2017年01月10日

DINKS~フリーランサー(十三話)


十三話


 バロン。モモのマンションを出たのが四時前で、友紀はこの時刻にバロンを覗くことはほとんどなかった。仕事のついでにごくたまに寄るぐらい。この時刻はどうかすると混んでいて小さな店には席がなく、あってもマスターに負担をかける。歩きながら電話して様子を訊くと、思った通りでボックスは満席。カウンターに二つ空きがあると言う。歌舞伎町のこっちから駅西口のあっちまでは距離があり、二人ともにパンプスでは速くない。この時刻からだと直帰のほうが効率がよく、逆に二人はのんびり歩いた。

「ユウちゃんいま思ってるでしょ、Mになれそうだって?」
「思ってますね。モモさん女にはSっぽくなるって言ってましたし、それを聞いたとたん、この人だって思っちゃった」
「思い込み激しすぎ」
「だからですよ」
「え?」
「だから怖くて天然やってごまかしてる。私って突っ込んで行っちゃうタイプだし、モモさん見てて自然体で嫌味なところがまるでない。この人なら尽くせるかもって、じっと見つめていたんです」
 友紀は眉を上げて空を見た。気持ちよく晴れている。それならそれでうまくいってくれればいいと思ったとき、サリナに逢いたくてたまらなくなる。

 バロンまで二十分ほどをかけて歩いた。ところが着いてみるとボックス席に一組カップルがいるだけで店はがらん。一気に入って一気に消えたということだろう。
 古びたドアを開けると鳴らなくなった無意味なドアベルがぶらぶら揺れた。
「ああ友紀さん、いらっしゃいませ」
「はい、ごめんねこんな時間に・・と思ったけど暇みたい?」
「そうなんですよ。ぞろぞろパッでこのありさま」
 今日のyuuは驚くほどのミニスカート。焦げ茶のサロンエプロンがミニワンピのように見える。脚線が白くすらりと伸びて、長い髪をポニーテールにまとめ、妙にすっきりした面色だ。性的に満たされている女の自信にみなぎっているようだ。
 店に入ってまっすぐカウンター。ユウはちょっと緊張している。本物のS男性に会ったことなどもちろんなくて、本物のM女性も知らないユウ。モモに会って刺激された後だけに顔色が心持ち青かった。

「マスター、紹介するわね。こちらユウちゃん、フレッシュでしょ、二十三よまだ。木戸優子って言います」
 と、yuuが驚いたように眸を丸くする。友紀はちょっと首を傾げてyuuを見た。
「これから一緒にやってく子なの。いまちょっとニューハーフの子に会ってきて興奮しちゃってダメみたいだけど」
 マスターが穏やかに微笑んで、ユウを見つめてyuuが言った。
「ユウちゃんて言うのね?」
 友紀はうなずく。
「字まで一緒、優れた子だけど天然で困っちゃう」
 ユウは緊張で声もなく、ただちょっと頭を下げて黙っている。ボックス席に客がいてこれ以上のことは言えない。
「なるほど・・名ばかりで優れてないか、ウチと一緒だ、ふふふ」
 ユウは上目がちに恥ずかしそうに笑う。主と奴隷。頭の中にSMシーンが浮かんでいるに違いなかった。
 それでそのとき、なにげに友紀はyuuに言う。

「ずいぶんミニね? 見えそうだし」
 yuuはこくりとうなずくと恥ずかしそうにカウンターの中のマスターへと視線をやった。その意味はもちろんわかる。そうしろと言われて穿いたミニスカート。yuuは友紀に顔を寄せて小声で言った。
「ノーパンなの・・ストッキングも穿いてない」
 言われてみれば白い生脚・・スカートはちょっと視線を下げると腿の付け根までが見えそうだった。
「ハァァァ・・んぐぅ・・」
「はあ? ばーかコノ・・どうしようもない子ね」
 横を見るとユウが頬を赤くしてしまっている。生唾もの。息が妙に静かだったし、こらえきれずに胸を膨らませて息を吸う。マスターもyuuも、もちろん意味を理解して顔を見合わせて笑っていた。
 友紀がユウに言った。
「こちらとは以前に雑誌で取材してからのお付き合いよ。お二人にも書いてって言ってあるし、これからユウちゃんだけでも来てもらうからね。覚悟なさいよ」
「はい・・覚悟って・・んぐぅ・・」
「はっはっは、こりゃたまらん、友紀も大変だ、これからあっちもこっちもだろうし」
「そうなんですよ、不倫もあるしレズもあるし、いろんな人に会っていかなかきゃならないのに最初のニューハーフさんですでにメロメロ。一目惚れしちゃって大変なんです」

 それでそのときボックスにいた二人が帰って行って、いつものバロンになってしまう。
 友紀が言う。
「あれま・・さっきまでの賑わいはどこへやら・・」
 マスターが言う。
「いやいや、今日はバタバタでyuuは散々濡らしているはず。そうだよな、正直に言いなさい」
「はい、ご主人様・・恥ずかしくて恥ずかしくて何度かトイレに・・濡れちゃって、いまにも伝ってきそうで」
「見られて感じるな?」
「はい感じます・・ああダメ・・震えてきちゃう」
 まったくマスターらしい。そうやってことさらユウに聞かせてチクチク虐める。なにげに横目をやるとユウは真っ赤。自分が調教されている錯覚に陥っているのだろう。
「もうマスター、可哀想よユウちゃんが。ふふふ・・もうダメって顔してる」
「わかったか? はっはっは、なかなか可愛い子じゃないか。そうだよなユウちゃんも。とっくにもう濡らしてる」
「は、はい・・おっしゃる通りです・・私あの、ちょっとトイレ・・嫌ぁぁン」
 マスター大笑い。yuuも笑って友紀も笑う。ユウだけがトイレめがけて飛び込んでいくのだった。

 ユウのいないカウンターで友紀が言う。
「あの子もMらしくて、あの子なりに苦しんでて、それで今日、モモって子に会わせたら二人いい感じになっちゃって」
 マスターは微笑んでうなずいて言う。
「一目でわかるさ。透き通ってる。いい子だと思うし、そんな子と組めるなんて友紀も幸せだな」
「それは思いますね、最高のポジションにいるのかなって。だから同時に私が苦しくなっちゃって」
 マスターがうなずいてyuuがそばからそっと肩に手をやった。
 ハァァと息をつきながらトイレから出てくるユウへ眸をやった、ちょうどそのとき、別れたばかりのモモから友紀の携帯へ着信。

「そうですか高校の頃の?」
『そう言えばと思っていまは使っていないフラッシュメモリを差してみたらその頃の想いを綴ったものがでてきてね。これ渡しておけばよかったなって思ったから』
 話ながら友紀はユウへと横目をなげた。相手の声は漏れている。
「ありがとうございます。じゃこれから木戸に取りにうかがわせますのでよろしいでしょうか?」
 ユウの面色がたちまち緊張で青くなる。電話を切って友紀は言った。
「聞こえたでしょ、すぐ出て。今日はそのまま帰っていいから。直帰ということにしておいてあげるから」
「・・はい・・ハァァァ・・」
 ときめく気持ちが素通しだった。友紀は言う。

「もしモモさんに本気なのなら体当たりでぶかってごらんなさい。彼女なら絶対通じる人だから」
 ユウはちょっとうなずくとサッと立って店を出て行く。
 後ろ姿を追って友紀は言った。
「Mなんですよね、ほんとに。妄想してるだけで実際のところは怖くてならず、あの子なりに必死に考えて、それで職場では天然のフリしてる。繊細でやさしい子だわ」
 マスターは言う。
「女王へのステップを一段登ったみたいだな」
 友紀はうなずく。謙遜などするつもりもない。友紀はうなずく。
 客が入る気配もなかった。時刻は五時を回っている。
 主は愛奴に静かに言った。
「yuu、女王様の横に立って尻を向けて脚を開く」
「あ・・はい、ご主人様」
「濡れを確かめてもらいなさい」
「はい・・あぁン・・」
 カウンターの席と席の隙間に立って、やや腿をゆるめるyuu。
 そのとき友紀は躊躇せず、白い腿裏に手を這わせ、そのままスカートの中へと指先を滑らせていく。

「ぁン!」
 yuuの淫ら花は閉じていて、友紀の指先がそっとなぞって濡れる肉花を揉むように愛撫する。
「ありがとうございます女王様、感じます・・あぁぁ・・んっ」
「いい子よyuu、可愛いわ。ご主人様と働けて嬉しいね?」
「はい」
 ほんの少しまさぐっただけでおびただしい濡れをおびき出し、指先に愛液がまつわりつく。
「ほうらyuu、こんなにしちゃって」
「ハァッハァァ・・はい濡れてます」
「舐めて綺麗になさい」
「はい女王様・・申し訳ございませんでした」
 友紀の手を取って目を閉じて指を舐め回すyuu。
「よろしい、いい子よ。あなたが好きよyuu」
「はいっ嬉しいです、素敵な女王様・・」
 そうした様子を見守って、細川は、サリナはどれほど嬉しいかと想像した。さすが友紀だと感じていた。

 ついさっき出たモモの部屋に舞い戻ったユウ。ドアが開いて、モモは黙ってユウの手を引いて部屋へと入れた。
「ユウちゃんて本気よね?」
「・・はい、お姉様」
 透き通ったモモの眸に魅入られる。吸い込まれるような気がしていた。
「今日は戻るの会社?」
「いいえ直帰にするからって早瀬さんが」
 モモはモモで友紀の思いやりを見抜いていた。
「素敵な先輩よね? そうして時間をくれたのよ」
「はい、そう思います」
「ちょっと怖いかもしれなくてよ?」
「ハァァ・・んぐぅ・・はいお姉様・・好きなんです心から」
 モモはそっと抱きくるんで眸を見つめ、ユウの手を取って勃起する股間へと導いた。
「あ・・あぁぁ、そんな・・」
「ユウが可愛いから大きくなっちゃった。どうすれば私が嬉しいかはわかるよね?」
「・・はい」

 ユウは、そのときソフトな部屋着のスカートに着替えていたモモのパンティラインに前から手を入れ、熱く勃つものをそっと手の中に握り込む。
「熱い・・すごく熱い・・」
「もう一度訊くわ、私のこと好き? 少しぐらい怖くてもついてこられる?」
「はい、お姉様、きっと・・」
 唇が重なって、ユウはモモをしっかり握り、モモはユウの下着に手を入れて、すでに濡らした奴隷の性器を愛撫する。
「ほうら、もうこんな・・燃えてる証よ」
「あぁぁ感じます、お姉様・・震えちゃう・・イキそう・・どうか可愛がってくださいね、怖いの、私怖いの・・ああイキそう・・」

 バロンを出た友紀は、いつになく早く自宅マンションへ戻っていた。とっとと着替えてクルマに乗ってペットショップを目指している。ホームセンターに併設されたペットショップ。子犬や子猫、爬虫類までを扱う店で、もちろん大型犬用の首輪とリードが置いてある。
 サリナのイメージなら紫がいい。鮮やかな紫の首輪は革が厚くてがっしりしている。サリナに逢いたい。早く首輪を届けてやって飼われる安堵を感じさせてやりたかった。
 ユウを連れてモモに会ったことで自分の立ち位置が決まった。あのユウでさえが一直線。yuuもそうだしサリナもそう。だったら私は女王に賭けようと決めたとき、DINKSが揺るがないスタイルとなっていた。

 その夜、八時。いま戻ったとメールを受け取り電話する。友紀の夫は今夜も少し遅くなる。
「ちょっと遅かったわね?」
「少しね。ダメな子たちに居残り特訓してて」
「ご飯は?」
「いま食べて戻ったところ」
「言いつけは守ってる?」
 その一言でサリナの口調が変化した。それでも半信半疑のサリナだった。そうした態度の揺れが立ち位置のグラつきを物語る。
「はい。いまも全裸ですし女王様を想って濡らしています」
「オナニーはダメよ」
「はい・・ああお逢いしたい・・」
「明後日。金曜の夜にそっちへ行って泊まるから、しばらく辛抱してなさい。じつは今日いいことがあったのよ。部下の子をある人に会わせたら相手に一目惚れしちゃってね。ついいま、そのお相手から電話をもらった」
「うまくいったんですね?」
「そうみたい・・信じられない思いだわ。話の途中で代わったけど・・部下の子もユウって言うんですけど、理想の女王様に出会えたって泣いちゃって私までがウルウルよ。今日はじめて会っていきなりだもん。なんだかなぁってカンジだわ。そう思うと私まで火がついてサリナのことばかり考えてる。明後日の夜よ、調教してあげますからね」

 しばらく声が聞こえなかった。サリナは泣いてしまって声にならない。
 女っていい。女の性って素晴らしいと友紀は思う。

トラックバックは許可されていません。

コメントは許可されていません。