lez520

七話 白いM性

  定刻を過ぎて人の気配が失せたオフィスは、小さいながらも整然としていた。それはまるで、その日の清掃を終えた放課後の教室を思わせる。男性の眸のない女ばかりのオフィスは多少乱れていてもいいはずなのだが、横倉浅里が許さなかった。単なる綺麗好きではなさそうだ。几帳面ゆえそうなるのか、オフィスの中での自己主張だったのか、整然と並ぶデスク、その上のパソコン周り、来客のための応接セットも一応は用意され、そのほか小さな流し台からトイレまでどこを見ても綺麗にさせて乱れを許さない。
  そうしたK2の日常にあって、浅里の乳白の女体は突如として現れた淫らの像のように美しく、しかし整然としたオフィスとの激しいギャップを感じさせるものだった。浅里の肌はとりわけ白く、逆三角形にトリミングされて白い下腹に際立つ黒い毛は、レズの相手、社長である佳衣子との関係を連想させて、美しいからいやらしいといった不思議なムードを醸している。
  二十八歳の明江より六つ歳上の浅里だったが、とてもそうは思えない性的な若さに満ちた肉体だ。

 「ここはちっぽけなオフィスビルよ。この階に私たち二人だけ。多少の悲鳴なら気づかれないはず。この意味わかるわね?」
  プラスチックタイルのフロアに素っ裸で立ち竦み、デルタの性毛だけを手で覆う浅里の女体は、恐怖なのか鳥肌が立っていて、Dサイズの白い乳房の二つの吸い口が乳輪をすぼめてしこっていた。
 「はい女王様。でも、どうして私、そんなことって・・」
  浅里は混乱している。口で何を言おうが、そのときどう感じていようが、言われたことに従ってしまう自分が不思議でならない。
  明江はスチールデスクの椅子を引いて座り、足下を指差した。
 「ここに来て正座なさい」
 「はい女王様」
 「両手は後ろよ、体を隠さないこと」
  抜けるように白い肢体には、すでに編み目に毛細血管が浮き立っていて、全身の肌が桜色に染まってきている。浅里が座ると明江は椅子のキャスターを転がして間を詰めて、両手をやって白い乳房の二つの吸い口をつまみ上げる。
  乳首に触れる一瞬、浅里はわずかに切なげに眸を閉じて、すぐまた開けて、それまでちょろい部下だと思っていた明江の不可解な変貌を見つめていた。
 「浅里はレズよね? 社長とはどっちがどっち?」
 「私がタチです」
 「でしょうね。社長はネコでべたべたの関係。社長のこと愛してるんだ?」
 「はい心から。佳衣子は脆くて可愛い人です」
 「Mっぽいしね?」
 「それもあります。私には逆らえない。だから可愛い」

  溺愛している。だから社長がちょっとでも他の女に眸を向けるのが許せない。ピュアなレズラブは理解できていたのだが。
  明江は乳首をちょっと強くコネて言う。
 「嫉妬するのは勝手だけど下衆の勘ぐりもいいところ。社長は私に対してそうじゃないし、私だってそうじゃなかった。いままではね。小姑じゃあるまいし、いまどきスカートの長さまでいちいち言われたらたまらない。たかがパートを虐めてどうするの」
  浅里はうつむきがちにうなずいて、こくりと謝る素振りをする。
 「ごめんなさい、つい言い過ぎてしまいました」
  明江は、つまむ乳首をさらに強く揉み上げながら微笑んだ。
 「ぅぅン」
 「痛い?」
 「はい少し」
  明江はちょっとため息をつく。思ったほど悪い女でもなさそうだ。
 「許せないわけじゃない、そんなことはどうでもいいのよ。私の中のS女が騒ぐ。いまはそれだけのことですから。この私に可愛がられるのか、それとも虐待されたいのか。おまえは奴隷、これからずっと。そういう意味では許しませんから覚悟なさい」
  浅里は困惑する丸い眸で明江を見つめ、それでも逆らえずに誓う。
 「はい女王様、どうか末永く可愛がっていただけますようお願いいたします」
  乳首をいじられ続け、浅里の息が落ち着かなくなってくる。鼻筋の通った小さな小鼻がひくひくと蠢いて、眉間に浅いシワが寄せられて、ンふンふと甘みがかった吐息が漏れる。
 「膝で立って脚を開く。手は頭」
 「はい女王様」
 「私の前では常にそうして控えること」
 「はい女王様」
  勝った。奴隷のポーズをとらせたとき明江は君臨できたと実感していた。

 「淫ら毛はトリミングしてる?」
 「はい、いつも綺麗に」
 「自分でするの?」
 「いいえ、佳衣子にさせます」
 「させる? 命じてさせる?」
 「そうです、私はタチであの子はネコ。でもSMではありません」
 「精神的に君臨してる?」
 「そういう言い方をするならそうかも知れませんが、私だってしてあげますから」
 「社長もデルタはすっきり?」
 「あの子はパイパン。私の好みに合わせてくれます」
  明江は思わず笑ってしまった。平素の社長の物腰からも相手が浅里ならそうなるだろうと想像できたからだった。
 「Mよね社長って?」
 「そういうところはありますね。ですけど私がSじゃない」
  トリミングされてしなやかに薄い陰毛を指先でまさぐって、奴隷の眸を見据えながら指先をスリットに這わせていく。浅里の性器はすでに濡れ、リップを少し分けてやるだけで指先がヌルリと膣口に潜り込む。
 「ぁうン あぁぁ感じます女王様」
 「気持ちいい?」
 「はい、ありがとうございます、誠心誠意お仕えいたします女王様。これまでの失礼、心からお詫びいたします」
 「よろしい、いい言葉だわ。出ましょう。どっかホテル。私だってこんなところじゃ落ち着けない。ラブホにしましょ。下着を着けずに服を着なさい」

  オフィスの一角に、送られて来た商品の一部がボール箱におさめられて積んであり、その中に革工芸の商品がある。それはまさに今日届いたもので検品を明江がした。ジーンズベルト。女性用のベルトで革が厚くて細いもの。
  浅里のロッカーを覗いて、花柄のミニワンピースを選んでやり、浅里は全裸に一枚服をまとってオフィスを出た。生地は薄くはなかったし今夜は風がほとんどなかった。渋谷の裏町にあるホテル街まで歩かせて、部屋に連れ込み、ふたたび全裸で平伏させる。仁王立ちの足下に丸まる女体は乳白色。ラインが綺麗で肌に傷は見当たらない。
  真っ赤な革の細いベルトを、手にバックルを握り込んで長さを合わせ、平伏す女体の白い尻に軽く当てる。
  パシッ!
 「ぁぁン、ぁン」
 「ふふふ、いい声だわ。痛みも快楽よ」
 「はい女王様」
  振り上げてリストを使ってフルスイング。パシーッと尻肉に弾けるベルト。
 「ぁぁン! ぁン痛いぃ、女王様」
  甘えの声。こいつもM性が強いと感じる。明江は笑い、ベルトを大きなベッドに投げ出すと、一日仕事だった今日、ありきたりのベージュの下着の姿となって、ふわりと沈むベッドに座る。
 「足からキスよ。指先から腿まですべて丁寧に」
 「はい女王様」
  ふふふ、やったわ。奴隷となって足の指を口に含んで舐め回す浅里を見ていて、明江はこれから先の奴隷像を想像した。
  コンパクトデジカメのレンズを向け、奴隷の素顔にフラッシュを浴びせてやりながら明江は言った
「旦那とはどうなの? 訊くまでもないか」
  浅里は女王の片足を拝み取って足指を舐めながら、もうダメと言うように左右にちょっと首を振った。
 「別れるつもりでいるんです。別れて佳衣子と二人で暮らそうかって。ほとんど家にも帰ってないし」
 「そうなの? 帰ってない?」
 「ほんとにときどき。すでにあの子と同棲状態。主人は外で適当にやってます」
 「なるほどね」

  同じ女として何かを言うなら浅里の気持ちはよくわかる。
  それにしても、明江はこのとき、同じマンションに住む陽子に対してとてもSにはなれないと思っていたのに、相手が浅里や佳衣子なら君臨できると確信し、そんな自分に得体の知れない不気味さのようなものを感じていた。すでにもう空狐の力はなくてもいい。浅里を堕とせば佳衣子だって牛耳れる。私はサディストに変貌していく。そうなるシナリオは描けていた。
 「じゃあ体に少しくらい傷ができても大丈夫よね。乳首にピアスなんて可愛いじゃない」
  浅里は一瞬声を噛む素振りをしたが、すぐにうなずき、むしろちょっと微笑みを浮かべていた。
 「笑える話なの? そんなことになってもいい?」
 「はい、それならそれで宙ぶらりんよりずっといい」
  明江はしばし無言で見つめた。
 「いろいろあったようね?」
 「それは、はい、言えないことはたくさんあります」
  陽子も同じようなことを言ったし、それと共通する何かを浅里に対しても感じる。なのに陽子のときは同情的になってしまい、相手が浅里だと、だったら都合がいいと考えられる。
  明江は無表情で言った。
 「おまえを愛したりはしない。だけど心は受け取るし情だって湧いてくる。私は女王、おまえは性奴隷」
 「はい女王様、お誓い申し上げます」
  腿の根までキスが這い上がり、ムズムズとした性波が明江の奥から痺れを導き出して濡れてくる。
 「もういいわ、下に寝なさい」
  フロアにのびた女体をまたぎ、ベージュのパンティを膝まで降ろしながら、いまはまだ乾いて閉じた肉リップを浅里の鼻先に突きつける。浅里は下から見上げている。
 「シャワーなんてしてませんから。トイレの後ならおまえは紙よ、ちゃんとできる?」
 「はい女王様」

  ねえマジなの? 空狐の妖力とわかっていても、ほんとにそれだけなんだろうかと思ってしまう。浅里はもしや激しい性を望んでいたのでは?
  レンズで自分のデルタ越しの奴隷の顔を切り撮って、明江はそっと腰を降ろした。

 「あぅン、いいわよ感じる、素直になったね」
 「はい女王様、嬉しいです」
  明江と浅里の痴態とそっくり同じ状況が、遠く離れた303号、紀代美の部屋でも再現された。奴隷となって三か月。陽子は独りの夜には決まって紀代美の部屋へやってきて、いまでは調教を生き甲斐の一部分に織り込んでいるようだった。
  全裸の陽子をフロアに寝かせ、顔にまたがり、アナルから丹念に舐めさせて、乳首をツネリ上げてやる。投げ出した下肢が痛みにしなり、けれども陽子は責めから逃げなくなっている。
  呼び出しが深夜なら、一階上の401号から裸のままでやってきて、戸口ですでに濡らしている。残酷なオモチャも揃え、際限ないアクメに錯乱して果てていく。しかし陽子の肌に傷はない。紀代美もそうだし明江だってS女になりきれてはいなかった。言うならばハードレズ。精神的に君臨しながら、従者となった陽子を飼っていく。まさにペット。性的な飢えにもがいていた陽子にとって、それは蜜の味がしたはずだ。
 「惨めよね? お尻の穴を舐めるなんて?」
 「いいえ女王様、捨てないでください。嬉しくてならないんです」
 「マゾにおなりって言っても?」
 「はい。独りはもうイヤ、可愛がられていたいんです」
  可愛いことを言う。尻を抱いてアナルに吸い付く唇を引き剥がし、腰をずらして濡れるリップを与えながら、紀代美は前にそっと倒れ込み、大きく開かれた陽子の性器へ顔をうずめる。ヌラめいて濡れている。女がこれほど濡らすのは相手に慕情を感じるとき。

  奴隷が下の69。陽子は腰を上げてデルタを突き上げ、紀代美の舌先を体に招こうと試みる。
 「あぁン素敵、素敵です女王様、おかしくなっちゃう、あ、あ、ぁぁン」
  小鳥のように震える熟女。こちらも紀代美が三十歳、陽子が三十八歳の逆転主従。苦しんだ時期が長かった分、陽子は格下についてプライドを捨てられる。
 「少し痛いわよ、耐えてごらん」
 「はい!」
  包皮を飛び出すクリトリスを吸い出して引き伸ばし、クリ根の皮膚に犬歯を当ててカリッと噛んだ。
 「わぅ!」
  脚線肉が筋繊維を浮き立たせて締められて、尻の肉もきゅーっと締まり、直後に弛められてブルブル震える。クリトリスの根からうっすら血の味。
 「いい子ね、よく耐えたわ」
 「はい、嬉しいです女王様、どうか私を捨てないでください」
 「そのためにはもっと頑張らないと」
 「はい!」
  孤独の底でもがいていた女の気持ちは紀代美にすればわかりすぎるほど。表向きの夫婦像にすがりついて生きている。私もそうだったと紀代美は思い、復讐の手段を持たない陽子のことが、だからよけいに健気に思えた。
 「ご褒美です」
 「あぁ、はい、嬉しい。あぁン狂っちゃう」
  極太のインサートバイブ。ラバーベロが激しく震えてクリトリスを責めるもの。よく濡れた熟女の膣は太い茎を苦もなくほおばり、クリトリスの位置を確かめて一気に突き込む。スイッチオン。
  陽子はのたうちもがき、上に載る女王の体をリフトアップするように反り返り、快楽の叫びを女王の膣に吸い付くことで紀代美の体内めがけて叫んでいた。

  ベシッ!
  愛液でヌメる性器がベルトの先に襲われる。そのつど浅里は開ききった腿を反射的に閉ざすのだったが、すぐにまた大きく開ききる。逆さになって顔にまたがり股間をくまなく舐めさせながら、長さを合わせた赤い革ベルトでクリトリスを打ち据える。浅里は腰を上げて恥丘を差し出す。浅里の中に眠っていたマゾ牝が目覚めたようだ。
 「ごめんなさいは?」
 「わぁい、ごめんなわぁあぃ」
  膣舐めさせられ声にならない。
  ベシッ!
 「ぐわぁぁ!」
 「ごめんなさいは?」
 「わぁい、ごめんわさぁい!」
  これまでの反省と仕置き。クリトリスが腫れ上がってもかまわない。尻の下で泣きじゃくる浅里。それでいて懸命に舐めようと舌をのばし、泣き声を膣奥めがけて叫んでいる。今夜も明江の家は主人が不在。
  腰をちょっと浮かせて言う。
 「身に染みたよね?」
 「はい心から。許してください女王様」
 「それはダメ、おまえは奴隷よ、許しませんから。SMの道具なんて言わずもがなでしょ。次までに揃えておくように。ピアスもね」
 「はい、誓います、きっと」
  可愛いと感じるほどサディズムが沸騰する。明江は狙いすましてクリトリスへベルト鞭のフルスイング。まともにヒットしたらしく、浅里は尻肉をフロアにばふばふ打ちつけて、のたうちもがく。

  明江は頬を歪めてにやりと笑った。浅里だけじゃ可哀想。佳衣子も餌食よ。二人の女を突き落としてやるからね。エスカレートする想いが止められない。空狐の力なのか私自身の残酷なのか、ふわふわと浮くような不思議な感情が業火となって燃えさかる。

  いまごろきっと・・。
  紀代美は今夜の明江を想像していた。陽子はとっくにくたばって、股間にバイブを突き刺したまま、白目を剥いて動かない。
  紀代美はささやく。
 「いまはいいのよ。あなたの運命を決めていくのは私です。ふふふ」
  超常の力を得たときの私に似ていると紀代美は思う。鬱積したものが多ければ多いほど恐ろしい反動がやってくる。あの子はすでに旦那が邪魔だと考えているだろう。女が夫婦関係にすがりつくのは無力の証。男なんて星の数、女も腐るほどいるでしょう。いい気になりすぎて、いつか気づき、どうしようもない呵責が襲う。 そのときこそ私の出番。後戻りできない世界の中へ引きずり込んでやるからね。紀代美は気絶したまま乳房を揺らして息だけをする陽子を見つめ、その裸身に明江の裸身を重ねて微笑んでいたのだった。