2017年02月03日

DINKS~フリーランサー(二八話)


二八話


 サリナが持ち込んだスポーツバッグの中身。そんなものは
 SMではごくありきたりな、しかも初歩的なものばかり。
 房鞭に乗馬鞭。それにしたって革のソフトな、よほどの打ち
 方をしなければ傷なんてすぐに消えてしまうもの。
 ディルド。太いといっても常識的なゴムチンであって、これ
 はまあ男性機能の代用品。女を昇天させる嬉しいもの。
 乳首を責めるステンレスのクリップは痛みという点で厳しい
 ものではあるのでしょうが、乳首責めの好きなサリナにすれ
 ば耐えきれるものだと思うんです。
 
 バッグの中身を震える声で告げながら、サリナが恐れたの
 はガラスの浣腸器と、それをどう使って欲しいのかということ。
 どう使うも何も浣腸は浣腸。耐えきれなくなった最後のシー
 ンをサリナ自身がどう思い描くのか。サリナは浣腸器ですと
 言ったきり、どうしてほしいとは言えません。あまりの恥辱を
 想像し、と言ってトイレでしたいとも言えない。哀願するよう
 に私を見つめる眸を見ていて、私のサディズムは最高潮に
 達していながら、反面、可哀想で、可愛くて、いますぐ抱い
 てやりたくなります。

 そしてそんなことより、このとき私は、この部屋に入るまで
 思ってもいなかったことに意識が向いた。男女のSMを
 見極めてやろう。男女の絆。そこらの不倫より情が深くて
 絆が強いなんてことが言われますが、はたしてそうか。
 M女だって女ですから、この人と見定めた男性が他の女に
 手を出すことを喜ぶ女はいないでしょう。yuuちゃんだって、
 結婚するご主人様が他の女に情を向ける姿をどう思うか。
 妻となるyuuちゃんとの眸を細川さんはどう感じてサリナに
 向かうのか。かなり意地悪に私は観察しようとしたのです。
 雑誌の仕事で不倫を取り上げ、妻を粗末にする夫の側も、
 夫に満たされない妻たちを餌食にする男の側も、身勝手
 すぎる男たちを嫌と言うほど見て来ています。

 それとS様のどこがどう違うのか。ノーマルセックスとSMは、
 それほどまでに違うものか。レズでSMなら決定的に違うで
 しょうけど所詮は男と女。愛は性器の結合で完結し、やがて
 ときめきが消えていって男女は終わる。男女の性の宿命の
 ようなもの。初対面の二組なんてどうでもよかった。興味は
 細川さんとyuuちゃんです。細川さんには、そこらの男たち
 とは違うと私自身も感じていて惹かれるところがありましたし、
 あの日yuuちゃんと寝たことで私は彼女にも特別な感情を
 抱いていた。
 さて、そんな二人がサリナほどの美女マゾを前にどうなるか。

 怖いことを考えていると自覚しながら、細川さんとyuuちゃん
 にそれとなく眸をやって探っていた。妻となる女の目の前で
 細川さんはサリナを可愛がってやれるのか。勃起を突きつけ
 たりできるのか。またそのとき、yuuちゃんは本心からご主人
 様を許せるものだろうか。
 私なら嫌。夫がyuuに向いたとしたら私はどちらも許せない。
 と考えたとき、では相手がサリナなら・・そのとき私がそばに
 いて、二人対サリナという関係の中で夫のペニスが使われ
 たとして、それなら許せそう・・ということは、yuuちゃんも
 そうなのか? 純さんと乱ちゃんの二人はどうなのか?

 yuuちゃん純さん乱ちゃん、女三人の感情もあるでしょう。
 同じM女としての完成度。ルックスではサリナが格上。当然
 のように男性もそう感じ、そんな中で自分の主に見比べられ
 る女の気持ちは穏やかではいられない。もしここに私たち
 夫婦がいて誰かが奴隷サリナを連れ来た。私なら怖くてなら
 ない。とても勝てないと思うから。

 考えすぎかもしれませんが、愛憎の縮図がこの場にあると
 思えてしまう。夫に対して私は自信がないのか・・さまざまな
 感情が湧き上がっては渦を巻いているようで・・。
 「浣腸器があります」と言ったきり、声を失ったサリナの面色
 が、映像のフェイドインのように私の意識に像を結んだ・・。

「汚いことは言わなくていい。それはお仕置きです。使われたくなかったら一心に奴隷に徹すること。いいわねサリナ」
「はい、女王様・・お誓いいたします」
 サリナの声は女体のビブラートをそのまま表現するように震えて小さな声だった。
 縄がないと、このときになって友紀は思った。S男性三人、縄があれば恥辱を固定して鑑賞することもできたのに。
「縄がないわね、ついうっかり」 と、友紀が微笑みを男たちに流すと、久住が顎をしゃくって奴隷の純に視線をやった。
「それならこちらで。まあ一通りは揃ってます」
「一本鞭は?」
「ふふふ、それももちろん」
 友紀はちょっと笑って久住にうなずいて、それから瞳をほくそ笑ませてサリナに言った。
「ですってよサリナ。使ってほしくない恐ろしいものがいろいろありそう。嬉しいわね、マゾですものね?」
「・・はい・・ハァァ・・んっ・・ハァァ」
「ふふふ、もうハァハァなんだから。いいわ脱いで。皆さんに欲情されるよう、いつものように踊りながらいやらしく脱ぎなさい。全裸です!」
「はぁぁ、はい、女王様・・あぁン、震えます・・んっんっ・・」
 感じ入った甘い声。

 そのときふと久住に眸をやると、純という奴隷が主の膝にすっと手をやり腿に置いてサリナを見つめる。美しいサリナの姿が怖いのだと友紀は感じた。
 一方の野上ペアは、主も奴隷も嬉々として見つめていたが乱は主の想いを探ろうとはしていない。乱は若く天性の淫婦を思わせるギラギラとした眸の色で、主を探ることより肉欲に気もそぞろとったムード。
 細川は穏やかな笑みをたたえて見つめていて、yuuはyuuで主を気にする素振りもない。それがなぜかちょっと口惜しい。完成されて揺るがない主とM女に思えてしまう。
 もし私なら純のように夫の体に触れていたいと思うだろう。友紀は夫との関係に微妙な隙間があるのではと考えはじめた。

 サリナ。顔色を失って、けれどもそこはプロダンサー。チークを踊るようにしなりしなりと肢体をくねらせ、スカートを解放し、濃いピンクのアミストを尻から巻き降ろして脱ぎ去って、その下は純白のTバックパンティ。
 ごく淡くブルーに見える白いブラウス。腰を振り尻を振りつつボタンを解放して脱いでいく。下は純白のハーフカップブラ。ブラとパンティだけのダンサーは、すでにもう眸が据わり、小鼻をヒクヒクさせて性的な興奮を表現する淫婦の面色。いい眸をすると誰もが思ったはずだった。
 ブラの背に手がかかり、友紀が言った。
「回りながらよ。もっと腰を入れていやらしく」
「はい、女王様・・ぁぁ感じます」
「濡れてるわね?」
「はい・・もうたっぷり・・ハァァ・・」
 肩を交互に入れて、そのとき腰が左右に揺れて白い尻が蠢いて、ブラがはずされ、カタチのいい乳房にはブツブツに鳥肌が立っていて、乳輪がすぼまり乳首がしこってコリコリ勃つ。

 白のTスタイルパンティだけのヌードダンサー。腰を入れてセックスの動きをゆったりしながら、肩を交互に揺すると乳房が弾む。三十六歳の女のヌードではなかった。単に若いということでもない。鍛えられた女のヌードの可能性。細川やyuuはともかく、初対面の男女四人は息を詰めて鑑賞している。
 最後に残ったパンティ。サリナの面色は血の気をなくした蒼白から、いまはもう桜色に紅潮した性牝の昂揚を物語り、すでにもう達しかけているように、動きもゆらゆらくねくね崩れそうになっている。
 Tスタイルパンティはマチが細く、サイドから指を入れて尻を振るように下げられていったのだったが、性器にあてがう白い底地が蜜にヌラめき、剥がされていくときに透き通った糸を引くほど濡れていた。
 下腹の牝谷を飾る陰毛は許されず、あからさまに割れ込む谷の奥底に下向きに咲く女の花が閉じていて、肉の薄い左右のリップがヌラヌラ濡れて覗いていた。

「おっぱい揉んで。乳首をいじってやりがならがに股で踊りなさい」
「はぃ・・あぁぁ感じる・・女王様、あぁぁ震える・・」
 消えていく細い女声。
 両手で乳房を揉み上げなら指先で乳首を伸ばすようにコネつぶし、膝を大きく割って腰を左右前後にクイクイ入れて踊るマゾ。体がやわらかく腿がほぼ左右に全開。しゃがむように、揺れるように、ペニスを待つ淫婦のように、尻を振って踊るサリナ。
 とろけた眸・・半分開いて燃える息を吐く口・・閉じたラビアが花を咲かせ、開口を待ちわびた愛液が蜜玉をつくって糸を引いて垂れていく。

「よろしい、ここへ来て奴隷のポーズよ」
「はぁぁ・・はい、女王様ぁ・・ぁぁ恥ずかしい・・ハァァ、あっ、ハァァァ!」
 皆の足下のカーペット敷きのフロアに、空気の抜けたドールのようにしなだれ崩れて膝をつき、肩幅に腿を割って両手は頭の奴隷の姿。
「皆さんに見ていただいて幸せね? お汁を垂らしちゃうほど感じてるしね?」
 サリナはこくりとうなずいて、見る間に涙があふれてくる。歓喜の涙。誰が見てもそう映ったことだろう。

「さあ、どうしましょうね? ふふふ、なかなか可愛い奴隷でしょ?」
 一人ずつゆっくり視線を流すと、最初に動いたのは細川だった。yuuのそばのベッドの縁からすっと立つと、微笑みながらサリナの前にしゃがみ込んで、頭をそっと撫でてやり、ふわりと雲が女をつつむように抱いてやる。頭で組ませたサリナの手が自然にほどけて細川に抱きすがる。
 憧れたS男性。嬉しいはずだ。
「綺麗だよサリナ、いい奴隷になったね・・いい子だよ」
「はぃ・・嬉しいです細川様・・友紀様と出会えて私・・幸せです」
「うんうん、そうかそうか」
 抱かれていながら涙を流すサリナ。ふと見るとyuuの眸にも涙が光る。

 次は久住。久住は立ち上がるといっそう背が高く逞しい。そんな男が同じようにしゃがみ込んで全裸の奴隷を抱いてやる。すぽんとくるまるようにサリナは抱かれる。
「はぁぁ・・ああっ・・ありがとうございます、嬉しいです」
「うむ、いい奴隷だ。恥ずかしいね、よしよし・・」
 抱きくるまれて背中を撫でられ、サリナは眸を見開いて泣いている。

 次に野上。野上はにっこり笑って同じように抱いてやり、頭や背を撫でながら、耳許で言うのだった。
「傷のない綺麗な体だ。女王様に愛されていることを心に刻んでいなさいね。捧げるに値する女王様だよ」
「それは・・はい、はい、そう思います、ありがとうございます」

 さてそれから。マゾ牝サリナを知っているyuuが同じように抱いてやり唇にキスをする。
 それからだ。 さてそれから。友紀は、純と乱、対照的な二人がどうするかを見つめていた。
 歳上だからか純が先にベッドを離れ、頭を撫でて頬を撫でて、抱きくるんで眸を見つめ、唇を重ねていく。しかしキスは浅かった。
「いい子ですねサリナ、素敵よ、とっても・・」
 純は穏やかな女性のようで、そっと撫でる手がやさしい。

 最後に乱。主が『乱れよ』とでも言うようにつけた奴隷の名。ムードがケイに似て激しいタイプ。乱は、サリナ同様膝をついて、一度はそっとサリナを抱いて、ちょっと離れて眸を見つめ、ガツンと胸に抱き締めていく。
 いきなりキスが深い。舌の絡む性のキス。ケイの面影が浮かぶほど、乱は激しくサリナを求めた。
「綺麗・・口惜しいぐらい。ふふふ、どうしてサリナはM女なの?」
 それは友紀が思ったこと。サリナこそ女王のムード。
 乱が友紀を振り向いて言った。
「可愛がってあげてもいいですか?」
「どうぞ、お好きなように。積極的ね乱ちゃんは」
「はい、だってサリナ・・可愛いもん」

 もうたまらないと言うように笑って抱いてやりながら、乱の両手がサリナの白い尻をわしづかみ、揉み上げて、尻の谷へと滑り降りた指先が濡れる花をまさぐった。
「おぉう! あぁン! 乱様、ああ乱様ぁーっ!」
 くちゅくちゅと嬲り音が聞こえだし、サリナは抱き手に力を込めて抱きすがり、キスを受けながら裸身を痙攣されて愛撫を受ける。
「気持ちいい? イキそ?」
「はぃ・・嬉しい・・あぁイクぅ・・もうダメぇ」
「ふふふ・・可愛いいんだから・・ほんと最高の女王様よ。泣いちゃうぐらい幸せよね?」
 サリナは声をなくして大粒の涙をこぼし、激しくなる指の愛撫に尻を振ってよがり泣く。
 奴隷を浅くイカせておき、指を抜いた乱。ヌラヌラに煌めく指先をサリナに突きつけ、舐めさせるのかと思ったら、乱が先に指を舐め、それから微笑んでサリナの口に突きつける。サリナは指をほおばって残された粘液を舐め取っていく。
「そうそう、甘くて美味しい蜜ですものね・・うふふ、最高のマゾ牝なんだから」

 乱が離れ、友紀は言った。
「今日は奴隷サリナのお披露目ですのよ。皆さんでどうなりと責めてやってくださいな。NGなしです。ふふふ、そうよねサリナ? うんと虐めてほしいもんね?」
 サリナは泣き顔でうなずいて奴隷のポーズを崩さない。愛撫された白い裸身が赤くなって上気している。
「じゃあサリナ、可愛がっていただいた感謝を示しなさい。向こうを向いて四つん這いです。お尻を上げてマゾ牝のすべてをお見せする。皆さんのお気持ちを無にしたら拷問ですよ」
「はい、女王様・・あぁン、恥ずかしいです」
 サリナの裸身の蠢きから視線を外し、友紀は細川に小声で言った。
「yuuちゃんをお借りしていいかしら?」
「うむ、どうぞ」
 細川はyuuを見ようともせず即答して、それからyuuをちょっと見てうなずく素振り。
 友紀はこの場からyuuを連れ出したい。細川の勃起がサリナにおさまるところを見せたくない。そんなことになるとは思ってもいなかったが、yuu
だけは守りたいと考えた。
 そしたらそのとき野上がキイを差し出して言った。
「よければ僕らの部屋へ。一階下の1109ですから」

 微笑んでキイを受け取って椅子を立ちながら友紀は言う。
「じゃあyuuちゃん」
「はい、出ます?」
「うん、ちょっとね」
『あぁン・・嫌ぁぁン・・』
 サリナの声がフェイドイン。残された五人に向けて、奴隷の秘部が公開されたエロチックな図柄となった。

 yuuを連れて部屋を出て、そこは静寂につつまれた現世の空気に満ちていて、yuuの腰に手をやりながら友紀は言う。
「マゾって幸せなもののようね。なんだかちょっと羨ましい。私は夫に対してどうなんだろうって思ってしまった」
「友紀さん・・?」
「ううん不安じゃないのよ。揺れてるわけではないけれど、女を捧げて生きてはいない。うまく言えないけどね・・サリナや、それからyuuちゃん見ててもそうだけど、いいなぁって思ったりしちゃうんだ」
 yuuは応えず、気づかうように友紀の腰へと手を回して寄り添った。

 そしてこのとき、友紀はくっきりとした実像として三浦とのベッドの図柄を描いていた。

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