2017年02月03日

DINKS~フリーランサー(二九話)


二九話


 yuuを連れて部屋を出て、そこは静寂につつまれた現世の空気に満ちていて、yuuの腰に手をやりながら友紀は言う。

「マゾって幸せなもののようね。なんだかちょっと羨ましい。私は夫に対してどうなんだろうって思ってしまった」
「友紀さん・・」
「ううん不安じゃないのよ。揺れてるわけではないけれど、女を捧げて生きてはいない。うまく言えないけどね・・サリナや、それからyuuちゃん見ててもそうだけど、いいなぁって思ったりしちゃうんだ」
 yuuは応えず、気づかうように友紀の腰へと手を回して寄り添った。

 そしてこのとき、友紀はくっきりとした実像として三浦とのベッドの図柄を描いていた。

 エレベーターホールに立って友紀が上でお茶でもしようと言ったとき、yuuは一階下の野上の部屋へ行こうと強く友紀の手を引いた。
 何かを言いたげな雰囲気に友紀は従い、導かれるままに野上の部屋へ。そこもツインでベッドの片側にわずかに寝乱れが残っていて、備えられたパジャマが脱がれ、しかし一方のベッドには乱れがなく、脱がれたパジャマがきっちりのばしてベッドの上に置いてある。部屋は綺麗。おそらくチェックインしてから揃ってシャワーを浴びて男性の方が寝転んだ・・そんなことだったのだろう。ベッドの間に大きなバッグ。中身はおよそ想像できた。
 yuuは窓際のテーブルセットにまっすぐ歩き、友紀も追って椅子に座って向き合った。
 yuuが言った。
「こんなこと私が言ったらお仕置きですけど、野上さんてほんと神様みたいなお方なんですよ」
「そうなの?」

 ちょっと大げさな言いようだと友紀は思う。M女としてS様を崇める想いだろうととっさに思ったのだが、どうやらそうでもないようだ。yuuの面色は真剣だった。
「乱さんいま二十九で子供がいるんです」
「え・・そうなの子供が?」
「私のようにトラウマがあったわけでもないのに天性のM女さんで、以前のご主人様の調教というのか考え方というのか、何人かのS様たちにマワされるようなことがあって妊娠した。誰の子だかわからない。遺伝子を調べてみてご主人様の子供ではない。そしたら卑劣にも前の人に捨てられて私生児を産んでしまった。野上さんはそれもこれもを含んだ上で夫婦になろうとおっしゃられ、籍はまだみたいですがご夫婦同然に暮らしておいでなんですね。赤ちゃんは三つになるそうです」
「自分の子としてということよね?」
「もちろんそうです。入籍してとお考えなんですが、乱さんがいくら何でもそれはできないって。そんなことから『乱』と名付け、乱れるおまえを俺は許すとおっしゃられてる」
「・・そうなんだ・・そんな関係?」
 yuuはうなずき、さらに言った。

「苦しいのは純さんも同じだし、純さんこそ辛いと思いますよ。彼女は見てのとおり人妻で子供が二人もおいでです。離婚しようとしても旦那さんの一家が許してくれない。かなりな名家と聞いていますが、どうしても別れるなら子供を置いて裸同然で出て行けって。冷えきった家にいる。なのにそのご主人様は独身で」
「独身? 久住さんが?」
「あの方は四十六歳、純さんは三十七歳なんですね。久住さんは奥様と可愛い娘さんを交通事故で亡くされて、そんなとき純さんと出会うんですけど、『俺ならいい、いつだって受け入れる』と結婚を考えておられます。でも純さんは応えてあげられない」
 そうした想いが、あのときサリナを見ていて主の腿に手を置いた・・負い目のようになっているのか。
 どちらも想像したのとは違う男女の姿。私はなんて平穏に生きてきたのだろうと友紀は感じ、自分がひどく甘く思えてならなかった。

 yuuが言った。
「これを言うと今度こそ鞭ですけれど・・」
「うん、なあに?」
「ご主人様はおっしゃいます。友紀さんのSはMの逆転、サリナさんのMはSの逆転。二人ともいつかそこに気づくだろうし、気づいてなお友紀さんはSであるべき、サリナさんはMであるべきだと」

 胸が苦しい。サリナの姿を見ていてかすかな羨望・・それがいまはっきりとした嫉妬に変わりつつあると友紀自身が自覚していた。
「友紀さんがさっきみたいにおっしゃられるから言うんですけど、私なら愛する奴隷に打ち明けてMを知ろうとするでしょう。サリナさん震えるほど嬉しいでしょうし、そのときは厳しい女王様になってくれる。サリナさんは全裸でも、友紀さんは下着姿。そう思えてならないんです。いつだったか友紀さん言ってましたよね、夫の前ではMっぽいって」
「ええ・・尽くしてあげたいと思ってしまう」
「それが本質なんですよ。サリナさんもそれはそう。SとMは互いの裏返しってことが多いとご主人様もおっしゃっておられますし、サリナさんを愛しているなら下着を取っていいんじゃないかと思うんですね」

 友紀には返す言葉がなかった。思考が停まって茫洋とした想いだけが漂って、友紀は切り替えるようにyuuに言った。
「ひとつ訊かせて」
「はい?」
「もしよ、細川さんがサリナと・・その・・」
「セックスですよね? 結婚したい相手が他の女とつながったらってことでしょう?」
 友紀は、訊いておきながらしまったと思う。わかりきっていて胸の内で処理することを突きつけられては逃げ場を奪うことになる。

 しかしyuuはやさしい面色で笑って言った。
「私は嫌よ。でもご主人様がそうされるのは、奴隷の献身へのご褒美ですし、サリナさんが欲しがってるのに与えないのは可哀想」
「許せるのね?」
「女性を尊ぶご主人様は誇りですから。それに・・ふふふ、サリナさんは一度ご主人様に憧れたお方だし、それより何よりサリナさんなら許せます。見ていて感動する女性だもん」
 打ちのめされた気分だった。
 yuuは微笑んで友紀の手を取り、手を撫でて言う。

「友紀さんはいまのまま」

「え?」
「いまのままでいいんです。想いが逆転するとき告白するのはサリナさんをおいてない・・そこだけですもん」
「・・うん、ありがとう。あのねyuuちゃん」
「ええ?」
「サリナが手記を書いてね、その中でこう言うの。女王様のSは女王様のため、私のMは私のため。相手のために何かができるほど人は高くはいられないって」
 yuuは眸を点にしてぼーっと友紀を見つめていた。
「受け取り方はいろいろありますね」
「そう思う。今日こんな話をしてますますそう思えるようになってきた。失いたくない、何が何でもサリナが欲しいの」
 そして友紀は雨が叩きつけるガラスエリアに気がついた。
「うそ・・あんなにお天気よかったのに・・」
「友紀さんの涙です。きっとそうだわ。・・あ、珈琲でも淹れますね、備え付けのがあるはずだから」
 籍を離れて行くyuuの張り詰める尻を見つめながら、いまの私ではyuuにも勝てないと思ってしまう友紀だった。

 珈琲ができてふたたび向き合い、友紀は言った。
「・・女って・・いいえ私は特に面倒な女だわ。それでそんな私を癒やそうとサリナは懸命・・ふふふ、恥ずかしくなってきちゃった・・情けない女だよ私って」
「だから素敵なんですよ。迷って迷って、もがいてもがいて、そんな姿を見てるからサリナさんはマゾになれる。強いだけの人間なんて魅力ないもん」
「あらま・・じゃあ細川さんも?」
 yuuはくすっと笑って言う。
「ご主人様は脆いんです。脆いからお店にいても寡黙だし、脆いから私に対してだって強がってる。言葉の下手な人ですよ」
「カッコいいよね、そういうの」
「カッコいいです、オトコって感じでメロメロになっちゃって。母性ですかね、こういうのって?」

 どうしようなく女・・サリナもyuuも・・乱や純も・・私だってそうありたい。燃えるような想いが衝き上げた友紀だった。
 珈琲を少し残して椅子を立ち、大きな窓に雨の這うガラスを見ていて、後ろからyuuに抱き締められる。
「・・ありがとう」
「とんでもないです、友紀さんこそ素敵だわ・・女にSな私ですけど友紀さんならMでいられる」
「・・サリナだったら?」
「どうかなぁ・・私らしくSかもですね。奈落の底に堕としてやる・・たぶん」
「本気になれる?」
「友紀さんにもね。相手に本気に私は本気。女だもん、ハンパは勘弁て感じかしら」

「・・抱いてyuu」

 yuuは応えず、後ろから回す手の片方をブラ包みの乳房へ、もう片方をミニスカートの中へと滑らせる。
 震えるほどの性感に襲われて、友紀は甘く息を吐き、導かれるままにベッドに崩れて脱がされていく。
 閉じた瞼に涙が滲む。yuuがささやく。
「どうして?」
「わからないよ・・泣けてきちゃうだけ・・」
 友紀はピンクのランジェリー。yuuは服を着たまま。
 全裸にされた友紀は、目を閉じてyuuの責めを待っていた。
「舐めてあげるから脚を開きなさい」
 静かだが拒めない声が嬉しかった。
「・・はい」
「ふふふ、そうそう。サリナさん、どんなに嬉しいことか」
「はい・・あぅ! あっ、んっ・・ハァァ嬉しい」
「嬉しい?」
「はい」
「マゾだもんね?」
「はい・・はい・・」
 心の中で溶けずに残った女心が、このときを境に熱をもらって溶けていく。yuuは脱ぎ、穏やかでやさしい愛撫を友紀に与え、友紀は追い詰められていくのだった。

 時計は動く。時刻は九時すぎ。
 サリナの元へ戻ってみると、サリナは裸身を鞭で真っ赤にして、だらしなく性器を晒してフロアで気を失っていた。
 純もやさしく熟れたフルヌード。乱も全裸。男たち三人がトランクスとブリーフ姿。細川はトランクス。久住が黒のブリーフ、野上はトランクス。
 どんなことがあったのか、純と乱がひとつベッドで抱き合って、静かに横たわっていたのだった。純の裸身は抜けるように白く綺麗。陰毛も揃っていて、かすかに赤い鞭痕が尻や腰に残っている。
 乱はと言えば、体中に無残な鞭痕。一本鞭の乱れ打ちといった感じだったが、いまできた傷ではなさそうだった。若い乳房が誇らしく張り詰めていて、両方の乳首にステンレスのリングピアス。クリトリスにもピアスが輝き、性奴隷を誇るような女体。
 二人ともに妊娠線が残っていることを見逃す友紀ではなかった。

 友紀はだらしなくノビたサリナのそばにしゃがむと、頬をパシパシ叩いて揺り起こす。膝抱きにしてやるとサリナはとろんと溶けた眸を開けた。
「あぁぁ女王様・・気を失ってしまったみたい・・」
「ダメよ、そんなことじゃ。S様へのご奉仕は?」
 サリナはまだですと首を振る。
「可愛がっていただいてそんなことでどうするの。お一人ずつ丁寧にお礼なさい」
「・・はい」
 いいんですかと問うようなサリナの視線。友紀は当然よと言うようにうなずいて、鞭打ちで真っ赤にされた尻をひっぱたく。房鞭の痕ばかり。乗馬鞭は使われていないと感じたし、ふと見ると浣腸器は綺麗なまま。裸身に縄目は残っていなく手首や足首にも縄目はない。
 サリナの髪をつかんで引き起こし、尻を叩いて、最初に久住の足下にひざまづかせる。
 久住はベッドに座る。サリナが平伏して感謝を言い、それから黒いブリーフに手をかけた。
 次に野上、そして細川。三人の男性器に奉仕をし、精液に濡れる口の周りを舌を出して舐め取って、サリナは最後に女たちに平伏した。

 シャワーを浴びさせ化粧をさせて部屋を出たとき、時刻は十一時に近かった。細川、yuuとはホテルで別れた。友紀は夫に今日は泊まると告げてある。しかしサリナに明日も渋谷で仕事があった。
「もしかしてと思ったもので替えのレオタードを置いてありますから」
 友紀はサリナの頬をそっと撫で、スマホでホテルを検索。すぐ近くのビジネスホテルにツインが取れた。
 タクシー。ワンメーターで降りたところの小さなホテル。場所なんてどこでもよかった。部屋は狭い。ダブルの部屋にシングルベッドをふたつ押し込んだようなもの。

 部屋に入ると友紀がサリナをひったくり、ベッドに倒れて抱き合った。
「素敵な夜だった?」
「はい・・狂うかと思っちゃって」
「ふふふ、それならよかった。それでねサリナ」
「はい?」
 サリナの丸い眸。友紀はサリナをベッドに寝かせたままベッドを離れ、着ているものを脱ぎ去って、綺麗とは言えない古いホテルのカーペットフロアに平伏した。
 サリナは唖然とし、ベッドに座り込んで見下ろしている。

 友紀は言った。
「お願いしますサリナ様、苦しいの・・どうしようもないんです。ときどきこうして奴隷として扱ってくださいませんか。いままでごめんなさい。サリナ様が裸なのに私は下着を脱げなかった。心からお慕いします女王様。苦しくてなりません。どうか私を責めてください」
 顔を上げた友紀の眸から涙が伝い、それを見下ろすサリナの眸にも涙が流れていたのだった。
「・・愛してるよ友紀」
「はい、女王様、ありがとうございます。私も心から・・心からお捧げする覚悟です。お願いします捨てないで。捨てられたら私、生きていけない」
「うん、ぅぅぅ・・ぅっぅっ・・嬉しいよ友紀・・嬉しいんだもん・・愛してるもん・・」
 サリナは泣いた。ベッドから手をのばして友紀をすくい、ベッドに引きずり込んで抱き締めた。サリナは泣いた。その声が友紀を泣かせていった。

 着衣の女王が上になり全裸の友紀は組み伏せられて唇を奪われる。

 三浦に抱かれる、奴隷のように乱れて抱かれる・・きっとそうなる。
 夫の前でも奴隷になれる・・淫乱な姿を隠さない。
 心が溶けた涙がこぼれた・・。

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