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忍び寄る影(四話)


  四日後。夜の闇につつまれた月面ベース。形になりはじめたといっても月面都市と呼ぶにはまだ早い。
  その黒い空に向かって月面望遠鏡ムーンアイは感情を持たない論理的なレンズを見開いていた。屋外に据えられた望遠鏡はモジュール内にある観測室からコントロールされ、ジョゼットは狙う小天体をいともたやすく捉えると大きなモニタに映し出した。それは赤く大きな星が描き出す円弧のそばの二つの点描。
  海老沢とデトレフが同席している。ジョゼットは言う。
 「大きいほうは説明するまでもなく火星ですけど、お見せしたいのはその右横、よく観て」
  モニタを凝視すると、大きく丸い火星の右側やや下に黒い点が二つ重なるように存在する。海老沢は言った。
 「小惑星だがケレスではなさそうだ」
  ケレスとは、火星と木星の間の空間にひろがるアステロイドベルト=小惑星帯で最大の天体で、その直径およそ1000km、ほぼ球体で準惑星に分類される小天体である。

  しかしモニタに映るそれらはどちらもがいびつであり、いわゆる微惑星の範疇に入るものなのだろうが、それにしては大きい。微惑星の集積が不足して重力が足りず丸くなりきれていないのだ。
 「これも見つけたのは私よ、地球から観て火星のほぼ裏側に隠れるように公転していて地球からでは観測がむずかしい。ケレスよりかなり小さな微惑星が並んでいると思えばいいのですけど、この二つは引き合っている」
  デトレフが言う。
 「では衝突すると?」
 「いずれはそうなるでしょうね、そう遠くない先の話としか言えないけれど」
  ジョゼットはなおも言う。
 「火星に近いのがA、遠いのがBとして、大きいのはA。つまりBがAに引き寄せられているという訳なの。さらにAB両者の間には両者の引力によって小さすぎて観測できない微惑星が群れていても不思議はない。AとBが合体すれば、ほぼケレスと同等のサイズになるのですけど、いまAは火星の引力が及ばないぎりぎりの位置にあることがわかってきた」

  海老沢は眉を上げてデトレフへと視線を流し、そして言った。
 「なるほどね、衝突して軌道が乱されれば火星に捕まるということか?」
 「イエス。そうなれば衝突はまぬがれないでしょうね。これほど巨大なものが火星に衝突すればジャイアントインパクトなんだし、いまAとBに近い微惑星の軌道も掻き乱されることでしょう」
  かつての原始地球に別の天体が衝突し、飛び散った残骸が集積して月が生まれたという説があり、これをジャイアントインパクト説と言う。
  しかしそれについて専門家ではないデトレフにはよく意味が解せなかった。
  海老沢はデトレフに向かって言う。
 「それもまた地球の危機だよ。ケレスサイズの天体が衝突すれば火星はかなり破壊されるだろうし、火星は引力が弱いから破片の多くは宇宙空間へと飛び散るだろう。火星にはそれらをつなぎとめておけるだけの引力がない」
  ジョゼットと海老沢の二人が揃ってデトレフを見つめる。
  ジョゼットが言った。
 「小惑星の公転速度が乱れれば太陽に捕まってしまうということよ。つまりは無数の巨大隕石。そのとき太陽へ向かって落ち込む軌道上に地球があればおしまいだわ。運よくなかったとしても彗星となったいくつかの残骸はいずれまた地球のそばへと戻って来る」

  海老沢は言った。
 「そうか、それで核爆発というわけか」
  この話は四日前のあの話につながること。デトレフが目を見開いた。ようやく意味がわかったようだ。
 「小惑星が群れているところへ核を運ぶということだな?」
  ジョゼットがちょっと笑う。その笑顔は美しかった。
 「そういうこと、小天体のそばでドカンよ。小惑星の軌道が乱されればビリヤードだわ。かなりな確率でとしか言えないけれど、そのとき地球が近ければ地球だって危うくなる。南極で爆発させると言ったけど弾頭をどうやって南極に運ぶつもりなの。そんなことをすればあなたが悪魔になってしまう。核はあくまで宇宙に投棄する。何らかの故障があって制御不能に陥った廃棄船は小惑星にぶつかった・・という筋書きよ」
  しかしデトレフは苦笑する。
 「同じことだね、起爆部分がなければ爆発しない。太陽にでもぶち込んでやるならともかくも信管は必要だ」
  国連が没収した核弾頭は当然ながら起爆部分を外して保管されている。

  火星に忍び寄るように存在する不気味な二つの小惑星を見つめながらデトレフが言った。
 「どのみち地球はおしまいなのか?」
  それはいまから七十年後の終焉。中性子星への接近はどう計算しても99パーセントの確率だとジョゼットは言った。
  愚劣な人類を宇宙に解き放つべきではないという点で三人の意見は一致している。ジョゼットはそれを宇宙の摂理に委ねようと言うのである。ムーンシップが完成する前に地球が終わればムーンシップもまた運命をともにするだろう。

  それからさらに五年が経った。
  海老沢とジョゼットは四十三歳、デトレフは四十六歳。三人ともに地球に未練はなかったし戻りたいとも思わない。
  五年の間に新たに三十隻の超大型貨物宇宙船が月面に埋められて、月に留まる総人員およそ二万九千名、うち女性がおよそ五千名という大規模な基盤に発展していた。地上に露出するモジュールも増えていたし、二酸化炭素を含む人の呼気を回収して酸素を生成するシステム、さらに将来の旅立ちに備えて月面上で酸素を発生させる藻類などの葉緑素を持つ植物生命の生育実験も行える地下プールも整備された。
  忍び寄る隕石から月を守る高エネルギーレーザー砲が持ち込まれ、月の両極付近には、それによって必要となる電力を供給する核増殖炉による原子力発電所の建設もはじまった。夜間にマイナス170℃となる冷え込みを冷却に利用するため、移動距離が少なくてすむ極付近にラウンドレールを設け、巨大なラジエターを常に夜の側に移動させるという冷却システムが考案された。

  地下に眸を移せば、宇宙船をそのまま埋める居住モジュールとは別に、一棟あたり五千人規模の収容能力を持つ地下施設の整備が進んで、かなりな人員が移住できるスペースも整いはじめた。
  人員の増強が進めば計画は飛躍的に進展する。月にもともとある酸化鉄やアルミニウム、ケイ素などを利用するためのプラントの完成も間近。そうなれば酸素から建設資材までが自前で調達できるようになり、なおいっそう整備が進む。
  追い詰められた人類の英知は、月を急速に第二の地球へと改造していったのだった。


  その同じ2061年、地球上。
  そうした月面の劇的変化は地球にいるほとんどの人々には知らされていなかった。
  突如として地球を襲った大異変に国境が意味をなさなくなって地球規模の無政府状態に陥ったことが世界人口を激減させた要因だった。止まらない海面上昇とオゾン層のさらなる破壊で人々は赤道を挟む安全域に群がって、ますます争いが激化していく。
  当初はまだ国連として機能していた世界規模の政府機能の秩序も危うい。
  加えて決定的だったのは、一介の若き女性天文学者が地球の終焉を発見したことだった。発見された当時の専門家による分析でも95パーセント。後になって観測が進むにつれて終焉はより確実なものとなっていく。98パーセントの確率で太陽系そのものが崩壊する。
  ムーンシップ計画に生き残りを賭けるしかない。

  そしてその段階となって人類史上かつてない愚行がはじまった。国連などは形だけ。人々をHIGHLYとLOWERの二階層に分けて管理する。
  目的の一つは無益な争いを減らすためでもあったのだが、実質的には、やがてムーンシップに乗り込む五百万人をスムーズに選別するため、理知的な判断のできる階層とそうでない階層を分けておきたい。LOWERたちから近代兵器を取り上げておかないと大戦争となるだろうし、ムーンシップさえも破壊されかねないからである。
  国連は人種による差別ではないと言った。支配階級と奴隷に分けることではないと言った。しかし実質的にそうなってしまうのは避けられない。いよいよ危機が迫ったとき文明がつくりあげた人のモラルが根底から崩れてしまった。

  赤道を境に人々を二分するなど不可能な話だったし、赤道付近には南米アマゾン、東南アジア一帯、アフリカ大陸中央部と熱帯雨林がひろがっていて、温暖化を改善するためにも無秩序に伐採させるわけにはいかなかった。地球の終焉までまだ半世紀以上はあるのだから。

  そこでHIGHLYは、LOWERとの間に緩衝階級を設けたのだった。
  HIGHLYとLOWERの双方から選ばれた農民、漁民、そのほかあらゆる労働に従事する優秀な者たち。ここが崩れるとHIGHLYの生活基盤が崩れてしまう。
  この中間層を労働を意味するWORKER=ワーカーと呼び、LOWERとの間を取り持つ人々としようとした。WORKERは武器を持つことを許されないというだけでHIGHLYと同等のモラルの中で優遇される。ゆえに国連は人種による分類ではないと言えたのだった。
  そうした愚行の結果、世界に残ったおよそ三十五億人の中で、20パーセントがHIGHLY、45パーセントがWORKER、残りの35パーセントがLOWERとされ、主に南半球に残された土地への封じ込めがはじまったということだ。
  
  LOWERには一切の武器が禁じられ、陸路や海路での長距離移動を封じるために飛行機や大型船はもちろん、クルマでさえも厳しい燃料制限が課されていたし、HIGHLYの居住区への立ち入ることもできなかった。
  HIGKLYの生活圏と重なるWORKER居住区の一部へ立ち入ることはできたのだったが、軍の監視によって厳しく統制され、規範を乱す者には極刑が適用された。WORKERに付き従って一定の成果を上げた者は昇格し、またその逆もある。下層階級の不満を少しでもやわらげるため、HIGHLYであっても、たとえば犯罪者などはLOWERへと降格される。
  不平があっても耐えるしかない。これは恐怖政治以外の何ものでもなかった。大義名分を設けて不要な者を減らしていきたいというのが本音であったからである。

  ところが、そうした制度が一応の落ち着きを見せはじめた頃、HIGHLY社会を揺るがしかねない事態となった。HIGHLYと、それと同等の権利が認められるLOWERを合わせた近代社会の中での出生率が激減したのだ。
  一方でLOWER社会ではむしろ増加。このままでは上層社会の子孫が危うくなってしまうだろう。ムーンシップで旅立てるまで、まだおよそ半世紀。二世代をつないでいかなければならないわけだ。

  旧オーストラリア、その大陸。
  広大な大陸なのだが周囲を海に囲まれていて脱出しにくく、また乾燥地帯が多いという点で、この大陸にはごく一部のHIGHLYとWORKERを除いて、ほとんどすべてがLOWERという特異な居住区とされていた。もちろん旧国家としてのオーストラリア国民のうち優秀な者たちは他の居住区へと移転させられている。

  その日、上層社会と下層社会を隔てる緩衝区域に双方の人々の代表者が集められていた。五十日に一度の交換の場とされている。
  下層社会からは産まれて間もない乳児と、何らかの成果を上げた優秀な者たち。上層社会からは下層に降ろされて働き手となる者たちと犯罪者そのほか、つまりは社会からこぼれてしまった者たちを交換する。
  とりわけ出生率の低下に苦しむHIGHLY社会では、子供たちを社会をあげて守り教育していこうとする気運が高まってきている。子を差し出した親には恩賞が与えられて暮らしが楽になるということで、できたはいいが育てられない親たちが子を伴ってやってきている。
  そんな図式は中世以前の蛮行そのまま。しかし貧困に苦しむLOWERたちにはそうするしか道がなかった。

  その日もまたHIGHLY社会に見捨てられた者たちが十数名、護送車で運ばれて降ろされた。男が十一名、年増女が二人と若い女が二人。男たちと年増の女は働き手として連れて行かれるが、若い女の扱いはそれとは違う。中年の男が率いる数人の男たちに囲まれて品定めをされ、運ばれてきた最新の護送車から時代物の護送車へと積み込まれて連れ去られる。
  その日の女二人は白人と東洋人。どちらもが二十代の前半だろうと思われた。何らかの犯罪をやらかして上層社会では厄介者。規格外は捨てるという発想なのである。
  若い女には時代の別なく肉体的な価値がある。下げ渡された女を欲しがる者どもが多いということ。そうした非道をHIGHLYたちは見て見ぬふり。何が何でもLOWERは野蛮人というレッテルを貼っておきたいからであり、若い女にとっては刑務所よりも恐ろしい。

  女はどちらもが髪の毛をショートに切られて化粧もされず囚人服に手錠。手錠だけは外されるが、すぐにまた両手を縛られ、古びた護送車に積み込まれる。運転席と助手席に若い男が二人。そして後ろに乗せられた女二人のそばにボスと思われる中年の男と若い二人。恐怖のあまり声もない女を囲んでにやにや笑う。
  中年の男が言った。
 「何をしたかは知らねえけどよ、囚人服じゃ色気もクソもあったもんじゃねえや。着いたらまず体を見せろ。セクシーな着替えをやるからよ。お待ちかねの御仁は多いのさ。せいぜい可愛がってもらえるようにしねえとな。ふふん」
  女たちはうつむいたまま。男たちは鼻で笑う。
  時代物で窓の金網が錆びついた護送車は、海縁の上層社会を出るとほどなく山岳地帯に入っていく。一山越えればそこはふたたび低地となり、LOWER居住区がひろがっている。

  ターン!

  岩山を縫って走る護送車をめがけて一発の銃声。護送車は道すがらの草むらに突っ込んで停まった。砂煙をあげて走り寄った古びた軍用ジープが二台、立ちはだかって護送車を囲む。二台のジープにはそれぞれ四人ずつ武装した男どもが乗り込んでいて、前時代のライフルや拳銃、手に手に刃渡り一メートルほどもある山刀を振りかざす。山賊。そうとしか思えない髭面の屈強な男たちが乗り合わせているのだった。
  もちろん護送車の男たちも銃を持っていて、しかし山賊の銃弾に助手席の一人が殺られ、有無をも言わさず護送車から引きずり出されてギブアップ。下層社会で法律などはないに等しい。
  LOWER居住区にこうした連中は多かった。数名で徒党を組んで荒らし回る山賊や強盗。LOWER社会の中に、もはや法など存在しないに等しかった。
  そのとき襲った一味は、東洋人五人に白人が一人、黒人が二人のグループだった。LOWER社会の中にももちろんすべての人種は存在する。
  襲った男たちは皆が若く、ボス格でも三十代の半ばかと思われる。ボスは髪の毛を角刈りにした精悍な東洋人。英語で話す。

 「ふん、クソ野郎どもが。女はもらってくぜ。許せねえんだよ、てめえらみてえな連中がよ」
  ボスに目配せされて二人の男が二人の女の髪の毛をひっ掴んでジープの後席に放り込み、敵に銃口を向けながらクルマをスタートさせる。
  しばらくは舗装路を突っ走り、深い森が見えてくると道を逸れて、そこからは乾いた土と砂の道。起伏が激しく、四駆でなければ走りきれない。途中に川幅が広い割りに浅い川があって、そこも突っ切り、向こう岸へ渡るとすぐに鬱蒼とした森の中へと突っ込んでいく。
  クルマのエンジン音が静まって、そこには緑に抱かれるようにある自然の洞窟をそのまま棲み家とする男たちのアジトがあった。ジープが一台増えて全部で三台。男が十二名、女たち四名で暮らす、まさしく山賊の棲み家である。
  連れて来られた女二人は顔色が土気色。どうなるかは想像できた。

  今日は空がすっきり青い。昼にはまだ早い十一時前。洞穴からは少し離れて小屋が造られ、女たちが昼飯の支度をしている。男たちも女たちもすべてがジーパン姿。女たち四人は皆が若く、東洋人が三人、黒人娘が一人。黒人の一人だけがスカートで他はブルージーン。キャンプ場で暮らすような生活で皆が逞しく日焼けしている。
  連れて来られた女二人は降ろされると両手を縛る縄が解かれ、そこらの岩肌に男たちが輪をつくって座る中で、膝をついて立たされる。
  角刈りのボスが言う。まずは英語。
 「おまえたちの名は? それぞれいくつだ?」
  しかし女は青ざめて震えている。
 「さっさと言わねえか、救われたんだぞてめえらは!」
  別の一人が横から言って、女二人は顔を見合わせた。

  東洋人の女が先に口を開いた。
 「留美です、笠原留美。二十六です」
  ボスが目を見開いた。日本語に変化する。
 「言葉はわかるな?」
 「わかります」
 「うむ。俺は亮(りょう)、そう呼べばいい」
  同じ日本人、しかしもう国家などは存在しない。
 「何やらかした?」
 「人を轢いたんです、交通事故で」
 「相手はどうなった?」
 「殺してしまった。だけどしょうがなかったんです、飛び出してくるんだもん」
 「子供か?」
 「はい」
  HIGHLY社会では子供は大切にされている。しかし単なる交通事故。刑務所に置いておくと面倒なのと社会に対する見せしめのために捨てられたということだ。
 「WORKERだな? 仕事は?」
 「OLでした。もちろんWORKERです」

  続いて白人の女が言う。こちらはイギリス訛りの英語だった。
 「私はキャリー、二十四歳。彼の浮気で」
 「浮気だ?」
 「好きだったのに他の女に手を出した。それも私の友だちに。許せなくてマグカップで殴ってやったら、そのとき倒れて頭を打って」
 「死んだのか?」
 「救急車で運ばれて、死線をさまよっているとだけ聞かされました。刑務所かなって覚悟したけど、そしたらLOWERどもに下げ渡すって」
 「そういう社会さ向こうは、不要となったら面倒はまっぴらごめん。囚人なんぞ喰わせていくだけ無駄と考えやがるのさ」
  キャリーはうつむいて唇を噛んでいる。
 「仕事は?」
 「カフェです。店員でした。彼とはそこで親しくなった。働きやすい店だったから友だちを呼んだら彼がそっちとデキてしまった。油断も隙もありゃしない」
 「おまえもWORKERか?」
 「違います、家はHIGHLY。だけど私はそれが嫌でWORKER居住区に暮らしていました、家を出て」
 「家出してか?」
  キャリーはうなずく。特権意識に反感を抱くHIGHLYももちろんいる。

  亮はボス。取り囲む皆を見渡してちょっと眉を上げて笑い、それからまた女たちに言った。
 「救われたと思うなよ、人権など笑わせやがる、平等なんぞあり得ねえ。こっちの社会ではな、能力の不平等に挑まないヤツはやっていけねえ。喰いたければ喰えるだけのことはしろ。ここを出て行くなら勝手にしな。留まるなら従え。それだけは言っておく」
  それから亮は、同じ言葉を話す女のことを皆に言って了解をとりつけた。日本語を話せる者はほとんどいない。ボスの気持ちはよくわかる。
 「おい留美、俺と来い。それからはおまえ次第だ」
  留美はうなずく。せめてもほっとできる相手。どうせなら母国語で話せる男に従いたい。そうした思いだったのだろう。

  亮は皆に言う。
 「そっちの女は好きにしろ。ここを出たってのたれ死ぬだけだからな」
  東洋人そして黒人、荒くれ男どもの何人かが立ち上がって群がった。
 「嫌です嫌ぁぁーっ! どうかお願い、ああ嫌ぁぁーっ!」
  両側から腕を取られて引きずられるように連れ去られる。LOWERの社会にも白人女はいるのだったが、とりわけこの大陸では絶対数は少なかった。
  昼飯の支度をする女たちは皆一様にほくそ笑んで見守っている。元はと言えば同じように拉致された女たちばかりであったから。