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 LOWER居住区(五話)


  自然のままの洞穴は奥へと踏み込むほど広くなり、ところどころに岩の亀裂から外の明かりが射し込んでいたのだった。洞穴の入り口あたりは岩盤が裂けたようなものだったが奥へと進めば白い石筍がそこらじゅうにはびこる鍾乳洞で、地底にかなり大きな池がある。そしてそのあたりから丸く抜けた横穴がいくつも連なっていて、それぞれが人の棲み家とされている。
  洞穴で暮らすといっても石器時代ではない。大きな池のあるあたりから分岐するそれぞれの横穴には、外界から持ち込んださまざまな道具が置かれ敷物も敷いてあり、それなりに暮らせそうな部屋となっている。横穴への入り口にはそこらの廃屋から毟り取ってきた扉が立てかけられてあって、言うならば質のいいホームレスの住まいのようにされている。

  山賊のボスらしき亮という日本人の逞しい背中を見つめて歩く留美は、恐怖よりも女としての運命を覚悟していた。話に聞くLOWERたちの最低限の法やモラルもここにはない。荒くれ男どもに連れ去られたキャリーはいまごろ、いやおうなく牝扱いされているだろう。私もそうなる。拒むなら死。そうした思いが覚悟となって、むしろ恐怖は去っていた。
  ボスの部屋に立てかけられた扉は白いドア。亮が両手で軽々と持ち上げて女を先に中へ入れると、どうしたことかドアを閉ざそうとはせずに岩壁に立てかけておき、亮は平らな岩の上に置かれたシングルサイズのベッドのクッションに腰掛けた。留美はその前に突っ立っている。どうしていいかわからない。

  と、そのとき、部屋の口に歩み寄る気配がして、外で飯の支度をしていた黒人の女が茶色のスチールカップを二つ用意して持ち込んだ。その女は背が高く、東洋人の中に入ると男の背丈とそうは違わない。大柄なのだが背が高いからスリムに見える。南半球ではいまは初夏。Tシャツの胸が張って腕が長い。ブルージーンの股下も細く長く、さながら黒豹を見るようだった。
 「コーヒー飲むだろ?」
  英語だった。
  亮はちょっと笑って言う。
 「ああ、もらうよ、ありがとな。おまえ体はどうだ?」
 「うん、もうすっかりいいよ、死ぬかと思ったけどね」
  女の笑みがやさしいと留美は感じた。
  灰色の囚人服で突っ立ったままの留美に目をやり、亮が言う。
 「こいつはコネッサ、元はスペインだ。毒蛇にやられちまってな。ここらにゃうじゃうじゃいるからよ」
  ああ、それで・・と留美は思い、同時にそのとき首を傾げる気分になる。
  ここで女は性奴隷と思っていたのに様子が違う。コネッサは、じきに飯だよと言い残して去って行った。

  二人になって、亮は、ベッドからクッションだけを剥がして置いた寝床のそばにコネッサが置いていったスチールカップを顎でしゃくって言う。
 「飲め。いつまで突っ立ってやがる、座らねえか」
 「はい、ありがとう」
  ゴツゴツとした岩の上に座ろうとすると、亮は寝床の端を顎でしゃくった。留美はうなずき、亮の横に静かに座ってスチールカップに手をのばす。
  亮は言う。
 「俺ん家もWORKERだった。親爺も妹もこの大陸のどっかにいる。俺に言わせりゃWORKERこそが奴隷だぜ。武器を許されないというだけでHIGHLYそのままの暮らしができる。逆らったり問題を起こしたりすれば即刻LOWERさ。それが怖くて何もできない何も言えない。ふざけるな。まっぴらだ。家をおん出て、それからずっとこんなもんよ」
  留美はちょっとうなずいて、スチールカップを両手にくるんで亮の横顔を見つめていた。日本人にしては彫りが深く、顎髭も少し濃い。ハンサムとは言えなかったが精悍なイメージだった。背丈はまあそこそこ高い。
  亮は言う。
 「さっきも言ったが逃げたきゃ勝手にするがいい。ここらの森は毒蛇だらけよ。歩いてりゃそのうち町に出るだろうが、行ったところでどうなることやら」

  それから亮はソフトなパッケージがくしゃくしゃに潰れた煙草の包みから、ひん曲がった一本を抜くとまっすぐになるよう整えて火をつけた。ふぅぅと一息を吐き捨てて、留美の顔を見て言った。
 「ところがどうよ、こっちに来てみりゃ、こっちはこっちでひでえことになってやがる。向こうでは現代、こっちでは昔のまんま。さっきの人買いもそうだがな、中世以前の世界になっちまってる。HIGHLYどもも見て見ぬフリ。LOWERを減らしておきたい。生態系がぼろぼろで食い物にも限りがある。イザとなったら人間なんてそんなもんよ。何がモラルだ何が法だ。そうして流れているうちにダチができて、いまではこの有様よ。おまえは日本のどこだった?」
 「東京です」
 「うむ。俺は神奈川。しかしもはや国なんぞ存在しねえ。HIGHLYどもの都合で生息地を割り振られる家畜みてえなものなのさ」
 「そうですね、そう思います」
 「温暖化も止められそうだと聞く。オゾン層だって復活させようと懸命だ。しかしな留美、いっぺん壊された何もかもは戻らねえ。支配者と奴隷、さらに下の底辺層。ゆえにLOWERなんぞは人じゃねえ。略奪、暴力、自分さえよけりゃいいのエゴ剥き出し。女が欲しけりゃかっさらう。これが人間てもんなんだと思ったね」
 「訊いていいですか?」
 「ああ、いいぜ」
 「ここの女の人たちもそうやって?」
  亮は鼻で笑って飲みかけのコーヒーを一気に喉に流し込み、カーンと音を立てて岩の上に置くのだった。扱いが荒いからかスチールカップはデコボコになっている。

 「そういうことだが、もっといたさ。人買いどもからかっさらい、けど逃げやがった。蛇にやられて死んだ馬鹿もいたしな。逃げたところで若い女の行く末なんぞは知れてるぜ。WORKERどもも知っていながら手出しはしねえ。HIGHLYに睨まれたらおしまいだからな。モラルの中で抑圧された本性が暴れだす。ここはそんな世界なんだよ。ふふん、ところがどうだ、向こうではガキが足りないって焦ってやがる」
  留美がすっかり冷えたコーヒーを飲みきる頃、ふたたびコネッサという女がやってきて、スープボウルに満たした昼飯を置いて行く。肉と豆を煮たもの、それに形のいびつな大きなパン。どれもが女たちの手作りだった。
 「喰え。おまえは運がいいぜ、昼飯どきでなかったら押し倒していたものを」
  言葉は怖くても目がやさしいと留美は思う。
 「はい、いただきます」
 「こんなところで日本の女に会えようとは思わなかった。日本人はだいたいにおいてWORKERかHIGHLYに分類される。勤勉な国民性からして白人どもには扱いやすい。臆病者ばっかりだから怖くて言いなりになってやがる」
 「日本の女は少ない?」
 「ほとんどいねえな。若い女は特にそうだ、ここらじゃとんと見かけねえ。東洋系は多くても言葉が違う。それも運というものさ、たまたま割り振られた土地で生きるしかねえんだよ」

 「それは・・」 と言ったきり留美は黙り込んで与えられたものを口へと運ぶ。肉などぶつ切りの塊。鳥の肉だ。ワイルドな料理だったが美味しいものだし、それは女たちの心を物語るようでもある。
  亮は言う。
 「それは何だ? 言ってみろ」
  留美は顔を上げて、はじめてまともに亮を見つめた。予感などという曖昧なものではなく、運命によって引き合わされたリアルに存在する野生。性の運命に向き合ったとき留美の肉体は熱を持って潤いだしていたのである。
  留美は弱く言う。
 「それは向こうにいたって同じです。女はそうなの。都会で出会っても荒野で出会っても、この人しかいないと思うもの。偶然出会った男の人を愛するようにできている」
  亮はうなずく。この女は少しはわかっているようだと感じていた。いかにも日本人らしい潔さを持っていると感じていた。

  亮は言う。
 「こんなところでなぜ生きていられるか不思議じゃねえか。それはな、どの階層も脅かさないからよ。LOWERにももちろんモラルはあって、さっきの人買いもそうだが略奪や盗賊には気分がよくない。俺たちはそこを狙う。LOWERを取り締まる奴らはつまりはWORKERどもさ。面倒を省いてくれる俺たちはむしろ好ましいというわけでね。LOWERたちもそういう目で見てくれるしよ」
 「武器はどうやって?」
 「ふふん、旧世代のガンぐらいはあるところにはあるものさ。それだって見つかれば処罰されるってことでWORKERどもが手放すのよ」
  LOWERには、狩猟のために届け出た散弾銃ぐらいしか許されてはいなかったし、武器といえば弓や刀や棒切れぐらい。まさに時代を逆行するものばかり。対してHIGHLYは高エネルギーレーザー銃そのほか最新の軍備を備えている。逆らえば死という恐怖が地球を支配していたのだった。

  食べ終わった器を重ねて留美は言う。
 「これ、どうすればいいんですか?」
 「置いとけ、コネッサが取りに来るさ」
 「いい、私が持ってく。おトイレもしたいし」
  そのときの留美はさっぱりさばけた面色だった。亮は一瞬まじまじと見つめたが、便所は外だと顎でしゃくった。
  部屋というのか穴ぐらというのか、外に出ると鍾乳洞にかすかに風が流れている。岩の亀裂から吹き込む風が洞穴の入り口に向かって吹き出しているのである。人の気配のない鍾乳洞は地球の胎内に入ったような錯覚を覚えさせ、さらに歩いて外に出ると、そこだけ森をくり抜いたように青い空が見渡せた。オーストラリア大陸は大きい。このあたりはよくても南端に行けばオゾン層が危うい。最後に残された楽園。そんな気がする。

  外に出てみると女たちが料理をする小屋の周りに何人かの男たちが集まっていて、楽しそうに声を上げながら食べ物を囲んでいる。男の数が少ないしキャリーの姿もそこにはなかった。多くの男たちに囲まれて森の奥へと連れ去られたまま戻っていない。男たちが白い女体に群がっているのだろうと留美は思った。
  洞穴から出てきた日本人の女を見つけると皆の目が一斉に寄せられた。囚人服を着込んだまま。
  留美は重ねた器とスチールカップをコネッサのもとへと運んでいく。
 「おや、持って来てくれたのかい」
 「はい、ごちそうさまでした、美味しかった」
  留美は片言よりも少しはましな英語で言う。コネッサは器を受け取りながら、それとなく皆に視線をやって、そして言った。
 「名は何て言ったっけ?」
 「留美です」
 「ルミ? ふうん、そうかいルミかい。おまえは運がいいんだよ。ここには亮に救われた者たちがたくさんいる」
 「救われた?」
  その問いに、すぐそばで食べていた褐色の肌の男が言った。

 「俺もそうさ。あの頃はまだガキみてえなもんだった。喰えなくて盗む。捕まれば拷問される。そんとき亮たちが現れて助けてくれた。亮は行く先々で仲間を増やす。いい奴なのさ、ボスって男は」
  留美はうなずく。感じた通り、男気のある亮。
  留美はちょっと笑ってコネッサに言う。
 「トイレはどこ?」
  皆がにやりとほくそ笑む。コネッサが言った。
 「あんなもんトイレとは言えないね。ここへの途中に川があったろ。その支流がすぐそこを流れてて板が渡してあるんだよ。その上流で体を洗い、またその上流で水をくむ。まったくいつの時代のことやら、あたしらまさに原始人さ」
  皆が声を上げて笑いだし、また別の若い男が言うのだった。
 「ただし気をつけろ、蛇がいる。そこらの棒切れでも持って行くんだな。何なら俺がついて行ってやってもいいがよ、あっはっは」

  留美は意地悪な皆の笑みに笑みを返し、ちょっとうつむいて息を整え、そして言った。
 「蛇なんてどうしていいかわからないし、それに体も洗いたい。臭くて嫌。タオル貸して。誰か一緒にお願いします」
  冗談混じりに言った若い男が目を丸くしてコネッサを見た。
  コネッサは笑い飛ばして留美を見つめる。
 「日本人てそんなもんかい? 亮もそうだけど覚悟を決めたら潔いもんだね」
  留美はちょっと微笑んで、しかし一瞬後にはききりとした真顔となった。
 「私は交通事故で子供を殺した。だけどこうして解放された。死ぬのは嫌、どうしたって生きてみせる」
  皆は静まり、こんなところに飛び込んで来た日本人の女を見つめた。強い。ボスが目をかけただけのことはあると、皆が一様にそう思う。
 「わかった、俺たち皆がそう思って生きてるんだ。俺が行ってやる。俺はバート、元はアメリカ、スラムで育った」
 「俺もだ。俺はホルヘ、メキシコさ」
  バートは黒人。立ち上がると背丈は190を超えていて獣そのままの恐ろしい体をしている。ホルヘと名乗った男は日本人の男たちと体つきが変わらない。しかし胸板は張り詰めて逞しい。食べ物を盗んだところを救われたと最初に言った男がホルヘであった。
  男二人に前後を囲まれて茂みへ踏み込んですぐ、岩肌を縫うようなひとまたぎの流れがあって、流れが急になるところの岩と岩に板が渡され、そこはトイレ。左の上流側を見ると、そこは流れが穏やかで深く、水浴び場とされている。水は澄んで丸石を敷き詰めたような底が見え、さらにその上流に水をくむ場所があるようだった。

  留美という女が森に消えてしばらくして、洞穴の奥の部屋で寝転んでいた亮のもとへとコネッサがやってくる。
 「ほう、あの女がそう言ったか?」
 「言ったね、見事に言ってのけたよ、生きてやるって。せめて綺麗な体で抱かれたい、気持ちはわかる、あたしだってそうだった」
 「うむ。それで? もう一人の女はどうなった?」
 「キャリーって言ったっけ。犯されて抜いて素っ裸で連れて来られてさ、いっそ殺せと泣きわめいてるからぶん殴ってやったんだ」
 「そうか、まあ目を離さないことだな、逃がせばどのみちおしまいだ」
 「わかってる。逃げられないよう裸のままで皆で観てるさ。キャリーは白人でしかもHIGHLYだった女。皆の目は厳しいからね」
 「だろうな。それもあの女次第だよ、面倒なら放り出せ」
 「わかってる。だけどボス」
 「おぅ?」
 「留美って女はモノが違う。みんなも目を丸くしてたから。日本人を甘く見ちゃいけないって笑ってたもん」
  とそこへ、水浴びをすませて髪まで洗った留美が囚人服ではない、コネッサの花柄のワンピースを貸し与えられてやってきた。サイズが合っていなく、だぶだぶだ。
  コネッサはクスっと笑うと亮の膝をぽんと叩いて出て行った。そしてそのときコネッサは入り口横に立てかけてあった白いドアを持ち上げると、ドアを閉めるように入り口を塞いで立てていくのだった。

  その気配を察して留美は言う。
 「みんなやさしい」
 「ほう、どうしてそう思う?」
 「バートもホルヘも、トイレのときは背中を向けてくれていた。水浴びのときにはおどけてバシャバシャしてくれたし、私が恥ずかしがらないよう気を使ってくれてるもん」
  亮はちょっとほくそ笑むように笑うと、ベッドの横を顎でしゃくった。サイズの合わないだぶだぶのワンピースだったのだが、留美はさっぱり脱ぎ去って、服の下には下着さえもつけていない。Cサイズの乳房は白く、くびれて張る綺麗な体を誇っている。下腹の飾り毛は黒く濃かった。
  亮は恥ずかしさに息を潜めて座る留美を抱き寄せた。
  留美は抗う力を捨て去ってなすがままに抱かれていった。
 「俺の女になれたと思うな。扱いはキャリーと同じだぞ」
 「はい、その方がいいなら私はそれで」
 「ふっふっふ、そうか、なるほどな」
  亮は指先で留美の額を突っついた。
 「え?」
 「皆が面食らったそうだ、腹が据わってるってよ」
 「せっかく女に生まれたんですもの、楽しんで死んでやるって思ってしまう。抱いてボス。何もかも忘れたい」

  洞穴の奥に甘い喘ぎがかすかに響いた。灼熱の亮を体に受け入れ、留美は泣きながら達していった。
  人へのやさしさ、思いやり、あるいはモラル。子供の頃から教えられて信じた正義は何だったのか。いまこうしていやおうなく抱かれていて、なのに感じる錯乱するほどの快楽は、いったいどうしたことなのか。
  考えるのをやめよう。新しい人生がはじまったと考えよう。亮はボス、けれども私は男たち皆のもの。そうなるならそれでもいいし、どうせなら抱きたいと男たちが願うような女でいたいと考えた。

 「もう嫌ぁぁーっ、ケダモノーっ! ああケダモノーっ! 殺せーっ!」

  亮に寄り添うように洞穴を出てみると、キャリーの悲鳴がそこらの岩に跳ねて響き渡っていた。手足の長いまっ白な裸身。しかし脂汗にぬらぬら輝く。細い立木に両手を縛られ、尻を突き出し、そのときちょうどバートの黒い灼熱に刺し貫かれていたのだった。ブロンドのショートヘヤーは囚人となったとき切られたもの。キャリーはかぶりを振り乱し泣きじゃくって犯されている。乳房が大きい。見事な白人女の肢体だった。
  男たちも女たちも皆が顔を揃えていて、にやにや笑って見守っている。亮に連れられて留美が歩み寄ると、コネッサは亮に小声で言う。
 「相変わらず殺せケダモノってわめいてやがる」
  亮はふんと鼻で笑う。しかし留美は、キャリーの腰のくねり動きに異質の何かを感じていた。
  留美はちょっと考えて、何を思ったのか、黒く大きな尻を力ませて犯すバートの背後へと歩み寄る。亮も含めた皆が顔を見合わせて見守った。

  微笑みながら歩み寄り、バートの恐ろしいほどの黒い尻をそろりと撫でると、大きな腰に両手をやってキャリーから引き剥がす。バートは呆然としてされるがままに突っ立っている。大砲のようなペニスを抜かれたキャリーの股間は、愛液とも精液とも体液とも尿ともつかない、わけのわからない濡れが両方の腿の裏までヌラヌラ流れる凄惨な有様だった。
  キャリーの声が静まった。留美は後ろからキャリーをそっと抱いてやり、大きな乳房を両手にくるんで揉み上げながら耳許で言う。
 「口惜しいんでしょ? レイプなのに感じてしまって口惜しいんでしょ? 腰の動きがよさそうだもん、観てればわかる。ねえ生きようよキャリー。あたしたちはもはや獣よ。あなたが心を開かなければセックスは拷問でしかないでしょ。私と違って綺麗なんだし、もっと可愛がられていいんじゃない? 自分のことを可哀想だと思わない? 私たちは捨てられたのよ向こうの社会に。ねえキャリー、みんなと生きよう」
  そして留美は、可哀想なキャリーの性器をちょっと撫でると、振り向いて、呆然として突っ立ったままのバートの足下に服を着たまま膝をつき、それでも勃起し続ける黒い凶器をじっと見つめた。
 「凄いわバート、こんなの入れられたら壊れちゃう。よろしくねバート、さっきはやさしくしてくれてありがとう」
  屹立する黒いペニスにキスをして、唇を舐め回したかと思うと、躊躇なく口を開けてほおばっていく。

 「いいのか」と言うようにバートは亮を振り向いたのだが、亮は笑ってうなずいた。
  バートの憤りを喉に突き立て、吐き気をこらえ、それでも頭を振って飲み込む日本人の女の姿を、縛られていながらキャリーもまた呆然として見つめている。
  バートの大きな手が留美の頭をわしづかみ、バートの意思でペニスめがけて衝き動かす。こらえる吐き気が涙となって、なのに留美は穏やかに笑っている。
  そんな様子を見守って、男たちの誰かが言った。
 「参ったぜ、さすがだぜボスよ」
  亮はうなずく。
 「俺のものじゃねえ、おまえらも好きにしろ」
 「いいのか?」
 「留美の意思だ。奴が誰を選ぶのか、俺じゃねえかも知れねえからな」

 「むぅぅ!」
  バートのフィニッシュ。留美はそれさえ躊躇なく飲みくだす。
 「可愛いぜ留美、おまえは可愛い」
  足下から引き抜くように留美を立たせ、バートが唇を重ねていく。黒い野獣に抱かれる人間の女といった光景。留美は、しなる。抱かれるままに任せた体がしなやかにバートの体に寄り添った。
  縛られたまま抗っていたキャリーの白い肢体から、錯覚でしかなかったプライドが消え去って、力が抜けた。