2017年02月10日

DINKS~フリーランサー(三八話)


三八話


 それから一月、サリナはちょくちょく友紀の自宅を覗くようになる。それでなくてもサリナは週に一度は渋谷で仕事。笹塚にある友紀のマンションを覗くのに不自然はなかった。
 日によって、夫の直道が先に戻り、サリナと自宅で会う約束をしておきながらイレギュラーがあって友紀が少し遅くなる。夫の直道とサリナは二人きり。そんなシチュエーションになるのだったが、それも自然な流れであったことだろう。

 サリナには男を誘うスタイルを命じてあった。そのうちにはサリナに夫を誘わせて間違いぐらいは冒してほしい。関係を疑った妻は興信所を雇って写真を撮らせ、浮気な夫を追い詰めていく・・そうでもして夫には憎まれて別れたかった。別れてあげないと夫は肩身の狭い思いをする。
 サリナの仕事にも変化があった。三十七歳となり、そろそろ現場を離れて管理にまわってほしい。そんなことでサリナは仕事を辞めようと考えていたのだった。日々レオタードを着ていてはサリナだって奴隷に徹することはできない。ハイレッグのレオタードでは鞭痕を隠せないし、仲間たちとシャワーではボディピアスも許されない。サリナは身を捧げた性奴隷。そうして生きたいと願っていた。
 いくつかの条件がぴたりと合って実行に移した作戦だった。

 そしてそれより先に、留美が心の変化を友紀に告げた。M女の幸せを知ってみたい。一心に従うサリナを見ていて心がマゾへと傾倒した。彼のいないいまのうちに知っておきたい。そんな気持ちもよくわかる。留美はこう考えた・・私にはDINKSなんてムリ。結婚したらきっと子供が欲しくなり人並みの暮らしになっていくと。
 友紀を取り巻く二人の女が友紀に女王になれと言っている・・私はやはり子供を持たずに生きていたい。サリナには女王として、三浦には奴隷として・・そんな私が心地いい。もう直道の妻ではいられないと考えた。
「留美が言うのよ、知ってみたいって」
 サリナはちょっと苦笑した。
「そんなものじゃないんですけどね・・気持ちはわかるし、あの子はMよ。それはそうでもMを知ればいつか苦しむ時期がくる。yuuちゃんのように運よくS様と巡り会えるとは限らない。ニセSなんてごまんといるし引っかかるのがオチなんだから」
 夫のことはしばらくおいて留美が先だと友紀は思う。若い激情は道をそれると危険・・教えてやらなければと考えた。

 その気があるなら下の毛を処理していらっしゃい。そこにはサリ
 ナもいるけれど、治子やケイにも見つめられる。
 あのときのサリナのような恥辱の一夜を私は用意してやったの
 でした。

 貸別荘。留美のほかは皆が女王。いいえ、サリナと治子が上位
 にいるもっとも下級の性奴隷。常識ではない性の怖さに尻込み
 させてやりたかった。突っぱねては可哀想。誰もがそうであるよ
 うに、女は思い込むと満たされない欲求に悶々として仕事も手
 につかなくなる・・それだって留美は、ユウのためにも女の心に
 深く切れ込み、いい本にしたいと願っている。
 だから性の世界へ自分を解き放ってみたい。かつての私がそう
 だったように、留美は自分の性をまっすぐ見つめてもがいてい
 る。

 サリナ、治子にケイ・・私を含めた四人の着衣の女にほくそ笑ま
 れ、震えて脱いだ留美を見て、陰毛を自分で処理した覚悟を
 くんだ。
 平伏して留美は言った。服従をお誓いします、四人の女王様。
 いいわよ、わかりました。Mの想いを知るがいいわと私は心を
 決めて留美を見下ろし、私はサリナに、ケイは治子に、それぞ
 れ房鞭を持たせてやる。
 両手で吊られた真っ白な裸身が美しい。飾り毛を失った白いデ
 ルタに、すでに濡れる性器が見えた。
 私とケイがほくそ笑んで見つめています。ケイも治子も三つも歳
 下。しかも治子は仕事仲間。恥ずかしく、怖くなる条件は揃って
 いたはず・・。

「いいわ、たっぷり泣かせてやりなさい」
 と、友紀が言う。
「厳しくね」
 と、ケイが笑う。
 ユウのことがあってからしばらくぶりに観るケイは、すっかり女王の顔をしていた。女は心の置き場で面色までが変わってしまう。そんな中で留美ははたしてどうなるか・・可哀想に、残酷な女四人で試す場になると皆も思うはずでした。

 鞭を持つサリナと治子。とりわけサリナは厳しい鞭を浴びせかけ、吊られた女体がくねりもがいて留美は声を上げて泣きだした。
「泣いてもダメ! まっすぐ責めに挑みなさい!」
「はい、女王様・・痛いです、あぁ痛い・・」
 治子も笑い、革の束を綺麗な乳房に浴びせていく。
「きゃう! あぁン痛いぃ・・」
 サリナの鞭が下から性器を打ち据えた。
「ぁきゃう!」
 見る間に裸身が染まっていき、留美の眸が溶けてきて悲鳴が甘くなっていく。M性が強いと友紀もサリナも感じていた。

 友紀は言った。
「・・マゾよね」
 ケイがくすっと笑う。
「ほんと・・感じてるし、いい奴隷になる子だわ」
 友紀とケイは二人揃って乗馬鞭を手にして立って、サリナと治子と入れ替わる。ケイは前から毛のないデルタの底へ無造作に指を突っ込んで、友紀は後ろから抱いてやって、両方の乳首をつまんで愛撫する。
「ハァァ、ぁン、ハァァァ!」
「ふふふ、いいみたいね?」
 と、ケイが微笑み、友紀は後ろからまわす手に力を込めて乳首を責めた。留美の裸身がしなってもがく。
「ほうら痛い・・可哀想ね留美・・だけどまだまだ許さないから」
「あぁン痛い・・感じちゃう女王様、ありがとうございます、嬉しいです」

 留美の裸身を間に挟んで二人の女王は目配せし、ケイは前で横振りの鞭先で乳首を狙い、友紀は後ろから尻を狙って強い鞭を打ち込んだ。
 きゃうきゃうと泣きじゃくる留美。後ろから友紀が言う。
「ユウを思って必死なんだもんね?」
「はい、女王様」
 前からケイがほくそ笑んで言う。
「サリナさんに憧れてるんだもんね?」
「はい、ケイ様」
 ケイが声を大きくした。
「だったらもっと泣きなさい!」

 ケイはふたたび性器を嬲り、友紀は数打の乗馬鞭で血腫れの浮き立つ尻を撫でる。
 ケイが言った。
「どう? マゾは幸せ?」
「はい・・ハァァ・・私はマゾです・・はぅ・・ぁ・・」
 気をやって崩れる裸身。心がイッて気を失うマゾのアクメか、留美は膝が折れて垂れ下がり、友紀とケイとで前から後ろから抱き留めた。
 手首の縄が解かれて板床にだらしなくのびた留美。
 友紀は言った。
「はじめてなのによく耐えたわ。サリナ、可愛がってあげなさい、ご褒美です」
 ケイが言った。
「治子も脱いで! 失禁するまで狂わせてやればいい!」

 友紀とケイはため息をついてソファに沈み、傷のない綺麗な裸身のM女二人に責め具を持たれて嬲られる、全身を鞭で赤くされた留美を観ていた。
 女とはなんと淫らな・・だけどそれが女の魔性・・牝の幸福。
 私はもう夫の妻ではいられないと、あらためて考えた友紀だった。

 濡らす濡れるをテーマとした最初の取材。相手は人妻で、一見してまるでイメージの湧かない貞淑な人だった。
 郊外の戸建てに住んで子供が二人。夫とは冷えていて不倫予備軍といったところ。テーマを決めて公募の告知をした直後にメールをくれた相手だった。友紀と留美で日中自宅を訪ね、夫も子供たちもいない静かな部屋で話していた。部屋は綺麗にされていて、友紀はトイレを借りて探ってみたが、すみずみまで綺麗にされた、妻の人柄を表すような家。

「濡れるというテーマで思いついたのは自慰なんです。妄想というのでしょうか、いろいろ考えて、そうすると濡れてきて・・恥ずかしいんですけど下着の中へ・・」
 頬を赤らめて話す初々しい妻。歳は友紀より二つ上の三十七だが、じきに重ねて八になる。学年ではサリナよりもひとつ上。やさしい体つきの眸の綺麗な人だった。
 友紀は、この取材を留美に任せてみようと考えた。想いの半分も言えないのが普通の女。聞き出すにはこちらから体当たりしなければならなかった。
 友紀は上司としておとなしいパンツスタイル。留美はミニスカートで、ソファに座ると対向の彼女からならパンティさえも見えそうだった。
 若い留美は身を乗り出して言う。

「妄想というとどんな? 私もじつはそういうことがたびたびあって・・女なら誰しもそうでしょうが私の場合はSMなんです」
「まあSM・・?」
「Mなんです私って。女の人にも興味があって、縛られて責められるみたいことを妄想して濡らしてしまって・・」
 横から友紀がフォローする。
「今回のテーマはこの川上が案を出して決まったんですよ。濡らしているときの女ほど美しいものもないって言って」
「あらそう・・私は自分のことをヘンなというのか、飢えてるみたいに思ってて」
 友紀が問うた。
「ご主人とは?」
「とっくです。上が十歳、下が八つ。子供たちはそんなですもん」

 相手は律子と言う女性。律子は普段着ではないスカート姿で取材に臨み、ソファに座ることで少しミニとなっていた。ぴたりと膝を合わせて座っている。落ち着いたムードはいかにも主婦といった感じ。そんな律子が瞳を輝かせて留美に向かった。
「それなら私も・・そういうことも考えたりして、怖いんですけど震えてきちゃって・・」
 留美が言った。
「お道具とかは? バイブとか?」
「いいえ、まさかそこまでは・・日中誰もいませんから、その・・カーテンを閉めてしまって・・」
「ヌード?」
「ええ、それもあります・・裸になるだけでドキドキしちゃって・・だけどますます濡れてしまってたまらなくなるんです。指をやると洪水で・・嫌ですね女って・・おかしくなってしまいそう・・」

 友紀はそばで留美の横顔を見つめていた。
「いいえ、飢えてるなんてそんな。だから女は素晴らしいんです。誰にも見せない姿を誰もが持ってる。私なんて・・ふふふ、自分でイチジクを使って苦しんでみたりして」
「はぁ・・浣腸ですよね?」
「そうですよ。洗濯バサミで乳首を虐めてみたり、もちろん裸ですごしてみたり・・」
「ディルドとかも?」
「持ってます。妄想が妄想を生んでたまらなくて買っちゃった」
「あらそう・・ネットで?」
「それはそうです、まさかショップへ行く勇気もないし・・だって書店でエッチな本を手に取ることもできなかったし・・」

「私は・・街中で素敵な人に声をかけられて、ふらふらついて行ってしまうとか・・そしたらその方がS様っていうのか、ちょっとそれっぽくて犯されるみたいに・・はぁぁ恥ずかしい・・お話してても濡れてくるみたいな気がして・・」
 留美はやさしくうなずいて微笑んだ。
「投稿はもちろん匿名ですから思いつくことをちょこちょこ書いていただいて、メールしてくださってもいいですし・・それでひとつお願いがあるんですが」
「お願い? ええ、それはどんな?」
「多くの女性が共感できる素直な本にしたいんです。ですからせつない想いを綴るつもりで、そのとき濡らして書いてほしいんです。ギャラのためだからって醒めて書かないでほしいんですよ。本づくりに参加して心が潤った・・みたいな感じで濡らしながら素直に書いてくださいね。そうすれば読んだ私もきっと濡れます、女ですもん共感したいし」
 律子は迷いをはらえたような笑顔になってうなずいた。

 外へ出て友紀は言う。
「いいわよ、いまみたいな感じでいきましょう。ただし、得てして同じような話になってしまうから相手を見て誘導してあげないと」
「そうですね、ふふふ、女っていいなと思います。素敵な奥さんなのに旦那って馬鹿だなぁって思ってしまった」
 うなずいて微笑みながら、留美の雰囲気がソフトになったと友紀は感じた。留美にとってのはじめての取材はいいムード。声を引き出すというよりも女同士が曝け出す場になっている。
「これからはときどき別行動ね、私は私で回るから留美は留美でうまくやってちょうだいよ。ユウだって期待してるし、それにほら、治ちゃんのこともほっとけないし」
「はい、やります私、何が何でもいい本にしたいから」
 友紀は留美の尻をぽんと叩いた。
「サリナも言ってたわよ、留美はいい子だって。可愛がってあげるから覚悟してついてらっしゃい」
「はい、女王様ぁ」
「あ、馬鹿ね、人前で言うことじゃないでしょ・・ふふふ、お仕置きするよ」
「はぁい・・ンふふ」
 熱を持ついい眸をする留美。藪蛇になってしまったと友紀はちょっと苦笑した。ユウもあのときモモと出会って生き方を見定めた。留美なりの生き方探しに必死なのだと考える。

 その日の夕刻、久しぶりにバロンを覗いた友紀。しかしそこにyuuはいなく、マスターが一人で店じまいの準備をしているところ。
「あれyuuちゃんは?」
「家にいる。そろそろ腹が」
「うん・・そうよね、早いものだわ」
「まったくだ。ユウちゃんもいまごろはそうなるはずだった」
 ちょっと前まで避けていた話題。いい思い出として話せるようになっている。
「留美ちゃんも治ちゃんも必死だわ。ユウが見てるって今日も残業なんだもん」
 マスターはうなずくと珈琲を支度する。
「ねえマスター」
「お?」
「別れようかって思ってるの、旦那と。DINKSなんて私の身勝手だったのかなって思うしさ・・」
「子供のことか?」
「それもあるけど、サリナが好き・・どんなことでもしてあげたい。私の半分なんだもん」
 細川は珈琲に湯を流しながら黙って声を聞いていた。

「それに上司とも関係ができちゃった。凄い人なのよ、オトコって感じでクラクラしちゃう・・適度にSっぽいし・・」
「はいよ珈琲」
「ありがと」
 友紀がカップを取り上げようとすると細川は小声で言った。
「それこそ身勝手だと思うがね」
「え・・」
 眸と眸が合った。
「先方への気づかいもあるんだろうが子供が欲しいだろうから身を退くなんて、俺が旦那なら怒ると思う。友紀らしくない。あなたの人生をちょうだいって感じでいたほうが、むしろ許せる。愛の量が違う妻を誇るだろう。友紀は何もわかっちゃいない。サリナ、ユウちゃん、治ちゃんやケイちゃんもそうだがウチのyuuもだ。周りの女たちをつつんでやっていることに早く気づけ。旦那だってそうだぞ、好きだから許してる。逃げたらそれこそ裏切りだ」
 友紀は言葉を失って細川を見つめていた。

DINKS~フリーランサー(三七話)


三七話


 サリナの部屋はLDKが広く、キッチンからオープンカウンター越しに四人掛けのダイニングテーブルが置かれていて、その周囲のフロアはフローリングとされていたのだが、そこからリビングに向かってわずかな段差があってソファのあるリビングが低く、そちらは段差で切り返してカーペット敷き。
 テーブル間近のフローリングにパスタとサラダを盛り付けた大きな皿を置いてやり、全裸の奴隷にテーブルに尻を向けさせ這わせておいて、手を使わずに食べさせる。
 ユウの死から逢えていなかったサリナの裸身からは鞭痕も消えている。性奴隷らしく美しい裸身の奥底までを晒して餌を与えることになる。

 友紀も留美も下着姿。友紀は今日、厚手のシャツで出社したから下着は黒。留美は薄いブラウスに透ける淡いピンクの上下だった。
 女王とゲストが性を感じる姿になると、調教の空気を察して奴隷は濡れる。股間に飾り毛のない奴隷の性器はすでにいやらしく濡れていた。
 まさに牝犬そのもののサリナの尻に横目をやって友紀は微笑み、同じようにしきりに眸をやっては瞳を輝かせる留美を見て友紀は言った。
「もう濡らしてる、いやらしいマゾでしょう」
「ふふふ、ほんとです。でも可愛い」
 留美はオフィスではクールなタイプなのだろうが、こうして観ると母性が強く、サリナが可愛くてならないようだ。やさしい気持ちが透けて見え友紀は胸があたたかい。

「ところでDINKS志望らしいけど、結婚してもそのつもり?」
 なにげに友紀が訊いたことで留美は考える面色をした。
「そうなりたいと思ってますよ。友紀さん観ててもいいなって思いますし、私だって仕事は続けていたいから」
 言いながら留美はちょっと深い息をして、尻を上げて性器を晒すサリナへとふらりと視線を流すのだった。
「この仕事で考えさせられることもあって自由でいられればいいなって思うんですけど・・でも・・」
「でも? 留美って子供が好きなんじゃない?」
「いえ、そういうことじゃなく・・問題は親なんですよ。相手の親だってきっとそうだと思いますし。私は一人娘、そろそろ二十八で、すでにもう早く結婚しろってうるさくって。旦那とはよくてもそういうこともありますからね。孫が抱きたくてうずうずしてるのがミエミエなんですもん、私の母が」

 それは友紀もそうだった。結婚からしばらくして自分の親にも言われていたし夫の親からも子供はまだか・・。友紀の方は娘だから、娘が望まないならしょうがないで済んでいても夫の親はそうはいかない。夫の直道には妹がいたが直道は長男。向こうの親にしてみれば誰が継ぐということなる。直道はきっぱりするタイプで、口を出すなとぴしゃりと言ってあって妻には直接言おうとしないし、直道だって実家の内情を持ち出したりはしないのだったが、陰で何を言われているかと考えると手に取るようなもの。先のある頃ならまだしも三十五にもなろうとすると時間の猶予もなくなってくる。

 留美は言った。
「それとやっぱりユウなんですよ。おなかをさすって嬉しそうにしていた顔が忘れられない。おなかに入るとそんなものかなって思ってましたし。友紀さんて、そのへんは?」
 友紀はちょっとうつむいて浅くうなずいた。
「旦那とも話すわよ、ほんとにそれでいいのって。だけど彼は信念あってのDINKSだって。それは私もそうだからいまのところは文句なし。でもね、向こうの親が何を言ってるかなんて見え透いてる。以前はときどき電話ももらってたんだけど、ここしばらく音沙汰なしよ」
「怒ってるとか?」
「なんて嫁だよって感じじゃない? 私の方もそうだけど古い親たちにすれば、子供がいらないなら結婚しなくていいでしょうってことだもん」
 そして友紀は、四つん這いで食べながら顔を向けたサリナを見た。
「シングルならいいのよ。結婚しないんだからしょうがない。私もね、ユウのことがあって自分の子宮と話したわ、それでいいのって」
「で?」 と、留美は探るような眸を向けた。

 友紀はサリナへ微笑みかけて言う。
「私はいいの。旦那がちょっと可哀想かなって思うぐらい。世間からすれば子供を望まない妻なんて悪妻でしかないでしょう。夫婦納得ずくのつもりでも旦那の周囲がどうかなのよ。妻が嫌がってるみたいな感じ? 子供も持たず好き勝手にやりたがる悪い女をもらっちゃって・・ぐらいにしか思っていない」
 と、留美がちょっと上目づかいに、すまなそうに言うのだった。
「そのへんもじつは・・」
「誰かに何か言われた?」
「私が言ってたって内緒ですよ。じつは及川ちゃんが・・」
「治ちゃんが?」
「ううん、そうじゃなくて。及川ちゃん、下でいろいろ言われてるって言うんです、雑誌の方で」
「何を?」
「いま言ったみたいなこと・・奔放とか悪妻だとか。及川ちゃん、腹が立ってしかたがないって言ってました。仕事をそっちのけに他人のことばかり陰でこそこそ・・」
「なるほどね。出所はだいたいわかるわ、あのへんでしょ?」
「そのへんです。及川ちゃんが言ってたのは、雑誌にしろ本にしろ、女たちに余計なことを吹き込んで扱いにくい女ばかりを増やしてるってことなんですよ。ほら、近頃って飲みに誘ってもいやがる子ばかりじゃないですか。古いんですよ発想が。定時を過ぎたらオフって感覚がないって言うのか」

 そんなことだろうと思っていた。むしろ体質の古い書籍のセクションの方が、かつてなかったことだけに新鮮に受け取られている。
 しかしだから治子は雑誌に留まって見返してやろうとしている。友紀はそう考えた。しかし・・。
「ユウちゃんのことにしたって・・」
 留美の面色が曇っていく。留美が何を言うかは想像できた。ニューハーフを夫に選ぶなんてどうかしている・・そんなところだろう。友紀はその先を聞きたくない。
「とにかく留美」
「あ、はい?」
「治ちゃんをアシストしてあげて私たち三人でどっちもやるって感覚にならないと」
「ですね、そう思います、ユウの分もやらないと気が済まないもん」
 友紀は笑って、飲み残しのオレンジジュースを口へ運んだ。

 ふと見るとサリナは食べ終え正座をしている。
「もう食べちゃった?」
「はい、女王様」
「美味しいわよ、サリナは料理が巧いから」
「はいっ! ンふふ」
 褒められて嬉しそうな全裸の奴隷を二人微笑んで見下ろして、女王は言った。
「お皿の片付けはいいから留美ちゃんとシャワーになさい。ちゃんと舐めて洗ってあげるのよ」
 それから留美にも言う。
「またがって舐めさせてやりなさいね、奴隷なんだから」
「ふふふ、わかりました・・可哀想ねサリナって・・」
 気分を変えて椅子を立った留美は、サリナを立たせて尻を撫でてやりながらバスルームへと消えていく。

 残された友紀は微笑みながらも複雑だった。
 妊娠を拒む性に奔放な妻・・夫の周囲でそんな陰口があるのなら彼に対して申し訳ない。治子のことより夫へのすまなさを感じる友紀。
 並べられた皿を重ねてキッチンに立ったとき、バスルームから留美の甘い声が流れてきた。
「あぁン、サリナ・・可愛いよ・・あぁーン」
 友紀は今度こそ微笑んで流しのカランをひねっていた。

「濡れる・・濡らすか・・」
「そうなんですよ、あの子やる気になってるし、じゃあ具体的にどうするかって話してるところです」
 月曜日。夕刻前の中央高速。
 友紀は三浦のクルマに同乗して大月からの帰路についていた。そこには印刷会社の工場があり、その責任者が代わったということで話に出かけた。時刻は四時過ぎでそのまま直帰ということになる。ユウの死から三浦とも二人きりになれてはいなかった。
 助手席で友紀は言った。
「どうしようもない想いを感じると女は濡れる。そのときって女はもっとも輝くもの。いまの私がそうですし・・」
「うむ・・ふふふ」
「・・私なら時間あります」
 相模湖インターでクルマは道をそれていた。相模湖あたりは都心から近いリゾートエリアでデートスポット。湖畔にはラブホテルが並んでいる。

 黙って動く三浦にどうしようもなく男らしさを感じる。友紀は体が火照っていた。ユウのことがあって出社した朝、デスクにピンクと赤の薔薇を活けた花瓶を置いてくれた心づかいが嬉しかった。繊細でやさしい三浦に友紀は濡れる。
「悪い妻です」
「ふふン、まったくだ」
 友紀は三浦のズボンの前を開けて脱がしながら、半ば勃起をはじめた男性にブリーフ越しに頬をすり寄せ腰を抱いた。三浦はスリムだったが筋肉ができている。
「いい体・・スポーツとか?」
「テニスを少し」
「いまでも?」
「ときどきね。仲間もいるし」
 黒いボクサーパンツが引き締まった腹筋を際立たせ、筋繊維の浮き立つ腿も男らしくて美しい。友紀は上着を脱いだだけで服を着たまま足下に膝をつき、ボクサーパンツを脱がせてやって、はじき出される男性にキスをした。
「ご主人様・・そう思わせてくださいね」
「うむ・・よく舐めてしゃぶれ」
「はい・・ハァァ、好き・・ご主人様・・」

 血管の浮き立つ茎裏を幾度も舐め上げ、舌なめずりして亀頭を見つめてほおばっていく。男の手が女の頭をわしづかみ、強い茎へと引き寄せて、友紀は吐き気をこらえながら応じていく。
「苦しいか、もっとだ」
 友紀はうなずき、強い茎の根元までを喉へと貫きピストンした。脈動するペニスが逞しい。友紀は激しく濡らしていた。
 髪をつかまれて引き剥がされて、三浦はベッドに沈んで腰掛けた。
「脱げ。いやらしく踊るように」
「はい、ご主人様・・あぁン、恥ずかしい・・濡らしてます私・・」

 私は淫婦・・このとき友紀はそう思い込もうとしていた。性にのたうつ淫らな牝・・マゾにだってなれそうな天性の淫ら・・男の突き上げを求めて濡れる性器を感じていたい。
 堕ちていきたい・・友紀は肢体をくねらせ脱いで、パンティの裏地の濡れまで三浦に見せつけ、床に這って尻を振った。

「ここよ、入って」
 その日の夜、友紀は自宅へサリナを誘った。仕事上で出会った女性と夫には言ってあり、原稿の打ち合わせということにした。ゲストはユウとも面識があり、落ち込む私を気づかってくれていると・・。
 サリナは腿がざっくり露わとなる黒革のミニを穿き、プロの化粧は洗練されて美しかった・・。