2017年01月11日

DINKS~フリーランサー(十五話)


十五話


 そしてその午後。横浜まで脚をのばして一組のレズカップルに会うはずがドタキャンをくらってしまう。人妻同士の二人なのだが、その一方が子供が熱を出して動けなくなったと言う。
 女同士の関係でもレズとバイセクシャルでは本質が違う。レズは男性を受け付けない。バイはどちらもよしとするのだが人妻となってからの同性愛はレズに近い発想をする。男性相手の不倫ではないという言い訳もあるだろうし、男に懲りてレズを選ぶ妻からすれば同性だけが愛の対象。
 今日会うはずだった二人のうちの来られなくなった一人がそうだった。夫の粗暴に苦しんで男に愛想が尽きている。もう一方は感化されてレズにはしった感じ。来られなくなったほうがリードして牛耳っているわけで、その肝心の女性に会えないなら意味がない。かつて雑誌で一度取材していて、そのときは雑誌の読者層から未婚のレズカップルの原稿が採用された。今回はぜひ会いたい二人である。

 友紀が昼食に出ようとすると、ユウはモニタにウインドウを二つ開けて、モモの書いたものを見ながら、もう一方で言葉を書き連ねている。集中していて声をかけづらい。それで友紀は一人でエレベーターに乗ったのだったが、ひとつ下の階でエレベーターが停まり、元いたセクションに取り残してしまった及川治子が乗ってくる。
 そうか、この子もレズだった。ここにもいたと友紀は思った。同性愛はもはや特異な性ではなくなった。
 エレベーターには男性社員も乗り合わせ、箱の中では目配せし合ったぐらいのもの。一階に着いて吐き出されるとき治子は友紀の手を引いた。 社の外に出て並んで歩く。今日の治子はいつになくスカートスーツ・・。
「やっぱりね、だろうと思った」
 月刊女性生活でも性特集は続けていく。それで伸びたものをいきなりやめるわけにはいかない。そしてそうなると当然のように治子に取材がのしかかる。

 治子は言った。
「友紀さんを抜かれて文句たらたらなんですよ。編集長が余計なことを言ったからだと彼は彼で辛い立場だし、私に妙にベタベタしてきて気色悪いったらありゃしません。周囲からも鬱憤晴らしのターゲットにされちゃってたまりませんし」
「でしょうね。ごめんね、私だけ別天地って感じで」
「いいえ、それは三浦さんにも言われてますから我慢しますけど、冗談じゃありませんよ」
「ご飯でしょ」 と、あらためて治子をうかがうと大きめのショルダーバッグをさげている。
「急な取材で出なければならなくなって」
「あらら・・じゃあ今度ゆっくりね」
「ええ、一度どっかで。ああムカつく・・」
 治子だってまだ二十四歳。ユウに比べてはるかにできるほうだったが、それにしても一人でまとめられるほどの力量はない。取材はこちらが若すぎるとナメられてしまうもの。キャリアのある誰かと組ませてやらないと可哀想というものだ。

 さらにまた、昼食を終えて戻ったときにエレベーターの前で篠塚とばったり。篠塚は篠塚で、ちょっと手を上げて妙に懐く感じがする。言いたいことはわかっていた。
「どうかね本は? 進んでる?」
「これからですよ、仕込み以前の段階です」
「そっか。ところで早瀬君、今夜あたり軽くどう? 想像はつくだろうが及川君にかぶせちゃって・・ちょっと相談したいこともあるんでね」
「いえ、夜には予定もありますし、仕事のお話でしたら三浦さんも呼んでいただいて会議室でお願いします。そっちの件では三浦さんにも協力するよう言われてますし、私としてもその気持ちはありますから」
 一緒にエレベーターに乗る気もしない。友紀は社の外にあるドリンクの自販機まで踵を返し篠塚を振り切った。なんでもかんでも酒の席で情緒で丸め込む日本的スタイルにはヘドが出る。
 一瞬でも外の空気を吸って気分を洗い、戻ってみるとユウがいない。昼食時でセクションに人はまばら。

 そんな中、三浦はデスクにいて新聞をひろげていた。
「お、早瀬君」
 ちょいちょいと手招きする。その仕草がいたずらっぽくて憎めない。どうせいまの話だろうとデスクに歩み寄ると、三浦はちょっと笑って言った。
「木戸君、目の色が違うね。何があった?」
「いいえ特に。ですけど彼女、モモ・・あ、ニューハーフの子なんですが、モモさんの話を聞いて打ちのめされちゃったみたいです」
「ふむ、なるほどね。まったく不器用な子だよ、表現下手で・・」
「そうですね。でも彼女なりに考えてますから」
「見てればわかる。才能はあるから育ててやればいい」
「そうですか才能ありそう?」
「あるね。鍛え方を知らないだけさ。懸命に書いている。ちょっと覗いても気づかないほど一心不乱。そのモモって・・彼なのか彼女なのか、その人にぞっこんなんだろうが」
「そうかもしれません。じつは私もちょっと驚いちゃって。いきなり本来のあの子になった」
「そのようだ。で、えー・・早瀬君」
「雑誌ですよね? たったいま及川さんと篠塚さんに立て続けに会っちゃって」
 三浦は眉を上げて首を傾げた。
「まあ頼む。及川君が困ってるよ。こっちとバッティングしてもしょうがないしコントロールしてやらないと」
「ええ、わかってます。それであの、編集長」
「うん?」
「・・いえ・・ありがとうございます」
「だから何がっ?」
 そっぽを向いて得意がる仕草・・。
「ふふふ・・もう・・子供みたい」
 ユウに治子、二人の大切な存在を気づかう三浦が大きく思える。

 夕刻・・サリナをめがけて電車に乗って、友紀はすでに濡れだす気配を感じていた。錯覚ではない。下着を気にしたくなるほどの性欲が燃えている。サリナは今日、少し早く戻れるだろうと言っている。定刻より遅く社を出て向かえばサリナはいると考えた。
 菊名に着いて電話する。時刻は七時を過ぎていた。
「戻った?」
「はい、ちょうどいま」
「私も菊名よ、ご飯まだでしょ?」
「はい、これからになっちゃいますけどよろしいですか?」
「いいわよ何か買ってく、じきに着くから」
「はい・・嬉しいです女王様」
「はいはい、楽しみにしてなさい」
 ドキドキする。サリナがどんなスタイルで出迎えるかを想像すると、このとき友紀ははっきり濡れるパンティを感じていた。性感が高まってちょっとした風にもゾクゾクする。

 ドアに立って、一呼吸を深くして、それからノック。
「・・はい?」
「私よ、開けなさい」
「はい!」
 なぜかほんの少し間があった。ドアチェーンがはずされて控えめにドアが開く。
 一糸まとわぬ真っ白な女体が平伏して、サリナは額をこするようにして友紀を迎えた。白く丸まる女の体。背中からウエストへと絞られてヒップへ張りだす見事なヌードを見下ろした。全裸の奴隷の傍らに脱いだバスローブが丸められて置かれていた。
「そう、それでいいの、いい子にしようね」
「はい、女王様。お逢いできて幸せです」
「お立ち」
「はい」
 綺麗な女体・・カタチのいい乳房・・乳首が尖って発情を物語る。
 友紀は買って来た食事のレジ袋を手渡しながら、さっそくショルダーバッグから紫色の真新しい首輪を取り出して、見せつけて微笑んで、そっと首にまわしてバックルを閉じてやる。
「ほら可愛い、プレゼントよ」
「はい・・ああ嬉しい・・ハァァハァァ、虐めて女王様・・」
 発情した牝の吐息そのもの。友紀は奴隷の体を部屋に向けて回してやって、すでに震える白い尻をぽんとやった。

 リビングまで後を追ってソファに座り、全裸のサリナが正座をして足下に控える。買って来たのはサンドイッチとジュース。それをサリナにひろげさせ、紙パックのオレンジジュースにストローを差すと、一口吸ってサリナの手を引く。膝で立ってしなだれかかる白い女体をそっと抱き、キスしながら口の中のジュースを与える。
 サリナは閉じた瞼を飾る長い睫毛を涙に濡らし、流れ込む冷えたジュースを受け取った。
「美味しい?」
「はい・・ありがとうございます・・泣いちゃう」
「ふふふ、泣かない泣かない、まだ早いわよ。食べましょ」
 サリナはこくりとうなずくと、ローテーブルに並ぶたくさんのサンドイッチを見つめている。
「ほら食べて」
「はい。あの女王様・・私は女王様の奴隷です、どうか厳しく躾けていただきますよう・・」
「犬は余計なことは言わないものよ。いいからお食べ。今日はそのためにパンツで来たの」

 今日の友紀はパンツを穿いて生成りの細い革ベルト。サリナはその意味を理解した。ベルトである。
「ちぎって私に食べさせて」
「はい・・ンふふ」
 嬉しさをそのまま顔に描いたサリナの姿は可愛い。細い指でパンを割き口許へのびてくるものを、友紀が口でじかに受け取った。一口を女王に一口を自分に・・ジュースだけは女王の口から奴隷が受け取り、そしてそのとき下腹にのびた女王の指が奴隷の性器をやさしく嬲る。
「あぁン、女王様・・感じます」
「そうみたいね、もうべちょべちょ。ちゃんと舐めて」
「はぁい」
 サリナは燃えてくると眸が据わる。焦点を結ばないように瞳孔がひろがって黒目が輝き、それがサリナをいっそう淫らに見せている。
 女王の手を取り、目を閉じて指を舐めるサリナ。それからまたパンを食べてジュースを与える。
 サリナの裸身が上気して頬が桜色に染まってくる。吐息が熱い。性器はとめどなく蜜を生み、嬲っては指を舐めさせ、ジュースを与えるときそのままキスとして情を与える。

 食事を済ませ、友紀はソファを立ってブラウスを脱ぎ、パンツを脱いで職場でのベージュのブラと、けれど下にはレモンイエローのパンティ。ブラだけはずし白い乳房を解放してやり、けれどもパンティは穿いたまま。  そんな姿で、今度はローテーブルに腰を降ろした。
「少し離れて膝で立つの」
「はい」
「手は頭の後ろで胸を張る。これからそうして控えなさい、牝犬のポーズだわ」
「はい、女王様」

 女王はパンツを脱ぐとき細身の革ベルトを抜いていて、バックルを手の中にベルトを巻き取り、サリナまでの長さを決める。
「横を向いてお尻を張って」
「はい、ハァァ・・んっ・・ハァァァ」
 ひゅんと振って綺麗な尻桃に軽く当て、次に手首を返して強く振る。
 パシィーッといい音がする。
「あぅ! あぁン女王様・・」
「痛いわね」
「いいえ・・いいえ・・あぁぁ嬉しい・・」
 サリナは顔を横にして女王を見つめ、心から安堵した奴隷の笑顔を向けるのだった。本気で責めてくれている。都合のいい逃げを用意しない女王の情愛。サリナはさらに尻を張って鞭を欲しがる。

 パシィーッ!
「躾けていくわよ。私の想うサリナにする。服従を誓いなさい」
 パシィーッ!」
「むふぅ! はい女王様、お誓いします心から」
「痛くてもじっと耐える」
「はい!」
 パシィーッ!
「私だって濡れてるわ、どういうことだかわかるでしょ」
 パシィーッ!
「はい、ありがとうございます女王様・・ああ感じる・・」

 さらに強く渾身の鞭になる。こういうとき遠慮はいらない。Sの愛は与える愛。堂々として、毅然として、揺るがないから、M女は安住できるのだから・・鞭に力がこもっていく。
 パッシィーッ!
「きゃぅ! あぁ感じます・・感じます女王様」
 一打ごとに尻が締まって、たわんで波打ち、乳房がバウンドして艶めかしい。サリナの全身がふるふる震えて息が甘い。
「嬉しいよね。マゾだもんね。本気よサリナ。サリナのことしか頭にないの」
 ベッシィィーッ!
「ぁくく・・ぁぁン・・ハァァァ・・うっ・・」
 それきり嗚咽・・肩を振るわせ泣いている。綺麗な涙をサリナは流した。白かった二つの尻に見る間に赤い条痕がはしっていく。

 手を止めて言う。
「こっちをお向き、どんな顔してるのかしら」
「はい、女王様」
 濃いワインレッドの不思議な髪は泣き顔を少しも隠せず、ライトを受けて爆ぜた毛先が紫色に輝いている。睫毛の長い二つの眸から涙が流れ、顎の先でまとまって雫を垂らす。
 濡れる眸でまっすぐ見つめるM女の視線・・なんて可愛い・・たまらない想いがしても抱き締めるのはまだ早い。
「嬉しくて泣いたのよね?」
「はい、女王様、痛くなんてありません」
 友紀は微笑んでうなずいて、手に丸めたベルトを置いて足先を指差した。
「爪の先から綺麗に舐めるの。シャワーしてないから汚いからね。ちゃんとしないとお仕置きするわよ」
「はい!」
 待ちわびた女王の肌に触れることを許された。サリナは友紀の足先にむしゃぶりつくようにすり寄ると、片足ずつ丁寧に舐めていく。
 あまりの可愛さにちょっと笑うと、サリナは眸を向けてやさしく笑う。

 与える性・・いまのところ友紀にはそれぐらいしか思いつかない。
 しかし受け取るだけの受け身の性ではいられない。痛く恥ずかしく惨めな思いにさせることも、すべてが女王から奴隷へ与えるもの。
「足がすんだら上までずっとよ。心を込めて舐めなさい」
「はい、女王様」 とサリナは言ったがそんな言葉は聞こえなかった。

 私のサディズムって何だろう・・どうすればこのサリナを最高のM女性に育ててやれるか・・友紀は内心もがいていた。
 yuuに負けない、ユウにも負けない、サリナという奴隷へ。そうじゃなければサリナを愛する資格がないと思ってしまう。

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