女の陰影

女の魔性、狂気、愛と性。時代劇から純愛まで大人のための小説書庫。

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八話 同性上位

  家にいて陽子を紀代美と共有する。オフィスでは浅里を屈服させ、間もなくそれは佳衣子をも巻き込んだ性関係に発展していく。
  空狐を知って自らを囲む防御柵が消えた女の欲望は抑制するべきブレーキを失った。そんな明江にとって夫との平板な生活に魅力はないと言ってもよかっただろう。子供は欲しい。しかしただそれだけで、できてしまえばそれから先はありきたりな女の末路が待っているだけ。穏やかでやさしいと感じた安心感も、無難の選択でしかなかったことを思い知る。
  妻たちはそれを、あたかも夫が悪いかのように物足りないと表現する。物足りない男を選んだのは女。相手にかぶせて知らんぷりというのが、いかにも女の女々しさで・・と、明江は考えられるようになっていた。夫はつまりサラリーマン。安定を運んでくれて安心できているのだが、独身だった頃の私は男選びを間違えたと思える程度の男でしかない。妻を屈服させるパワーと言うのか、女の口を黙らせる烈火と言うのか、女がときめく何かが欠落してしまっている。
  抱かれていても悦びは浅い。注入される精液に期待を寄せる性なんて悲しすぎる。崩落へ向かって傾きだした感情を明江はコントロールできなくなった。

  しかしだから空狐にすがるのか。そんなことをしてしまえば恐ろしいことになる。紀代美の旦那は廃人にされたと言う。その気になれば誰かの人生を壊してやれると考えることそのものが、明江に恐怖感をもたらした。
  そしてそこから逃れるように、あふれる感情を陽子や浅里に向けている。明江には自覚があった。自覚しながら制御できない自覚である。
  心なしか乳房が張ってきたような。白い双房に浮き立つ血管。もしや妊娠と思いはじめた矢先の五反田、高層マンション。神白佳衣子と浅里の巣に明江ははじめて乗り込んだ。佳衣子はまだ、まさか浅里がそうなっていようとは思っていない。運命は劇的に。女王として口止めしていたからだ。
 「さあどうぞ、入って入って。このところ浅里とあなたがいい感じになってくれて、ほっとしてたところなの」
  その日は金曜。明江は夫に対して会社の旅行だと嘘をついた。
  戻ったとき三人揃ってビジネススタイル。しかし今夜、明江は鮮やかな赤のTバックランジェリーを着込んでいた。
  間取りは4LDKなのだが、LDKが三十畳ほどもある広いもの。ちっぽけな会社にそこまでの売り上げがあったとも思えなかった。離婚している佳衣子、そして離婚目前の浅里、二人で持ち寄ったことは想像できた。
 「綺麗にしてる。さすが浅里とあなたの愛の巣ね」

  はるか歳上の浅里に対して浅里と呼んだことで、佳衣子は怪訝な視線を明江に浴びせた。態度が妙だ。けれども明江は意に介さない。
  明江は言った。
 「さあいいわ、立場をわきまえて行動なさい」
 「はい女王様」
  女王様? 横目をやって微妙に微笑む浅里の姿。佳衣子は、そんな二人のやりとりを呆然と見守って声もない。
 「あのね社長」
 「は、はい?」
 「オフィスはオフィス、ここはここ、それとこれとは別なのよ」
  言いながら堂々と歩み、ダークグリーンのレザーソファに深く座る明江。
  一方、浅里はそんな女王の前に立って脱ぎはじめ、普段の仕事帰りとは違う青い花柄のランジェリースタイルとなると、それさえ脱いで素っ裸。女王の前に膝を着いて脚を開き、両手を頭の奴隷のポーズ。明江は微笑み、そんな浅里の頭を撫でてやって、ソファに座った腿の上へと抱き寄せた。
  佳衣子は唖然。明江は言った。
 「浅里は私に誓ったの、生涯を捧げますって。そうよね浅里?」
 「はい女王様、ふふふ、やさしくしてくださってありがとうございます」
 「うん、いい子よ。さて佳衣子、そこであなたよ」
  若いパートごときに佳衣子と呼ばれ、そんなことより生涯のパートナーだと信じた浅里を奪われた。衝撃が大きすぎ、佳衣子は寒気を覚えている。

  突っ立つ佳衣子をソファに座って見上げながら、明江はちょっと眉を上げて微笑んだ。
 「佳衣子に対して好感を持ってるわ。私を守ろうとしてくれた。あなたと浅里の愛を邪魔するつもりはありません。でもね、私は女王、浅里は奴隷。その奴隷と愛し合っていくのなら、あなただってそうならないと不幸だわ。浅里を奪われることになりかねない。いいこと佳衣子」
 「は、はい?」
 「マゾならマゾらしくなさい。幸せな姿のはずよ。わかったら全裸です」
  毅然として言いながら、膝に甘える裸の浅里の背を撫でて、浅里もそれに甘えきって笑っている。
  いつの間に? どうしてそんなことに? 私には何も言わず?
 「驚いたみたいね? 口止めしたのは私です。劇的運命に翻弄されて幸福を勝ち得ていく。あなたのために浅里だって同意してくれたのよ」
  そのとき浅里が、女王の膝に抱かれていながら背後に突っ立つ佳衣子を振り向く。
 「運命なのよ佳衣子。女王様は素敵なお方。二人でお仕えしていきましょう」
  明江は笑って浅里の頭をちょっと撫で、それから眸色を厳しくした。
 「脱ぎなさい佳衣子、可愛がってあげますから」
  眸は厳しく言葉はやさしい。この子は怖い。本質的にMな佳衣子は身震いする性感が奥底から衝き上げてくるのに戸惑っていた。
  女王の膝に甘える浅里の姿は、平素の私が浅里に甘えるときの姿そのもの。
  その浅里を屈服させるほどの明江なら、さぞかしいいに決まっている。こうして見ても浅里の裸身に傷はなく、それは精神的な充足を意味するもので私自身が追い求めたビアンの姿。一瞬の間に佳衣子の思考はぐるぐる回り、残ったものは浅里への羨望。

 「はい女王様」

  消えそうな声が漏れたとき、佳衣子は崩れていく自我を感じていた。仕事帰りの社長はつまらない。ビジネススーツ。スカート、シャツブラウス、ベージュのブラに灰色の水玉パンティ。パンティのマチは深く、いわゆる無難な下着であった。
  ブラを跳ねるとDサイズある浅里より少し小ぶりな白い乳房が転がり出し、パンティを失うと、浅里よりも少し肉付きのいい熟女の裸身が完成する。飾り毛のないデルタに、くっきりスリットが浮き立っていて、股ぐらに閉じたリップが覗いている。
  浅里と佳衣子は同い年だったはず。佳衣子の方が幾分ふっくらした熟女の体を持っていた。
 「隠さない、両手は頭よ」
 「はい」
 「回ってお尻を見せなさい」
 「はい」
  その場でゆっくり回る女体。尻も張ってエロチック。明江は膝に甘える浅里に言った。
 「どうせエッチなオモチャもあるんでしょうから持っておいで。新しく揃えたものも一緒にね」
 「はい女王様」
  佳衣子を引きずり込めたことが嬉しいのか、浅里はにっこり綺麗に笑って立ち上がる。浅里という重しの消えた体でソファを立って、肩幅に腿を開いて両手を頭の後ろに組んで立つ、佳衣子のそばへと歩み寄る。
 「いい体してるわね、責め甲斐がありそうよ」
 「はい、あぁぁ恥ずかしい」
  明江はにやりと笑って、陰毛のないスリットへ無造作に手をやった。

 「はぅ! あっあっ!」
  佳衣子の眸が丸い。見つめる視線をそらせない。
 「やっぱりね、もう濡れてる。命じられてパイパンなんてマゾだからこそだわ」
 「はい女王様、浅里を失ったら生きていけない」
 「愛してる?」
 「はい、心から」
 「安心なさい、浅里も同じことを言ったわよ。だから揃って私の奴隷」
 「はい、ありがとうございます、とっても感じます」
  まさぐっているうちに愛液が滲み出してヌラヌラに濡れそぼる。そしてそのとき、全裸の浅里が小ぶりの黄色いスポーツバッグと、それとは別の大きな手提げ袋を持ち込んだ。
 「首輪は?」
 「ございます」
  大型犬用のステン鋲がちりばめられた青い首輪とピンクの首輪。手に取って見くらべて、浅里には青が似合うと考えた。
  ピンクの首輪を佳衣子の首にまわしてバックルで固定。青い首輪は浅里が自分で身につけた。
 「乗馬鞭を」
 「はい、それもございます」
  いかにも女心。浅里に選ばせた鞭は真紅の革でできたもの。明江は鞭を手にすると、まず最初に佳衣子の尻を軽く叩き、次に浅里の尻を軽く叩き、二人揃って正座をさせた。

  黄色いスポーツバッグはこの部屋にもともとあったもの。
 「開けてごらん」
  浅里は微笑んでうなずいてバッグのファスナーを解放した。一つずつ取り出しては説明し、カーペットのフロアに並べていく。
 「双頭のディルドです。次にバイブ、ローター付きパンティ、電マ、ペニスベルト、それから黒い綿ロープが少しと、これが浣腸器、最後にふわふわの房鞭と」
 「ふーん、そういうこと」
  と言って明江は佳衣子の顔を見つめてやった。
 「呆れちゃうわ、社長とナンバーツーが夜な夜なそうして慰め合っていたとはね。SMごっこそのままじゃない」
  先に関係のできていた浅里はともかく、いきなり醜態を晒した佳衣子は青くなって声さえない。明江は次に新しく揃えたものを並べさせる。浅里が手提げ袋から取り出して説明しながら置いていく。
 「麻縄、それから二穴責めの革パンティが二人分、前はバイブになっています。次に一本鞭と、先ほどお渡しした乗馬鞭。革の穴開きブラが二人分、乳首責めのクリップ四つ、最後にピアスが二人分で乳首とクリトリスの三つずつ。今回はそれだけです」
  隣りにいる佳衣子が生唾を飲む気配は見透かせた。M性が騒ぎ出す。そんなところだろうと明江は思った。
 「とりあえずはいいんじゃない。さっそく佳衣子に着けておやり。穴開きブラと二穴責めよ」
 「はい女王様、ふふふ、辛いわよ佳衣子」
  佳衣子を横目ににやりと笑う浅里。

  日頃のスタンスがそれでわかる。浅里は上に立っていて、佳衣子の性を牛耳っていたようだ。
  佳衣子にはピンクの首輪。それに合わせて革のブラもパンティもピンクの革。もうワンセットは青い革でできている。
  形のいい佳衣子の乳房が革のブラで搾り出され、円錐に尖った先にしこり勃つ乳首が飛び出すように張っている。濡れる股間を覗き込んで膣とアナルにディルドを打ち込み、Tスタイルのベルトを穿かせて腹のバックルで固定する。佳衣子はすでに息が荒く、発熱する女体を桜色に染めていた。
 「はい、よろしい。浅里は自分でできますね」
 「はい、できます」
  同じようにブラを着け、同じようにディルドを喰わせて青い責め具を穿いていく。浅里はあからさまなよがり貌。ブラに絞られる乳房は佳衣子よりも大きく張って、乳首が痛々しいまでに突出する。その乳房を揺らし、尻肉も内腿の柔肌もぶるぶる震わせて着衣完了。それから浅里はピンクと青の二つのスイッチボックスを女王に手渡し、二人並んで奴隷のポーズ。
  手の中に二つのスイッチを包みこみ、明江は眉を上げて、それぞれ弱くスイッチオン。ブッブッブッとくぐもった振動音が奴隷二人の腹の中から聞こえてくる。
 「ンふぅ、あ、あ、女王様、あっ!」
  声を上げたのは浅里が先。佳衣子は恥辱を噛んで噛みきれず、少し遅れて声を発し、しかし佳衣子の方が女体をしならせよがっている。浅里に開発された佳衣子の方が感じやすくなっているのか。

  可愛いものだと思うと同時に、女とはどうしてこうもあさましいのかと嫌になる。二人揃って腰をクイクイ入れてよがり、どちらもが眸色が溶けてとろんとしてくる。
 「奴隷らしくていいけど、そのままなら果てておしまい、つまらないわね」
  明江は立って、乳首を責めるステンレスのクリップを取り上げた。重量級の洗濯バサミといったところ。小さな鈴がついている。
  鰐口を開いてやって鼻先に見せつけて、醜いほどに突出する佳衣子の乳首を指先で揉んでやって引き延ばし、鰐口をかぶせていく。
 「あぅ、痛い、痛い! 女王様、痛いです!」
 「我慢なさい。パートナーが選んでくれたものでしょう」
 「はい。でも、ですけど、ああぁ痛いぃ」
  眉根を寄せた切なげないい貌をする。眸が潤み、吐息が熱を送風する。
  次に浅里。浅里は待ちわびたように乳首を突き出し、眸を閉じた。佳衣子への対抗心もあったのだろうが、奴隷として上位にいたいという想いもよくわかる。
 「よろしい、いい子よ」
 「はい女王様。ぁ、ぁ」
 「まだ何もしてません。ふふふ」
  鰐口を開いて二つの吸い口をつぶしてやる。くぅ、くぅ、と子犬が訴えるときのような声を出す。しかし痛いとは言わなかった。女の意地。佳衣子には負けたくないというプライドもあったのだろう。
 「さあ、いいわ、しばらくそうしてなさい。二人とも後でそことクリトリスにピアスですからね。奴隷となった身の上を思い知って感じるように」
  二つのスイッチボックスを、それぞれ一段強くする。ブゥゥンという振動音が腹に響いて漏れてきて、二人揃って奴隷のポーズをとったまま、尻を揺すり腰を入れてよがりだす。けれども乳首が揺れると痛みが走り、わかっていても乳首を揺らさず尻は振れない。

 「あぁン、ンっンっ」
  泣きそうな貌で佳衣子が痛みと快楽を訴える。
 「くぅ、くぅぅ、女王様、ありがとうございます、感じます」
  耐えながら悦びを訴える浅里。

  どちらも面白い存在だと思いながら明江は次を命じていた。
 「二人とも立って踊りなさい。いやらしくお尻を振って、おっぱいを弾ませて踊るのよ」
 「はい、あぁ乳首がちぎれそう。許してください、どうか」
  訴えた佳衣子に乗馬鞭を見せつけて明江は言った。
 「泣き叫ぶまで鞭がいい?」
  佳衣子はイヤイヤをして首を振って立ち上がる。両手を頭に置いたまま二人は立って、スイッチをさらに一段。ビィィーンという激震音に変化した。

 「わぅン、いい、ああダメ、イッちゃう、あぁーっ!」

  歳の離れた浅里と佳衣子、熟女が二人、痛みと快楽に歯を食いしばってもがくように踊り続ける。それぞれ肌に脂汗。総身痙攣。あぅあぅとろくに言葉にならなくって、佳衣子が先に膝を着いた。
 「どうかどうか女王様、もうダメです、お願いします。乳首が痛い、痛いぃーっ」
  泣いた佳衣子に対して、浅里は懸命に耐えようとして虚空にすがるように踊り続ける。
  M性では佳衣子、しかし耐性では浅里。佳衣子は心が折れるタイプ。さらにまたビアンとして二人は鏡像のようなもの。面白くなってきたと明江は内心ほくそ笑んで見くらべていた。

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七話 白いM性

  定刻を過ぎて人の気配が失せたオフィスは、小さいながらも整然としていた。それはまるで、その日の清掃を終えた放課後の教室を思わせる。男性の眸のない女ばかりのオフィスは多少乱れていてもいいはずなのだが、横倉浅里が許さなかった。単なる綺麗好きではなさそうだ。几帳面ゆえそうなるのか、オフィスの中での自己主張だったのか、整然と並ぶデスク、その上のパソコン周り、来客のための応接セットも一応は用意され、そのほか小さな流し台からトイレまでどこを見ても綺麗にさせて乱れを許さない。
  そうしたK2の日常にあって、浅里の乳白の女体は突如として現れた淫らの像のように美しく、しかし整然としたオフィスとの激しいギャップを感じさせるものだった。浅里の肌はとりわけ白く、逆三角形にトリミングされて白い下腹に際立つ黒い毛は、レズの相手、社長である佳衣子との関係を連想させて、美しいからいやらしいといった不思議なムードを醸している。
  二十八歳の明江より六つ歳上の浅里だったが、とてもそうは思えない性的な若さに満ちた肉体だ。

 「ここはちっぽけなオフィスビルよ。この階に私たち二人だけ。多少の悲鳴なら気づかれないはず。この意味わかるわね?」
  プラスチックタイルのフロアに素っ裸で立ち竦み、デルタの性毛だけを手で覆う浅里の女体は、恐怖なのか鳥肌が立っていて、Dサイズの白い乳房の二つの吸い口が乳輪をすぼめてしこっていた。
 「はい女王様。でも、どうして私、そんなことって・・」
  浅里は混乱している。口で何を言おうが、そのときどう感じていようが、言われたことに従ってしまう自分が不思議でならない。
  明江はスチールデスクの椅子を引いて座り、足下を指差した。
 「ここに来て正座なさい」
 「はい女王様」
 「両手は後ろよ、体を隠さないこと」
  抜けるように白い肢体には、すでに編み目に毛細血管が浮き立っていて、全身の肌が桜色に染まってきている。浅里が座ると明江は椅子のキャスターを転がして間を詰めて、両手をやって白い乳房の二つの吸い口をつまみ上げる。
  乳首に触れる一瞬、浅里はわずかに切なげに眸を閉じて、すぐまた開けて、それまでちょろい部下だと思っていた明江の不可解な変貌を見つめていた。
 「浅里はレズよね? 社長とはどっちがどっち?」
 「私がタチです」
 「でしょうね。社長はネコでべたべたの関係。社長のこと愛してるんだ?」
 「はい心から。佳衣子は脆くて可愛い人です」
 「Mっぽいしね?」
 「それもあります。私には逆らえない。だから可愛い」

  溺愛している。だから社長がちょっとでも他の女に眸を向けるのが許せない。ピュアなレズラブは理解できていたのだが。
  明江は乳首をちょっと強くコネて言う。
 「嫉妬するのは勝手だけど下衆の勘ぐりもいいところ。社長は私に対してそうじゃないし、私だってそうじゃなかった。いままではね。小姑じゃあるまいし、いまどきスカートの長さまでいちいち言われたらたまらない。たかがパートを虐めてどうするの」
  浅里はうつむきがちにうなずいて、こくりと謝る素振りをする。
 「ごめんなさい、つい言い過ぎてしまいました」
  明江は、つまむ乳首をさらに強く揉み上げながら微笑んだ。
 「ぅぅン」
 「痛い?」
 「はい少し」
  明江はちょっとため息をつく。思ったほど悪い女でもなさそうだ。
 「許せないわけじゃない、そんなことはどうでもいいのよ。私の中のS女が騒ぐ。いまはそれだけのことですから。この私に可愛がられるのか、それとも虐待されたいのか。おまえは奴隷、これからずっと。そういう意味では許しませんから覚悟なさい」
  浅里は困惑する丸い眸で明江を見つめ、それでも逆らえずに誓う。
 「はい女王様、どうか末永く可愛がっていただけますようお願いいたします」
  乳首をいじられ続け、浅里の息が落ち着かなくなってくる。鼻筋の通った小さな小鼻がひくひくと蠢いて、眉間に浅いシワが寄せられて、ンふンふと甘みがかった吐息が漏れる。
 「膝で立って脚を開く。手は頭」
 「はい女王様」
 「私の前では常にそうして控えること」
 「はい女王様」
  勝った。奴隷のポーズをとらせたとき明江は君臨できたと実感していた。

 「淫ら毛はトリミングしてる?」
 「はい、いつも綺麗に」
 「自分でするの?」
 「いいえ、佳衣子にさせます」
 「させる? 命じてさせる?」
 「そうです、私はタチであの子はネコ。でもSMではありません」
 「精神的に君臨してる?」
 「そういう言い方をするならそうかも知れませんが、私だってしてあげますから」
 「社長もデルタはすっきり?」
 「あの子はパイパン。私の好みに合わせてくれます」
  明江は思わず笑ってしまった。平素の社長の物腰からも相手が浅里ならそうなるだろうと想像できたからだった。
 「Mよね社長って?」
 「そういうところはありますね。ですけど私がSじゃない」
  トリミングされてしなやかに薄い陰毛を指先でまさぐって、奴隷の眸を見据えながら指先をスリットに這わせていく。浅里の性器はすでに濡れ、リップを少し分けてやるだけで指先がヌルリと膣口に潜り込む。
 「ぁうン あぁぁ感じます女王様」
 「気持ちいい?」
 「はい、ありがとうございます、誠心誠意お仕えいたします女王様。これまでの失礼、心からお詫びいたします」
 「よろしい、いい言葉だわ。出ましょう。どっかホテル。私だってこんなところじゃ落ち着けない。ラブホにしましょ。下着を着けずに服を着なさい」

  オフィスの一角に、送られて来た商品の一部がボール箱におさめられて積んであり、その中に革工芸の商品がある。それはまさに今日届いたもので検品を明江がした。ジーンズベルト。女性用のベルトで革が厚くて細いもの。
  浅里のロッカーを覗いて、花柄のミニワンピースを選んでやり、浅里は全裸に一枚服をまとってオフィスを出た。生地は薄くはなかったし今夜は風がほとんどなかった。渋谷の裏町にあるホテル街まで歩かせて、部屋に連れ込み、ふたたび全裸で平伏させる。仁王立ちの足下に丸まる女体は乳白色。ラインが綺麗で肌に傷は見当たらない。
  真っ赤な革の細いベルトを、手にバックルを握り込んで長さを合わせ、平伏す女体の白い尻に軽く当てる。
  パシッ!
 「ぁぁン、ぁン」
 「ふふふ、いい声だわ。痛みも快楽よ」
 「はい女王様」
  振り上げてリストを使ってフルスイング。パシーッと尻肉に弾けるベルト。
 「ぁぁン! ぁン痛いぃ、女王様」
  甘えの声。こいつもM性が強いと感じる。明江は笑い、ベルトを大きなベッドに投げ出すと、一日仕事だった今日、ありきたりのベージュの下着の姿となって、ふわりと沈むベッドに座る。
 「足からキスよ。指先から腿まですべて丁寧に」
 「はい女王様」
  ふふふ、やったわ。奴隷となって足の指を口に含んで舐め回す浅里を見ていて、明江はこれから先の奴隷像を想像した。
  コンパクトデジカメのレンズを向け、奴隷の素顔にフラッシュを浴びせてやりながら明江は言った
「旦那とはどうなの? 訊くまでもないか」
  浅里は女王の片足を拝み取って足指を舐めながら、もうダメと言うように左右にちょっと首を振った。
 「別れるつもりでいるんです。別れて佳衣子と二人で暮らそうかって。ほとんど家にも帰ってないし」
 「そうなの? 帰ってない?」
 「ほんとにときどき。すでにあの子と同棲状態。主人は外で適当にやってます」
 「なるほどね」

  同じ女として何かを言うなら浅里の気持ちはよくわかる。
  それにしても、明江はこのとき、同じマンションに住む陽子に対してとてもSにはなれないと思っていたのに、相手が浅里や佳衣子なら君臨できると確信し、そんな自分に得体の知れない不気味さのようなものを感じていた。すでにもう空狐の力はなくてもいい。浅里を堕とせば佳衣子だって牛耳れる。私はサディストに変貌していく。そうなるシナリオは描けていた。
 「じゃあ体に少しくらい傷ができても大丈夫よね。乳首にピアスなんて可愛いじゃない」
  浅里は一瞬声を噛む素振りをしたが、すぐにうなずき、むしろちょっと微笑みを浮かべていた。
 「笑える話なの? そんなことになってもいい?」
 「はい、それならそれで宙ぶらりんよりずっといい」
  明江はしばし無言で見つめた。
 「いろいろあったようね?」
 「それは、はい、言えないことはたくさんあります」
  陽子も同じようなことを言ったし、それと共通する何かを浅里に対しても感じる。なのに陽子のときは同情的になってしまい、相手が浅里だと、だったら都合がいいと考えられる。
  明江は無表情で言った。
 「おまえを愛したりはしない。だけど心は受け取るし情だって湧いてくる。私は女王、おまえは性奴隷」
 「はい女王様、お誓い申し上げます」
  腿の根までキスが這い上がり、ムズムズとした性波が明江の奥から痺れを導き出して濡れてくる。
 「もういいわ、下に寝なさい」
  フロアにのびた女体をまたぎ、ベージュのパンティを膝まで降ろしながら、いまはまだ乾いて閉じた肉リップを浅里の鼻先に突きつける。浅里は下から見上げている。
 「シャワーなんてしてませんから。トイレの後ならおまえは紙よ、ちゃんとできる?」
 「はい女王様」

  ねえマジなの? 空狐の妖力とわかっていても、ほんとにそれだけなんだろうかと思ってしまう。浅里はもしや激しい性を望んでいたのでは?
  レンズで自分のデルタ越しの奴隷の顔を切り撮って、明江はそっと腰を降ろした。

 「あぅン、いいわよ感じる、素直になったね」
 「はい女王様、嬉しいです」
  明江と浅里の痴態とそっくり同じ状況が、遠く離れた303号、紀代美の部屋でも再現された。奴隷となって三か月。陽子は独りの夜には決まって紀代美の部屋へやってきて、いまでは調教を生き甲斐の一部分に織り込んでいるようだった。
  全裸の陽子をフロアに寝かせ、顔にまたがり、アナルから丹念に舐めさせて、乳首をツネリ上げてやる。投げ出した下肢が痛みにしなり、けれども陽子は責めから逃げなくなっている。
  呼び出しが深夜なら、一階上の401号から裸のままでやってきて、戸口ですでに濡らしている。残酷なオモチャも揃え、際限ないアクメに錯乱して果てていく。しかし陽子の肌に傷はない。紀代美もそうだし明江だってS女になりきれてはいなかった。言うならばハードレズ。精神的に君臨しながら、従者となった陽子を飼っていく。まさにペット。性的な飢えにもがいていた陽子にとって、それは蜜の味がしたはずだ。
 「惨めよね? お尻の穴を舐めるなんて?」
 「いいえ女王様、捨てないでください。嬉しくてならないんです」
 「マゾにおなりって言っても?」
 「はい。独りはもうイヤ、可愛がられていたいんです」
  可愛いことを言う。尻を抱いてアナルに吸い付く唇を引き剥がし、腰をずらして濡れるリップを与えながら、紀代美は前にそっと倒れ込み、大きく開かれた陽子の性器へ顔をうずめる。ヌラめいて濡れている。女がこれほど濡らすのは相手に慕情を感じるとき。

  奴隷が下の69。陽子は腰を上げてデルタを突き上げ、紀代美の舌先を体に招こうと試みる。
 「あぁン素敵、素敵です女王様、おかしくなっちゃう、あ、あ、ぁぁン」
  小鳥のように震える熟女。こちらも紀代美が三十歳、陽子が三十八歳の逆転主従。苦しんだ時期が長かった分、陽子は格下についてプライドを捨てられる。
 「少し痛いわよ、耐えてごらん」
 「はい!」
  包皮を飛び出すクリトリスを吸い出して引き伸ばし、クリ根の皮膚に犬歯を当ててカリッと噛んだ。
 「わぅ!」
  脚線肉が筋繊維を浮き立たせて締められて、尻の肉もきゅーっと締まり、直後に弛められてブルブル震える。クリトリスの根からうっすら血の味。
 「いい子ね、よく耐えたわ」
 「はい、嬉しいです女王様、どうか私を捨てないでください」
 「そのためにはもっと頑張らないと」
 「はい!」
  孤独の底でもがいていた女の気持ちは紀代美にすればわかりすぎるほど。表向きの夫婦像にすがりついて生きている。私もそうだったと紀代美は思い、復讐の手段を持たない陽子のことが、だからよけいに健気に思えた。
 「ご褒美です」
 「あぁ、はい、嬉しい。あぁン狂っちゃう」
  極太のインサートバイブ。ラバーベロが激しく震えてクリトリスを責めるもの。よく濡れた熟女の膣は太い茎を苦もなくほおばり、クリトリスの位置を確かめて一気に突き込む。スイッチオン。
  陽子はのたうちもがき、上に載る女王の体をリフトアップするように反り返り、快楽の叫びを女王の膣に吸い付くことで紀代美の体内めがけて叫んでいた。

  ベシッ!
  愛液でヌメる性器がベルトの先に襲われる。そのつど浅里は開ききった腿を反射的に閉ざすのだったが、すぐにまた大きく開ききる。逆さになって顔にまたがり股間をくまなく舐めさせながら、長さを合わせた赤い革ベルトでクリトリスを打ち据える。浅里は腰を上げて恥丘を差し出す。浅里の中に眠っていたマゾ牝が目覚めたようだ。
 「ごめんなさいは?」
 「わぁい、ごめんなわぁあぃ」
  膣舐めさせられ声にならない。
  ベシッ!
 「ぐわぁぁ!」
 「ごめんなさいは?」
 「わぁい、ごめんわさぁい!」
  これまでの反省と仕置き。クリトリスが腫れ上がってもかまわない。尻の下で泣きじゃくる浅里。それでいて懸命に舐めようと舌をのばし、泣き声を膣奥めがけて叫んでいる。今夜も明江の家は主人が不在。
  腰をちょっと浮かせて言う。
 「身に染みたよね?」
 「はい心から。許してください女王様」
 「それはダメ、おまえは奴隷よ、許しませんから。SMの道具なんて言わずもがなでしょ。次までに揃えておくように。ピアスもね」
 「はい、誓います、きっと」
  可愛いと感じるほどサディズムが沸騰する。明江は狙いすましてクリトリスへベルト鞭のフルスイング。まともにヒットしたらしく、浅里は尻肉をフロアにばふばふ打ちつけて、のたうちもがく。

  明江は頬を歪めてにやりと笑った。浅里だけじゃ可哀想。佳衣子も餌食よ。二人の女を突き落としてやるからね。エスカレートする想いが止められない。空狐の力なのか私自身の残酷なのか、ふわふわと浮くような不思議な感情が業火となって燃えさかる。

  いまごろきっと・・。
  紀代美は今夜の明江を想像していた。陽子はとっくにくたばって、股間にバイブを突き刺したまま、白目を剥いて動かない。
  紀代美はささやく。
 「いまはいいのよ。あなたの運命を決めていくのは私です。ふふふ」
  超常の力を得たときの私に似ていると紀代美は思う。鬱積したものが多ければ多いほど恐ろしい反動がやってくる。あの子はすでに旦那が邪魔だと考えているだろう。女が夫婦関係にすがりつくのは無力の証。男なんて星の数、女も腐るほどいるでしょう。いい気になりすぎて、いつか気づき、どうしようもない呵責が襲う。 そのときこそ私の出番。後戻りできない世界の中へ引きずり込んでやるからね。紀代美は気絶したまま乳房を揺らして息だけをする陽子を見つめ、その裸身に明江の裸身を重ねて微笑んでいたのだった。

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 六話 恥辱の密室

  女にとって凍るほどの恥辱に満たされたエレベーターが三階を通過した。時刻はまだ夕刻前。休日のマンションには、見た目こそ無人でも人の活動する気配がある。明江は紀代美と眸を合わせてちょっと笑い、通過したエレベーターを追いかけて階段を駆け上がった。階段の開口から覗くとそこがエレベーターホールとなっていて、そのすぐ横が勝呂陽子が住む401号。間取りは4LDK。子供のいない夫婦には無意味な間取りのはずだった。
  エレベーターのグリーンランプが4で停まる。ドアが開いても陽子はすぐには現れず、顔だけ出して廊下をうかがい、素肌の肩が見え、続いて白い乳房を抱くようにして腰を曲げ、せめて恥毛を隠そうとするように内股に腿をこすって箱から出てくる。まっ白な全裸。三十八歳にしては若い肉体。一見して顔色が青かった。
  エレベーターを出ると階段前を通過しないと部屋のドアには戻れない。

 「あらら、とんだ変態だったわけね、素っ裸で何してるの? ふふふ」
  明江が声をかけて嘲笑すると、陽子はさらに身を竦め、すでに泣きそうな貌をしている。あまりの羞恥に頬さえぶるぶる震えていた。
  デジカメのフラッシュが変態女をストロボ照明。陽子はイヤイヤと首を振ってしゃがみ込んでしまう。
 「お顔も撮れたわよ。アソコの毛もくっきりと。おい変態!」
  声量を抑えたつもりでもコンクリートの廊下にはよく響く。
 「私わからないの」
 「何がよ?」
 「どうして裸なのかわからないの。お願いです写真だけは許して。ああ私、生きていけない」
 「そんなことないわよ、変態奴隷としての人生が待ってるわ。さあそこに座って脚をひろげて見せなさい。どうせ使われていないんでしょうけどね」
 「嫌です、え・・え・・どうしてなの、ああ嫌ぁぁ」
  意思に反して裸身が動く。フロアのグレーカーペットに尻を降ろし、両手を後ろについて膝を立て、大きく脚をM字に開く。濃い恥毛の底に裂け渡る淫らの根源が肉厚のリップを閉ざし、貌も乳房も性器もレンズに向かって晒し、陽子は目を閉じることさえできなくなっているようだ。フラッシュの閃光が性器の奥底までを刺し貫いた。

  このまま階段から紀代美の部屋まで歩かせてやろうとも考えたのだが、こんなところを見られては私だって変態だと思われる。
 「いいわ、お入り。旦那さんいないんでしょ?」
 「いませんけど、ああ私どうしちゃったのかしら。ヘンなの、ねえ私ヘンなの」
  陽子はゴミ捨てに出るとき施錠していた。部屋のキーだけを持った素っ裸。長いとは言えない黒髪を後ろに無造作にまとめている。
 「入ったら這いなさい。お尻の穴まで私たちに見せて這うのよ、わかったわね」
 「そんな嫌です、どうか許して」
  と口では言いながら、ドアを開けて入ったところで陽子は這って、これでもかと尻を上げてアナルを晒す。閉じた肉リップが縦のスリットを綺麗に描き、そこは心なしか湿り気を帯びているようだった。カメラは意思に反して奴隷にされる白い女を無慈悲に記録し、陽子は陽子で恥ずかしがって尻は振っても、結局アナルを突き上げて這わされることになる。

  空狐の力を見せつけられた。内心悲鳴を上げたくなるほどの恐怖を感じる。魅入られたらおしまい。紀代美が敵になったら私だっておしまいだと思い知る、そんな陽子の姿であった。
  各階一戸だけの4LDK。戸口から奥まで部屋は綺麗にされている。リビングと一体のLDKにも乱れはなく、それが陽子の本質を物語るよう。
  戸口からリビングまで素っ裸で這わせておきながら、明江も紀代美もはじめて入る住戸の様子を見抜いていた。陽子はきっちりした性格らしい。

  LDKは3LDKの住戸よりかなり広く造られていて、東南に向く明るいガラスエリアを背景に黒革の応接セット。フロアはダークブルーのカーペット。黒革のソファにウッドトーンのセンターテーブルがよく似合う。
  明江は言った。
 「テーブルに上がって脚を開くの。クリトリスを剥き上げてオナニーなさい」
 「お願いします、許して、どうかお許しください」
  見る間に涙が溜まり、それでいて陽子は、空狐に操られて自由がきかず、言われたようなポーズを見せつけて、片手で性器を開きながら、もう片手の指先で飛び出すクリトリスをこすり上げる。
 「ぅ、うっ、ぅぅーっ」
 「気持ちいいんでしょ? ほうらもう濡らしてる、ド変態め。いいならいいって言いなさい」
  そうしながらもレンズは無慈悲に陽子の痴態を切り撮った。涙を流して泣いてしまった陽子だったが、青かった顔色に桜色が差してきて全身ほんのり赤くなる。
 「どうなの! 気持ちいいの!」
 「はい感じます。ああ私ヘンなんです」
 「こんな姿をばらまかれたらどうなるか、わかってるわね、生き恥よ」
 「はい、はぁぁ、うっぅっ、ああ感じる」
  泣き濡れた眸が据わり、鼻孔をひくつかせて熱い息を吐いている。こんなふうにされたなら、逃げようがないと悟れば女は誰だっておかしくなる。

  紀代美は、切なげな吐息を漏らしはじめた陽子を見つめて静かに言った。
 「あなたがいまままで何をしてきたか。私たちを辱めるようなことを散々し、それで私たちがどれほど嫌な思いをしてきたか」
 「はい、ごめんなさい、心から謝りますし二度ともうひどいことはいたしません」
 「それは当然よ。次はもう許しませんからね」
 「はい、誓います」
  紀代美はちょっと笑ってロングソファに並んで座る明江へ横目を流していた。
  明江は言った。
 「誓うと言うなら、これも誓いなさい。おまえは私たちの奴隷です。許せると思うまでは絶対服従、わかったわね」
 「はい河原さん、福地さん、誓いますからどうかお写真だけは許してお願い」
  泣いているのに感じている。そのとき指先で開かれた陽子の性器は蜜をじぶじぶ染み出させ、濡れが流れてアナルにまでまわっていた。
  明江は問うた。
 「どうしてなの? 私や紀代美が何したっていうのよ?」
 「はい、それは」
 「正直におっしゃい。どうしてなの?」
 「私には気持ちがあるのに無視されたような気がして」
 「気持ちって?」
 「仲良くしたいとか、何かしてあげたいとか」
 「それだけじゃないよね? レズっぽいし」
 「寂しくして。主人とはもうとっくにないし、私って臆病だからとても外では遊べないし、それに私は女の人が嫌いじゃないから」
 「あわよくばエッチってことよね?」
 「愛されたい。愛してあげたい。これまでだってずっとそう。気持ちが空回りして、相手に避ける素振りが見えると悲しくて、そのうち腹が立ってきて」

 「勝手な人だわ、いい迷惑よ。愛情には表現のしかたがある。私よりひとまわり歳上なのに説教されて情けないと思わない」
 「はい、でもどうしようもなかったんです。寂しくして抱いて欲しくて、孤独で孤独でおかしくなりそう」
  横から紀代美が言った。
 「ご主人とは険悪?」
 「いいえ、うまくいってます。やさしい人だし愛してくれる。でも夜がないんです。あの人は無精子症」
  明江は言った。
 「それで子がない?」
 「はい。主人は外でつくっていいと言いますが、気持ちを思うと裏切れない。どうしていいかわからない。でもそういうことと体の疼きは違うんです」
 「じゃあちょうどよかったじゃない。奴隷として可愛がってあげるわよ。私たちに尽くすこともできるようになるから嬉しいでしょう?」
 「それは、はい、寂しくて、あの・・」
  明江はオナニーの手を停めさせて眸を見据えた。陽子の目は逃げなかった。
  明江は言う。
 「私たちを怒らせたら捨てるわよ。人生おしまいになるからね。心から反省してついてらっしゃい」
 「はい、ありがとうございます河原さん」
 「違う。明江女王様、紀代美女王様、私はお二人の性奴隷ですって言いなさい」
 「はい誓います、明江女王様、紀代美女王様の性奴隷でございます」

  しかし明江は暗澹たる気分でいた。愛し合っていながらも孤独にもがく妻の姿が、いつか自分にも降りかかってきそうで怖い。
 「わかったわ、これまでのことは許します。紀代美はどう?」
  紀代美もまた裸で泣く妻の姿に共感するものを感じていた。
 「これからのことは陽子次第ですけどね。過去のことはもういい、二度とごめんですからね」
  オナニーの手を停められて陽子は腿を揃えてテーブルに座り直し、下腹に両手をやって毛を隠し、ちょっとうつむいて泣いていた。
  紀代美は言った。
 「下へいらっしゃい。何か着て」
  明江が言った。
 「私たちが許すこととあなたが償うこととは違う。わかるわね」
 「はい女王様、よくわかります」
 「もういい。過去のことはチャラにしたげる。新しい関係をつくっていきましょ」
  テーブルを立った陽子は服を選びに寝室へ入っていく。
  二人になって明江は小声で言った。
 「空狐様はこれで?」
 「許すと言った時点でおしまいよ。これからは明江の力」
  明江はうなずき、じつはほっと胸を撫でていたのだった。とてつもない力があると思うだけで何をさせるかわかったものじゃない。
 「だけど紀代美、考えちゃうね。私だっていつ陽子みたいになるかと思うと」
 「女が誰しも通る道と言ってしまえばそれまでですけど、なんだか哀れで」
 「そう思う。思ったとおりで悪い人じゃなかった」
  それで二人はソファを離れ、奥に向かって声をかけた。
 「先に行ってるから少ししたらいらっしゃい。303よ。私たちも着替えたいし」
 「はい、わかりました」 と声だけしたが姿は見せない。二人は部屋を出て階段からそれぞれの自室へ戻る。明江は着替え、すぐさま303へ。そのとき紀代美もいつも通りの普段着のワンピース。紀代美はお茶を支度して待っていた。
 「ありがとう紀代美。人生が一歩進んだ実感がする」
  紀代美はちょっと笑っただけで、明江を抱いてキスをした。

  そのときノック。陽子は普段着ではなさそうなミニスカートとブラウスの姿。まとめていた黒髪を梳き流し、薄く化粧もしていたが、泣いたことの隠せない目をしている。
  明江は言った。
 「女王様のお部屋では下着姿です。脱ぎなさい」
 「はい、お二人の女王様、よろしくお願いいたします」
  スカートを落とし、ブラウスを脱いだ陽子。ブラもパンティも鮮やかなグリーンで黄色い花の刺繍がされたもの。勝負下着というやつだと二人は感じ、陽子の可愛さと受け取った。陽子のブラはBサイズ。164センチある明江よりいくぶん小柄で、けれども女体は熟れて尻の張りは豊か。化粧を整えた陽子はまだまだ若く、美しい女の部類に入るだろう。
  一人だけ下着姿で女三人ローテーブルを囲み、紅茶と、あり合わせのカップケーキ。このとき二人にSMなどするつもりは毛頭なかった。
  紀代美は三十歳、明江は二十八歳。それに対して奴隷は三十八歳の熟女。女ばかりで囲む不思議なティータイムといった様相。

  紀代美が言った。
 「食べていいから。辛かったわね」
  陽子は明らかに戸惑って、どうしていいかわからない。明江は言った。
 「マゾがいいならそれでもいいのよ。私たち二人で可愛がっていくと決めた。望みがあるなら言いなさい」
 「はい女王様。なんだか私、夢のようで。こんなふうにされるのが夢でした。私は母性が強いから」
 「言われなくてもわかります。私たちだって女だもん、気持ちもわかるわ」
 「はい、あの・・」
  きっちり正座をし直す陽子。平伏して額をこすった。
 「ごめんなさい、心から反省します。どうか可愛がってくださいますよう」
  そのとき手の届くところにいた紀代美が、明江に向かってちょっと笑って、それから平伏す陽子の頭をコツンと軽く拳で叩いた。
  顔を上げた陽子に暗さはなかった。明江は言った。
 「紀代美が用意してくれたティータイムよ。感謝して食べなさい」
 「はい、ありがとうございます、お二人の女王様、陽子は幸せでございます」

  そのときなぜか、あやうく涙になりそうだった明江。空狐が去ったいま私は残酷になりきれない。それどころか陽子の感情がどんどん流れ込んでくるのを感じる。
  言葉少ななティータイム。陽子は何度も不妊治療をしていて諦めたと語る。
  最初に動いたのは紀代美だった。ローテーブルの角をはさんで下に座っていた三人だったのだが、一人だけソファに上がり、両足を座面に上げて腿を開く。ワンピースの下は常に全裸の紀代美のこと。陰毛のない性器があからさまに晒されて、陽子だけではなく明江も奥底を見つめている。
 「お風呂まだなの、綺麗に舐めて」
 「はい明江様、嬉しいです」
  下着姿のまま紀代美の股間に顔をうずめ、懸命に舌を使って舐め回す陽子。
 「ンふ、感じるわよ、すごくいい」
 「はい、喜んでいただけるなら嬉しいです」
  陽子は正座を前に崩すように紀代美の股間にむしゃぶりついて、明江は後ろから陽子を抱いてやって、ブラの上から乳房を揉み、ブラを跳ね上げ、こぼれる乳房の先に尖る二つの吸い口をコネてやる。
 「あぁん気持ちいい、嬉しい、ありがと・・ぅぅぅ」 それきりまた泣いてしまう陽子。孤独を思うと明江も胸が熱くなる。

  性器を舐められていた紀代美が両手を開いて陽子を誘い、陽子は伸び上がって抱かれていって唇を奪われる。
  明江は後ろから陽子の白いくびれを両手ではさみつけて手を滑らせ、ブラのホックを解放し、パンティを一気に下げて抜き取った。奴隷は全裸。その尻の谷間から無造作に指を差し入れて、一度後始末はされていてもリップをわずかに開くだけで濡れは流れてリップを潤し、明江の指を膣奥深くに歓迎する。
 「あぁン、いい、いいです、嬉しい、ああ感じるぅ」
  わなわな震え、震えは尻肉そして内腿の白い肉を震わせて、陽子は尻を張って四つん這いのようになり、紀代美に抱かれていながら明江の指に尻を振る。

  白いシャギーマットから裸身が外れてもフロアにはカーペット。二人に押し倒された奴隷の裸身がアーチを描いて反り返り、のたうちよがり、二人の愛撫を全身にばらまかれて声を上げる。
  そのときたまたまテーブルに置かれてあった赤い輪ゴム。カップケーキの袋を閉じてあったものなのだが、それを手にした明江。ゴムを伸ばしてクリトリスを狙いすまし、ピシリと放つ。
 「お仕置きだからね」
 「きゃぅ! あぁぁイクぅ、痛いけど嬉しいです女王様」
  たまらない。明江は開かれた陽子の股間に顔を寄せると、濡れそぼるクリトリスにキスをして、閉ざすことを諦めて本性を露わにする肉リップを吸うように引き伸ばし、尖らせた舌先を膣の内壁へと這わせていく。
 「あっあっ! イッちゃう、あ、イッちゃうーっ!」
  それとタイミングを合わせるように、紀代美が二つの乳首をツネリ上げ、とたんに陽子はがくがくと首から上を激震させて、腿や腹を痙攣させ、声もなく反り返ってのたうって、カッを目を見開いて、力を失い崩れていった。
 「可愛いものね」
 「ふふふ、ええ可愛い」
  くたばった奴隷の裸身を二人で見つめてほくそ笑む。もしも私でも、こんなふうにされたとしたら夢の奈落へ落ちていけそう。
 「S女じゃないんだし」
 「言えるね、無理だわ」
  明江と紀代美は、だらしなくのびてしまった陽子を間に置いて抱き合って、舌のからむキスをかわした。

  カルチャーショックを超えていた。空狐の力は否定できない。呪術を知った私は変わると思ったし、現実に変化した陽子という存在が日々リアルな奴隷となって迫ってくる。非力ゆえに何もできず、抗えず、自分の無力さに肩を落とす生き方ではなくなった。明江は変わった。
  オフィスにいて、散々いたぶってくれた女に対して私は魔女に徹していられる。明江の日々は表向きの惰性とは裏腹に、その日のための準備にかかる。
  紀代美はもちろん明江の魂胆などは見抜いていて、けれどもむしろ気が楽だった。情が愛に変わったとき私は恐ろしい女になる。明江は賢い。深まる手前のセフレを演じ、それは心からの接し方だと思えるもの。陽子も健気で可愛い存在。そのどちらもが私から孤独を奪ってくれる。明江のためなら空狐にすがってやってもいい。紀代美と明江は、いい意味で互いを利用し合うようになっていく。

  陽子の変化はきっぱりしていた。奴隷であってもマゾとまでは言えない。中途半端なスタンスでは不安になるからか、Mを求めたのは陽子みずから。旦那がいて家庭はあっても性的な夜はない。少しぐらいなら痕ができてもかまわない。陽子が好き好んで道具を揃え、時間があるとき303を訪ねては調教をせがんでくる。二人の女王はますます可愛く、懐に入れておきたい。陽子の存在が明江と紀代美をつなぐ物理的な力となり、そのへんまでを計算ずくで、明江はついにその言葉を切り出した。空狐を知って三月ほどが過ぎていた。

  ターゲットは横倉浅里。その日は社長の佳衣子は大阪出張。定時を過ぎて小さなオフィスに浅里と二人。明江はそのタイミングを待っていた。
  仕事を終えてオフィスのドアに施錠して、戸口の明かりだけを消してしまい、それから明江はデスクにいてパソコンのモニタに向かう浅里の背に歩み寄る。
 「ねえ浅里」
  浅里とはじめて呼ばれた浅里は眸を厳しくて振り向いたのだったが・・。
 「浅里ってね、あなた誰に向かって言ってるの!」
 「いいんです、私たちってそんな関係になってくんだもん」
  明江はにやり。浅里は絶句して部下を見つめる。心がよめない浅里。
  明江は言った。
 「立って脱ぐのよ、素っ裸です! 今日からおまえは私の奴隷、ふふふ」
 「何を言ってるの!」 とは言うものの、浅里はふらりと立ち上がり、ブラウスそしてビジネススカート、パンスト、黒のブラに黒のパンティを脱ぎ去った。そしてもちろんカメラのフラッシュが残酷な記録を残していく。
 「嘘よ、ねえどうして・・ねえ河原さん、あたしヘンなの」
 「女王様と呼びなさい! 今日から私は奴隷ですって大きな声で言うんです」
 「何よ・・あぁどうして・・はい女王様、私は女王様の奴隷です」
 「どうぞ厳しく調教してくださいってはっきり言う!」
 「い、嫌ぁ・・じゃなくて・・はい、どうぞ厳しく調教してくださいますよう、お願いたします」
 「マゾ牝になりますと言いなさい。NGなしです!」
 「あ、ぁ、どうしちゃったの、あたしヘン・・はい女王様、マゾ牝になります、NGなしでどんなことでも・・ああ、そんな・・どうかよろしくお願いいたします女王様」

  明江の中で黒い炎が燃え立っていた。

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