二五話


 少女が歳の離れた姉に甘えるように乳首を含むyuuを抱きくるんでやりながら、友紀は天井裏の木の骨格を見つめていた。それぞれが独立した木材でありながら組まれたときにカタチを持って強くなる。女同士の連携の実感と言えばいいのか、性を共有できたことで強くなれた気がしてならない。いまこの場に三浦がいたら抱かれていると友紀は思う。性的に外向きになれている自分がちょっと信じられない気さえする。

「私って誰・・何者なの・・私こそどうしたいって思うのよ」

 乳房越しに胸郭に響く友紀の声を聞いていて、yuuは抱き手にわずかに力を込めた。人は誰しも自分に迷うことがあり、いずれにしろ切り抜けて生きている。yuuにももちろん同じような思いはあってしかるべき・・。
 友紀は言った。
「下の四人に共通するのは男が嫌いということよ。だけどそれにしたって若いユウとサリナでは意味が違う。ユウはモモさんにイカレちゃってるけどモモさんには両性の力がある」
 乳首を離れてyuuが言った。
「赤ちゃんですか?」
「そうね、やっぱりそれはそうでしょう。モモさんは男性よ。治ちゃんケイちゃんはこれからどうなっていくのかわらないけど危うさがないとは言えないもんね」
「彼氏ができたりするかもですよね?」
「そういうこと。ある日突然どっちかが男にはしれば残った方はどうなるのって思うのよ」
「だとすればケイちゃん?」
「さあね・・そこまでは言えないけれど激しいのはケイちゃんだから。私とあなたにしたってS女とM女、一応はそういうことになってるけど、私は夫を愛しサリナを愛し子供を望まないまったく勝手な生き方をしてるでしょ。yuuちゃんはそのへん未知数。そのうちきっとママになっていく女でしょうし・・」

 乳首を舌先で舐められる心地いいさざ波に友紀は目を閉じ、yuuの長い髪を梳くように撫でていた。
 友紀は言った。
「疑問じゃないのよ。もっとこう直感的な感情として私は誰って思ってしまうの。ほんとにSなの? 同性が好きなのかしら? 不倫ぐらいしてみたいって思ってない? もっと言うなら、サリナやあなたを見ていて私もMを知ってみたいと思わないわけじゃない。私ってじつはセックスの化け物なのかって可笑しくなったりしちゃうしね」
「それは女ならそうですよ。本音の部分で淫らですもん」
「だと思う。理屈ではそうだけど・・理性だったり倫理だったりするんでしょうけど、まあ常識的なところで自分をごまかして女やってる。その鬱積がいつか爆発して濡れるようなことをしたくなる。ときめいていたくなる。今度のことでつくづく思うわ。女の性はひろがりに満ちている。ふと出会った同性への想い、ふと目にしたM女の姿、何人もの男を受け入れられる性器の不思議・・そんな想いがぐるぐるするのよ」
「そのへん突き詰めないとならないお仕事ですしね」
「それもあるわね。だけどそれもまた嫌なところで、どうしても観察しちゃうよ。観察してなんとなく見極めた気分になって、それに比べて私はどうなのって、どうどうめぐりに同じ思考に落ち込むわ」
「ほとんど哲学?」
「どうかな・・それほど高尚なものじゃない気はするけど、でも哲学というならそうなんでしょうね。鞭打たれて痛いのに女の性(さが)に震えてる。サリナの気持ちがわからないなら考えることもないんでしょうけど、わかりすぎて怖いぐらいなんだし、そうなるとますます自分を見失ってしまう気もするしで頭ぐちゃぐちゃ・・女って面倒な生き物だなって結局よくわからない回答に支配される」

 ちょっと笑って友紀は言う。
「いまにしてはじまった話じゃない、小娘だった頃から考え続けて・・誰しもそうかもしれないけどね」
 yuuの手が肌を滑ってデルタの毛むらへ忍び込む。
「・・女王様」
「よしてよ、その言い方・・マスターに笑われそうだわ。今日のところはレズな二人でいいじゃない」
「ふふふ・・はい。ご奉仕させてくださいね」
 あべこべに抱かれるように乳首を含まれ、yuuの指が毛むらを掻き分けて深く切れ込む性の底へと降りていく。
 友紀はされるがままに腿を割って膝を立て、さらにきっぱり性器を晒してyuuに委ねた。
「・・ンぅ・・はぁぁ・・いいわyuu・・」
 充分に潤った愛液を絡めた指でクリトリスをこすり上げ、yuuは鋭い犬歯をわずかに強く乳首にあてた。
「ぁン・・」
 友紀の白い首がちょっと反って熱い吐息が漂った。
「痛いですか?」
「ううん、ビクっとしただけ・・感じちゃう・・だから言ったでしょう、私の中にもM女が棲んでいるんです」

 yuuは痛かった乳首をよく舐めて、そうしながら谷底の指先で膣口を回すように愛撫する。粘液の接着から解放されて開く花びらの内側から蜜がじくじく滲みだし、yuuの口づけが肌を這って降りていく。
 股下にまわったyuuに両腿を抱かれて開かれ、花園を見つめられ、いつかくる甘い刺激を期待する。尖らせた唇がクリトリスに触れて友紀の裸身がピクと引き攣り、さらに性器を見せつけて、クリトリスから流れ下った舌先が花びらを分けて膣口へと侵入した。
「ぅぅン・・あ、あ・・おいでyuu・・私にもちょうだい」
「ンふふ、はい、女王様」
「また言う・・さあyuu、おいで・・」
 女王の花に口づけを捧げながらyuuの裸身が反転して友紀の胸をまたいでいく。陰毛を処理されたM女の性器はあさましいまでに牝の肉欲を表現し、ヌラヌラに濡れていて膣臭も漂った。
 私そのままの淫らな穴・・友紀は微笑みながらyuuの尻を撫でまわし、濡れる淫花に舌をのばした。
「あぁン・・幸せです女王様・・ありがとうございます」

 ありがとう・・性への感謝・・。
 Mの本質はそこではないかと友紀は感じた。
 夫の足下に膝をつき勃起に奉仕するとき私だって同じ気持ちになれている。女の本質はそこではないかと友紀は感じた。
 気持ちを向けてくれる相手に対する感謝の想い。女をやさしくする感情がMの側に振れたとき、私だってサリナやyuuのようになれるはず。
 なのにどうして責める側? 女の性の深さがそこにあると友紀は思う。

「・・私って、どうしてSなんだろね」

 独り言のように口をついた言葉だった。yuuは性器のさらに奥底で収縮を繰り返すアナルを見つめて舌を這わせた。
「逆もありますよ、あたしって、どうしてMなんだろって。ご主人様のおそばへ押しかけて、内心怖くてならないのに濡れて濡れてたまらなかった」
「意識したのはずっと若く?」
「そうですね、子供の頃からだったと思います。生理が来て毛が生えだして・・そのとき私、いやおうなく女になってく自分が怖かったんです」
「怖かった?」
「怖かったですね。男の人にいつか抱かれる。恥ずかしい姿にされてアソコもお尻も見つめられ、硬いものを入れられる・・どうしよう・・そんなことになったらあたし、きっと恥ずかしい声を上げて悶えるわって思ったときに、妙な羞恥心・・被虐の感情に襲われて・・なんだかもう獣みたいな気がしてきて・・ところがそうなるとアソコはべちょべちょ。さまざま妄想がはじまったりして・・」
「どんな?」
「エッチのすべて。痴漢だったりレイプだったり、人前で裸にされて怖くて震えているのに嬉しくて・・よくわからない妄想をたくさんして・・夢もありましたしね。夢の中で縛られてバイブを突っ込まれてイキ狂っているんです。鞭もそうだし浣腸されて嘲笑されて・・なのに濡れてたまらなかった。あたしって何者・・ずいぶん苦しかったのを覚えています」

「細川さんに出会って楽になれた?」

「なれましたね。これでもかと虐められて・・これでもかと醜態を晒して・・プライドなんてこっぱみじん・・泣いて泣いて・・だけど抱かれて夢のような抱かれ心地に解放される。一貫して揺るがないご主人様に従っているときこそ、ああ私は女だったって感じられる」
「抱かれ心地か・・わかるよそれ。サリナを見てても思うもん。やりすぎかなって思うほど虐めてやって、なのにサリナ、ほんとに嬉しそうにしてるでしょ」
「甘えて甘えて?」
「子供みたいよ。重荷をみんな降ろしてしまって子供みたいに甘えてくれる。だけどそうすると私はもっとムラムラする。虐めてやりたくてならなくなるし、まあ、そんな自分が怖くもなるけど・・ただ言えることは・・」
「はい?」
「サリナって私の半分・・同じものを追いかけてるって思えること。愛なんでしょうけれどね・・ふふふ」

 yuuは身をずらしてふたたび友紀の胸に頬を添えた。
「今度のことですけど」
「うん?」
「ご主人様はおっしゃいました。SだろうがMだろうがレズだろうが、おまえらしくあればいいって。ご主人様って浮気OKなんですよ。いい男がいるなら抱かれて来いっておっしゃいます。結婚してからだって公認するって言ってくださる」
 友紀はyuuの二つの眸を交互に見つめた。
「・・そうなんだ?」
「簡単なことだって。惚れるほどの男に出会えているのに束縛したってはじまらない。ふふふ、それがね、カッコいいんです」
「どういうこと?」
「羽を毟った鳥ではつまらないなんて言うんです」
「・・最高よね、いい男だわ」
「ええ最高・・そう言われると羽なんて自分で毟って捧げたくなりますし」

 友紀は、細川へのサリナの想いを匂わせてみようと考えた。
「じつはね、サリナって細川さんに憧れてた時期があるのよ。だけどそのときにはもうyuuちゃんがいたでしょう」
 yuuはうなずきながらちょっと笑った。
「それなら聞いてます、一度だけそういうことがあったって」
「どう思う? それって浮気?」
「ぜんぜん違います。ご主人様のやさしさだと思ってますし、あたしの方こそご主人様を独占できるなんて思っていない・・S様だからなおさらですし」
「・・なるほど。サリナを貸し出すなんてことがあるなら、そのときはyuuちゃんも呼ぶからね」
 yuuは目を丸くして微笑んだ。
「でもそうなると・・あたしって怖いかも」
「そうなの?」
「女にはSだと思うんです・・同質のものが許せなくなるときがある」

 そこだと、今度こそ友紀は感じた。弱い自分への自罰。だからサリナは自虐マゾ・・もう一人の自分と言うけれど内なる声が許さない。私のS性もそのへんを基点としたものだろうと思うのだった。
 友紀は言った。
「夫の前ではMっぽいのよ」
「わかります、女でありたい裏返し・・あたしがそうだから・・」
 友紀はyuuを強く抱いた。同じ女という想いもあったし、SとMに振れる心も理解できる。
「可愛いねyuuって」
「友紀さんこそ素敵です・・やっぱり女王様・・お慕いしますよ」
 横寝になって抱き合いながらyuuの尻をパシンと叩く。
「あン・・ふふふ、嬉しいなぁ」
「あらそ・・」
 そのまま抱き合い、ふたたび深いキスへと進んでいく。友紀の手が毛のないyuuのデルタを陵辱した・・。


 人差し指と、きっと中指・・指をまとめた硬いものが私の中へ
 入ってくる。ずっと歳上の私が若いyuuちゃんに抱きすがり、
 指のペニスに犯されて喘いでいる。
 だけどそのとき、波濤のように打ち寄せる性波は、yuuちゃん
 に与えられるものではない・・夫のそれとも違う・・。
 そんな妄想に耽っていたのです。
 レズを知り、S感情に震える自分を知り、だけどまだ知らない
 性がありますからね。yuuちゃんに抱かれて性的に解放され、
 私のマイセックスに対して挑戦的になれていたのか、
 夫以外の男性に尽くしてみたい・・ノーマルなら不倫でしょう
 し、M女としてなら奴隷の性を体験できる。
 女の性のひろがりを見極めてみたいというのか突き詰めて
 みたいというのか、持ち前の積極性がセックスに向いていた。

 夫を裏切る背徳の想いの中でのアクメはどんなだろう。
 ご主人様に授けられる性奴隷の幸せってどんなだろう。

 yuuちゃんのお尻には血が黄色くなった一本鞭の痕があり、
 だけどそれをひどいとは思わない。細川さんの人と成りを
 知っていて、その彼に心酔する性奴隷の姿を見つめている。
 ノーマル・・レズ・・SとM・・それらを私は行き来して、
 牝に生まれた幸せを謳歌する。倫理や常識なんて後発の
 文化が生んだシバリなどには苦しめられず、あらゆる性に
 燃えていたい。誰しもが妄想しながら実現できない世界へ
 踏み込んでみたいと考えている。

 私はどうしてしまったのか・・魔性がいよいよ蠢きだして、
 yuuちゃんの愛撫にのたうち狂って果てていく・・いいえ、
 その指は夫以外の誰か。手近なら三浦さんがいてくれる。

 ああyuuちゃん・・もっとシテ・・淫欲に狂う私でいたい・・。