2016年11月28日

レズ小説 デルタ(四話)


四話~性衝動


 同性愛なんて私の愛の姿じゃない。考えたこともない。麻紗美ははっきりそう自覚しながらも、なのに突然噴き上げた湯気のような性衝動に翻弄されていた。
 それに、この怒りにも似た思いは何なのか。キラキラ若く、スタイルもよく、性格だってじゅうぶん可愛いと思うのに、自分を貶めるような行為をしたがる留美に対して、ちょっとは考えなさいよと叱ってやりたくなる想い・・それが裏返ったかすかなサディズム・・そうとも思うのだったが、ほんとのところは違うだろうと、それもはっきり自覚していた。
 レズラブへ惹かれていく。抜き差しならなくなっていく。
 そのときに少なくとも十歳下の小娘に対しては優位に立っておきたい。留美のペースに引き込まれると美鈴までを巻き込んだ入り乱れた淫欲に支配されかねないと思うのだった。

 夫と出会った頃、それまでの彼と性の重なる一時期があった。朝、目覚めると隣りで眠る夫に戸惑ったことがある。前の恋を精算しきれず新しい恋に果てていく夜が続く。
 麻紗美は自分の中に淫欲へと堕ちていく牝の存在を自覚していた。夫と眠って起きてみたら隣りに留美がまつわりつく。それは美鈴へ発展していくかも知れない愛欲のベッド。レズラブへ、ぎりぎりの瀬戸際に来ていることを認めなければならなかった。留美のせつないまでの女心がぐいぐい迫り、私の女心とひとつになって多重する・・男性が相手ではあり得ない、ひとつの女心を共有する関係。それでなくても麻紗美は、美鈴のエッセイに魅惑的な同性愛を見出していた。心のどこかで美鈴を同一視し、解放されることへの羨望を感じている。

 そうした何もかもがいきなり眼前に迫ってきているのである。
 こんなことで、どうして私が苦しまなければならないの!
 整理できない感情が怒りとなって留美に向けられているのだろう・・そして、弱く可愛い留美を知れば、怒りは母性に置き換わってたまらなくなっていく。留美の中にある私そっくりな女心に取り憑かれてしまうだろう。
 合唱した両手をマイクロミニの腿の間に挟み付けるようにして、頬を赤く紅潮させ眸を潤ませる留美・・いい気味だわ・・とっくにもう濡らしてしまって息を乱す淫乱娘め・・母性を燃料に燃え上がるサディズムが、いまにも愛に置き換わろうとしていた。
 留美は固まって動けない。
「どうしたのよ? 恥ずかしい思いがしたいんでしょう?」
 唇をちょっと噛んで丸い眸を向ける留美。なんて可愛い。
「ここのバルコニーの向かいが寝室なのよ、私たち夫婦のね」
「・・はい、そうだろうと思ってました」
「見られてると感じてた?」
「・・だってカーテンが揺れるから」

 やっぱり・・麻紗美はちょっと可笑しくなった。
「でしょうね、気づいてるって思ってた。キャミの下はノーブラ、Tバックでノースカート。ハラハラして見ていたわ。露出狂だと思ったけど・・だけどなぜか私もキュンとしていたの。いいカラダだわ・・可愛い子だって思ってた。私だって美鈴さんのエッセイ好きだし・・そうよね、オンナの性欲ってそんなものだと思って読んでいた。それで留美と出会い、美鈴さんの実物を知って、ますます胸が苦しくなった」
「それは私もです。オナニーしろ、もっと恥ずかしい思いをしろって刺激されているうちに、素直にあたし感じてきちゃって、そんな自分が嬉しくなって・・彼に捨てられてもがいていたのに、癒やしてくれたのは同性だった」

 麻紗美はちょっと両手をひろげながら微笑んだ。留美は、はいと言って、流れるように麻紗美の腕の中へと吸い込まれた。麻紗美は言った。
「・・夫と寝るでしょ」
「ええ・・はい?」
「愛してるし感じるセックスが嬉しいのよ」
「はい」
「だけど明け方、ふと目を覚ますと、違う人が隣りにいる気がするのよね。性別は不明・・違う人影が隣りで寝てる。現実なのか夢なのかもわからない幻覚みたいなものかしら」
「それあります、あたしにも・・あたしの場合は美鈴さん。あれほどよがり悶えた人なのに女神のような姿で眠っている・・そんな夢を見るんです。ああ可愛いなって思いますし、あたしそっくりって思いますし・・」

「ンふ・・お姉さん・・」
 膝抱きにされていて、両方の脇の下から手を差し込んで麻紗美の肩を抱き、顎先をわずかに上げて目を閉じる留美。キスをせがむ。長い睫毛が愛液に濡れるように輝いていて、若い性欲がそうさせるのか小鼻がひくひく蠢いている。
「可愛いわ・・いい子よ留美」
 唇が重なった・・麻紗美の手がマイクロミニから惜しげもなく晒される腿の間へと滑り込む・・留美は腿を割って従順に応じながら、ふるふると小鳥のように震えていた。
「お姉さん、シャワーさせて・・」
「一緒に入りましょ」
「はい・・嬉しい・・あたしやっと独りじゃなくなった・・寂しかったの・・」
 白い頬に大粒の涙が伝った。この子は弱い。恋にすべてを賭けて生きる女の姿がいとおしく、私だってそうだったと自分の過去へとつながっていく。

 美鈴より先に留美を抱きたい・・抱かれたいし抱き合いたい。私は私の心を抱いているのであって淫らなセックスなんかじゃないんだし・・。
 熱く降るシャワーの雨の下で麻紗美は留美と重なった。最初に求めたのは留美の手だった。すでに濡れる女の底へ落ち込む若い手を麻紗美は許して腿をゆるめた・・。

 その数日後。仕事が休みだった麻紗美は昼下がりになってベルカフェを訪ねていた。今日は雨。はるか南で列島を狙う台風の影響でしばらく雨が続くだろう。
 留美は仕事。その日は久びさ、麻紗美は心が軽かった。
「あらあら、こんなときに沖縄なの?」
「そうなんですよ。今日から二日の予定なんですけど帰りはちょうど台風になりそうで」
 夫が出張。その日に合わせたわけではなかったけれど、麻紗美は休みをとっていた。パートではじめた仕事だったが頼りにされて実質的には社員扱い。仕事中心にしたくなく、ときどきこうしてズル休み。
 土砂降りの日のベルカフェは空いていた。こういうときはランチタイムを外すと同じマンションの住人ぐらいしかやってこない。まだひどくはなかったが雨が巻き上がって下から降ってくる感じ。店のガラスエリアにワイパーが欲しいほどの目隠し雨となっている。

「アイスコーヒーを」
「はいはい。ふふふ、留美ちゃんが言ってたわ」
 と、美鈴は艶のある微笑みでカウンターに座る麻紗美に眸を向けた。吸い込まれそうなキャッツアイ。やさしく激しい性の視線が放射されるようだった。
「麻紗美お姉さんてサイコーって、あの子、それは嬉しそうにしてたわよ」
「そんなことを?」
「私のことをわかってくれるって、にこにこしてた」
 性関係のことまで言っているのだろうか・・とは思ったものの、そのへんは大人同士、言うまでもないだろうと麻紗美は思う。
「はいアイスね」
 青みがかった白い大理石調のカウンターにそっと置かれたグラスがコツと硬質の音をさせた。

 今日の美鈴は明るめのワインカラーのサマードレス。胸元がボートネックでうつむくと黒いブラにつつまれた膨らみが露わとなった。谷が深い。Dサイズアップの白い乳房が美しかった。
 対する麻紗美は普段着、それもこの雨だからジーンズスカートに青いTシャツ。
ストッキングを穿かずローヒールのサンダルで出かけて来ている。

 グラスのストローに気を取られていると、カウンターの向こうで声がした。視線を上げると、そのとき美鈴は背中を向けて、そしたらその薄いドレスのバックスタイルに、ダブルホックの黒いブラ、そして明らかにTバックスタイルの下着のラインが透けていた。美鈴の背丈は157センチ、麻紗美は163センチ。なのにブラは美鈴がDで麻紗美はB。ちょっと口惜しいと考えて笑みが漏れた。
「ちょっとイジメておいたから」
「はい? イジメておいた?」
「今度ね、私たちであの子をドライブに連れ出しましょうよ」
「ははぁ・・露出させる?」
「ふっふっふ、そうそう全裸露出。行く先々でイジメてやって、その後ホテルへ引きずり込むの。どう?」

 どう? と、イタズラっぽい熟女の艶目。

「二人でイジメる?」
「うんうん。そしたらあの子、そんなことされたら狂っちゃうってハァハァ言ってた。あははは、可愛いんだもん。性の花がいままさに開花をはじめた、それが留美だわ」
 そして美鈴は外を見渡し、眉を上げた。
「今日はおしまいにしようかな。ねえ麻紗美」
「あ・・はい?」
 麻紗美・・ネトと絡むような視線で呼び捨てにされたとき、何を言うかは想像できた。
「お店閉めるから、ちょっと上へ来ない?」
 やっぱり・・美鈴はこのマンションに部屋を持っている。
「もう閉めちゃう?」
 かすかな焦り。あのとき留美と呼び捨てて上に立とうした思いが、そっくり逆転し、美鈴に上に立たれてしまった。
「閉めちゃう。いろいろ知り合っておきたいし」

 来た来た・・こうなると思っていたし、じつは今日、ちょっと期待する気持ちもあってベルカフェを覗いた麻紗美。美鈴の人と成りを知ってみたいと思っていた。
 女性誌の最新号が昨日出た。そこに美鈴は『若い獲物』というタイトルで留美への想いを書いている。

 ~若い獲物~

  獲物って言うと、私がまるでハンターのようですけれど、
  獲物なんだからしょうがない。二十も歳の違う娘さん。
  慕ってくれるよ。慕ってくれるから可愛いし、私はね、
  一度そう思うととことん鍛えてやりたくなる女なんです。
 
  でも鍛えるって何を? あらヤだ。

  女は脆すぎるといけませんもん。性は捧げるものじゃない。
  ほしがるから与えるぐらいの度量がないと、
  いつかきっと性に泣く女になるわ。え~ん、え~ん。
  それではダメ。みっともないったらありゃしない。

  あの子のセックスを鍛えてる。身悶えする羞恥を教え、
  満たされない飢餓を教え、それが与えられたときの
  めくるめくアクメをあの子の記憶に刻みつけていくんです。

  愛のために抱かれるなんて小娘の夢物語。そんなの浅い。
  ほしがって濡れる。肉体の声なんだよ、黙れと言っても無駄。
  淫欲のために抱かれる。愛なんてワードでごまかさない。
  全裸露出をさせてやろう。トロトロに伝う愛液の意味を
  これでもかと教えてやりたいし、この私をもっと慕え、
  もっと慕って夢中にさせて、それからあの子をサナギに変える。

  おぞましく美しい性の蝶が生まれるはず。強い女。強いから
  愛に対して奴隷になれるし、しなやかな牝になれるんです。
  女の花は乾かないし、涸れないし、だから蜂を呼び続ける。
  カラダを尖らせて突き刺す蜂は、いつしか濡れる花に心を
  刺されて、気づいたときには花の奴隷へ堕ちていく。

  そろそろなのよ。あの子の渇望に愛撫を与える時期がくる。

 その部屋は、エッセイストMISUZUの隠れ家だった。
 ベルカフェの裏口から階段で上がった角の部屋。1LDK。女の独り暮らしには充分なスペースで、店同様にアイボリートーンで統一された、女らしくシンプルな部屋だった。チリひとつ落ちてはいない。美鈴に好感。
「さあ、こっちよ」
 広いLDK、その奥が広い寝室になっている。天蓋付きのダブルベッド。クローゼットの扉を開き、ぼーっとして立ち尽くす麻紗美に背を向けて、美鈴はドレスを脱いで漆黒の下着姿。Tスタイルパンティ。アラフォー美女。白くしなやかなヌードだと麻紗美は思う。

「口先だけ・・ポーズばかり・・私だってそうやって生きてきた。女の保護膜なんだもん。だけど、もうイヤ。私は牝よ。ぬくもりがないと生きていけない」

 美鈴は背を向けたまま言うと、一人先に大きなベッドに潜り込む。
「お話しましょ・・抱き合ってお話しましょ・・おいで麻紗美」
 試されていると感じた。あなたも口先だけポーズだけの女なの? そう言われた気がしていた。
 今日の麻紗美は黒を選んだ。もしや・・という想いもあって、そのときに私を隠しておきたいと無意識に選んだ黒かも知れなかった。

 Bサイズブラ・・Tまで飛べない人妻のパンティ。

 ベッドにいて、脱いでいく麻紗美をキラキラ輝く眸で見つめる美鈴。
「嬉しいわよ、私をわかってくれそうね・・でもね・・」
「はい?」
「私を慕って。慕いなさい。慕って慕って私を抱くの。ねえ麻紗美、そう思うなら全部脱いで」
 麻紗美は震えた。同じようなことを留美に言ったが、意味が違うと本能的に感じていた。美鈴の性は昇華した牝のセックス。わけもわからずそう感じ、そしたらそのとたん、裸身が震えだして淫花が激しく反応しだす。

「ふふふ・・なんて隠微なヌードかしら」
「美鈴さん、言わないで・・」
「さあ、おいで」
 魅入られた奴隷のようにベッドに忍び込んだ麻紗美。そのとき美鈴の二つの眸が濡れていた。大粒の涙だった。
「抱いて麻紗美、嬉しいの・・ああ女神さま・・」

 女神さま?

 麻紗美は心をわしづかみにされたようだった。ケガレのない美鈴の想いが白い肌を透過して流れ込んでくるようだ。
 十歳下の麻紗美に向かって晒された美鈴の花園は、芳しい蜜を流して濡れていた・・。

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