2016年11月28日

レズ小説 デルタ(五話)


五話~肉体愛


 天蓋付きの大きなベッドが置かれ、まさしく愛の園のようにも思える白くふわりとした空間で、美鈴に抱かれ、美鈴を抱いて、麻紗美は上質のワインにほろ酔いするような心地よさを感じていた。蒸留酒の強さのない、それでいて醸造酒の臭気に満ちた女同士の抱擁・・素材の葡萄がほどよく醗酵した女臭さにくるまれている。それが麻紗美の心を浮き立たせた。

 胸板は厚く、腕は強く、腰や尻は硬く・・屹立する獣欲・・そんな性の異物を感じて歓びにもがくのが女の性だと思っていた。
 はじめて知る同性のカラダ。しなやかで柔らかく、昂まりに火のように熱くなり・・と、夫は私を抱いてこういうふうに感じているのかと思えるような女の感触。抱き合っているだけで陶酔の淵へと引き込まれる。それはワインの酔いと表現するのがふさわしい、なだらかでいて途切れることのない海原に浮くような快感。
 しかしなぜか美鈴はそれ以上を求めようとはしなかった。素裸で抱き合っているだけで・・。

「ドレッサーが壊れたの」
 麻紗美の乳房に頬を埋めて、ふいに美鈴が妙なことを言いだした。
「え・・?」
「ドレッサーが壊れて鏡だけが残った。これはホントよ。下に置いてまたがった。夫もいない子供もいないお部屋の中で。パンティなんて穿いてない。またがってしゃがみ込み、すっかり渇いた女の根源を見つめていた。小さなアナルがひくひくしていた。ラビアは縫われたように閉じたまま開かない。涙がバーッとあふれてきたんだ」
「・・そう」
「そう。声がしたのはそのときだった。私の声が私に命じた。濡らせ。オナニーしろ。自分が可哀想だとは思わないのか。・・そしたらね」
「ええ?」
「鏡にしゃがんで泣いていた私の顔が鏡の中で笑っているのよ」
「笑ってる?」
「私そっくりの女王様が私のアソコを見つめて笑ってる。こう言うわ『欲しいくせにすましてるんじゃないわよ淫乱』て。そしたらそのとき私の底から言葉があふれてきたの。女をもっと表現したい。濡れる私を言葉にして吐き出して、いつかきっと、淫らな私を叱ってくれる誰かにお仕えしたい・・」
「・・女王様?」
「いいえ主様でもいいと思ったわ。私はそう思ったけれど、私に文章を書かせるのは女王様で、常に私を支配している。本心の私は同性を求めていると悟ったの」
「私のこと女神様って言ったけど・・?」
 美鈴は麻紗美の乳房の谷から顔を上げてちょっと笑った。

「こんな私を見てくださるお方はすべて女神様よ。留美だってそうだしね。私は私を捧げることでしか誰かを愛せない。だから留美をイジメてる。愛されようとして愛しても、そんなものは偽りだわ。私を慕い、捧げてもいいと思えたとき留美は強くなれるのよ。退路がなくなる。進むしかなくなれば崩れてる暇なんてないものよ」
 そういうことかと麻紗美は思い、いまベッドインのときに私を女神様と呼んだこの人には抗えないと思い知る。
 美鈴の手が麻紗美の背をすーっと滑って尻へと降りて、やおら前に回って、すでに濡れていた麻紗美の女陰へ差し込まれる。
「ぁン!」
「私をもっと慕いなさい。そうすれば私はあなたの女神になれる。いいこと麻紗美、女神とは女王様よ」
 麻紗美は声を噛み、一度は腿に挟んだけれど、力を抜いて美鈴の指を許してやった。

「ほうらクチュクチュ・・ふふふ。でもね麻紗美、精神愛だなんて思ってないのよ。同性愛こそ肉体愛。たまらないカラダを慈しみ、無条件に感化されて昇華する愛だと思うのね」
「感化される?」
「麻紗美の濡れに共感する・・共振もする・・私だってもっと濡れたい貪欲な性への欲求・・だけどそれは異性愛では到達できない昇華した愛へとつながる前奏曲よ。精神愛の極みですけど心から育つ愛じゃない。肉体を貪り合うところから自分と同じ女の性(さが)に感動し、恥ずかしいほどの淫水を見て安心して同化して、性の高みへ駆け上がっていくのよね」

 それもわかるような気がしていた。
 『求められるから与えるぐらいの度量がないと』・・と書いておきながら、美鈴は一途に私を求めた・・甘えて甘えて私を求めた。求めていたいと思うのが女。求められて嬉しいのも女。与えているつもりが、いつの間にか求めている自分に気づく。
 捧げ合う。互いに捧げて互いに与える・・それがレズラブかもしれないと、美鈴の穏やかな愛撫に酔いながら麻紗美は思った。
 見定めたら無条件に慕う少女のような美鈴。四十二歳と三十二歳の十年の開きなどに意味はなく、美鈴の心は少女のまま固定され、澄み切った女心をまっすぐ向けて愛してくれる。女神と慕われた麻紗美は、歓びに震え、小鳥のように囀って、だけど気づいたときには奴隷のように美鈴の花園に奉仕していた。
「もっとよ麻紗美、もっと淫水をお嘗めなさい・・ふふふ・・私にもちょうだいね」
「あっ、ぁぁーっ」

 異性愛のような陵辱的な波は来ない。快楽のうねり。乱れた息づかいがおさまってきているのに、互いに互いを撫で合っていて、しこり勃つ乳嘴(にゅうし)は解けていかない。抱き合ったまま大海のうねりにふわふわと漂っているようだ。
 その乳嘴を唇で噛むようにしながら美鈴は言った。
「このまま泊まれる?」
 麻紗美は黙ってうなずいて、白い女神の尻を撫でた。
 麻紗美がささやく。
「慕うってことがどういうことか、少しわかったみたい」
「そ? 私も慕うよ。女神様の海を泳ぐように私は麻紗美の奥へと潜り込むの」
「綺麗な言葉・・じゃあ私は美鈴さんの海を泳ぐ?」
「そうね、それもいいわね・・愛液の海かしら・・牝同士のエゴに満ちた海でもある」
「エゴなんだ?」
 美鈴はにやりと、ほどよい残酷さをたたえた眸で笑う。

「気持よくシテ。それだけよ。エゴそのもの。でもね・・」
「ぅくっ!」
 美鈴の白い細指が麻紗美の濡れ谷へと滑り込む。麻紗美は濡れそぼる眸を薄く開けて、いたずら好きな白い女神に微笑みながら、腿をゆるめて愛を捧げた。 Dサイズの白い谷に頬を埋めて抱きすがり、ふたたび訪れそうなうねりに熱い息を吐いたとき、額にキスしながら美鈴はささやく。

「気が変わったわ、あの子を呼びましょ」
「留美?」
「こんなことって滅多にないから・・ちょっと待って」

 ベッドを抜け出るしなやかな肢体・・美しい・・綺麗な背中・・可愛いヒップ・・どう見ても歳には思えない。留美は逆だ。十歳下の小娘だと思っていたいのに、カラダは熟れて、それでいて女豹のようなバネを感じた。
 私はどちらにも勝てないだろうと感じていた。美鈴ほどのエロスも持たず、留美ほどのセクシーもきっとない。三十二歳・・心の定まらない女の時期を生きていると思えてならない。
 ベッドを抜け出て携帯を手にした美鈴。留美は仕事中。メールでよかった。
  
  帰りに寄ってね。
  お店じゃないよ。
  知ってるでしょ、お部屋。
  狂う夜へ・・うふふ。

「って、どーよ?」
 手の中の小さなモニタに打ち込んだ言葉が並ぶ。ちょっと意地悪にキラキラ笑う美鈴を見ていて、麻紗美は美鈴こそが性の女神だと感じていた。
 女神は奔放、そして女神は恐怖・・女のすべてを持ち合わせて生きるもの。
「ふふふ、ちょっと可哀想かも・・」
「ほんとよ、可哀想なことになる・・はい送信っ! くくくっ!」
 ああ、たまらない・・この少女のような四十二歳はどうだろう・・私はいつの間にか疲れていたと麻紗美は身にしみて実感できた。

 送信ボタンを押しながらベッドに添い寝をしてくる美鈴のヌード。麻紗美はいまにも泣き出しそうな想いで、抱き寄せて、乳首に甘えた。
 美鈴が髪をつかんで顔を上げさせる。
「私のこと慕う? 慕いなさい!」
「・・勝てない・・はい女神様・・あなたが好き・・」
「嬉しいわ、この私を女神だと言ってくれる・・麻紗美が好きよ」
 女神の指先が、渇かない女陰に刺さる。
「またぁ・・溶けちゃう・・」
 そしたらそのときメールの返信。

  はい行きますっ!
  ダメかも・・感じてきちゃった。
  くにゃくにゃしてる、、、

「・・だってさ」
「・・ね。ふふふ、可愛いなぁ」
 、、、と、点を三つ連ねる若い表現。顔を寄せ合って画面を覗き、そのまま見つめ合って溶けるようなディープキスへと進展していく。

「ここへ呼ぶのははじめてなのよ」
「私だってそうです」
「そうよね、うん、そうよ、はじめてなんだわ・・」
 キッチン。美鈴は部屋着にしているピンクの起毛地のロングT。麻紗美は同じようなレモンイエローのロングTを借りてテーブルにくつろいでいた。
 美鈴がキッチンに立って夕食を支度した。女三人、サンドイッチ程度で充分だったし、麻紗美は体の芯が溶けたようにふわふわしていた。
 二人ともルーズフィットのロングTの下はパンティだけ。そんな姿で出迎えてやれば、留美は一瞬にして、これからはじまる性夜に狂いだしてしまうだろう。
 ただ残念なのは横殴りの雨であること。マンションのバルコニーはずっと広く、晴れていれば露出ぐらいはさせてやれるのに、雨はますますひどくなっている。

 テーブルに肘をついて頬を支え、麻紗美はキッチン越しにリビングのサッシを見て言った。洗車機の中にいるようだった。
「どのみち帰れないみたい」
 向こう向きのまま美鈴が応じた。
「直撃じゃなさそうなのにね」
「大きいもん。列島すっぽりなんだもん。それに動きが遅い。これからなのよ」
「旦那無理そうね」
「ぜんぜんダメでしょ。そんなつもりじゃなかったのに・・」
 流しを向く美鈴の背中がちょっと震えて笑っているよう。出張のその日が休みで、降りしきる雨。台風の前奏曲。独りでいてもつまらなく、ベルカフェを覗いてみた・・それが発端。
「ねえ美鈴さん」
「その言い方イヤ。さんはいらない」
「じゃあ、お姉さま?」
「それもイヤ。レズっぽ過ぎちゃうし、それは留美にあげた言葉だもん」
 不思議なことを言う。麻紗美はエッセイストMISUZUの新鮮な言葉を思い出す。少女のような熟女・・まさにそんな人と成り。天真爛漫にして淫乱、淫乱にして淑女・・女王であって奴隷・・素敵な女のギャップをたくさん備えた人だと、後ろ姿を見つめていた。

「・・美鈴」
 小さな声で呼んでみる。
「はい・・ああダメ、燃えてきちゃう・・それでいいわ、美鈴でいい。なあに女神様?」
 心の溶けだすような言葉、そして鈴が転がるような声・・麻紗美は肉欲の虜にされていくプロセスを拒めなかった。
「・・奴隷にされそう」 と麻紗美は言った。
「あら私なんてすでに奴隷よ」 と美鈴は言って、ちょっと振り向きウインクした。
 馬鹿みたいにやさしい夢・・愛液を泳ぐような女同士の遊泳がたまらない。
「このサンドイッチ、あの子には餌だわ」
「餌?」
「下にお皿を置いてやって裸にして食べさせる・・そうね、私たちが噛み込んだものを口移しに与えてやるなんてどうかしら?」
「そんなことしたら、あの子マゾになっちゃうよ。美鈴のこと心から慕ってる。大好きだって言ってるもん」
 黙ってうなずき、ちょっとため息をつくようにして美鈴は言った。

「・・私はいいのよ、それでも」

「どういう意味?」
「奴隷だろうが女王だろうが女神だろうが・・麻紗美や留美が私のことを見ていてくれる。心からの感謝は身を捧げることでしか表現できない。寂しかったの。寂しいからエッセイを書きだした。そしたら留美が現れた。失恋してボロボロで、奴隷のように私を慕って服従した。そんなあの子に私はなんでもしてやりたい。麻紗美もそうだわ、抱いてくれて夢をくれた。人なんて所詮は独りよ、独りぽっち。孤独から逃れるためなら私は捧げる。だって・・」
「・・だって?」
「私だけが若くないし」
 響いた。感動した。女としてのキャリアが美鈴を強くし、弱さに素直な女性にしている。
「美鈴」
「はい?」
「もう一度言うね・・あなたが好き・・素敵よ美鈴」
 美鈴は、ふふふと向こう向きのまま笑い、ありがとうと小声で言った。

 ハムと焼き卵のサンドイッチ。レタスにセロリ、それにパセリ・・グリーンボウルのようなサラダを置いて、紅茶を飲んでくつろいだ。
「結婚が早すぎたの」 と美鈴が言った。
「四十二なのに息子は二十歳よ。結婚から二年遊んで妊娠した」
「じゃあ十九で?」
「十六で男を知って、その頃モテて・・とっかえひっかえ・・」
 そうだろうと麻紗美は思う。その頃の美鈴は天使のような娘だったに違いない。
「騙して遊んで・・遊ばれてもあったけど、どうしようもない女だったわ。淫乱だって思ってた。旦那は真面目過ぎて、だけどそこが新鮮だった。できちゃった婚なんですけどね、じつは旦那の子かどうか・・」
「そうなんだ?」
「なんてね・・ははは、それはないよ。じつは遺伝子調べてるから。間違いなく夫の種よ。だけど男たちが重なっていたからね、実感というのか確かに旦那の子だと確信が持てなかった。そのうち冷えていき、息子は旦那が好きだから私を責めるようになっていく。いまさら男なんてまっぴらだったし、ほんとの愛を知ってみたくてたまらなかった。それでお店をはじめて、あるとき妙な女に出会ってね」
「レズだった?」

「違う。プロの女王様」

「SMの?」
「もちろんそうよ。お店のお客さんだったけど、いまは大阪に越しちゃった。それからよ隠れ家を持ったのは。当時彼女は三十歳で私は四十。ちょうど麻紗美と私の関係だったの。彼女は言ったわ。捧げてほしくば捧げろって。純愛に性別は無意味。性別の前に心があり、焼きつくされる性があるって教えられた」
「抱かれたの?」
「抱かれたね・・そのとき私は奴隷の覚悟で裸になった。そしたら彼女が女神様って私を呼んだ。愕然とした。愛を与えてくれる者は神だって教わった。女にハマった最初の出来事」
「ふーん・・わかるなぁ・・」
「女は女に対して女神と奴隷を行き来する。だけど男に対しては決して奴隷になってはいけないと」
「・・どうしろって言うの?」
「女王と母を行き来しろって言われたわ。男は異物よ。無条件に強いか無条件に許すかのどちらかだって」

 そのへんが美鈴の引力の根源だろうと考えた。
「無条件に許すなんてできないもんね」と言いかけたとき、玄関のチャイムが鳴った。美鈴はパッと目を見開いて妖艶な笑顔を咲かせた。つくづく性女。これでもかと女を表現して生きている。
「ここにいて」 と、ウインクして美鈴が立った・・。

「あらあら濡れネズミじゃない」
「はい、すごぉい雨なんだもン」
「待ってたのよ、私と、それから・・」
「え」
 玄関先で声がする。甘え声の留美の様子が目に浮かぶ。麻紗美は笑いを殺して雰囲気を探っていた。

 背を押されて留美が覗く。今日は黒のマイクロミニ、淡いブルーのTシャツ。Tシャツが濡れて赤いブラがくっきり透けてしまっている。
「あっ、麻紗・・お姉さんもいるんだ、わぁぁ」
 嬉しさをストレートに表現する留美。キラキラ若い女の眸だった。
 美鈴が言った。
「そうよ、今夜はお泊りしていくの。留美もよ、いいわね」
「あたしも? ほんとに!」
「嬉しいでしょ?」
「うン、嬉しい! 嘘みたい!」

 そして美鈴は、無造作にマイクロミニの下から手を入れて、ビクリと戦慄する留美を見据えて言うのだった。
「私たちのスタイル見てわかるでしょ。今夜は二人女王様よ、わかるわね。わかったらご飯にするからお脱ぎなさい。おまえは全裸、いますぐです!」
 眉根を寄せて声もなく、留美はX脚に膝を寄せ、そのままヘタリと女の子座りに崩れていく。マイクロミニから真っ赤なデルタが覗いていた。
 救いを求めるような視線を麻紗美に送る留美・・しかし。
「どうしたの留美、女王様のご命令よ、さっさとお脱ぎ!」
 美鈴と視線を合わせて、二人は厳しい眸で留美を見下ろした。

 留美は吐息を熱くした。可笑しい。麻紗美は意識して意地悪く笑い、留美に言う。
「もうたまらないんでしょ? ハァハァよね? 濡らしてるでしょ!」
 そしたら留美は泣きそうな顔で二人を見上げた。
「そんなぁ・・ああダメ、イキそう・・」
 消え入りそうな吐息声。美鈴と麻紗美、二人は声を上げて笑った。

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