2017年02月05日

DINKS~フリーランサー(三一話)


三一話


 それから二週間、女王様より私の方が忙しく、また夫の仕事が
 単身赴任のための引き継ぎで他へまわり、夫に時間ができて
 家にいる。妻としてできるだけのことはしてあげたい。それや
 これやで、女王様にお会いできない日々が続いていた。

 お部屋から夫が消えた。たった三月とわかりきっているのに
 寂しく感じ、なのに耐えに耐えた女王様への想いが噴火の
 ように衝き上げて、その日の私はクルマで女王様を郊外のホ
 テルへお誘いします。
 夫のいない三月の間、奴隷としてお仕えする誓いのために。
 緑豊かな山裾のホテルの三階、それで最上階。はるか眼下
 に伊豆の海が穏やかに凪いでいましたね。

 今日の女王様は純白のランジェリー。広いルーフバルコニー
 に降り注ぐ陽光がガラスを透かし、その中で全裸となった私は
 額をフロアにこすりつけて、これから三月の性奴隷を誓います。
 「三月だけ? ずっとかもよ?」
 それでもいいと思っていました。
 「はい、どうぞお心のままに」
 怖かった。突き進む私の性格からして、一度M性に火がつけ
 ばSに戻れなくなりそうだったし、私の中の魔性がいよいよ
 暴れ出して止められなくなってしまう。多淫ではないつもりが、
 狂ったようにお尻を振る女に堕ちていきそうで・・。

 膝で立って両手は頭の奴隷のポーズ。
 「いいわ、足にキスなさい」
 「はい、女王様」
 このときすでに奴隷の乳首にはステンレスのクリップが揺れて
 いて、屈むだけで乳房が揺れて乳首が痛い。私は激しく濡ら
 してしまい、激しい責めを期待して、激しい目眩に襲われて
 いる。

 おみ足の先からキスを捧げ、白い指を残らず舐めて差し上げ
 て、そうすると頭をちょっと撫でてくださり、つぶれてしまった
 乳首の責めを許されますが、そのときこそ激痛で、痛い乳首
 を女王様はつままれて、丸みが元に戻るようにコネ上げられる。
 「くぅぅ! くぅぅ!」
 悲鳴をこらえた淫獣が呻くような声を上げ、微笑まれる女王様
 を見つめていると、奴隷とは幸せなものだと実感できる。
 女に生まれた私ですもの。セックスを貪るように生きてみたい。
 持ち前の激情に衝き動かされて、私は乳房を張って乳首を差
 し出し、めまぐるしく左右に振れる乗馬鞭の先を見ている。
 ビシビシ乳首が跳ねられて、きゃぅきゃぅと悲鳴を上げて苦しめ
 ば苦しむほど、女王様はやさしく微笑んでくださいます。
 きゃうきゃうと、どうしても悲鳴が出ちゃう。しばらく休む時間を
 くださって、ふたたび乳首に鞭がくる。
 痛いんです女王様・・ありがとうございます。

 「いい子よ、次は性器打ち。四つん這いでお尻を上げて」
 「はい、女王様、ですけど今日から・・」
 「そうよね、少しぐらいの痕ならいいもんね」
 「はい!」 と、どうしてなのか鞭を求めるお返事をしてしまう。
 「立ちなさい」
 両手を頭に脚を少し広く開き、震える息、湧き上がる生唾を飲
 み下し、鞭を待つ。
 黒い革の乗馬鞭です。怖い。怖いです女王様。
 「五十ほど数えなさい」
 そんなに・・ああ私、泣いてしまう・・。
 ビシーッと本気のスイングがお尻に炸裂し、ぎゃッ! そんな
 ような声を上げたわ。お尻の肉が激痛に痙攣してぶるぶる震
 える強い鞭です。

 「ひとぉつ」
 ビシーッ!
 「十五ぉ・・ぅぅぅ痛い・・ぅぅぅ」
 「泣いてもダメ! お尻を出して!」
 「はい、女王様」
 二十をすぎる頃には号泣でしたし、三十をすぎる頃には打た
 れるたびに走るように飛び跳ねて、床に崩れてのたうちまわり、
 だけどすぐに立ち上がってお尻を差し出す。

 鞭打ちはそれでは終わりません。房鞭に持ち替えられて背中
 も乳房もお尻や腿も革の束が往復するようなめった打ち。
 サリナ様の本気がどれほどのものかを思い知り、満たしてあげ
 られなかった私の弱さを思い知る。
 立っていられず倒れると、容赦なく前から後ろから性器やアナ
 ルを打たれます。ああ女王様、壊れてしまう・・嬉しい。
 考える回路が壊れ、ただひたすらに痛みだけを実感し、恥辱
 の姿を思い知り、なのに濡れそぼる牝の肉欲を思い知る。
 立ちはだかられて笑われる女王様。私は弾かれたように綺麗
 なお尻を抱き締めてすがりつく。子供みたいに甘えてる。子供
 みたいに心をからっぽにできている。
 下着の上から鼻先を腿の間に突っ込むと、女王様も激しく濡
 らしておいでなのです。

 「舐めたいの?」
 「はい、ご奉仕させてください女王様」
 「いいわよ。でもその前に狂ったダンスを見せてちょうだい」

 ベッドに座る女王様に見つめられて、奴隷は立たされたまま、
 激震するバイブを性器に突っ込み、おおぅおおぅと陰獣そのも
 の、ものすごい声を発してイキ続ける。
 失禁をまき散らし、それでも許されない奴隷のアクメ。悪魔の
 ような快楽に、いよいよ私は倒れてしまう。意識が消えて、そ
 れでいながら胸をバクバク膨らませて息をする。心臓が壊れ
 てしまいそう。
 「上を向いて寝なさい、ご褒美です」
 嬉しくて涙が出ます。またがれた女王様の性器が天から降り
 るように与えられ、奴隷はベロベロ舌を回して舐め上げる。

 「ぅン・・いいわ、とってもいいわよ・・いい子ね友紀」
 「はい、お慕いします、女王様ぁ」
 マゾとはこういうものだった。yuuの想いがやっとわかった。治
 子もそうだしユウだって、こうしてオンナを燃やして生きていた
 い。私だって燃えていたい。
 「おしっこ」
 「はい・・愛しています女王様・・大好きです」
 「うんうん、可愛いマゾになっていこうね。こんなもので知った
 つもりでいちゃダメよ」
 「はい!」

 サリナはこんなふうになりたいのだと、このとき私は身をもって
 知りました。
 お体から捨てられる温かい迸りをいただいて、汚いなんてもち
 ろん思わず、女王様とひとつになれた歓びだけを考えていた。

 私の性器が大輪の花となり、とめどなく蜜を垂らして性を誘う。
 サリナ様はおやさしく、それからはベッドを許してくださって、
 果てても果てても際限ない愛を奴隷に与えてくださるの。
 ピクとも動けなくなるまで・・あなたを女王様と見定めて、ピクと
 も心が揺れなくなるまで・・奴隷は悲鳴を上げて果てていく・・。


 なんて子だろう。こんな女は素晴らしい。いまのあなたは私の
 行きたい世界にいるのよ。わかってる? 心でそう思い、こん
 な私を受け止めてくれるあなたに愛を覚えた。
 痛いでしょうね、苦しいでしょうね、でもダメよ、私のために耐
 えてみせて。サディズムが湧き上がり、それが私自身のマゾヒ
 ズムと溶け合って、私は魔女のように振る舞える。

 ごめんなさいとあなたは言うけど、謝ったりしなくていいのよ。
 嬉しくてなりません。まさかこれほどの愛がこんな私に向けら
 れるなんて、夢だとしても幸せよ友紀。心からの感謝を込めて、
 ちょっとぐらい泣いたって許しませんから。私を癒やすというの
 なら、これの何倍、もっともっと、耐えて泣く姿を見せなさい。

 そのとき私は生涯の奴隷となれるでしょう。友紀様だけを想い
 続けて、これよりない幸せの中で老いていける。
 私はダンサー。でもね友紀、私はじきに三十七です。
 引退を考える踊り子は苦しいわ。若いダンサーに勝てなくなる。
 ついさっきできたことができなくなって、若かったあの頃、主役
 を取りたくて鬼になれた心も失せる。

 残ったものは孤独。もうダメ、枯れていく・・男なんて、いまさら
 まっぴら。男女の汚れを嫌というほど見て来た私。男なんて許
 せない。
 だからって、汚れた私も許せない。自虐の正体はそのへんに
 潜んでいると思うのね。私自身の卑劣に眸をつむって得たも
 のを失って、そのときやっと眸が開き、汚れきった私の姿を思
 い知る。
 激しい気性に嫌気がさして、奴隷となって平伏していたくなる。

 友紀。女王様はあなたなのよ。三月と言うならわかりました。
 私はもう一度魔女となって友紀を鍛えてあげますからね。
 私にとって、素敵な魔女こそが、かけがいのない女神様なの。
 そして友紀、女が下着を替えるように黒い愛の似合う人になっ
 てちょうだい。奴隷として私は友紀を崇拝します。私から苦悩
 のすべてを奪ってくれた。
 嬉しいわ。ほんとよ友紀。ありがとうございます女王様。

 心より、もっと鞭を・・サリナ。


 サリナの書いたメッセージを向こう三月の奴隷を誓った三日後に、友紀は自分の部屋で読んでいた。メール。出来すぎなほど見事な文章。素晴らしいと感じ、あのときの私の想いとこの文章の二つを合わせたものを私たちの声にしようと考えた。
 そのとたん激情が衝き上げて、簡単な荷造りをして部屋を出た。女王様の部屋で暮らそう。夫のいないいましかできない。家畜として飼われてみたい。Mな友紀が加速して、いてもたってもいられなかった。

 電車に乗って小一時間。仕事から自宅に戻っての切り返しで、サリナの元へたどり着いたときには時刻は十時に近かった。ドアに立ってノックする。突然の押しかけはお仕置きだろうと覚悟した。
「どなた?」
「私です」
「友紀? ちょっと待って、いま開ける」
 サリナはネグリジェ。寝ようとしていたところのようだった。
「もうお休みなんですか?」
「今日はちょっと疲れちゃった。それよりどうしたの、そのバッグ?」
 キャスターの付いたトラベルバッグ。
「メール拝見させていただきました。そしたらもうたまらなくて飛んで来ちゃった。飼ってください女王様」
 サリナは眸をキラキラさせてくすくす笑う。

 部屋に入って奴隷は全裸。サリナのための紫色の首輪を借りて、けれどもサリナはそっと抱いてキスをする。
「ちょうどいいわ、マッサージでもしてもらおうかな」
 それでベッド。サリナはネグリジェを脱いで全裸でうつぶせ。友紀は女王のヒップにキスをして、それから腰を揉みはじめる。
「読んでどう? 使えそう?」
「使えます、私の想いと合わせて仕上げてみようかなって」
「そうしてくれれば嬉しいけど。ああ・・気持ちいいわよ、ここのところ踊りすぎ。メールにも書いたけど、こういうところが昔と違う。衰えてるなって感じるし」
「寂しいですよね」
「悲しいと言った方がいいかもよ。ミラーに映る動きだって微妙に昔とは違う気がするし。まあダンサーの宿命よ、口惜しいけれどしょうがない。それより友紀」
「はい?」
「私といたい?」
「はい、離れていたくありません。週に一度は戻らないとなりませんが」
「毎日調教? 辛いことになるわよ?」
 ときめいている。友紀はキュンとする思いを実感していた。yuuの気持ちはこういうものか。ユウもそうだし治子もそうだし。サリナとのシチュエーションが変わるたびに誰かの想いが理解できていく。

 腰から腿へ、背中から首筋へ、友紀の手が揉みほぐし、サリナがくるりと裸身を回して上を向き、膝を立てて腿を割った。
「舐めなさい」
 友紀は微笑んでうなずくと、開脚の股下に降りて女王の両腿を下から抱いて、静かに閉じた花のリップへ舌をのばす。
「ぅぅン・・友紀・・感じる・・」
「はい」
 閉じた花をそっと舐め、花を割って綺麗なピンクの膣ひだを舐め、谷上に尖る肉の芽を吸い立てて舐め弾く。女王の裸身がアーチを描き、頭をわしづかみにされて濡れだした性器へと押しつけられる。
「逆さになって」

 友紀は羞恥に襲われる。レズとしてではなく奴隷として女王をまたぐ恥ずかしさ。不思議な羞恥心は何だろう。逆さになっても女王の花を舐め続け、女王の指に乳首をつままれヒネられて、ゾクゾクする甘い痛みを感じている。
「いやらしいわね、周りの毛までヌラヌラよ」
「はい・・あぁン、見ないで女王様ぁ」
 私って三十四の女なのよ。どうして子供に戻れるのか、それも不思議でならなかった。
 チュッと触れるキスがくる。電流のような快感が背骨に沿って伝播して、ちょうど猫が毛を逆立てて震えるような、痺れにも似た感覚に総身鳥肌が立ってくる。

 乳首に爪を立てられてコネられながら、鋭い痛みと、女王の舌のご褒美との両方で奴隷は一気に駆け上がる。
「はぁぁイクぅ・・女王様、イッちゃう・・」
 体を強ばらせて快楽と戦おうとし、そのとき腹圧が上がって蜜がとろりと膣からあふれた。
「嫌ぁぁン、出ちゃう・・流れ出ちゃう・・ああイク、女王様、お許しください」
 痙攣が襲い、わなわな震えて達していく友紀。サリナは乳首の責めを許してやって、濡れる友紀に舌を這わせた。
 おおぅ女王様おおぅ・・友紀は吼え、がっくり裸身を女王にかぶせて崩れていった。

「ふむ・・それにしても、これが早瀬の素顔か・・」
「驚きました? そうなんです、ドキュメンタリー」
「ドキュメンタリーね・・ふっふっふ、まあそういうことだろうが言葉がちょっとふさわしくない・・いい女だ」
「ほんと?」
「うむ、ちょっと行くか?」
「はい、少しなら私も」
「ほう・・酒を?」
「三浦さんとならいいかなって」

 次の日の夕刻、友紀は三浦に誘われて飲みに出た。このところ友紀はミニスカートでとおしている。私はマゾ、恥ずかしさも調教だと思っていたし、そうなさいとサリナに命じられていたからだ。
 ジャズの流れる小さな店。造りが古く、学生街のジャズバーといったムード。三浦はバーボンでロック。友紀はそれの薄い水割り。普段ほとんど飲まない友紀は頬が赤く、眸の色が溶けてくる。

 そのジャズバーは店が小さく店内は暗く、覗いたときにはほぼ満席でカウンターの隅しか空いてない。そこはL字カウンターの短辺で二人掛け。 友紀が奥、三浦が手前で隣の男性との間に入る。雰囲気のいいポジションだった。
「サリナさんは宝だな」
 友紀はうなずいて言う。
「私のすべて。・・いいえ、サリナと主人と・・それから・・」
 友紀の手がカウンターの下でそっと三浦の膝に触れた。
 三浦は黙って微笑み、友紀の手を許している。
「惹かれていました、三浦さんに」
「浮気者め・・ふふふ」
「そうでしょうか。女の性はひろがりに満ちている。でも若さには限りがあって・・いまがそのとき」
「友紀らしい・・激しい人だ」

 友紀と呼ばれて胸が騒ぐ。
 三浦の手がそっと友紀の腿にのる。友紀はちょっと唇の角を噛んでうつむいた。ほろ酔いの頬がますます赤く、眸が溶ける。
「いい眸をしている」
「嬉しい・・私の魔性・・どうしようもないんです」
 三浦はうなずくとグラスを傾け、ストッキングに張り詰める友紀の腿に手を置いて、膝へと向けてそっと撫でた。
 友紀は眸を閉じ、手を拒もうとはしなかった。
「・・感じちゃう」
 それにも三浦は応えずに、そっと手を退いて去って行く。
「時間はあるのか?」
「ううん、今日はもう遅すぎます・・女王様のおそばへ帰らないと・・明後日なら一度家へ戻りますから・・ねえ三浦さん」
「うむ?」
「ドライでいいのよ、重くなるから。でも・・そうなるのなら、そのとき本気でいてくださいね・・」
 三浦は応えず、カウンターの中へリクエスト。
「タイムアフタータイム、マイルスで」
 店員なのか、いいや、おそらくマスター。五十年配の男性がちょっとうなずき、CDをチェンジした。

 気怠くかすれるトランペット・・友紀の好きな曲だった。こういうところでもセンスが合うと嬉しくなる・・。

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