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スパイ(二五話)


  宇宙観測の新たな拠点、新しいムーンアイモジュールが完成した。
  それまでのムーンアイは、月に最初に送られた宇宙船の船体を改造して利用したものであり、月の地表に置かれた船体に地下都市からのスリーブをつないで行き来していた。
  新しいムーンアイは特殊樹脂製の半球形のドームを持ち、月面望遠鏡ムーンアイとそのコントロールルーム、さらにそれと同じドームの中に、はるかに広くなったムーンカフェが併設されるものだった。地表に出るドームと地下に重なる空間が一体とされていて、月面でただ一つのリラクゼーションルームともなっている。ムーンカフェも格段にひろげられてジョゼット一人ではまわせない。そこで選ばれたのがターニャだった。ジョゼットがムーンアイにこもるとき、主にターニャがカフェで働く。ターニャを推したのは早苗。ビアンでマゾというターニャにとって男性は遠慮したい存在。触れ合う場を持たせてやりたいと考えたからだった。

  大きなカウンターの一方にドリンクマシンが置かれてあって、コーヒーぐらいならセルフでこしらえ、広いホールに点在する七十席あるテーブルへ運んで楽しめる。オープンカウンターは十五席。そこは一人でやって来た者たちが集まるところ。カウンター席は人気があって、つまりはジョゼットと話したくてやってくる。ムーンアイが夜の側にあるとき天文学者は観測を主とすることを知っていて、そうなると話し相手は若いターニャ。男たちが群がって席につく。シルバーメタリックのスペーススーツはタイトフィット。女性らしいボディラインを隠せない。

  そのとき地球から見る月は三日月でありムーンアイは夜の側に位置していた。
カウンターには男が七人、女が三人、二席が空席。その空いた席に早苗がやってきて、カウンターの中にいてまだ不慣れで平静ではいられないターニャに微笑みかけた。
 「ターニャ、ダージリンがいいわ、アイスで」
 「はい」
 「あらそれだけ? いつも通りにちゃんとなさい」
 「ぁ、はい。かしこまりました・・女王様」
  女王様? そんな二人のやりとりに、そのときカウンターにいた男女すべてが二人を交互に見つめている。ターニャと女医の早苗がそういう関係であることを知る者は少なかった。月面都市も七万人規模にまで大きくなった。
  早苗は言う。
 「スペーススーツが似合ってるって思わない? ラインが綺麗。お尻もぷりぷり胸もいい。ふふふ」
  言葉責め。白人のターニャの白い頬が見る間に赤くなっていく。
 「それがこの子の愛なのよ。そうよねターニャ? 思うままを言ってごらん」
 「はい女王様。私はずっと男性が怖かったんです。女性が好き。それも女王様を求めていました。私だって何かがしたいと思い志願して月に来て、だけど怖くて怖くてならなかった。私の愛は極限の中にしかない。ずっとそう思ってましたけど月こそ違う意味でも極限の世界です。すがっていられるのはそこしかない。私なりの性。早苗女王様と出会うことができたとき、これで生きていけるとほっとして」

  早苗は黙って聞いていて、皆もまた黙って聞いていて、それぞれ共感し合っていた。夜の側の月面はマイナス170℃の死の世界。
  早苗は言った。
 「人は地球に生かされているものよ。苦しいとき迷ったとき寂しいとき、青空や海や山や、お花もそうだし小鳥の囀り、町で猫に出会ったり可愛い子犬に眸が輝いたり、地球にいれば感謝することもないすべてのものに癒やされて、だからバランスを保って生きていられる。月では唯一、ぬくもりだけ」
  皆はそれぞれにうなずいて、ターニャを見る眸もやさしかった。
  この日本人の女医がセックスを解放した。月にいる皆がそれを知り、賛同し、女たちは避妊薬を受け入れた。盲目的な愛は禁物。男女の愛で子を持つことはできなかったし、生殖実験で産まれた子だけが許される、まさに歪んだ性世界。愛よりも人間同士の情の絆。こうして性をあけっぴろげに語れるのも月だからこそだと早苗は思う。

  早苗は言った。
 「私はS女だった。気づかせてくれたのはターニャだわ。月に来た最初の頃、私だって怖くて寂しくて、ずいぶんオナニーしたものよ」
 「先生でも?」 と、若い女の一人が横目に見た。
 「その言い方やめてくれない。痒くなる。いまは都市らしくなってきたけど、その頃は未知の星よ。狭い船に監禁されて生きていた。事故もあったわ。宇宙服をちょっと破くだけで死は一瞬。可哀想な体を見ていて私は何もしてやれない。地球の死じゃないんだもん。一気圧を失った遺体は無惨に壊れる。私は震えた。誰か助けて誰か抱いて、お願いだから胸で泣かせて。そう思って震えていたしセックスの意味を思い知った気がしたわ。私でいいならあげるから誰か犯して。それは魂の叫びだったのよ」

  地球上のカフェでなら淫乱か変態の会話だったのかも知れないが、カウンターの誰一人、ターニャや早苗を侮蔑する者はいなかった。
  ターニャが言った。
 「まず愕然としたのは体重なんです」
  皆の目が一斉に寄せられた。
 「たった8.5kgなんですよ。地球にいたら50kgほどあるはずなのに。モジュールの中でぴょんと跳べば天井に頭をぶつけるんだもん」
  皆がちょっと笑う。
  ターニャは言った。
 「地球にいたらはばかられることも、ここでならできそうな気がした。そう思ったとたん私の中で何かが弾けたんです。生きているいまを生きていたいと考えて」
  早苗は言う。
 「いい言葉だわ。生きているのに死んでるみたい、そんな女は地球へ行けばたくさんいる。月では違う。女は女を謳歌して男は男を謳歌する。新しい文明をつくっていきたいと考えたのよ」
 「それって原始人ですよね」 と、若い男の一人が言った。
  早苗は眉を上げて微笑んだ。
 「ジャワ原人以前の人類へ戻りたい。人はどこかで道を踏み外してしまったの」

  そのとき、また別の若い男が早苗に言った。
 「貸し出しはなされない?」
  早苗は眸を丸くして声の先へと視線をなげた。逞しい青年。金より銀色に近いショートヘヤー。デトレフを若くしたイメージの精悍な男性だ。
 「ターニャを貸し出す? 奴隷として?」
 「そういうことってあるじゃないですか、調教の一貫として」
  早苗は横目にターニャを見つめた。ターニャはデトレフの肉体を知っている。
  ターニャは真っ赤な頬でうつむいて声も出せない。怖いのだ。
 「いいわよ、お望みならどうにでもしてやって」
  ターニャがすがるような眸を早苗に向けた。
 「ただし、たっぷり可愛がってやることね、失神するまで」
  にやりと笑って眸を向けると、ターニャは心が震えている。期待している。男を受け容れる牝になってほしかった。
 「Mとは、身を捧げて情を得ること。そうよねターニャ?」
 「はい女王様」

  ルッツの店の奥の間で、黒いマントを許されたマリンバと、ブルーに透けるネグリジェ姿のミーアが二人。ここにも困った女がいる。ビアンでマゾ。それがミーア。しかしミーアもまた男たちを許容する心を持つまでに成長していた。
  地下にある無線機のあるところから部屋へと戻った留美。女王と見定めたボスが戻ると、ミーアは待ってましたとばかりにフロアに平伏して迎えた。
  留美はちょっと鼻で笑う。
 「月の裏側ですって」
 「えっえっ?」
 「デトレフ大佐よ。部下を五十人連れてこれから軍船で月の裏側。エイリアンの痕跡も探してみたいっておっしゃってた」
  部下の半数は月面都市に残している。間もなく次の輸送船がやってくる。月面都市が拡充されて人員がさらに増える。監視の眸がいるということ。
 「今回は二千人らしいのよ」
 「そんなにたくさん、いっぺんに?
 「そうみたいね。今回からは大きな宇宙船を二隻連結して、まさに宇宙列車で向かうんだって。SFだわ、ちょっと信じられない話よね」
 「月ではもうそんなに暮らせるように?」
 「らしいわよ。地下住居が次々にできてるそうで、近いうちに二十万人規模の都市となる。彼らはSFに生きていて私たちは西部劇。その両方で同じことが起きてるなって思うのよ」
 「同じこと?」
 「セックス。男女のセックスフリー、ビアン、ホモ、SとかMとか、向こうではあらゆる性が市民権を得ているらしい。もはや月の文明だって笑っていらした。おまえたちは幸せだって言われたわ。青い空を見上げて深呼吸、それさえできない牢獄のようなものだからって」

  そして留美はマリンバを見つめる。ミーアはまだネグリジェを着ていたが、マリンバはマントを脱いだ全裸の姿。外されたことのないステンレスの首輪だけがキラキラ輝く。白く熟れたいいヌード。
  留美は言った。
 「そのときふと思ったのよ。マリンバはそうして生きてきたんだなって。それを強制したのは私。残念ですけど私は地球人のモラルに生きる女でね、それはすごく残酷なこと。恨まれてるだろうなって思っちゃう」
  マリンバは、そうではないとスキンヘッドを横に振る。留美はミーアに命じてやった。
 「責めてやりなミーア」
 「私がですか?」
 「バートが言ってた。このところマリンバに元気がなかったでしょ」
 「ああ・・それをバートさんが何て?」
 「歳だから相手にされなくなってきたって思ってたらしいのよ」
  ミーアはハッとするように、ちょっと笑ってマリンバを見つめる。
  留美は言った。
 「飼うと決めたそのときからマリンバは生涯マゾ牝。おまえは牝だと言って抱いてやったって。バートらしい言いざまだわ。やさしいもん。月では生殖実験がはじまって」
  これにはミーアとマリンバが眸を合わせる。
 「私たちのような囚人の娘らを送り込んで凍結精子で妊娠させる。子供たちが次々に産まれてるそうなんだけど、非人道の極みは、その胎盤さえも蛋白源とする試みがはじまっているそうで」
  呆然としてミーアが言った。
 「蛋白源て、それはつまり・・」
 「食料としてってことでしょう。宇宙へ旅立てば一切の補充はない。五百万人の人々をどうやって生かしていくのか。ミミズや昆虫、胎盤そのほか利用できるものはすべて食料。最先端プロジェクトは地球のモラルを否定するものでもあったって、大佐ったら笑い飛ばしていらしたわ。いっそ潔く滅亡すればいいものをっておっしゃってね」

 「私は幸せな女です」

  マリンバの小声は留美にもミーアにも聞こえていた。
 「殺されて当然なのに牝の悦びをこれでもかと与えられ、生涯牝のままでいいとバート様に言っていただき、嬉しくて嬉しくて泣いてしまいました。ですから恨むなんてとんでもありません。マゾの性を教え込まれてお役に立てることが嬉しいんです。HIGHLYの女たちは可哀想だわ、がんじがらめ」
 「そうね、そうかも知れない」
  留美はうなずく。留美の笑顔にも女の慈愛が満ちていた。
  マリンバは女体の奥底のすべてを留美に向けて晒しきり、責めへの期待に濡れはじめるマゾの性器へ、ミーアが手にした乗馬鞭が手加減なく入れられていくのだった。

  月の裏側。比較的小ぶりな軍船は、ロケット噴射で浮上しては着陸しを繰り返して一月をかけて探査を続けた。エイリアンが爆破したと思われる棲み家の痕跡は発見できない。月では大気がなく雨も降らずクレーターは風化せずにそのまま残る。爆破でおそらく円形に拡がった痕跡はちっぽけなクレーターの一つでしかなく、したがって見落としてしまうのだ。月面は広大だった。
 「およそ真裏か」
 「ええ真裏にあたります。殺伐とした光景です」
 「まったくだ、恐怖としか言いようがない。やがては開発されるんだろうが」
  デトレフと部下の大尉が軍船のガラスエリアに立っていた。そろそろ探査も終わる。食料も酸素も燃料も残りわずか。デトレフが引き上げを命じたすぐ後に無線が入る。暗号化された軍用無線であり、地球で傍受してもノイズとしか認識されない信号だった。
 「輸送船78番79番艦が地球を出ました」
  ややデジタルチックな声のトーン。
 「了解した。我々も帰路につく」
  黒い空に浮遊する黒い軍船がロケットに点火して音もなく推進した。

  超大型輸送船78番艦は、地球の静止軌道上に浮く宇宙ステーションで建造されたもので、推進のためのロケットを持たず着陸のときの逆噴射しかできない船体。それも海老沢の設計だったのだが、それまでの船体を79番艦として後ろに連結。そのメインロケットで推進する。やがてはそうした大型宇宙船を五隻十隻と連結して人員と物資を一気に運ぶ態勢がとられることになるだろう。五百万人を運ぼうとすれば一便一万人としても五百便。やがてはさらに大きな船を設計しなければならなくなる。

  新設されたムーンアイのガラスエリア。ジョゼットと海老沢が並んで黒い空を見上げていた。はるか遠くの同じ位置に青い地球は動かず浮いて美しかった。
  そしてその月の地平線の上空に、滑るように進む軍船の姿が見える。軍船は速い。船影が見る間に大きくなってきて、そのときムーンアイへの無線が飛び込む。
 「戻ったらコーヒーを頼む」
  デトレフの声。ジョゼットは海老沢に横目をやってちょっと笑った。
 「わかってますって。それで裏は?」
 「収穫らしきものはなし。荒涼たる景色だよ。彼らがいたのなら痕跡ぐらいはあっていいと思うんだが、どうやらすべては地下。あの廃墟のような空間が地下にあり、その開口部にUFOがドッキングしてモジュールが完成する。そう理解すればいいのだろうが地上に痕跡らしきものは一切なかった」
 「月は広いさ。一月程度で発見できなくてもしょうがない」
  海老沢が言い、それに対してデトレフが応じた。
 「しかし、どう考えてもこれほど巨大な星が宇宙船になるものか。人類とは凄いものだと驚嘆するよ」
  話す間にも軍船はぐいぐい近づいて来て、オレンジ色の逆噴射をかけてムーンアイそばの広大な大地に着陸した。軍船は、いまはまだ地下都市にドッキングできるようにはなっていない。宇宙服で降り立ってムーンアイまで月面車というプロセスを経なければならなかった。それは機密保持のため。地球への無線は唯一軍船でのみ発信できるもの。

  ムーンアイへの戸口、エアーチェンバーのドアの前にシルバーメタリックのスペーススーツを着た姿で早苗が出迎える。チェンバー内で宇宙服を脱ぎハッチを出たデトレフもまたスペーススーツ。一月ぶりのデトレフは少し痩せ、ますます精悍に感じられた。シルバーメタリックの男女は抱き合ってキスを交わす。
  ムーンアイに併設されたムーンカフェ。時間が遅くカフェは無人。いつもの四人でカウンター。カウンターの中にターニャさえもいなかった。
  デトレフは言う。
 「およそ目星はつけてきた」
  海老沢はうなずいた。
 「やはり隠すか?」
 「とりあえずは。しかしそれほど猶予はない。俺ももう五十を過ぎた」
  宇宙空間へ投棄した膨大な量の核兵器。廃棄船が月へと戻ったとき、まずは埋めて隠しておくという話。
  TIMES UP。地球を終わらせる手段には四つの候補があった。
  そしてそれ以上に、あまりにも悪魔的な行為を実行に移せるのか。顔を揃えた四人には、この段階ではまだ明確な答えは出せていない。

  地球終焉の四つのプラン。
  まずはプラン1。あのときジョゼットが発見した火星と木星の間の小惑星帯に核爆弾を送り込み、小惑星の軌道を変えて地球へ落下させようというアイデア。しかしこのプランでは確実性に乏しいことと、そのとき的を外してしまえば彗星のように次なる接近を待たなければならなくなる。利点は、それだと廃棄船の事故に見せかけることができるということのみ。

  次にプラン2。月面地下の岩盤下で膨大な量の核爆弾を一気に爆発させ、宇宙空間へ巨大な岩石群をまき散らしておいて地球の引力で落とそうというもの。板チョコのように岩盤に切れ込みを入れておけば、かなりなサイズを吹き飛ばすことができるだろう。巨大隕石の衝突ということだ。

  そして究極の選択はプラン3。核爆発で月そのものの軌道を変えてジャイアントインパクトへ持ち込むアイデア。月を爆弾として地球にぶつけようというものだった。
  デトレフは言った。
 「プラン1はギャンブル、プラン3なら、そのとき月に留まる皆を犠牲にしなければならなくなる。何のために苦労したのか。皆を裏切ることにならないか」
  ジョゼットは言った。
 「同じことよ。地球の人類が滅べば月も終わる。ムーンシップ完成前の段階では数十万の人を生かしておくキャパはない。皆を裏切ると言うのなら、どのみちすべてが裏切りよ」
  デトレフは言う。
 「そうだろうか。月は巨大だ。一部を爆破したところで月そのものを破壊できるものじゃない。食料、水、酸素やそのほか生存に必要なところから整備していき、生存のチャンスだけは・・ううむ、無意味か・・」
  その世代だけが生き残れても、ムーンシップ完成前に補給が断たれてしまってはどのみちおしまい。

 「可哀想なのは月の子らよ。生殖実験なんて子供たちには無関係。そのとき地球上でも子供たちはたくさんいる。滅亡するなら人類すべて。いいえ地球生命のすべてだわ。およそ六十年後に太陽系は崩壊する。非道の限りを尽くしておいて、そのときたった五百万人を生かすことに意味はあるのか、それも存続のための家畜としてよ」
  早苗の言葉に三人はただ黙ってうつむいた。
  沈黙の中に海老沢の声がした。
 「あのエイリアンだが、いかに科学が進んでいるとは言え、現実的にはプロキシマケンタウリあたりが距離的にも有力だろう。彼らはその惑星、プロキシマBの生命体。とすればだよ、蛮族たる人類がやってきて歓迎するとは思えない。我々は滅亡を選択した。ゆえに彼らはそれを見届け去って行った。もとより彼らはジャワ原人を連れ去って向こうで保護しているだろう」
  ジョゼットが言った。
 「そうであるなら末路は同じよ、どうあがいたっておしまいだわ」
  デトレフがつぶやいた。
 「思うに、心のどこかに俺たちはもういいという思いがあるのではないか。そのとき皆は老人どころか朽ち果てているだろう。すでに生きた。充分生きた。後のことはどうでもいい。あまりにも利己的な判断ではないか。太陽系の崩壊であれば神の意思として受け入れられる。そう思うとやりきれなくてね。いまの子供はまだいいさ。そのときすでに老人だから」
 「私たちさえ死ねばいいこと?」
  そう早苗が言って、デトレフは声も発せず、うなずきもしなかった。

  さらに選択肢はもう一つ。ムーンシップを旅立てなくしてしまう。中性子星に運命を委ね、地球と月は悲恋の男女のように寄り添って消えていく。これがもっとも簡単な方法なのだが、愚劣な人類を自滅させなければ許せない思いが整理できない。
  TIMES UPはドラマチックに幕を引きたい。
  暗澹たる想いでいると、そのとき軍船からの無線がデトレフが持ち歩く端末へと着信した。
 「たったいま地球のジョエル大尉からコールがあり」
 「ジョエルから? うむ、それで?」
 「数日後に二千人の人員が到着しますが、そのなかにスパイが紛れ込んでいるようだと」
 「スパイ?」
 「はい、信頼できるスジからの忠告だそうで、数は数名、性別その他は不明だそうで、こちらで手を尽くして探ってみるが、判明するまでは用心されたいと」
  デトレフは三人を見渡しながら言った。
 「了解した」
  デトレフの眸が鋭い。
 「地球の穢れがやってくる、最悪だわ」
  早苗が言って、デトレフはわずかなため息を漏らしていた。