2017年01月11日

DINKS~フリーランサー(十四話)


十四話


 次の日の朝、友紀はユウの変化に期待していた。あの子なら水を得た魚で颯爽としているだろう。女がそれぞれの幸せを見つけたときの姿は見ていてすがすがしい。
 定刻に出社するとユウは一足先に来ていたようで、昨日の姿をちゃんと着替えて、一度自宅に戻って出社したことがうかがえた。浅い茶色のミニスカートにピンクのブラウス。赤いブラが透けている。思った通りちょっと見ない大胆なスタイルだった。後ろから肩を叩いてやると、じつにしなやかな笑顔で笑う。昨夜何があったのか、そのまま顔に書いてある。

 しかし職場でそんなことには一切触れない。今日は方々で打ち合わせのアポがある。雑誌よりも年齢層が少し高く、読者が女であれば興味はまず不倫。SMも注目されるものだったが常識的な主婦層にはマニアック過ぎて横目で見られる。レズもそうで若いペアより人妻同士のそれのほうが注目度は高いもの。そのうち今日は不倫をテーマに四人の人妻たちに会うことになっていた。いずれもノーマル不倫でレズではない。レズだと相手二人に揃って会わなければならずスケジュールがなかなか合わない。一時間ほどでユウと出て、そのまま直帰のスケジュール。
 都内を移動し最後のアポが下北沢で、話し終えて時刻は五時。そのままカフェに二人で入る。
「疲れちゃったね、頭ん中エッチだらけで困っちゃう」
「そうかも・・ンふふ」
 仕事の緊張が解けたとたん、ユウは昨夜のことで頭がいっぱいといったムード。

「まったく信じられないわ。はじめて会ったその日に・・」
 ユウははにかんでうつむいてしまっている。まだ二十三歳。可愛いと友紀は感じた。しかしいまここでそれを話そうとは思っていない。
「フラッシュメモリはどうだった? 読んでみた?」
「じつは・・夕べは泊まって・・へへへ、朝着替えて出たんです」
 友紀は椅子にちょっとふんぞり返るようにしてジトと見つめた。
「・・やっぱりね、そんなことだと思ったわ。まったく積極的って言うのか突進タイプって言うのか」
「自分でもそう思います。直感ですもん。だけど勘は正しかった」
「そうなんだ?」
「逆なんですよね」
「逆?」
「モモさん言うの。好奇心で見られることがほとんどなのに、その気で見つめられて嬉しいって言ってくださり、そしたらもうどうされてもいいと思った」

「SMだった?」

「ううん、いきなりそこまでは・・それっぽく服従をお誓いして、それからはやさしくしてくださって・・ンふふ」
 何を考えているのやら・・。
「そうですか、はいはい・・あほらし、訊いて損した。今日はもういいから明日メモリの中身を見せてちょうだい」
「ですね。私も帰って読んでみたいし。ねえ先輩」
「何かね?」
「私やっと解放された。モモさんてほんと素敵です。女のいいところを全部持ってる」
「わかったわかった、どうぞ仲良くやってくださいな。いい人でしょ?」
 ユウは深くうなずいて言う。
「若くても裏を見てきた人ですもの。だからその分ピュアなんです」

 一休みしてユウとは別れた。下北沢なら井の頭線で明大前乗り換え。京王線で新宿へ向かうとすぐ笹塚。三十分もしないうちに自宅に戻れ、シャワーを済ませておいてパジャマ姿でノートパソコンに向かう。
 こちらはこちらで何を書くかをまとめださなければならない。手記のプロットづくりに取りかかる。編集畑にいて文章をまとめるノウハウは知っていた。今回は雑誌レベルの記事ではなく手記もしくはエッセイ。相手が素人だとほとんどそのまま使えず、あがってきた下書きをライターに委ねるのだが、モモとユウ、バロンのyuu、サリナと私・・そこは友紀自身が仕上げてやろうと思っていた。

●DINKSから入る~夫がいて子供を持たない妻のカタチ~夫を愛し、抱かれてアハンな女の私~けっ。

●サリナとの出会い~yuuとの再会をきっかけに、それまで考えなかった女の性をつきつめるようになる~性とは性(さが)~魔性、肉欲~私の正体。

●Mっぽいサリナを愛そうと決めたとき、自分の中のS性を引き出してやって、ピュアに深くつながる女同士の愛につなげていきたいと考えた~。

●でも迷う~ひどいことはきっとできない~その中でどうやって女王と奴隷を保つのか~。

●やさしくしてあげたい~なのにサリナは女王様と言いたがり、そのほうが安心して私に向き合える~そんな一人の女性へのたまらない想い。

●私は女王でなく、サリナに創られていく新しい私~SMなんてカタチじゃない~心の叫びを満たし合う女と女~互いに変態だなんて思っていない。

●性別ではない人と人の高みをめがけて、これからサリナと二人の関係を創っていく~。

●もうDINKSに迷わない。愛のすべてを私という女へ向けて胸を張って生きていく~後悔しない人生のため私なりの性を見つけて狂おしく生きていく~。

「こんなところかしらね。うーん・・何か足らない気がしちゃう。SMチックな感傷が抜けてるかも・・」
 友紀は思考を整理した。
 男性Sへの想いはyuu。レズにはレズの書き手がいる。ニューハーフはモモと、それにユウなのだが、そこにもSMのフレーバー。不倫はまあ不倫として・・と考えたとき、女王の視点が表現されないと結局yuuやユウの言葉と差がなくなる。
 ・・なんだけどモモが女性とすると女王様が二人いる・・視点はあくまで女性であって、マスターは・・不要かも。
「ごめんマスター、あなたはポイだわ。ふふふ」
 と思考がめぐり、サリナと私にしかないものを探さなければならないと考える。人対人を結論とすると同性愛もニューハーフもそこへいくし、と言って人間愛なんて壮大すぎて実感が伴わない。

「困ったぞこれは・・」
 結局ノートを閉じてそれっきり。時刻はいつの間にか七時を過ぎてしまっていて夕食の支度にとりかかる。レトルト、冷凍食品、そして電子レンジの出番であった。サラダぐらいはつくる。それぐらいは手作りしたい。
 と思ったところへ夫が戻る。明日からの集中作業のため今日は早く戻ったのだろうと考えた。
「シャワーにするでしょ?」
「そうだな」
「うん、じゃあ私も・・」
 夫が先に雨に打たれ、追いかけて妻がキスを求める。妻の肉体を感じると反応してくれる男の体に友紀は愛を感じていた。
 雨の下でくるり体を回されて、後ろから乳房を揉まれて抱かれ、友紀はごく自然に夫の強さを手に握る。
 しかし今日、友紀は振り向き、男の足下に膝をついて強い夫を口に含む。自分を犯してやりたくなる。
「奴隷みたいだな?」
「・・馬鹿・・今日は不倫妻四人に会ってきた。話を聞いてたらムラムラしちゃってたまらない」
 夫は笑うだけでどうこう言わない。

 そして、そのとき友紀は、相手の性器に奉仕する性奴隷の気持ちを考えた。私は女よ、私は牝よ、この身をすべてあなたに捧げる・・女心とはそうしたもの。マゾとは、じつはもっとも幸せな女の性かもしれないと思うのだった。

 次の日は金曜日。サリナに逢えると思うと、昨夜の夫への奉仕と、その褒美のように激しく愛された情景が浮かび、友紀は朝からやさしい女になれていた。
 モモからあずかったフラッシュメモリ。パソコンのモニタに高校生だったモモのせつない言葉が綴られている。長文ではなく、思いついたことを書き殴るレベルのものだが、それだけに偽らざる彼女の想いが見てとれる。一見してこれはいいと考えた。
 ユウのデスクに、外出している隣りのデスクの椅子を寄せてユウと二人で顔を突き合わせる。
 友紀は言った。
「新鮮よね。言葉が若いし、それでいて苦しい想いが表現されてる」
「そうですね・・読んでてジーンとしちゃいます」
「あなたやってみる?」
「何を?」
「もうっ馬鹿ね、出版原稿にしてみるって意味じゃない。二元・・三元でもいいかもしれないけど、いまのモモさんにこの頃の彼女を重ねて、それにあなたの想いを足していく・・いいかもよそれ」
「難しいなぁ・・私の文章って編集長にボロカスに言われてますから」
「それは小説としてでしょ? 手記は違う。不揃いで未完成だからリアルなのよ。心の言葉なんてビジネス文例じゃないんだから」
「それはそうですけど」
「やってみなさい。モモさんを想って必死で書けばきっとよくなる」
 ぽんと背中を叩いてやる。今日のユウは昨日の女らしさとは質の違うダークブルーのパンツスーツ。若い肢体が内側から張り付いているようだった。

 わたし どうなっちゃうんだろ。。
 考えちゃうよ、、、女の子が好きで なのに男子に
 ときめいちゃうでしょ。。 いつか結婚したいもんね。。
 そのとき、、、わたし女の子、、、相手は男の子。。
 だけどそれって同性愛?
 女の子が相手ならレズなのに、、、それってマトモ?
 ノーマルってことじゃんか。。
 どーゆーことだろ? どーすりゃいいのさ、このわたし。。

 女の人のヌードを見ててボッキする。
 素敵な男子のお尻を見ててもボッキする。
 わたしを気持ちよくしてくれるのはどっちだろ?
 きっと、どっちもラブだと思う。
 彼の精液もらっても、嬉しいけど赤ちゃんできない。
 同性のはずなのに、わたしの精液で赤ちゃんできる。
 わたし何者? わかんなくなっちゃうんだ。

 お兄ちゃん嫌いだ! どうしてブラしちゃいけないの?
 どうしてかわゆいパンティはいたらダメ?
 女の子なのよわたし、、、どうして男っぽくしなきゃダメ?
 バケモノを見るようなアノ目、、、許せなくなっちゃうよ。

 キモチよくなりたい、、オナニーする、、(きゃぁ!)
 だけどボッキして射精しちゃう、、、男の子だから?
 ココロは違うよ、ゼッタイ女の子なんだもん!

 句読点もバラバラ、そのほか多数。想いの断片が思いつくまま書かれてあった。幼い文章・・ではなくて、女の子になりきりたい高校男子の文章。読んでいると胸が苦しい。ユウは懸命に愛した人を知ろうとし、友紀はサリナとの性を考える。
 こういう想いをもっと深く知ってほしい。女だから女じゃないし男だから男じゃない。人は心で生きている。白い目で見たり、寄ってたかって虐めてみたり、ろくに考えもせずに毛嫌いする。そんなことは許せない。レズだって愛なんだし、SMだって、それは二人の愛の行為。受け入れないものを否定するのは愚者の発想。男なんて馬鹿者はどうでもいい。こういうことを多くの女性に伝えるために私がつくる本はある・・。
 モニタを見つめていると突然二人の肩に男の手がのった。
「うぅわっ!」
 ユウが間抜けな声を上げ、二人の背後で三浦は苦笑する。

 友紀が言った。
「ニューハーフの子が高校の頃に書いたものだって言うんです」
「うむ、なかなかいいじゃないか。木戸はどうだ? そういうものを読んで奮い立つだろ?」
 友紀は三浦とともにユウを見た。ユウは唇を固く結んでいる。
 ユウは言った。
「そうですね奮い立ちます。この想いを多くの人に知ってほしい。そのために私だって頑張るんだし、読んでると泣けてきちゃう」
 三浦はユウの背をぽんと叩いて言った。
「そういうことだな。さまざまある愛欲に触れて否定せず他人を思いやる。そのための本だからな」
「はい」
「それとポーズするのはよせ」
「ぁ・・はぃ」
 声が小さい。
「アハンに一行をついやすな」
「・・へへへ」
「さらばだ諸君」
 三浦はまた二人の肩をちょっと突いて歩み去る。友紀は三浦の情を感じていたし、三浦に対して危うい心の中まで見透かされているような気にもなった。夫とは異質のぬくもりを感じてならない。不倫はすべてそこからはじまる・・。

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