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 人間生活(三話)


  そんなことがあってからわずか数日の後に女たちの想いはまとまった。
  女医である雪村早苗は、月という別の天体にいながら地球人の肉体を診ている女性。ある意味で『人は人』ということをもっとも知り抜いた人物と言えるのかも知れなかった。
  人類にとってのそれまでの宇宙観は想像の世界であり、ごくわずかな者たちだけが宇宙ステーションに滞在し、しかしまた地上に戻れば人としての生活が待っている。月面での暮らしは根本的に違うもの。生き続けることがすべてであり、理性や知性よりも生存本能に支配される原始的きわまりない環境とも言えるのだった。

  月面におよそ三百名いる女たちに雪村は語りかけ、もっとも決定的だったのは雪村自身が『私は女でありたい』と公言し、自ら避妊薬を用いると女たちに告げたこと。三百名の女たちも皆が若い。配偶者のいない若く健康で優秀な者たちだけが選ばれて送られてきている。
  人類のためにという使命を持って働く者たち。しかしそれも月での暮らしが長くなるうち大義名分となってしまい、寂しい、苦しい、せめて女でいられるひとときぐらいは欲しいという人の本能に衝き動かされてしまうのだろう。

  女たちのほぼすべてが避妊薬を歓迎していると雪村に告げられて、海老沢は愕然としたし、それまでの接し方を反省しなければならなくなった。人はマシンではない。電力が止まれば死、水がなくなれば死、呼吸ができなければ死。死と隣り合わせに生きていて、怖くてならず、せめてぬくもりぐらいは欲しいと思う。 ムーンシップ計画のリーダーとして、あまりにも人間を見てこなかった自分に海老沢は打ちのめされていた。論理より感情と言うが、感情よりも生理的な欲求に支配されるのが人というもの。
  これまでは住居モジュールの中に男女のボーダーを設けていたのだったが、雪村の報告を受けて廃止した。セックスのために特別な空間を設けるゆとりは月面にはない。オフタイムには自由意思で互いの部屋を訪れ合う。閉ざされた地下空間そのものがラブホテルの中身になったようなものだった。

  M1-001、海老沢の部屋。跳ね上げて収納できる狭いベッドに、ピンク色の下着姿でジョゼットが座っていたのだが・・。
 「見てよ、この下着、紙なのよ。色気も何もあったものじゃない。お洗濯したくても水さえない。ブラもパンティも紙なんて病院にいるみたい。汚れても燃やすこともできないしそこらに埋めたって腐りもしない。いつか設備が整ったとき汚れた下着さえも資源として再利用されるのよ。ここは違う、地球じゃない。だからね俊、そうやって考え込むことじゃないんだから。進みすぎた文明は本能をいけないことのように追いやってしまったけど、そう考えると不思議な世界ね月面は。文明の最先端に住む原始人とでも言えばいいのか」
  海老沢はため息混じりにちょっとうなずき、そして言った。
 「恥ずかしいのさ俺は。当然のことなのに考えようともしなかった。皆に苦しい思いをさせてきたと思ってね。すまないことをした」
  ジョゼットは、そうじゃないと微笑みながら、淡いブルーの紙で作られたトランクス姿の俊允へと身を委ねた。紙といってももちろんソフトな先端素材であったのだが。

  ちょっと落ち込むような面色の海老沢にジョゼットは言う。
 「女としては嬉しいのよ、あなたは女性を尊重してくれる。ほとんどが男の世界でそれを許すと女は娼婦になってしまう。それに個人的な恋愛ではトラブルの元ともなるでしょう。三百そこそこの女、なのに六千人の男ですからね」
  そう言ってジョゼットは男の胸に頬を寄せ、くすくすと妙な笑いを漏らすのだった。
 「それならそれで女たちは気分いいかもよ」
 「どういうことだ?」
 「性の解放、だけどそれは自由意思。そうなると男たちはやさしくなるわ。嫌われたらおしまいですもの。文明の論理ではない本能のおもむくままの女権復活ってことかしら?」
  そうかも知れないと海老沢は同感できた。女たちにやさしくなれれば角が取れて苛立ちも消えていく。
  海老沢は言った。
 「地球に戻ったとき、プロジェクトリーダーとしておまえはそんなことを許したのかと非難されるのを恐れたのかも知れない」
 「そうよ、そうだと思う。でもだからあなたが好き。まっすぐなあなたが好きよ」
  男女の性にはまったく向かない狭すぎるベッドの上で、紙の下着を脱ぎ去った男女の熱が交錯した。

  地球へは戻れないだろうと覚悟を決めてやってきた。なのに俺は地球の眸色を気にしている。五十年後の旅立ち以降のことを思っても、地球上とは異質の新しい文明が生まれても不思議はない。
  旅立ちといっても現実的に目指せるところは四光年先のプロキシマ・ケンタウリをおいて他にはない。そのハビタブルゾーンに浮いている惑星プロキシマBに移住して第二の地球とできればいいのだが、観測が進むにつれて、どうやらプロキシマBには大気が存在しないらしいとわかってきた。母星たるプロキシマ・ケンタウリからの強烈な放射線によって大気が剥ぎ取られている可能性が高いと言うのだ。
  であるなら人類は月から出られない。このちっぽけな星がすべてとなる。五百万人の人類、そのおよそ八割が女性とすれば、新しい女権の文明が育っていっても自然なことだと考える。

 「ふふふ、女権文化とはまさに言い得た世界だな」
 「あら、どうして?」
  M2-003。モジュール2の3号ルーム。そこは女医である雪村の部屋だった。間取りは海老沢の部屋そのまま。ベッドは小さい。
  デトレフは逞しかった。長身であり鍛え抜かれた軍人の体躯を誇っている。
  そしてその分厚い胸に裸身を委ねて雪村早苗は女らしさを誇っていた。
  デトレフは言う。
 「ムーンシップがどうなるかと想像したのさ」
 「若い女だらけだから?」
 「およそ四百万の女性に対し男は百万そこそこ。旅立った当初は地球の文明をのせていて男どもが差配するだろうが、じきにうまくいかなくなる。いかに優秀な遺伝子を持つとは言え凍結精子による強制受胎など論理の空転。圧倒的多数となった女たちは、女にとって都合のいいルールをつくっていくだろう」

  早苗はちょっと笑い、デトレフの逞しい男性へ手をやって悪戯するように嬲りながら男の面色を見つめている。彫りの深い精悍な顔立ちだった。
  早苗は言う。
 「私はあのとき、死刑台は人類の穢れと言い切ったあなたにキュンとしたわ。抱かれたいと思ったし私は濡れた」
  デトレフの強い腕が早苗を赤子のように組み伏せて、けれどもその眸はやさしかった。
 「それを言うなら俺もそうだ。あのときの早苗は、それなら率先して私が抱かれると言い切った。感動した。ルーナ(月の女神)がいたと感じたものだ」
  女神と言われて早苗ははにかむように唇をちょっと噛み、上目使いの甘い眸をデトレフに向ける。

 「そうなれば私なら男たちを可愛がるでしょうね。最後に残ったたった百万人の男たち。多くの女が悲しまなくていいよう厳しく躾けていくでしょうし、だからよけいに可愛く思える。男女の性は女次第よ。ちょっと拒むフリをするだけで男たちは平伏すでしょうね。でもねデトレフ」
 「うむ?」
 「私は思うの。女の理想は原始の世界なんだろうって。圧倒的な野人に牛耳られ、そのとき泣いても後になって守られて生きていられる安堵を知るのよ。進みすぎた文明の中で女は女になりきれなくなってしまった」
  デトレフは夢見るような面色で言う。
 「HIGHLY、LOWER、さてしかし幸せなのは・・」
 「LOWERでしょう、考えるまでもなく。LOWERならこんなところに来なくていい。HIGHLYゆえに性欲をどうするかなんて悩まなければならないんだから」
  早苗は言い、デトレフの強い肉体に白い裸身を重ねていった。

  口づけ。そしてまた早苗は言う。
 「聞いてデトレフ、私はね、五十年後の医師でなくてよかったと思ってるのよ」
 「それはなぜ?」
 「旅をしながら技術は進むわ。だけど酸素や水や食料や必要となる何もかもが無限につくれる時代が来るのかしらね? 人工重力でも生み出して大気をつなぎ止めておけるようになるのかしら? そうでなければそのとき医師は、生きていても機能しなくなった人々を選別しなければならなくなる、次の世代を守るために葬るの。私なら耐えられない、私は死神にはなれないもん」
  デトレフはちょっと眸でうなずくだけで応えなかった。
  軍人として月に送られたデトレフには使命があった。地球に戻りたがる者たちは消せ。そうしないとムーンシップ計画が表沙汰になってしまうし、帰還のための船を用意するゆとりは地球にない。地球は地球で瀬戸際なんだということだ。
  地球には帰せない、おまえたちは月で死ね。そんなことは言えない。海老沢にもジョゼットにも早苗にも言えるはずがない。
  しかし早苗の言葉はそれ以上の衝撃だったし、それ以上の残酷だった。デトレフは人間というものがわからなくなっていた。

  M1-001。海老沢の部屋。
  甘熱を放つ夢のひとときを経てジョゼットは海老沢の裸身に身を寄せて、どこか虚空を見るような男の面色を見つめていた。
 「父も天文学者だった」
 「知ってるわ、海老沢謙吾、知的生命を探し続けた日本人」
 「父は早くから警告していた。父だけじゃなく世界の天文学者が警告していた。太陽がおかしい。どうやら二十世紀の末から小氷河期にあったようだ、黒点が異常なほど観測される、太陽は極大期に突入する、温暖化が一気に進みオゾン層も危ういと」
 「私はその頃フランスの大学で望遠鏡を覗いてた」
 「うむ俺もだよ。宇宙はかくも素晴らしい。だけどそちらは父に任せて俺は宇宙工学に興味を抱いた。当時のロケットでは非力すぎて宇宙の旅など夢物語。SFの世界に登場する宇宙船に近いものを創れないかとね。ところが地球がおかしくなった。何としても新たな船を造らなければならなくなったんだ」
  ジョゼットは静かに聞いていた。男性が夢を話すときの面色が好きだった。夢見る少年。リクツではない女心が騒ぎだす。

 「あの頃の俺は十九か二十歳。異変は突如としてはじまった。当時の海面上昇はそれほどでもなかったが最大風速百メートルを超えるハリケーンが荒れ狂い、高潮が激化して臨海部がやられてしまった。さらに深刻だったのはオゾン層。太陽活動の急激な変化でそれでなくても危うかったオゾン層が消えていく。父はずっと以前から警告していた」
 「私はフランスよ、ヨーロッパ全域がパニックに陥った惨状が焼き付いてる。先進国ではそれでなくても少子化にあえいでいた。真っ先にやられたのは社会の中で取り残された老人だった。親よりも子を守る。見捨てるしかなかったの」
 「そうだね、北半球に集中する先進国は瓦解した。しかもそれは天変地異というよりも人のエゴ。人口のかなりなパーセンテージを占める老人たちが見殺しにされ、加えてなだれ込む難民を食い止めるための世界大戦とも言える殺し合い。最悪だ、なぜこんな時代に生まれたのかと呪ったものだよ」
  それからさらに十年。人類は温暖化物質の除去とオゾン層を修復するための設備を作り上げたのだったが、そのときすでに地球の全人口は三十五億人を割り込んでいた。

  ジョゼットは言う。
 「すんでのところで食い止めたかに見えたのにね、私が恐ろしいものを見つけてしまった。地球どころじゃなく太陽系の終焉よ。どのみち何もかもがおしまいなんだわ、恋をして性に燃え、母となる夢も消えた。ムーンシップ計画が最後の砦。そう思ったとき醜い地球を出たくなったの。せめて人類のために働く人たちの中にいたい。月のことは聞いていたのよ。男ばかりの異常な世界。地球上の法律なんて意味を持たない。早苗じゃないけど、この月でなら、もしかしたら女になれるかもって思ってた。決定的だったのはデトレフの言葉なの」
  海老沢は胸に甘えるジョゼットに微笑んだ。
 「死刑台よりベッドルームがいいか?」
 「そうよ、それだわ。疲れ切った男たちを見ていて抱いてあげたいと女ならそう思う。抱かれたい。夢ぐらいは見せてよお願い。何のために女の体で生まれてきたのって思うのよ。ねえ俊」
 「うむ?」
 「国連が軍を送った意味がわかる?」
 「デトレフは辛いだろうね」
 「うん、そうに違いない。もう地球へは帰れない。月面に軍船が降りたとき、月での死を覚悟したし、ふふふ、それが妙なの、そう思ったとたん性欲が暴走しだした。だったらせめて快楽ぐらいはいいじゃない。早苗の気持ちもそうだと思う。女たちもみんなそう。怖くてならない、誰か抱いてよ・・」
  海老沢は声もなくジョゼットの白く美しい裸身を抱き寄せた。涙ぐむ女に男は唇を重ねていく。

  それからは日に日に女たちの面色や身のこなしがしなやかになっていく。六千いる男たちが女として見てくれる。男たちの荒れた声も少なくなって、海老沢はますます考えさせられた。これこそ人の本質だったと思い知る。もっと早く気づいていれば地球は夢の園にできたはず。暗黒の空に浮く青い地球へ思いをはせる。

  九隻目、十隻目・・十五隻目と、それから二年の間に人員の増強と物資の補給が進み、男性およそ一万名、女性およそ一千名の月面都市となっていく。
  地上部分には新たなメインモジュールが造られて、地下には居住区そのほか必要な設備が整備される。月では引力が弱いために地球上のような剛構造は必要なく、地表を少し掘って建物を造り土をかぶせて半ば埋めればそれだけで完成する。海底で砂から目だけを覗かせる魚を思えばよかっただろう。人員が増えれば作業は進み、居住スペースも拡張されて人間らしく暮らせる空間ができていく。
  月に留まる者たちは、もはや地球人ではなくなっていた。志願する人々は殺伐とした地球世界に別れを告げてやってくる。それも月での暮らしぶりが知られるようになるほど女性の志願者が増えるというのだから、地球上のモラルはどこかが間違っていたと言わざるを得ないだろう。

  そんなとき、三十八歳になっていた海老沢に新たな職務が与えられた。
  新たなメインモジュールには通信設備が組み込まれ、かつてのメインモジュールは月面望遠鏡『ムーンアイ』を中心とする観測設備であるとともに、リラックスのための空間が造られた。最初に月に降り立ったときのことを思えば夢のような世界なのだが、それを提案し進めたのはジョゼットだ。使命だけでは生きていけない。珈琲ぐらいは楽しめるカフェのあるプラネタリューム。プロジェクトを加速させるためにも人間らしくいられる場の確保が先決だとジョゼットは言う。正しい指摘だと誰もが思った。

  そのムーンカフェのカウンター。カウンターの中にいるのはジョゼット、わずか十席ほどのカウンターに海老沢とデトレフ。デトレフが乗り付けた軍船はそのまま月に留まっていて、国連からの秘密の通信はそこで受ける。
  カフェに海老沢を呼びつけたのはデトレフだった。
  地球上では、温暖化したとはいえ緯度が上がれば寒くなる。
  デトレフは言う。
 「まず一つは、寒冷地に放置されたままとなっている恐ろしい数の人や動物の死体の処理。もう一つは、国連が押収した核兵器の処分なのだが」

  死体は燃やせば膨大な二酸化炭素を放出し、かといって腐敗が進めばさらに悪いメタンガスを放出する。核兵器についても数があまりに多すぎてとても処理しきれない。ついてはどちらも宇宙空間に投棄する。そのための船を造るため海老沢に地球に帰還せよと言うのである。
  地球に生まれた同胞の死体が汚物のように捨てられる。核兵器などという人類の汚点が宇宙空間に葬られる。あまりにも身勝手な決定に海老沢はやりきれない。
  太陽の行き先にある中性子星による地球の破滅には、ごくわずかな誤差がある。地球は太陽系の第三惑星であり太陽に近い。もしも太陽が中性子星の引力圏をすり抜けて突破できれば地球が生き残れる可能性がないとは言えず、そのときのためにも地球環境を改善しておきたいということだ。

  海老沢は言った。
 「嫌だね、地球へは戻らない」
  デトレフは言う。
 「そう言うと思ったよ。しかし海老沢」
 「わかってるさ、命令ならばしかたあるまい。ではこうしようじゃないか、どちらも船の設計はやってやる。ソーラーセイルを動力とする使い捨ての巨大船でいいんだろ?」
 「まあ、そういうことだが」
  ソーラーセイルとは宇宙の帆船。宇宙空間で帆をひろげ太陽風を動力源として飛行できる宇宙船を可能とする技術である。
  海老沢はジョゼットへ眸をやって言うのだった。
 「俺は月で死ぬ」
 「私もそうよ、地球はまっぴら」
  ジョゼットが即座に応じた。
  海老沢は言う。
 「それを条件に最高の船を設計してやるさ。外殻などゴムかプラスチックで充分だ。しかしデトレフよ」
  デトレフは、海老沢が何を言うかなど見透かしていたし、デトレフ自身が憤っていた。デトレフは言う。
 「ふざけるなと言いたいね。ムーンシップは残された希望だが、この宇宙にはたして人類を解き放っていいものかと感じるよ。わかった、そう伝える。その条件をのませてやる。俺ももう嫌気がさした、クソ喰らえといった気分だよ」

  このとき海老沢は、そのどちらの船も着地点は木星もしくは土星だろう考えていた。ソーラーセイルは太陽から遠ざかるにつれて太陽風が弱くなり推力がダウンする。巨星の引力に捕らえられれば都合がいいからである。
  そしてこのとき、とんでもないことを言い出したのはデトレフだった。ジョゼットの淹れた珈琲に口をつけながらデトレフは言う。
 「しかしアレだな、核については惜しい気がする」
  何を言い出すのか。二人はデトレフをうかがった。
 「すべてを南極で爆発させてやりたい気分だよ。じつは俺もそうだが我々の中には核の専門家がいるんでね。膨大な熱を放てば南極はおしまいだ。海面が一気に上がってHIGHLYどもの居住区は壊滅するだろう。LOWERたちは痩せた高地に封じ込められているから多数が救われる。こざかしい知恵を振り回さない連中に地球を再建させてやりたいものだ」
  三人揃って押し黙ったまま。もちろんジョークだ。

 「ねえ二人とも」
  カウンターの向こうにいてカフェのママのように微笑むジョゼット。シルバーメタリックに輝くスペーススーツの胸が張り詰めて美しい。海老沢とデトレフは揃って眸を向けた。
 「それなら気になるものをお見せするわ。いまは昼間よ、四日したら夜になるからムーンアイで」
  意味ありげに微笑むジョゼット。デトレフは微妙に眉を上げて首をすくめた。

  月は地球との相対関係の中で常に同じ面を地球に向けている。しかし自転していないわけではない。月はおよそ二十八日周期で地球の周りを公転しているのだが、その公転周期と自転の速度がまったく同期しているために地球からの見た目が変わらないというだけなのだ。
  つまり月の一日はおよそ二十八日。いまは昼間にあたるから太陽光が邪魔で観測できない。四日すれば夜がやってくるということだった。