lez520

八話 同性上位

  家にいて陽子を紀代美と共有する。オフィスでは浅里を屈服させ、間もなくそれは佳衣子をも巻き込んだ性関係に発展していく。
  空狐を知って自らを囲む防御柵が消えた女の欲望は抑制するべきブレーキを失った。そんな明江にとって夫との平板な生活に魅力はないと言ってもよかっただろう。子供は欲しい。しかしただそれだけで、できてしまえばそれから先はありきたりな女の末路が待っているだけ。穏やかでやさしいと感じた安心感も、無難の選択でしかなかったことを思い知る。
  妻たちはそれを、あたかも夫が悪いかのように物足りないと表現する。物足りない男を選んだのは女。相手にかぶせて知らんぷりというのが、いかにも女の女々しさで・・と、明江は考えられるようになっていた。夫はつまりサラリーマン。安定を運んでくれて安心できているのだが、独身だった頃の私は男選びを間違えたと思える程度の男でしかない。妻を屈服させるパワーと言うのか、女の口を黙らせる烈火と言うのか、女がときめく何かが欠落してしまっている。
  抱かれていても悦びは浅い。注入される精液に期待を寄せる性なんて悲しすぎる。崩落へ向かって傾きだした感情を明江はコントロールできなくなった。

  しかしだから空狐にすがるのか。そんなことをしてしまえば恐ろしいことになる。紀代美の旦那は廃人にされたと言う。その気になれば誰かの人生を壊してやれると考えることそのものが、明江に恐怖感をもたらした。
  そしてそこから逃れるように、あふれる感情を陽子や浅里に向けている。明江には自覚があった。自覚しながら制御できない自覚である。
  心なしか乳房が張ってきたような。白い双房に浮き立つ血管。もしや妊娠と思いはじめた矢先の五反田、高層マンション。神白佳衣子と浅里の巣に明江ははじめて乗り込んだ。佳衣子はまだ、まさか浅里がそうなっていようとは思っていない。運命は劇的に。女王として口止めしていたからだ。
 「さあどうぞ、入って入って。このところ浅里とあなたがいい感じになってくれて、ほっとしてたところなの」
  その日は金曜。明江は夫に対して会社の旅行だと嘘をついた。
  戻ったとき三人揃ってビジネススタイル。しかし今夜、明江は鮮やかな赤のTバックランジェリーを着込んでいた。
  間取りは4LDKなのだが、LDKが三十畳ほどもある広いもの。ちっぽけな会社にそこまでの売り上げがあったとも思えなかった。離婚している佳衣子、そして離婚目前の浅里、二人で持ち寄ったことは想像できた。
 「綺麗にしてる。さすが浅里とあなたの愛の巣ね」

  はるか歳上の浅里に対して浅里と呼んだことで、佳衣子は怪訝な視線を明江に浴びせた。態度が妙だ。けれども明江は意に介さない。
  明江は言った。
 「さあいいわ、立場をわきまえて行動なさい」
 「はい女王様」
  女王様? 横目をやって微妙に微笑む浅里の姿。佳衣子は、そんな二人のやりとりを呆然と見守って声もない。
 「あのね社長」
 「は、はい?」
 「オフィスはオフィス、ここはここ、それとこれとは別なのよ」
  言いながら堂々と歩み、ダークグリーンのレザーソファに深く座る明江。
  一方、浅里はそんな女王の前に立って脱ぎはじめ、普段の仕事帰りとは違う青い花柄のランジェリースタイルとなると、それさえ脱いで素っ裸。女王の前に膝を着いて脚を開き、両手を頭の奴隷のポーズ。明江は微笑み、そんな浅里の頭を撫でてやって、ソファに座った腿の上へと抱き寄せた。
  佳衣子は唖然。明江は言った。
 「浅里は私に誓ったの、生涯を捧げますって。そうよね浅里?」
 「はい女王様、ふふふ、やさしくしてくださってありがとうございます」
 「うん、いい子よ。さて佳衣子、そこであなたよ」
  若いパートごときに佳衣子と呼ばれ、そんなことより生涯のパートナーだと信じた浅里を奪われた。衝撃が大きすぎ、佳衣子は寒気を覚えている。

  突っ立つ佳衣子をソファに座って見上げながら、明江はちょっと眉を上げて微笑んだ。
 「佳衣子に対して好感を持ってるわ。私を守ろうとしてくれた。あなたと浅里の愛を邪魔するつもりはありません。でもね、私は女王、浅里は奴隷。その奴隷と愛し合っていくのなら、あなただってそうならないと不幸だわ。浅里を奪われることになりかねない。いいこと佳衣子」
 「は、はい?」
 「マゾならマゾらしくなさい。幸せな姿のはずよ。わかったら全裸です」
  毅然として言いながら、膝に甘える裸の浅里の背を撫でて、浅里もそれに甘えきって笑っている。
  いつの間に? どうしてそんなことに? 私には何も言わず?
 「驚いたみたいね? 口止めしたのは私です。劇的運命に翻弄されて幸福を勝ち得ていく。あなたのために浅里だって同意してくれたのよ」
  そのとき浅里が、女王の膝に抱かれていながら背後に突っ立つ佳衣子を振り向く。
 「運命なのよ佳衣子。女王様は素敵なお方。二人でお仕えしていきましょう」
  明江は笑って浅里の頭をちょっと撫で、それから眸色を厳しくした。
 「脱ぎなさい佳衣子、可愛がってあげますから」
  眸は厳しく言葉はやさしい。この子は怖い。本質的にMな佳衣子は身震いする性感が奥底から衝き上げてくるのに戸惑っていた。
  女王の膝に甘える浅里の姿は、平素の私が浅里に甘えるときの姿そのもの。
  その浅里を屈服させるほどの明江なら、さぞかしいいに決まっている。こうして見ても浅里の裸身に傷はなく、それは精神的な充足を意味するもので私自身が追い求めたビアンの姿。一瞬の間に佳衣子の思考はぐるぐる回り、残ったものは浅里への羨望。

 「はい女王様」

  消えそうな声が漏れたとき、佳衣子は崩れていく自我を感じていた。仕事帰りの社長はつまらない。ビジネススーツ。スカート、シャツブラウス、ベージュのブラに灰色の水玉パンティ。パンティのマチは深く、いわゆる無難な下着であった。
  ブラを跳ねるとDサイズある浅里より少し小ぶりな白い乳房が転がり出し、パンティを失うと、浅里よりも少し肉付きのいい熟女の裸身が完成する。飾り毛のないデルタに、くっきりスリットが浮き立っていて、股ぐらに閉じたリップが覗いている。
  浅里と佳衣子は同い年だったはず。佳衣子の方が幾分ふっくらした熟女の体を持っていた。
 「隠さない、両手は頭よ」
 「はい」
 「回ってお尻を見せなさい」
 「はい」
  その場でゆっくり回る女体。尻も張ってエロチック。明江は膝に甘える浅里に言った。
 「どうせエッチなオモチャもあるんでしょうから持っておいで。新しく揃えたものも一緒にね」
 「はい女王様」
  佳衣子を引きずり込めたことが嬉しいのか、浅里はにっこり綺麗に笑って立ち上がる。浅里という重しの消えた体でソファを立って、肩幅に腿を開いて両手を頭の後ろに組んで立つ、佳衣子のそばへと歩み寄る。
 「いい体してるわね、責め甲斐がありそうよ」
 「はい、あぁぁ恥ずかしい」
  明江はにやりと笑って、陰毛のないスリットへ無造作に手をやった。

 「はぅ! あっあっ!」
  佳衣子の眸が丸い。見つめる視線をそらせない。
 「やっぱりね、もう濡れてる。命じられてパイパンなんてマゾだからこそだわ」
 「はい女王様、浅里を失ったら生きていけない」
 「愛してる?」
 「はい、心から」
 「安心なさい、浅里も同じことを言ったわよ。だから揃って私の奴隷」
 「はい、ありがとうございます、とっても感じます」
  まさぐっているうちに愛液が滲み出してヌラヌラに濡れそぼる。そしてそのとき、全裸の浅里が小ぶりの黄色いスポーツバッグと、それとは別の大きな手提げ袋を持ち込んだ。
 「首輪は?」
 「ございます」
  大型犬用のステン鋲がちりばめられた青い首輪とピンクの首輪。手に取って見くらべて、浅里には青が似合うと考えた。
  ピンクの首輪を佳衣子の首にまわしてバックルで固定。青い首輪は浅里が自分で身につけた。
 「乗馬鞭を」
 「はい、それもございます」
  いかにも女心。浅里に選ばせた鞭は真紅の革でできたもの。明江は鞭を手にすると、まず最初に佳衣子の尻を軽く叩き、次に浅里の尻を軽く叩き、二人揃って正座をさせた。

  黄色いスポーツバッグはこの部屋にもともとあったもの。
 「開けてごらん」
  浅里は微笑んでうなずいてバッグのファスナーを解放した。一つずつ取り出しては説明し、カーペットのフロアに並べていく。
 「双頭のディルドです。次にバイブ、ローター付きパンティ、電マ、ペニスベルト、それから黒い綿ロープが少しと、これが浣腸器、最後にふわふわの房鞭と」
 「ふーん、そういうこと」
  と言って明江は佳衣子の顔を見つめてやった。
 「呆れちゃうわ、社長とナンバーツーが夜な夜なそうして慰め合っていたとはね。SMごっこそのままじゃない」
  先に関係のできていた浅里はともかく、いきなり醜態を晒した佳衣子は青くなって声さえない。明江は次に新しく揃えたものを並べさせる。浅里が手提げ袋から取り出して説明しながら置いていく。
 「麻縄、それから二穴責めの革パンティが二人分、前はバイブになっています。次に一本鞭と、先ほどお渡しした乗馬鞭。革の穴開きブラが二人分、乳首責めのクリップ四つ、最後にピアスが二人分で乳首とクリトリスの三つずつ。今回はそれだけです」
  隣りにいる佳衣子が生唾を飲む気配は見透かせた。M性が騒ぎ出す。そんなところだろうと明江は思った。
 「とりあえずはいいんじゃない。さっそく佳衣子に着けておやり。穴開きブラと二穴責めよ」
 「はい女王様、ふふふ、辛いわよ佳衣子」
  佳衣子を横目ににやりと笑う浅里。

  日頃のスタンスがそれでわかる。浅里は上に立っていて、佳衣子の性を牛耳っていたようだ。
  佳衣子にはピンクの首輪。それに合わせて革のブラもパンティもピンクの革。もうワンセットは青い革でできている。
  形のいい佳衣子の乳房が革のブラで搾り出され、円錐に尖った先にしこり勃つ乳首が飛び出すように張っている。濡れる股間を覗き込んで膣とアナルにディルドを打ち込み、Tスタイルのベルトを穿かせて腹のバックルで固定する。佳衣子はすでに息が荒く、発熱する女体を桜色に染めていた。
 「はい、よろしい。浅里は自分でできますね」
 「はい、できます」
  同じようにブラを着け、同じようにディルドを喰わせて青い責め具を穿いていく。浅里はあからさまなよがり貌。ブラに絞られる乳房は佳衣子よりも大きく張って、乳首が痛々しいまでに突出する。その乳房を揺らし、尻肉も内腿の柔肌もぶるぶる震わせて着衣完了。それから浅里はピンクと青の二つのスイッチボックスを女王に手渡し、二人並んで奴隷のポーズ。
  手の中に二つのスイッチを包みこみ、明江は眉を上げて、それぞれ弱くスイッチオン。ブッブッブッとくぐもった振動音が奴隷二人の腹の中から聞こえてくる。
 「ンふぅ、あ、あ、女王様、あっ!」
  声を上げたのは浅里が先。佳衣子は恥辱を噛んで噛みきれず、少し遅れて声を発し、しかし佳衣子の方が女体をしならせよがっている。浅里に開発された佳衣子の方が感じやすくなっているのか。

  可愛いものだと思うと同時に、女とはどうしてこうもあさましいのかと嫌になる。二人揃って腰をクイクイ入れてよがり、どちらもが眸色が溶けてとろんとしてくる。
 「奴隷らしくていいけど、そのままなら果てておしまい、つまらないわね」
  明江は立って、乳首を責めるステンレスのクリップを取り上げた。重量級の洗濯バサミといったところ。小さな鈴がついている。
  鰐口を開いてやって鼻先に見せつけて、醜いほどに突出する佳衣子の乳首を指先で揉んでやって引き延ばし、鰐口をかぶせていく。
 「あぅ、痛い、痛い! 女王様、痛いです!」
 「我慢なさい。パートナーが選んでくれたものでしょう」
 「はい。でも、ですけど、ああぁ痛いぃ」
  眉根を寄せた切なげないい貌をする。眸が潤み、吐息が熱を送風する。
  次に浅里。浅里は待ちわびたように乳首を突き出し、眸を閉じた。佳衣子への対抗心もあったのだろうが、奴隷として上位にいたいという想いもよくわかる。
 「よろしい、いい子よ」
 「はい女王様。ぁ、ぁ」
 「まだ何もしてません。ふふふ」
  鰐口を開いて二つの吸い口をつぶしてやる。くぅ、くぅ、と子犬が訴えるときのような声を出す。しかし痛いとは言わなかった。女の意地。佳衣子には負けたくないというプライドもあったのだろう。
 「さあ、いいわ、しばらくそうしてなさい。二人とも後でそことクリトリスにピアスですからね。奴隷となった身の上を思い知って感じるように」
  二つのスイッチボックスを、それぞれ一段強くする。ブゥゥンという振動音が腹に響いて漏れてきて、二人揃って奴隷のポーズをとったまま、尻を揺すり腰を入れてよがりだす。けれども乳首が揺れると痛みが走り、わかっていても乳首を揺らさず尻は振れない。

 「あぁン、ンっンっ」
  泣きそうな貌で佳衣子が痛みと快楽を訴える。
 「くぅ、くぅぅ、女王様、ありがとうございます、感じます」
  耐えながら悦びを訴える浅里。

  どちらも面白い存在だと思いながら明江は次を命じていた。
 「二人とも立って踊りなさい。いやらしくお尻を振って、おっぱいを弾ませて踊るのよ」
 「はい、あぁ乳首がちぎれそう。許してください、どうか」
  訴えた佳衣子に乗馬鞭を見せつけて明江は言った。
 「泣き叫ぶまで鞭がいい?」
  佳衣子はイヤイヤをして首を振って立ち上がる。両手を頭に置いたまま二人は立って、スイッチをさらに一段。ビィィーンという激震音に変化した。

 「わぅン、いい、ああダメ、イッちゃう、あぁーっ!」

  歳の離れた浅里と佳衣子、熟女が二人、痛みと快楽に歯を食いしばってもがくように踊り続ける。それぞれ肌に脂汗。総身痙攣。あぅあぅとろくに言葉にならなくって、佳衣子が先に膝を着いた。
 「どうかどうか女王様、もうダメです、お願いします。乳首が痛い、痛いぃーっ」
  泣いた佳衣子に対して、浅里は懸命に耐えようとして虚空にすがるように踊り続ける。
  M性では佳衣子、しかし耐性では浅里。佳衣子は心が折れるタイプ。さらにまたビアンとして二人は鏡像のようなもの。面白くなってきたと明江は内心ほくそ笑んで見くらべていた。