2017年01月07日

DINKS~フリーランサー(十話)


十話


 思いがけなく輪郭を現したもう一人の優子。新卒から一年を経た程度の二十三歳。甘い恋の夢を抱いていい歳なのに自分の性をつきつめて考えている。
 そのときもう少し話していたかったのだが、まさか声の漏れる会議室でSM談義というわけにもいかず、移動したばかりの友紀にはやらなければならないこともある。そう思ってデスクに戻ってみたのだったが仕事が手につかないというのか上の空になってしまい、どうにも椅子に落ち着けない。
 サリナに出会った。ほどなくyuuに再会した。そして直後にもう一人の優子に出会う。そのときたまたま仕事でも性的な思考になっていたから、次々に現れる女たちの中で、では自分の性はどうなのだろうと、いやおうなく考えてしまうのだった。

 私の性なんて平凡だった・・人並みだった・・つきつめてみようともしなかった。女は愛を見つめていれば性は与えられるものであり、普通であれば子供を持って母親になっていく。そこまではもちろん考え、そんな受け身の人生は嫌。女の素敵な可能性を犠牲にしたくないとDINKSを考えた。しかしそれでも子供を持たないというだけで普通の女の性でしかないだろう。
 バイセクシャルとして男も女も知った上で、同性でなければダメ、しかもMがいいとサリナは自分の性を選ぶ。
 yuuもそうだ。ネットで出会ったM女を通じて主のもとへと押しかけて、一度手を放れていながら、ほんとの自分に戻りたくて帰ってきた。
 そして二十三歳のユウだ。yuuと同じくトラウマなどなかったと言う。女の生き様を考え抜いて、心をあずけてカラダだけの牝でいたいと言い切った。

 なのに私は三十四になるいまのいままで、DINKSだなんていい気になって、仕事でも特異な性を追いかけてきているというのに、自分の性に踏み込んでみたことがない。
 そんな私に性を語る手記など書けるのか。浅い。うわべだけ。そんなことではサリナに女王と呼ばれる資格はない。女王の姿は自分で探せとyuuに言われた後だっただけに、もう一人のユウとの出会いが決定的に揺さぶった。
 デスクにいても手につかないなら、いっそユウを連れ出して話してみようかとも思うのだったが、いまそれをやってもyuuのときとこちらの精神構造が変わらない。サリナとのせめぎ合いの中から『私』を見つけていかなければならないと思うのだ。
 友紀は、当然のことながらまったく平静にデスクにいる三浦へと眸をなげた。三浦ほどキレる男が部下の小娘を見抜けないはずがない。木戸優子の性癖を見抜いた上で、だから私にあてがった・・そうに違いないと考えた。

 夕刻の渋谷はラッシュに重なり、女にとっては嬉しい場所とは言いがたい。駅へと流れ込んでくる人の波に逆らって、今夜の友紀は足が速い。サリナに逢いたいことより、なんとなく気持ちに焦りがある。本になるのはまだ先でも原稿をあたためださないとならないからだ。統括役の私がこんなことでは方々から集まってくる手記を見極められない。

 今夜のホテルはサリナの仕事の流れてビジネスホテル。一応ツインだと聞いていた。駅から数分を泳ぐように歩き、フロントを素通りして部屋へと向かう。そのとき背広姿の中年男性二人とエレベーターで乗り合わせ、向こうはよからぬ想像をしているのか、なんとなくにやにやしている。仕事帰りに男が先に部屋にいて女が遅れてやってくる。典型的な不倫のパターン。男二人は明らかに出張で足下にキャスターバッグを置いていて、女の友紀は小ぶりのショルダーバッグだけ。そう思われてもしかたがなかった。

 八階の817。サリナは五時にはチェックインしているはず。そのドアに立って時刻は六時半を過ぎていた。歩み寄ってノックをしようとしたのだが心の所在が定まらない。レズとして逢うのか女王として逢うのか。友紀はちょっとため息をつき、迷いを引きずったままノックした。
 マホガニートーンの化粧板を貼った扉が内向きに静かに開いた。サリナはすでにシャワーを済ませていて、備えられた白いバスローブを着込んでいる。
 ドアを開けて相手が友紀と確認すると、サリナはその場でバスローブを脱ぎ去って全裸となった。シャワーの火照りは冷えていて、乳白の美しいビーナスライン。しかし、ハイレッグレオタードのために処理されていた、かろうじて残っていた陰毛がすべて剃られてしまっている。

「自分で剃ったのね?」
「はい」
「そう・・そのほうがいいのね? サリナは牝よね?」
「はい、友紀様」
 友紀は白い裸身を抱かずに、剥き出しにされたクレバスへと手をやって、サリナはわずかに脚を開き、目の前に立ちはだかる女王の眸を見つめている。
 クレバスをなぞった指先がつつましやかに閉じている肉の花へと潜り込み、友紀は濡れの気配を感じながら、いじわるにそろそろ撫でた。
 甘い吐息・・サリナの眸が据わり、小鼻がひくひく蠢きだして、全身に鳥肌がひろがっていく。毛飾りのない白い肌のデルタを差し出してサリナは眸を閉じ、友紀はサリナの発情を濡れとして感じながらクリトリスを弾き上げ、サリナを楽器に変えていた。

「ぁン・・ン・・あぁン・・」

「ふふふ、いい声ね。よくてよくてたまらない?」
「はい、はぁぁ感じます女王様」
 友紀と呼べと言っているのにどうしても女王にされる。気持ちがわかるだけに友紀はもう呼び名などどうでもいいと思うのだった。
 嬉しくてますます脚が開かれて、腰を入れてデルタを突き出し、友紀は指の腹でいじっていたクリトリスから指を浮かせると、反転させて人差し指の爪先をクリトリスに突きつけて、指を曲げ、パチンと弾くようにクリトリスを打ってやる。

「ンふっ! ハッハッ、ハァァ」
 一瞬襲った痛みに腰を退いても、すぐにまた、前よりも突き出されて尖り勃つクリトリス。
「心からの奴隷よね?」
「はい友紀様」
「友紀様・・女王様じゃなかったの?」
「はい女王様! ハッハッ・・ンっ・・ハッ」
 女王様という言葉に酔うのだろう。そう呼んだときサリナの息が激しく乱れる。現世ではない想像の世界に飛び立ちたくてたまらない。サリナを見ていてそう感じた友紀だった。
「いいわ、向こうへお行き」
 背を向けて歩きだすサリナの白い右尻を右手でパァンと強く叩くと『ああン』といい声を上げ、即座に左の尻を突き出してくる。
「可愛いお尻ね、いい子よサリナ」
「はい! ンふふ嬉しい・・女王様・・嬉しい・・」
 左の尻を左手でパンと弱く叩いてやって、追い立てるように歩かせる。

 シティホテルと違って部屋が狭い。ツインベッドの片方に脱いだものを投げ出すと全裸のサリナがハンガーにかけたり、たんだり、細やかな心遣いを見せている。今日の友紀は職場での移動の日であり目立たないベージュの上下を選んでいた。やはり私は普通の女性。他人の目を気にする窮屈さが残っていると思うのだった。
 こういう小さな常識が積み重なって倫理となり女をかんじがらめにしていく。サリナもyuuも、もう一人のユウも、身悶えして束縛から逃れようとしているのか。

 べージュの上下の姿で友紀はベッドの足の側へと腰を降ろし、足下を指差して正座を命じる。そっと静かに服従し、しかしサリナの瞳は濡れたように輝いていた。
「手は後ろ」
「はい」
 友紀は、洗って乾かされたワインレッドの不思議な髪を撫でてやりながら、微笑むサリナの額をちょっとつつくと、そのまま両手を下げて、すでに尖り勃つ二つの乳首をそっとつまんだ。サリナは視線をそらさずまっすぐ女王を見つめている。
「逢いたかったよ。逢いたくて逢いたくて」
「はい、私もお逢いしたくて」
「いろいろ考えたけど決めたことだけを話します」
「はい・・ンふ・・」
「感じるよね」
「はいとても・・ありがとうございます女王様」
「うん、いい言葉だわ。これから自分の部屋にいるとき、首輪を買ってあげますから常にしていること」
「はい」
「常に全裸よ」
「はい」
「私と二人でいるときは、何をするにも逐一ことわってからなさい。おしっこしたいとかウンチしたいとか」
「はい」
「こうして逢うとき、全裸で平伏して迎えること」
「はい・・はぅぅ・・ンふ」
 胸を張って乳首を差し出すセリナ。
「気持ちよければ濡らし、恥ずかしくても濡らし、痛くても濡らし、私が濡れたときには丁寧に舐めて綺麗にすること」
「はい・・ハッハッ・・ハァァ」
「そのほかすべて服従すると約束なさい」
「はい、お誓いいたします女王様」

「いいわ。じゃあ最初は・・」
 二人とも仕事帰りで・・いいやそれ以前にSMの道具など持ってはいない。それを考えるとまた迷ってしまいそう・・愛するサリナを鞭打ったりできるのか・・縛ったり・・浣腸して辱めたり・・そんなことができるのか。
 ずっとそれを考えて今日こそ振り切って来たつもり。友紀はベッドに手をついて腰を浮かせ、静かに見据えて言った。
「脱がせて」
「はい」
 サリナの両手が両方の腿を滑るように腰にまわされ、尻の丸みに沿ってベージュのパンティが下げられていく。腿を通過し膝に来たとき、友紀は尻を降ろして両足を上げ、パンティが足先から抜かれていった。
「裏返して汚れたところを舐めなさい。女王の汚れよ。できるでしょ?」
「はい、女王様」
 女王に見つめられ、サリナは両手につつむようにパンティをひろげると裏返し、底部の汚れをじっと見つめて、そっと舌を出して舐めていく。
「一日穿いてて汚れてるから綺麗にね」
「はい・・ハァァ・・ハッハッ・・」
 マゾヒズムに憑かれサリナの息が弾みだす。生唾を飲む喉鳴りがくぐもって聞こえていた。友紀は夢中で舐めるサリナの姿を目をそらさず凝視した。
「黙ってお聞き。このあいだサリナのパンティを借りたとき・・」
 丁寧に舐めながら眸だけを向けるサリナ。
「私はいまサリナのアソコと合わさってる・・好きよサリナ・・感じるわ・・ずっとそう思って過ごしてた。他人の下着を穿くなんてはじめてだったし、それがサリナの汚れだと思ったら汚いなんて思わない。私と舐め合った性器から出た汚れだもんね」

「そうして舐めてて汚いと思う?」

 サリナは思わないと何度も横に首を振った。
 友紀はサリナの頬に右手をやってそろそろと撫でてやる。
「バロンで聞いたわ。生涯のパートナーに出会えたって泣いてくれたそうね。震えたよ・・震えちゃった・・こんなにも誰かをいとおしいと思ったことがない。だけどこれから想いの表現は、私は女王、サリナは愛奴。思うがままのことをする。もう迷わない」
「・・はい」
「サリナは私を癒やすために生きていく。私を癒やせる力がサリナにはある」
 静かに涙を浮かべるサリナを見ていて友紀が先に泣いてしまった。これまで脇目も振らずに突っ走ってきた軋みが襲いかかり、それが流されて消えていくのを確かに感じて涙になった。

 友紀は残されたブラを自らはずしながら言う。
「もういいわパンティ。とってもいい子・・おいで」
 友紀は両手をひろげ、サリナがむしゃぶりついて抱かれていく。そのままベッドに引きずり込んで、6と9で貪り合った。

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