女の陰影

女の魔性、狂気、愛と性。時代劇から純愛まで大人のための小説書庫。


八話~リメイク


 麻紗美にとって翌日の日曜日は久々の夫との一日だった。食事をして映画。それだけのデート。とりわけどうと言うこともなかったのだが、夫の愛は確認できて、夫への愛が揺らいでいないことも自覚した。
 留美や美鈴との性愛を知って、むしろしゃしゃり出ず、夫とは深い時を過ごせている。乾きかけた女心に潤いが戻ったというのか、面倒な日々を忘れる時間が女には必要なのだと思い知る。
 それは代償行為であってはならない。女の心を癒やすのはやはり愛であり、性的な渇望をどれほどごまかしても到達できない境地がある。麻紗美は自分の淫欲と素直に向き合えるようになっていた。
 夫に抱かれて深く達する。それさえも新婚時代の歓びとは質が違う気がしてならない。

 月曜日。いつも通りの暮らしがはじまる。いつも通り。日常の中にレズが組み込まれてしまっていると自覚する。今夜もまた夫は帰りが遅くなる。麻紗美は帰り道にフルーツを買い込んで、あたりまえのように留美の部屋へと帰り着いた。
 ドアが開くと、グレーアッシュの長い髪をすでにポニーテールにまとめ、全裸の留美が平伏して出迎える。膝で立って両手は頭の奴隷のポーズを玄関先でする留美に、麻紗美はひどく穏やかな気分になれて微笑んだ。
「よろしい、いい子よ。こうして欲しい?」
 両方の乳首をつまむが、ヒネリつぶさず、そっとコネる。牝犬留美は甘く目を閉じ、荒くなる息を詰めて、かすかに喘ぐ。
「感じます、お姉様・・いまかいまかと待ち焦がれて濡らしていました」
 留美は今日バイトを休んだ。麻紗美はオフィスでその旨のメールを受け取った。
「濡らしてた?」
「はい」
「素直ね」・・と言って頭を撫でながら部屋へと入って、額に入れられて飾られた文章が目にとまる。美鈴へメールで送った、あの言葉。留美を想うエッセイだった。

「ふふふ、なるほど、そういうことか・・もらったの?」
「プリントしてもらってすぐに飾って・・嬉しくてどれほど読んだか」
「そんなに嬉しい? 感動した?」
 こくりとうなずいて留美はもう涙をためてしまっている。
 ここまでピュアに待ち焦がれることができるなら、女はどれほど幸せだろうと麻紗美は感じた。足下に全裸で控える奴隷の留美。麻紗美は頭を抱き寄せて、留美は腰に手を回して抱きすがる。
「先にシャワーさせてね、今日は書類の整理があって汗かいちゃった」
「はい」
 浴室といってもアパートのそれは狭い。ユニットバスでトイレと一緒にされている。
 浴槽も大きくない。留美は脱ぐ麻紗美に付き添うように、浴槽に立った麻紗美の背後に裸身を寄り添わせた。
「洗って差し上げます。でもその前に・・はぁぁ、ぁぁン・・」
 感じ入って喘ぐような息をする留美。留美は後ろから麻紗美の裸身を滑り降り、麻紗美に尻を上げさせて、白い双臀の奥底へと顔を埋めていくのだった。

「留美・・シャワーしてない・・ねえダメ」
「いいの・・ああお姉様・・大好き・・あれをもらって帰って私・・泣いて泣いて読んでいました」
 留美の舌先が閉じた女唇をそろりと舐めた。麻紗美の腰が跳ね上がり、麻紗美は壁に両手をついて口吻をまくり上げるように歯を見せて、少し切った長い髪を振り乱す。
「はぁぁ留美・・いい・・感じるよ・・好きよ留美・・あぁン」
 密やかに閉じていた女の唇を割り広げて舌先が舐め回す。雌花はたまらず蜜を噴き、綺麗なピンクの花奥を見せながら、二つの白い尻がぶるぶる震えた。
 雌花を清めた奴隷の舌が躊躇なくアナルを舐める。
「留美ダメ・・ねえそんなところ・・あっ!」

 なんて子なの・・私はいま感動で震えている。そうはっきり自覚して、体の奥底から噴射するような性欲に乱れている。
 このとききっと、もう一人の私は私を抜け出し、淫らな私を微笑んで見つめていると麻紗美は思った。

「私はミルです」
「え・・ミル?」
「美鈴さんがおっしゃいました。『留美のままだと麻紗美はあなたを愛してしまうよ』って。『私だってそうなんだから、あなたはミルになりなさい』って。そうすれば留美の人格を傷つけずに奴隷にできるって」
 美鈴らしいと麻紗美は思った。ちょっと思いつかない発想だ。留美は留美のままとしておいて、もう一人のミルを躾けていく。
 麻紗美はミルの腕を取って振り向きざまに立たせながら、上気するミルの頬を両手に挟んで目を見つめた。そのとき口許にへばりつく陰毛を見つけ、爪先で取ってやる。
「じゃあミル」
「はい?」
「奴隷ミルにとって私は何? 女王かしら?」
「はい・・嬉しいです女王様」
 
 女王は奴隷の二つの乳首に爪を立ててヒネリ上げた。激痛に呻くミル。涙をぽろぽろこぼしていた。
「ほうら痛い・・こんなこともされるのよ」
「ああ・・女王様ぁ・・ぁっ・・ぁう!」
 ミルの若い裸身が崩れだす。
「・・え」
「私ダメ・・ぁ、ぁ、あ・・」
 ワラをもつかむように両手をひろげて抱きすがる素振りをしながら、ミルの二つの黒目が裏返って白目を剥いて崩れていく。

 シャァァーッ

「そんな・・ウソよ・・」
 失禁した生温かい液体が麻紗美の足に降りかかり、ミルはぷるぷる頬を痙攣させて麻紗美の腕にしなだれ落ちる。
「ミル? ねえミル、どうしたの?」
 軸を失い崩れる裸身を麻紗美は抱き留め、たまらなくなって唇をかっさらう。それでもミルは白目を剥いて動かない。
 天性の淫婦だわ・・すごい・・そうした想いが瞬時に羨望へと置き換わっていくことを、このとき麻紗美ははっきりそう自覚した。
 マゾだけに許される奈落の快楽・・これがそうなのか。
 羨ましい。私には到達できない悪魔的なアクメ・・知ってみたいと麻紗美は思い、ミルがいとおしくてならなかった。

 さらに数日が過ぎていた。
 今日は木曜日でベルカフェは休み。気分で休む。
 留美も休み。それに合わせて麻紗美も午前中で仕事を切り上げ、美鈴の部屋へと急いでいた。美鈴と二人でミルを責める・・そんなシーンしか浮かばなかった。
 ところが・・。
 電車の窓を濡らしだした雨粒が、美鈴の部屋に着く頃には本降りとなっていた。はるか南の海上で巨大な台風が列島を狙っている。折りたたみの傘では風に乗る雨は防ぎきれない。麻紗美はジーンズスタイルだったが、パンツもTシャツも濡れていた。

 ドアが開いて出迎えたのは、真っ赤なブラと真っ赤なTバックパンティだけのミル。
 やってるやってる・・ふふふ。
 嬉しくなって入ってみると、美鈴は純白のブラに純白のTバックパンティ。
 半裸の女たちに出迎えられて、麻紗美のスイッチが入っていた。
 バルコニー側のローテーブルに紅茶と菓子が支度された。これで女二人が着衣ならばどうってことはないのだが、二人はすでに性のスタイル。
 麻紗美はまたしても仕事帰りでベージュの無難を身につけていた。
 美鈴は言った。
「脱ぎなさいよ麻紗美も」
「・・そうね。その前にシャワーさせて」
 そのときミルがソファを離れて麻紗美の手を引き寄せた。
「いいから脱いで。ね、女王様・・ふふふ」
 ミルの笑顔・・ゾッとするほどサディズムに満ちている。麻紗美は呆然とした。
「う、うん、わかった。そうよね、女ばかりよ。脱ぐわ」
 濡れたジーンズ、それにTシャツ、職場続きのパンストも。
 ベージュの上下となったとき、ラブソファで美鈴とミルが身を寄せ合って、にやりと残忍に笑うのだった。

 美鈴が静かに言う。
「ダメよ、それじゃ。今日は麻紗美だけが全裸です」
 ミルが愉快そうに追いかける。
「そうそう、素っ裸よ。ふふふ、そうね・・そこで踊りながらいやらしく脱いでいく」
 美鈴が目を丸くして明るく笑った。
「いいわね、それ。ふふふ、ですってよ麻紗美。早くなさい!」
 その強くした言葉で、ミルさえ眼差しを強くする。
 麻紗美は混乱した。混乱したが、激しく反応しだす自分の女体を意識していた。

「な、何・・どうしたの二人とも・・」

 美鈴が座を立ちながら言った。
「決めたのよ、ミルと私で。ミルは奴隷よ、麻紗美の奴隷。それはいいの。でもね私とミルが一緒のときは麻紗美が奴隷。今日はほら・・いろいろ用意してありますから」
 美鈴の背後で、ミルが黄色いスポーツバックを広げだす。
 黒い綿の縄・・ベルトのような革鞭・・太いバイブ・・恐ろしいディルド・・小さなイチジクまでが揃えられた。
 半裸の麻紗美は震えだす。頬がカーッと赤くなり、膝ががくがくしはじめる。

「ほんとは欲しくてたまらない・・そうでしょ麻紗美・・やさしく可愛がって欲しいなら素直になさい。私たちにではなく麻紗美自身の欲望に素直になるの・・さあお脱ぎ」
 歩み寄られてキャッツアイに魅入られる・・性の波が押し寄せる、どうしようもない気配を悟って・・麻紗美は、あの夜、失禁して果てていったミルの歓びを思い出す。
 そのミルが言うのだった。
「服従なさい・・さもないとおしまいよ。写真に撮ってネットに流してあげようか・・ふふふ・・大好きなのよ、可哀想な女王様・・」
 どっちつかずの三十二歳。私は苦しいと麻紗美はもちろん理解していた。

 フロアに独り、立たされて、麻紗美はブラに手をかけた。身をしならせ躍るように、こぼれる乳房を解放し、つまらないビジネスパンティを脱ぎ去った。
 これだわ・・心が震えてイキそうになっている。
 ミルが言った。
「はいはい、いい子ね・・いいカラダよ・・這っておいで」
 体を丸めてしゃがみ込み、両手をついてほんの数歩。全裸の麻紗美は二人の前に行き着いて、美鈴が頭を撫でて言う。
「奴隷のポーズよ。ミルに命じたポーズをなさい」
「はい・・ぁ・・ぁ・・」
 膝で立って膝は肩幅・・両手は頭の後ろ・・胸を張って乳房を差し出す。
「そうそう、それだわ・・ほうら、もう乳首が尖ってる・・」
 そんなことを言われながら、片方をミルに、片方を美鈴に、両方の乳首をつままれて、麻紗美は錯乱するように、言われる前に腰を振りだす。
 美鈴が笑った。
「あははは、ほらごらん、それが麻紗美の姿だわ。欲しがって欲しがってお尻を振る淫乱奴隷よ」
 そう言いながら二人で乳首を嬲ってコネる。内腿に垂れ流れる愛液を麻紗美は自覚し、火のような吐息を吐いて目を閉じた。

「見られながらオナニーなさい。ああ恥ずかしい恥ずかしい。ふふふ、どうしようもない女よね麻紗美って」
「ほら、こんなものも用意したの」
 ミルの手に青いプラの洗濯ばさみ。左、右と、ミルは乳首を挟み付けていく。
「ぁくく・・ぅっ・・」
「ほうら痛い・・可哀想ね女王様・・イッていいのよ、オナニーして」
「はい・・あぁン・・ダメ・・イッちゃう・・」
 麻紗美は股間に手をやって愕然とした。壊れた蛇口のように愛液があふれ出してしまっている。二本まとめた指先がヌルリと入る。

 カシャ・・カシャ・・

 美鈴の手に、いつの間にかデジタルカメラ。
 怖い・・そんなシーンを公開されたら私はおしまい・・シャッター音がするたびに昇り詰めていく自分の体・・瞼の裏に星が乱舞するアクメが来る。
「ほらほら、もっとよ。もっともっと、いやらしくお尻を振るの」
 棒の先に幅広の革ベルトをつけたような尻打ち鞭を手にとって、ミルが背後へと回り込む。
「ほらもっと!」
 ピシャピシャと撫でるような打撃が左右の尻を揺らす。麻紗美はあられもない声を上げ、錯乱して尻も乳房も振り回し、意識が遠のき崩れていた。

 自我をリメイクした新しい麻紗美が産まれた誕生日・・おびただしく伝う愛液のように、ガラスを雨が流れていた。


七話~苛立つ女


 しばらくぶりの留美の部屋。待ち焦がれる誰かとこうなることを期待するように、いつの間にか増えていた赤いラブソファ。小さなローテーブルには、美鈴に教わったというお手製のホットドッグとコーンスープ。それに綺麗に切って盛られたリンゴはいい香り。
 そんなシチュエーションの中、若い全裸を晒してお座りする犬のポーズで微笑む留美を見ていて、麻紗美は腹が立ってくる。仕事帰りで自分だけがつまらないビジネス下着・・それにもまた腹が立つ。
 自分だけがつまらない女のよう。若いこの子が牝となって輝いているのに、いったい私はどうなんだ・・そうした想いが交錯して、留美が可愛いからなおのこと苛立ちに置き換わってくるのである。

 麻紗美はネットで見たM女たちの姿を思った。あの夜は美鈴が暴走しないよう静める側に回っていた。けれどそれも私自身が打ちのめされてしまわないようガードしたい気持ちの裏返し。麻紗美はそれを自覚していた。レズからSMへと加速していく性への解放が信じられない。

「いいわ留美、わかった。それならそうと私も私を変えなくちゃ。今日の私は怖いわよ」
「は、はい、お姉様」
 ドッグスタイルで半歩さらに歩み寄る留美。グレーアッシュのロングヘヤーはポニーテール。すでに紅潮する若い頬を隠せない。濡れたような留美の二つの眸を覗き込み、麻紗美は右手でちょっと頬を叩いた。目を丸くし、ビクッと引き攣る若い犬。
口惜しいほど綺麗なヌード。
「可愛がってほしければ服従なさい。いいわね留美」
「はいっ、お姉様」
 反射的に留美は言って、とたんに息が乱れてくる。天性の牝犬。眸が据わり、性の波に小鼻がひくひく蠢いて・・。
「そこに膝で立って膝は肩幅。両手は頭の後ろでしょ。奴隷のポーズを覚えなさい」
「はい・・ああ、お姉様ぁ・・怖い・・」
 怖いと言いながらも感じ入った牝の息声。留美は裸身を震わせながら服従のポーズをとった。ふっくらと形のいい乳房の先でしこり勃つ二つの乳首に手を伸ばす。色素が薄い整った乳首。それにもまた腹が立つ。

 つまむ。手荒くコネて、指先に力を入れてヒネリ上げる。

「ぁン! んっんっ!」
「どう? 感じる?」
「はいっ・・ああイキそう・・ぅぅ・・感じます」
 留美はあのときもそうだった。女心が天に昇り、カラダが後追いするような性のピーク。私でさえが知らないものを十歳下のこの子は知っている・・腹立たしいし、羨ましくてしかたがない。
 麻紗美は乳首で乳房を伸ばすように、さらにヒネる。
 うくく・・うぎぎ・・痛いのだろう、声を噛んで耐える留美。せつなげな表情がたまらない。
 十歳違いでこの想いなのだから、美鈴のように二十違えば娘のようなものだろう。可愛くてならない。美鈴の想いと私の想いのどちらもを独占する留美・・そう思うと麻紗美の中にメラメラと燃え上がるものがある。
 サディズムなのか。それもちょっと違う気がした。嫉妬なのかも。

 片方の乳首から指先を離し、右手でいきなり牝犬の深みをまさぐった。二本束ねた指先が苦もなくぬるりと没してしまう。体の中は燃えていた。
 せつない喘ぎが漏れ出した。甘い。腰が揺れる。ありったけの女心を溶かしたような愛液があふれ出てくる。
「あらあら、呆れてものも言えないわ、もうヌラヌラ・・ふふふ」
「は、はい・・ああダメだ、おかしくなりそう・・目眩がする・・」
 麻紗美は、留美から指を引き抜くと、牝犬の両方の乳房を交互にちょっと叩き、微笑みかけて腕の中へと絡め取る。しなりと崩れて全裸の留美は膝に抱かれ、愛液で汚してしまった麻紗美の指をぺろぺろ舐める。
 弱くなった丸い目で見上げる犬を見下ろすと、よほど嬉しいのか、犬の二つの眸に綺麗な涙がたまっていた。

「泣いちゃったね・・可愛いわ、留美ってほんと、たまらない」

 おかしい。なぜだろう?
 攻撃色が瞬時に去って、抱きくるんでやりたい母性だけが騒いでいる。私は女王になりきれない。そんな自分が可笑しかった。
「さ、ご飯にしましょう」
 麻紗美は最初にスープに口をつけると、大きなホットドッグをひとかじり。口に入れてよく噛んで、膝の上で見上げる留美の口許に口を寄せた。留美は伸び上がり、両手を麻紗美の肩に回して口づけをせがむよう。
 口移しに吐き出して食べさせる。あのときもそうだったが、これをすると留美はうっとり目を閉じて、吐かれたものを受け取って食べていく。
「美味しい?」
「はい嬉しい・・お姉様大好き・・泣いちゃうもん」
 泣きべそで笑っている。この子の心の空洞がどういうものだったのかと、顔を見ていて思わずにはいられなかった。
 パンだけ。パンとスープを一緒に。リンゴはそのままつまんで食べさせる。
 膝から離れた留美は犬の姿で一途に見つめたまま・・キラキラ眩しい若い瞳が煌めいて・・不思議な夕食が続いていった。

「あらそう、そんなことがあったの・・それでわかった」
「え、何が? 何か言ってた?」
「ううん、あの子は言わない。言葉じゃなくて目の色が素直になった。お客さんが帰ったテーブルを拭かせると、ほんと自然にお尻を上げて私に見せる」
「そうなんだ?」
「薄皮みたいな戸惑いが綺麗さっぱり消えていた。躾けていくよって私が言うと、あの子、ほんと素直に、はいって答える。いい子になったわ」
 嬉しそうに言う美鈴。

 留美との夕食から二日。今日は土曜日。麻紗美の夫は暗いうちからゴルフに出かけて留守だった。麻紗美はカレンダー通りだったがパソコンショップは年中無休で交代休。土日はとりわけ休めない。
 麻紗美はベルカフェの開く十時には店にいた。穏やかな晴天で、こういう日は得てして暇だと美鈴は言った。ボックスの一つに学生らしいカップルがいたが、お茶だけ飲んでさっさと出て行く。ここで待ち合わせてデートだろう。ベルカフェにはモーニングというものがない。開けるなり忙しくなるのはまっぴらだと美鈴は笑う。

 どうしたことか、お客なし。カウンター越しに麻紗美は言った。
「四つん這いにしてやったの。身体検査よ」
「わお! くくく、ヌラヌラだった?」
「後ろにしゃがんでお尻に手を置いて覗き込んでやったのよ。それだけでイキそうになって喘いでいたわ・・だけどね」
「うん?」
「私と同じ女の根源を見せつけられた気分だった。私だって夫にこうして愛される。留美のことは言えないなってそのとき思った。淫らな私を夫だけは知っている。でもだから安心して素直になれるんだって思ったな」
「女の根源か・・確かにね、私もそうだし」
「あのとき私は私の本質を見てたのかも知れないなって・・羨ましい」
「羨ましい?」
 美鈴は野菜を刻む手を止めて顔を上げた。今日の美鈴は白いドレス。うっすらとだが白い下着が透けていた。顔だけを上げたことで開いた胸元から白い乳房が覗いている。白のブラ。桜色の乳房。

 麻紗美が言った。
「何が羨ましいのかもわからないけど、そこまで素直になれるんならマゾっぽくてもいいかなって思ってしまった。妻のポーズをあの子は知らない」
 それを聞いて美鈴が首を傾げて微笑んだ。
「私なんて、それに加えて母のポーズよ。ほんとの私は家の中にはいなかった。だからこうして別居した」
 母のポーズ。それは麻紗美も知らない女のキャリア。麻紗美はハッと美鈴を見つめて浅いため息を漏らしていた。

「くだけたね麻紗美」
「はい? くだけた?」
「最初はね、そこらの普通の女だなって思ってた。ごめん、気を悪くしないでね。内心いろいろあるくせに何食わぬ顔で取り繕って・・だけどそんなものは臆病の言い訳でしかない」
「そうかしら・・私変わった?」
「変わったよ。性を話せるようになっている。あのね麻紗美」
 切り終わったキャベツを水に晒しながら美鈴は言う。
「はい? なあに?」
「エッセイ」
「あ、うん?」
「私は私と話すために書きはじめた。言葉の中にはもう一人の私がいて、彼女にならどんなことでも話せたの。もちろんそんなものは公開できない。外に出せない文章なんてたくさんあるし、そうやって私は私自身を探っていった。私はどうなりたいのかって文章の私と話していたのね」

 そういうことができるのは羨ましい。麻紗美も学生の頃は似たようなことをしたものだったが、そのうち怖くてできなくなった。現実の自分との乖離を見せつけられるとどうにかなってしまいそう。もう一人の私を封じ込めて生きてきた・・と、そんなふうに意識が内向きに切り替わっていたときに、心にフェードインするように美鈴の声が忍び込む。
 目の前が明るくなった気分だった。
「留美はそれなのよ。私にとっての、もう一人の私。麻紗美にとっての、もう一人の麻紗美。それが留美だし、留美にすれば、その逆ね」
「逆って? あの子が私たちに投影している?」
「そういうこと。もう一人の自分と会話するように私や麻紗美と接している。本音の自分が外にいてくれれば、それこそつまり解放ですもの」
 ちょっと難しい。しかし麻紗美にはわかる気がした。
「書いてみようかな私も」・・と、麻紗美は言って、ため息を。
 美鈴は眉を上げてうなずいた。

 留美、留美、留美っ。

 裸の留美。あなたはヘンです。ぜったいヘン。
 淫らな女心をさらけだし、打ち震えて果てていく。
 インランではなさそうで、ヘンタイでもなさそうで、
 よくわからないジブンを探るように演じてる?

 あなたを見ていて思うのよ。私だって、こうなりたい。
 素直なキモチ。正直なワタシ。だって、そんなもん
 滅多やたらに見せられるものじゃない。

 うん、わかった。だから苛立つ。妻気分のワタシの真実。
 私のワタシを見せつけられているようで・・ムカつく。
 私はワタシを捨てられないから、きっと留美も捨てられない。

 カワユイよ。カワユクなりたい私なのに、カワユクない。
 そうか、そこに苛立つんだ。
 いまさら何を言ってるの? 32年は何だったん?

 ダメな私を叱るように、私は留美を責めていきたい。

「・・これを麻紗美さんが?」
「こんなんどーってメールで飛んできた。午前中に来て、書いてみようかなって言ってたのよ」
 その日の夕刻過ぎだった。麻紗美は夫が戻って動けなかった。仕事帰りにベルカフェを覗いた留美は、店を閉めたシャッターの裏側で、美鈴と並んでカウンターに座っていた。コンパクトなノートPCを開いて置いた。
 美鈴は横目に留美を見た。今日の留美は露出ゼロのジーンズスタイル。
「どーよ?」
「・・嬉しいな・・あたし泣きそ・・それにすごくお上手で・・ちょっと信じられない気分」
「そうなのよね、ここまで書けるとは思わなかったし、もっとあたりまえの固い文章を想像していた。留美が麻紗美を変えたのよ」
「あたしがですか?」
「そこにあるように、麻紗美は留美に苦しい自分を投影している。最後に責めるって書いてあるでしょ。『愛する』でも『可愛がる』でもなく『責める』って」
「ええ・・そうですね」
「共振よ。女はそれぞれ波長が違う。合わせようとしたってダメ。相手の中に自分を見いだせない間は同調できないものだもん。『愛する可愛がる』には遠慮があるし、どこかに自分をいい子にしておきたい逃げもある。優位に立っていたいしね」

 留美は息を詰めて美鈴をじっと見つめていた。
「それって・・え?」
「わからない? 私はもう逃げませんて宣言じゃない。いまがチャンスよ」
「チャンス? えっえっ?」
「麻紗美のこと調教しましょう。二人で麻紗美を責めてやる」
 
 驚きを通り越し、留美は口を開けたが声が出ない。

「これプリントできます?」
「欲しい?」
「欲しいですっ。最高のラブレターだわ」


六話~白い犬


 美鈴と麻紗美、二人の女にほくそ笑まれて全裸を命じられても、フロアにへたり込んだまま留美は動けなかった。呆然として頭が真っ白。それでいて眉根を寄せる恐怖の面持ち。忍ばせるように息を詰め、しかしその若い頬はいきなり突きつけられた性の予感に赤く染まっている。
 正座から両足を横に開く女の子座りで尻をぺたりとついているのだったが、黒のマイクロミニは腿をすべて曝け出し、スカートの奥の真紅のデルタを惜しげもなく見せている。

「脱げないようね、いいわ、わかった」

 美鈴はグレーアッシュの留美の頭をちょっと小突くと、LDKから寝室へとつながる白いドアを開けて奥へとくぐり、ホワイトジーンズに合わせるような強いピンクの革ベルトを持ち出した。女物で幅はそれほどなかったが革が厚く、使い込まれて柔らかい。
 ベルトのバックルを手の中に持ち、巻いて長さを合わせ、にやりと残酷に笑って留美の前に立ちはだかる。
「せっかくお夕食も用意して麻紗美と二人で可愛がってあげようと思ったのに、言うことがきけないなら鞭よ、それでもいいの」
 穏やかな声だけに恐怖を誘う。ふわりと振ったピンクのベルトが濡れて張り付く留美のTシャツの背をパシリと打った。撫でるような軽い打撃だったが、留美は「ぁン」と甘く声を漏らし、それで女心が覚醒したのか、脱ぎますと小声で言った。

 麻紗美は、美鈴を見習って冷たい目を向けていたが、内心ちょっとハラハラしていた。虐めると言っても口だけで、そうひどいことはしないだろうと思っている。そこまではしたくない。けれどもベルトを鞭にして立つ美鈴の面持ちはSっぽく、麻紗美が見ていても怖いほど。レズラブだけでも目眩がしそうなのにSMなんて・・留美が可哀想に思えてくる。
 留美がふらつきながら立ち上がった。頬を紅潮させ、もはや荒くなる息をごませない。声もなく「んっんっ」と言うように吐息を吐くと黒いスカートに手をかけた。
 美鈴はベルトを握ったまま、テーブルの麻紗美の対向のチェアに腰を下ろす。二人がけの白く小さなテーブル。新婚サイズのダイニングテーブルなのだろう。

 この部屋は1LDKではあっても賃貸向けに造られていて、対面カウンターのあるマンションらしいキッチンではなかった。LDKとは言え十二畳相当しかなく、カウンターを設けると部屋が狭くなってしまうからだ。壁に沿うキッチン。流しに向かうその背後に四角く小さなダイニングテーブルを置き、美鈴は流し台から振り向きざまの調理台としても使っていた。

 それとは別に、LDKのバルコニー側にブルーグレイの革でできたラブサイズソファが置かれ、白い楕円のローテーブル。そしてその対向に白いテレビ台と小さな液晶テレビが置いてある。床はすべてウッドテイストのクッションフロア。
 そしてそのLDKから白いドアを開けて八畳相当のベッドルーム。寝室には天蓋付きのダブルベッドと半円ミラーの小さなドレッサー。置かれているのはそれぐらいで、服や細々した物は寝室の壁面フルに造られたクローゼットにしまってある。
 ここは美鈴の隠れ家。贅沢なベッド以外のすべてが女一人で暮らすようにシンプルにされていた。

 キッチン側のテーブルとバルコニー側のソファとの間に数歩分のスペースがあり、留美はその中央に立たされて、テーブルの左右に座る美鈴と麻紗美にねっとり絡む女の眸で見つめられながら脱いでいく。
 黒いマイクロミニのホックがはずされファスナーが開かれて、張り詰める尻にひっかかる湿った布地を、留美は尻を振るように下げていく。ストッキングは穿いていない。新宿のバイト先を出るときから土砂降りで穿かずにバッグにしまって来ていた。
 濡れたTシャツを下から剥き上げるように抜き取って、真紅のCサイズブラと真紅のTバックパンティ。性に上気した若い肌に血管が編み目のように浮かんでいる。
 下着姿で身悶えするように裸身をしならせる留美。極限の羞恥に息が乱れ、唇がふるふる震えている。
「下着も全部よ・・くくく」
 ほくそ笑みながら美鈴は麻紗美に横目を流した。麻紗美もちょっと微笑んだ。

 Cカップブラから乳白の乳房が転び出て、身をしならせて抜き取られたTバックパンティの裏地では、すでにもうあふれ出す愛液が透き通った糸を引く。
 全身に鳥肌が騒ぎ、形のいい乳房の先が乳輪をすぼめて乳首をしこり勃たせていた。桜色に火照った若い全裸。下腹の淫らな毛飾りは布地から解放されても恥丘にしんねり張り付いている。
「なによ留美、そのパンティ。もうオツユが糸を引いてる。いやらしい子ね・・欲しくて欲しくてならないんでしょ・・ふふふ牝犬め・・」
 美鈴のキャッツアイの底光りは、横顔を見ている麻紗美からもうかがえた。レスボス・・そしてサディズムに煌めく面持ちが熟女の妖艶さを際立たせるようだ。
「い、嫌ぁぁ・・ねえダメぇ・・恥ずかしい・・」
「とかなんとか言いながらトロっトロなんだもんね。イキそうなんでしょ、あははは」
 麻紗美は、自分でも信じられないことを言っていると意識しながら、追い打ちをかけて言葉を浴びせ、美鈴と二人で笑い合う。

 ピンクのベルトを手にしたまま美鈴はチェアを離れると、鞭打ちを察したようで留美は濡れるような弱い視線を美鈴へ向けた。拒む色ではなかった。
 美鈴は留美のヌードをまじまじと見回しながら周囲を歩き、背後に回って、上から頭越しに伸ばしたベルトを裸身に回すと、乳房から白い腹までをベルトでこすり、ちょっと首を絞める仕草をし、ベルトを留美の口許へともっていく。
「噛んでなさい、落としちゃダメよ」
「・・は、はい」
 長いベルトの中ほどを噛ませておいて、フリーとなった両手を背後から回して裸身を抱き、若い性欲がつまったような二つの肉乳をそっとつつみ、指先だけを動かして揉むようにし、尖り勃つ二つの乳首を両手でつまんで、そっとコネる。
「ぅく・・んっ・・はぁぁン」
 子犬の甘い喘ぎのようだ。
 乳首をやさしく責めながら美鈴は後ろから耳許に唇を寄せていき、耳たぶをちょっと噛んで熱い息を吹きかけて、静かにささやく。
「いい子ね留美、可愛いわよ・・ふふふ、乳首コネられるの好きだもんね・・ほうらこうして・・ほうら・・」
「ンふ・・ぁ・・んっんっ!」
「おほほほ、ほうら気持ちいい・・」

 しかし愛撫はそこまでで、声をいつもの美鈴に変えて麻紗美へ言う。
「さあ、お食事にしましょうか」
 麻紗美は今度こそほくそ笑んでチェアを立った。
 そしてそれから、美鈴はふたたび、今度は乳房を揉みしだきながら耳許で言う。
「留美だけが素っ裸・・お夕食なんだと思う? 今日は簡単にしちゃったの。ジャガバターとパンよ。それにサラダもつくっちゃった・・麻紗美のいる向こうとね、私のいるこちらとに半分ずつ置いておく・・あたしたち二人の女王様の間をね・・牝犬留美は・・ふふふ・・いやらしくたらたらオツユを垂らしながら、お尻を上げて這って行き来するんだから・・淫らなところを交互に見られながら・・その度に足先にキスをして、ご褒美に食べさせてもらうのよ・・」
「ああ、そんなぁ・・ああダメぇ狂っちゃう」
 留美の目は据わり、口許から唾液が伝い流れ出す。
「イッちゃいそうでしょ? ほうら、ここはもうヌラヌラよね」
 片手で左の乳首を強くツネリ、右手が腹を滑ってデルタの毛むらをそっと撫で、指先がほんの一瞬、濡れそぼる女の谷へと侵入した。
 尖るクリトリスをこすり上げる。

「ンっふ! ぁ・・」

 息の叫びだったのか。留美は背後から美鈴に抱かれたままで、くにゃりと裸身が歪んで崩れた。ハッとして美鈴が抱き留めて、そっとフロアに横たえてやる。
「ふっふっふ・・あははは!」
 美鈴の高笑いで麻紗美が振り向くと、全裸の留美が体を横に丸めて倒れていて、美鈴が声を上げて笑いながら、留美に寄り添い、乱れて開いたグレーアッシュの髪の毛を撫でつけながら頭を撫でてやっている。
 麻紗美が言った。
「嘘でしょ、イッちゃった?」
「みたいよ・・あっはっは、もうダメだわ、たまらない。ああ可愛い、なんて子なのかしら、マジで淫乱・・あっはっは!」
 留美は性のピークに気を失った。刺激されて刺激されて渇望し、極限の羞恥の中で身悶えし、ほんのわずか与えられたクリトリスへのご褒美で、天へと駆け上がっていったのだった。

 心が達した。心が天上へと突き抜けて、女体が追いかけ、イッたのだと麻紗美は感じた。

「留美、ほら留美、起きなさい・・もう留美ったら!」
 真っ白で丸い尻をパシと叩かれ、留美はビクっと全身を痙攣させて目を開けた。

 女王とはどういうものか。SMとはどういうものか。
 曖昧な記憶にしておきたくなくて麻紗美はネットを覗いていた。露出、緊縛、鞭打ちもあれば器具を使った強制アクメ、薬液で排便を強制される女の泣き顔を動画でも見た。
 女三人の一夜から四日後のこと。平日であり麻紗美は仕事だったが留美は休み。
出張明けの夫は会議もあれば接待もある。オフィスからまっすぐ留美の部屋へ。夕食を留美がしてくれることになっていた。
 電車の中で何食わぬ顔をしていても、あのときの白い牝犬の姿が思い出されてならなかった。美鈴は口では言ってもSMなんてとんでもなくて、恥ずかしがらせただけで、それからは際限ないレズの嵐。美鈴と二人で若い留美が言葉をなくして喃語を話しだすまで狂わせた。器具なんて使わない。それでも留美は悲鳴を上げてイキ狂い、幾度失神しても、気づくとまた性の嵐。腰が抜けて立てなくなった瀕死の留美を抱いて眠った。

 305号。若い子が好きそうなケーキを買って留美の部屋のドアに立つ。
 小さくノックするとドア裏から声がした。あれから留美とは美鈴の店でお茶ぐらい。留美とは深まっていなかった。
「あたしよ」
「あ、はいっ」
 ドアが開けられ、麻紗美は目眩のような感覚に戸惑った。
 ショッキングピンクのTバックパンティだけのフルヌード。グレーアッシュの髪の毛もカットされて少し短くなっていた。
 そんなマゾスタイルの留美が、ほんの少しの段差のある上がり框に平伏して出迎えたからである。
「ようこそおいでくださいましたお姉様、嬉しくて泣きそうです」
「・・留美、あなたね・・」
 説教ぐらいはしてやろうとも思ったのだが、顔を上げた留美の眸は涙をためて、麻紗美の攻撃色を奪っていった。
 マゾというより牝犬の自覚に酔っている・・あの夜の狂乱が若い留美の心の居場所を定めたようだ。

 パンプスを脱いで上がろうとすると、白い犬は足を取り、ストッキングのつま先に目を閉じてキスをする。睫毛が涙に濡れていた。
「よろしい、いい子です」
「はいっ! 嬉しい・・お姉様ぁ。ほんとは全裸でと思ったんですが、お会いできると思うだけで濡らしてしまって座れなくなっちゃうから・・」
「そこらじゅうオツユだらけ?」
「ぁ・・はい・・嫌ぁぁン」
 女王様ぶっていても内心呆れて物が言えない。ただただ可愛い。両手をひろげてやると、涙をこぼしながらむしゃぶりついてくる。

 部屋に入って、ビジネス下着のベージュの上下に、可愛い子猫がプリントされた留美のロングTを借りて着込み、見慣れたローテーブルに合わせたように、いつの間にか増えていた赤いラブソファに腰を下ろす。
 夕食は留美お手製のホットドッグとコーンスープ。極太の粗挽きフランクをフランスパンに挟んだもので炒め野菜と一緒にサンドされる。美鈴に教わったと嬉しそうに留美は言った。
 大きなパンでつくったホットドッグが二本。スープと切ったリンゴがお皿に載った。
「行ったのね美鈴のところ?」
「お店にです。お部屋には呼んでいただけませんし」
「そうなの? 呼んでくれない?」
 テーブルに、なぜか大皿に載せたホットドッグと大きなスープ皿になみなみとコーンスープ。リンゴも一皿にまとめてあって、スープのスプーンが一つだけ。
 食事を並べると留美は、わざと一歩距離を取ってパンティさえも脱いでしまう。裏地に愛液が糸を引く・・あの夜と同じ食事がしたいようだった。

 ソファのそばで正座をして両手をついて顔を上げる。犬の『待て』のポーズ。Cサイズの乳房の先端で若い乳首がしこり勃ってしまっている。眸が一途で綺麗だと感じていた。
「それでいいのね留美は?」
「え? それでいい?」
「マゾでいたい?」
 そのときの留美のはにかむような笑顔は麻紗美の女心に突き刺さった。重荷のない素直な牝の面持ち。エロスを放射して煌めいているようだ。
「それはお二人のお気持ち次第・・私はもう考えたくない。独りぽっちでいると余計なことばかり考えて、苦しいし寂しいし、泣いたって何も得られないし。私だってマゾは怖いわ。でも、私やっと独りじゃなくなった。もう嫌よ、哀しいもん・・」

 静かに語る留美だったが、このとき麻紗美の中に、怒りにも似た感情が噴き上がってきたのだった。
 四十二歳の美鈴は女のキャリアを経て境地に達した。
 三十二歳の私は結婚が遅かった。嬉しくて抱かれているのに妊娠できない。私は妊娠したがってる? この人の子でいいの? このまま母になって枯れていくの?
 職場で麻紗美は男性の視線を感じていた。夫より素敵。結婚なんて先着順よ。だいたい不妊は私の責任? 夫の実家からも子がないことを言われていた。女とはそういうもの。薔薇色の結婚なんてどれほどあるのか。そうやって答えのない問いに苦しめられて生きるものだし、私自身がいま苦しくてもがいている。

 なのにこの子は・・十歳下の若さゆえの弱さに立ち向かおうとしていない。肉体を犠牲にして都合よく愛だけを得ようとしている。
 老いのカケラもない若い女体が羨ましい。若さという揺らぎのない熟女の女体が羨ましい。なんて可哀想な私なの。
 ああ私はどうかしている。自覚しながら奔流となって心を乱すサディズムに、麻紗美は掻き乱されてしまっていた。

 可愛いわ留美・・激情が恐ろしい熱を放ち、麻紗美を錯乱させようとしていた。

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