2016年12月06日

女の半分(後篇)


後 編


「考えたことないわね、私は男を生きられないし」
「そうでしょ? それはそうよね、だってそれは凉子さんが女だからよ。男の人たちだってそれはそうだわ。男と決めて生きるなんて考えてもいないでしょうし。そこがちょっと羨ましいけど」
「羨ましい?」
 サリーはちょっと落ち込むような素振りを見せた。
「だって・・私は違った。女の子と決めたとき裏切る体に気づいたわ。だけどそれを体が裏切るって考えてしまうとマイナス感情ばかりになる。女の心と男の体の両方を楽しもうと思ったの。一度しかない命だもん。愛した人のためだけに私はいると考えたのよ」
「それは・・そうなれたら幸せだわね。私は女。男になれない女ですもの、だったら女の愛に生きていきたい。そう思うし・・うーん、ちょっと難しいな」
 サリーは微笑む。
「やっぱり凉子さんはいい女ね。まっすぐ考えてるもの。おととい、あのどうしようもない人たちの・・あらら失礼、あはははっ! あの人たちの中で凉子さんだけはちょっと違うと気になってた。そして今日バッタリでしょ。何か縁でもあるのかなって思ってしまった」
「縁か・・」
「そうよ、縁よ。縁はすべてのはじまりなんだし、その先は、しょうがないこ
ともあるでしょうけど、知り合えた縁だけは大切にしたいから。来てくれて嬉しかったわ。ありがとね」

 素直。そのまま。心のまま。サリーは確かに女の半分を持っていると感じます。女から女のいやらしさを差し引いた残りの半分を・・。
 女に憧れ、女になりたくてたまらずに、だから女のいいところだけをコピーしている。彼女の澄んだ瞳の中には私よりもピュアな女が棲んでいると思うのです。

「ねえ、たとえばですけど」
「うん?」
「サリーちゃんはやっぱり男の子がいいんでしょう? お相手」
「それはどうかなぁ・・いままでそういうことがなかったから必然的に彼だったけど。うふふ、興味津々て感じね凉子さん」
「いえ・・そういうわけじゃないけど」
「あはははっ! いいのいいの、私なんてどうせ興味本位な存在ですもの、好奇心だけ。でもだから簡単なの」
「簡単て?」
「選ぶのが。いっぺんに見抜けちゃう」
「ああ・・そういうこと・・」
「そよ。でもね、最初はそうでも、私さえ必死に心を向けていけば、この人なら本気で振り向いてくれるかもって思える人だっているんです。たとえば凉子さんがそうだもん」
「私が?」
「うん、きっとそう。相手の想いに響くというのか共振する女心を持った人。だから私も女心を向けていける。きっとそうだわ・・」

 不思議です。危うい話になりかけているというのに警戒心が湧いてこない。それどころか、むしろ裸の私を素直に向けていけるんです。女同士なんだから男に対する駆け引きはいらないわ。無意味だし、そんなことをしてしまえば私だけひどく汚れた女になってしまう気がします。

 サリーの眸は綺麗です。
「・・私はいいのよ」
「えっ? 何が?」
「そうなっても。可愛がってくれると思うし・・うふふ」

 ドキリとしました。そのときサリーは、女の子が性の予感を察した相手の前にいるような・・ちょっと弱く、でもトキメクような素振り。それはたとえばスカートの乱れを気にしてみたり・・そういう素振りが見えたから。

 私の中に、所詮は男よ、シタいんでしょ? と、そんな気持ちがないわけで
はなかったわ。でもね、この子の切なさ、愛だけに生きると決めた女の子の透き通ったものに、私の汚れが拭き取られていくのです。
「さて、私はそろそろ」
「帰る? うん、ありがとね楽しかった。昼間はいるし日曜がお休みですからいつでもいいわ。あ、待って待って」
 そしてサリーは、メアドと携帯番号をメモってくれた。
「うん、きっと連絡するね」
「うんっ! 素敵よ凉子! じゃあね!」
 ドアまで送ってくれて、はじめて凉子と呼び捨てられて・・。

 ドアを閉めてマンションの静寂に包まれた私は、ちょっとため息。カルチャーショックの正体が少しだけ見えた気がした。
 静かな廊下を歩き出し、エレベーターで降りて外に出て・・そうね百メートルぐらいだったかしら、歩いたときに、サリーから逃げようとしている私の存在に気づいたの。
 あの子は通称サリー。砂川悠人(ゆうと)、二十四歳。女の子です。
 そうね、あの子は女の子・・ええい、どっちだ!
 なんてまた混乱し、女の子だと信じてあげようと吹っ切れたとき・・。

 私は電話を取っていた。
「あ、サリー」
「うん、どしたん?」
「もう一度いい? お部屋行って?」
「うん! いいよー、おいでおいで!」
 それで小走りに引き返していたんです。今日あの子はお休みですから、もっといろいろ話したかったし、彼女のことをもっと知ってみたかった。そのことで女としての私の生き方が変わってくると思えたし。

 そして戻ったとき、彼女はもう着替えていて、部屋着のソフトワンピになっていた。Vネック。白地に横のブルーストライプ。生地が薄くてブルーのパンティが透けてます。ノーブラだったわ。ふわりと膨らむやさしい乳房に、ツンと可愛い乳首が二つ尖ってた。
「もう着替えちゃったから。うふふ、ごめんね」
 タイトというほどではなかったけれど、それなりに体に張りつく前のところがもっこりしてて・・ああやっぱり男の子って思ってしまった。彼女もそれを気にするらしく、何となく手をやって隠したがっているようで。恥ずかしがっているんです。

「可愛いねサリーって・・そういう仕草がまるで女の子なんだもん」
 あれ私? いつの間にか呼び捨ててる・・と、そのとき思った。

「そう? それ嬉しいな、来てくれてありがとう、もうしばらく寂しくないし」
 しんねりとしたセクシースマイル・・背筋がザワと騒ぎ出す。
「こちらこそよ、友だちになろうね」
 そしてお部屋に上がり込み、今度は珈琲を淹れてくれる彼女を観ていて、体のラインが女らしくてしなやかで。
「ねえサリー、訊いていい?」
「うん? なあに?」
「ホルモン剤とか・・?」
「ああ・・うん入れてるよ、おなかの脂肪のところにね、女性ホルモンの結晶を埋めておくの。体の線でしょ?」
「そう。やさしいし、すごく綺麗よ。お尻の丸みも柔らかいし」
「わぁぁ、ありがとう。嬉しいなぁ・・うふふ、私って女の子だもん」

 振り向いて笑うサリーに、私はたらないものを感じていました。帰ったと思
った私が戻り、彼女にすれば他にやることもあったでしょうに、私に対して一生懸命・・そんな彼女に心が動いてしまうのです。

 そして珈琲を二つ運び、今度は私も下に座って脚を横に崩します。このとき私もミニでした。二十六歳の女の腿は・・それはもちろん女らしいセクシーレッグだったと思うのです。
 白いローテーブルの角を挟んで、私がソファを背もたれ代わりに座ってて、あの子は脚を横に崩して、ノーブラの胸が張り詰めて、乳首のツンが可愛かったわ。Vネックがすごく深くて、ちょっと屈めば白い房が見えてしまう。
 エロチック・・。
 その彼女が、珈琲を飲みながら恥ずかしそうにチラチラと視線を私のスカートに。腿の根を見ています。
「凉子って脚綺麗ね。いいなぁ」
「サリーだって綺麗じゃない、ほんと美人よ」
「うふっ・・そう? 何か恥ずかしい・・乳首透けてるし、下着だって透けてるし・・ンふふ・・」

 ンふふって、甘く鼻にかかった声で笑う。

 あの子の目を見て、ふいに言った私です。
「私を見てて、どうなの?」
「えっえっ? どうなのって?」
「ペニクリって言うんでしょ。私が相手でも大きくなるもの?」
「ンふっ・・嫌ぁぁん、恥ずかしいよぉ」
「ねえ、どっち? 勃起する?」
「ンふ・・それは・・ハァハァ・・うん、するぅ・・ンふふ」
 体を少し斜に構え、両手で乳房をVの字に覆うような姿が女です。性を予感した女の姿そのものでした。
 それで私は、私のミニスカの腿のところをぽんぽんとしてやって・・。
「え?」
「お話しましょ。私じゃ嫌?」
「ううん・・そうじゃない・・嬉しいの・・嘘みたい」

 サリーは、私の目をまっすぐ見ながらすり寄って、腿に頬をそっと置いて横に寝て、それから子供みたいに身を丸めてしまうんです。顔に流れる髪の毛を掻き上げてやり、そのまま頭をそっと撫でる。そしたらね、サリーの肩がふるふるって震えるの。
「どうしたの?」
「だって・・ンっふ・・」
 可愛いわ。それで私は微笑んで、からかい半分にあの子の顔を覗き込むと、涙を溜めているんです。キュンとしました。ストレートに喜びをぶつけてくれ
ると感じたわ。

「嬉しいから泣くのね?」
「はい。寂しくて私・・ずっと独りで・・」
「うん・・私もそう、強がってはいるけれど、やっぱりね・・」
 そして私は、薄い部屋着のぴったり張りつく脇の下から、ウエスト、お尻の横・・そっとそっと撫でてあげた。
 彼女の苦悩がわかる気がした。彼女の孤独は私などの比ではなくて、もっと深くて哀しいもの。そう思ったときに、私の中からはやさしさしか湧いてきませんでした。

 サリーがもっと身を丸めて震えます。
「ぁぁん感じちゃうから・・あぁぁ凉子・・震えちゃうぅ」
「可愛い・・可愛いよサリー」
 身を丸めたことで薄い生地が張りついて、マチの浅いブルーのパンティラインがそっくり透ける。お尻をぽんと叩いてやったわ。
「ぁん・・やさしい人・・嬉しいなぁ」
「そう?」
「はぁい・・ンふふ、感じちゃう・・ねえ、撫でられたら感じちゃうから・・あぁん」
 お尻をそろそろ撫でてやっていたのです。それでたまらなくなったようですね。彼女ったら向きを変えて、私のスカートのデルタに鼻先を突っ込んで、私のお尻を抱いてくるの。そのとき薄い部屋着が乱れてしまい・・ブルーのパンティの前が硬くなって女物の下着におさまりきらずに頭が見えたわ。

「もうエッチ・・飛び出してるよ」
「嫌ぁん嫌ぁん言わないでぇ。ねえ抱いて、抱いてお姉様ぁ・・ああ震えちゃう・・抱いてお姉様ぁ・・ね、ね、抱いて・・」

 なんて可愛い・・たまらなく可愛い人です。
 私はそっと手をやって、硬くなった彼女をそっくりパンティから解放してやりました。彼女のソコに陰毛はありません。熱く勃ってすべすべした・・ペニスのようなクリトリスがあっただけ。茎に沿ってそっと撫でてあげたのです。
 切ない声が漏れだします。
 抱いて肩を支える片手で乳房をふわふわ揉んであげ、もう片手で勃起した亀頭の裏側を、おなかに押しつけるように、指先で揉み撫でしてあげたわよ。
 にじみ出した愛液で亀頭はすぐにヌメリだし、おなかの上で滑ったわ。

「はぁぁ・・気持ちいい・・ありがとうお姉様・・ありがとうございますお姉様」
「・・」
「気持ちを向けてくださって嬉しいの。ありがとうございます」
 弱く甘える三角おメメが・・サリーは泣いていましたね。

 ハッとしたわ・・男に抱かれるとき、女はそんなことを絶対言わない。欲し
そうだからシテあげてる・・大切にしなさいねって、それぐらいの傲慢さは持
ってるもので・・。
 愛していただいてる・・気持ちを向けてくださってる・・サリーはそんなふ
うに思ってる。
 この部屋に戻ってよかった、あのまま帰らず戻ってよかったと思います。

「私の方こそ洗われた気がするわ、ありがとうサリー」

「あぁん、抱いてぇ・・大好きぃ・・あたし一生懸命しますからぁ付き合って欲しいの・・ね、ね、あたし頑張りますからぁ、彼女にしてぇ・・ねえ抱いてぇ・・独りは怖いよぉ・・」
 泣いてしまった。
 まっすぐな女の子です。私だって涙が出ました。性別ではなく人として、それも身を賭して人を愛する。当然のことの価値を思い知らされた私です。

「お風呂させて」
「・・え?」
「洗ってないから・・一緒に入ろ、好きよサリー」
「はぃ・・はい! 嬉しいぃ!」

 サリーが持ってる女の半分を、私は女のすべてを賭けて愛していけると考えた・・。

2016年12月05日

女の半分(前篇)


前 編


 混乱していました。その日は忙しかった一週間の疲れとほろ酔い気分が合わさって、倒れ込んで寝てしまった。明日から三連休ということで気がゆるんだせいもあってか、眠りに落ち込み、横になってからの記憶もなかった私です。
 次の朝、いつもよりずっと遅く、九時になって目が覚めた。
 さあそれからです、夕べのことを考え出して、また新しい角度の違う混乱に見舞われて、私はふとお部屋の中を見渡した。カルチャーショックという言葉がありますが、私にとって昨夜のことはカルチャーショックというほかなかった。
 いかんいかん、こんなことではいけないわと起き出して、窓でも開けて風を入れ、気分をリフレッシュして連休一日目がはじまったのです。

 ベッドを一度ひっぱがし、シーツを替えるところからベッドメイク。それやこれやを洗濯機に放り込み、さてそれから・・お掃除からはじめようと考えましたね。そう意識してドレッサーを見てみると、なんとなく鏡がすっきり晴れてない。お化粧道具を置いてあるプラスチックのトレイをどけて鏡を拭いた。
「もうっ何よコレ・・」
 アイシャドウの欠けた粉やら髪の毛やら、椅子をどかして下を覗くと、なくしたと思った紅筆までが転がってて、コインが二つ、五円玉と百円玉とで百五円もうけたわ。いつの間にやら綿ゴミと髪の毛がカーペットにまつわりついてしまってる。
 掃除機だわね。これはエライことになると思った。こういうときって、エイ
やぁって一気に大掃除になるもので・・。

 キッチンもそうでした。ステンのシンクが光ってなくて磨きだし、フライパンにこびりついた野菜の化石を見つけたりする。冷蔵庫なんて覗いた瞬間、見なかったことにしようと扉を閉じてしまったわ。
 バストイレ。うわっ、いつの間にこうなっちゃったの。そんな感じで、あっちでバタバタ、こっちでドタドタ・・右往左往しています。
 クローゼットの中なんて・・ま、いいや、また今度と苦笑して、でもせめて整理ダンスの中ぐらいはどうにかしよう。一段ずつ棚を抜いて、パンティからたたみ直してきっちりしまう。ブラもそうだし、パンストなんて洗ったのを縛って丸めて突っ込んであるだけで。

 はぁぁ終わった・・というか、終わったことにしようとして珈琲でも淹れるでしょ。そのまま座り込んでグッタリなのです。せっかくの秋の連休ですもの
ね、お掃除はそのうちまた。疲れ果ててしまっていた。
 結局その日は、テレビでやってた映画を観ただけ・・寝ちゃったわ。

 なんか損した気分の連休二日目、私は一人で渋谷に出ました。ついおととい仕事仲間と飲んだ街ですが、お天気のいい日中は世界が違う。駅を出た私は、フンフンみたいに鼻歌まじりに歩いてた。それで駅前の大きな信号の向こう側のファッションビルに入ります。下着かアクセサリーでも見ようと思った。こういうところへ友だちなんかを連れてくると、振り回されてヘトヘトになっちゃうからね、今日は一人でお姫様気分。
 ふふふ、帰りにスイーツでも食べてと予定のないプランだけはあったのです。
 ビルに入って、まず下着。いいのがあれば買ってもいいかと思ってました。エレベーターで昇って、ドアが開いて降りたとき、「あら」って声がして肩を
ぽんと叩かれちゃった。

「あ、サリーちゃんよね?」
「うふふ、嬉し! 覚えててくれたんだ! うふふっ!」
 可愛いわ。ゾクッとするほどいい女。おととい、この子のいるお店で遊んだばかりです。同僚のスキ者たちに引きずられて、はじめて入ったその種のお店。あなたのせいでカルチャーショックよ、混乱したの・・と内心思いながらも付き合った。

 彼女も下着を見に来ていた。しょうがなくて、妙な恥ずかしさを覚えながら花柄の上下を揃え、お店を出たわ。背丈は百六十五センチの私とほとんど一緒。スタイルいいし、色の浅い茶色のヘヤーを、片側さらり、片側をハネて耳のところでピンでとめ。若くてハツラツとした美人であって、ブルーの花柄のミニフレア、ブルーのブラの透けるTシャツ、それに白のジャケット。モデルさん
のように綺麗な子なんですね。

「ねえねえ、よかったら遊びに来ない? あたしん家、すぐそこなんだ」

 そんな・・だって、おとといが初対面で、それも二時間ほど遊んだだけの人ですからね。だけどこのとき、私はなぜかメラメラと・・こういう人の暮らしぶりを観てやろうと思ってしまった。
「いいけど・・ほんとにいいの?」
「うん、いいわよー、今日はお休みだから私は平気、ちょっとおいでよ、すぐそこだから」
 道玄坂を登り切り、歩道橋で大通りを渡るとき、少し下から見上げたわ。ミニスカから綺麗な腿がすらりと伸びてる。ダークブルーのパンストが、むしろ肌の白さを透かしてて、男の子なら目のやり場に困るでしょうね。それぐらい彼女は素敵な人なのです。

 白い小さなマンションでした。都会の真っ只中の白い建物は排気ガスで少し黒ずんでいたけれど、女の子の一人暮らしにはちょうどいい、それは可愛いマンションなんです。賃貸よ。キッチンスペースのほかに十畳ほどのリビングと、もう一部屋、五畳ほどの寝室が別にある。私が入ったとき寝室の扉は開け放たれていて、ライトパープルの可愛いベッドカバーが見えた。
 それにアロマ。ミントかしら、仄かに甘い香りがする・・。

「綺麗にしてるね」
「そうかしら? うふふ、ありがとっ、女の子だもんっ」
 その言葉に私はちょっとムッとした。私だって女です! あなたのおかげ
で昨日一日大掃除になったのよ! 
 ふんっ。あーあ・・ずぼらな私が悪いのですが・・。
 それにしてもすっきりしたお部屋です。床はフローリング。壁は白。白とダ
ークグレーのモノトーンの家具でまとめられ、ベッドカバーと同じライトパープルのカーテンでコーディネイトされている。窓際のサッシの前にプランター。スペアミントを育てています。
 買ってきた下着をとりあえずは袋のまましまうときクローゼットが開けられましたが、中もすっきり。お片づけのお手本にしたいぐらいきっちり整理されている。

 そして私に、スペアミントの葉の浮いた紅茶とお菓子を出してくれ、私をソ
ファに座らせて、自分はローテーブルの下にだけ敷いてある毛足の長いシャギーの上に、正座を横に崩した、しなだれ座りでふわりと座る。その立ち振る舞いも見事なまでに女です。やさしさがにじみ出るようなソフトな印象なんですね。
「来てくれてありがとう、嬉しいわ」
「ええ・・こちらこそ」
「さ、食べて食べて、珈琲もあるから、よければ言ってね」
「ここで独り暮らしなの?」
「そよ。ふふふ」
 ほんのちょっと・・かすかに陰のある寂しい微笑みを向けた先に、ガラスの
フォトフレームに男性とのツーショット。夏の高原の写真です。
「彼?」
「軽井沢なの。別れちゃったけどね、いまは独りよ」
「・・そうなんだ」
「うん、でも平気、泣くだけ泣いたらすっきりしたから」

 はぁぁ・・その言いよう。どこをどう観ても素敵な女性なんですね。

「凉子さんて彼氏は? いるんでしょ?」
「ううん、私もちょっと前に別れちゃった、いまは独り」
「あらそう、かわいそ。でもね、恋ってそんなもんだから!」
 私は笹岡凉子、二十六です。そしてサリーちゃんは、二つ下の二十四歳。
「だけどサリーちゃん、彼氏ということは・・」
「あはははっ! 思ってるコトわかるぅ! あはははっ! そよ、お尻でする
の、アナルセックス」

 この子、ニューハーフなんですね。おとといの金曜日、どこから聞きつけてきたのやら、オフィスの女の子たち四人でそういうお店を覗いてみたの。お客さんには普通の男女もいましたが、明らかに女装の男性・・明らかにそれっぽい・・同性愛? そんな感じの人もいた。
 お店の女の子たちはみんな派手で、キャンキャンしてる中にあって、この子だけは控え目で落ち着いてて、立ち振る舞いが女らしくて気になっていたんです。

「でもやっぱり男の子なんだよね」
「それはね。だけど違うの、私は女の子なんですもん。お部屋中探したって男物の服なんて持ってないし・・うん、私って女の子なのっ」
 ほんと混乱してしまう。そう言う姿がそのものまるで女性です。
「おっぱいだって、ほら・・触ってごらん、Cカップよー」
「う、うん・・・」
 Tシャツ越しに透けるブラ。ハーフカップからこぼれるような乳房の膨らみを指先で押してみる。柔らかい。ふんわりしていて、それはほんとにバストなのよね。

「ほんと女の子ね」
「そ、女の子。でもアソコはやっぱり男の子。あははは!」
「じゃあ、そのうちには性転換を?」
「ううん、それはしない。しないけど一生女として生きてくの」
「あ、そう。ふーん・・」
「興味あるでしょ、私の体に?」
「いえ、そういうわけじゃ・・でもよサリーちゃん、もしも相手が私なら、それってつまり・・どゆこと?」
「レズってことじゃん。卵巣がない代わりに睾丸がついていて、クリトリスがない代わりにペニクリがさがってる。それだけのことだもん」

 私はなぜかカーッと体が熱くなるような羞恥を感じていたんです。彼女がそういう言葉を言ったこと。その響きが性的なニュアンスを含みすぎているようで・・。

「ごめんなさい」
「え?え? 何で何で? 何でごめんちゃい? ちっともごめんじゃないじゃない。こうして遊びに来てくれて、ほんと嬉しい。昼間はずっと独りだし、これからもよかったらいつでも来てね」
「うん、ありがとう。でもね、体にそれがあれば・・セックスすれば女は妊娠できるでしょ。なのにレズなの? 同性愛? 相手が男性ならばそうだけど。そっか、サリーちゃんは女の子だから、そっちが普通か・・」
「あははっ、混乱してる混乱してる、あはははっ! そよ、男の子とのベッドは普通のセックス。お尻でするのね。そのときの気持ちは凉子さんと一緒だわ、男が体に入って来るの」
「女とは? 経験ある?」
「ううん、いまのところレズはない。ないけどきっと大きくなったクリトリス
を、そっと体に入れる感じ? よくわかんないけど。でもそれはそれで同性愛よね、女の子として女を愛するわけだから」
「中でイケばできちゃうよ、赤ちゃん」

「それはね・・だけどね」
「うん?」
「人と人が愛し合ってできた子よ。それのどこがいけないの? 男や女や、そんな小さな違いじゃなくて、人として人を好きになる。それこそが命のすべてじゃないかしら」
「心ってことよね?」
「もちろん心。性別なんて小さなことよ、神様がたまたまどっちかに決めただ
け。だから男の愛も女の愛も、どっちも身勝手過ぎるでしょ。駆け引き、ポーズ、それが可愛いうちはいいけれど、得てして打算に終始する。それじゃ嫌なの私って。人として人を愛して、そのときの私のすべてを向けていきたい」
「ピュアなのね」
「てゆーかぁ・・ちょっと違うな。がむしゃら? 必死? 一生懸命? うー
ん、何だろ? とにかくサリーは女の子。そう決めて生きてるだけよ。凉子さんは自分のこと女と決めて生きてるの?」

 絶句しました。考えてみたこともありません。女である自分を当然のこととして生きている。そうね、そうとしか言えないわ。
 キラキラ輝く綺麗な目で見つめられ、なぜか視線を逃がしたくなる私です。