが目玉なら売れるってことで、これでもかと詰め込みたがる。何で十四ページも・・」
「そうだけど、ここでそれを言ってもしょうがないわ、やるっきゃないんだもん」
 そのまま使える数篇を除いておよそ二十篇。一篇をまとめるのに友紀がやっても一時間はかかる。今日は残業だと腹をくくった。
 しかし友紀は、以前のようにギスギスしない自分に不思議な戸惑いを感じていた。サリナという女王様、友紀という性奴隷を身をもって体験した。心でイクという感覚がよくわかる。
 あれからホテルで、とりたててSMらしいことがあったわけではなかったが、全裸で平伏した記憶はあまりに生々しく、房鞭で性器を打たれた痛みはあまりに衝撃的で、責められて嬉しくて泣くM女の想いはこういうものかと突きつけられた。

 友紀は人妻。陰毛をなくすわけにはいかなかったし、裸身に鞭痕を残すこともできない。サリナはもちろん思いやり、厳しく打っても痕のできない性器を狙い、乳首のクリップで責め、浣腸して排泄を嘲笑した。ただそれだけのM体験だったが、それなりに容赦しないサリナの眸に女の本気を感じ取れ、M女の安堵の意味を悟った気持ちになれる。
 体中に鞭が欲しい。泣いても泣いても許さないサリナの心を見せてほしい。私はサリナに対して甘かった。やさしさではなく虐待への責任が負えないと思ってしまった。自分に対して甘かったと落ち込む気分がMに転じ、罰を受けることで楽になれる。
 出会ったあの頃、自虐マゾという言葉は未知のもの。観念的にわかるというのと実感できるのとでは質が違う。

 サリナに勝てない・・勝つとか負けるとか、そうした思いも軽率だったし、つまらない発想だった。サリナを思うと濡れてくる。心の潤いが性器を濡らす。そう思うと、これこそ愛だと実感できる。

 何篇かを終えて横を見る。
「そっちはどう?」
「もう少し・・難しいです」
 いつの間にか時刻は七時。すでに一時間の残業。この分だと十時になる。後輩を育てる意味で分担したものは任せたいのだが一定のレベルは保っておきたい。治子の直した原稿をさらに添削して書き直させる。友紀一人のほうが早かっただろう。
「でも友紀さん」
「うん?」
「友紀さんて、これを誰に見せてたのかって・・」
「誰にも。私も独りでやってきたから」

 それにしたって二年前で三十二歳の友紀と、いま二十四歳の治子とでは文章に接したキャリアが違う。出版原稿をつくる作業は場数でもあり、あの頃はキツかったと可笑しくなる。
「休もっか? ご飯にしない?」
「ですね、お昼もろくに食べてないから」
 ここは雑誌の編集部。様々な記事の担当者が締め切りを前に苦闘している。篠塚のすぐ下の部下がそばに居残り。友紀にとってもはるかに先輩。
「よかったじゃん、早瀬がいなかったらヤバかったろ?」
「ほんとです、大助かり。でもこれぐらいできるようにならないといけませんよね私も。未熟です」
「そういうことだな」

 このとき友紀は、自分と同じように人当たりのソフトになった治子の言いように、ケイとの愛が安定していると感じていた。治子はおとなしい女性だったが気持ちが表に出やすいタイプ。それもケイの力だと友紀は思う。
 友紀は言う。
「しょうがないよ、いきなり独り立ちなんてキツいもん」
「まったくだ。しかし早瀬、及川はよくやってる。助けてぐらい言ってくれると可愛いんだが、何クソって感じだもんな、ははは。こっちだってヘルプのサインを出さない限り手は出さないし」
 治子が言った。
「あら? ヘルプって言ったら助けてくれるんですか?」
「そんときゃ考えるさ。どっかでお茶ぐらいしてくりゃお助けいたしますけれど・・ふっふっふ」
「ミエミエね下心・・ふふふ」
 そんなやりとりも自然でいい。治子は少し変わったと友紀は感じ、そして言った。
「二十四の女の子なのよ・・てか私がそれが嫌いだったからね、女扱いされてたまるもんですかって」
「ほんとだよ、可愛げのない女だったが・・でも早瀬」
「おいよ? 何だろね?」
「早瀬を奪われて寂しいなって思ってる」
「おろろ? いいこと言うじゃん。今度いっぺん、ちょいと行く?」
 友紀が杯を傾ける仕草をしたことで周囲の何人かが眉を上げて顔を見合わせている。

「友紀さん、なんかちょっとソフトになったような・・」
「そう? だとしたらサリナのおかげよ。私ね治ちゃん」
「はい?」
「サリナ女王に平伏したの」
「えー・・うそ?」
「みんなに責められてるサリナを見てて、いいなぁって思ってしまって。あるときyuuちゃんに言われたのよ。そう思うならサリナさんにお願いすればいいでしょうって」
「女王様になってくださいって?」
「ショックだったわ・・サリナが裸なのに私は下着を脱げないってyuuちゃんが・・そうかも知れないって思っちゃって」
「そしたらサリナさんは?」
「嬉しいって・・私をちょっと責めてから、あべこべにどうにでもしてください女王様って泣かれちゃって。女同士っていいなと思った。ほんとは同性こそ要注意なんですけどね、愛があればレズはいいって思い知ったもん」
 歩きながら小声で話していた。幹線道路にクルマが行き交い、女の小声など消してくれる。

 治子が言った。
「私もなんですよ」
「ケイ様?」
「ふふふ、そう。じつは房鞭とかも揃えちゃって」
「あらま? ビシビシ?」
「そ、ビシビシ。でも打たれていて嬉しくて・・すがりついていたくなる。そうするとケイ・・ふふふ、あの子はもうダメ、エロ狂い・・」
「あっはっは、そうなんだ? 楽しくていいねー」
「いまさらですけど、愛されることへの感謝というものを思い知ったわ。痛くて泣くと涙と一緒に汚れたものが流されてく・・」
 友紀は治子の腰を抱いてやり、明らかに妙な二人となって夜道を歩いた。

 自宅へ戻って十一時を過ぎていた。夫の直道はリビングを暗くしてテレビをつけたまま、ソファに横になって眠っていた。
「もうテレビ・・寝ちゃって・・あーあ」
「・・む・・戻ったか、大変だな」
「マジ大変。今日は雑誌のほうでね、若い子が私の後釜を背負わされてパニクってたから」
 友紀はスカートだけをその場で脱ぐと、ソファの下に足を崩して座り、夫のパジャマのズボンの前にそっと頬を擦りつけた。穏やかに眠るペニスの感触が心地いい。
「・・ごめんなさい」
「何が?」
「もうバタバタ、公私ともにバタバタなのよ。女の性(さが)の深さに打ちのめされちゃって」
「うむ・・じつはな友紀」
「なあに? また出張?」
「単身赴任の話が来てる。博多なんだが三月ほど」
「三月も? いつから?」
「先方は早く欲しい、しかしこっちにも仕事があって動けない。てことで、まあ来月」
「来月って・・二週間ほどしかないじゃない」
「たかが三か月なんだがね。俺たちってDINKSだろ。上もそれを知ってるから好都合ってことなのさ。支社の立ち上げを手伝えと」
「わかった、待ってる・・あなた・・」

 妻はパジャマから萎えた夫をつまみ出してキスをして、そのままそっと口に含んだ。寝た子を起こした。逞しくなっていく夫にむしゃぶりついて奉仕した。
「奴隷みたいだな」
「馬鹿ね・・あなたにそんなシュミあるの?」
「どうだかね・・人間みんなSかMか、多少どっちかを持ってるって言うけれど、まあちょっとはSっぽいかも」
「私はMっぽいかも。自分でも思うもん、あなたに奉仕したいって」
「友紀、愛してるよ」
「はい、心から感謝いたします、ご主人様・・ってか? うふふ!」

 しかしこのとき、これでサリナとの時間が持てると友紀は思った。やさしく強く揺るがない三浦への想いも日増しに強くなっている。
「浮気しちゃうかも・・」
「だったら罰だな、鞭でビシビシ」
「ダメよ、それだと感じちゃって嬉しいだけ」
「そっか・・なるほど」
「そうなったら許せないでしょ?」
「当然だ。そのときは生涯奴隷を覚悟してついてこい」
 別れるとは言わない。この人も凄いと妻は夫の顔をまじまじ見つめた。
「それでも妻でいられるの?」
「女を水槽に飼わない、それがDINKSなはずだ」
「・・カッコいい・・うぷぷ、イメージ合わない」
「・・もう寝る」
「シャワーしてくるね」
「そのままスッパで来い」
「はい・・嬉しい」

 翌日の土曜日は久びさに夫とデート。目的もなく富士五湖までドライブし、ラブホテルへ連れ込まれて溶けて帰る。
 次の日曜、夫は仕事で出て行って、この日はサリナも終日仕事で遅くなる。独りの部屋で家事をして、昼過ぎに買い物へ。これが主婦の暮らしだよねと思いながら歩いていると、二本のメールが舞い込んだ。
 一本は夫から、終電になりそうだ、飯はいらんというもの。
「うっそぉ・・ハンバーグにしようと思ったのに・・このお肉どうするのよ・・」
 そのときふと思う。専業主婦はこうして夫のために料理を考え、仕事を言い訳にすっぽかされて小さなストレスが鬱積していく。

 そしてもう一本のメールはユウからだった。いま新宿にいて、ちょっと会えないかというもの。友紀は即座に電話する。
「いいわよ、どこで?」
「ンふふ・・どっかぁ」
「コラてめえ、子供かよ。わかんないでしょ、それじゃ」
 ユウがおかしい。声が弾んで壊れている。
「ンふふ、女王様と一緒なのぉ」
「・・ああ。モモさん夜だもんね仕事?」
「そうそう。それでね・・聞いて聞いて・・ンふふ」
『馬鹿か、おまえは・・』 モモの声が忍び込む。可笑しくなって友紀はちょっと小首を振った。

「へへへ、三人でお茶しないかって女王様がぁ・・ひひひ・・あ痛っ!」
 そばからひっぱたかれたようだった。電話がモモに代わる。
「すみません、この馬鹿ったら舞い上がっちゃって」
「みたいね、まるで馬鹿だし・・あははは。それでお話でも?」
「ええ。じつはユウと結婚するの」
「え・・」
「真っ先に友紀さんにお話しておこうと思いまして」
「そうなの? 結婚しちゃう?」
「はい。友紀さんのおかげです。ユウを見てて代わりはいないと思いましてね。愛しちゃった」
「わかりました、いま買い物で一度戻って出ますから。どこにします?」
「ほら、あそこの・・」
 東口を出てすぐの高級カフェ。珈琲一杯千五百円。いつも静かで落ち着ける店だったが、そう言えばモモに最初に出会った店だと思い出す。

 着替えるといっても友紀はホワイトジーンズにジャケット。モモも似たような姿だったが、ユウは座ると見えそうなマイクロミニ。けれども仕草がしなやかで見違えるほどレディになっている。膝を合わせて横に振りデルタを見せないエロチック。ピンクのブラウスに赤いブラが透けて可愛い。
 モモは・・スタイルは普通でも化粧はさすが。長い髪はほとんど金髪にされていて、一見してプロの女性をイメージさせた。仄かな香水もセクシーだったし、背がちょっと高いことを除いて近寄りがたい美女である。
 そのモモの横にいて、ユウははにかむように微笑んで、オフィスのユウとは人格までが違ったよう。可愛い妻だと友紀は思う。
 モモが言った。
「この子の代わりなんていませんよ。いい子だし素直だし、結婚したいって泣かれたときに震えましたからね」
 友紀が視線をやるとユウはとろけそうな眸をしている。
「おめでとうモモさん、ユウちゃんも」
 二人で顔を見合わせて微笑んでうなずく。女同士の不思議な結婚で片方が男性だった・・?・・よくわからない二人なのだが、しかし・・。
 友紀は言った。
「結婚したら仕事は?」
 ユウが応じた。
「もちろん続けます」
「うん、よかった、ユウを失ったら私が困る」
 モモがユウへ横目をやって言う。
「それは私もそうなさいって言ってます。妻の羽を毟るようなことはしたくない。輝いていてほしいから・・うふふ」

 調子が狂う。ゾクッとするほど妖艶なモモの笑み。見事なお姉さんと、ちょっとイカレた小娘のようにしか見えないのだが・・。
 そのモモが静かに落ち着く笑顔で言った。
「サリナさんでしたよね?」
「・・ああ・・ええ、そうよサリナ」
「ユウのヤツが言うんです。サリナさんの姿を見ていて感動して震えちゃった。私もあんなふうに生きていたい。女王様の奴隷として癒やしてあげたいと言ってくれ。私だってサリナさんの想いはわかりますから、この子しかいないって思えちゃって」
「そうですか・・サリナはみんなを変えていく人なんですね」
 モモは深くうなずいた。
「女神・・そんなようにユウは言いますけどね・・ま、そういうことで私たち、近々同棲するつもりです。私がほら、こんなですから既成事実をつくるのがどっちを向いてもいいだろうと思いますし」
 娘が女性の旦那を連れてきたら親はぶっ飛ぶ。
 ユウが真剣な面色で言うのだった。
「だからね友紀さん、お仕事の方は赤ちゃんができるまで・・しばらく休んで復職できればいいんですけど」
「わかった。そうよね、愛するお方がすべて。それでいいと思うわよ」

 ここにもある妊娠という言葉・・友紀にとって、やはり考えてしまう言葉。  夫がいてくれて安定した友紀自身より、サリナはそれでいいのだろうかと・・。

2017年02月03日

DINKS~フリーランサー(二九話)


二九話


 yuuを連れて部屋を出て、そこは静寂につつまれた現世の空気に満ちていて、yuuの腰に手をやりながら友紀は言う。

「マゾって幸せなもののようね。なんだかちょっと羨ましい。私は夫に対してどうなんだろうって思ってしまった」
「友紀さん・・」
「ううん不安じゃないのよ。揺れてるわけではないけれど、女を捧げて生きてはいない。うまく言えないけどね・・サリナや、それからyuuちゃん見ててもそうだけど、いいなぁって思ったりしちゃうんだ」
 yuuは応えず、気づかうように友紀の腰へと手を回して寄り添った。

 そしてこのとき、友紀はくっきりとした実像として三浦とのベッドの図柄を描いていた。

 エレベーターホールに立って友紀が上でお茶でもしようと言ったとき、yuuは一階下の野上の部屋へ行こうと強く友紀の手を引いた。
 何かを言いたげな雰囲気に友紀は従い、導かれるままに野上の部屋へ。そこもツインでベッドの片側にわずかに寝乱れが残っていて、備えられたパジャマが脱がれ、しかし一方のベッドには乱れがなく、脱がれたパジャマがきっちりのばしてベッドの上に置いてある。部屋は綺麗。おそらくチェックインしてから揃ってシャワーを浴びて男性の方が寝転んだ・・そんなことだったのだろう。ベッドの間に大きなバッグ。中身はおよそ想像できた。
 yuuは窓際のテーブルセットにまっすぐ歩き、友紀も追って椅子に座って向き合った。
 yuuが言った。
「こんなこと私が言ったらお仕置きですけど、野上さんてほんと神様みたいなお方なんですよ」
「そうなの?」

 ちょっと大げさな言いようだと友紀は思う。M女としてS様を崇める想いだろうととっさに思ったのだが、どうやらそうでもないようだ。yuuの面色は真剣だった。
「乱さんいま二十九で子供がいるんです」
「え・・そうなの子供が?」
「私のようにトラウマがあったわけでもないのに天性のM女さんで、以前のご主人様の調教というのか考え方というのか、何人かのS様たちにマワされるようなことがあって妊娠した。誰の子だかわからない。遺伝子を調べてみてご主人様の子供ではない。そしたら卑劣にも前の人に捨てられて私生児を産んでしまった。野上さんはそれもこれもを含んだ上で夫婦になろうとおっしゃられ、籍はまだみたいですがご夫婦同然に暮らしておいでなんですね。赤ちゃんは三つになるそうです」
「自分の子としてということよね?」
「もちろんそうです。入籍してとお考えなんですが、乱さんがいくら何でもそれはできないって。そんなことから『乱』と名付け、乱れるおまえを俺は許すとおっしゃられてる」
「・・そうなんだ・・そんな関係?」
 yuuはうなずき、さらに言った。

「苦しいのは純さんも同じだし、純さんこそ辛いと思いますよ。彼女は見てのとおり人妻で子供が二人もおいでです。離婚しようとしても旦那さんの一家が許してくれない。かなりな名家と聞いていますが、どうしても別れるなら子供を置いて裸同然で出て行けって。冷えきった家にいる。なのにそのご主人様は独身で」
「独身? 久住さんが?」
「あの方は四十六歳、純さんは三十七歳なんですね。久住さんは奥様と可愛い娘さんを交通事故で亡くされて、そんなとき純さんと出会うんですけど、『俺ならいい、いつだって受け入れる』と結婚を考えておられます。でも純さんは応えてあげられない」
 そうした想いが、あのときサリナを見ていて主の腿に手を置いた・・負い目のようになっているのか。
 どちらも想像したのとは違う男女の姿。私はなんて平穏に生きてきたのだろうと友紀は感じ、自分がひどく甘く思えてならなかった。

 yuuが言った。
「これを言うと今度こそ鞭ですけれど・・」
「うん、なあに?」
「ご主人様はおっしゃいます。友紀さんのSはMの逆転、サリナさんのMはSの逆転。二人ともいつかそこに気づくだろうし、気づいてなお友紀さんはSであるべき、サリナさんはMであるべきだと」

 胸が苦しい。サリナの姿を見ていてかすかな羨望・・それがいまはっきりとした嫉妬に変わりつつあると友紀自身が自覚していた。
「友紀さんがさっきみたいにおっしゃられるから言うんですけど、私なら愛する奴隷に打ち明けてMを知ろうとするでしょう。サリナさん震えるほど嬉しいでしょうし、そのときは厳しい女王様になってくれる。サリナさんは全裸でも、友紀さんは下着姿。そう思えてならないんです。いつだったか友紀さん言ってましたよね、夫の前ではMっぽいって」
「ええ・・尽くしてあげたいと思ってしまう」
「それが本質なんですよ。サリナさんもそれはそう。SとMは互いの裏返しってことが多いとご主人様もおっしゃっておられますし、サリナさんを愛しているなら下着を取っていいんじゃないかと思うんですね」

 友紀には返す言葉がなかった。思考が停まって茫洋とした想いだけが漂って、友紀は切り替えるようにyuuに言った。
「ひとつ訊かせて」
「はい?」
「もしよ、細川さんがサリナと・・その・・」
「セックスですよね? 結婚したい相手が他の女とつながったらってことでしょう?」
 友紀は、訊いておきながらしまったと思う。わかりきっていて胸の内で処理することを突きつけられては逃げ場を奪うことになる。

 しかしyuuはやさしい面色で笑って言った。
「私は嫌よ。でもご主人様がそうされるのは、奴隷の献身へのご褒美ですし、サリナさんが欲しがってるのに与えないのは可哀想」
「許せるのね?」
「女性を尊ぶご主人様は誇りですから。それに・・ふふふ、サリナさんは一度ご主人様に憧れたお方だし、それより何よりサリナさんなら許せます。見ていて感動する女性だもん」
 打ちのめされた気分だった。
 yuuは微笑んで友紀の手を取り、手を撫でて言う。

「友紀さんはいまのまま」

「え?」
「いまのままでいいんです。想いが逆転するとき告白するのはサリナさんをおいてない・・そこだけですもん」
「・・うん、ありがとう。あのねyuuちゃん」
「ええ?」
「サリナが手記を書いてね、その中でこう言うの。女王様のSは女王様のため、私のMは私のため。相手のために何かができるほど人は高くはいられないって」
 yuuは眸を点にしてぼーっと友紀を見つめていた。
「受け取り方はいろいろありますね」
「そう思う。今日こんな話をしてますますそう思えるようになってきた。失いたくない、何が何でもサリナが欲しいの」
 そして友紀は雨が叩きつけるガラスエリアに気がついた。
「うそ・・あんなにお天気よかったのに・・」
「友紀さんの涙です。きっとそうだわ。・・あ、珈琲でも淹れますね、備え付けのがあるはずだから」
 籍を離れて行くyuuの張り詰める尻を見つめながら、いまの私ではyuuにも勝てないと思ってしまう友紀だった。

 珈琲ができてふたたび向き合い、友紀は言った。
「・・女って・・いいえ私は特に面倒な女だわ。それでそんな私を癒やそうとサリナは懸命・・ふふふ、恥ずかしくなってきちゃった・・情けない女だよ私って」
「だから素敵なんですよ。迷って迷って、もがいてもがいて、そんな姿を見てるからサリナさんはマゾになれる。強いだけの人間なんて魅力ないもん」
「あらま・・じゃあ細川さんも?」
 yuuはくすっと笑って言う。
「ご主人様は脆いんです。脆いからお店にいても寡黙だし、脆いから私に対してだって強がってる。言葉の下手な人ですよ」
「カッコいいよね、そういうの」
「カッコいいです、オトコって感じでメロメロになっちゃって。母性ですかね、こういうのって?」

 どうしようなく女・・サリナもyuuも・・乱や純も・・私だってそうありたい。燃えるような想いが衝き上げた友紀だった。
 珈琲を少し残して椅子を立ち、大きな窓に雨の這うガラスを見ていて、後ろからyuuに抱き締められる。
「・・ありがとう」
「とんでもないです、友紀さんこそ素敵だわ・・女にSな私ですけど友紀さんならMでいられる」
「・・サリナだったら?」
「どうかなぁ・・私らしくSかもですね。奈落の底に堕としてやる・・たぶん」
「本気になれる?」
「友紀さんにもね。相手に本気に私は本気。女だもん、ハンパは勘弁て感じかしら」

「・・抱いてyuu」

 yuuは応えず、後ろから回す手の片方をブラ包みの乳房へ、もう片方をミニスカートの中へと滑らせる。
 震えるほどの性感に襲われて、友紀は甘く息を吐き、導かれるままにベッドに崩れて脱がされていく。
 閉じた瞼に涙が滲む。yuuがささやく。
「どうして?」
「わからないよ・・泣けてきちゃうだけ・・」
 友紀はピンクのランジェリー。yuuは服を着たまま。
 全裸にされた友紀は、目を閉じてyuuの責めを待っていた。
「舐めてあげるから脚を開きなさい」
 静かだが拒めない声が嬉しかった。
「・・はい」
「ふふふ、そうそう。サリナさん、どんなに嬉しいことか」
「はい・・あぅ! あっ、んっ・・ハァァ嬉しい」
「嬉しい?」
「はい」
「マゾだもんね?」
「はい・・はい・・」
 心の中で溶けずに残った女心が、このときを境に熱をもらって溶けていく。yuuは脱ぎ、穏やかでやさしい愛撫を友紀に与え、友紀は追い詰められていくのだった。

 時計は動く。時刻は九時すぎ。
 サリナの元へ戻ってみると、サリナは裸身を鞭で真っ赤にして、だらしなく性器を晒してフロアで気を失っていた。
 純もやさしく熟れたフルヌード。乱も全裸。男たち三人がトランクスとブリーフ姿。細川はトランクス。久住が黒のブリーフ、野上はトランクス。
 どんなことがあったのか、純と乱がひとつベッドで抱き合って、静かに横たわっていたのだった。純の裸身は抜けるように白く綺麗。陰毛も揃っていて、かすかに赤い鞭痕が尻や腰に残っている。
 乱はと言えば、体中に無残な鞭痕。一本鞭の乱れ打ちといった感じだったが、いまできた傷ではなさそうだった。若い乳房が誇らしく張り詰めていて、両方の乳首にステンレスのリングピアス。クリトリスにもピアスが輝き、性奴隷を誇るような女体。
 二人ともに妊娠線が残っていることを見逃す友紀ではなかった。

 友紀はだらしなくノビたサリナのそばにしゃがむと、頬をパシパシ叩いて揺り起こす。膝抱きにしてやるとサリナはとろんと溶けた眸を開けた。
「あぁぁ女王様・・気を失ってしまったみたい・・」
「ダメよ、そんなことじゃ。S様へのご奉仕は?」
 サリナはまだですと首を振る。
「可愛がっていただいてそんなことでどうするの。お一人ずつ丁寧にお礼なさい」
「・・はい」
 いいんですかと問うようなサリナの視線。友紀は当然よと言うようにうなずいて、鞭打ちで真っ赤にされた尻をひっぱたく。房鞭の痕ばかり。乗馬鞭は使われていないと感じたし、ふと見ると浣腸器は綺麗なまま。裸身に縄目は残っていなく手首や足首にも縄目はない。
 サリナの髪をつかんで引き起こし、尻を叩いて、最初に久住の足下にひざまづかせる。
 久住はベッドに座る。サリナが平伏して感謝を言い、それから黒いブリーフに手をかけた。
 次に野上、そして細川。三人の男性器に奉仕をし、精液に濡れる口の周りを舌を出して舐め取って、サリナは最後に女たちに平伏した。

 シャワーを浴びさせ化粧をさせて部屋を出たとき、時刻は十一時に近かった。細川、yuuとはホテルで別れた。友紀は夫に今日は泊まると告げてある。しかしサリナに明日も渋谷で仕事があった。
「もしかしてと思ったもので替えのレオタードを置いてありますから」
 友紀はサリナの頬をそっと撫で、スマホでホテルを検索。すぐ近くのビジネスホテルにツインが取れた。
 タクシー。ワンメーターで降りたところの小さなホテル。場所なんてどこでもよかった。部屋は狭い。ダブルの部屋にシングルベッドをふたつ押し込んだようなもの。

 部屋に入ると友紀がサリナをひったくり、ベッドに倒れて抱き合った。
「素敵な夜だった?」
「はい・・狂うかと思っちゃって」
「ふふふ、それならよかった。それでねサリナ」
「はい?」
 サリナの丸い眸。友紀はサリナをベッドに寝かせたままベッドを離れ、着ているものを脱ぎ去って、綺麗とは言えない古いホテルのカーペットフロアに平伏した。
 サリナは唖然とし、ベッドに座り込んで見下ろしている。

 友紀は言った。
「お願いしますサリナ様、苦しいの・・どうしようもないんです。ときどきこうして奴隷として扱ってくださいませんか。いままでごめんなさい。サリナ様が裸なのに私は下着を脱げなかった。心からお慕いします女王様。苦しくてなりません。どうか私を責めてください」
 顔を上げた友紀の眸から涙が伝い、それを見下ろすサリナの眸にも涙が流れていたのだった。
「・・愛してるよ友紀」
「はい、女王様、ありがとうございます。私も心から・・心からお捧げする覚悟です。お願いします捨てないで。捨てられたら私、生きていけない」
「うん、ぅぅぅ・・ぅっぅっ・・嬉しいよ友紀・・嬉しいんだもん・・愛してるもん・・」
 サリナは泣いた。ベッドから手をのばして友紀をすくい、ベッドに引きずり込んで抱き締めた。サリナは泣いた。その声が友紀を泣かせていった。

 着衣の女王が上になり全裸の友紀は組み伏せられて唇を奪われる。

 三浦に抱かれる、奴隷のように乱れて抱かれる・・きっとそうなる。
 夫の前でも奴隷になれる・・淫乱な姿を隠さない。
 心が溶けた涙がこぼれた・・。

DINKS~フリーランサー(二八話)


二八話


 サリナが持ち込んだスポーツバッグの中身。そんなものは
 SMではごくありきたりな、しかも初歩的なものばかり。
 房鞭に乗馬鞭。それにしたって革のソフトな、よほどの打ち
 方をしなければ傷なんてすぐに消えてしまうもの。
 ディルド。太いといっても常識的なゴムチンであって、これ
 はまあ男性機能の代用品。女を昇天させる嬉しいもの。
 乳首を責めるステンレスのクリップは痛みという点で厳しい
 ものではあるのでしょうが、乳首責めの好きなサリナにすれ
 ば耐えきれるものだと思うんです。
 
 バッグの中身を震える声で告げながら、サリナが恐れたの
 はガラスの浣腸器と、それをどう使って欲しいのかということ。
 どう使うも何も浣腸は浣腸。耐えきれなくなった最後のシー
 ンをサリナ自身がどう思い描くのか。サリナは浣腸器ですと
 言ったきり、どうしてほしいとは言えません。あまりの恥辱を
 想像し、と言ってトイレでしたいとも言えない。哀願するよう
 に私を見つめる眸を見ていて、私のサディズムは最高潮に
 達していながら、反面、可哀想で、可愛くて、いますぐ抱い
 てやりたくなります。

 そしてそんなことより、このとき私は、この部屋に入るまで
 思ってもいなかったことに意識が向いた。男女のSMを
 見極めてやろう。男女の絆。そこらの不倫より情が深くて
 絆が強いなんてことが言われますが、はたしてそうか。
 M女だって女ですから、この人と見定めた男性が他の女に
 手を出すことを喜ぶ女はいないでしょう。yuuちゃんだって、
 結婚するご主人様が他の女に情を向ける姿をどう思うか。
 妻となるyuuちゃんとの眸を細川さんはどう感じてサリナに
 向かうのか。かなり意地悪に私は観察しようとしたのです。
 雑誌の仕事で不倫を取り上げ、妻を粗末にする夫の側も、
 夫に満たされない妻たちを餌食にする男の側も、身勝手
 すぎる男たちを嫌と言うほど見て来ています。

 それとS様のどこがどう違うのか。ノーマルセックスとSMは、
 それほどまでに違うものか。レズでSMなら決定的に違うで
 しょうけど所詮は男と女。愛は性器の結合で完結し、やがて
 ときめきが消えていって男女は終わる。男女の性の宿命の
 ようなもの。初対面の二組なんてどうでもよかった。興味は
 細川さんとyuuちゃんです。細川さんには、そこらの男たち
 とは違うと私自身も感じていて惹かれるところがありましたし、
 あの日yuuちゃんと寝たことで私は彼女にも特別な感情を
 抱いていた。
 さて、そんな二人がサリナほどの美女マゾを前にどうなるか。

 怖いことを考えていると自覚しながら、細川さんとyuuちゃん
 にそれとなく眸をやって探っていた。妻となる女の目の前で
 細川さんはサリナを可愛がってやれるのか。勃起を突きつけ
 たりできるのか。またそのとき、yuuちゃんは本心からご主人
 様を許せるものだろうか。
 私なら嫌。夫がyuuに向いたとしたら私はどちらも許せない。
 と考えたとき、では相手がサリナなら・・そのとき私がそばに
 いて、二人対サリナという関係の中で夫のペニスが使われ
 たとして、それなら許せそう・・ということは、yuuちゃんも
 そうなのか? 純さんと乱ちゃんの二人はどうなのか?

 yuuちゃん純さん乱ちゃん、女三人の感情もあるでしょう。
 同じM女としての完成度。ルックスではサリナが格上。当然
 のように男性もそう感じ、そんな中で自分の主に見比べられ
 る女の気持ちは穏やかではいられない。もしここに私たち
 夫婦がいて誰かが奴隷サリナを連れ来た。私なら怖くてなら
 ない。とても勝てないと思うから。

 考えすぎかもしれませんが、愛憎の縮図がこの場にあると
 思えてしまう。夫に対して私は自信がないのか・・さまざまな
 感情が湧き上がっては渦を巻いているようで・・。
 「浣腸器があります」と言ったきり、声を失ったサリナの面色
 が、映像のフェイドインのように私の意識に像を結んだ・・。

「汚いことは言わなくていい。それはお仕置きです。使われたくなかったら一心に奴隷に徹すること。いいわねサリナ」
「はい、女王様・・お誓いいたします」
 サリナの声は女体のビブラートをそのまま表現するように震えて小さな声だった。
 縄がないと、このときになって友紀は思った。S男性三人、縄があれば恥辱を固定して鑑賞することもできたのに。
「縄がないわね、ついうっかり」 と、友紀が微笑みを男たちに流すと、久住が顎をしゃくって奴隷の純に視線をやった。
「それならこちらで。まあ一通りは揃ってます」
「一本鞭は?」
「ふふふ、それももちろん」
 友紀はちょっと笑って久住にうなずいて、それから瞳をほくそ笑ませてサリナに言った。
「ですってよサリナ。使ってほしくない恐ろしいものがいろいろありそう。嬉しいわね、マゾですものね?」
「・・はい・・ハァァ・・んっ・・ハァァ」
「ふふふ、もうハァハァなんだから。いいわ脱いで。皆さんに欲情されるよう、いつものように踊りながらいやらしく脱ぎなさい。全裸です!」
「はぁぁ、はい、女王様・・あぁン、震えます・・んっんっ・・」
 感じ入った甘い声。

 そのときふと久住に眸をやると、純という奴隷が主の膝にすっと手をやり腿に置いてサリナを見つめる。美しいサリナの姿が怖いのだと友紀は感じた。
 一方の野上ペアは、主も奴隷も嬉々として見つめていたが乱は主の想いを探ろうとはしていない。乱は若く天性の淫婦を思わせるギラギラとした眸の色で、主を探ることより肉欲に気もそぞろとったムード。
 細川は穏やかな笑みをたたえて見つめていて、yuuはyuuで主を気にする素振りもない。それがなぜかちょっと口惜しい。完成されて揺るがない主とM女に思えてしまう。
 もし私なら純のように夫の体に触れていたいと思うだろう。友紀は夫との関係に微妙な隙間があるのではと考えはじめた。

 サリナ。顔色を失って、けれどもそこはプロダンサー。チークを踊るようにしなりしなりと肢体をくねらせ、スカートを解放し、濃いピンクのアミストを尻から巻き降ろして脱ぎ去って、その下は純白のTバックパンティ。
 ごく淡くブルーに見える白いブラウス。腰を振り尻を振りつつボタンを解放して脱いでいく。下は純白のハーフカップブラ。ブラとパンティだけのダンサーは、すでにもう眸が据わり、小鼻をヒクヒクさせて性的な興奮を表現する淫婦の面色。いい眸をすると誰もが思ったはずだった。
 ブラの背に手がかかり、友紀が言った。
「回りながらよ。もっと腰を入れていやらしく」
「はい、女王様・・ぁぁ感じます」
「濡れてるわね?」
「はい・・もうたっぷり・・ハァァ・・」
 肩を交互に入れて、そのとき腰が左右に揺れて白い尻が蠢いて、ブラがはずされ、カタチのいい乳房にはブツブツに鳥肌が立っていて、乳輪がすぼまり乳首がしこってコリコリ勃つ。

 白のTスタイルパンティだけのヌードダンサー。腰を入れてセックスの動きをゆったりしながら、肩を交互に揺すると乳房が弾む。三十六歳の女のヌードではなかった。単に若いということでもない。鍛えられた女のヌードの可能性。細川やyuuはともかく、初対面の男女四人は息を詰めて鑑賞している。
 最後に残ったパンティ。サリナの面色は血の気をなくした蒼白から、いまはもう桜色に紅潮した性牝の昂揚を物語り、すでにもう達しかけているように、動きもゆらゆらくねくね崩れそうになっている。
 Tスタイルパンティはマチが細く、サイドから指を入れて尻を振るように下げられていったのだったが、性器にあてがう白い底地が蜜にヌラめき、剥がされていくときに透き通った糸を引くほど濡れていた。
 下腹の牝谷を飾る陰毛は許されず、あからさまに割れ込む谷の奥底に下向きに咲く女の花が閉じていて、肉の薄い左右のリップがヌラヌラ濡れて覗いていた。

「おっぱい揉んで。乳首をいじってやりがならがに股で踊りなさい」
「はぃ・・あぁぁ感じる・・女王様、あぁぁ震える・・」
 消えていく細い女声。
 両手で乳房を揉み上げなら指先で乳首を伸ばすようにコネつぶし、膝を大きく割って腰を左右前後にクイクイ入れて踊るマゾ。体がやわらかく腿がほぼ左右に全開。しゃがむように、揺れるように、ペニスを待つ淫婦のように、尻を振って踊るサリナ。
 とろけた眸・・半分開いて燃える息を吐く口・・閉じたラビアが花を咲かせ、開口を待ちわびた愛液が蜜玉をつくって糸を引いて垂れていく。

「よろしい、ここへ来て奴隷のポーズよ」
「はぁぁ・・はい、女王様ぁ・・ぁぁ恥ずかしい・・ハァァ、あっ、ハァァァ!」
 皆の足下のカーペット敷きのフロアに、空気の抜けたドールのようにしなだれ崩れて膝をつき、肩幅に腿を割って両手は頭の奴隷の姿。
「皆さんに見ていただいて幸せね? お汁を垂らしちゃうほど感じてるしね?」
 サリナはこくりとうなずいて、見る間に涙があふれてくる。歓喜の涙。誰が見てもそう映ったことだろう。

「さあ、どうしましょうね? ふふふ、なかなか可愛い奴隷でしょ?」
 一人ずつゆっくり視線を流すと、最初に動いたのは細川だった。yuuのそばのベッドの縁からすっと立つと、微笑みながらサリナの前にしゃがみ込んで、頭をそっと撫でてやり、ふわりと雲が女をつつむように抱いてやる。頭で組ませたサリナの手が自然にほどけて細川に抱きすがる。
 憧れたS男性。嬉しいはずだ。
「綺麗だよサリナ、いい奴隷になったね・・いい子だよ」
「はぃ・・嬉しいです細川様・・友紀様と出会えて私・・幸せです」
「うんうん、そうかそうか」
 抱かれていながら涙を流すサリナ。ふと見るとyuuの眸にも涙が光る。

 次は久住。久住は立ち上がるといっそう背が高く逞しい。そんな男が同じようにしゃがみ込んで全裸の奴隷を抱いてやる。すぽんとくるまるようにサリナは抱かれる。
「はぁぁ・・ああっ・・ありがとうございます、嬉しいです」
「うむ、いい奴隷だ。恥ずかしいね、よしよし・・」
 抱きくるまれて背中を撫でられ、サリナは眸を見開いて泣いている。

 次に野上。野上はにっこり笑って同じように抱いてやり、頭や背を撫でながら、耳許で言うのだった。
「傷のない綺麗な体だ。女王様に愛されていることを心に刻んでいなさいね。捧げるに値する女王様だよ」
「それは・・はい、はい、そう思います、ありがとうございます」

 さてそれから。マゾ牝サリナを知っているyuuが同じように抱いてやり唇にキスをする。
 それからだ。 さてそれから。友紀は、純と乱、対照的な二人がどうするかを見つめていた。
 歳上だからか純が先にベッドを離れ、頭を撫でて頬を撫でて、抱きくるんで眸を見つめ、唇を重ねていく。しかしキスは浅かった。
「いい子ですねサリナ、素敵よ、とっても・・」
 純は穏やかな女性のようで、そっと撫でる手がやさしい。

 最後に乱。主が『乱れよ』とでも言うようにつけた奴隷の名。ムードがケイに似て激しいタイプ。乱は、サリナ同様膝をついて、一度はそっとサリナを抱いて、ちょっと離れて眸を見つめ、ガツンと胸に抱き締めていく。
 いきなりキスが深い。舌の絡む性のキス。ケイの面影が浮かぶほど、乱は激しくサリナを求めた。
「綺麗・・口惜しいぐらい。ふふふ、どうしてサリナはM女なの?」
 それは友紀が思ったこと。サリナこそ女王のムード。
 乱が友紀を振り向いて言った。
「可愛がってあげてもいいですか?」
「どうぞ、お好きなように。積極的ね乱ちゃんは」
「はい、だってサリナ・・可愛いもん」

 もうたまらないと言うように笑って抱いてやりながら、乱の両手がサリナの白い尻をわしづかみ、揉み上げて、尻の谷へと滑り降りた指先が濡れる花をまさぐった。
「おぉう! あぁン! 乱様、ああ乱様ぁーっ!」
 くちゅくちゅと嬲り音が聞こえだし、サリナは抱き手に力を込めて抱きすがり、キスを受けながら裸身を痙攣されて愛撫を受ける。
「気持ちいい? イキそ?」
「はぃ・・嬉しい・・あぁイクぅ・・もうダメぇ」
「ふふふ・・可愛いいんだから・・ほんと最高の女王様よ。泣いちゃうぐらい幸せよね?」
 サリナは声をなくして大粒の涙をこぼし、激しくなる指の愛撫に尻を振ってよがり泣く。
 奴隷を浅くイカせておき、指を抜いた乱。ヌラヌラに煌めく指先をサリナに突きつけ、舐めさせるのかと思ったら、乱が先に指を舐め、それから微笑んでサリナの口に突きつける。サリナは指をほおばって残された粘液を舐め取っていく。
「そうそう、甘くて美味しい蜜ですものね・・うふふ、最高のマゾ牝なんだから」

 乱が離れ、友紀は言った。
「今日は奴隷サリナのお披露目ですのよ。皆さんでどうなりと責めてやってくださいな。NGなしです。ふふふ、そうよねサリナ? うんと虐めてほしいもんね?」
 サリナは泣き顔でうなずいて奴隷のポーズを崩さない。愛撫された白い裸身が赤くなって上気している。
「じゃあサリナ、可愛がっていただいた感謝を示しなさい。向こうを向いて四つん這いです。お尻を上げてマゾ牝のすべてをお見せする。皆さんのお気持ちを無にしたら拷問ですよ」
「はい、女王様・・あぁン、恥ずかしいです」
 サリナの裸身の蠢きから視線を外し、友紀は細川に小声で言った。
「yuuちゃんをお借りしていいかしら?」
「うむ、どうぞ」
 細川はyuuを見ようともせず即答して、それからyuuをちょっと見てうなずく素振り。
 友紀はこの場からyuuを連れ出したい。細川の勃起がサリナにおさまるところを見せたくない。そんなことになるとは思ってもいなかったが、yuu
だけは守りたいと考えた。
 そしたらそのとき野上がキイを差し出して言った。
「よければ僕らの部屋へ。一階下の1109ですから」

 微笑んでキイを受け取って椅子を立ちながら友紀は言う。
「じゃあyuuちゃん」
「はい、出ます?」
「うん、ちょっとね」
『あぁン・・嫌ぁぁン・・』
 サリナの声がフェイドイン。残された五人に向けて、奴隷の秘部が公開されたエロチックな図柄となった。

 yuuを連れて部屋を出て、そこは静寂につつまれた現世の空気に満ちていて、yuuの腰に手をやりながら友紀は言う。
「マゾって幸せなもののようね。なんだかちょっと羨ましい。私は夫に対してどうなんだろうって思ってしまった」
「友紀さん・・?」
「ううん不安じゃないのよ。揺れてるわけではないけれど、女を捧げて生きてはいない。うまく言えないけどね・・サリナや、それからyuuちゃん見ててもそうだけど、いいなぁって思ったりしちゃうんだ」
 yuuは応えず、気づかうように友紀の腰へと手を回して寄り添った。

 そしてこのとき、友紀はくっきりとした実像として三浦とのベッドの図柄を描いていた。

2017年02月02日

DINKS~フリーランサー(二七話)


二七話


 その夜の友紀は乱れていた。濡れるサリナを突き放すように部屋を出て、電車に乗る前に駅のトイレに立ち寄った。途中の渋谷でふたたびトイレ。激しく濡れていることを自覚して染み出すのが怖かった。
 自宅に戻って九時半過ぎ。サリナの部屋にそう長くはいなかった。部屋を出る前にダイニングのテーブルに明日の責めを支度させた。鞭が二種類、房鞭に乗馬鞭。乳首を責めるステンのクリップ。太いディルド。そしてガラスの浣腸器・・それらが明日どう使われるのかをサリナに妄想させておきながら、今日は特に手を出さずに引き上げた。いまごろサリナは悶々としているだろうがオナニー禁止。可哀想な責めだと思うほど友紀は濡れてしかたがなかった。

 こういうときダンサーという職業はいい。体を動かし汗をかく。気持ちを外向きにリセットできる仕事。デスクワークなら体が疼いて手につかない。夜にはマゾと妄想しながら踊る姿を想像すると、可笑しくもあり可愛くもある。
 サリナの存在が夫を超えてきていると自覚するほど、友紀は夫に対してM性が掻き立てられる。それが激しい濡れを生む。女は濡らしているときが幸せなんだとつくづく思う。
「ただいま。ごめんね、しばらくこんな感じだわ」
 夫の直道はいつもどおりのパジャマ姿。微笑んで妻を迎えた。
「おまえ、なんとなく色っぽいぞ?」
「そう? いつも色っぽいと思うけど。ふんっ」
 横目ににらんでちょっと笑い、そのまま夫の胸へとしなだれ崩れる。
「頭ん中エロだらけ?」
「そうなのよ、方々から原稿があがってきてるでしょ。どれもがせつないまでの女の本性。読んでると濡れてきちゃう」
「まるで当事者だな?」
「ほんとはそれじゃいけないんだけどね。編集者は第三者。でないと眸が曇っちゃうから。ちょっと待ってて、シャワーしちゃう」
「友紀」
「あっ・・ねえ待って・・もう・・」
 抱かれていて夫の澄みきった眸を見つめ、眸を閉ざすとキスが来る。ゾクゾク震える性のキス。Tバックパンティを穿いて、しかも濡れてヌラヌラなんて夫には悟られたくない。腕をふりほどいて浴室へ飛び込んだ。
 カランをひねって熱いシャワー。しかし妻を追うように背後から夫の裸身が絡みつく。雨は裸身を流れていて性の濡れがごまかせる。
 友紀は燃え上がって夫にすがり、すでに勃つ逞しい男性にむしゃぶりついて奉仕した。

「あなた好きよ・・めちゃめちゃにしてほしい」
「ふふふ、激しい・・盛り猫だなまるで」
「フギャーオって・・うふふ、ねえシテ・・ねえ早くぅ」
 雨の下で壁に手をつき尻を上げる。夫の体が奥底に突きつけられて、ノックもせずに侵入した。
「あぅ! ねえイク、ねえねえ・・あぁぁイクーっ!」
 貫かれた瞬間に襲った信じられないアクメ。友紀は裸身を痙攣させてガタガタ震えながら果てていく。
「貫かれて嬉しいか?」
「はい・・嬉しい・・愛してるもん」
「俺ほど理解ある旦那もめずらしいだろ・・ふっふっふ」
 夫の半分ジョークに苦笑しながら、妻はさらに尻を上げて侵略を切望した。夫が応えて突き抜きを速く深く腰を入れる。

 悲鳴のような妻の声がライブな浴室に反響し、そのときはじめて友紀は失禁という醜態を経験する。括約筋を締めてこらえたしシャワーの雨が隠してくれるものだったが、このとき友紀は、『私の性が花となって咲いていく』と実感していた。サリナに与えられた解放。サリナへの愛が深まっていくと身をもって感じていた。
 射精の前に夫は抜き去り、妻は膝をついてむしゃぶりついて、白い迸りを喉で受け止め、躊躇なく嚥下する。
 私のM性が夫に向いて、恋人時代に吐き出していた精液を甘受できる心になれる。私だって淫婦だわ。サリナに育てられる淫らな妻だと友紀は思い、そしたらそのとたんサリナを抱きたくなってたまらない。

 女の性はこうであるべき。恋愛や結婚が束縛しない牝の本能。心の向く相手に対して解放されるべきものだと思うのだった。
 ベッド。やさしく抱かれて眸を閉じて、いまごろサリナはと思うと胸が熱くなってくる。いまごろユウは? いまごろ治子やケイは? それぞれ乱れているだろうと思うだけでほほえましい。

 翌日は朝から治子の仕事に付き合った。雑誌のテーマは不倫。満たされない妻たちの声を集めていくのだが、こちらはこちらで書き分けというのか原稿の見極めが難しい。得てして家の中での不満からはじまって、だから不倫は正当だというプロットになりがちだからだ。皆がそうだと異句同文で似たような文章をだらだら読まされることになる。書く相手は素人だからポイントを見極めて角度を変えてやらないとならないのだが、そこが人生のキャリア。若い治子はもがいていた。
 治子が言った。
「瀬戸先生はさすがです」
「それはそうでしょ。こっちにもあがってきてるけど素直にすとんとSMを書いてくれるし、あっけらかんだわ」
「こっちもですよ。書き出しでいきなり『精液って素敵なものよ。男の欲情が私のアソコに向いている。そう思うだけで駆けまわりたいほど気分がいいし濡れちゃってたまらない。内心密かに旦那に言ってやるわよ、てめえこのバカ、他の男にあげちゃうからね』って・・そんな感じであっけらかんなんですもん」
 打ち合わせの取材の狭間にファミレスで話していた。時間がズレて空席の目立つ店内。その分声を絞って話す。

「ところでケイちゃんとはどうなった?」
 治子は、たまりませんよと言うように首を竦めて苦笑した。
「もともとSっぽかったけど、拍車がかかってたいへんです」
「あらそ? やっぱり?」
「ううん、ひどいことはしませんよ。寝かせてまたがって舐めさせられたり、そんな感じかな。だけどちょっとムカつくの」
「ムカつく?」
「それならそうときっぱり徹してほしいんだもん。私ならいいのにって思ってるのに妙な遠慮が気にくわなくて。あのときサリナさんを見てて、どんなにか幸せだろうと思ったし・・」
 ここにもまた同じ想いの女がいた。スタンスが定まらないと女は不安になるもので。友紀はちょっと苦笑した。
「だけどアレね、こんな話ができる関係になっちゃったよね」
「あー、よく言いますよ、悪いのは友紀さんじゃないですかっ」
「うん・・そうかも」
「そうかもじゃありませんっ、おかげでケイがおかしくなった・・ふふふ、ケイらしくていいけれど。ほんと言うと私ね、ケイのSっぽいところが好きになってハマっていったの。私にはない部分。リードされていたいって言うのか、怖いぐらいのあの子が好きで・・あ! そう言えばユウちゃんがね」
「ほ? 何か言ってた?」
「プロポーズしたんですって」
「モモさんに? それをユウちゃんから言ったって?」
「みたいですよ。一生おそばに置いてくださいって。そしたらモモさんに言われたそうです。『そのつもりがあるから調教してるんでしょ、馬鹿じゃない』って。ユウちゃんニコニコでしたもん」

 ユウの想いもよくわかる。性はノーマルを少しはずすと深くなるもの。それでなくても相手はニューハーフ。深い性を共有できれば女は幸せ。若い情熱で心を燃やすユウが羨ましいと友紀は思った。
「それで? ケイちゃんとはギクシャク?」
 治子は穏やかに笑って、そうじゃないと首を振った。
「女王様って呼んであげたの」
「ほぅ? ほいでほいで?」
「そしたらケイ・・あたしの頬を両手に挟んでじっと見て、わかったって・・むふふ、それからはもうねちゃねちゃなんだもん。むふふ」
「あっそ・・ふーん・・よかったじゃん」
 訊くんじゃなかったと友紀は可笑しい。

 時計は回る。
 六時半に新宿西口待ち合わせ。サリナは昨日と同じ黒革のミニスカートにピンクのアミストを合わせていて、濃いワインレッドに紫色のガラス糸が絡んだような不思議なショートヘヤーを整えて、けれども明らかに怯える面色で現れた。大きなスポーツバッグを持っている。中身は昨日指示したとおり。それに仕事で着たレオタードとスポーツタオルを詰めている。
 ホテルまで歩いて数分。シティホテルの広いロビーに点在する応接セットに様々な人たちが散っていた。スポーツバッグを横に置かせて座らせる。七時少し前にyuuがロビーに降りることになっていた。日常の光景に密かにマゾを隠す女が一人・・そんな感じだ。
 サリナは息を殺して苦しそう。唇をちょっと噛んでうつむいて、時折友紀を見つめて泣きそうだった。
 友紀は言った。
「堂々とMでいなさい。堂々とSでいますから」
「はい・・でもちょっと怖くて・・」
 眸でうなずき微笑んで、そんなとき視線を上げたサリナの瞳孔がぱっと開いて黒目が輝く。

 yuuだった。定刻よりもかなり早い。
「お待ちになりました?」
「ううん、ほんのちょっと」
「サリナさんも綺麗です、ほんと素敵よ」
「はい・・yuuちゃん・・はぁぁ怖くて震えてるの・・」
「ふふふ、大丈夫ですよ・・素敵な夜にしてくださいね」

 今夜のyuuは鮮やかな青のミニスカートを素足に穿く。髪も整え化粧も整え、細川の愛奴であることを誇るようなスタイルだった。
 ソファを立つとき、サリナの面色は白くなり、膝がかなり震えている。
 yuuに導かれてエレベーター。多くの客が乗り合わせ、サリナはますます萎縮する。男性の中に押し込められて上昇する小さな密室。十二階で降り、左へ少し歩いた1216。そこはツインで、二組の男女が部屋を分けて今夜は泊まり、その一部屋に集まるということらしい。
 友紀も今夜はスカートスーツ。かなりなミニで、よほど気分がいいときでないと普段は着ないものだった。
 ドアに立ってyuuがノック。音もなくドアが開けられて、細川の笑顔がそこにある。友紀は微笑み、サリナはこくりと首を折って赤面する。
「うんうん、相変わらず綺麗だよサリナ」
「はい、ありがとうございます細川様」
「さあ二人とも。皆さん、いまかいまかとお待ちかねだ」
 凍ってしまって足の出ないサリナの背を押しながら友紀が入り、最後にyuuがくぐってドアを閉めた。

 シティホテルの部屋は広い。しかしそれでも八人揃うとさすがに狭く、ざっくばらんというのか、ツインに分かれたそれぞれのベッドに一組ずつがペアで腰かけ、細川とyuuが窓際に置かれたテーブルセットについている。
 友紀が入ると細川が席を譲り、テーブルセットにyuuと友紀。サリナは部屋のほぼ中央に立たされて女王の言葉を待っている。
「おおう・・話には聞いてましたが美しい」 と、男性二人女性二人が顔を見合わせて微笑んでいる。男三人は似たようなコットンパンツのラフなスタイル。
 席を離れた細川がベッドの片方の縁に座って言う。
「友紀ちゃん、それにサリナも、紹介しておこうね。こちらが久住(ひざずみ)さんと可愛い純ちゃん」
 友紀は微笑み、サリナは引き攣り、ちょっと頭を下げて挨拶した。

 久住という男。四十代の自由人といったムードで背が高い。髪の毛は肩ほどまでのロング。彫りの深い日本人離れした顔立ちだった。インテリアデザイナーだということだ。
 そしてその連れが純と言い、友紀とは同年代の三十代の中頃らしく、落ち着いたムードもさることながら、奴隷としてのキャリアを物語るように主の陰にひっそり咲く花のよう。ベッドに座っていることでミニがますますミニになり、ピンクのブラウスに赤いブラが透けている。Cサイズだろうと思われた。黒髪のロングヘヤーで化粧をきっちり整えている。美人と言うより品のいい妻女といった雰囲気からもおそらく人妻・・直感的にそう感じた。
 細川のかざす手がベッドを流れた。
「で、こちらが野上さんと乱(らん)ちゃん。乱は乱れる。愛奴として授けられた呼び名だよ」

 こちらは主が若い。明らかに三十代で、背丈は普通。細い黒縁の丸い眼鏡をかけていて髪もショート。一見してサラリーマンといったムード。眸の涼しいハンサムだった。三浦のムードそっくりだと友紀は思う。
 その連れの乱という女性は歳の頃ならyuuと同じほどか。茶色く染めたロングヘヤーでホワイトジーンズのミニスカート。座ることでパンティまでが見えそうだった。どちらかと言えば童顔で、黄色いTシャツの胸が突き出して大きく、Dサイズアップはあっただろう。丸い眸がキラキラ光り、すでに淫らなムードを醸す。肌が白く、スカートから晒される白い腿に毛細血管が透けて見え、肌がほんのりピンクに染まる。
 娘なのか若妻なのか・・素性の知れない魔性のムードで、サリナを若返らせたような女。一見してMだと直感できるのは乱のほうで、純のほうは、まさかと言った感じ。控えめな治子を年長にしたようなおとなしいタイプであった。

 二組を紹介し終えて、細川がそっちも紹介しようかと訊くように眉を上げて友紀を見た。友紀はその必要はありませんと言うようにちょっと首を横に振り、皆を見渡して静かに言った。
「私は友紀、そして奴隷のサリナです」
 女王の微笑みがすーっと虚空を流れてサリナに向けられ、サリナは震える声で言う。
「友紀様に仕えさせていただいております、私はサリナと申します。今日はお呼びいただきましてありがとうございました。どうかお見知りおきくださいませ」
 友紀は微笑んでうなずきながら席を離れ、サリナの横に置かせたスポーツバッグから紫色の首輪を手にして奴隷の首に巻いてやり、それだけでふたたび椅子へ戻って腰掛けた。

「バッグの中身を言いなさい。それをどう使うかもはっきりと。お集まりの皆さんすべてがS様だと思いなさいね。わかりましたね」
「はい、女王様・・ん・・ハァァ、んっ、ハァァァ・・」
 んっんっと呻くように激しく息を乱すサリナ。十四の眸が奴隷を追い詰め、見る間にサリナの顔色が青ざめていく。

DINKS~フリーランサー(二六話)

 
二六話


 十日ほどが過ぎた、その日は水曜日。
 朝デスクについた友紀の元へ待ってましたとばかりにユウが原稿を持ち寄った。ワープロではない。出版社らしくオフィスに備えられてある二百字原稿用紙に数枚のものだったが、ユウなりに骨子を一歩進めたレベル。鉛筆で書かれた手書きのもので、ユウは思いのほか達筆だった。子供の頃から日記を書くのが好きだったらしく、それが小説を書くことへと発展していく。字の綺麗な娘はどちらかと言えば子供の頃に内向的だった子に多いと誰かに聞かされた記憶があった。

「綺麗な字ね、びっくりだわ」
「あー、またそんなことを言う・・」
 ユウは、どういう意味ですかと言うように、ちょっと口を尖らせている。
 タイトルは『女王様はご主人様』 
 友紀はまずそこから指摘した。
「女王でも主って言うでしょう、女主人とも言う。『ご主人様』ではぴんとこないから『女王様は男性です』とか、相手が男だってことをはっきりさせたほうがいいでしょうね」
「はい・・そうですか」
「それとユウちゃんは若いからヘンに背伸びしないこと。手記らしくだとかエッセイらしくだとか、そう考えてしまうと出来すぎてしまって作り話のようになるからね。難しく書かないことよ」
 それにはユウも同感し、原稿を追う友紀の眸の動きを見つめていた。

 女王様はご主人様

 彼なのか、彼女なのか、お仕えする女王様は
 ニューハーフなんですね。すごく綺麗なお方です。
 私はいま二十三歳。おそばにいて怖くて怖くてたまりません。
 女性のいいところをたくさんお持ちで、
 女に生まれた私よりも女らしいから、おそばにいて
 キュンとしちゃうんです。

 女は女のいいところだけでは生きていけない。
 むしろ、こんな社会の中で男の人に挑むみたいに
 生きていて、女らしさを出しすぎないよう、
 意識して中性的に世渡りしている。
 女だから『女っぽくしなくては』なんて考えてもいませんし、
 いつかそれがクセになり、すべてに対抗しようとしてしまう。

 女王様の女らしさに打ちのめされます。ちょっとした
 立ち振る舞いにもしなやかさはあらわれて、
 女のはずの私のほうが呆気にとられてしまうんです。
 そうだよね、私こそ女でしょ、と思ったときに、
 女王様の前でこそ牝になれる私自身を思い知る。
 女王様に可愛がっていただけるなら何をされてもいい。
 私にもともと備わったM性が、どんどんマゾへと変化していく。

 そしてそんな奴隷な私を、女王様は男性の眸で
 見つめてくださって、褒めてくださり抱いてくださる。
 混乱しますよ。女王様なのにご主人様なんですもん。
 ご褒美に硬くて熱いお体をいただいて、牝として私は
 夢見心地に達していきます。
 嘘っぽい女らしさのいらない女性に抱かれ、なのに
 逞しい男性器を授かると言えばいいのでしょうか。

 男の人も女の人も、性別にとらわれすぎじゃないかしら。
 『人』に仕えて、『人』に愛され、ただ一人の『人』を愛して
 生きていられる。そのことの幸せを忘れてはいけないと
 思うんですね。女王様はSっぽく、私はMっぽく。
 人間同士の愛を貫き、そのためにマゾとなって
 女王様にお捧げしていく。
 
 ご褒美に夢のような精液をいただくために・・。

 人間愛を感じる言葉ではあったが、そのへんを下手に書くと亜流に過ぎる。話がちょっと大げさかもとは思ったけれど、よく書けていると友紀は感じた。女心の顕れた文章。友紀はユウの顔を見た。
「もう少し行為の部分を書いたほうがいいかもね。観念的なのはいいけれど、若い女性の手記として、心情とかせつなさとかがもう少し出せればなおいいと思うのよ。思い描いてオナニーしますとか、直接的なラブがあったほうがいい。人間愛ではテーマがちょっと大きすぎかな。もっと身につまされるセックスを描いた方が伝わると思うのね」
「そうですね・・はい、わかりました、もう少し練ってみます」
「基本的にはいいのよ、よく書けてる」
「はい! 女王様を思い描いて書いてますから」
 ユウの笑顔がどきりとするほど若いエロスに満ちている。あの日以来、ユウは性を開いたようだ。
「モモさん命ね?」
「ふふふ、そうかも・・」
「結婚したいんでしょ?」

 ユウははにかむように唇をちょっと噛み、こくりとわずかにうなずいた。
 友紀は小声でささやいた。周囲の耳を気にしたからだ。
「夢のような精液って書いてあるわね」
「あ、はい」
「それってつまり子供ができてもいいってこと?」
「ンふふ・・それは・・ンふふ」
 そうなれれば夢だとユウの顔に書いてある。
「ま、もう一息よ、幹はいいから枝葉をつけていく作業、頑張って」
 ミニスカートの尻っぺたをぽんと叩いてやって追い返し、友紀は胸が熱くなる。そう言えば治子の変化も眩しいほど。会議できっぱりものを言う。率先して動くようになってきた・・そんな仕事上のことよりも、妙に色っぽくなったと友紀は感じる。
 逃げ道のない崖っぷちに立ったことで治子なりの女性像ができはじめていると想像する。こういうとき三浦がいれば、二人を誘って飲みに出ても面白い。しかし今日明日と浜松へ出張でデスクは空席。

 友紀は定刻の三時間前にオフィスを出て横浜の不倫妻を訪ね、その足でサリナのマンションへ行こうと考えていた。今日は夫の帰りは遅くはなかったが、いよいよ佳境ということで帰宅が乱れると告げてある。
 菊名、サリナの部屋。
 時刻は七時になろうとしたが、サリナはまだ帰っていない。今日のサリナは渋谷のスタジオと聞いていた。
 合い鍵で入ってみると部屋は綺麗にされている。リビングには多少の生活感があってもキッチンには心使いが行き届く。プロダンサーの派手さからは想像できない細やかさ。完全主義とまでは言えないだろうが、サリナらしいと友紀は感じた。
 キッチンからオープンカウンター越しにダイニングテーブルが置かれてあって、ピンク色のノートパソコンが閉じてある。ふと見るとプリントアウトされたA4の白い紙。ワープロ原稿。

 お慕いする女王様 私なりに書いてみました。
 今日は少し遅くなりそうです・・奴隷サリナ。

 友紀はちょっと微笑みながら、シワひとつない純白の用紙を拾い上げてリビングのソファに腰を降ろした。今夜の友紀はパンツスタイル。ソファのクッションに沈みすぎ、パンツが腿に張り付きすぎた。一度立って苦しいスタイルを脱ぎ去った。オフィス帰りでベージュのブラ。けれどもパンティは黒のTバック。サリナの部屋へ寄ろうと考えていたからだ。

 サリナの言葉にタイトルはなく、まったくストレートな一文からはじまっていた・・。

 自虐マゾ。どうしようもない私自身に性的な罰を与えて、
 私はそうして生きてきました。三十六歳の女ですもの、
 綺麗なだけではいられなかったし、過去なんて、あって当然。
 だけどそれで傷ついたとか、トラウマのようなもの、
 そんなものはありませんし、いまさら言うことじゃない。

 自虐にいつしか追い詰められて、なのに、苦しくなれば
 なるほど私は解放されていく。自虐というSMに堕ちていく。
 それは闇の中の黒に似て、黒がますます闇を深め、
 光さえ届かない世界の底へと私は堕ちた。いいえ、
 もっと深く堕ちることを望んでいた。

 諦めかけていたんです。光なんて私には見えないものだと。
 悲劇的に考えながら、そのじつ、その頃の自虐なんて
 イメージの中のもの。自分で乳首を虐めてみたり、
 イチジクなんかで排便を我慢して、だけどトイレですませる
 意気地なし。Mっぽいというだけの情けない私でした。

 ああ女王様、いまこうして書いていても息が熱くなってくる。
 濡れてしまって、めちゃめちゃにいじってやりたくなるのです。

 燦然と輝く光だとか、ましてまさか人間愛なんて言葉は違う。
 私の中でいまにも爆ぜてしまいそうな淫欲を責めの中に
 解き放っていただける、私にとって唯一の女王様。

 鞭が好きです。私を壊してくれそうだから。
 縄が好きです。私を開いてくれそうだから。
 涙が好きです。私を流してくれそうだから。

 お願いします女王様、サディズムをもっとください。
 ありったけのマゾヒズムで、心を搾って愛液を流します。
 声を搾って悲鳴をあげて、あふれ出る涙で乳房を濡らす。
 それも私らしい姿です。天性の淫婦であり天性の牝ですから。

 あるときを境に責めが厳しくなりました。私を思いやって
 おやさしく、けれどそれは奴隷を不安にさせるだけのもの。
 泣いても許されず責め抜かれ、お体から出されるお水を
 口の中に捨てられて、恥辱に震え、惨めさに震えつつ、
 おそばに置いていただける実感の中でのみ、奴隷は
 安堵して、どこまでだって堕ちていける。
 お尻にも背中にも、淫らな性器には特にたっぷり
 泣きわめく鞭をください。

 お慕いする女王様、怒らず聞いてくださいね。

 私のマゾヒズムは私のため。

 女王様のサディズムは女王様のおためにです。

 相手のために何かをできるほど人は高くはいられません。
 いつかそれが負担となって背を向けてしまうでしょう。
 Mの性とSの性が火花を散らしてぶつかり合って、
 だから私は奴隷でいられ、女王様には気高くいられる
 ものだと思うから。

 きっとお仕置きになりますね。
 お許しください女王様。私は卑怯なマゾ牝です。
 泣いていないと考えはじめ、ろくなことにはなりません。

 
 自分本位な愛のカタチ。女は失望を重ねて自分の中の本音が見える。
 そうだろうと友紀は感じた。大学からストレートに出版社に勤め、娘からストレートに妻になった私より、サリナはずっと女の悲哀を知っている。そう思うとサリナは強く、私は弱い・・瀬戸由里子の言葉を思い出す。

『M女というもの、女王などよりはるかに強い生き物よ』

 友紀はちょっとため息をつきながら純白のワープロ用紙にキスをしてソファを立った。冷蔵庫を覗き、ありあわせでサラダでも作っておこう。
「私のためのサディズムか・・そうだよね、謎が解けた気分だわ」
 愛しているのにどうして虐めて泣かせるのか・・そうすることが自分のためになるからだ。友紀はちょっと可笑しくなった。サリナには勝てない。何もかもを見透かして何もかもを許容してマゾに生きる奴隷に勝てない。それもまた幾度も同じことを考えた・・。

 テーブルに置いた携帯が鳴ったのはそんなとき。いま菊名。スタジオから途中まで仲間が一緒で電話できなかったとサリナは言う。声が明るい。
つくづく素敵な人だと友紀は感じた。
「いまサラダしてるから」
「えー、お手製ですよね?」
「あ、馬鹿ね、サラダぐらい作るわよ失礼な・・ふふふ」
「はい、じきに帰ります、あと五分、ううん四分」
 子供みたいなサリナの言いように笑ってしまう。
「それから原稿、読んだわよ、なかなかいいじゃない」
「お仕置きですか? 鞭? ンふふ」
 どうして笑う?
「・・お仕置きが嬉しいの?」
「はい・・私もう走っちゃう、早く帰りたい」
「わかったわかった。フランスパン買ってあるから、それでいいでしょ?」
「はい、嬉しいです・・ああ女王様ぁ、虐めてぇ・・」
「もう・・他人に聞かれるよ、とっとと帰ってらっしゃいな」

 電話を切って、呆れてしまって小首を傾げる。
 サリナの原稿をベースに、行間に女王の気持ちを加えてやろう。もう少し責めに寄せた方がサリナらしい。熟女の言葉は赤裸々な方が説得力があると思う。

 玄関ドア。ノックではなくキイを使ってドアが開く。
「ただいまぁ! わぁぁ女王様だぁ!」
 今日のサリナは仕事帰りにしてはいつになく黒い革のミニスカート。ジムのロゴマークの入った大きなスポーツバッグをそこらに投げだし、犬のように飛んできて、キッチンに立つ下着姿の女王を見つめる。女王のパンティはTスタイル。白い尻が美しく、サリナはいきなりマゾモードに切り替わる。
 友紀は奴隷の手を引いてブラ包みの乳房にたぐり、そっと抱いてキスをした。片手をミニスカートに差し込んで、奴隷は腿をゆるめて甘受した。
 すでにそこは熱をもって濡れていた。
「ハァァ・・ああン女王様ぁ・・イクもん・・」
「イクもんて・・子供かおまえは! ふふふ、しょうがない女だよ・・あームカつく・・」
「はぁい、虐めてぇ・・ハァァ・・」
 荒い甘息。サリナの立ち姿がくにゃりと歪んで女王に抱かれ、瞳が潤んで泣いているようにも思えてしまう。
「できてるから運びなさい。女王が下着よ、首輪をして素っ裸!」
「はい! ンふふ、泣いちゃう・・」
 見る間に涙があふれてくる。これほどまでに想ってくれる奴隷に対し、友紀の中のサディズムは燃え上がる。

 ダイニングテーブルにつく女王の足下に正座をする全裸のサリナ。紫色の犬の首輪がよく似合う。パンとハムサラダを一緒に口に入れ、少し噛んで吐き出して口移しに与えてやる。そのたび女王と奴隷はキスするようにちょっと抱き合い、サリナは溶けた微笑みを浮かべて次のキスを待っている。
 マゾ牝サリナの誕生日から十日ほどが過ぎていて、サリナのM性はますます牝の性臭に満ちてきている。眸が据わって吐息が燃えて、正座をさせて食べさせているというのに、尻の下のフロアにすでに蜜を垂らして濡らしている。
 パンとミルクを口の中で攪拌し、乳房の先で尖り勃つ乳首を強くつまんで体を引き寄せ、そうするとサリナはいい声で痛みを訴え、眸を閉じて口を開ける。
「気持ちよくて美味しいでしょ?」
「はい・・ハァァ・・んっ・・ハァァ・・女王様ぁ・・」
 とろける眸を見据えてやると、女王のサディズムを悟るようにサリナの眸色にかすかな怯え・・いい眸をすると友紀は感じた。

「いいわ、餌にしましょう」
 サラダにパンをちぎって散らしておいて、テーブルから少し離して皿ごとフロアに置いてやる。
「向こう向きで四つん這い。お尻を上げて手を使わずに食べなさい」
「はい・・あぁぁ恥ずかしい・・いやらしいサリナのアソコをごらんください」
 感じ入った牝の声。奴隷は濡れる性器もアナルさえも空へ向けて皿に取りつく。陰毛のない性唇は濡れそぼって閉じていられず、ぽーんと咲くように開花して、透き通った蜜玉を垂らしだす。
 淫らな景色を眼下に見据え、女王は乗馬鞭を持って椅子に座り、軽くピシャピシャと左右の牝尻を打ってやる。
「あぁンあぁン・・感じます女王様」
「強くほしい? 餌が美味しくなりそう?」
「はい、美味しいご馳走、ありがとうございます・・鞭を・・あぁぁン」
「ちぇマゾ牝め・・食べながらダラダラ濡らしていやらしい女だよ・・許さないから」
 パシパシ強く左右の尻を打ち据えてサリナが尻を振っていい声を上げた、ちょうどそのとき、友紀のショルダーバッグの中でマナーにしたままの携帯がバイブした。

「誰だよ、もう・・」
 時刻は八時前、電波は人を追いかける。しかし着信を一目見て友紀は眸を見開いた。
「マスターよ、細川さん」
 それから電話に向かう友紀。サリナが眸を丸くして見つめている。
「お仲間の集まり? S様が三人? 明日の七時?」
『急なことなんだがね、yuuも一緒だし、いい連中だから話だけならそれでもいいしM女さんも二人来るから、どうかと思って』
 ことSMに関して、今度の本を浅いものにはさせたくないという細川の心使い。友紀が悩んでいることを見抜いた上での誘いだった。
「あ、はい。ちょっと待って、いまサリナと一緒ですから」
 細川の声は電話から漏れている。電話に手をかぶせて声を消し、友紀は言う。
「明日の予定は?」
「いえ特には。明日も渋谷で今日よりは早く終わると思いますけど、きっと五時には」
「じゃあちょうどいいわね。S様の集まりがあるんだって。新宿のホテル。マスターを入れて男性三人が奴隷さんを連れて集まるらしい。yuuちゃんも一緒ですって」

 サリナが応える前に友紀は声を塞ぐ手を解放した。
「わかりました、ぜひご一緒させてください。サリナも連れて行きますからお願いしますね。ふふふ、嬉しいみたいよサリナ・・泣きそうだもん。あははは」
 笑いながら、すでに怯えた眸をするサリナを見据える。
 電話を切って友紀は言った。
「マゾ牝サリナのお披露目だわよ。話すだけでエッチなことにはならないだろうってことだけどサリナだけは全裸です、わかりましたね、首輪そのほかお道具を持って来るように」
「はぃ・・あぁン・・あぁぁダメぇ・・狂っちゃう・・」
 笑える。いまにも泣きそうなサリナの眸を、眉を上げてほくそ笑んで見据えながら、友紀は両手を開いて胸を許した。流れるように飛び込んできて抱きすがるサリナ。キスをしながら片手を降ろして毛のないデルタをまさぐると、奴隷の美身がわなわな震えた。

 心でイク、マゾらしいアクメ。友紀にはよくわからない絶頂のスタイルだった。

2017年02月01日

DINKS~フリーランサー(二五話)


二五話


 少女が歳の離れた姉に甘えるように乳首を含むyuuを抱きくるんでやりながら、友紀は天井裏の木の骨格を見つめていた。それぞれが独立した木材でありながら組まれたときにカタチを持って強くなる。女同士の連携の実感と言えばいいのか、性を共有できたことで強くなれた気がしてならない。いまこの場に三浦がいたら抱かれていると友紀は思う。性的に外向きになれている自分がちょっと信じられない気さえする。

「私って誰・・何者なの・・私こそどうしたいって思うのよ」

 乳房越しに胸郭に響く友紀の声を聞いていて、yuuは抱き手にわずかに力を込めた。人は誰しも自分に迷うことがあり、いずれにしろ切り抜けて生きている。yuuにももちろん同じような思いはあってしかるべき・・。
 友紀は言った。
「下の四人に共通するのは男が嫌いということよ。だけどそれにしたって若いユウとサリナでは意味が違う。ユウはモモさんにイカレちゃってるけどモモさんには両性の力がある」
 乳首を離れてyuuが言った。
「赤ちゃんですか?」
「そうね、やっぱりそれはそうでしょう。モモさんは男性よ。治ちゃんケイちゃんはこれからどうなっていくのかわらないけど危うさがないとは言えないもんね」
「彼氏ができたりするかもですよね?」
「そういうこと。ある日突然どっちかが男にはしれば残った方はどうなるのって思うのよ」
「だとすればケイちゃん?」
「さあね・・そこまでは言えないけれど激しいのはケイちゃんだから。私とあなたにしたってS女とM女、一応はそういうことになってるけど、私は夫を愛しサリナを愛し子供を望まないまったく勝手な生き方をしてるでしょ。yuuちゃんはそのへん未知数。そのうちきっとママになっていく女でしょうし・・」

 乳首を舌先で舐められる心地いいさざ波に友紀は目を閉じ、yuuの長い髪を梳くように撫でていた。
 友紀は言った。
「疑問じゃないのよ。もっとこう直感的な感情として私は誰って思ってしまうの。ほんとにSなの? 同性が好きなのかしら? 不倫ぐらいしてみたいって思ってない? もっと言うなら、サリナやあなたを見ていて私もMを知ってみたいと思わないわけじゃない。私ってじつはセックスの化け物なのかって可笑しくなったりしちゃうしね」
「それは女ならそうですよ。本音の部分で淫らですもん」
「だと思う。理屈ではそうだけど・・理性だったり倫理だったりするんでしょうけど、まあ常識的なところで自分をごまかして女やってる。その鬱積がいつか爆発して濡れるようなことをしたくなる。ときめいていたくなる。今度のことでつくづく思うわ。女の性はひろがりに満ちている。ふと出会った同性への想い、ふと目にしたM女の姿、何人もの男を受け入れられる性器の不思議・・そんな想いがぐるぐるするのよ」
「そのへん突き詰めないとならないお仕事ですしね」
「それもあるわね。だけどそれもまた嫌なところで、どうしても観察しちゃうよ。観察してなんとなく見極めた気分になって、それに比べて私はどうなのって、どうどうめぐりに同じ思考に落ち込むわ」
「ほとんど哲学?」
「どうかな・・それほど高尚なものじゃない気はするけど、でも哲学というならそうなんでしょうね。鞭打たれて痛いのに女の性(さが)に震えてる。サリナの気持ちがわからないなら考えることもないんでしょうけど、わかりすぎて怖いぐらいなんだし、そうなるとますます自分を見失ってしまう気もするしで頭ぐちゃぐちゃ・・女って面倒な生き物だなって結局よくわからない回答に支配される」

 ちょっと笑って友紀は言う。
「いまにしてはじまった話じゃない、小娘だった頃から考え続けて・・誰しもそうかもしれないけどね」
 yuuの手が肌を滑ってデルタの毛むらへ忍び込む。
「・・女王様」
「よしてよ、その言い方・・マスターに笑われそうだわ。今日のところはレズな二人でいいじゃない」
「ふふふ・・はい。ご奉仕させてくださいね」
 あべこべに抱かれるように乳首を含まれ、yuuの指が毛むらを掻き分けて深く切れ込む性の底へと降りていく。
 友紀はされるがままに腿を割って膝を立て、さらにきっぱり性器を晒してyuuに委ねた。
「・・ンぅ・・はぁぁ・・いいわyuu・・」
 充分に潤った愛液を絡めた指でクリトリスをこすり上げ、yuuは鋭い犬歯をわずかに強く乳首にあてた。
「ぁン・・」
 友紀の白い首がちょっと反って熱い吐息が漂った。
「痛いですか?」
「ううん、ビクっとしただけ・・感じちゃう・・だから言ったでしょう、私の中にもM女が棲んでいるんです」

 yuuは痛かった乳首をよく舐めて、そうしながら谷底の指先で膣口を回すように愛撫する。粘液の接着から解放されて開く花びらの内側から蜜がじくじく滲みだし、yuuの口づけが肌を這って降りていく。
 股下にまわったyuuに両腿を抱かれて開かれ、花園を見つめられ、いつかくる甘い刺激を期待する。尖らせた唇がクリトリスに触れて友紀の裸身がピクと引き攣り、さらに性器を見せつけて、クリトリスから流れ下った舌先が花びらを分けて膣口へと侵入した。
「ぅぅン・・あ、あ・・おいでyuu・・私にもちょうだい」
「ンふふ、はい、女王様」
「また言う・・さあyuu、おいで・・」
 女王の花に口づけを捧げながらyuuの裸身が反転して友紀の胸をまたいでいく。陰毛を処理されたM女の性器はあさましいまでに牝の肉欲を表現し、ヌラヌラに濡れていて膣臭も漂った。
 私そのままの淫らな穴・・友紀は微笑みながらyuuの尻を撫でまわし、濡れる淫花に舌をのばした。
「あぁン・・幸せです女王様・・ありがとうございます」

 ありがとう・・性への感謝・・。
 Mの本質はそこではないかと友紀は感じた。
 夫の足下に膝をつき勃起に奉仕するとき私だって同じ気持ちになれている。女の本質はそこではないかと友紀は感じた。
 気持ちを向けてくれる相手に対する感謝の想い。女をやさしくする感情がMの側に振れたとき、私だってサリナやyuuのようになれるはず。
 なのにどうして責める側? 女の性の深さがそこにあると友紀は思う。

「・・私って、どうしてSなんだろね」

 独り言のように口をついた言葉だった。yuuは性器のさらに奥底で収縮を繰り返すアナルを見つめて舌を這わせた。
「逆もありますよ、あたしって、どうしてMなんだろって。ご主人様のおそばへ押しかけて、内心怖くてならないのに濡れて濡れてたまらなかった」
「意識したのはずっと若く?」
「そうですね、子供の頃からだったと思います。生理が来て毛が生えだして・・そのとき私、いやおうなく女になってく自分が怖かったんです」
「怖かった?」
「怖かったですね。男の人にいつか抱かれる。恥ずかしい姿にされてアソコもお尻も見つめられ、硬いものを入れられる・・どうしよう・・そんなことになったらあたし、きっと恥ずかしい声を上げて悶えるわって思ったときに、妙な羞恥心・・被虐の感情に襲われて・・なんだかもう獣みたいな気がしてきて・・ところがそうなるとアソコはべちょべちょ。さまざま妄想がはじまったりして・・」
「どんな?」
「エッチのすべて。痴漢だったりレイプだったり、人前で裸にされて怖くて震えているのに嬉しくて・・よくわからない妄想をたくさんして・・夢もありましたしね。夢の中で縛られてバイブを突っ込まれてイキ狂っているんです。鞭もそうだし浣腸されて嘲笑されて・・なのに濡れてたまらなかった。あたしって何者・・ずいぶん苦しかったのを覚えています」

「細川さんに出会って楽になれた?」

「なれましたね。これでもかと虐められて・・これでもかと醜態を晒して・・プライドなんてこっぱみじん・・泣いて泣いて・・だけど抱かれて夢のような抱かれ心地に解放される。一貫して揺るがないご主人様に従っているときこそ、ああ私は女だったって感じられる」
「抱かれ心地か・・わかるよそれ。サリナを見てても思うもん。やりすぎかなって思うほど虐めてやって、なのにサリナ、ほんとに嬉しそうにしてるでしょ」
「甘えて甘えて?」
「子供みたいよ。重荷をみんな降ろしてしまって子供みたいに甘えてくれる。だけどそうすると私はもっとムラムラする。虐めてやりたくてならなくなるし、まあ、そんな自分が怖くもなるけど・・ただ言えることは・・」
「はい?」
「サリナって私の半分・・同じものを追いかけてるって思えること。愛なんでしょうけれどね・・ふふふ」

 yuuは身をずらしてふたたび友紀の胸に頬を添えた。
「今度のことですけど」
「うん?」
「ご主人様はおっしゃいました。SだろうがMだろうがレズだろうが、おまえらしくあればいいって。ご主人様って浮気OKなんですよ。いい男がいるなら抱かれて来いっておっしゃいます。結婚してからだって公認するって言ってくださる」
 友紀はyuuの二つの眸を交互に見つめた。
「・・そうなんだ?」
「簡単なことだって。惚れるほどの男に出会えているのに束縛したってはじまらない。ふふふ、それがね、カッコいいんです」
「どういうこと?」
「羽を毟った鳥ではつまらないなんて言うんです」
「・・最高よね、いい男だわ」
「ええ最高・・そう言われると羽なんて自分で毟って捧げたくなりますし」

 友紀は、細川へのサリナの想いを匂わせてみようと考えた。
「じつはね、サリナって細川さんに憧れてた時期があるのよ。だけどそのときにはもうyuuちゃんがいたでしょう」
 yuuはうなずきながらちょっと笑った。
「それなら聞いてます、一度だけそういうことがあったって」
「どう思う? それって浮気?」
「ぜんぜん違います。ご主人様のやさしさだと思ってますし、あたしの方こそご主人様を独占できるなんて思っていない・・S様だからなおさらですし」
「・・なるほど。サリナを貸し出すなんてことがあるなら、そのときはyuuちゃんも呼ぶからね」
 yuuは目を丸くして微笑んだ。
「でもそうなると・・あたしって怖いかも」
「そうなの?」
「女にはSだと思うんです・・同質のものが許せなくなるときがある」

 そこだと、今度こそ友紀は感じた。弱い自分への自罰。だからサリナは自虐マゾ・・もう一人の自分と言うけれど内なる声が許さない。私のS性もそのへんを基点としたものだろうと思うのだった。
 友紀は言った。
「夫の前ではMっぽいのよ」
「わかります、女でありたい裏返し・・あたしがそうだから・・」
 友紀はyuuを強く抱いた。同じ女という想いもあったし、SとMに振れる心も理解できる。
「可愛いねyuuって」
「友紀さんこそ素敵です・・やっぱり女王様・・お慕いしますよ」
 横寝になって抱き合いながらyuuの尻をパシンと叩く。
「あン・・ふふふ、嬉しいなぁ」
「あらそ・・」
 そのまま抱き合い、ふたたび深いキスへと進んでいく。友紀の手が毛のないyuuのデルタを陵辱した・・。


 人差し指と、きっと中指・・指をまとめた硬いものが私の中へ
 入ってくる。ずっと歳上の私が若いyuuちゃんに抱きすがり、
 指のペニスに犯されて喘いでいる。
 だけどそのとき、波濤のように打ち寄せる性波は、yuuちゃん
 に与えられるものではない・・夫のそれとも違う・・。
 そんな妄想に耽っていたのです。
 レズを知り、S感情に震える自分を知り、だけどまだ知らない
 性がありますからね。yuuちゃんに抱かれて性的に解放され、
 私のマイセックスに対して挑戦的になれていたのか、
 夫以外の男性に尽くしてみたい・・ノーマルなら不倫でしょう
 し、M女としてなら奴隷の性を体験できる。
 女の性のひろがりを見極めてみたいというのか突き詰めて
 みたいというのか、持ち前の積極性がセックスに向いていた。

 夫を裏切る背徳の想いの中でのアクメはどんなだろう。
 ご主人様に授けられる性奴隷の幸せってどんなだろう。

 yuuちゃんのお尻には血が黄色くなった一本鞭の痕があり、
 だけどそれをひどいとは思わない。細川さんの人と成りを
 知っていて、その彼に心酔する性奴隷の姿を見つめている。
 ノーマル・・レズ・・SとM・・それらを私は行き来して、
 牝に生まれた幸せを謳歌する。倫理や常識なんて後発の
 文化が生んだシバリなどには苦しめられず、あらゆる性に
 燃えていたい。誰しもが妄想しながら実現できない世界へ
 踏み込んでみたいと考えている。

 私はどうしてしまったのか・・魔性がいよいよ蠢きだして、
 yuuちゃんの愛撫にのたうち狂って果てていく・・いいえ、
 その指は夫以外の誰か。手近なら三浦さんがいてくれる。

 ああyuuちゃん・・もっとシテ・・淫欲に狂う私でいたい・・。

2017年01月29日

DINKS~フリーランサー(二四話)


二四話


 今日のこのとき鮮やかなオレンジ色の下着を選んだ治子。ユウの赤もそうだが女が暖色系の明るい色を選ぶとき、自信のなさの反動だと言われている。認められていないのではという思いがあって、目立つ色を着ることで女の自分を主張したがる。治子もそうだと友紀は感じた。治子とは以前から女性誌の編集でデスクを並べていたのだが、肝心なところで弱気というのか押しが弱い。それが対人関係にも顕れて、社内はともかく取材などでは相手に対してどうしても遠慮がちになってしまう。

 かすかな戸惑いを胸にサリナの顔をまたいだ治子。心なしか膝が震えているようにも感じられた。文才もありアイデアもある後輩の資質をのばしてやらなければならない。友紀は治子がどうするかを見守っていたし、それは同僚で同世代のユウもそうだ。自分に比べて優位か劣位か。そのへんの無意識な格付けが職場でも出てしまう。ユウはモモと出会って変わりはじめた。それには治子も気づいていて負けたくない思いがあるはず。

「・・不思議な人ね」
 サリナをまたいで見下ろして、かすかな声で言った言葉を友紀は聞き逃さない。『美人だし能力もあるのにどうして?』・・『こんなことをしてどうなるの?』・・『これがあなたの愛なんですか?』・・おそらくそういう意味だろうが、それには『私にはできないし怖い』という裏腹な思いが潜んでいるはず・・。
「いいわ、汚いところを舐めなさい」
 意を決した言葉。攻撃的になってきたと友紀は思う。自分の中で処理しきれず拒むこともできないとき女は反転して攻撃する。攻め込まれれば崩れてしまうと思うからだ。

「ケイちゃんか、怖いのは・・」
 友紀のかすかな声にそばに座るyuuが眉を上げて首を傾げた。
 治子はこう考えている。刺激を受けたケイがSっぽくなっていく・・だけど私はMじゃない・・M女なんかになりたくない・・したがって私は違うと攻撃的になっていく。ケイへのポーズもあるのだろうが。
 鮮やかなオレンジ色のパンティを意を決して下げながら、治子の豊かなヒップがサリナの顔へかぶさっていく。アナルではなく性器舐め。汚いところと言っておきながらアナルではない。女心とは裏腹だと友紀は思う。

「ンふ・・ハァァ・・ぅく・・」
 治子はサリナの頭をそっと両手でつつむように、顎を上げて唇をちょっと噛み、甘い吐息を虚空へ吐いた。ぴちゃぴちゃ濡れ音が聞こえる。治子の腰が揺れ出した。
「感じちゃう・・あぁぁ・・」
 たまらずちょっと浮かせた性器を追うように、サリナが顔を上げてついていく。
「あぁン・・はぅ・・」
 サリナの頭を撫でている。本質のやさしい治子。yuuがささやくように言った。
「・・いい人」
 友紀はyuuの手に手を重ねてうなずいた。
「ここにいる女はそうよ、いい子ばかり。私はちょっとですけどね・・ふふふ」
 そんなことないと言うようにyuuが友紀の手を握る。
「これ以上はダメ・・おかしくなっちゃう」 と股ぐらのサリナを見つめて治子は微笑み、離れ際に両手で頬を撫でてやってパンティを穿き直す。

 そして最後にケイ。ふと横目に見るとその瞳がランランと輝いている。
 天性の淫婦。さてどうするか。景子とはどんな女で、治子はケイのどこが好きなのか・・二人のスタンスがわかると友紀は見つめた。
 ソファをさっと立つ。こちらは鮮やかなブルーの花柄の下着。大柄で乳房も尻もダイナミック。顔立ちも派手な感じで美人の部類。ケイは学生の頃からフリーターをやってきて、その流れでスポーツ用品のショップに就職したと聞いている。デスクワークが向かない。仕事ができるということで望まれて社員になった。
 ある部分で私に似ていると友紀は感じ、ケイの動きに期待した。
 思ったとおり躊躇なくサリナをまたぎ、躊躇なく下着を下ろして濡れそぼる女性器をサリナに食わせる・・食わせるという表現がふさわしいほど、打ち付けるように性器をサリナにかぶせていく。

「あぁぁ! たまらない・・もっとよもっと、奥まで舐めて!」
「はい、ケイ様」
「ね、濡れてるでしょ? ああっ、いいわ、感じる! ああーっ!」
 ふと見るとyuuがほくそ笑んで首を振る。
 腰を入れて性器をこすりつけるように、性器からアナルまでを一気に舐めさせ、自分でブラ越しの乳房を揉みしだき、あられもない声を上げるケイ。その両手が後ろ手にサリナの乳房をわしづかみ、二つの乳首をヒネリ上げる。
「くぅぅ!」
 サリナの悲鳴。脚が痛みにばたついている。
「ふふふ、痛いよね。でもダメよ、穴の中まで舐めてちょうだい」
「はい、ケイ様、ありがとうございます」
「いい子・・いい子よサリナ・・はぁぁ! もっと舐めて・・ああーっ!」

 このとき友紀は、顔を少し斜めに向けて視線だけで食い入るように見つめる治子の様子が気になった。私もきっとこうされる・・ケイはSに目覚めてしまった・・内心そんなところだろうし、新しいセックスへの期待もある。治子は息を詰めて見守っている。
「ねえねえ、イッちゃう・・ねえイク・・あ! はああ!」
 サリナの顔の上で大きな尻がたわたわと波紋を伝えてダイナミックに動き、いよいよクライマックスと思えたとき、ケイは言った。
「好きにしていいんでしょ? ねえ友紀さん?」
「いいわよ、思うままに虐めておやり」
「うん、わかった・・ああサリナ、もうダメ・・」
 次の瞬間、ケイはブラまで毟るように剥ぎ取って全裸となると、腰を浮かせて体を反転、69でサリナの性器へ攻め込んだ。指を突っ込み、掻き回し、ラビアを吸いたて、クリトリスを吸い上げる。
「ああケイ様ぁ! いい! 嬉しいです!」
「だったら舐めて! 指入れて! ああイク・・サリナぁ!」

「ふふふ・・激しい人・・」
 yuuが思わず言って笑い出す。その向こうでユウが治子を横目に、『いつもこんな感じなんですね』と言うようにくすくす笑って治子を見ている。
 その治子。わずかに赤面して目をそらせず、いよいよその気といった面色になっていく。
 周囲の女たちを見渡して、友紀はこれが牝の本質だと感じていた。貪欲であり淫乱であり、理性も知性も、美もそうだし日頃のポーズも、肉欲を取り繕うだけのもの。
「治ちゃんも幸せよね?」
 試してやってちょっと笑うと、治子は思いのほかしっかりとうなずいて微笑んだ。ケイに委ねる覚悟ができたとその顔に書いてある。
 治子が言った。
「Mにされる・・きっとそうなる・・ふふふ」
 ・・やっぱりね、と思いつつ、これでオフィスでも変わるだろうと友紀は思った。ユウがモモを得たように治子はケイとの新しい性を得たのだから。

 友紀は言った。
「気が済むまで責めてやればいいわ。治ちゃんもユウちゃんも好きにすればいいからね」
 絡み合ってのたうちながらケイが顔を向けてウインクした。治子とユウは二人で見つめ合ってうなずいている。
 友紀は椅子を離れ、一人で二階へ上がる。一階には広い和室が造られていて布団で六人ほどが寝られるし、二階にはシングルベッドを並べて置いたツインの洋室が造られている。
 下着姿のまま部屋に入り、ドアを閉めて横になる。建物の造りのせいか階下の音は届かない。一人きりの静寂。友紀はちょっと苦笑して窓の外へと眸をやった。いつの間にか外は暗く、風もなさそうで木々の枝葉が揺れてもいない。
 と・・ノックされ、黒の下着姿のままyuuが顔を覗かせた。
「下は? 三人でサリナを?」
「ううん、治ちゃんはユウちゃんの手を引いてお部屋へ。ケイちゃんはイカレてるしサリナさんはもがいてる・・ふふふ」

 笑いつつyuuは友紀に見られながら全裸となって、狭いベッドの友紀のそばへと身を寄せた。yuuもまた陰毛のないデルタ。けれどもボディピアスのようなものはされていない。
 裸のyuuを抱いてやり友紀は言った。
「ちょっとドキドキだったわよ、ピアスとか・・ほら」
「ご主人様におねだりしてます」
「おねだりしてる?」
「夢なんです・・乳首とクリにピアスを授けられることは奴隷の誇り。お願いしてもまだ早いって・・でももうすぐ・・ふふふ」
 ひそやかで意味ありげなyuuの笑い。
「そうなの? してくれそう?」
「はい。ご主人様と結婚します」
 友紀は抱きすがるyuuを引き剥がし、顔を見て眸を見つめた。
「そうなんだ・・おめでとう、よかったね」
「ありがとうございます。私、友紀さん見てて勇気をもらった。死に物狂いで女してる」
「・・そうかしら?」
「ご主人様もおっしゃってますよ」
「あら何て?」
「歩く性器だって・・ふふふ、狂おしいほどの女性だってことですけどね」
 友紀はちょっと瞳を回して苦笑する。
「失敬な・・でも彼に言われると嬉しいかもよ。正直言って私ね、サリナにはとても勝てないって思ってるの。ピュアそのもの。これでもかと自分を晒すサリナを見てて、私にはできないって最初の頃は思ってた」
「いまも?」
「いまは違う、本気で鞭打てるし、少しぐらい傷ができてもいいと思うし」
「生涯の奴隷ですものね?」
「そういうこと。生涯きっと離れない。サリナに愛を教わって生きていく。あの子こそ女神だわ」

「女王様・・好き・・」

 yuuは、ワインレッドのブラ越しに友紀の乳房に頬をすり寄せた。
 友紀は言った。
「今度のことでマスター何か言ってた?」
 yuuは首を横に振る。
「私が何をしようが一切何もおっしゃいません。思うまま感じるままに自分を決めて動きなさいって」
「・・自分を決めて動くか・・マスターらしい。お店にいたってそうだもん、だからバロンで解放される・・うまく言えないけどポーズしなくていいのよね、私のまんまでいられるから。あの頃の私って・・」
「え?」 とyuuが顔を上げた。
「取材で最初にお会いしたときのことじゃない」
「ああ、そういうこと」
「そういうことよ。あの頃の私は浅かったって思うわよ。レズさんたち・・不倫もそうだしSMなんてましてそう。いろんな性に出会っていながらあくまでビジネス。割り切ってたし、どっちを向いても他人事で『スキね』ぐらいにしか思っていない。そういう意味でも私はサリナよ。サリナを知って打ちのめされた。あの子は愛があふれ出てる女だもん。圧倒される愛の量。私が勝手に遠慮して本気で鞭打つなんてできなかった。だけど、それって結局、自分をいい子にしておきたいだけなんだと気づいたときに、サリナの愛に押し流された。鎧を脱げたと言えばいいのかな」
 yuuはちょっとうなずくとふたたびブラ越しの乳房に頬を寄せた。

「・・ひとつだけ」
 yuuのかすかな声が胸で聞こえた。
「うん? ひとつって?」
「ひとつだけご主人様が・・いずれ一度、女王様に貸し出すって」
「私に?」
「もちろんそうです。そのときは友紀さんサリナさんの二人女王。女たちの洗礼を受けて血の涙を流して来いって怖いことをおっしゃられ・・ふふふ、だけど今日、お二人を見ていて思いましたよ、一度はお仕えしたい女王様だなって」
「・・ったく、あのタコ・・よく言うよ」
 同じことを考えていると友紀は感じた。サリナを貸し出し、奴隷とは何かを思い知らせてやりたい。誰か男に犯されて、もしかしたら妊娠する・・それでもいいと考えている。

 そう思ったときに、言葉が口をつく友紀だった。
「yuuちゃんて子供は欲しい?」
「うーん、なりゆきですよね、できるならできるだろうし。拒みもしないし求めもしない」
「求めもしない? 子供よりもご主人様との関係?」
「そうですよ、それはそう・・私はただ従うのみ・・」
 普通はそうだろう。夫との暮らしの中で母親になっていくのが女の幸せ。普通はそうだろうと友紀は思う。

 その頃・・階下の和室で、治子とユウが抱き合っていた。互いの下着を脱がせ合い、全裸で抱き合いキスをかわす。
 治子は職場で、友紀の下には自分がいるべきと思っていたし、ユウはユウで友紀の下にいられることが嬉しかった。女同士の微妙な嫉妬と言えばいいのか、しっくりしない感情がないとは言えない二人。
 ユウの髪を撫でながら治子が言った。
「景子と出会ってどれぐらいかな・・最初の頃は面食らったわ」
「どうして?」
「パワーの塊・・積極的だし行動的だし」
「そんな感じですね、見てて圧倒されちゃうもん」
 ユウは苦笑して治子の乳房に頬をうずめる。治子の裸身は豊か、ユウは華奢で線が細い。年齢でも治子が上だし、二人でいると治子が姉さん格になるのはしょうがない。

 治子が言った。
「そうなんだけど、ケイってあれでやさしいのよ。料理なんてあたしよりできるし、お人形とか縫いぐるみなんかを抱いて寝てるし、女の子そのものなんだ」
「・・可愛い」
「ほんとよ、じつは可愛い女なんだよコレが。ふふふ、押し倒されて脱がされて、そのくせ抱いてほしくてたまらない。ああ女ってこうだよなって思ったし、相性いいし・・そのままグダグダのレズにハマっていったわ。私も男はまっぴら。それはケイも同じでね。二度とパスだと息巻いてる」
「あははは」
 ユウはちょと笑って治子の乳首を唇に捉えながら言った。

「でもちょっと怖いでしょ? じつはSっぽい?」
「みたいだね。もうダメよ、Mにされそう・・」
「治子さんて違う?」
「ううん・・きっとMよ・・ケイって激しいから、そうなれたら幸せかもって思っちゃった。サリナさんて素敵よね」
「めちゃ素敵・・憧れちゃう。友紀さんもそうだけど、いまのあたしじゃ太刀打ちできない女だし」
「若いもん、あたしたち。ケイがもし友紀さんみたいになれるのなら、あたしはサリナさんみたいになっていきたい」
 乳首を吸うように愛撫するユウを抱きながら、治子は言う。
「でもユウも不思議でしょ? モモさんは女王様で、なのにペニスで愛される。いつか妊娠したりして?」

 ユウは乳首を含みながら声を漏らして笑った。
「やっぱりそう思います? 綺麗なおっぱいなんですよ。体もホルモンでふっくらしてるし・・なのに何で男なのって思っちゃう。溶けるほどやさしいかと思えば、レイプみたいに犯されて・・お部屋で私は常に全裸で奴隷なんだと実感するけど、あるときお姫様みたいに扱ってくれたりするし」
「素敵なギャップなんじゃない?」
「そうなんですよ。振り回されているうちに、こんな人って他にはいないと思えてきちゃう」
「鞭打ちとかは?」
「少しです。Sっぽいけどやさしいから。何もかもが驚くほど女で、また一方驚くほど男の一面も持っている。黙ってついて来いみたいな」

 それからユウは、治子のデルタの翳りへ手をやって、そっと谷口に指を這わせながら言った。
「ねえ先輩」
「うん・・その言い方やめよ・・」
「はい・・友紀さんのこと・・私いま必死なんです、学ぶことばっかりで」
 指先の侵入を拒まず治子は静かに脚を開いて立てていく。ユウの細い指が濡れのまわった同性のラビアを掻き分けて愛撫する。
「ンふ・・それを言うなら一緒よ。あたしだって必死だし、友紀さんがいてくれないと話にならない。でもユウ」
「はい?」
「もう浅い関係じゃないんだし・・あぁン」
「ふふふ・・ですね」
 ユウの指先が治子のクリトリスを弾くように愛撫する。治子は甘い吐息を漏らしながらユウの谷底へと指を這わせた。
「あぁぁ感じます、お姉様・・」
「お姉様か・・ふふふ・・そうだけど何か複雑・・好きよユウ」
「はい、嬉しい・・あたしも好きです・・あぁぁ感じる・・お姉様ぁ」
 豊かな治子が華奢なユウを体に載せて、ユウの裸身がずれていき69で互いを見つめる。互いに濡れる女の部分にキスをして、絡み合って求め合う。

「きゃうぅーっ、ケイ様ケイ様、もうダメ・・ああイクぅーっ!」

 二階に届かなくても襖を閉めただけの和室には響いていた。
 治子がパシンとユウの尻を叩いて言った。
「・・ったく、何をなさっておいでやら」
「ふふふ・・ですよね・・それがそのうちお姉様にも・・くくくっ」
「可笑しくない! 勘弁してよ・・あーあ」
 ほくそ笑んで絡み合う治子とユウ。息がふたたび乱れだす・・。

2017年01月28日

DINKS~フリーランサー(二三話)


二三話


 プロダンサーの見事な裸身を鞭打ちで真っ赤にされて踊るようにディルドで突き抜く凄惨なオナニー。サリナほどの美女にとってこれほど醜悪なセックスもないのだろうが、それより友紀は、女五人が揃って下着姿となったことでスイッチが入ったらしいケイとユウを観察していた。

 ケイは激しい性が好みのよう。治子とのベッドをリードする側だと想像できた。グラマーな肢体は性的魅力にあふれている。乳房はDサイズ。青の花柄のブラからはちきれんばかり。大柄でもウエストはくびれて締まりダイナミックなカーブを描いて尻が張り出す、日本人離れしたボディシェイプ。

 がに股に腿を割って尻を前後左右にスイングさせ、陰毛のないデルタの奥底をディルドで犯し抜くサリナの姿を、ケイは嬉々として見つめていて、暴発寸前の肉欲にギラつく眸を輝かせ、息を殺していながら吐息は熱く、自分でブラ包みの乳房をわしづかむようにして胸のふくらむ苦しげな呼吸を繰り返す。天性の淫婦を想像させる、じつにいい表情をすると友紀は思った。
 このときケイと治子はロングソファに並んで座っていたのだが、ケイの片手が治子の白い腿を揉むように撫でていて、治子もそれを拒まなかった。治子は鮮やかなオレンジ色のランジェリー。日頃そうして濃密なレズの世界を泳いでいるだろうと感じられる。

 それとは対照的に、yuuもユウも、懸命に女王に尽くそうとするM女の姿を刻みつけておこうとするように真剣な面色で叫び狂うサリナの声を聞いていた。嬲られつくしてすでにイキそうな裸身をこれでもかと鞭打たれた直後の際限ない快楽。サリナはケダモノ。吠えるようにアクメを訴え、がに股に開いた股下のフロアに愛液を散らしてイキ続けている。
 二人ともM女。そんなサリナの気持ちをわからない二人ではない。

 今日のyuuは落ち着いた黒の下着。胸はCサイズでハーフカップのブラから白いふくらみがあふれていたが息は静か。同じM女としてサリナの想いに同化しようとするように、わずかな微笑みをたたえながら、やさしい面色で見守っている。
 もう一人のM女、ユウはユウで、サリナに揺さぶられる興奮よりも、自身の姿をサリナに重ね、女王モモに調教される奴隷として私もこうなりたいと思っているのか、身につまされる面色で見つめている。
 今日のユウは真っ赤なブラとパンティ。胸はAよりわずかにふくらむぐらいだが、人一倍激しい女心を秘めいている。今日集まった六人の中で負けたくないという想いが選ばせた赤ではなかったか。そう思うと健気で可愛い。

 そのユウがとっさに身を乗り出して手を差しのべるような仕草をした。
 友紀がサリナへ眸をやると、サリナはついに床に崩れ、ディルドを握る手の動きもなくなって気が遠のいているようだった。ふるふる体を痙攣させて裸身を投げ出す。
 よくやったよ、抱いてあげたい・・ユウの顔にそう書いてあるようだ。

 友紀は穏やかな笑みをたたえて椅子を立ち、荒い息に乳房を揺らしながら動かなくなったサリナのそばへとしゃがみ込む。今日の友紀はワインレッドの下着を選び、皆の目には年嵩の分だけ妖艶に映っていたのだろう。
「気持ちよくイケたみたいね」
「・・夢のようです・・溶けそう」
 サリナの髪をそろりと撫でつけ、さらに言う。
「今日はみんなの共有奴隷よ。五人女王。このぐらいじゃ許さないわ、狂うほど責めてやりますからね」
 それから友紀は四人を振り向く。
「頑張ったんだもん、ご褒美をあげなくちゃね」
 皆は微笑みながらうなずいている。
 サリナに命じた。
「上を向いて寝なさい。私たち女王の濡れを舐めて綺麗にするの。わかったわね?」
「はい、女王様・・サリナは・・」
「なあに?」
「幸せです」
「よろしい、それでいいのよ、可愛いマゾになっていこうね」
 サリナは女王の微笑みに笑顔で応えながら、友紀は、赤くなった右の乳房の先の乳首をツネリ上げ、サリナは心地いい痛みに覚醒するように体を動かして仰向けに寝直した。

 友紀は立って振り向いた。声の響くライブな板の間。サリナへの命令はもちろん皆に聞こえている。
 誰が最初に奴隷の顔をまたぐのか、友紀はちょっと考えた。
「じゃあこうしましょう、最初に誰か。次に私。それからは次々に。ふふふ、さて誰かってことなんですけど、私が指名していいかしら?」
 異論はなかった。
 友紀は四人を見渡して、困ったような・・かすかな怯えをはらんだような眸を向けたユウを見つめる。

 ユウの瞳は魅入られたように動かない。そらせなくなっていると言ったほうがよかっただろう。いつか下に寝るのは自分・・きっとそうなると思い描く羞恥心とマゾへと向かうかすかな恐怖。弱い女の眸の色だ。
「ユウちゃん」
 名を言われたとたん、それでなくても小柄な体がなおさら小さく感じられる。赤い下着で隠すだけのユウは椅子を立ち、胸の内では震えていますと言うように息を殺して歩み寄る。
 すれ違いざまに友紀はユウの手を引いた。
「あっ」
 友紀の腕の中にすっぽり収まって抱かれるユウ。驚いたような視線が愛らしく、友紀は微笑んで眸を見つめた。
「濡らしてるわね?」
「・・はい」
「ユウもいい子、自信を持って」
 鼻先を鼻先でくすぐるように笑顔を寄せて、友紀は唇を重ねていった。ユウの体から緊張が抜けていき、ユウはキスを友紀に委ねた。舌の絡む深いキスへと進んでいく。
「今日はユウも女王様よ、ほらほら胸を張って!」
 背中をぽんと叩いて押した。

 安心したようなユウの笑顔。怯えの色が消えていた。自分に自信が持てなくて苦しんだ日々から解放されていくようだ。
 歩み寄って微笑んで見下ろしながら、微笑んで迎えるサリナの顔をまたぎ、赤いパンティを下ろしつつ膝を折って奴隷の口元へ花園を寄せていく。皆の座る位置からならユウは横を向いていて、開かれた尻やデルタの毛はあからさまには晒されない。線の細い華奢な肢体。 

「頑張ったね、ご褒美よ」
「はい、ユウ様」
「私も私の女王様にこうするのよ。ご褒美におしゃぶりさせていただくの」
「ふふふ・・はい」
 サリナはユウがモモというニューハーフの女王様に仕える身だと聞かせれている。
 サリナの眸を見つめて言う。
「よく舐めて。恥ずかしいほど濡れちゃった」
 それからは性器がかぶさりサリナの声は聞こえない。

「ぁン・・サリナ・・いい・・すごく感じる・・」

 横から見ていてユウの細い腰が反り返り、ユウは唇を噛んで顎を上げ、うっとり目を閉じ、後ろ手にサリナの乳房を押さえるように身を支える。
「あぁぁサリナ・・奥までちゃんと舐めなさい」
 はいとサリナが顔を上げてうなずこうとすると性器への圧迫が強くなり、ユウの甘い声が大きくなる。
「はぁぁーっ・・んっんっ・・」
 腰が入ってクイクイ動き、性器をこすりつけて貪るユウ。この子もいい奴隷になっていくと友紀は感じ、ふと横を見るとyuuが輝く視線でユウを見ている。

 そしてそのとき、治子のかすかな甘声が流れてきていた。ケイと治子が身を寄せ合って、ケイの手が治子のブラ越しの乳房を揉んでいる。治子は眸を閉じてされるがままに委ねていた。ケイは能動。たまらなくなって仕掛けていく貪欲さがちょっと可笑しい。
 そんな二人にyuuも気づき、友紀と眸を合わせて眉を上げ合った。
 この後サリナをケイに委ねてみるのも面白いと友紀は思う。

「あぁーっサリナ」
 ユウの尻が暴れだし、サリナの頭を両手につかんで腿を締め、あぅあぅ声が聞こえたとたん、ふっと力が抜けて体が震えた。浅いアクメ。ユウは腰を浮かせてサリナにキスをしてやって、立ち上がるとパンティを穿き直し、そのとき別人のように穏やかな女の眼差しを友紀に対して向けるのだった。

 同じように女王友紀。友紀は奴隷に奉仕させつつ、ずっとサリナの頬を撫でていた。友紀にとってSMなどしているつもりはさらさらなかった。こうすることが愛の表現。
「アナルまで綺麗になさい」
「はい・・ンふふ、女王様ぁ」
「可愛いよ」
「はぁい」
 サリナの目尻から涙が流れ出すのをじっと見つめてyuuが言った。
 このときyuuのそばにはユウが座り、yuuはユウの手に手を重ねていたのだった。
「驚いちゃった・・素晴らしい女王様だわ」
 ユウがうなずく。
「毎日オフィスで一緒なのに・・普段の友紀さんからは想像できない姿だもん」
 yuuは言う。
「そうかしら? 友紀さんは激しい人よ。ご主人様がおっしゃってた・・『いつか折れなければいいが』って」
「そうなんですか? 友紀さんが折れる?」
 yuuはうなずきユウの手を撫でながら友紀を見ていた。白く流れるような女王のヌードラインが美しく、サリナはさぞ満たされているだろうとyuuは感じた。
 yuuが小声で言った。
「友紀さんてちょっと自分と戦いすぎだわ。じつは傷だらけ。サリナさんもそうだと思うし、だけどもう二人とも大丈夫・・ふふふ」
 若いユウは言葉の意味を探るようにyuuの横顔を見つめていた。

 柔らかな腿で挟みつけるようにして懸命に奉仕するサリナの様子に微笑みながら、友紀は、ポーズの通用しないこういうシチュエーションで、日頃どちらかと言えば控えめな治子がどう変化するのだろうと、そのことにも興味があった。
 治子とは共通点がある。妊娠を望まない。女だからという理由で当然のように母親になっていく人生を嫌いながら、人一倍やさしく母性豊かなところがあり、なのに男ではなく同性に向けられる女心。よくわからない妙なギャップ。治子もまだ二十四歳と若く、自分を見切れる年齢でもないだろう。

 そんな治子がはじめて知ったSMでどう変わっていくのか。この場限りのことと受け流すのか、それともいきなりはじけたりするのだろうか・・そのへんがこれからの仕事にも出てくると思うからだ。
 女とは面白い性だと友紀は思う。誰しも程度の差はあれ多面性を持っていて、あるとき突然変化したりするものだ。表向きの人格もそうだが、とりわけセックスにそれを感じる。友紀自身がそうだった。子供を持たないDINKSというだけで、いたってノーマルなつもりでいた。サリナを知ってレズに目覚め、次の瞬間S女の自分を突きつけられる。夫とはごく普通にまじわって、そのじつレズで女王様。
 そう思うと、つくづく女はわからないし、だから女は面白いと感じられる。

 心地よさを楽しんで、サリナの頬をちょっと撫でて立ち上がり、さて次は誰が動くか。そういう観点で見るならyuuだって面白いし、ケイなど特に激変しそうなタイプ・・。
 友紀はちょっと笑いながら言った。
「お次はだあれってことですけど、ちょっと妙案・・ケイちゃんは最後にしてね。その代わりサリナを貸し出します。それからは二人ずつに分かれましょう」
「わぉ・・それってスワッピング? ふふふ」
 案の定、キラキラ眸を輝かせるケイ。この子は怖いと内心思う。
 友紀が言った。
「というか、サリナを躾けてみないかなって思っただけよ。嫌?」
 ケイは嬉々として身を乗り出して、嫌じゃないと首を振る。

 そんなケイに治子は横目。『しょうがない女』と言うようにちょっと困った眸を向けた。ケイにはSの資質があり、それが積極さを生んでいる。治子は逆。刺激されて動く受け身の側。内心怖く、それでいて期待もある。二人になったときケイがS役にまわりそう・・そんな思いだったのかもしれない。
 治子の気持ちは見透かせる。

 そしてそのとき、あのyuuが椅子を離れた。数歩の距離を歩むyuuの白い背にうっすらとだが鞭痕が残っている。房鞭ではできない鞭の条痕。一本鞭の痕。厳しい主に躾けられた性奴隷を物語る姿だったが、友紀にはそれが誇らしいもののように思えてならなかった。この人と見定めた主に委ねた二十八歳の女の生き様をその女体が見事に表現するようで・・。

 サリナの顔をまたぐときyuuは逆さにまたぎ、躊躇なくパンティを下ろしながら腰を沈めた。横から見ていても陰毛のないデルタ。熟れた女体は均整がとれていて、白い尻にいっそうくっきり鞭痕が残っている。腰を下ろしたyuuは奴隷の両方の乳首をつまんでやってコネながら言い放つ。
「アナルだけでいい、丁寧にね」
「はい、yuu様」
「乳首こうされて気持ちいい?」
「ああ、はい・・ありがとうござ・・」
 尻谷が唇にかぶさって、yuuは腰を反らせて目を閉じた。ぴちゃぴちゃと舐め音がくぐもって、yuuが熱い吐息を漏らしだす。
 それにしても・・サリナはどんな想いだろう。一時期憧れた細川が育てたM女。バロンのマスターに出会ったときすでに彼にはyuuがいて届かなかった想い・・そのyuuに奉仕しながらサリナは複雑だろうと考える。
 yuuは少しの間舐めさせて、性器に蜜濡れをとどめたまま、さっと立ってパンティを穿き直す。

 ケイが、次はあんたよと言うように治子の背をぽんと突いた。予想したとおり治子はちょっと尻込みするようにケイの元を離れて立って歩み寄る。 

2017年01月24日

DINKS~フリーランサー(二二話)


二二話


 一人だけ全裸の性奴隷を取り囲む女四人を観て
  いて、このとき私は二つのことを考えていた。
 
  そのひとつは、リアルでM女なyuuと、治子が
 連れてきたケイという子が思いのほか面白そうだ
 ということ。
  yuuは経験から責めのツボを心得ていて、限度と
 いうものを知ってるはず。
  ケイは治子とレズ関係で、治子はネコ同士だと
  言いますが、気が強そうでSっぽいところがある。
 
  さらにそんな二人に感化されて治子とユウがどう
  変化するのだろうということ。これをきっかけに
  ケイが目覚めて治子との関係が変化するかも
 知れないし、ユウはユウで、モモさんに躾けられ
 だしたばかりのM女ですから、身に置き換えて
 自分にとってのマゾヒズムを考えているでしょう。
 
  そしてもうひとつは、いずれこの場に男性を交え
 てみたいという妙な想い。バロンのマスターなら
  もとよりSだし、たとえば三浦さんのような人で
  あれば観客として招いてみるのも面白いと思うの
  です。
 
  性奴隷サリナには男の人にも可愛がられる存在で
  いてほしい。サリナのほどの美女が男が嫌いでは
  つまらないし、もっと淫らに解き放ってやりたい。
  私はDINKSを選んだ女ですけれどサリナには妊娠
  のチャンスがあってもいいと思います。三十六と
 いう年齢からも、すぐにでもそうしてやりたい。
  私が子供を持たないからかも知れませんが、
  そんな私にいますぐ付き合わせていいものか・・。
 
  そのためにもサリナには生半可なM女でいて
  ほしくはありません。命がけの魔性だから悔いる
  ことなく生きていける。それが女。

 
  yuuにユウ、治子にケイ、女四人に執拗に嬲られてサリナは溶
けていきそうだった。
  四人の中では年長のyuuでさえが友紀よりずっと年下であり、
その友紀が手を出さなければ遠慮もあって責めにはならない。寄ってたかって体中を嬲っているに過ぎないもの。
  友紀は立った。

「ふふふ、もうメロメロなんだから・・いいわ、はじめましょうか」

 と言って、束ねた麻縄を手に友紀が歩み寄ると、四人は輪をひろげて一歩退き、はたして友紀がどれほどのことをするのだろうと興味ありげに見守った。女王様だと聞いていても、サリナの裸身に鞭痕さえなく、サリナはあまりに美しすぎた。
  一歩のところまで歩み寄りながら手にした縄束をユウに持たせ
、サリナの眸を見据えて言う。

「バースデイよ、サリナ。今日こそまさに性奴隷の誕生日。お祝いに集まってくださった皆さんに可愛がってもらいましょうね」
 とろんとした眸をサリナは向けた。
 そっと手をのばして紫色の首輪を整え、それから両方の乳首を
つまむ。サリナは最初に言われたポーズのまま、脚を肩幅に開き両手を頭の後ろで組んで胸を張る。
 Bサイズの乳房が形よく張り詰めて、執拗に愛撫された火照り
のせいで乳房の白い肌に毛細血管が透けて見える。
 女王が見据え奴隷が見つめる。
 取り囲む四人はそんな女王と奴隷の横顔を見比べているようだ
った。

「奴隷よねサリナ?」
「はい、女王様」
「マゾよね?」
「はい、女王様・・くぅ」
 乳首をつまむ指先に力がこもり、サリナはマゾらしく感じ入っ
たいい貌をする。

 ユウに持たせた縄束を受け取ると、束をほどいて二つに折って二重縄とし、両手を合わせて手首で縛り、天井裏にクロスする太い丸太の梁に投げ上げて、梁を通した縄を引いて両手を差し上げ

たつま先立ちに吊っておき、縄尻をふたたび手首に通して固定する。
 それから友紀は持ち込んだ二種類の鞭を取る。新調した赤い革
の房鞭と黒い革の乗馬鞭。
 そのうちの乗馬鞭を今度はケイに持たせておいて、房鞭をバサ
と振る。革が赤くて綺麗だが房革の厚い重みのあるもの。その分、打撃が重く痛いはず。

  と、友紀はそれをyuuに持たせ、先にケイにあずけた乗馬鞭を手にすると、裸身をのばしきって怯えをはらむ面色のサリナの前に立ってちょっと微笑む。
 サリナを見つめながら皆に言う。

「一人たった十打でも四十打・・こんなことをしてやっても面白いわよ。見てなさい」

 張り詰める乳房の先で尖り勃つ二つの乳首の前で、鞭先を横振りにして狙いを定め、わずかずつ寄せていく。鞭先が乳首をこするようにピシッピシッと浅くヒット。さらに寄せて乳首をはたき、振りを強く早くする。ピシピシピシッと打音が響き、サリナは唇を固く結んで目を閉じて、鼻筋に横ジワを寄せて呻きだす。
「くぅ、くっくぅぅ・・ああーっ!」
「気持ちいいねサリナ?」
「はい、あぁ女王様、ありがとうございます」
 友紀はケイの眸を見て笑い、乗馬鞭をふたたびケイに手渡した

 次にyuuに持たせた房鞭。サリナの横に立つと、バサバサと軽く振ってサリナの白い尻を打ち、大きく引いてリストを返して左右の尻桃を同時に打ち据える。
 バシーッといい音がする。房鞭は打ち込むにつれて革が汗を吸
って重くなり痛みが増していくもので・・。 

 バシーッ!
「はぁぁ、うっうっ!」
「ほら気持ちいい。もっとお尻を出しなさい」
「はい! 気持ちいいです女王様」
 友紀は眉を上げて首を傾げながらyuuに笑った。

「それからサリナはプロダンサーよ・・ふふふ。片足を横に上げなさい!」
「はい、女王様」

 左足着地で右脚を横に上げていく。足先が肩の高さをこえるまで苦もなく脚が開かれていく。陰毛のない性器もアナルまでもがそっくり露わ。
 「少し痛いわよ、覚悟なさい」
 下振りで一度は空スイング。次にはリストを上に返した強い打
撃が股間を襲う。

 バシーッ!
「きゃぅ! あっあっ!」
 反射的に脚が下がる。
「脚を下げない!」
「はい!」

 スローモーションを見るようにしなやかに上がる脚。ふたたび下振りのさらに速いスイングで・・最初の一打で花濡れのまつわりついた房革がベシーッと湿った音を出す。

「ぁきゃぁーっ、うぐぐ、痛いです女王様ぁ」
「痛い? 気持ちいいんじゃなくて?」
「はい申し訳ございません、感じます、気持ちいいです女王様」
「そうよね。うん、よろしい。ふふふ、さあみんな、こんな感じ
よ。体中真っ赤にして泣きわめくまでめった打ちにしてやりなさい」

 別人のような友紀・・バロンの友紀しか知らないyuuも、オフィスの友紀しか知らないユウも治子も、日頃の友紀に接する三人は驚きを隠せない面色だったし、こんなことのはじめてなケイはギラギラ眸を輝かせている。
  友紀はそんなケイの肩をぽんとやって微笑んだ。

「可愛いでしょサリナって?」
「ほんと・・たまらないわ、最高の奴隷さんよね」
「そう思うなら打ち据えてやればいい。ふふふ」

 皆に背を向けて友紀は一度部屋を出た。玄関先まで歩く頃には甲高いサリナの悲鳴が響いてくる。
 「サリナ・・愛してる」
 つぶやいて外へ出た。別荘地の森の空が斑に青空、斑に黒雲。
まるで私の人格のようだと友紀は思った。
 すぐ傍らに停めてあるクルマへ行って、そう言えば買ってそれ
きりになっていた煙草をグローブボックスに探し、封を切って火をつける。以前雑誌の編集部にいた頃にはイライラして吸っていた。

 ロングシガーをくゆらせて、けれども長いうちに消してしまう。今度の本を私の人生に誇れるものにしたい。三浦と出会い、サリナを知って、私は変わったのかもしれないと思うのだった。
  女としての解放。牧場の柵が開かれて向こう側の大自然が見え
ている。馬の気持ちがわかる気がした。

「あははは! ほらもっとお尻を振って! あははは!」

 分厚い玄関ドアを引き開けるとケイの声が響いていた。友紀は可笑しくなって靴を脱がずに上がり框の段差に腰掛けた。そのまましばらくサリナの悲鳴と女たちの笑い声を聞いてみる。

「ほらサリナ! 女王様に言われたでしょ、脚を下げない! 罰です、もう一度上げて!」
 yuuの声・・耳を澄ますとバシーッと強い音がする。
「ぁきゃぅぅ・・はぁぁン・・」

 友紀は眉を上げた。悲鳴が甘くなっている。鞭に酔うとろけた声。友紀は、どうしようもない女ね・・と言うように小首を振って靴を脱いだ。

「いい涙よサリナ。奴隷はそうして可愛い牝になっていくの。わかるわね?」
「はぁいyuu様」
 ・・と、次にはユウの声がした。
「もっと欲しいでしょ? あははは」

 
 友紀がドアを開けると、そのときユウが乗馬鞭を握っていて、
全身を鞭染めにされた性奴隷の尻を打っている。
 ユウはきっと女王モモに同じようにされることを望んでいるの
だろうと友紀は感じた。

  パシーッ!
  幾分手加減されてはいたが、うっすらと血の浮く鞭痕もある上
への打撃。サリナの声はどうだろう・・。
「はぅ! ううっ、はぁぁン」
 声が甘い。尻を振り立て、くねくねと裸身をしならせて、泣い
てしまって涙を飛ばして喘いでいる。
  女王が戻ると鞭はやみ、両手を吊られたまま垂れ下がるように
立つ無残な裸身が不思議なエロスを醸し出す。
 尻も背も太腿も、乳房も腹も真っ赤になって、ところどころに
血浮きする打撃痕。
  友紀は歩み寄ると微笑みかけて、しかし髪をつかんで顔を上げ
させる。アイラインが涙で流れて頬が黒い。

「ずいぶん可愛がってもらったみたいね? 嬉しいでしょう?」
「はぁい、女王様ぁ」
「鞭に感じる?」
「はぁい・・ハァァ・・感じます、女王様」
 サリナは泣き濡れた眸でかすかに笑った。

  友紀は、そのとき治子が握っていた房鞭を手にすると、乳房から浴びせかけ、返し鞭で背を打って、その返し鞭で陰毛のないデルタを打ち据えてやり、さらにその返し鞭で尻を打つ。
  錯乱したようなフルスイングのめった打ち。サリナは絶叫して
走るように裸身を暴れさせ、それでも声は甘かった。

 yuuもユウも治子も、友紀がそこまで追い込むとは思っていない。容赦ない鞭。乳首をツネリ上げながら尻を打ち、前に回って脚を開かせ、剥き出しのクリトリスまでの距離を見定めて下振りの革束を叩きつける。
 バシーッ!
「はぅ! うくく・・ぁ、あぁーっ」
 そのとき気が遠のいて膝が崩れかかるが、一瞬後に持ち直して
サリナは虚ろな眸を開けるのだった。

 焦点を結ばないとろんとした眸。
「いい眸をするでしょ」
 と、そばにいたケイに言うと、ケイは深くうなずいた。
「天性ですよね・・羨ましいほど溶けた眸だもん」 

 そう言うケイもいい眸をしていると思いながら、ふとその向こうへ眸をやって、yuuがユウの背を撫でてやっていることが気になった。今日は四人で乗り合わせて一緒に来ている。車中でどんな話になったのだろうと想像した。
 ユウはわずかに眸を潤ませてyuuにすがるようにして微笑んで
いる。『私なんかにM女が務まるのか』・・『大丈夫よ』そんなことではないかと想像した友紀だった。
 
  友紀は手にした房鞭をケイに持たせ、サリナに歩み寄ると微笑
みながら右、左と鞭に赤くなった乳房をわしづかみに揉んでやり、下腹めがけて手を滑らせて毛のないデルタの底へと指を忍ばす

「べちょべちょね。こんなに濡らしちゃって、いやらしいマゾだ

こと。どう? 感じる?」
「はい感じます、ハァァ・・欲しいです女王様」
「オナニーダンスでもさせてあげようか? あさましくディルド
でズボズボよ?」
「はい、イキたい・・ハァァァ!」
 燃える吐息。

 友紀は見守る四人を振り返って首を傾げながら言った。
「ですって。いい子だからイカせてあげましょうか。私たちも脱
ぎましょう。下着姿の女王が五人よ」
  それからまたサリナの眸を見る。
「まだまだだからね。こっぱみじん。ぶっ壊れてしまうがいいわ
・・ふふふ」
 牝の眸の甘さにかすかな怯えの滲むサリナの眼差しを観ている
と、胸騒ぎにも似た得体の知れないサディズムが掻き立てられる

「そこで控えてなさい」
 膝で立って脚を開き両手は頭の奴隷のポーズ。見守る女四人は
女王と奴隷のゆるがない関係に安堵したように、それぞれが着ているものを脱ぎはじめた。

2017年01月20日

DINKS~フリーランサー(二一話)


二一話


 集まった女たちの中でひときわ美しいサリナ。
 プロダンサーとして活躍した肢体はサリナ天性のプロポーション
 に加えて鍛えあげたアスリートの躍動さえもいまだに留める。
 私は三十四歳、サリナが六。だけどほかの四人は、yuuだけが
 二十代の後半で、治子もケイもユウも学生でもとおるほど若く、
 キャリアという点では明らかに未熟。
 さらにこのとき女の子たちには日常の普段着で来るよう打ち
 合わせはできていた。私も含めて皆がジーンズスタイルで、
 そこらのカフェに集まるムードにしてあります。

 北砂利菜というレディの人生に決定的なギャップを与えてやろう
 と考えていたからです。
 美しいレディの輝きと性奴隷の輝き。私が思う性奴隷の輝きは、
 たとえて言うなら闇に漂う純黒の宝石のようなもの。
 人の魅力はギャップにあると思っています。怖そうで敬遠する
 タイプの男性が話してみると穏やかな紳士だったりすれば、
 それだけで女はイチコロよ。小さな猫が大きな犬に立ち向かう
 姿を見ていると猫族の凄さを感じたりするものです。
 レディに徹する北砂利菜と奴隷に徹するマゾ牝サリナ。
 両極端の女の凄さをサリナに植え付けてやりたかったし、
 そうして深くなっていく女の純黒を見届けていきたかった。

 私だって私なりの純黒を生きてみたい。ブラックホールと
 言いますが、光より影のほうが強くそして魅力があるもの。
 DINKSなんて女性としてこれほど傲慢な生き方もないでしょう。
 子供を願って不妊治療に苦しむご夫婦がいくらだっているという
 のに、 女に生まれた使命を放棄して勝手気ままに生きている。
 主人のことは愛していますが、では不倫を放棄するかと言えば
 そうじゃない。女王なんてそれこそまさか、私の中にそんな
 魔女がいただなんて思ってもみなかった。
 内向きではない女の性を解放したとき女はもっと輝ける。
 私は地上でサリナは地中で。
 どうしようもない女の性(さが)に震えていたい。

 そのあたりを手がかりに狂おしいほどの想いを本にして、
 多くの女性に生き方を見つめるきっかけを与えてあげたい。
 今度の本は私とサリナのライフワークになっていくと思うのです。
 可哀想にサリナ・・一人だけ下着さえも許されず平伏す裸身を
 強ばらせて震えている。
 いよいよ今日、マゾ牝サリナは密室を出て解放される。
 それは同時に女王YUKIを密室から解き放ってやることにも
 なるのです。どちらもう後戻りができなくなる。
 恥辱に濡れるサリナの心を思いやると女王YUKIの性器も濡れる。

「さあ入って、奴隷は素っ裸で控えさせているからね」
 それもまた大きな声で・・玄関先で五人揃ってほくそ笑み、性奴隷の平伏すリビングへと歩み寄る。玄関にはホールとまでは言えないまでもそれっぽいスペースがあり、ほんの一歩奥へ、そこから数歩で広い板の間のリビングがひろがった。
 乳白の裸身をきっちりたたんで平伏すサリナ。三つ指をつく両手の甲に額がぴったりつけられて、心からの服従を表しているようだ。曇りのない白い女に濃いワインレッドの不思議なショートヘヤー。女たちそれぞれがどんな顔をしているのかとキラキラ輝く眸で見下ろした。

 白い奴隷の目の前に友紀はしゃがみ、光線の具合で紫色に透けるような髪の毛をそっと撫でた。
「顔を上げなさい」
「はい、女王様」
 サリナの声がすでに震えている。少し顔を上げたサリナの顎先に指を添えて、さらに顔を上げさせる。
「・・綺麗」 
 と、若いユウが思わず言った。
 けれどもサリナの面色は血の気をなくして白くなり、二つの眸にくっきり怯えが浮かんでいる。マゾらしいいい眸をすると、女たちはそう思ったに違いなかった。

「よくお聞きね」
「はい・・ハッ、ハァァ」
 サリナの息は熱を持ってこらえきれず、ビブラートのかかる見事な奴隷の吐息となった。
「性奴隷サリナのお披露目です。皆さんそのためにわざわざ集まってくださった。皆さんのお気持ちを思いやって私だけじゃなく皆さんに服従するんですよ、いいわね」
「はい、女王様」
「はい、いい子よ。じゃあお一人ずつ紹介するから」
 このとき四人は初対面のサリナを思いやって背後に回らず、友紀の後ろに立っていた。

 友紀は最初にユウを見た。サリナの前を一歩離れ、ユウがうなずき入れ替わって前へ出る。ユウは小柄で華奢なフォルム。ジーンズだと学生そのもののイメージだった。
「この子はユウちゃん。私と一緒に今度の本をつくる女の子。二十三よ。モモさんておっしゃるニューハーフの女王様にお仕えするM女さん」
 サリナは「はい」と友紀に応え、それからユウを見上げて一度額を床にこすり、顔を上げてユウを見つめた。
「はじめましてユウ様、友紀女王様にお仕えする性奴隷、サリナでございます。今日はわたくしのためにありがとうございました」
 ユウは、たまらないといった眸の色でうなずくと微笑みながら静かに言った。
「はい、いい言葉だわ。ユウです。最高の女王様で幸せね」
「はい幸せです、ありがとうございます」
 ユウはちょっと腰を折ってサリナの頬をそろりと撫でた。サリナはその手に頬をすり寄せる仕草をする。

 同じように次は治子、ペアの景子。二人揃って前に立つ。治子も景子も不思議な生き物を見下ろすような面色だった。リアルなSMにはじめて接する二人。
 友紀が言った。
「こちらが治ちゃん。以前私と女性雑誌をつくってた編集部の子なのね。二十四歳。ビアンでね、今日はその恋人にも来ていただいた。お名前はケイちゃん、歳は同じで二十四歳。ケイちゃんは私も初対面。よろしくねケイちゃん」
 ケイは『いいえ、こちらこそです、お招きいただきまして嬉しいです』と友紀に向かい、それから治子と一緒にサリナを見つめた。女が性対象の二人、すでにギラギラする愛欲の眼差しを向けている。
 ケイは思ったよりも大柄でグラマー。豊かなヌードの想像できる女性であった。茶色に染めたロングヘヤー。パートナーの治子も同じようなロングヘヤー。あのとき治子は家猫同士と言ったが、どうやらネコ同士の二人のようだ。
 サリナは同じようにきっちり平伏し服従を誓う。二人は揃ってしゃがみ込むと、治子が頭を、ケイが頬を撫でてやる。

 最後にyuu。サリナにはもちろん見覚えのある顔で、背後にいる細川の面影を想うような眼差しを向けていた。
「バロンのyuuちゃんは覚えてるでしょ? マスターにお願いして今日はS女さんとして来てもらった。それを言うならユウちゃんもそうだし、治ちゃんもケイちゃんもそうですからね。ビアンがお二人、同性を愛する分、女には厳しいわ。M女さんがお二人。こちらはこちらでM女同士、奴隷の姿を心得てますからね。四人とも今日は厳しいわよ」
 友紀はふたたびサリナの目前にしゃがみ込み、『わかってるわね』と言うように、眼差しをあえて冷やしてサリナの額を指で突く。

「覚悟して復唱なさい!」
「はい、女王様」
「サリナを奴隷に堕としてください」
「はい・・わたくしサリナを性奴隷に堕としていただけるようお願いいたします」
「プライドも尊厳も捨て去ります。どうか私を壊してください」
「はい・・女としてのプライドも・・ハァァ・・尊厳も・・んっんっ・・どうかお願いいたします、わたくしサリナを壊してください」
「どのようなことにも決して嫌とは申しません」
「はい・・ハァァァ、ぁっぁっ・・どのようなご命令にも決して嫌とは申しません。どうか皆様、厳しくご調教いただけますようお願いいたします」
 サリナは言葉を追うごとに追い詰められていくようで、白かった頬が見る間に桜色に染まっていく。

 そしてこのとき、とりわけM初心者のユウは、女王の言葉を自分なりに整理してきっちり伝えるサリナを見ていて、さすが友紀の奴隷だと感じていた。ユウは震えた。サリナを抱き締めてやりたくなる。

 友紀は離れ際にサリナの頬を撫でるように一度パシと叩くと、サッと立った。
「いいわ、お立ち」
「はい、女王様」
 折りたたんだ裸身を、あたかも花が開くようにしなやかに開花させるサリナ。そのときはじめて陰毛のない奴隷の裸身を披露した。Bサイズの乳房の先で乳首がしこって尖っている。
 友紀は言った。
「そこに立って脚は肩幅、手を頭に組んで胸を張る」
「はい・・ハァァ・・ああ震えます・・ハァアア・・」
「・・ほんとマゾ・・ふふふ・・いい女」
 と、あのyuuが言った言葉を友紀は聞き逃さない。
 サディスト細川に躾けられた、この中で唯一の本物M女。友紀は今日、yuuがどうするかに興味があった。Mを知る女性はSとなったとき、おそらく私ではおよばないと内心そう思っていた。
 友紀だけ一人が、リビングらしく造られた空間にある肘掛けのないシングルソファに腰を降ろし、部屋の中央にサリナを立たせ、女四人で取り囲む。

「お触りしてやればいいわ。ただしキスとアソコには触れないように」
 それからサリナに言いつける。
「濡らしちゃダメよサリナ。オツユなんて垂らそうものなら鞭ですからね」
「はい・・そんなぁ・・ハァァ・・女王様ぁ・・」
 四人はそれぞれ眸を見つめ合い、四方から全裸で立つ性奴隷に歩み寄る。ユウが白い尻をそろそろ撫でて、治子とケイが乳房とそして波打つ下腹までを撫でてやり、ケイは耳許に息を吐きかけて首筋にそっと爪を立てて肩まで引っ掻く。そのときyuuが脇の下から脇腹までに同じようにそっと爪を立てて引っ掻いた。
「ぅっぅっ・・くぅ・・ぁ・・ぁ・・」
 サリナの肢体がくねくねとしなりだし、膝をXに締め付けて、白い尻を締めてはゆるめ、サリナはカッと眸を見開いて、ほどなくガタガタ震えだす。
「ほうらいい・・素敵よねサリナ」
 耳許でyuuが言い、サリナはもう声も出せずにうなずくだけ。
 後ろから回ったケイの両手が両方の乳首をつまんで、乳房をぷるぷる振るように弄ぶ。
「あぅ・・くくぅ・・あぁン・・ぁン・・」
「気持ちいいみたい? ふふふ、可愛いわよサリナちゃん」

 寄ってたかって八つの手に翻弄されて、サリナは唇を固く噛み、いつものように眸がイッたマゾらしい姿を見せた。
 微笑んで友紀は見ている。マゾヒズム・・服従する限り、際限ない歓びが与えられる。サリナにはそうあってほしい。いまにも泣きそうな面色で全身を震わせて耐えるサリナ。至上の愛奴が今日生まれて育っていく。

 陰毛のない白いデルタ。あさましいまでに深く切れ込む女の渓谷の奥底から歓喜の蜜がじくじくと沁み出した。閉じた花びらに朝露のように透き通る蜜球ができはじめ、ツーッと糸を引いて垂れていく。
 乳房を揉まれ、乳首をコネられ、震える尻肉をわしづかみにされて体中を嬲られる。そのときの性感を想うだけで友紀は濡れた。

「ふん、もう垂らしちゃって・・いいわよ、唇へのキスはダメ、そのほか好きに嬲っておやり」
「・・だってさサリナ、どうして欲しい? こう? ほうら気持ちいい・・」
 ケイだった。言葉が巧みで思いのほかSっぽい。
 ケイの手が尻の谷へと潜り込み、前からユウの指が性谷へと分け入って、yuuと治子が左右の乳首を口に含む。
「はぁぁ! あぁーっ!」
「いい声よマゾ牝ちゃん」
 ケイの指はどうやらアナルをまさぐって、ユウの指がラビアを揉むように愛撫して、サリナの裸身がS字にくにゃりと崩れていく。
 友紀は言った。
「可愛がってもらって嬉しいね・・イキそうなんでしょ?」
「はい、女王様ぁ・・あぁぁイクぅ・・」
「そんなにいい? とろけそう?」

 耳許でyuuに言われ、サリナは大きくうなずいて、その眸が涙に濡れていく・・感じ入った牝の姿だと、このとき友紀は、かすかな羨望を覚えていた。

2017年01月19日

DINKS~フリーランサー(二十話)


二十話


 治子にユウを加えた三人の集まりは友紀にとってはじめてのパターンだった。二人ともに二十代前半で友紀とは一回り世代が違い、どちらも結婚を身につまされる問題として考えだす以前の歳。結婚とは、自分でどう思っていようとそのうち周囲の声がうるさくなるもの。治子は同性結婚を考えているようだし、ユウはモモのことで頭がいっぱい。若いっていいと友紀は思う。
 楽しくて話し込んだ。店を出てマンションへ戻ったとき時刻は九時半を過ぎていた。友紀の夫、直道は、少し前に戻ったらしくシャワーを済ませたパジャマ姿。リビングのロングソファに寝そべって妻がつくる女性雑誌をひろげていた。編集する当事者としてバックナンバーはもちろん揃えてあったし、そのほとんどが夫とは別の妻の個室に置いてあっても何冊かは家の中に散っている。
 妻が戻って顔が合うと、直道はひろげた雑誌をちょっと持ち上げる仕草をして笑うのだった。

「なかなか面白いじゃないか、売れる理由がわかるよ」
「女ってそうなのよ。すましていても内心は穏やかじゃいられない。身の安全が保証されるんだったら乱れてみたい。不倫それからレズなんて取り上げようものなら売れるのよ」
「なるほどな」
「それよりご飯は済ませてきたでしょ?」
 直道はうなずいて、また雑誌に視線を戻している。
「あたし先にシャワーしてくる」
 そして背を向けながら友紀は言った。
「まだ先の号ですけど瀬戸先生が寄稿してくれることになってるの」
「瀬戸って、あの瀬戸?」
「そうよ瀬戸由里子。恋多き女で知られているけど、不倫、SMといろいろ体験なさってて、いいこと言うのよ」
「ほう、会ってきたのか?」
「もちろん。SMについてなんですけどね、M女は根ですって。地上で主を咲かせるために地中に根を張るものだって言うのよね。素直に理解できちゃった」

 シャワーを浴びてパンティだけを穿き込んでオレンジ色のバスローブ。丈がなく腿がかなり露出する。妻はそんな姿で夫の寝そべるソファのそばにオレンジジュースを持って座る。生乾きの洗い髪がシャンプーの香りを漂わせている。直道は読んだ雑誌を閉じてローテーブルに置き、横寝になって意味ありげな視線を友紀へと向けた。

「それを言うなら夫婦もそうだな、互いに根となり支え合う」
「ふふふ、そうね。だけどそのうち旦那が根の役割を放棄すると妻は外へ眸を向ける」
「逆もあるしな」
「あるね。あたしもそのうちかなって思っちゃった。仕事にかまけて電子レンジでチンばっか」
 直道はちょっと微笑み眉を上げた。
「そんなふうに思ってるのか?」
「だって女としてはそうでしょ、合理的過ぎてもね・・」
「いいんじゃないか、それはそれで」
「え?」
「そのとき俺は根、しかしおまえがいるから外で俺にも花が咲く。そのためのDINKSでもあるんだし」

 このとき友紀は、衝動的なマゾヒズムに衝き動かされてパジャマ越しの夫のペニスに頬をすり寄せた。穏やかに萎えた男性の感覚にほっとできたし、この感覚にひたっていられる幸せも感じていた。
 あのときサリナのアナルにキスをしたのと同じような不思議な陶酔。わずかにあるマゾヒズムへの心地いい錯覚とでも言えばいいのか。
 根と花は振り子・・男女は振り子・・それが夫婦でいる意味なんだと考えた。

 翌日は水曜日でモモが休み。ユウは定刻前にそわそわしはじめ、いつの間にかデスクから消えていた。ほほえましい。
 友紀は少し残って原稿の下書きをはじめていた。サリナへの想いとSMという表現手段を整理して、いきなりではなく断片を書いていく。サリナはサリナで思うままを書き連ね、両方の言葉を織り交ぜて仕上げていく。文章の中で二人はもちろん名無しだったし、下書きのレベルではA子B子で充分だった。

 どこか孤島の足跡のない白い砂。
 B子の裸身を見つめてそう感じ、私は鞭を握ります。
 女王の想いを奴隷の肌に刻みつけてく。
 サディズムが白波を立てて押し寄せる。渇いていた
 奴隷の心を濡らしてやるため・・鞭を振るう。
 つんざく悲鳴が聞こえるわ。裸身をしならせB子はもがく。
 それでもなお押し寄せる白波は波頭を奴隷の尻へと
 叩きつけていくのです。少しぐらい泣いたって、
 少しぐらい濡れたって、女王の鞭は終わらない。
 壊してやる。この鞭が激しい愛に火をつけて
 業火となって奴隷の身を焼き尽くすまで耐えなさい。
 私の中の恐ろしい魔女が性器を濡らして垂らすまで・・。

 サリナに逢いたい。行間にサリナの悲鳴や喘ぎ声が確かに聞こえ、友紀は胸が熱くなる。
「ふむ、なるほど」
 いつの間にか背に三浦。友紀はモニタを隠そうともしなかった。
「君が女王ってことだな?」
「ええ。私の想いと奴隷の言葉を合わせてみたくて。女王は詩的に、奴隷は感じたままを綴っていく」
「うむ、まあ楽しみにしてるから」
 三浦は友紀の背をぽんと叩いて歩み去る。
 小一時間デスクに留まり、社を出ると、バロンのオーダーストップにタイミングが合うはずで。

 格子戸にガラスがはまったバロンの扉。ぽつぽつ降りだした雨のせいか店に客の姿はなくて、いつものようにカウンターにyuuが座る。しかし今夜は扉を開けるとチリンと鳴った。
「あらベル? 替えたんだ?」
 マスターがちょっと笑ってyuuへと顎をしゃくった。
 カウンターを離れたyuuは今日もまた素足にミニスカート。サロンエプロンがワンピースに見えるほど短いスカート。長かった髪をすっきり切って、サリナほどではないにしろざっくりショートに変わっていた。
「あたしが言ったんです、ブラブラしてるだけじゃ情けないって」
 友紀がカウンターに歩み寄ると、どうにも打ち合わせができていたらしく
yuuがシャッターを降ろしにかかる。
 そのときyuuは、しゃがむことでさらに詰まるスカート丈を、膝を合わせて両脚を横に振り、女らしい身のこなしで見せないようにガードした。
 バロンに戻ってからyuuは見るたび綺麗になっていく。ほほえましくて友紀はマスターに向けちょっと笑って首を傾げた。

「私で最後?」
「雨だもん。それに電話してくるとき話がある。いつもそうだろ」
「わかる? じつはそうなの」
「珈琲?」
「はい、お手製のその場ブレンドでお願いします」
 友紀はマスターの手元を追った。焙煎の浅い豆をほんの少しと焦げ茶がかった深入り豆を合わせて挽いて、ネルフィルターにセットする。苦みの強い一杯を淹れるつもりでいるようだ。今日はそんな気分でいた。さすがだと友紀は感じた。
 コーヒーケトルの細口から湯が注がれ、のの字を描いて褐色の一杯ができていく。香ばしいいい香り。ここに来るとほっとする。

「じつはねマスター、yuuちゃんをお借りしようと思って来たのよ」
 友紀はマスターを見つめ、マスターはチラとyuuに眸をやって、そのyuuは友紀の横顔を見つめていた。
「女ばかりで温泉するの。おそらく土曜日、一泊よ。部下が二人と、その片割れのレズのお相手が一人、yuuちゃんを入れて五人でしょ。その中にサリナを呼ぶ。サリナのお披露目ってコトなんだ」
「ふっふっふ、そういうことなら・・」
 主がどう言うかなどyuuにはわかりきっている。
「はい、私でしたら喜んで。お会いしてみたかった・・サリナさん」
 サリナはyuuの存在を知っていても、どうやらyuuは初対面?
「ありがとね。決まったら早めに連絡するから楽しみましょう」
 細川は友紀の想いなど見透かしている。
「幸せなヤツだ・・ほれ珈琲」
 細川はサリナを思い浮かべている。

 差し出されて置かれた珈琲がやさしい香りを立ち昇らせる。ブラックで一口つけて、ミルクを流しながら友紀は言った。
「ある方がおっしゃるの。M女は根、花を咲かせるために地中でもがくものなんですって。こうもおっしゃる、『思うままに責めておやり。女王などよりはるかに強い生き物だから大丈夫』って。サリナを見ててもそう思う。健気だし可愛くてならないもん」
 細川はちょっと笑ってそれきり口を閉ざしてしまった。
 そしてそんな主の姿を、yuuはたまらないといった女の面色で見つめている。いいムード。私もサリナとこうなりたいと友紀は思った。

 翌々週の土曜日。
 友紀はサリナに何も告げずに連れ出した。女ばかり六人だとラブホというわけにはいかない。伊豆にある貸別荘を治子が手配。治子と景子の二人がときどき使う宿らしい。小高い丘に建っていてはるか眼下に伊豆の海が一望できた。しかし空が怪しい感じ。いずれ雨になりそうだった。
 朝遅めに発って、昼食を二人で済ませて宿へと向かう。こちらはチェックインタイムの二時ジャスト。少し遅れてケイのクルマで四人が追う。打ち合わせはできていた。
 別荘は大きめのログハウス。一部が二階建てで、平屋部分には天井がなく太い丸太の梁がクロスしてはしっていたし、二階部分を支える磨き丸太の太い柱が独立して立つ・・つまり縄を使える造りであった。
 中を見渡し、治子もやるなと友紀は可笑しい。SMにちょうどいい建物だったし、そこまでちゃんと計算している。

「脱ぎなさい、今日は覚悟することね」
「はい、女王様・・ハァァハァァ・・」
「もうハァハァ・・嬉しくてならないみたい・・」

 いきなり全裸。紫色の犬首輪を与えられ、サリナは板床に平伏した。
 そしてそのタイミングで坂を登るエンジン音。別荘の前でクルマが停まってドアの音がドンドンと忍び込む。
「ふふふ・・ほうら皆さんお見えだわ」
「え・・ぁ・・」
「マゾ牝サリナのお披露目よ」
 サリナの貌から血の気がすーっと退いていく。
「私がお迎えします、そこに平伏してなさい」
「はい・・あぁぁそんな・・ハァァ・・ハァァ・・」
 眉間に戸惑いジワを深く寄せ、それでいて眸の据わった淫婦の面色。天性のマゾだと、このとき友紀はあらためてそう感じた。

「ジャストね、さあ入って。治子からよ」
「はぁい!」
「それから景子ちゃんははじめまして」
「こちらこそです、お噂は治子から」
「次はユウ! モモさんにしっかり調教してもらってる?」
「はい、それはもう・・嫌ぁぁン」
「最後にyuuちゃんも! マスターに何か言われた?」
「はい、素晴らしいマゾ牝のお披露目だって聞いてます」
「あらそ? マスターも誘ってあげればよかったかしら!」
 揃ってわざわざ大きな声で・・木と板でできた建物は声が響き、サリナの居場所まで距離はない。大声で話しながら五人揃ってくすくす笑う。

 独り全裸のサリナだけが顔色を失って震えていた・・。

2017年01月18日

DINKS~フリーランサー(十九話)


十九話


 ラブホテルの大きなベッドで、ウインザーに柔らかな羽根枕を引き上げて、寝そべるように脚をのばして女王が座り、女の尊厳をおびやかされた性奴隷が、女王の乳房に抱かれて幼子のように乳首を吸う。
 すがりついて甘えるサリナを抱いてやりながら、友紀は睫毛を濡らして閉じられた奴隷の眸を見つめていた。
 こうして女王の乳首を与えられ、抱かれて背を撫でられる熟女の気持ちはどうなのだろう。わかる気はするのだが、わかるもわからないも、満たされて甘えるサリナの姿に羨望のようなものさえ感じてしまう。女の性の豊かさに打ちのめされて、夫とのノーマルな営みがセックスのごく一部でしかないことを思い知る。

「恥ずかしかったね」

 サリナは声もなくうなずくと、見下ろす女王を上目に見て、子供そのもののあどけない笑顔を見せる。心が少女へ退行している・・と友紀は思う。
 SMらしいSM・・しかし友紀にとってSMをしたつもりなどはなく、責めに反応してサリナがどうなるかを目撃したような気分でいた。鞭といってもそう激しいものでもなく、縛りといっても厳しいものでもなく。
 友紀に衝撃を与えたのは浣腸だった。サリナほどの美女ならなおのこと他人には見られたくない絶対的恥辱。四つん這いにさせてアナルを晒させガラスのシリンダーで送り込んだ大量のぬるま湯。薬液などなくても大量のぬるま湯はたちどころに白い腹をふくらませ、苦しみ震え、絶望的な結末へと追い詰められる。

 そのとき友紀は、残酷・・可哀想・・そうした感情よりも、日頃目にする愛犬を連れた人たちのやさしい表情を思い浮かべた。散歩の途中で犬は四つ足を踏ん張って尻を下げ、人間の面色を探るように恥ずかしそうな眸を向けて、飼い主はたまらない思いで犬を見下ろす。
 限度を超えた羞恥なのか、ゾクゾクする便意のためなのか、サリナはむしろ青くなり、見下ろす女王に首を振ってイヤイヤしながら排泄した。
 人の原点を見た。人は獣。獣になりきり、重圧でしかないプライドを捨て去れたサリナの解放を想像する。

 感動はまだあった。排泄の恥辱に震えるサリナを寝かせ、顔にまたがって排尿した。ムラムラする衝動的な行為。口を開けてゴボゴボあふれさせながら、懸命に飲もうとする性奴隷。ほくそ笑みながらも母性が騒いでたまらない。私の中に眠っていた魔女が目覚めた・・友紀は実感としてそれを感じ、そしてその瞬間、サリナとのSMが女同士の不思議なセックスに置き換わって不思議な陶酔へと昇華した。
 褒美に与えたのは恥辱のアクメ。がに股に立たせたままディルドを握らせ、踊らせながら自分で突かせて果てさせる。一度や二度の絶頂では許さない。悲鳴のようなイキ声をまき散らし腰が抜けて立てなくなるまで。
 そうして崩れた奴隷の髪の毛をつかんでやってソファに引き寄せ、大きく開いた女王の花園に奉仕させて友紀もまた果てていく。

 嵐のような性が去り、全裸の友紀は全裸のサリナを乳房に抱いて乳首を与えた。心地いい放心を自覚する。
 そしてこのとき友紀は、サリナとこんなことをしはじめる以前から夫に対して感じていた仄かなマゾヒズムは何だろうと考えていた。男女の性で女は受け身。受け身でいたい思いがあって、いやおうなく犯されることを望む気持ちがないとは言えない。

「・・激しい女だわ」

 思いがふいに口をつく。サリナはどう理解したのか、女王の裸身を滑り降りて下腹の飾り毛に頬をすり寄せ尻を抱く。

「・・女はそうです」
 女王のデルタの奥底へ言い聞かせるようなサリナの息の声。
「小さかった頃、顔を見ると虐めたがる嫌な男の子がいて・・」
「あるわね、そういうこと」
「だけどその子、遠くへ引っ越していなくなって・・そしたら寂しくなっちゃって・・」
 突進してくるものを待つ想い・・それは私にもあると感じながら、友紀はサリナの頭を手荒く撫でて言った。
「逆さになってまたぎなさい」
 ベッドのウインザーにもたれていて、胸をまたがれ花園を突きつけられると、ちょうどアナルが眸の高さ。陰毛のない女性器はむしろ清楚で、あれほど狂った後なのに何事もなかったように口を閉じ、シャワーで流して乾いている。
 女王が脚をM字に割って、サリナはまたいだ瞬間、女王の性器にむしゃぶりついて舐めていた。

 友紀は女の不思議をサリナの股間に見ていた。ヌラヌラとした欲望を分泌する魔性の穴・・そして都合よく栄養だけを吸い取って便を吐き出す魔性の穴・・どちらもが女の魔性。そんなことを考えて、アナルにそっとキスをする。
 白く綺麗だったサリナの尻に鞭痕が赤くなって残っている。女王の口がアナルに触れた一瞬、サリナは『あぅ』と声を上げ、さらに腰を反らして閉じた性器に高さが合うよう尻を上げる。それでも女王はアナルを舐める。 夫の足下に膝をつき勃起をほおばるときと同じ気持ちになれるのはなぜだろう。SとMは振り子なのか。少しだけSに振れ少しだけMに振れ・・ノーマルな性愛とはそういうものではないかと思うのだった。

 翌々日の火曜日。友紀は朝から元いた女性誌の編集会議につかまった。若い治子だけでは心配だと三浦に言われて席につく。友紀を奪ったことで雑誌の売り上げをいますぐ落とすわけにはいかないからだ。
 人気作家の瀬戸由里子のエッセイが得られそうだと篠塚は上機嫌。集まった連中にも他にこれといったアイデアもなく、そうなると主導は友紀。これまでと何ら違わない進行に友紀も治子も気分がよくない。昼ぎりぎりまで会議は続き、ようやく解放されて揃って社の外に出る。
 空が青い。体から気分というものを取り出して洗濯板でこすってやりたい思いがした。
「・・疲れます」
「よしましょう、そんな話、期待しても無駄なんだから。瀬戸先生のエッセイを看板に不倫妻の心をどう切って盛り付けるか。思いのままにやってみればいいじゃない」
「そうなんですけど・・それにしたって評論レベルで口を出してくるし」
 友紀は苦笑し、パンツスーツの治子の尻をぽんとやって歩きだすと背後から声がした。

 ユウを入れて三人でランチ。今日は友紀もパンツにジャケット。一人ユウだけがミニスカートスタイルで、そう言えばユウは、ここのところスカートばかりを穿いている。
「・・私、ノーパン、ずっとそう」
「ぶ。 よしてよ昼間っから、ふふふ」
 小声であっても、歩きながら突然言いだした若いユウに若い治子が反応した。
 友紀が言った。
「私たちって妙だよね、揃ってそっち系だし、私はSでユウはM、治ちゃんもエッチそうだし」
 治子が笑った。
「ですね。私たちの場合は家猫同士だから、ぐでぇーっとしてる。まさに家猫。天敵のいない世界でエッチ三昧? あははは」
 友紀が笑って言う。
「だいたい女三人で歩いてて何よこの話。ユウはユウでいきなりノーパンなんて言いだすし・・今日ハネたらちょっと行く?」
 ユウが眸を丸くした。
「おろろ、めずらしいこともあるもんダ、友紀さんがお酒?」
「たまにはね。こんな話シラフでできるもんですか」

 三人揃って定時で社を出て、わざと少し遠くへ歩き、見つけた居酒屋に飛び込んだ。三人揃って飲み屋などというものはほとんど知らない。火曜日の今日、まだ週のはじめで飲み屋は空いていた。
「お飲み物を先に」
 店員に促されて三人それぞれメニューを見渡す。
「とりあえずジンジャエール」 と友紀が言った。
「あたしもそれで」 と治子が言った。
「じゃあ・・うーん・・ウーロン茶」 とユウが言った。
 店員が去っていくと三人顔を見合わせる。
「カフェでよかったみたい?」
 治子が言って揃って笑う。首をすくめて笑いながら友紀は言った。
「ノーパンて、モモさんに言われて?」
 ユウは恥ずかしそうにこくりとうなずく。
「身のこなしがダメだ、ちょっとは意識しろって言うんですもん」

 友紀はバロンのyuuを思い浮かべた。混み合う店の中でノーパンミニ。気の抜けない思いをすればするほど、それが主への想いとなってふくらんでいく。
「SMっぽい」 と、治子がにやり。しかしユウは違うと首を振る。
「よくやってるって褒めてくれます。お会いすると真っ先に平伏して、女王様のお尻を抱いて甘えるの」
「素っ裸?」 治子が眸を丸くする。
「もちろんです。女王様のお部屋で服なんて許されません」
「わぉ・・」 と言って、治子はちょっと眉を上げた。
「あたしらなんて女同士で・・まあそうね、だいたいが下着だし、夜なんてすっぽんで絡み合ってテレビ見てるし、ほんとグダグダ・・厳しさのカケラもないわ」

 飲み物が運ばれて、そのとき料理をオーダーし、ウーロン茶を一口飲んでユウが言う。
「でも・・モモさんてやさしい人です。抱いてくれて撫でてくれて、それだけで溶けそうなほど濡れちゃうの」
「でもお相手はニューハーフなんだからエッチはつまりノーマルエッチよね?」
 ユウはたまらないといった女の面色で微笑んでいる。
「心は女性、お体は・・ふふふ、なのに胸はCカップ、下着はすべて女物だし・・」

「イカレたねユウ」 と、友紀が振るとユウはうなずく。

「こんな気持ち、はじめてです。女なのに男性・・両方のいいところをお持ちのような気がしてしまって」
「SMにはならないの?」
 治子が訊いた。
「なりますけどちょっとだけ。私ってすぐ泣くから、そしたらもうすぽーんと抱いてくれて、よしよしって・・それで私はよけいに泣いて・・何なんでしょうね、この甘え・・ンふふ」
「知るか・・笑うなっ」
 治子はちゃかすように言って、それから真顔に戻っていく。

「レイプされたのよ」
 友紀とユウの二人の眸が流された。
「私じゃなくケイがね・・あ、景子って言うんですけど、高二のときに合コンみたいなことがあって、大学生だった男たちにマワされるみたいなことがあったのね。それでもあの子、彼氏がいたこともあったんだけど、これがまた気持ちの通じないクソ野郎。そんなとき私と出会った。私は最初からそっちだったし・・ま、以来腐れ縁てところかしら。結婚しようって言われたよ」
「向こうから?」 と、友紀は言い治子がうなずく。
「私はいいのよ、だけどウチの会社ってどうなんだろ、ぶったまゲーションでクビになるのがオチでしょう」
「・・ぶったまゲーション・・あははは、及川さんて面白いんですね、見た目には知的なのに」
「・・ほっとけ」
 つられて友紀まで可笑しくなった。女同士はこんなもの。女ばかりで温泉にでも行こうものなら素性丸出し。この中にサリナを入れてみたいと考えた。雑誌と違って今度の本の締め切りはゆるい。いい原稿にするためにも一度顔を合わせていいと考えた。

「よしっ、温泉でも行くかっ?」
 友紀が言うと二人が見つめた。
「連れておいでよ、そのケイちゃん。私のほうでは二人呼ぶ。もちろんユウもよ。ただし今回は女性軍のみ。私の奴隷をお披露目するから」
 治子とユウが目を見張って見つめ合う。
 友紀は言った。
「あーあ・・ここのところずっとだけど、頭ん中エロだらけ・・」
 おどけた友紀の仕草に三人揃って笑う。

2017年01月16日

DINKS~フリーランサー(十八話)


十八話


 バロンのマスター・・あの細川なら、サリナをどう躾けていくのだろう・・。

 日曜の朝早く、湘南あたりへ向かうクルマをサリナに運転させながら友紀はそんなことを考え続けた。
 友紀のクルマ。都心に近い笹塚から横浜に近い菊名へ向かい、サリナを拾ってからはサリナに運転させている。ルートを合理的に考えるとそっち向きになってしまうのだったが、行き先はどこでもよかったし、少しでも長く二人の時間をつくるためにも遠出しようとは思わなかった。
 大阪のホテルで逢って以来の二人きりの外泊。友紀は気楽なジーンズスタイル。サリナは女王との関係を誇るように黒い革のミニスカート。化粧もきっちり整えていたし、一見すると立場は逆か。洗練された上位のサリナに下位の友紀が連れられているように思われてもしかたがなかった。

 しかし・・そんなサリナの姿を一目見て、だからこそ友紀は、あのマスターならサリナをどう調教するのだろうと考えてしまうのだった。
 細川という男、SMカップルの取材ではじめて会ったときからSMをほとんど語らない。愛奴だったyuuの口から聞き出したのを覚えていたし、そのときそばにいて、穏やかに語るyuuをうかがっていた細川の姿に、奴隷への深い想いを感じたものだ。だたそのときは友紀にとってはあくまで仕事。SMなんてもちろん縁のない世界だったし、視点はM女のyuuであってS男性の細川ではなかったこともある。女性誌の読者は同性の想いに惹かれるものだから。

 そんな中で、あのときふと細川の言った言葉が思い出される。
『SはMを創る。MはSを創る。互いに媚びない』 
 というものだったが、いまになって言葉の意味がわかる気がする。

 サリナという女は普通に逢えばレズ関係としての恋人の目線のようにも思えるのだが、女王様と口に出したとたん切り替わるように乱れるし、奴隷になりたがる素振りを見せる。
 『友紀様』と呼ばせても嬉しくなさそう。M女性への憧れがそうさせるのか、マゾ牝はこうあるべきといった偶像を追いかけるのか、ときどきそれが『媚び』として映るのだった。
 そしてそのM女の媚びに私はS女の媚びで応えていないか・・何かが違う、このままではいけない。幾度同じことを考えてもまたそこへ戻ってしまうし、似たような答えに行き着くだけ。
『思うままに責めておやり。奴隷は女王などよりはるかに強い生き物ですから大丈夫。根が浅いと地上が倒れ、根だって死んでしまうもの』
 瀬戸の言葉がすべてだった。根は茎や葉や花に媚びて伸びるわけではないだろう。

 細川はyuuをどう躾けているのだろう・・めぐりめぐって思考がそこへいったとき、友紀の視線は運転席へと流れていた。
 サリナの横顔がじつにいい。キラキラしている。心から女してると思ったときに、ふいに言葉が口をつく。
「楽しそうね?」
「ンふふ・・はい」
 もういいや、楽しもう。考えすぎるのが悪い癖・・それはつまり、いい原稿を書こうとする想いのあまり・・と、友紀は面倒な思考を振り切った。

 大磯あたりのラブホテル。最上階の五階。少し遠くに青い海原のひろがる見事な眺めだったのだが、西の空のあるところから向こうが黒い雲に覆われてしまっている。
 窓際に二人で立って友紀が言った。
「・・雨になりそう」
「そうですね」
 友紀はハァとため息をついて切り替えた。
「いいわ、覚悟を決めて脱ぎなさい」
 真顔でサリナの眸を見つめ、サリナも真顔で眸を見つめ、女が二人、一瞬の冷えた緊張の後、SとMに分かれていった。

 ラブホテルの部屋はゆったり広く、大きなベッドとラブソファが並べて置かれ、そのそばにはテーブルセットも置かれてあって、友紀はライムグリーンの合皮でつくられた低くソフトなソファに座り、明るい陽射しの射し込みはじめた窓際に着衣のサリナを立たせておいて、踊るように脱ぐよう命じた。
 透けるブルーのブラウスが同系色の青のブラを映している。サリナはスローテンポでしなしなと肢体をくねらせブラウスを脱ぎ、ブラをはずす。真っ白な円錐の二つの乳房が解放されて、色素の薄い乳輪が性感の高まりを顕すようにすぼみ、ほどよいサイズの乳首を勃たせて、すでに乳房に鳥肌が立っている。
 黒革のミニスカートはヒップの張りに引っかかり、踊り子は尻を振って滑らせて腿まで降ろし、脚線をのばしたままプロダンサーの柔らかな体が上半身をナイフのように二つに折って足先から抜いていく。
 濃い紺のストッキング。尻から剥いて丸めていき、同じように体を折って足先から抜き去った。
 ブラと揃いの青いパンティ。思ったとおりTバックで、サリナはそれもアラビアンナイトの踊り子のように腰を左右に振りながら脱いでいく。

 すがすがしい全裸。サリナの裸身には鞭痕などはもちろんなくて、デルタの毛も綺麗に処理され、いまにも淫らに叫びそうな性の縦口を露わにする。
「踊りながら回りなさい」
「はい、女王様・・ああ恥ずかしい・・」
 くねくね・・しなしな・・白い尻桃の蠢きがこちらを向いたとき、あのときの鞭痕が綺麗に消えて、生まれたままの女の尻が妙に艶めかしく感じられた。ゆっくり一周、こちらを向くサリナの眸が濡れたように輝いている。
 足下に呼び寄せて、膝で立って脚を開き手は頭の奴隷のポーズ。真っ先に紫色の犬の首輪をさせてやり、両手首に巻き革の革帯がチェーンでつながる手錠をさせて、膝で立って後ろ手のサリナの顔を覗き込む。

 サリナはいまにも乱れる息を殺していて、小鼻をひくひく、とろけたような眸をしていた。牝に備わる淫色をそのまま視線にしたようだった。
 両方の乳首に手をのばし、けれども今日は最初から力を込めて乳首を引き出し勃たせるようにコネあげる。そのときサリナはこらえきれずに甘い声を漏らしだし、うっとり眸を閉じ、素直に乳房を突き出した。
「ほうら気持ちいい。でも今日からは違うのよ。奴隷として私のオンナとして生きていく何もかもを教えていく。甘えてもダメ媚びてもダメ。ただ一心に女王に仕える性奴隷。覚悟はいいわねなんて訊くこともやめようと思ってる」
「はい、女王様、心からお仕えいたします」

 友紀は真顔でちょっとうなずくと、洗濯バサミではない乳首責め用のステンのクリップを手にすると、浅い牙のある鰐口をキリキリ軋ませ開いてやって、右の乳首、左の乳首と、無造作に責めていく。
「ぅぐ・・ハッハッ、ハァァ・・うぐぐ」
 サリナの眸が激痛に見開かれ、左右の乳首を交互に見ている。
「ほうら痛い、泣いてもいいから耐えなさい」
「はい・・うむむ・・痛いです」
「立って踊る。がに股に脚を開いてマゾらしく乳首を振り回して踊ってごらん」
「はい・・ああ痛い、乳首が壊れそう・・」
 手錠で両手を腰の後ろに取られていてもプロダンサーの動きは滑らかで、弾みをつけなくてもすっと立つ。腰を大きく落としてがに股に脚を開き、乳房を振って重みのあるステンの乳首クリップを振り回し、サリナは痛みに口吻をまくりあげて歯を見せて、荒い吐息を吐きながら尻を振る。

「ジュースが垂れるまでよ」
「はい、んんーっ、んっんっ・・」
「痛いの? 感じるの?」
「感じます女王様、嬉しいです女王様」
「じゃあもっと激しくなさい。クリップなんて飛ばしていいから」
「はい、ああ痛い・・いいえ気持ちいい・・ああ女王様、あぁーっ!」

 それでもまだまだ動きが遅い。友紀は真新しい黒革の乗馬鞭を手にするとシートを離れ、横に立って奴隷の白い尻をパシンと軽く叩いてやる。
「もっとでしょ。ちゃんとしないとお尻が青痣になるからね」
「はい。むむーっ、うぐぐ!」
 歯を噛み締め唇を固く結んで乳首を振り回すサリナ。見る間に体中に汗が浮き、全身が桜色。閉じている陰唇がヌラめきだして興奮を物語る。「鞭が嫌ならちゃんとなさい」
「はい踊ります・・いいえ鞭も・・ああ女王様、濡れてきました」
 友紀はほくそ笑み、毛のないデルタの谷底へと指をのばした。ヌルと抵抗なく膣に収まる女王の指。
「はぁう! あぅ!」
「ほんとヌラヌラ・・ふふふ、そうして頑張って可愛がられる奴隷になっていく。それが歓びなんでしょう?」
「はい嬉しいです女王様・・ああ乳首が・・」

「泣いてもいいけど泣いてもダメ」
 サリナは深くうなずくと、今度こそクリップがはずれて飛ぶほど乳房を振った。呻く、喘ぐ、悲鳴・・やがて泣き声へ。
「いいわストップ」
 友紀はシートを立って、がに股に立たせたまま、乳首の責めを許してやった。クリップははずそうとしても痛い。サリナは顔を背けて涙を流し、唇を固く締め、しかしそのとき、痛みに腹圧が上がったからか開かれた腿の間からツーっと透き通った愛液が糸を引く。
「ほら垂れた、見てごらん」
 サリナは泣き顔を真下に向けてフロアを見る。フロアはクッションフロアで焦げ茶のフローリング。そうやって真下を見る間にも愛液は次々にあふれ出しては糸を引く。糸が切れずに床まで垂れる。
 友紀はがに股立ちのサリナの頭を押さえつけてフロアにつぶし、髪の毛をつかみ、垂らして蜜玉をつくる愛液を鼻先に見せつけた。
「自分で汚したものよ、舐めなさい」
「はい、女王様」

 そしてそのまま額をフロアに押しつけて尻を上げさせ、サリナの裸身を三脚這いにしておいて、開かれた尻の底へと乗馬鞭の先を寄せていき、ヌラヌラの性器をそろりと撫でた。
「あぁン女王様」
「甘えてもダメよ」
「はいぃ」
 ピシャピシャと二度嬲り、軽く手首を返してやって濡れそぼるラビアを一打。ベシッっと湿った音がした。
「きゃぅ!」
 サリナは前へ、水泳のスタートのように裸身を投げ出し吹っ飛んで、尻をひくひく、足先をバタバタさせてもがいていた。
「ほんの軽い鞭ですからね。お仕置きならこうはいかない」
「はい、女王様」
 軽くても痛いだろうし、性器打ちなど思ってもいなかったはず。サリナはよく締まる尻をこれでもかと引き締めてもがいている。

「顔を上げて私を見なさい」
「はい」
 裸身をひねって顔を向けるサリナ。先ほどまでの溶けただけの眸ではない、涙に濡れるマゾ牝の眸をしている。
 つくづくいい眸をすると友紀は感じた。
「もう一度言うわよ、媚びてはダメ。ただ一心に私を見つめマゾの自分を楽しむこと。サリナが楽しくないと私だって嬉しくないでしょ。そこをよく考えて、だけど何も考えない。わかったわね?」
 サリナはうなずいてから「はい」とはっきり応えていた。
「わかったら、そこに正座です」
 サリナの鍛えられた裸身がくにゃりと蠢き、両手を後ろに正座する。
 友紀はそんなサリナに自分の匂いを嗅がせるように、そばに立って脱いでいく。ジーンズにTシャツ。それだけで友紀は黒の上下の半裸となれる。

 その姿でソファに座り、足下にサリナを正座させ、ブラをはずし、自分で尻を浮かせてパンティを脱ぎ去って、友紀もまた濡らしていたパンティを裏返し、裏地の蜜を口許へと突きつけて舐めさせる。
 サリナは眸を閉じ、チロチロ舌を出して舐めていたが、その面色には明らかに微笑みが浮かんでいた。
「幸せです女王様」
「そうね、私も楽しい。ちゃんと舐めたらご褒美に私を舐めて。足の先からアナルまでくまなくよ」
 はいと応え微笑んではいても、甘ったるい声は出さない。今日が奴隷への一歩だと見定めたM女の潤いに満ちた貌(かお)。

 こうして一歩ずつ私たちのSMは深まっていく・・。
 このとき友紀はSMへの想いはサリナに書かせ、私は行為を書いてみようと思い直していたのだった。あのプロットに足りないものは行為。心なんて、どう書こうがありきたりで届かない。女同士のリアルなSMをそのまま書いて、そこに奴隷の感傷を織り込めばいいと考えていた。

 女王は溶けていく・・サリナの奉仕が全身に行き渡り、女陰の蜜が舐め取られ、最後に肛門までも舐められて、女王は甘く溶けていく。

2017年01月13日

DINKS~フリーランサー(十七話)


 十七話


「・・それでね、二人目の方だったかなぁ、うふふ、ちょっと怖いサディストさんでね、でもその方、その頃のあたしよりずっと歳上でいらっしゃり役立たずだったのよ。大きくなってもふにゃりって感じで。あははは」

 友紀と及川治子の二人で揃って、つられて笑っているしかない。
 茅ヶ崎の海を眼前にする古くからある漁師の家を買い取って、女ながら単身、仙人のように暮らす瀬戸由里子。六十九歳。執筆はいまだ手書きで、一貫して女の生き方を書いている。ベテランの友紀でさえが恐縮する大作家でありながら居丈高なところのまるでない、悪く言えばそこらのおばちゃんといった印象。あっけらかんと自身の性を語る。

「それでほら、男って馬鹿だから棒と穴のセックスがセックスだって思ってるでしょ。もちろんそれはキモチよくても違うのよ、女ってそうじゃない。やさしく抱いてくれるだけで愛されてるって感じられる。そこのところでわかり合えなくなっていくから、お外でちょめちょめしたくなるってことでしょう。だったら若いほうがいい。ピンコなんだし楽しめる。だけどそれはいまのあたしだからそうであって、その頃のあたしは、むしろずっと歳上がよかったの。女の気持ちのわからない自分勝手なピンコ勃ちなんて噛み切ってやりたくなるものね。あははは、あたしって淫乱でしょう、あははは」

 治子と顔を見合わせて、なんとなく笑っているしかない。その言い方も軽妙で、聞いていてスカッとする。とてもおよばない女の大先輩。瀬戸が相手なら下手な打ち合わせなど失礼。思うままに書いてもらえばよかっただろう。

「縄で縛られたのよ、嫌ぁぁン、お股ぱっくり。あははは。鞭でお尻をペシペシとか。ナニするだ、このド変態って思ったけれど、泣いたあたしを最後には抱いてくださり、よしよしって撫でられると、くにゃくにゃになっちゃうの。普通のほら、不倫なんて、相手がチェンジするだけよ。だけどSMは違うもの。レズだってそうだけど、そこらの女のセックスとは違うんですもの、イキ過ぎたってしょうがない、だから暴走するわけで。あっはっはっ」
 ひとしきり笑って、しかし瀬戸は静かに微笑む面色へと変わっていく。
「三浦ちゃんに聞いたわよ、早瀬さんてDINKSなんだそうね?」
 友紀はドキリとして眸を見つめた。穏やかに老いた・・と言っても六十代では女そのものの眼差しで見つめる瀬戸。心の底まで見透かされていると思うと怖くてならない。

「はい、可能性を追ってみたいということと、主人は主人で子供より夫婦の暮らしを大切にしたいって人ですので」
「うんうん、いいんじゃない。生殖から逆算するから誰も彼もが同じ末路へ向かうんですから。愛を言い聞かせ、妻を言い聞かせ、母を言い聞かせているうちに孤独のほんとの意味を知る。ああしておけばよかった、こうしておけばもっとあたしは輝けたと思ったところで遅いわよ。せめていまから。それが不倫の正体よ。女は牝。セックスが好きで好きでたまらない。本音のところでそんなものだわ」
 そのとき治子が、ちょっとうつむいて言うのだった。
「私は男の人はちょっと」
「あらレズさん?」
「じつはそうです。恋人いますし結婚してもいいかなって思ってます」
「男性バージンてわけじゃないでしょ?」
「それは一応。ですけどムサイし・・あ、すみません、何と言うのか、心が通わないって言えばいいのか」
 瀬戸は微笑む。大作家でありながら田舎のおばさんそのままのもんぺを穿いたような姿にしか見えない作務衣のいでたち。郷里へ帰って婆と話す心持ちにしてくれる。

 瀬戸は言った。
「あたしらの頃はほら、DINKSもそうだけど同性結婚なんて考えられない時代だったでしょ。いまの人はいい。いまの人は素直な自分本位を表に出せる。レズだろうがSMだろうが命を燃やしてアッハンだもの、羨ましいぐらいだわ。あたしのことは知ってるでしょうけど、じつに貪欲な女でね、妻子ある人を愛し、奥さんから奪ってやって、その人の子も産んだ。なのに飽き足らず不倫もしたし、そのうち別れて、そのときよサディストさんに出会ったの。ずいぶん歳の違う変態親爺だったけど、大切なことを教わった。お相手を花だと思う愛はエゴだって。逆ですって。お相手は常に自分を咲かせてくれる根っこなんだと思いなさいって。人は所詮自分が可愛い。だから隠すしポーズもする」
 サリナの言葉を思い出す。女王を咲かせる根でありたい。友紀は泣きたくなる気分になった。
「じつは先生」
「はい何かしら?」
「奴隷のような人がいるんです、レズですけれど・・その子はマゾで、いいえ、いまはまだ奴隷になりがたる段階なんでしょうが、私は厳しいことができなかった。可哀想でやさしくしてあげたくなって」
 瀬戸と、横に座る治子が静かに見つめていた。

 黙って聞いて瀬戸は言う。
「壊したらどうしようって思うのよね? 大切な人だからこそ壊したくない。だけどそれでは浅いわよ。M女こそ根っこですもの。大空に向かってのびていける茎や葉とは違って根には障害がつきまとう」
「障害ですか?」
「そうよ障害。地上を支えるためにのびようとしても硬い土が邪魔するかもしれないし、お水をあげすぎて逆に腐るってこともある。ときどき掘り返してやって石をどけたり腐った根を断ち切ってやる荒療治が必要なもの。根が死ねば地上もまた死んでいく。根は地上のために命がけ、地上は根のために命がけ、それが女王と奴隷の関係だからね。はっきり言うわよ早瀬さん」
「はい?」
 怖かった。逃げ場のない答えを突きつけられると思うから。

「あなたのご都合、ポーズだわ。私は愛に生きる女。感性豊かなやさしい女。どう素敵でしょ。だけどそんなものは体面でしかない。逃げでしかないものよ。思うままに責めておやり。奴隷は女王などよりはるかに強い生き物ですから大丈夫。根が浅いと地上が倒れ、根だって死んでしまうものですからね」
「・・はい、ありがとうございます先生」
 そのとき横から治子の手がのび、友紀の背中をそっと撫でた。

「・・はぁぁ怖かった」
「ですよね、とてもおよばない・・高いもん」
「せっかくだから海見て行こうか」
「ええ。私も愕然としましたね。相手のためなんてエゴ。確かにそうだなって思ってしまった。でも友紀さん」
「うん? 奴隷のこと?」
「ほんとに女王様なんですね」
 友紀は前を見たまま眸を細めてうなずいた。
「せつないほど素敵な女性よ。健気で可愛くて可愛くて、やさしくしてあげたいんですけどね」
「わかります、その気持ち。・・わぁぁ雄大」
 歩いてほどなく太平洋がひろがった。少し風があって白波が幾重にも重なって押し寄せている。
 縄も鞭も、サリナが考えてもいないようなものまで揃えてみようと友紀は思った。

 数日が過ぎていた。ユウと二人でレズカップルへの原稿依頼も終わり、後は仕上がりを待つだけだったし、自分の原稿を書き上げるだけ。女王の視点で見下ろすサリナを描いてやる。友紀は下書きに取りかかった。
 その日の夕刻、社を出て近くの古書店に立ち寄って、そこでユウとばったり会う。
「あらら、どして? 探し物でもあるのかな?」
「ちょっと・・作法の本でいいのないかなって」
「作法って?」
「女らしさって何だろうって」
「ははぁ、さてはモモさんに何か言われたな? いいわ、ちょっとお茶しましょう」
 はじめて入る通りすがりの喫茶店。バロンのように小さな店で若い店主がやっていた。紅茶を二つ、それにトーストを二人で分ける。

「この水曜日」
「モモさん休みだもんね」
「そうなんですよ。一日一緒にいたんですけど、モモさんに女らしさを磨けと言われちゃって。彼女ってほら、男性にはMになれるけど女にはSだって」
「うん、言ってたね」
「その意味がわかった気がするの。女の子が好きで女になった。だから男性が相手だと異質のものだと思えるからMになれる。女が相手だと、モモさんて女のいいところだけを観てるから、ちょっとでも踏み外すと許せなくなってしまうんでしょうね」
「だからSか・・そうね、そうかもしれない。偶像であっても美点だけを追いかけて、それが彼女の人生だから」
「そうなんですよ。女なんてそうそう女をやってられない。思うほど綺麗なものじゃありませんから。でも私・・」
「もがいてみたいんでしょ、そこを目指して?」
 ユウは強くうなずいた。若い。見定めたものに対して立ち向かおうとする姿がすがすがしくも思えてくる。
「愛しちゃった?」
「はい愛してます。モモさん最高」
「ここにもいたか、思い込みの激しい女が・・ふふふ」
 今日は金曜、明日が土曜で、明後日の日曜に月曜一日休みを足してサリナとドライブに出ることになっていた。通販で揃えたものがそろそろサリナの手に届く頃。

 今夜また夫の帰りが遅くなり、七時半近くになって友紀はバロンを覗いていた。yuuは相変わらずのショートスカート。ストッキングも許されてはいなかった。それにしても客がいない。そのうちつぶれると友紀はちょっと可笑しくなった。
「いやいや、ここのところ混むから夜はいいんだ」
「あらそう? そんなに混む?」
「混むね。コイツの尻が見たくてやって来るんだろう」
「ンふ・・嫌です、ご主人様・・もう恥ずかしい」
 yuuは見るたびいい顔になっている。肌艶がよくスカートからざっくり露わな脚線も白く輝いているようだ。
 そしてそのとき、またしてもショルダーバッグの携帯がジジジと震えた。
「ずいぶん早かったのね?」
「はい、シフトの都合で今日からしばらくこの時間。それより女王様、お荷物が・・ハァァ、お荷物がたったいま届きました。ハァァ、ねえ女王様ぁ、お会いしたい、ハァァァ」

 声が漏れてマスターもyuuも聞き入っている。
「入ってたものと、それでどうして欲しいか、大きな声で言ってみなさい」
「はい。あぁぁ・・ハァァ。これは乗馬鞭です。お尻を打ち据えていただきます」
「お尻だけ?」
「乳房も乳首も・・あぁぁダメ濡れちゃう」
「ふっふっふ、マゾねほんとに・・はい次は?」
「縄です、麻縄。脚を開いて縛っていただき・・嫌ぁぁン・・」
 ふと眸をやるとマスターが首を振って笑っていた。
「それから?」
「バイブでしょ・・これディルド・・ああ泣いちゃう。お会いしたい女王様ぁ」
「まだあるでしょ」
「はい、あります。ちっちゃなディルドのついた革のパンティ・・それからガラスの浣腸器も・・トイレまで見られます・・怖いです女王様ぁ・・ああダメ、イキそう・・」
「あっはっは!」 
 こらえきれずにマスターが声を上げた。

「えっえっ?」
「ふふふ、いまバロンなのよ、細川さんもyuuちゃんも聞いてるわ」
「ええーっ、そんなぁ、意地悪ですぅ」
「いきなり喋りだすからでしょう。ちょっと待って、マスターに代わるから」
 携帯電話が友紀の手からマスターの手へと空中を動く間、『嫌だぁ、ねえねえ嫌ぁぁン』と大きな声が泳いでいた。
 yuuが眸を丸くして笑って友紀の背中をぽんぽん叩いた。
「おいサリナ!」
「はいっ!」
「ベタベタ甘えてどうする馬鹿者が。女王様が揃えてくださったんだ、泣き叫ぶ覚悟で待ってることだぞ」
 それだけ言うとマスターは黙って電話を友紀へと差し出す。

「はいっ! あぁン、イキそう・・」 と、空中を声が流れた。

「けっ・・やってらんねぇ・・」
 電話のこちらは大笑い。向こう側では、サリナはフロアにへたり込んで息もハァハァ。
「じゃあね、じーっと見つめて悶えてなさい」
 電話を切ってマスターと眸が合った。
 友紀はちょっと首を傾げて眉を上げ、『愛しちゃった』 と一言言った。

DINKS~フリーランサー(十六話)


十六話


 泣いて濡れる睫毛が草葉の朝露のようにキラキラと輝いている。
 ようやく出会えた女神に慈悲を請うように足先から口づけを捧げ、そっとそっと舐めながら脚線を這い上がってくるサリナを見ていて、友紀は、サリナの気持ちを考えた。私は人並みの女であって一般女性。サリナは名のある劇団に属して芸能界で活躍したミュージカルダンサー。美しさの質が違う。女王の美、女神の美と言うのなら憧れ慕うのは私のほうではないのか。一心に奉仕するサリナの姿は、とてもおよばない女神を崇拝する信者のようでもある。サリナはいまどういう気持ちでいるのだろうかと、幸せそうに脚にまつわりつく美しい姿を見つめて、友紀には不思議に思えてしかたがなかった。

 サリナの涙は鞭打ちのせいではない。強く振ったといっても細身で軽い革ベルトには握りに芯がなく、少しぐらい打たれたって尻を赤くする程度のもの。SMの鞭がどういうものかぐらいは知っている。
 肉体ではなく心を打ち据えた鞭・・けれどもそうされなければ安住できないほどサリナは弱い女ではないはずだ。生活力の部分でも一般女性とは比較にならない。このマンションにしろ女一人がとても手を出せるレベルのものではないのである。

 なのになぜ・・。

 太腿の付け根まで舐め上がったサリナの頭に手を置きながら、友紀はもしや逆なのではと考えた。強く有能であるがゆえに張り詰めていて糸がいまにも切れそうなのだと。やさしいだけではのし上がれない芸の世界に心が軋み、それを持ち前の強さで押さえつけていたのだが、劇団を離れて普通の女に戻ったとたん、それまでしてきたことへの呵責が悪霊のようにのしかかってきている。
 そんな何もかもを壊してやりたい・・だから自虐マゾ・・そういうことだと友紀は思った。

 腿まで這い上がったサリナは、女王の下着のデルタの底へと鼻先を突っ込むようにして、女王の白い腿を抱いて頬を添えた。
 ワインレッドの毛の中に紫色のガラス糸を織り込んだような不思議な髪を撫でてやり、鍛えられた背筋のゆるんだ白い背を撫でてやる。
「いい子だけどまだまだよ、はじまったばかりだからね」
「はい、女王様」
 顔を上げるサリナ。いい眸をしている。可愛いわ、たまらない・・すぐにでも下着を脱がさせて、おびただしく濡れる性器を舐めさせてやりたかったが、それをすると情に流されて貪り合うだけの肉欲に終わってしまう。
「立ってお尻を見せてごらん」
「はい」
 両脚の腿裏までをつつむように抱いていた手がほどけ、サリナは立って後ろを向いた。流れ動く女体。そんな表現がふさわしいほどサリナはしなやかに身をさばく。
 カタチよく締まった尻に幾筋もの赤らむ条痕がはしっていたが血が浮くほどの痕でもない。仕事でハイレッグレオタードを着る。サリナの誇りにかけてレオタードから出るところに変態的な傷はつけたくなかった。

 友紀はローテーブルに座ったまま。その目の高さに鞭に赤らむサリナの尻がある。
「脚を開いて自分でお尻をひろげてアナルを見せるの」
「はい、女王様」
 肩幅よりさらに脚をひろげ、左右の尻肉を両手で割りひろげて、そのままサリナは前に体を倒していった。プロダンサーの裸身はしなやかで、
膝に乳房がぴったりついて見事なAのフォルムになる。
 色素の薄いつつましやかなアナル、それに陰毛を処理してしまったヌラめく性器がそっくり露わ。両手で尻を開くことで皮膚が攣れ、愛液にまみれて閉じていられない肉の花がぱっくり開いて、綺麗なピンクの内臓までを見せている。
「いやらしい眺めね、よくもそこまで濡らせるわよ」
 咲いて口を開く膣花からトロミのある透き通った蜜が流れ出して内腿を伝いだす。
「鞭に感じた?」
「はい、感じました」
「マゾだから?」
「はい、私はマゾです」
「痛くされると嬉しい? 痛いの好き?」
「はい、痛くても恥ずかしくても感じてしまいます。ああ女王様、私を壊して」

 俗に言う真性M? これほどのレディが、まさか。

 けれどこのとき、友紀はそれを考えることよりも目の前でせつなく濡らすサリナに対してどうしていいかと戸惑うことが情けないし辛かった。自虐マゾと言ってもこれまでは妄想チックなものであり、この部屋にSMの調教具などは置いていない。ディルドでもあれば・・バイブでもいいし浣腸のようなものでもいい。縄でもいいし正真正銘、鞭でもいい。使えるものは洗濯バサミ・・ほかにもあるのだろうが、サリナを追い詰めていく手順がまるで発想できない・・いいやそんなことは考えたくない。メラメラとしたサディズムがいまにも爆発しそうで怖かった。
 SMの取材で何をどうすればいいかぐらいはわかっているだけに・・嫌と言うほどネットを見て、動画も見て、そのときキュンと胸の軋む想いがしたことを覚えているだけに豹変する自分自身が怖かった。

「いいわ、ここへ来て牝犬のポーズよ」
「はい」
 膝に乳房のつく完全前屈からスローモーションのようにしなやかに立ち上がるサリナ。足下へすり寄って、膝で立って脚を開き、両手を頭に組んで乳房を突き出す奴隷の姿。陰毛を失った白いデルタに得体の知れない肉欲の谷溝が浮き立って、しかしそれは蜜にヌラめき濡れている。
 美しいM女の姿だと友紀は感じた。
 そっと両手をやって尖り勃つ乳首をつまみ、そろそろとコネてやり、指先に力を込める。
 あぁぁ、あっあっ・・あぁン、あっあっ・・感じ入る甘い声。目を閉じて小鼻をひくひくさせながら、半分開いた薄い唇からとろけたような声を出す。
 友紀は目を見開いてそんなサリナの夢を見つめていた。夢見るような甘い吐息・・少しツネると眉間に浅くシワを寄せて声はさらによがり声に変わっていく。

「ほんとに気持ちいいみたいね?」
「はぁい・・ハァァァじょおう・・さまぁ・・サリナは・・イッてしまいます・・おやさしい女王様ぁ・・ハァァ・・夢のよう・・」

 信じられないものを友紀は見せつけられることになる。乳首をいじっているだけなのに、サリナの裸身がしなしな揺れだし、言葉が息の声に変わっていって、風船の空気が抜けるように裸身がぐにゃりと崩れて倒れていく。すぐ後ろに大画面のテレビ。友紀は飛びついて抱きかかえ、そのままフロアにサリナをそっと横たえていく。
「サリナ、イッたの? サリナ、大丈夫?」
「はぁい・・はぁぁ気持ちいい・・夢のよう・・気持ちいい・・心からお慕いします女王様ぁ・・」
 呆然とする。雲海を漂う風のようなサリナの声。心が達して肉体が果てていく・・そんなようなアクメなのだろうと想像するしかなかった。
 同じ女性として感動するほどの性のピーク。友紀はサリナを膝抱きにしながら柔らかな乳房に抱き締めてキスをした。
 下から手をのばして抱きすがり、舌を絡めてキスは深く、サリナは果てて動かなくなっていく。

 甘いわ。こんなことではダメだと思うのだったが、友紀にはサリナを傷めることができなかった。愛が燃えている。素敵なサリナに心を奪われ、ただ抱いているしかない。
 甘い。こんなことではダメだと思うのだったが・・そんな思考を鳴りだした携帯電話が現実に引き戻す。マナーにしてショルダーバッグに放り込んだ携帯が、コンパクトか何か固いものに触れ合っていて固い振動音を発している。夫なのかと友紀は思った。しかし着信表示は・・三浦であった。時刻は九時を過ぎていた。
「こんな時間にすまん。用件だけを言うが、君は瀬戸由里子さんを知ってるだろう?」
「あの作家の瀬戸さんですよね? もちろん知ってますが」
「うむ。いま別件でお会いして別れたばかりなんだが、件の本の話をしたところ、不倫というところで私も書いていいわよと言ってくださった。月曜日の午前中なら時間をつくるとおっしゃっててね。相手が相手だ、ぜひ頼む。茅ヶ崎に九時だから直行でかまわんよ。それでこの件、及川君にもトスしておくから向こうと二元で進めてほしい」

 瀬戸由里子と言えば、いまはもう六十代後半だったが、恋多き女として知られる大作家。間違いなく今度の本の目玉になる。友紀はちょっと緊張したし、雑誌の編集部に取り残されてもがく後輩の分も私がしっかりしないとと考えた。

「お仕事の?」
 フロアに体を横にして丸くなるサリナが斜め視線で見上げている。
「そうなのよ、月曜の朝直行してくれって。瀬戸由里子。ちょっとちょっとって感じだわ、名が出るだけで興味を惹く」
 三浦からアプローチしてくれたものだろうと友紀は思った。セクションを移動して初の仕事。売れる本にしてやろうと動いてくれたに違いなかった。
「瀬戸さんか」 と、サリナは言って、ちょっと笑った。
「サリナ知ってるの?」
「あの方、舞台がお好きで公演によく」
「そっか、なるほど・・話したことはある?」
「じつはよく知ってる人よ。あの方もM女さん」
 友紀は声に詰まった。呆然としてサリナを見つめる。
 サリナが言った。
「以前にこんなことをお聞きしました・・『M女は根、ご主人様の茎や葉や花を支えるために地中にはびこる女心よ』・・って」

 放心した。放心したが、一瞬後にすべてが振り切れた思いがした。
 友紀は立つと、やさしい黄色のパンティを脱ぎ去って、フロアに横たわるサリナの顔をまたいでいた。
「まだまだよ、責めるわよ。私だって濡れてるの、汚いの。舐めて綺麗にするんです!」
「はい、女王様」
 穏やかに微笑む奴隷の口をめがけて性器を降ろした。

2017年01月11日

DINKS~フリーランサー(十五話)


十五話


 そしてその午後。横浜まで脚をのばして一組のレズカップルに会うはずがドタキャンをくらってしまう。人妻同士の二人なのだが、その一方が子供が熱を出して動けなくなったと言う。
 女同士の関係でもレズとバイセクシャルでは本質が違う。レズは男性を受け付けない。バイはどちらもよしとするのだが人妻となってからの同性愛はレズに近い発想をする。男性相手の不倫ではないという言い訳もあるだろうし、男に懲りてレズを選ぶ妻からすれば同性だけが愛の対象。
 今日会うはずだった二人のうちの来られなくなった一人がそうだった。夫の粗暴に苦しんで男に愛想が尽きている。もう一方は感化されてレズにはしった感じ。来られなくなったほうがリードして牛耳っているわけで、その肝心の女性に会えないなら意味がない。かつて雑誌で一度取材していて、そのときは雑誌の読者層から未婚のレズカップルの原稿が採用された。今回はぜひ会いたい二人である。

 友紀が昼食に出ようとすると、ユウはモニタにウインドウを二つ開けて、モモの書いたものを見ながら、もう一方で言葉を書き連ねている。集中していて声をかけづらい。それで友紀は一人でエレベーターに乗ったのだったが、ひとつ下の階でエレベーターが停まり、元いたセクションに取り残してしまった及川治子が乗ってくる。
 そうか、この子もレズだった。ここにもいたと友紀は思った。同性愛はもはや特異な性ではなくなった。
 エレベーターには男性社員も乗り合わせ、箱の中では目配せし合ったぐらいのもの。一階に着いて吐き出されるとき治子は友紀の手を引いた。 社の外に出て並んで歩く。今日の治子はいつになくスカートスーツ・・。
「やっぱりね、だろうと思った」
 月刊女性生活でも性特集は続けていく。それで伸びたものをいきなりやめるわけにはいかない。そしてそうなると当然のように治子に取材がのしかかる。

 治子は言った。
「友紀さんを抜かれて文句たらたらなんですよ。編集長が余計なことを言ったからだと彼は彼で辛い立場だし、私に妙にベタベタしてきて気色悪いったらありゃしません。周囲からも鬱憤晴らしのターゲットにされちゃってたまりませんし」
「でしょうね。ごめんね、私だけ別天地って感じで」
「いいえ、それは三浦さんにも言われてますから我慢しますけど、冗談じゃありませんよ」
「ご飯でしょ」 と、あらためて治子をうかがうと大きめのショルダーバッグをさげている。
「急な取材で出なければならなくなって」
「あらら・・じゃあ今度ゆっくりね」
「ええ、一度どっかで。ああムカつく・・」
 治子だってまだ二十四歳。ユウに比べてはるかにできるほうだったが、それにしても一人でまとめられるほどの力量はない。取材はこちらが若すぎるとナメられてしまうもの。キャリアのある誰かと組ませてやらないと可哀想というものだ。

 さらにまた、昼食を終えて戻ったときにエレベーターの前で篠塚とばったり。篠塚は篠塚で、ちょっと手を上げて妙に懐く感じがする。言いたいことはわかっていた。
「どうかね本は? 進んでる?」
「これからですよ、仕込み以前の段階です」
「そっか。ところで早瀬君、今夜あたり軽くどう? 想像はつくだろうが及川君にかぶせちゃって・・ちょっと相談したいこともあるんでね」
「いえ、夜には予定もありますし、仕事のお話でしたら三浦さんも呼んでいただいて会議室でお願いします。そっちの件では三浦さんにも協力するよう言われてますし、私としてもその気持ちはありますから」
 一緒にエレベーターに乗る気もしない。友紀は社の外にあるドリンクの自販機まで踵を返し篠塚を振り切った。なんでもかんでも酒の席で情緒で丸め込む日本的スタイルにはヘドが出る。
 一瞬でも外の空気を吸って気分を洗い、戻ってみるとユウがいない。昼食時でセクションに人はまばら。

 そんな中、三浦はデスクにいて新聞をひろげていた。
「お、早瀬君」
 ちょいちょいと手招きする。その仕草がいたずらっぽくて憎めない。どうせいまの話だろうとデスクに歩み寄ると、三浦はちょっと笑って言った。
「木戸君、目の色が違うね。何があった?」
「いいえ特に。ですけど彼女、モモ・・あ、ニューハーフの子なんですが、モモさんの話を聞いて打ちのめされちゃったみたいです」
「ふむ、なるほどね。まったく不器用な子だよ、表現下手で・・」
「そうですね。でも彼女なりに考えてますから」
「見てればわかる。才能はあるから育ててやればいい」
「そうですか才能ありそう?」
「あるね。鍛え方を知らないだけさ。懸命に書いている。ちょっと覗いても気づかないほど一心不乱。そのモモって・・彼なのか彼女なのか、その人にぞっこんなんだろうが」
「そうかもしれません。じつは私もちょっと驚いちゃって。いきなり本来のあの子になった」
「そのようだ。で、えー・・早瀬君」
「雑誌ですよね? たったいま及川さんと篠塚さんに立て続けに会っちゃって」
 三浦は眉を上げて首を傾げた。
「まあ頼む。及川君が困ってるよ。こっちとバッティングしてもしょうがないしコントロールしてやらないと」
「ええ、わかってます。それであの、編集長」
「うん?」
「・・いえ・・ありがとうございます」
「だから何がっ?」
 そっぽを向いて得意がる仕草・・。
「ふふふ・・もう・・子供みたい」
 ユウに治子、二人の大切な存在を気づかう三浦が大きく思える。

 夕刻・・サリナをめがけて電車に乗って、友紀はすでに濡れだす気配を感じていた。錯覚ではない。下着を気にしたくなるほどの性欲が燃えている。サリナは今日、少し早く戻れるだろうと言っている。定刻より遅く社を出て向かえばサリナはいると考えた。
 菊名に着いて電話する。時刻は七時を過ぎていた。
「戻った?」
「はい、ちょうどいま」
「私も菊名よ、ご飯まだでしょ?」
「はい、これからになっちゃいますけどよろしいですか?」
「いいわよ何か買ってく、じきに着くから」
「はい・・嬉しいです女王様」
「はいはい、楽しみにしてなさい」
 ドキドキする。サリナがどんなスタイルで出迎えるかを想像すると、このとき友紀ははっきり濡れるパンティを感じていた。性感が高まってちょっとした風にもゾクゾクする。

 ドアに立って、一呼吸を深くして、それからノック。
「・・はい?」
「私よ、開けなさい」
「はい!」
 なぜかほんの少し間があった。ドアチェーンがはずされて控えめにドアが開く。
 一糸まとわぬ真っ白な女体が平伏して、サリナは額をこするようにして友紀を迎えた。白く丸まる女の体。背中からウエストへと絞られてヒップへ張りだす見事なヌードを見下ろした。全裸の奴隷の傍らに脱いだバスローブが丸められて置かれていた。
「そう、それでいいの、いい子にしようね」
「はい、女王様。お逢いできて幸せです」
「お立ち」
「はい」
 綺麗な女体・・カタチのいい乳房・・乳首が尖って発情を物語る。
 友紀は買って来た食事のレジ袋を手渡しながら、さっそくショルダーバッグから紫色の真新しい首輪を取り出して、見せつけて微笑んで、そっと首にまわしてバックルを閉じてやる。
「ほら可愛い、プレゼントよ」
「はい・・ああ嬉しい・・ハァァハァァ、虐めて女王様・・」
 発情した牝の吐息そのもの。友紀は奴隷の体を部屋に向けて回してやって、すでに震える白い尻をぽんとやった。

 リビングまで後を追ってソファに座り、全裸のサリナが正座をして足下に控える。買って来たのはサンドイッチとジュース。それをサリナにひろげさせ、紙パックのオレンジジュースにストローを差すと、一口吸ってサリナの手を引く。膝で立ってしなだれかかる白い女体をそっと抱き、キスしながら口の中のジュースを与える。
 サリナは閉じた瞼を飾る長い睫毛を涙に濡らし、流れ込む冷えたジュースを受け取った。
「美味しい?」
「はい・・ありがとうございます・・泣いちゃう」
「ふふふ、泣かない泣かない、まだ早いわよ。食べましょ」
 サリナはこくりとうなずくと、ローテーブルに並ぶたくさんのサンドイッチを見つめている。
「ほら食べて」
「はい。あの女王様・・私は女王様の奴隷です、どうか厳しく躾けていただきますよう・・」
「犬は余計なことは言わないものよ。いいからお食べ。今日はそのためにパンツで来たの」

 今日の友紀はパンツを穿いて生成りの細い革ベルト。サリナはその意味を理解した。ベルトである。
「ちぎって私に食べさせて」
「はい・・ンふふ」
 嬉しさをそのまま顔に描いたサリナの姿は可愛い。細い指でパンを割き口許へのびてくるものを、友紀が口でじかに受け取った。一口を女王に一口を自分に・・ジュースだけは女王の口から奴隷が受け取り、そしてそのとき下腹にのびた女王の指が奴隷の性器をやさしく嬲る。
「あぁン、女王様・・感じます」
「そうみたいね、もうべちょべちょ。ちゃんと舐めて」
「はぁい」
 サリナは燃えてくると眸が据わる。焦点を結ばないように瞳孔がひろがって黒目が輝き、それがサリナをいっそう淫らに見せている。
 女王の手を取り、目を閉じて指を舐めるサリナ。それからまたパンを食べてジュースを与える。
 サリナの裸身が上気して頬が桜色に染まってくる。吐息が熱い。性器はとめどなく蜜を生み、嬲っては指を舐めさせ、ジュースを与えるときそのままキスとして情を与える。

 食事を済ませ、友紀はソファを立ってブラウスを脱ぎ、パンツを脱いで職場でのベージュのブラと、けれど下にはレモンイエローのパンティ。ブラだけはずし白い乳房を解放してやり、けれどもパンティは穿いたまま。  そんな姿で、今度はローテーブルに腰を降ろした。
「少し離れて膝で立つの」
「はい」
「手は頭の後ろで胸を張る。これからそうして控えなさい、牝犬のポーズだわ」
「はい、女王様」

 女王はパンツを脱ぐとき細身の革ベルトを抜いていて、バックルを手の中にベルトを巻き取り、サリナまでの長さを決める。
「横を向いてお尻を張って」
「はい、ハァァ・・んっ・・ハァァァ」
 ひゅんと振って綺麗な尻桃に軽く当て、次に手首を返して強く振る。
 パシィーッといい音がする。
「あぅ! あぁン女王様・・」
「痛いわね」
「いいえ・・いいえ・・あぁぁ嬉しい・・」
 サリナは顔を横にして女王を見つめ、心から安堵した奴隷の笑顔を向けるのだった。本気で責めてくれている。都合のいい逃げを用意しない女王の情愛。サリナはさらに尻を張って鞭を欲しがる。

 パシィーッ!
「躾けていくわよ。私の想うサリナにする。服従を誓いなさい」
 パシィーッ!」
「むふぅ! はい女王様、お誓いします心から」
「痛くてもじっと耐える」
「はい!」
 パシィーッ!
「私だって濡れてるわ、どういうことだかわかるでしょ」
 パシィーッ!
「はい、ありがとうございます女王様・・ああ感じる・・」

 さらに強く渾身の鞭になる。こういうとき遠慮はいらない。Sの愛は与える愛。堂々として、毅然として、揺るがないから、M女は安住できるのだから・・鞭に力がこもっていく。
 パッシィーッ!
「きゃぅ! あぁ感じます・・感じます女王様」
 一打ごとに尻が締まって、たわんで波打ち、乳房がバウンドして艶めかしい。サリナの全身がふるふる震えて息が甘い。
「嬉しいよね。マゾだもんね。本気よサリナ。サリナのことしか頭にないの」
 ベッシィィーッ!
「ぁくく・・ぁぁン・・ハァァァ・・うっ・・」
 それきり嗚咽・・肩を振るわせ泣いている。綺麗な涙をサリナは流した。白かった二つの尻に見る間に赤い条痕がはしっていく。

 手を止めて言う。
「こっちをお向き、どんな顔してるのかしら」
「はい、女王様」
 濃いワインレッドの不思議な髪は泣き顔を少しも隠せず、ライトを受けて爆ぜた毛先が紫色に輝いている。睫毛の長い二つの眸から涙が流れ、顎の先でまとまって雫を垂らす。
 濡れる眸でまっすぐ見つめるM女の視線・・なんて可愛い・・たまらない想いがしても抱き締めるのはまだ早い。
「嬉しくて泣いたのよね?」
「はい、女王様、痛くなんてありません」
 友紀は微笑んでうなずいて、手に丸めたベルトを置いて足先を指差した。
「爪の先から綺麗に舐めるの。シャワーしてないから汚いからね。ちゃんとしないとお仕置きするわよ」
「はい!」
 待ちわびた女王の肌に触れることを許された。サリナは友紀の足先にむしゃぶりつくようにすり寄ると、片足ずつ丁寧に舐めていく。
 あまりの可愛さにちょっと笑うと、サリナは眸を向けてやさしく笑う。

 与える性・・いまのところ友紀にはそれぐらいしか思いつかない。
 しかし受け取るだけの受け身の性ではいられない。痛く恥ずかしく惨めな思いにさせることも、すべてが女王から奴隷へ与えるもの。
「足がすんだら上までずっとよ。心を込めて舐めなさい」
「はい、女王様」 とサリナは言ったがそんな言葉は聞こえなかった。

 私のサディズムって何だろう・・どうすればこのサリナを最高のM女性に育ててやれるか・・友紀は内心もがいていた。
 yuuに負けない、ユウにも負けない、サリナという奴隷へ。そうじゃなければサリナを愛する資格がないと思ってしまう。

DINKS~フリーランサー(十四話)


十四話


 次の日の朝、友紀はユウの変化に期待していた。あの子なら水を得た魚で颯爽としているだろう。女がそれぞれの幸せを見つけたときの姿は見ていてすがすがしい。
 定刻に出社するとユウは一足先に来ていたようで、昨日の姿をちゃんと着替えて、一度自宅に戻って出社したことがうかがえた。浅い茶色のミニスカートにピンクのブラウス。赤いブラが透けている。思った通りちょっと見ない大胆なスタイルだった。後ろから肩を叩いてやると、じつにしなやかな笑顔で笑う。昨夜何があったのか、そのまま顔に書いてある。

 しかし職場でそんなことには一切触れない。今日は方々で打ち合わせのアポがある。雑誌よりも年齢層が少し高く、読者が女であれば興味はまず不倫。SMも注目されるものだったが常識的な主婦層にはマニアック過ぎて横目で見られる。レズもそうで若いペアより人妻同士のそれのほうが注目度は高いもの。そのうち今日は不倫をテーマに四人の人妻たちに会うことになっていた。いずれもノーマル不倫でレズではない。レズだと相手二人に揃って会わなければならずスケジュールがなかなか合わない。一時間ほどでユウと出て、そのまま直帰のスケジュール。
 都内を移動し最後のアポが下北沢で、話し終えて時刻は五時。そのままカフェに二人で入る。
「疲れちゃったね、頭ん中エッチだらけで困っちゃう」
「そうかも・・ンふふ」
 仕事の緊張が解けたとたん、ユウは昨夜のことで頭がいっぱいといったムード。

「まったく信じられないわ。はじめて会ったその日に・・」
 ユウははにかんでうつむいてしまっている。まだ二十三歳。可愛いと友紀は感じた。しかしいまここでそれを話そうとは思っていない。
「フラッシュメモリはどうだった? 読んでみた?」
「じつは・・夕べは泊まって・・へへへ、朝着替えて出たんです」
 友紀は椅子にちょっとふんぞり返るようにしてジトと見つめた。
「・・やっぱりね、そんなことだと思ったわ。まったく積極的って言うのか突進タイプって言うのか」
「自分でもそう思います。直感ですもん。だけど勘は正しかった」
「そうなんだ?」
「逆なんですよね」
「逆?」
「モモさん言うの。好奇心で見られることがほとんどなのに、その気で見つめられて嬉しいって言ってくださり、そしたらもうどうされてもいいと思った」

「SMだった?」

「ううん、いきなりそこまでは・・それっぽく服従をお誓いして、それからはやさしくしてくださって・・ンふふ」
 何を考えているのやら・・。
「そうですか、はいはい・・あほらし、訊いて損した。今日はもういいから明日メモリの中身を見せてちょうだい」
「ですね。私も帰って読んでみたいし。ねえ先輩」
「何かね?」
「私やっと解放された。モモさんてほんと素敵です。女のいいところを全部持ってる」
「わかったわかった、どうぞ仲良くやってくださいな。いい人でしょ?」
 ユウは深くうなずいて言う。
「若くても裏を見てきた人ですもの。だからその分ピュアなんです」

 一休みしてユウとは別れた。下北沢なら井の頭線で明大前乗り換え。京王線で新宿へ向かうとすぐ笹塚。三十分もしないうちに自宅に戻れ、シャワーを済ませておいてパジャマ姿でノートパソコンに向かう。
 こちらはこちらで何を書くかをまとめださなければならない。手記のプロットづくりに取りかかる。編集畑にいて文章をまとめるノウハウは知っていた。今回は雑誌レベルの記事ではなく手記もしくはエッセイ。相手が素人だとほとんどそのまま使えず、あがってきた下書きをライターに委ねるのだが、モモとユウ、バロンのyuu、サリナと私・・そこは友紀自身が仕上げてやろうと思っていた。

●DINKSから入る~夫がいて子供を持たない妻のカタチ~夫を愛し、抱かれてアハンな女の私~けっ。

●サリナとの出会い~yuuとの再会をきっかけに、それまで考えなかった女の性をつきつめるようになる~性とは性(さが)~魔性、肉欲~私の正体。

●Mっぽいサリナを愛そうと決めたとき、自分の中のS性を引き出してやって、ピュアに深くつながる女同士の愛につなげていきたいと考えた~。

●でも迷う~ひどいことはきっとできない~その中でどうやって女王と奴隷を保つのか~。

●やさしくしてあげたい~なのにサリナは女王様と言いたがり、そのほうが安心して私に向き合える~そんな一人の女性へのたまらない想い。

●私は女王でなく、サリナに創られていく新しい私~SMなんてカタチじゃない~心の叫びを満たし合う女と女~互いに変態だなんて思っていない。

●性別ではない人と人の高みをめがけて、これからサリナと二人の関係を創っていく~。

●もうDINKSに迷わない。愛のすべてを私という女へ向けて胸を張って生きていく~後悔しない人生のため私なりの性を見つけて狂おしく生きていく~。

「こんなところかしらね。うーん・・何か足らない気がしちゃう。SMチックな感傷が抜けてるかも・・」
 友紀は思考を整理した。
 男性Sへの想いはyuu。レズにはレズの書き手がいる。ニューハーフはモモと、それにユウなのだが、そこにもSMのフレーバー。不倫はまあ不倫として・・と考えたとき、女王の視点が表現されないと結局yuuやユウの言葉と差がなくなる。
 ・・なんだけどモモが女性とすると女王様が二人いる・・視点はあくまで女性であって、マスターは・・不要かも。
「ごめんマスター、あなたはポイだわ。ふふふ」
 と思考がめぐり、サリナと私にしかないものを探さなければならないと考える。人対人を結論とすると同性愛もニューハーフもそこへいくし、と言って人間愛なんて壮大すぎて実感が伴わない。

「困ったぞこれは・・」
 結局ノートを閉じてそれっきり。時刻はいつの間にか七時を過ぎてしまっていて夕食の支度にとりかかる。レトルト、冷凍食品、そして電子レンジの出番であった。サラダぐらいはつくる。それぐらいは手作りしたい。
 と思ったところへ夫が戻る。明日からの集中作業のため今日は早く戻ったのだろうと考えた。
「シャワーにするでしょ?」
「そうだな」
「うん、じゃあ私も・・」
 夫が先に雨に打たれ、追いかけて妻がキスを求める。妻の肉体を感じると反応してくれる男の体に友紀は愛を感じていた。
 雨の下でくるり体を回されて、後ろから乳房を揉まれて抱かれ、友紀はごく自然に夫の強さを手に握る。
 しかし今日、友紀は振り向き、男の足下に膝をついて強い夫を口に含む。自分を犯してやりたくなる。
「奴隷みたいだな?」
「・・馬鹿・・今日は不倫妻四人に会ってきた。話を聞いてたらムラムラしちゃってたまらない」
 夫は笑うだけでどうこう言わない。

 そして、そのとき友紀は、相手の性器に奉仕する性奴隷の気持ちを考えた。私は女よ、私は牝よ、この身をすべてあなたに捧げる・・女心とはそうしたもの。マゾとは、じつはもっとも幸せな女の性かもしれないと思うのだった。

 次の日は金曜日。サリナに逢えると思うと、昨夜の夫への奉仕と、その褒美のように激しく愛された情景が浮かび、友紀は朝からやさしい女になれていた。
 モモからあずかったフラッシュメモリ。パソコンのモニタに高校生だったモモのせつない言葉が綴られている。長文ではなく、思いついたことを書き殴るレベルのものだが、それだけに偽らざる彼女の想いが見てとれる。一見してこれはいいと考えた。
 ユウのデスクに、外出している隣りのデスクの椅子を寄せてユウと二人で顔を突き合わせる。
 友紀は言った。
「新鮮よね。言葉が若いし、それでいて苦しい想いが表現されてる」
「そうですね・・読んでてジーンとしちゃいます」
「あなたやってみる?」
「何を?」
「もうっ馬鹿ね、出版原稿にしてみるって意味じゃない。二元・・三元でもいいかもしれないけど、いまのモモさんにこの頃の彼女を重ねて、それにあなたの想いを足していく・・いいかもよそれ」
「難しいなぁ・・私の文章って編集長にボロカスに言われてますから」
「それは小説としてでしょ? 手記は違う。不揃いで未完成だからリアルなのよ。心の言葉なんてビジネス文例じゃないんだから」
「それはそうですけど」
「やってみなさい。モモさんを想って必死で書けばきっとよくなる」
 ぽんと背中を叩いてやる。今日のユウは昨日の女らしさとは質の違うダークブルーのパンツスーツ。若い肢体が内側から張り付いているようだった。

 わたし どうなっちゃうんだろ。。
 考えちゃうよ、、、女の子が好きで なのに男子に
 ときめいちゃうでしょ。。 いつか結婚したいもんね。。
 そのとき、、、わたし女の子、、、相手は男の子。。
 だけどそれって同性愛?
 女の子が相手ならレズなのに、、、それってマトモ?
 ノーマルってことじゃんか。。
 どーゆーことだろ? どーすりゃいいのさ、このわたし。。

 女の人のヌードを見ててボッキする。
 素敵な男子のお尻を見ててもボッキする。
 わたしを気持ちよくしてくれるのはどっちだろ?
 きっと、どっちもラブだと思う。
 彼の精液もらっても、嬉しいけど赤ちゃんできない。
 同性のはずなのに、わたしの精液で赤ちゃんできる。
 わたし何者? わかんなくなっちゃうんだ。

 お兄ちゃん嫌いだ! どうしてブラしちゃいけないの?
 どうしてかわゆいパンティはいたらダメ?
 女の子なのよわたし、、、どうして男っぽくしなきゃダメ?
 バケモノを見るようなアノ目、、、許せなくなっちゃうよ。

 キモチよくなりたい、、オナニーする、、(きゃぁ!)
 だけどボッキして射精しちゃう、、、男の子だから?
 ココロは違うよ、ゼッタイ女の子なんだもん!

 句読点もバラバラ、そのほか多数。想いの断片が思いつくまま書かれてあった。幼い文章・・ではなくて、女の子になりきりたい高校男子の文章。読んでいると胸が苦しい。ユウは懸命に愛した人を知ろうとし、友紀はサリナとの性を考える。
 こういう想いをもっと深く知ってほしい。女だから女じゃないし男だから男じゃない。人は心で生きている。白い目で見たり、寄ってたかって虐めてみたり、ろくに考えもせずに毛嫌いする。そんなことは許せない。レズだって愛なんだし、SMだって、それは二人の愛の行為。受け入れないものを否定するのは愚者の発想。男なんて馬鹿者はどうでもいい。こういうことを多くの女性に伝えるために私がつくる本はある・・。
 モニタを見つめていると突然二人の肩に男の手がのった。
「うぅわっ!」
 ユウが間抜けな声を上げ、二人の背後で三浦は苦笑する。

 友紀が言った。
「ニューハーフの子が高校の頃に書いたものだって言うんです」
「うむ、なかなかいいじゃないか。木戸はどうだ? そういうものを読んで奮い立つだろ?」
 友紀は三浦とともにユウを見た。ユウは唇を固く結んでいる。
 ユウは言った。
「そうですね奮い立ちます。この想いを多くの人に知ってほしい。そのために私だって頑張るんだし、読んでると泣けてきちゃう」
 三浦はユウの背をぽんと叩いて言った。
「そういうことだな。さまざまある愛欲に触れて否定せず他人を思いやる。そのための本だからな」
「はい」
「それとポーズするのはよせ」
「ぁ・・はぃ」
 声が小さい。
「アハンに一行をついやすな」
「・・へへへ」
「さらばだ諸君」
 三浦はまた二人の肩をちょっと突いて歩み去る。友紀は三浦の情を感じていたし、三浦に対して危うい心の中まで見透かされているような気にもなった。夫とは異質のぬくもりを感じてならない。不倫はすべてそこからはじまる・・。

2017年01月10日

DINKS~フリーランサー(十三話)


十三話


 バロン。モモのマンションを出たのが四時前で、友紀はこの時刻にバロンを覗くことはほとんどなかった。仕事のついでにごくたまに寄るぐらい。この時刻はどうかすると混んでいて小さな店には席がなく、あってもマスターに負担をかける。歩きながら電話して様子を訊くと、思った通りでボックスは満席。カウンターに二つ空きがあると言う。歌舞伎町のこっちから駅西口のあっちまでは距離があり、二人ともにパンプスでは速くない。この時刻からだと直帰のほうが効率がよく、逆に二人はのんびり歩いた。

「ユウちゃんいま思ってるでしょ、Mになれそうだって?」
「思ってますね。モモさん女にはSっぽくなるって言ってましたし、それを聞いたとたん、この人だって思っちゃった」
「思い込み激しすぎ」
「だからですよ」
「え?」
「だから怖くて天然やってごまかしてる。私って突っ込んで行っちゃうタイプだし、モモさん見てて自然体で嫌味なところがまるでない。この人なら尽くせるかもって、じっと見つめていたんです」
 友紀は眉を上げて空を見た。気持ちよく晴れている。それならそれでうまくいってくれればいいと思ったとき、サリナに逢いたくてたまらなくなる。

 バロンまで二十分ほどをかけて歩いた。ところが着いてみるとボックス席に一組カップルがいるだけで店はがらん。一気に入って一気に消えたということだろう。
 古びたドアを開けると鳴らなくなった無意味なドアベルがぶらぶら揺れた。
「ああ友紀さん、いらっしゃいませ」
「はい、ごめんねこんな時間に・・と思ったけど暇みたい?」
「そうなんですよ。ぞろぞろパッでこのありさま」
 今日のyuuは驚くほどのミニスカート。焦げ茶のサロンエプロンがミニワンピのように見える。脚線が白くすらりと伸びて、長い髪をポニーテールにまとめ、妙にすっきりした面色だ。性的に満たされている女の自信にみなぎっているようだ。
 店に入ってまっすぐカウンター。ユウはちょっと緊張している。本物のS男性に会ったことなどもちろんなくて、本物のM女性も知らないユウ。モモに会って刺激された後だけに顔色が心持ち青かった。

「マスター、紹介するわね。こちらユウちゃん、フレッシュでしょ、二十三よまだ。木戸優子って言います」
 と、yuuが驚いたように眸を丸くする。友紀はちょっと首を傾げてyuuを見た。
「これから一緒にやってく子なの。いまちょっとニューハーフの子に会ってきて興奮しちゃってダメみたいだけど」
 マスターが穏やかに微笑んで、ユウを見つめてyuuが言った。
「ユウちゃんて言うのね?」
 友紀はうなずく。
「字まで一緒、優れた子だけど天然で困っちゃう」
 ユウは緊張で声もなく、ただちょっと頭を下げて黙っている。ボックス席に客がいてこれ以上のことは言えない。
「なるほど・・名ばかりで優れてないか、ウチと一緒だ、ふふふ」
 ユウは上目がちに恥ずかしそうに笑う。主と奴隷。頭の中にSMシーンが浮かんでいるに違いなかった。
 それでそのとき、なにげに友紀はyuuに言う。

「ずいぶんミニね? 見えそうだし」
 yuuはこくりとうなずくと恥ずかしそうにカウンターの中のマスターへと視線をやった。その意味はもちろんわかる。そうしろと言われて穿いたミニスカート。yuuは友紀に顔を寄せて小声で言った。
「ノーパンなの・・ストッキングも穿いてない」
 言われてみれば白い生脚・・スカートはちょっと視線を下げると腿の付け根までが見えそうだった。
「ハァァァ・・んぐぅ・・」
「はあ? ばーかコノ・・どうしようもない子ね」
 横を見るとユウが頬を赤くしてしまっている。生唾もの。息が妙に静かだったし、こらえきれずに胸を膨らませて息を吸う。マスターもyuuも、もちろん意味を理解して顔を見合わせて笑っていた。
 友紀がユウに言った。
「こちらとは以前に雑誌で取材してからのお付き合いよ。お二人にも書いてって言ってあるし、これからユウちゃんだけでも来てもらうからね。覚悟なさいよ」
「はい・・覚悟って・・んぐぅ・・」
「はっはっは、こりゃたまらん、友紀も大変だ、これからあっちもこっちもだろうし」
「そうなんですよ、不倫もあるしレズもあるし、いろんな人に会っていかなかきゃならないのに最初のニューハーフさんですでにメロメロ。一目惚れしちゃって大変なんです」

 それでそのときボックスにいた二人が帰って行って、いつものバロンになってしまう。
 友紀が言う。
「あれま・・さっきまでの賑わいはどこへやら・・」
 マスターが言う。
「いやいや、今日はバタバタでyuuは散々濡らしているはず。そうだよな、正直に言いなさい」
「はい、ご主人様・・恥ずかしくて恥ずかしくて何度かトイレに・・濡れちゃって、いまにも伝ってきそうで」
「見られて感じるな?」
「はい感じます・・ああダメ・・震えてきちゃう」
 まったくマスターらしい。そうやってことさらユウに聞かせてチクチク虐める。なにげに横目をやるとユウは真っ赤。自分が調教されている錯覚に陥っているのだろう。
「もうマスター、可哀想よユウちゃんが。ふふふ・・もうダメって顔してる」
「わかったか? はっはっは、なかなか可愛い子じゃないか。そうだよなユウちゃんも。とっくにもう濡らしてる」
「は、はい・・おっしゃる通りです・・私あの、ちょっとトイレ・・嫌ぁぁン」
 マスター大笑い。yuuも笑って友紀も笑う。ユウだけがトイレめがけて飛び込んでいくのだった。

 ユウのいないカウンターで友紀が言う。
「あの子もMらしくて、あの子なりに苦しんでて、それで今日、モモって子に会わせたら二人いい感じになっちゃって」
 マスターは微笑んでうなずいて言う。
「一目でわかるさ。透き通ってる。いい子だと思うし、そんな子と組めるなんて友紀も幸せだな」
「それは思いますね、最高のポジションにいるのかなって。だから同時に私が苦しくなっちゃって」
 マスターがうなずいてyuuがそばからそっと肩に手をやった。
 ハァァと息をつきながらトイレから出てくるユウへ眸をやった、ちょうどそのとき、別れたばかりのモモから友紀の携帯へ着信。

「そうですか高校の頃の?」
『そう言えばと思っていまは使っていないフラッシュメモリを差してみたらその頃の想いを綴ったものがでてきてね。これ渡しておけばよかったなって思ったから』
 話ながら友紀はユウへと横目をなげた。相手の声は漏れている。
「ありがとうございます。じゃこれから木戸に取りにうかがわせますのでよろしいでしょうか?」
 ユウの面色がたちまち緊張で青くなる。電話を切って友紀は言った。
「聞こえたでしょ、すぐ出て。今日はそのまま帰っていいから。直帰ということにしておいてあげるから」
「・・はい・・ハァァァ・・」
 ときめく気持ちが素通しだった。友紀は言う。

「もしモモさんに本気なのなら体当たりでぶかってごらんなさい。彼女なら絶対通じる人だから」
 ユウはちょっとうなずくとサッと立って店を出て行く。
 後ろ姿を追って友紀は言った。
「Mなんですよね、ほんとに。妄想してるだけで実際のところは怖くてならず、あの子なりに必死に考えて、それで職場では天然のフリしてる。繊細でやさしい子だわ」
 マスターは言う。
「女王へのステップを一段登ったみたいだな」
 友紀はうなずく。謙遜などするつもりもない。友紀はうなずく。
 客が入る気配もなかった。時刻は五時を回っている。
 主は愛奴に静かに言った。
「yuu、女王様の横に立って尻を向けて脚を開く」
「あ・・はい、ご主人様」
「濡れを確かめてもらいなさい」
「はい・・あぁン・・」
 カウンターの席と席の隙間に立って、やや腿をゆるめるyuu。
 そのとき友紀は躊躇せず、白い腿裏に手を這わせ、そのままスカートの中へと指先を滑らせていく。

「ぁン!」
 yuuの淫ら花は閉じていて、友紀の指先がそっとなぞって濡れる肉花を揉むように愛撫する。
「ありがとうございます女王様、感じます・・あぁぁ・・んっ」
「いい子よyuu、可愛いわ。ご主人様と働けて嬉しいね?」
「はい」
 ほんの少しまさぐっただけでおびただしい濡れをおびき出し、指先に愛液がまつわりつく。
「ほうらyuu、こんなにしちゃって」
「ハァッハァァ・・はい濡れてます」
「舐めて綺麗になさい」
「はい女王様・・申し訳ございませんでした」
 友紀の手を取って目を閉じて指を舐め回すyuu。
「よろしい、いい子よ。あなたが好きよyuu」
「はいっ嬉しいです、素敵な女王様・・」
 そうした様子を見守って、細川は、サリナはどれほど嬉しいかと想像した。さすが友紀だと感じていた。

 ついさっき出たモモの部屋に舞い戻ったユウ。ドアが開いて、モモは黙ってユウの手を引いて部屋へと入れた。
「ユウちゃんて本気よね?」
「・・はい、お姉様」
 透き通ったモモの眸に魅入られる。吸い込まれるような気がしていた。
「今日は戻るの会社?」
「いいえ直帰にするからって早瀬さんが」
 モモはモモで友紀の思いやりを見抜いていた。
「素敵な先輩よね? そうして時間をくれたのよ」
「はい、そう思います」
「ちょっと怖いかもしれなくてよ?」
「ハァァ・・んぐぅ・・はいお姉様・・好きなんです心から」
 モモはそっと抱きくるんで眸を見つめ、ユウの手を取って勃起する股間へと導いた。
「あ・・あぁぁ、そんな・・」
「ユウが可愛いから大きくなっちゃった。どうすれば私が嬉しいかはわかるよね?」
「・・はい」

 ユウは、そのときソフトな部屋着のスカートに着替えていたモモのパンティラインに前から手を入れ、熱く勃つものをそっと手の中に握り込む。
「熱い・・すごく熱い・・」
「もう一度訊くわ、私のこと好き? 少しぐらい怖くてもついてこられる?」
「はい、お姉様、きっと・・」
 唇が重なって、ユウはモモをしっかり握り、モモはユウの下着に手を入れて、すでに濡らした奴隷の性器を愛撫する。
「ほうら、もうこんな・・燃えてる証よ」
「あぁぁ感じます、お姉様・・震えちゃう・・イキそう・・どうか可愛がってくださいね、怖いの、私怖いの・・ああイキそう・・」

 バロンを出た友紀は、いつになく早く自宅マンションへ戻っていた。とっとと着替えてクルマに乗ってペットショップを目指している。ホームセンターに併設されたペットショップ。子犬や子猫、爬虫類までを扱う店で、もちろん大型犬用の首輪とリードが置いてある。
 サリナのイメージなら紫がいい。鮮やかな紫の首輪は革が厚くてがっしりしている。サリナに逢いたい。早く首輪を届けてやって飼われる安堵を感じさせてやりたかった。
 ユウを連れてモモに会ったことで自分の立ち位置が決まった。あのユウでさえが一直線。yuuもそうだしサリナもそう。だったら私は女王に賭けようと決めたとき、DINKSが揺るがないスタイルとなっていた。

 その夜、八時。いま戻ったとメールを受け取り電話する。友紀の夫は今夜も少し遅くなる。
「ちょっと遅かったわね?」
「少しね。ダメな子たちに居残り特訓してて」
「ご飯は?」
「いま食べて戻ったところ」
「言いつけは守ってる?」
 その一言でサリナの口調が変化した。それでも半信半疑のサリナだった。そうした態度の揺れが立ち位置のグラつきを物語る。
「はい。いまも全裸ですし女王様を想って濡らしています」
「オナニーはダメよ」
「はい・・ああお逢いしたい・・」
「明後日。金曜の夜にそっちへ行って泊まるから、しばらく辛抱してなさい。じつは今日いいことがあったのよ。部下の子をある人に会わせたら相手に一目惚れしちゃってね。ついいま、そのお相手から電話をもらった」
「うまくいったんですね?」
「そうみたい・・信じられない思いだわ。話の途中で代わったけど・・部下の子もユウって言うんですけど、理想の女王様に出会えたって泣いちゃって私までがウルウルよ。今日はじめて会っていきなりだもん。なんだかなぁってカンジだわ。そう思うと私まで火がついてサリナのことばかり考えてる。明後日の夜よ、調教してあげますからね」

 しばらく声が聞こえなかった。サリナは泣いてしまって声にならない。
 女っていい。女の性って素晴らしいと友紀は思う。

DINKS~フリーランサー(十二話)


十二話


 食後の珈琲を飲み終えてそれでもまだ待ち合わせの時刻までには間があった。靖国通りを渡って歌舞伎町に踏み込んですぐのカフェ。ここからだと五分もかからない。
「でもDINKSなんて強いと思うなぁ」
 言葉の向きが変わって友紀は日常の自分に引き戻される。子供を持たないというだけで特に人と違う生き方を選んだつもりもなかった。

 DINKSは結婚から間がなくて子供のいない時期の夫婦を指さない。子供を持たずに夫婦生活を営むと決めた二人を言う。
 友紀は言った。
「そうかしら。私も旦那も親になることを選ばなかっただけだから」
 しかしユウは譲らない。
「だからですよ、だから強いんです。子供がないといってもシングルとは意味が違うと思うんです。シングルなら自分に対して責任を持てばいい。DINKSだと夫婦生活への責任まで重なってきちゃうでしょ。エッチなんてまさにそうで、シングルならハートがすべてで後ろ指は指されない」
「それはそうだけど」
「そうですよ。そんな中で家の外での自分を確立していかなければならなくなる。キャリアを追えば仕事上の責任も重くなり、赤ちゃんができちゃったから辞めますでは通用しないだろうし」

 ユウの天然はポーズだと確信できた。二十三歳にして考えていると友紀は思う。ユウが言った。
「私はこのままシングルかなぁ。ある歳になって焦るのか、それともあっさりシングルで行けるのかはわかりませんが。まあ仕事が決める部分もありますけどね。才能とか能力もそうだけど、そういうことより生き方へのセンスだと思うんですよ。いまどき適齢期でもないとは思いますけど、その頃になってふらふらしてたら結婚しちゃった方が楽だもん」
 友紀はそうした考え方が醒めて思え、なんとなく寂しそうなユウを見た。「ユウちゃんて彼は?」
「いますよ。いますけど別れようかなって思ってます。嫌いじゃないけどピンとこない。ひとつ上なんですけどね、まるでガキんちょ」
 その年頃だと精神的に女が上でもしかたがない。
「付き合ってどのぐらい?」
「七か月ですかね」
 その程度でそうなら別れた方がいいのかもしれない。腕時計を見て友紀は言う。
「十分前よ、行こうか」
「はい。でもなんか・・こんなことが言えるのは早瀬さんだけだな」
 友紀はちょっとうなずいて席を立ち、その瞬間、思考を仕事へ切り替えた。

 落ち着ける地下のカフェ。ちょっと値の張る店で若者は少なく、平日のこの時刻、明らかにビジネスとわかる組み合わせが多かった。店に入って五分前。モモが先に来ていて座っていたがテーブルに飲み物は出ていない。タッチの差でモモが早かったようである。
「いた・・あの子よ」
「わぁぁ嘘みたい・・綺麗・・」
 ユウは絶句。そしてそのとたん友紀の背後にまわって後について歩み寄る。モモが見つけてちょっと手を上げ、こくりと首を折って微笑んだ。
 ホワイトジーンズのミニスカート。ピンクのTシャツに生成りのジャケット。ほとんど金髪と言えるほどのロングヘヤーを梳き流し、しかし顔はすっぴんだった。背丈は六十七センチと女性としては大きな方だが男だと思うと小柄。豊胸術でふくらませた乳房はCカップ。あのとき取材で集めたデータは社を出るとき頭に入れてきている。

 ただ、およそ一年半前のあの頃のモモよりずっと大人びて、誰が見ても女性、しかも美人。
 歩み寄るとモモが言った。
「どうもぉ、あれ以来よね?」
「はい、ごぶさたしてます。勝手で申し訳ありません」
「ううん、いいのいいの、それは仕事」 と笑いながら、背後で小さくなっているユウを見る。
「紹介しますね。この子、これから一緒にやっていくウチの編集部の木戸優子です。ユウって呼んでやってくださいね」
 ユウがぼーっとして、ちょっと頭を下げた。
「はぁぁ・・綺麗ですね・・」
 放心したように言う。
「ふふふ、嬉しいわ。ユウちゃんだって可愛いわよ、さ、座って二人とも」

 友紀でさえが混乱する。モモは歌舞伎町のその種のバーに勤めていて、今日は店が休み。そこを狙ってアポを取った。住まいも歌舞伎町から西新宿へ少し歩いたところにあるマンション。
 二人飲み物をオーダーし、先にオーダーしたモモのアイスコーヒーがまず運ばれて、ほどなく二つアイスティが運ばれる。たったいま珈琲を飲んだばかり。そしてその伝票を友紀が取って手前に置いた。
 そうする間もユウははじめて見る人種にぽーっとして見とれている。
 アイスコーヒーのストローに口をつけてモモが言う。
「で、友紀さんて、いまは女性生活じゃない?」
「そうなんですよ。神尾本来の文芸出版部に移動です。今度はそこで手記もしくはエッセイとしてちゃんとした本にしようということになりまして。雑誌なら広く浅くでいいけれど、そっちは読者の質も違えば、読み物としてちゃんとしてないと」
「それで私に? それだとちょっと怖いかも」
 そのときユウが突然小声でつぶやいた。
「ゾワとした・・」
 モモが言う。
「は? ゾワとしたって?」
 ・・このタコ、何を言うかと思っているとモモが笑う。

「面白い子ね、ユウちゃんていくつなの?」
「二十三です」
「若いもん。そりゃそうよね、気色悪くてゾワとする・・ふっふっふ」
「すいません、失礼なことを」 と友紀がフォロー。モモはそうじゃないとますます笑う。
「ぜんぜん。ちっとも失礼なんかじゃない」
 そのとき横からユウが言った。
「そうじゃありません、気色悪いなんてとんでもないわ。憧れちゃう女性だなって・・震えるみたいにゾクッとしちゃって」
「ふふふ、ありがと。気に入ったわよ。そう言ってくれると嬉しいもん。私たちってほら好奇心の対象でしょ。女と認めてもらえると嬉しいものよ私はね。ウチらにもいろいろいるから。オネエ言葉でビジネスライクって子もいるし、私みたいな女の子もいるんです」
 友紀は気が気でなかった。シャラップ、タコ。黙ってろと言いたくなる。

 モモは友紀に向かった。
「そういうことなら私のルーツ的なことを書いたほうがいいよね。男性機能を残していながら女として生きていく。相手が男性だとそれは彼氏だし、女性だとレズになる」
 友紀が応じた。
「そうですね、性別でなく、あくまで人として人を愛する心というのか、ピュアな想いというのか」
「うん、おっけ、やってみる。サイズは?」
「それも制約なしってことで。雑誌じゃないから字数は自由でいいんですよ」
「わかったわ。でもそこが難しいのよね素人には。サジ加減もあるでしょうし、雑誌のときには質問に答えていればよかったわけで」
 友紀はちょっと横に首を振る。
「それは私の領域だから、なんなりと書いてください」
「添削してくれる?」
「そうじゃなくて、内容によっては雑誌よりむしろ自由度が高いものなんです。書籍ってそんなものよ。あくまで言葉なんですから」

 モモはちょっと考える素振りをすると、ユウを先に見て、それから友紀に視線をやった。
「じゃあこうしない? 茫洋としてはじめてコケたら私も徒労になっちゃうから、ちょっとお部屋に来ない、私のお部屋よ。ここじゃ話せないことだってあるからさ。歩いてすぐだし」
 歩いてすぐだし・・そのフレーズだけをユウに向かって言い、ユウは思わずうんうんとうなずいている。まったく・・と、友紀はちょっとじろりとにらむ。
 すまなそうに友紀が言った。
「ご迷惑なんじゃ? せっかくのお休みなのに」
「ううん、ぜんぜん、どうせ暇だし。私いまフリーなのよ。彼氏彼女どっちもいない。別れちゃったの。ちょっといいじゃない、おいでよ。深いところを話しておきたい」
「ぜひお願いします」 と、またしてもユウが言う。
 モモと友紀が顔を見合わせて苦笑した。そしてそんな様子にユウが言う。

「だって私・・一目惚れなんだもん・・」
 友紀は凍った。しかしモモは、綺麗に手入れされた眉を上げて口許を手で覆った。笑っている。その手もまた白く、指が細く、赤いマニキュアが似合っている。
 カフェを出て歌舞伎町を裏へ突っ切ると、そこにある白亜の中層マンション。エレベーターで十一階。1124がモモの住まい。間取りは2LDKなのだが、LDKが断然広くて、一部屋が寝室、もう一部屋が衣装部屋。リビングのローテーブルにノートパソコンが閉じて置かれる。テレビも大画面だったし、白いローテーブルに組み合わされるロータイプのソファは青い皮のしなやかなもの。白を基調にフロアはすべてチャコールグレーのカーペット。高級マンションそのものだった。

 それにしても室内に乱れがない。女より女らしい細やかな心使いがうかがえた。
 モモは二人をソファに座らせると、自分はテーブルの下に敷いた白いシャギーマットにじかに座った。その座り方がまた正座を横に崩した女性のポーズ・・ユウもそうだが、友紀もまた、つくづく混乱してしまう。
 モモが言った。
「ユウちゃん、喉が渇いたら冷蔵庫にジュースあるよ。一目惚れなんて言ってくれたから自由に飲んでいいからね」
「はい、ありがとうございます」
「ううん、ユウちゃんてほんと可愛い」
「はい・・ハァァァ・・」
 友紀は呆れる。ぽーっとして吐息・・我を忘れているようだ。
 そんなユウにやさしく笑うと、モモはやおら切り出した。

「ちっちゃなときからずっと女の子だと思って育ってきたの。女の子のお洋服が好きで好きで。だけど思春期になってカラダが心を裏切りだした。女性を見るとときめくし・・いえ、そこは同じなんだけど、そのときペニスが大きくなってこすれば射精するでしょう。なんだかなぁってカンジよね。だってその一方でカッコいい男の子がいるとドキドキしちゃって、キスされたくてたまらない。どういうこっちゃってカンジだったよ。あたしって何者って思っちゃって・・勃起するペニスと男の陰毛・・にもかかわらず女の子の下着を着けるのが大好きで」
「・・んぐぅ」
 ユウだった。生唾を飲んで喉が間抜けな音をだす。モモは声を上げて笑った。友紀は穴があったら入りたい気分。

「若いユウちゃんのいる前で恥ずかしいけど、はじめて男を知ったのは高校生の頃だった。学校へはもちろん男子で行って、戻ると可愛いパンティに穿き替えて女の子になる。親はもう諦めちゃってて何も言わない。最初のときは夏だったわ。男のパーツがついていてはビキニなんて着られないし、だいたいその頃胸がなかった。普通友だちと海へ行くけど、私なんて気色悪くてそばにいたくない。でそのとき、やさしい女の子が友だちにいてね、その子の友だちに、これがまた素敵な男の子がいて、三人で海へ行ったの。楽しく遊んで、ペンションのお風呂へいくとき、貸し切りにできる家族風呂になっていて、友だちがそっと背中を押してくれたのよ。抱かれておいでって。その彼じつはBLがシュミの子で男が好きな人だった。背が高くてスリムマッチョと言うのか、とにかくカッコいいんだ」
 モモの眸がユウを見つめ、ユウは声を失って見とれたまま視線がそらせない。

「お風呂の中で抱いてくれて、キスされて。そしたら私ってヘンじゃないって確信できて・・岩に手をついてお尻を向けて、彼のモノをはじめてアナルに迎えたの。バージンを捧げてしまった。女の子みたいに血が出たよ。彼ったら私の大きくなるペニスをしごいてくれて、そうしながらピストンされて、お尻とペニスの両方で私はイッた。ああンああンて甘えてね・・可愛いよって言ってくれて嬉しくて泣いちゃった。女性を知ったのは少し後で、それもその友だちだったのよ。彼女は私が好きで見ていてくれた。同性愛に苦しむ私に彼を紹介してくれて、なのに私を男として迎えてくれたんだ。人って素敵、なんてやさしいものだろうって思ったときに、性別なんてどうでもいい、心を向けてくれるなら私は捧げて悔いはない。どんな姿にでもしてちょうだい。私は自分を着せ替え人形だと思うようにした。・・ふふふ、ユウちゃんの眸」
 友紀がふと眸をやると、ユウは涙ぐんでいる。
 モモが言った。
「やさしい子・・ありがとうユウちゃん」
「いいえ・・かっかっかっ感動しちゃって・・」

 モモは笑い、しかしすぐに寂しげに微笑みに変わっていく。
「高校を出て離ればなれよ。彼も彼女も進学して、私だけが社会に出た。ウチは和歌山の片田舎で私の家だけ貧しかった。働いて少しして彼を追って東京に来てみたけれど、そのときはもう女性の彼女ができていた。友だちの彼女にも彼がいて私の入り込む隙間がない。寂しくて崩れそうになったとき、顔見知りのニューハーフの子に救われたんだ。お店に来ないかって言ってくれて、そこには素敵な男性、素敵な女性のお客さんが集まっててね・・だけど一人に決めるときっとまた離れていく。そう思った私は本気で見てくれるなら抱かれたし、つまりは風俗だから相手だってそのつもり。気が楽でよかったの。乳房もつくってホルモン入れて、カラダもちょっとずつ女らしくなっていく」
 ユウが問うた。
「性転換はどうしてしないんですか?」
 その質問はかつて友紀もした問いであり。
「好きになった人が女性のとき、やっぱりね・・それに作り物じゃない性のまま女性を生きたいって思ったし」

 ユウが言った。
「女性からプロポーズされたときパパにだってなれますしね」
 モモは眉を上げて首を傾げた。
「それもないとは言えないね。私は女よ。子供がいれば母性が動く。母親が二人いるカンジかもだし、相手がもし強くて男役になってくれれば私が妻になれると思うしさ」
 モモはユウを見つめて、それから友紀へと眸をやった。
「とまあ、そのへんで深く書いていけばいんじゃないかと思うけど、どうかしら?」
 友紀はそれでいいとうなずきながら、ふと言った。
「SMだとか、そっちはどうなんですか?」
 モモはちょっと苦笑して言う。
「あったわよ、もちろん。だけどそれは、いまのところは好奇心ね。本気で口説いてくれる人がいない。ウチはハプニングバーじゃないしSMバーでもないんですから。マジそっちの人は少ないかな。それに私、SとMが半々ぐらいに同居していて、相手が男ならMになれるし、だけど相手が女ならむしろSっぽくなってしまう。そういう意味でも何だかなぁってカンジだわ。きっと貪欲なのよねセックスに。捧げたいし捧げてほしい。一度しかない命だもん、ハンパに言い聞かせて生きたくないの」

 ユウはドキドキしているだろうと友紀は感じた。ユウはMだし、モモのことを本気で気に入ったようにも思える。二十六と二十三なら釣り合うし、ブレーキを踏む必要もないはずで。
 案の定、ユウは言った。
「ときどき来ていいですか? 仕事じゃなく、いろいろお話ししたいこともありますし、結局それが仕事のためにもなりますし」
 モモはとっさに友紀を見た。その視線の意味はもちろんわかるが、個人的なことに口を挟むのもユウが可哀想だと感じていた。
 ユウが言った。
「私って突然早瀬さんと組むことになって、ほんとは心配してるんです。足を引っ張るんじゃないかって。いろいろ夢を見てるだけでじつは臆病で何もできない。モモさんにお会いできて、なんだかいま心が熱くてたまならないの」
「ふふふ、あっそ? 私ならかまわないわよ。だけどユウちゃん」
「はい?」
「期待しすぎはやめてちょうだいね。私だって小娘なんですから試行錯誤なんだもん。お話ぐらいは聞いてあげられますけど、そんな程度でいいのかしら?」

「小娘は私・・モモさんは素敵です」

 友紀はもうダメだと呆れてユウを見つめていた。これから様々な人に会うことになる。その度に感動していては身が持たない・・と思ったときに、サリナだってマスターの紹介で出会っただけの人だったと思い至る。
 モモは、今度こそじっとユウを見つめて微笑んでいる。
「嬉しいな。まさか今日ユウちゃんみたいな子に会えるなんて思わなかった。友紀さん、ちょっといい?」
「え? あ、それは・・はい」
 友紀に念を押しておき、モモはユウに立てと言った。
 双方立って向き合うとモモがずっと背が高く、まさに女王と奴隷といったムードになる。友紀はいきなり胸が苦しくなった。サリナの裸身を思い描いて、そう言えば首輪を探さないとと妙なことを考えてしまうのだ。

 二人立って向き合って、ユウはまっすぐ見上げて、モモはまっすぐ見下ろして、モモはそっとユウを抱いた。
「ありがとうユウちゃん、気持ちはもらったわ。いつでもいいから遊びにおいでね」
「はい嬉しいです・・ハァァ震えちゃう」
「ふふふ、可愛いわぁ」
 モモが顔を寄せるとユウは眸を閉じて唇を委ねていく。まさかキスシーンを見せられるとは思わなかった。
 口づけが離れてモモは言った。
「ユウちゃんMでしょ? わかるんだから」
「・・んぐぅ」
 またしても生唾に喉が鳴り、モモは声を上げて笑いだす。
 それから友紀に向かって言うのだった。
「最高の部下よね、心が澄んでる、ほんと純真。じゃあこうしましょう、ユウちゃんとどんな話をするのか、そこまでを含めて書いてみるから」
 友紀はうなずくと、ユウに向かって行くわよと目配せした。

 マンションを出て歩きだし・・。
「冷や汗だったわ・・参った・・モモさんびっくりしてたじゃない」
 しかしもはやユウは夢見心地のありさまで。
「だって・・震えたぁ・・モモさんが好きになる。わかるんです私、こういうふうに思えたとき私は人を好きになる。震えたし・・濡れちゃった・・」
「あっそ・・体当たりね、まるで」
 と言って可笑しくなる。私は常に体当たりでやってきた。そしていまサリナが私をめがけて体当たりで向かってきている。
「いいわ、私のこともバラしちゃう。ちょっと一か所行きましょう。少し歩くけどいい?」
「はい、ぜんぜん。どこへですか?」
「バロンてお店、喫茶店よ。そこのマスターはS様で、いまきっと奴隷さんがウエイトレスしてるはず」
「はぁぁ・・そうですか・・ああダメ、溶けそう・・」
「ばーか。ふふふ、じつは私もSでレズで女性の奴隷がいるんです」
「ええー、嘘だぁ・・やっぱり友紀さん凄いよ・・クラクラしてきた・・イキそう」
 笑える。思い込みの激しい娘。ミニスカートの尻をぽんと叩いて歩かせる。

 サリナへの気持ちが今度こそ固まった。私は女王、君臨すると・・。

2017年01月09日

DINKS~フリーランサー(十一話)


十一話


 肉欲の焔(ほむら)がくすぶったまま二人抱き合ってシャワーを浴びて、少し遅くなった夕食へ街に出ようとエレベーターで降りていく。
 友紀はもちろん仕事続きのスカートスーツ、サリナは仕事帰りのジーンズスタイル。ローライズとまでは言えなかったがベルトラインがヒップにかかり、タイトフットのジーンズ地に形良く締まったヒップが裏から張り付いているようだ。
 一階に降りてフロント前を横切ろうとすると、ビジネスホテルでも一応のロビーがあってソフトドリンクの自販機が置いてある。ついさっきエレベーターに乗り合わせた二人の中年サラリーマンがズボンはそのままにネクタイをはずしたシャツ姿で自販機に向かっている。男たちは背後の通路から歩み寄る二人の女に視線をなげて、さっきの女だぜ・・といったような目配せをし合っている。女と女か・・ふーんといった面色だ。

 友紀は素知らぬ顔で歩きながら、男たちを行き過ぎたところでサリナのヒップを撫でる仕草をする。寄り添って歩くサリナはそんなこととは気づいていない。
 サリナはさりげないタッチに、はにかむように微笑んでエントランスを出たところで腕を絡めて嬉しそう。
 レズカップルであることを誇っていたい。女王と奴隷であることも見せつけてやりたくなる。仕事を計算した関係ではいられない。
 サリナはサリナで、密室を出てもなお関係を隠そうとしない女王に揺るがない信頼を感じていた。ご都合の奴隷ではないと思えるからだ。
「・・うふふ」
「何よ? 可笑しいかしら?」
「・・嬉しくて」
 友紀はサリナの頭を抱き寄せて男女そのものに抱き合うように歩いていた。異世界へ飛ぶと決めた友紀らしい表現だった。
 バロンのyuu、会社にいるもう一人のユウ。私は二人に感化されない。私の性とはどんなものかを見極めてみたい。そう思うと奮い立つ気分になれる。

 時刻は九時。それでも駅へ向かうと人は増える。幹線道路沿いのファミレスがいいだろう。若者が多く、溌剌とした活気がある。そう思って覗いてみるとまさに若い。夕食時を少し外れて店内にちらほら空席が目立ちだしていた。ドアから遠い禁煙席。友紀は軽く食べ、踊りでエネルギーを使ったサリナは肉料理をがっつりと。食べながら話していた。
「ねえサリナ」
「はぁい?」
「自虐的なところがあるって言うけど自分でそういうことはした?」
 サリナはこくりとうなずいて声を絞った。
「それはいろいろ・・乳首を虐めてみたり・・」
「やっぱりね。いつ頃から?」
「高校の頃からそうでしたね。親の目を盗んでネットを見たりしているうちにLEZDOMに惹かれてしまって」
「その頃から女王様派なんだ?」
「もちろん男に征服される妄想もあったけど・・だけど、もともとレズっぽいところがあって、そういうものを見てるうちにますます女王様に憧れちゃって・・相手が男だとガードを捨てきれないというのか」

 眸色が若いと友紀は感じた。三十六歳。二つも上のサリナなのに、いま明らかに少女のような眸をしている。特異な性癖を意識しだした頃に戻ろうとしているように・・甘えてくれていると友紀は思う。
 バロンのyuuも、もう一人のユウも、きっとそうやって自分の性を見つめてきているのだろう。
「私ねサリナ・・」
 サリナは眸をキラキラさせて小首を傾げて聞き入った。好きな人を前にした可愛い女の姿だった。
 友紀は言う。
「私にだってMっぽいところはあって、yuuちゃん見てると憧れちゃう部分はある。だけどきっと、ほとんどSよ、私の成分。職場でもそうだもん。迷わず突っ走るタイプだし、黙って座ってろと言われるとキレちゃう女だと思うのね」
「・・はい、ふふふ」
 でしょうね・・といったサリナの面色。

 友紀は真顔で言う。
「本気になったら怖いかも。心を奪い取ってカラダだけの牝にするかもしれないよ」
 ユウをパクってる・・そう思いつつも苦笑する気にもなれない。
「仕事なんて二の次なのよ。そのぐらい突っ込まないと結局何もわからない気がする。せっかちだし、ほんと面倒な性格だわ」
 サリナは含み笑って、憧れるような眸色で甘える。
 マゾとして生きる覚悟を物語るサリナの想いを、言葉ではなくテーブルの下でそっと添えられた手に感じた。

 翌日は週半ばの水曜日。朝ホテルでサリナと週末の逢瀬を約束して神田のオフィスに行ってみると、木戸優子は直行で原稿を引き上げる仕事があってオフィスにはいなかった。友紀の夫、直道は週末都内にいるのだったが、大手企業のワンフロアそっくりのデータシステムの入れ替えで徹夜の作業になるだろうと言っていた。
 移動二日目。友紀はデスクを離れたくてならなかった。文芸畑の編集部に性的な本のためにヘッドハントされた女。月刊女性生活を女性誌トップに躍進させた女。そしてそれよりDINKSを公言するやり手のキャリアウーマン。周りにいる、どちらかと言えば地味なタイプの同僚たちにしてみれば興味があってならないようだ。なんとなく針のムシロ。
 ユウが戻ったのは十一時になる頃。今日のユウはブルーグレーのミニスカートスーツ。地味なセクションにあって明らかに若く、仕事で友紀のサポートをすると皆は知っていたから、交互に見比べられているような気がしてしまう。

 友紀はデスクを離れてユウの肩をそっと叩いた。
「これからの予定は?」
「いえ特に。と言うかぁ、これから早瀬さんの部下ですしぃ」
 隣のデスクの中年女子が、そっぽを向いて笑っている。天然を部下にして、さぞご苦労なことでして・・と言わんばかりだ。
「じゃあ早めにお昼して出ましょうか。手記を書いてもいいって言ってくれてる人がいるから打ち合わせ」
「はーはー。へへへ、面白そぉかも」
「・・わかったわかった。支度しといてね、ジャスト十分で出るから」
 ユウの肩をふたたび叩くと、友紀はルームの奥の三浦のデスクへ歩み寄る。しかしあと一歩というところで三浦が顔を上げてうなずいた。
「聞こえてるよ、了解した。逐一ことわらなくても、そっちに集中してもらってかまわない。それにしても・・」
 と、三浦はユウの席へと横目をなげた。
「採用基準をどうにかしないと・・ったくタコが大きな声で・・」
「ふふふ、言えてる。じゃあ出てきます。木戸さんとのすり合わせもありますし」

 昼少し前に社を出た友紀は、ます中央線で新宿に向かった。待ち合わせは新宿で二時の約束。バロンのある向きとは逆の東口から地下を抜けて靖国通りの側へ出る。待ち合わせは歌舞伎町のカフェだった。その前にランチ。昼など何でもよかったがユウは眸の色が違う。社内にあって早瀬の名は思うよりずっと注目されていたようで、若いユウにとって憧れの存在だったのか、社を出てずっと足取りが弾むようだ。
「なんだか楽しそうね?」
「ドキドキしてます。これからどんな人に会えるんだろうって。ずっと妄想の世界だったし。それに早瀬さんて見習いたい女性だし」
「あたしのどこをよ?」
「カッコいい」
「だから、どこが?」
 ユウは生意気に眉を上げて微笑むだけ。友紀もつられて眉を上げて、ため息を漏らすだけ。ランチは道すがらの成り行きでパスタ。女同士でいると重い店は敬遠するもの。下手に油料理の店を選ぶと着ている服や髪の毛に匂いがついてしまうからである。

 揃ってスープパスタとパンのランチ。昼時で混み合う店の小さなテーブルで差し向かいで食べながら、友紀はそれとなくユウを観察していた。
 小柄で華奢なスタイル。白く小さな手、細い指。仕事をちゃんとわきまえてクリヤーマニキュア。背筋を正し、パンを小さくちぎって小口で食べ、テーブルマナーもいいと思う。喋らせたときとのギャップが不思議なほどユウはしっかりした女性だった。
 カッコいいと言われて問い返したときのゾクとする大人の微笑み。なのにどこかが抜けている。不思議な子だと友紀は思う。

「Mは妄想なんだね?」
「いまのところはそうですね。自分で虐めてみたりしてるだけ。二十三なんですよ、下手コクと怖いんだし」
「・・下手コクと・・ふふふ、なるほど」
「言葉ですよねヘンなのは。ちゃんと話せるのに意識して天然しちゃう。怖くてダメです。踏み込んだら行くところまで行っちゃいそうで」
「そういうことってタイミングよ。タイミングと運命のいたずらかしら」
「ですよね、そう思います。女って適当に卑怯だから・・」
「どういうところが?」
「やさしい男を見て、この人となら穏やかな家庭が築けそうだと計算し、子供ができて手が離れると、やさしいだけじゃ物足りない・・最初からそうなるってわかっていたはず。横並びの女性像を突き抜けていくのが怖いだけ。私もきっとそうなるって思ったときに、それってはたして私なんだろうかと考えてしまうんです」
「・・わかる。私の歳だと周囲はそうよ。友だちで不倫する人多いから。例外なく言うわよね『やさしい旦那に物足りない』って」

 食べ終わりを見計らって食後の珈琲が運ばれて来る。
 ユウは、ちょっと窓の外へと眸をなげて、切り替えるようにして言った。
「それで今日会う人ってどんな?」
「うん、以前に雑誌で取材した人なんだけど、モモちゃんて言って綺麗な子よ。ある意味バイなんですけど、その子ってニューハーフなの」
「わぉ・・ニューハーフ?」
 ユウの眸がランランと輝いた。
「その世界の人もいろいろでしょうけど、あの子はカンペキ女の子。性転換はしないって決めて、女の自分と本気で向き合ってる子なんだよ。電話でぜひってお願いしたら書いてみるって言ってくれた」
「いくつぐらいなんですか?」
「あの頃で二十五だから、いまは六かな。七になったかも。それがね、彼女は自分で着せ替え人形だって言ってるの」
「着せ替え人形・・ふーん」
「愛した人の好みでどんなスタイルにもなれるって」
「相手が男性でも女性でも?」
「性別なんて意識にないね。彼って言うのか彼女って言えばいいのか、ほんと不思議な人なんだ」

 火の粉のように次々に特異な性が降りかかってくる。あの頃仕事として割り切れたものが、いまはたしてどうだろう。全裸のサリナ・・全裸の夫が脳裏をよぎった。