2017年02月20日

DINKS~フリーランサー(終話)


終話


 スリムだが筋肉の芯のある夫の硬い体に抱かれていながら、友紀はDINKSという女の生き方をあらためて整理しようともがいていた。
 友紀は直線的に生きすぎる。そこが線の細いところなのだが友紀自身で気づいていない。ストイックな生き方はそうでない多数派の中で敵をつくり、そこと戦うために、さらなるストイックを疲れた心に要求する。考えだすと突き詰めないと気がすまない困った自分に友紀はもがく。
 女体の中で強がった夫の性器はアスリートのクールダウンのように萎えていき、可笑しくなって握り締めてやりながら、この人は男、私は女、男と女が交差する意味を考える。セックスとは男女の交差。そしてそれをフリーなものにすることこそが結婚というものだろう。

 奴隷のように愛された激しい夜が去っていき、夫の寝息にたま
 らない可愛さを感じながら、ふと女性雑誌の妙なギャップに笑っ
 てしまう。雑誌は対象を絞りきれない。強いて言うなら年齢で斬
 るぐらい。ジュニア層から学生層、社会に出る独身時代、若妻
 の時期を経て熟女の世代。それぞれでテーマは違ってくるので
 すが、欠かせない部分があり、サジ加減が違うというだけで同じ
 テーマを追いかけてる。

 恋や愛、ときめいていたい女心。

 バレンタインの時期にそわそわしはじめ、夏には肌を見せて男
 を誘い、秋には恋人同士の旅の特集、クリスマスには愛の夜と、
 ロマンチックを語っておき、女らしさを表現するファッションだっ
 たりダイエットで綺麗になろう・・ヘヤースタイルで女は変わる・・
 女性らしいインテリアの特集もあれば可愛いペットの特集まで。
 そうやって男とは違う女の世界を提言しておきながら、一方で
 は、不倫、同性愛、SMと、カムフラージュを剥がした肉欲の世
 界を取り上げる。そのへんだけを読みたい女がたくさんいるの
 に、表紙に載せる表題は、そしらぬ顔の綺麗なレディの側面だ
 け。

 長く雑誌づくりに携わり、知らなくていいことを知りすぎた。会わ
 なくていい人に会いすぎた。私にとってのDINKSは、感化され
 てと言わないまでも、そうした中から生まれてきたものではない
 か?
 信念なのかと詰問されると自信が持てない。妊娠限界が迫って
 くると、信念だと思い込んでいたことが揺らいでしまって心が乱
 れる。
 ここしばらくの貪欲なまでの私の性は、その反動ではなかった
 かと思うのです。

 私の性はフリーセックスではありません。心の動く誰かに対して
 セックスを待たない女の生き方。どうあがいたって打ち消せな
 い性欲を、取り繕い、ポーズして、そのじつ待ちわびているよう
 な生き方をしたくない。サリナと出会い、彼女の生き方に感動し
 たとき、私の性のガードが壊れた。壊れたのではなく私が望ん
 でバリヤーを剥がしたんだわ。

 不倫、そのときもし私なら、夫のせいにはしたくない。悪者は自
 分でいい。濡らしていたくて私が仕掛けたセックスだから。
 子供を持たない生き方は寂しさを伴って、けれども視野はひら
 けている。自分の性を見渡して生きる女でいたい。悪女だと後
 ろ指を差されるならそれもいい。凪いだ海に漂っているのなら、
 波濤に揉まれてもがいていたい。
 私にはきっと激しいマゾヒズムが渦巻いていて、いまのところ激
 しいサディズムとなってサリナへ向かって流れていってる。

 女性が好きよ。共感し合えて、果てしない性に溶けていける。
 男が好き。愛欲に熱せられる男の体を打ち込まれ、そのとき私
 は、マゾヒズムを満たすために奴隷となれる。いまのところ夫は
 もちろん、三浦さんもそうではないというだけで、もしもS様と出
 会えたら、そのときこそ私は性獣・・狂うほどのセックスに燃えさ
 かって生きていける・・。
 萎えて眠る夫のペニスをそっと撫で、ほくそ笑んで私は眠りに
 落ちていく。家庭という組織に属さない妻というフリーランサー。
 それが私。その程度のことは考え抜いて選んだDINKS。なのに
 どうして揺らぐのか・・。

 本能があがいていると感じてしまう。

 その頃、サリナと留美の密室では・・。
 彫像のような美しい裸身にうっすらと鞭痕を残したサリナが、今夜は黒のランジェリーに身をつつみ、真新しい鞭痕に肌を染めてフロアに平伏す留美を見据えて座っていた。
 サリナの鞭は手加減されない。手加減は女王の迷い。迷っていては奴隷の心を乱すだけ。サリナは女王になりきった。
「答えは出た?」
 興味本位なら去れ。留美へのやさしさを鞭に込め、サリナの鞭は手加減されない。房鞭の乱れ打ちで留美の裸身は真っ赤にされて、泣いたぐらいで許されない鞭が続いた。留美は崩れ、女王は奴隷の泣き顔を見つめている。
 サリナは言った。
「女王様は私を貸し出すとおっしゃられた。女王として貸し出すから可愛がってやりなさいって。そのために貸し出された私はおまえにとっては女王様よ。私は甘くないからね」
 サリナに憧れて陰毛を処理した留美。留美は出会ったばかりの新しい自分に、解放されていく自分を感じ、サリナの眸をじっと見つめ、それから額をこすって平伏した。

 サリナは言った。
「独り暮らしよね?」
「はい。ずっと寂しくて・・」
「それは私も。友紀様に出会って救われた女だわ。あの方は恐ろしく弱い人。脆いから攻撃し、防御しきれず苦しんで、もがいてもがいて生きている。女の中の女よ、あの方は。だから私は奴隷になれる。中途半端な想いじゃなく身を賭して接していける。私は強い女です。強い自分に嫌気がさして暗闇の中にいた。友紀様が光だった。愛し合えて、でもそうするうちにあの方に危うさを感じたの。馬鹿みたいにまっすぐで生き方が下手すぎる。私の中に少しだけあったマゾヒズムが騒ぎ出し、ほとんどすべてのサディズムを押しつぶしてしまったの。奴隷とはそうしたものよ。憧れなんて甘い世界じゃないんです」
「・・はい」
「よく考えて、私や友紀様のそばにいたいと思うなら、ここで一緒に暮らしましょう。私はおまえが大好きよ。私や友紀様の気持ちに応えるつもりがあるのなら・・わかるわね?」
 留美は大粒の涙をこぼして幾度も幾度もうなずいた。
「今日はもういい、ご褒美です、私をお舐め」

 いつもなら友紀の座るソファに沈み、サリナは両手をひらいて留美を迎えた。奴隷は女王の黒い下着を脱がせていって、同じように陰毛を処理した奴隷らしいサリナの性器に顔を埋めた。
「あぁぁ、いいわ留美、感じるわよ」
「はい・・嬉しいです女王様・・」
「クリトリスを吸って、花奥までよく舐めて」
「はい・・あたし・・」
「うん?」
「中途半端な女じゃ嫌・・燃えていたい・・」
 サリナは穏やかに微笑むと留美の頭をわしづかみ、濡れそぼる肉の花へと押しつけた。
「ンふ・・はぁぁ・・夢のよう・・イキそうよ留美」
 サリナの心の高まりが留美の性器を濡らしていた。

「うわっ、カワイイぃ・・」
 治子が言った
「ほんと・・舐めたいぐらい」
 ケイが言った。
「ママそっくりね、美人になるわ」
 サリナが言った。

 バロン。店の休みに皆が合わせて、友紀、サリナ、留美、治子にケイの五人が顔を揃えた。yuuはすっかりスリムになったが乳房が目立つ。
 生まれて三月が過ぎていて、ボックス席をベッド代わりに寝かせてやって、小さな手足をちょこちょこ動かし笑みをふりまく。子供らしくこぢんまりと整ったyuu生き写しの娘。娘は明江と名づけられた。名づけ親はyuuだった。
「ユウちゃんの生まれ変わりだと思ってる。マゾでもいいからやさしい子に育ってほしい」
 と、yuuが言うと、傍らから男の手が出てママの頭をひっぱたく。
 それが可笑しくて皆で笑った。
 ユウの面影が蘇る。友紀は言った。
「ユウは幽霊のユウだから、いまきっとそばにいるわよ。幽霊でもいいから会いたいよね」
 皆が静かにうなずいた。

 「小説にした」と、一人だけ男の細川がぼそっと言った。妻のyuuはもちろん知っていて、ちょっと笑って小さな娘に眸をやった。
 友紀が言った。
「小説って、ユウのことを?」
 細川はため息にのせるように言う。
「馬鹿みたいにピュアな娘がニューハーフの女王様に出会うのさ。泣きながらも懸命についていく。結婚して娘が産まれて・・ふふふ、これから俺の書くものには・・」
 そこで声を切って友紀を見つめる細川。
「何よ?」
 友紀が訊いた。
「ヒロインはユウ。あの子を幽霊にしたくないのでね」
 女五人が顔を見合わせ、やさしい治子が目頭を押さえていた。

 横浜港を見渡すホテル。
「濡れる・・なかなかいいじゃないか」
「女が誇るべき反応ですもの」
 三浦はうなずき、友紀の裸身をそっと抱いた。
 新しい一冊が印刷に入っていた。
「売れるかどうかなんていいんです。誰かに共感されて、その人なりに濡れてくれれば嬉しいから」
「こうやって?」
 男の指先が女のデルタに忍び込む。
「ン・・あぁぁ・・そうよ、こんなふうに・・」

 愛している。そう感じたときの女にとって、濡れはじめる性器の
 暴走はとめられるものじゃない。夫に濡れ、いまこうして彼に濡
 れ、サリナを濡らして私も濡れて、留美の濡れにサリナと二人
 で濡らしてしまう。
 女の性は束縛されない。女はこうだなんて決めつけられて生き
 たくない。悪女なんて女の素顔よ。だからお化粧するんでしょ。

 怖くない女なんて私じゃないわ。
 私の中の怖い私に貸し出されるから君臨できたり奴隷になれる。
 自分を操れるのは他人じゃない。本音って、そんなもの・・。

 逞しい男の勃起を握り締め、けれども友紀は、すぐにはそれを求めなかった。タイミングを合わせたように部屋のドアがノックされた。友紀は眉を上げて微笑んで、全裸のまま迎えに立った。三浦は何も聞かされてはいなかった。

 黒革のミニスカート、赤いブラの透けるピンクのブラウス。濃いワインレッドのショートヘヤーは、光線を受けて紫色のシルクが絡まる不思議なヘヤー。化粧を整えたサリナは輝くように美しかった。
 しかしサリナは、全裸で迎えた女王の姿に笑顔も引き攣る。背を押されて三浦の待つベッドの前へと追いやられる。
 女王は言った。
「三浦さんよ。この私を奴隷にするほど素敵な人。心してお仕えするように」
「はい、女王様・・ハァァ・・あぁぁ・・」
 息を乱すサリナに微笑み、全裸で寝そべる三浦に向かう。
「奴隷サリナ。私が躾けたマゾ牝です。今日はお披露目、ひとつはここで調教すること。そしてもうひとつは・・ふふふ」
 ゾクとするほど冷酷な女王の笑みにサリナは眉根を寄せてたじろいだ。「自虐のサリナよ。今日から顔を見せていきましょう。生涯マゾ牝の誓いを立てるの。わかったわね!」
「はい、女王様」
「脱ぎなさい!」
「はい!」
 女王がコンパクトなデジカメを奴隷に向けた。

 三浦は友紀とサリナを交互に見て、しかし穏やかに微笑んでいた。
 スカート、ブラウス、赤い上下の下着姿。ブラをはずすと綺麗な乳房の先端にゴールドのリングピアス。パンティを脱ぎ去ると、陰毛のないデルタの底にキラキラ輝くゴールドのピアス。全身にうっすらと鞭痕の残る奴隷の裸身を晒して立つサリナ。
 三浦は友紀の意思をくみとって、やさしく微笑み、両手をひらいた。
「おいでサリナ」
「はい・・あぁぁ三浦様・・」
「ふふふ、可愛い姿だ、さあおいで」
「はい」
 サリナは感激と恐怖で眸を潤ませ、空間を流れていって手を取られ、そのままベッドに引き込まれた。
 そっと抱いてキスを与える三浦。サリナはすでに震えている。
 三浦の手がサリナの乳房をそっとつつみ、そんな二人に寄り添って女王が裸身を横たえた。

「サリナという人生にご褒美よ。二人で可愛がってあげますからね」

 唇に女王のキス・・乳房に三浦の手とキス・・サリナは喜びに涙をためて溶けていく・・。

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